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楽しく学ぶ

文部教育科学通信 2018.02.26掲載

ビジネス研修の中でも多くの人にとって最も楽しみにくいテーマの一つに、財務会計があります。もちろん、数値を扱うことが大好きで、財務会計を楽しく学んだ経験を持つ方もいらっしゃると思いますが、一般的には、「楽しい!!」と叫んでいる人に、あまりお会いしたことがありません。

そんな財務会計を、楽しく学ぶ教育プログラムの魅力を、学習理論の観点から捉えてみました。

 

経営シミュレーションゲーム

 

アメリカで生まれ経営シミュレーションゲーム インカムアウトカムに出会ったのは、今から、20年前のことです。世界中で企業研修にこのゲームを使用しているフランスの企業から、日本語化を依頼されました。

この企業では、工場現場から本社まで全ての人たちが、財務的な共通言語を持つためにこのプログラムを活用しています。

最初にこのプログラムを実施した際の驚きは、忘れることができません。財務会計という学ぶために忍耐の必要なテーマを、これほどまでに楽しく学ぶことができるのか!!! 日本語化されたこのプログラムは、国境を超え、今では日本でも人気のプログラムになっています。

このプログラムでは、6つのチームに分かれて、会社経営を行い、経営の意思決定と財務諸表の関係について学びます。決算を繰り返す中で、自然に財務用語を学び、損益計算書、貸借対照表、キャシュフロー計算書の3つの財務諸表が理解できるようになります。企業の実際の決算ほど細かくはありませんが、基本となる会計用語とその概念が理解できるようになりますので、実際の決算報告書を理解する力が習得できます。 興味深いのは、財務というレンズを手に入れることにより、これまでのビジネス上の経験に基づく気づきがたくさん現れてくることです。

製造部門にいる方が、なぜ営業が我々の製造する高品質な商品の値段を下げてしまうのか、その理由が解りました。なぜ在庫を減らす必要があるのか解りました。経営者の苦労が解りました等々、自分の役割を超えた視座を手に入れることができます。

座学の2日間のプログラムでは、ケーススタディのアプローチを活用しても、ここまでの気づきを得ることは容易ではありません。これが楽しく学ぶ効果なのだと思います。この学びの体験に久しぶりに触れ、マルチプルインテリジェンス理論に通じることに気づきました。

 

マルチプルインテリジェンスとエントリーポイント

 

日本教育大学院大学時代に、日本MI研究会 Japan MI Society 会長の上條雅雄氏にご講義いただいたマルチプルインテリジェンスの講義からマルチプルインテリジェンスと学びの入り口(扉)の概念をご紹介します。

人のインテリジェンスは、IQに代表される言語、論理的・数学的な2つのインテリジェンス以外にも6つあり、その相対的な強さと弱さの組み合わせから成り立っていると言われます。8つのインテリジェンスとは、言語、論理的・数学的、音楽、空間的、身体・運動感覚、博物的、対人関係、内省的インテリジェンスです。

 

教育へのアプローチ

マルチプルインテリジェンスを発見したハワード・ガードナー教授は、教育へのアプローチの最も大きな可能性はインテリジェンスのプロファイルの概念から発展するといいます。

8つのインテリジェンスに合わせて「8つの異なるレッスン」を組む必要はないといいます。一人ひとりの「インテリジェンスの組み合わせ」を育くむ、豊かな学ぶ経験の場を設計することが大切だといいます。

いかに豊かな、ためになるテーマでも、どのような教える価値のあるコンセプトでも、人は、いくつかの異なる仕方で近づくことが出来ると言います。テーマは同じでも、そのテーマに入る快適な入り口はインテリジェンスにより異なります。マルチプルインテリジェンス理論では、この入り口を、エントリーポイントと呼びます。

 

エントリーポイント(扉)

  • 説話的エントリーポイント : 物語や話すことで課題のコンセプトを伝える。
  • 論理的エントリーポイント : 論理的プロセスに訴えて、コンセプトに近づく。
  • 量的エントリーポイント : 数量や数量的関係をあつかう。
  • 根拠的エントリーポイント : そのコンセプトの哲学的、述語上の面を考察する。 <なぜ>のような質問に向く。
  • 審美的エントリーポイント : 生活経験に対して芸術的スタンスを好む学生の心に訴え、少なくとも注意を引くような知覚や外観上の特徴に重きを置く。
  • 経験的エントリーポイント : コンセプトを具体化したり、伝える材料を直接扱う<hands-on アプローチ>と良く習得出来る。
  • 共同制作エントリーポイント : 他の同僚と心地よく勉強する学生はグループ活動などから大いに学び、その中で各自がグループ内で個性を発揮して貢献をする。

 

※引用:上條雅雄氏ご講義資料

 

マルチプルインテリジェンス理論に基づけば、熟練した先生とは、同じ概念(コンセプト)に異なる複数の窓を開けることが出来る人であるということになります。

 

複数のエントリーポイント

論理的、量的、根拠的、経験的、共同作業の5つのエントリーポイントが先に紹介したプログラムには確実に含まれています。視覚的に物事を捉えるために用意されたツールを考えれば、審美的も含まれる可能性があり、会社が発展する経営は、説話的とも言えます。そう考えるとどのようなインテリジェンスの持ち主にも、扉が用意されていると言えるのでしょう。

 

 

理解の4本足 ハーバード教育大学院で行われている理解のための研究では、学校教育の、教育の課題を馬の4本足にたとえて紹介しています。本当の理解には、目的、知識、方法、形式の4本足が必要で、知識だけの1本足では、馬は走ることができないと言います。

 

Purpose(目的)

  1. 知識を活用する目的の意識
  2. 知識の多様な使用とその結果の認識
  3. 主体性と自主性

Knowledge(知識)

  1. 変換された直観的信念(教わったのではない生来の信念は学校教育の幾年後においても強固である)
  2. 理路整然とした豊かな概念体系

Method(方法)

  1. 健全な疑念
  2. 領域内の知識の構築 (その領域の専門家ならどう考えるか)
  3. 領域内の知識の正当性の認定

Form(形式)

  1. 実践ジャンルの専門的技能(知識)
  2. シンボルシステムの効果的使用
  3. 受け手と文脈への配慮

 

※引用:上條雅雄氏ご講義資料

経営シミュレーションゲームの学びが、なぜ楽しく、かつ、深い理解につながっているのかを、エントリーポイントと、馬の4本足に照らして考えるととても解りやすいです。

 

目的

ゲームを通して、意思決定を行う中で、財務会計はなくてはならない知識であり、自分たちの意思決定の評価指標となるため、良い経営を行う手段として財務会計の知識が不可欠なものとなります。学ぶ目的は、財務会計そのものではなく、よい経営であり、その手段として不可欠な知識が財務会計ということになります。

 

知識と方法

ボード上に人生ゲームのように表される財務の結果は、視覚的にも解りやすく、財務会計の専門家がゲームに参加しても感動するほどの精度であり、初心者でもわかるシンプルさがあります。数値に慣れている人も慣れていない人も、同じ目線で議論に参加できる環境が整えられています。その結果、財務会計の知識、経営判断の財務的インパクト、自らの仕事への活用について学ぶことができます。

 

形式

経営の意思決定の結果は、数値で表され、6社の経営判断の違いが、どのような財務的な成果につながっているのかを知ることができます。意思決定の結果を決算として表し、他社の結果との比較を行うというゴールが明確なことも、学びを促進する理由なのでしょう。

 

マルチプルインテリジェンス、エントリーポイント、理解の4本足を通して、経営シミュレーションゲームを眺めていると、なぜこのゲームが楽しいのかがよく理解できます。これらの理論が、学校教育のみでなく、成人教育にも当てはまる大事な理論であることを改めて実感しました。

テクノロジー革新により、誰もが自分のエントリーポイントに合わせた学びを手に入れる日は、そう遠くないことを願いたいです。

イノベーションの機運

文部科学教育通信 2018年2月12日掲載

「先が見えない時代だ」「どこに向かって良いかわからない」そう語りかけてくる方が多いのですが、そんな方にいつもこんな質問をします。「現状に、課題はないですか」すると、多くの場合、「課題だらけだ」という答えが返ってきます。そこで、次に私がお伝えするのは、「そうであれば、未来は見えています。その課題が解決された未来が、あなたが望む未来です」

 

この10年間、海外に視察や学びに出かけると、「この課題を解決するために、私に何ができるのか」この思考パターンを持つ人に多く出会います。

 

ハーバードビジネススクール

2008年に、ハーバードビジネススクールの100周年のイベントに参加しました。リーマンショックの1ヶ月後に行われたイベントでは、「てるてる坊主に、お天気のことは祈ってけれど、経済の天候については祈るのを忘れてしまった!」というジョークから始まり、ビルゲイツをはじめとするリーダーたちが登壇し、ビジネス界の未来についての議論が行われました。その時に、本当に自分の耳を疑いましたが、登壇者は、口々に、「富の格差が問題だ」、「退任する経営最高責任者が法外な退職金をもらい、ギリギリの生活をしているスタッフ社員には、失業中の生活を保障するだけの退職金が出ないのはおかしい」、「実態経済と、金融経済の乖離が問題だ」、「富の格差はなくさなければならない」などの発言をしていました。リーダーたちのこの発言は、リーマンショックが起こる前、そして起きてから、彼らがどのような議論を行なっていたのかを表しています。しかし、「あなたたちが作ってきた社会システムですよね!!」と心の中で叫んでしました。

 

ハーバードビジネススクールは、リーマンショックの後すぐに、リーダーシップ教育について新たな指針を打ち出しました。これまでは、責任を持つ組織の利益の最大化が強調され過ぎていたかもしれないと反省し、これからは、組織における意思決定が社会や世界に与えるインパクトにおいても責任を持つリーダーを育てることを我々の使命と述べています。

 

 

課題解決の機運

欧米のリーダーたちは、リーマンショック以降、自らが創り出した社会システムの課題解決に向かいます。日本では、それから数年に渡り、アメリカ型資本主義には問題があるという議論が続きます。「日本企業も、その資本主義に参画し、第2の経済大国にまで上り詰めたのに、なぜ、そこで、アメリカ型と述べ、自らの資本主義を振り返らないのか」ととても違和感を感じたことを覚えています。

 

残念ながら、欧米のリーダーたちが努力をしても、金融資本主義は止まることを知らず、世界の富の格差はリーマンショック後も、さらに拡大していることは問題ですが、そんな中、この課題解決に従事する人々や団体が拡大していることも事実です。

 

国連は、2015年に持続可能な開発目標を掲げ、世界的なアクションを促進しています。地球上の誰も置き去りにしないことを目標に掲げ、貧困や教育、環境など17のテーマを掲げ、企業や政府、NGOやNPOの活動を促進しています。ユニリーバをはじめとする多国籍企業も、事業活動を通して、貧困などの社会問題を解決する事業戦略を構築しています。ユニリーバの行動計画には、2020年までに、10億人の暮らしを豊かにすること、環境負荷を半減する目標が含まれています。社会起業家をネットワークするアショカは、社会問題の解決に従事する世界中の社会起業家の活動を通して、社会起業家の育成と、世界の社会問題解決力の強化に貢献しています。

 

イギリスでは、社会的なインパクトに対して投資を行うソーシャルインパクト投資という考え方が生まれ、今では、日本をはじめとする世界の金融業界の取り組みに発展しています。欧米の大学生は、温室効果ガス排出量の多い石炭関連企業に投資をしないカーボンダイベストメントという考え方を生み出し、その考えを世界に広めました。投資が未来を創るという発想は、金融業界の ESG(環境・社会・ガバナンス)投資という考え方に発展し、欧州では、投資全体のESG投資に占める割合が、5割を超えています。

 

イノベーションに向かう

 

 

今日、世界では、かつてないほどイノベーションが加速していると感じます。テクノロジー革新と、人々の課題を解決したいという衝動が原動力となり、地球規模での協働が可能になったことが、その背景にあるのではないかと思います。

 

2003年に打ち出されたOECDの教育方針も、イノベーション人材の育成を念頭に置いており、デンマークでは、小学生からのアントレプレナー教育も始まっていました。テクノロジーを活用することが可能な今日、莫大な資本がなくても、誰でも、問題解決に参加できる時代です。クラウドファンディングを活用すれば、良いアイディアを持つ個人が資金を集められる時代です。10代でも、問題解決に参加することが十分可能です。

 

以前、米国のブラウン大学の卒業式で聞いた学長のスピーチを思い出します。

壇上で祝辞を述べる学長や教授たちは、自分たち大人世代が解決に望みながらも失敗してきた環境をはじめとする社会問題に触れながら、卒業生に、世界で最も困難な課題に人生を捧げる覚悟を求めていました。「問題を見つけるだけでは不十分だ」(Problem-spotting is not enough)という言葉には、学生時代のように問題を見つけたり分析したりしてエッセイを書いているだけでは世界を変えることはできないという強いメッセージが込められていました。

 

問題を発見し、分析し、解決するために行動する。課題を直視し、自らを振り返り、課題解決のために何を変える必要があるかを考える。イノベーションの前提には、とてもシンプルでパワフルな思考パターンがあります。課題を解決したいという衝動が、前例のない解決方法を見出す創造活動に発展し、イノベーションが生まれます。多くの場合、一人では、解決策を見出すことができないため、必要な関係者との協働を通してイノベーションが生まれます。

 

日本では

日本に目を向けても、課題は山積みです。増え続ける社会保障費と国の財政問題、企業の低い生産性、労働人口の減少による人材不足と市場の縮小、グローバル経済の発展と日本企業の位置付け、環境エネルギー問題と原発の行方、安全保障問題等々。地域に目を向ければ過疎化の問題も深刻です。

 

これだけ課題にあふれているのに、なぜ、日本ではイノベーションの機運が高まらないのでしょうか。「日本は、行くところまで行かないと変われないんだよ」という多くの大人に出会います。

 

世界では、多くの若者が、困難な課題に挑戦することを楽しんでいます。リーダーも、その活動を支援し、成功の可能性を高めるために力を貸します。「お手並み拝見」という考えはありません。日本では、困難な課題に挑戦する人が圧倒的に少なく、課題の大きさに不安を覚え、立ちすくむというのが現実です。

その背景には、大人や社会が、そのアクションを歓迎し、支援していないという現実があるのではないかと思います。結果的に、引かれたレールをスマートに走る方が、賢い生き方という社会通念が存在しているのかもしれません。

今、そのレールさえも先がないと思える人々が増える中、立ちすくむ人々が増えているのかもしれません。

未来を見たければ、未来を創っている人の世界を覗くか、自ら未来を創ることに参画することだと教えてくれたのは父です。困難なことはたくさんありますが、善い未来に少しでも貢献したいと思います。

人一生の育ちプロジェクト

文部教育科学通信 2108.01.29掲載

未来教育会議では、現在、人一生の育ちプロジェクトに取り組んでいます。世の中は分断されており、私たちは生まれてから、家庭、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、企業、社会、塾や教室等々と、様々な場所で育つ機会を得ています。しかし、「私」の一生の育ちを全体としてプロデュースしてくれる他人はいません。人生100年時代に、人一生の育ちを自分事として考えてみよう。そんな思いでプロジェクトがスタートしました。

 

人一生の育ちを考える理由

  • 私たちは、どれだけ人の育ちについて知っているだろうか。親は、子どもの教育を考え、学校を選んではいるが、子どもの発達や、人間の成長についてあまりにも無知である。

 

  • 人生100年時代になり、死ぬまで学び続けることが、「現状を維持する」ために必要な時代に、成人は、子ども時代のような好奇心や学ぶ力を維持できているだろうか。

 

  • VUCAワールドにAIと共に生きる我々は、テクノロジーと共創するために必要な意識のレベルと、パラダイムシフトを起こす思考力を備えているだろうか。

 

  • 自分を活かす人生の目的を見つけ、その目的を通して社会に貢献するために、学び続ける力がこれまで以上に重要になることを私たちは認識する必要があるのではないか。生きることは学ぶことであると言い切っても間違っていないのではないか。

 

  • 自律的に学び続ける人が幸せになる時代だからこそ、子どもには、幼児のころから良質な学び体験をたくさんさせてあげて、自分を知り、育て、学ぶ喜びと楽しさを体一杯に感じさせてあげることが、なによりも大きな宝物になるのではないか。

 

  • 自分という人生で最も高価な「所有物」を大切にすること、活かすことができる成人をたくさん増やす環境を創ることができれば、それが最もパワフルな教育なのではないか。

 

  • 良質な学び体験を子どもの頃から積み重ねていくことで、VUCAワールドに必要なグロースマインドを育むことができるのではなだろうか。

 

育ちについての誤解

育ちについて専門家のお話を伺う中で、社会の中には、たくさんの誤解があることに気づきます。その一部をご紹介します。

 

主体性を育むことが大切ということは、誰でも認めることですが、幼児期に子どもたちが遊びを選ぶことが、主体性の形成に大きな影響を持っているという認識を持つ親はあまり多くないのではないでしょうか。秋田喜代美先生の講演で、行動の主体である主体性の感覚の重要性という言葉を教えていただきました。幼児期の遊びが、自己決定力、自己効力感を育むという認識を持ち親として子どもに関わればよかったと反省しています。

 

人間の知能は、IQだけでは語れないというのも大事な学びです。1970年代には世界中の教育学者の通説となったマルチプルインテリジェンスでは、IQ(言語、数学・理論)以外にも、身体、空間、対人、内省、音楽、自然の6つの知能が並列に並びます。人のインテリジェンスは、その組み合わせでできています。オランダの幼稚園にいくと、インテリジェンスごとに遊びのコーナーが用意されていて、子どもはコーナーを選ぶことで、自分のインテリジェンスを見出すことができます。オランダの幼稚園では、計画を立てて遊ぶので、毎日何を選んでいるかを先生も知ることができます。先生は、子どもが自ら選ばない遊びを試してみるように促すことも容易です。

 

学力

学力についても大きな誤解があります。学力の遅れは通常小学校高学年で顕在化します。しかし、遅れは乳幼児期から始まっている場合が多いです。言語活動や社会的・情緒的発達の遅れが、学力の遅れにつながっているからです。貧困による教育格差の問題を解決するためには、本来、小学校や中学校で学習支援に取り組むよりも、乳幼児期からの発達を支援する方が、本人も苦労なく育つことができるという認識を持つ国々では、乳幼児の発達に国家予算がしっかりと配分されていて、すばらしいと思いました。

 

多様性

オランダでは小学校6年生で小学校卒業試験に不合格の場合、落第することがあります。小学生なのに、そんなに厳しくしなくてもと思ってしまいますが、実は、中学生になる方が、その子の人生を考えるともっと厳しいという認識を持つ必要があります。なぜなら、小学校の遅れを抱えたまま、中学生になっても、その遅れを取り戻すことは難しく、中学校での学びを手に入れることができず、結果的に、義務教育が求める発達の水準に到達しないまま、成人になってしまうことになるからです。ダイバーシティの時代に、子どものインテリジェンスと発達のスピードが多様であるということを、すべての大人たちが認識し、子どもたちの発達を見守る社会を創りたいです。

 

子どもの尊厳と発達

女・子どもという表現がありますが、私たちの社会は、子どもの尊厳をあまりにも軽視しています。子どもは、生まれたときから完全な人間であるという認識を持ち、子どもを不完全なものとして扱わないことがとても大事です。同時に、子どもだからと過保護にすることも間違いです。自分で考え、自分で決めて、自分で行動し、結果に責任を持ち、経験を通して学ぶという一連の経験学習サイクルを通して、自律的に学習できる人を育てる関わりを増やしていくことが大切です。大人に感覚のずれがあるために、主体性や自律心を育めないばかりか、日本では、子どもたちの自己肯定感や自己効力感を育むことに失敗しています。

 

自分の心

学校教育は発達において大切な役割を果たす一方、一番大きな欠陥は、自分(の心)を大切にする力を育めていないことです。自分の気持ちを認知し、人に伝えることや感情をコントロールすること、他者の気持ちを理解して共感するという人間の根幹ともいえる力を育むことが軽視され、感情停止状態で、先生や親の期待に答える訓練を繰り返し成人になります。そのため、学力や知識を多く習得していても、それを自分らしく活かすことが困難な状態になります。そんな中で、就職活動の時だけ、自分らしさを表現することを求め、入社後は、我慢を求めるという矛盾した要求をしています。

 

コミュニケーション力

先日、ある企業の研修でIT技術者の人たちが、「コミュニケーションってなに? いらなくない!」という話をしていました。OECDのキーコンピテンシーは、義務教育の間に、誰もが多様性の中で対立を乗り越え、合意形成を行い、共創する力を育む必要があると定義しています。それが個人と社会が成功(幸せ)を手に入れるために必要だからです。どんな職業に就く人にも必要な力です。IT技術者の若者たちの話しを聞きながらそのことを、私たちは、子どもたちに伝えられていないことをとても残念に思いました。学力を向上させるための塾はありますが、コミュニケーション力を育む塾はなく、学校教育がしっかりと引き受けていかなければならないことだと思います。

 

思考力

オランダのピースフルスクールというシチズンシップ教育で、幼児、小学生、中高生の発達に関わっています。この教育プログラムを受けた小学生とオランダで話をした時に、人間の質感として、自分が小学生に負けたという敗北感が、この教育を日本に広めようと考えたきっかけです。実際に、子どもたちに展開してみると、日本の幼児も小学生も、大人顔負けの落ち着きを持ち、自分の気持ちや考えを述べることができます。幼児が、誰かに自分の気持ちや考えを伝えたいという欲求を持っていること、同時に、自分の考えを持っていることに気づきます。思考力を磨くためには、対話が必要です。先生や親の求める回答ではなく、自分の気持ちや考えを述べる訓練を小さいころから行うことがいかに大切かを実感しています。

人一生の育ちを自分ごととして考える対話イベントを、3月26日、27日に開催される東京国際教育際で実施する予定です。ご参加お待ちしています。

2018年の活動目標

文部教育科学通信 2018.1.15掲載

今年も実現したいことがたくさんあります。その一部をご紹介させていただきます。

 

社会人基礎力の再定義

2018年に予定されている経産省による社会人基礎力の再定義をとても楽しみにしています。昨年12月には、我が国産業における人材力強化に向けた研究会にて、私の課題意識を提示させていただきました。戦後の高度成長期を支えた日本の人材育成のあり方を見直す必要があると同時に、人生100年時代において、人の生き方が変わることも、社会人基礎力の再定義が必要な理由です。社会人基礎力の新しい定義を核に、企業の人材育成、高等教育、生涯学習、初等中等教育、幼児教育と、一連の教育が連鎖的に変わっていくことを願っています。すでに、文科省より進められている学習指導要領の改訂と融合することで、日本における教育改革が全体性を持つことになります。

 

オランダの地球市民教育ピースフルスクールを日本の幼稚園・小学校で展開する中で、学んだとても大切なことのひとつは、社会人基礎力の多くは、幼児の頃から学ぶことができるものだということです。ピースフルスクールが教育の軸とする自立と共生は、社会人基礎力では、主体性、コミュニケーション力、コラボレーション力、問題解決力に当たります。このような力を、3歳児は3歳児なりに、すでに発揮することができるのです。そんな背景もあり、社会人基礎力の改定と平行して、未来教育会議では、人一生の育ちを整理することに取り組んでいます。

 

もうひとつ大切なことは、立場や年齢に関係なく誰もが学び続ける時代になったことです。人生死ぬまで学び続ける時代です。それが大変なことではなく、楽しいことと思えるような社会を創る必要があります。

 

女性の活躍推進と働き方改革

国家戦略として進められている女性の活躍推進と働き方改革ですが、そのスピードは遅く、世の中全体のコンセンサスが取れている訳ではありません。そんな中で、当事者である女性たちは、ワークとライフを共に充実させるために奮闘しています。また、働き方改革やダイバーシティ推進の担当者は、組織全体を巻き込むために懸命な努力を行っています。昭和女子大学ダイバーシティ推進機構では、女性と担当者を応援するために、様々な学びの機会を提供しています。今年は、跡取り娘のためのビジネススクールの企画も始まる予定です。

 

女性の強みは、コミュニケーション力、コラボレーション力、オープンでフラットなチーム運営力などで、この力を社会が取り込むことで、硬直化した日本社会に多様性と柔軟性がもたらされるはずなのですが、画一性が根強い日本社会に、そもそも多様性を吸収する力がないため、女性の活躍推進のスピードが上がりません。一方で、ベンチャー企業やIT企業など、比較的新しい企業では、男女関係なく多様な働き方も実現していて、よい事例もたくさん生まれています。こうして、世の中は生まれ変わっていくのかもしれません。

 

非管理型組織

多様な働き方が主流になるこれからの時代において、組織のあり方も変わることが予測されます。すでに、日本でも、ベンチャー企業を中心にその動きが始まっています。非管理型組織とは、その名前の通り管理しない組織です。誰もが主体的に行動し使命を果たす組織は、ヒエラルキー型の組織や管理職を必要としません。報告や承認を得るための業務も発生せず、人は自由に動くことができます。自由には責任を伴いますが、必要なサポートを得ることもチームで動くことも、自由に行うことができます。組織のあり方は、その企業が使命を果たす上で最適化されるべきなので、すべての企業が非管理型組織を目指すことにはならないと思いますが、このようなトレンドが、今、世界に広がりつつあることは無視できない事実です。雇用のあり方や流動性、働き方や生き方、生活保障の設計等々、あらゆることが、変わっていく兆しです。同時に、このことは、人材育成にも大きな意味を持ちます。我々がイメージしている主体性やコラボレーション力を10倍位拡大しなければ、非管理型組織を実現することは難しいのではないかと思います。

 

システマティックチェンジ

社会起業家という言葉を生み出したビル・ドレイトン氏の思想に魅了され、社会起業家についての学びをデザインし、青山ビジネススクールで、社会起業家をテーマに半期の授業を行っています。今年は、ずっと夢だった社会起業家に学ぶワークショップを実施する予定です。

ワークショップでは、ビル・ドレイトン氏が創設したアショカという団体が認定した社会起業家アショカフェローを日本に招き、彼らが社会問題の解決にどのようなアプローチで臨んだのかをストーリーテリングを通して学びます。ワークショップでは、セオリーオブチェンジやシステム思考、ビジネスモデルなどのフレームワークに当てはめて、アショカが提唱するシステマティックチェンジについて学びます。システマティックチェンジでは、課題に対処するのではなく、課題を根本的に解決するためにシステム(構造)に介入します。日本社会にも変革が求められる今、社会を善くしたい思う人々が、この手法にたくさんのヒントを得ることができるのではないかと期待しています。

 

NPO活動

立ち上げから支援してきたNPO団体ラーニングフォーオールは、困難を抱える子どもたちに質の高い学習支援を実施する仕組みを確立し、成果を上げています。新たに取り組んでいる子どもの家事業においても、学習支援で培った仕組み構築力を活かし、高品質を担保する仕組み創りを進めています。しかし、現在の活動だけでは、全ての子どもたちを救うことはできません。そこで、すでに社会に存在するセーフティネットや教育機関とチームアップして地域全体で子どもたちを支援するという取り組みが行えないかと考えています。まだ、すべての答えを持っている訳ではありませんが、みんなで力を合わせて、どんな環境で生まれ育った子どもも、経済的に自立し、社会からその存在を感謝される人になって欲しいと思います。そのために、我々もシステマティックチェンジを学び、実践していきたいです。

 

21世紀の学び

社会人基礎力の改定、人一生の学び、女性の活躍推進、働き方改革、システマティックチェンジ、NPO活動と、様々な取り組みを行っていますが、その中心にあるのが、「学び」です。前例を踏襲しない、想像と創造を伴う「学び」が、未来を創るためには必要です。これまでの学校では、既知情報を学ぶことを学びと定義していましたが、21世紀に入り、想像と創造を伴う「学び」が、学びの定義に加わりました。変化する時代の中で、受身で時代を追いかけるのではなく、誰もが、時代を創ることに参画できるという発想の転換も起きました。誰もがパソコンや携帯でインターネットにつながる時代には、富がなくても、膨大な情報にアクセスできますし、何十億人にアクセスすることも可能です。誰もが、30年前と比べれば驚くほどパワーアップしています。ところが、私たちの「学び」がパワーアップしていないという危機感のもと、21世紀学び研究所を立ち上げました。21世紀の学びは、主体的なものであるため、メタ認知力を磨くことがとても大切です。正解のない中で、自ら正解を創るためには、自分で自分の考えを俯瞰し評価する能力を高める必要があります。働き方改革をはじめとする様々なパラダイムシフトは、過去の成功体験に基づく考えに縛られていると実現することはできません。また、何もかも捨ててしまうと、大切なものを守り続けることができません。不易と流行の判断を下す際にも、自分の思考と感情を客観視することが大切になります。21世紀学び研究所では、変化する時代にふさわしい「学び」を広める活動を加速させていきたいと思います。

 

シチズンシップ教育 ピースフルスクール

昨年は、幼稚園の教材を出版し、幼稚園での取り組みが広がりはじめています。今年は、現職の小学校の先生にご指導いただきながら、小学校の教材を充実させる取り組みをはじめます。子どもたちが、幼稚園や小学校で、理想の社会を実現するために自立と共生について学ぶことが、個人にとっても、社会にとってもよいことであるという確信は、今も揺るぎません。そのことが、社会に理解されるまで、孤軍奮闘する覚悟です。

 

今年もどうぞよろしくお願い致します。

21世紀の社会人基礎力

文部教育科学通信 2017.12.25掲載

12月6日に、経済産業省で行われた「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ第4回人材像WGにて、「人生100年時代の社会人基礎力」と「教育のあり方、企業のあり方」についてご提案させていただきました。今回は、その内容を共有させていただきます。

 

学びと主体性の質の転換

 

【1.「学び」の質が転換していること】

①学校教育に社会人基礎力が含まれる時代になった。

OECDがキーコンピテンシーを定義した理由 : 変化・複雑・相互依存の時代(VUCAワールド)に、幸せに生きるために先例のない複雑な問題に対処する力を誰もが習得する必要があることを、教育関係者のみならずすべての人々が知る必要がある。それは同時に、持続可能な成長と民主的な社会の維持を可能にするために必要な力でもある。

②地位や年齢に関係なく、誰もが学ぶ時代になった

学習する組織であるGEのリーダーたちは、リーダーにも専門家的態度ではなく、学習者の姿勢を求める。変化の時代に、世界中のベストプラクティスを検索し、よいものを最も上手に取り入れることができれば、世界1の会社になれる!というのが信条だ。

 

〔学習するリーダー〕

学習者(Learner)の姿勢

  • いい質問の仕方を知っている
  • 選んでリスクを取る、変革する
  • 他者が考え、実践することを奨励する
  • 選択肢を幅広く探す
  • 立場・地位に固執せず、俯瞰する

専門家(Knower)の姿勢

  • あらゆる答えを知っている
  • あらゆるリスクを避ける
  • 見た目に焦点を合わせる
  • 自分の責任領域しか見ない
  • 立場・地位に固執する

〔学習する組織〕

GEでは、エリック・リースからリーンスタートアップの手法を学び、起業家の行動様式を組織の力に変える。

〔リバースメンタリング〕

  • デジタル・ネイティブ世代のITリテラシーの高い社員に、経営者のメンターを務めてもらう。
  • 仕事のスタイル・プロセス、ツール、情報収集・整理・保存、テクノロジー/アプリの活用、SNSでのネットワーキング、スピード感を学ぶ。
  • 無意識に古い仕事のスタイルを繰り返していないかのチェックは重要。
  • 2015年に実施して、デジタル世代のスピード感を学んで仕事に取り入れた。                     この引用はリバースメンタリングの部分のみです。※SWUキャリアカレッジエグゼクティブ共創コース ビザ・ワールドワイド・ジャパン 代表取締役 安渕聖司氏 講義資料引用

2.VUCAワールドの「学び」が求めること】

③変化に前向きに対処する

時代が求める変化を、現状の否定(自己否定)と捉えるのではなく、ありたい姿と現状のギャップを埋めるための目的に変える。世界のイノベーションが加速する背景には、テクノロジー革新に加えて、人々が前例のない複雑な問題解決に向かう「衝動」が存在する。学習する組織論では、この衝動を、クリエイティブテンションと呼ぶ。 〔関連するキーワード〕

自己肯定感、自己効力感、グロースマインド、マインドフルネス、リフレクション、クリエイティブテンション、チェンジメーキング、アントレプレナーシップ、リーダーシップ、課題発見力、課題解決力

④主体性を再定義する

自ら考え、行動と内省を繰り返し、得たい結果を自ら創る主体性を実践する。自己を知り、真の自分を生きる。その先に、創造性の開花や多様性の価値を生かしたイノベーションが生まれやすい社会がある。

⑤多様性を活かす対話力を持つ

多様性を活かすためには専門性、言語、組織、文化等の壁を超えて、相互理解と相互学習を行える対話力が必要になる。違和感を乗り越えるためには、感情のコントロールと、思考の柔軟性(評価判断を保留にする力)が求められる。

⑥民主的で参画型なコミュニティを作る

多様性を価値に変えるためには、多様性を包摂する力、多様な人々と共生する力が必要になる。民主的で参画型の組織を作る力は、コラボレーションの土台となる安心安全な環境を作る上でも重要な役割を果たす。

⑦システムとして物事を捉える

変化・複雑・相互依存の時代には、目の前の問題に対処するのではなく、問題を俯瞰し構造やシステムを理解する必要がある。社会起業家の父・アショカ創立者のビル・ドレイトン氏は、社会変革の手法としてシステム・チェンジを提唱している。今月には、ビル&メリンダ・ゲイツ、eBay創業者ジェフ・スコール、ロックフェラー財団等が、US$5億を出資し、世界の喫緊の課題に対してシステム・チェンジを起こすためのファンドCO-IMPACTが発足した。

⑧テクノロジーを道具にする

テクノロジーを活用するだけでなく、テクノロジーを活かし社会を変えて行く力を高めることも、OECDキーコンピテンシーは提唱している。日本がイノベーション立国になるためには、テクノロジー教育が不可欠である。

⑨ソーシャルとビジネスを融合する

ユニリーバ社は、10億人の豊かな暮らしを実現すること、売上を2倍にすること、環境負荷を半減することの3つを2020年までに実現すると経営計画に盛り込んでいる。ソーシャルとビジネスが融合する時代に、地球市民を育むシチズンシップ教育が不可欠である。

⑩高い倫理観を持つ・正しい選択をする

フラット化する社会では、リーダーのみならず誰もが世の中を変える力を持つために、誰もが高い倫理観を持つ必要がある。そのためには、自分の行動や考えに対して批判的なスタンスで考えるリフレクションの習慣が求められる。

⑪学びを再定義する

知識の丸暗記による一本足の馬では走れない。深い理解には、目的:何のために理解するのか、知識:その知識/情報は何で、お互いにどういう関係にあるか、

方法:どう理解を進めるか、形式:理解の表現の形、の4本足が必要である。

 

【3.「学び」が求める環境】

⑫環境を創る

人々が、前例を踏襲しない学び(価値創造・リスクテイク)を必要とするチャレンジを行うためには、個人のみならず、指導者(例:先生、上司)と組織(例:学校・企業)も、有り方を変える必要がある。

 

【4.リフレクション(現実を見ること)から始めよう!】

⑬世界と同期する社会を創る

若者が世界と協働する社会を実現するためには、日本の個性や強みを残しながらも、世界と同期する社会を創る必要がある。

⑭社会人基礎力の改定 ⇔ 経済と教育の対話

画一的に学ぶ学校では、21世紀の時代が求める主体性と社会人基礎力を育むことが困難であることを社会全体が直視し、教育改革に取り組むためには、経済と教育の対話が不可欠ある。また、教育は社会の映し鏡であることを認識し、経済界から21世紀型にシフトする必要がある。

 

 

ホラクラシーⓇ研修

文部教育科学通信 2017.12.11掲載

非管理型組織の創り方を学ぶホラクラシー研修に参加しました。2日間の研修の講師は、ホラクラシーという組織運営法を開発したアメリカ人のトム・トミソンさんと、ヨーロッパでホラクラシーを広めているオーストリア人のクリスティアーネ・ソイス・シェッラーさんです。この研修を通して、改めて時代の変化が着実に起きていることを実感しました。

 

ホラクラシーが生まれた背景

変化する時代の中で、100年以上前と変わらないヒエラルキー組織に限界が来ているというのが、開発者であるトムの課題認識です。起業家でもあるトムは、過去に6社の起業をしており、その経験を通して、従来型の組織の限界を感じたそうです。同時に、21世紀に入り、経営環境が大きく変化する中で、ヒエラルキー組織で働く人々は、自分の仕事に高いモチベーションを保つことが困難であると感じていたり、メンタルの問題を抱えていると言います。ヒエラルキー組織で人々が感じる窮屈さや不自由さから人々を解放し、組織としてもよい成果を出すことができる新しい組織のあり方を追求した結果生まれたのが、非管理型組織ホラクラシーです。これまでも、ティールをはじめとする様々な非管理型組織の形式が生まれています。トムは、これらの先行事例から学び、それをフレームワークに落とし込み、誰もが学び、実践することを可能にしました。

 

テクノロジー革新による民主化の流れ

インターネットの時代になり、世界の民主化は進みました。インターネットにアクセスすることができれば、年齢や階層、性別に関わらず、すべての情報にアクセスすることができ、同時に、誰もが媒体広告の枠を購入しなくても世界に発信することが可能になりました。

 

メインフレームの時代からパソコンの時代に変わり、情報格差が権威を支える時代が終わったと言われました。しかし、企業における情報共有は、当初想定していたほど進まなかったというのが実情ではないかと思います。ヒエラルキー構造で権威を持つ人々にとって、情報共有を行うメリットは限定的で、テクノロジー革新を100%経営に生かす経営者は、現れませんでした。経営者の多くが、デジタルネイティブ(生まれた時からネット環境がある世代)ではないことも理由かもしれません。

 

ホラクラシー経営は、テクノロジー革新の恩恵を100%活かし、情報の透明性を目指します。その意味で、ホラクラシー経営は、企業経営の「民主化」とも言えます。

 

学習する組織

ホラクラシー組織の根底には、学習する組織論があります。学習する組織とは、1990年にマサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏による著書”The Fifth Discipline”(邦題「最強組織の法則」)で紹介され、世界中の経営に大きな影響を与えた組織論です。長年、私の信条とも言える学習する組織は、起こりうる最良の未来を実現するために人々が気づきと能力を高め続ける組織です。人々が高い目的意識と学習能力を持つことで、学習する組織が実現します。ホラクラシー組織においても、学習する組織の手法が生かされています。

 

パーソナルマスタリー

「私はなぜここにいるのか」「私は何を実現したいのか」それが仕事であっても、オートパイロットで仕事に没入するのではなく、自分自身のあり方を問い、心の声に耳を傾け、自分なりに明確な目的意識を持ち、物事に向かうという主体性を求めます。これを、学習する組織では、パーソナルマスタリーと呼びます。学習する組織の始まりは、パーソナルマスタリーを持つ個人であり、受身で動く人々の集団が学習する組織を実現することはできません。このため、従来のヒエラルキー組織が、学習する組織になるためには様々な工夫が必要になります。米国のGEは、30万人近い従業員を持つヒエラルキー組織で学習する組織を実現していますので、それは、決して不可能なことではありません。

 

共有ビジョン

学習する組織では、どの単位でも人が集団で物事を進める上で、ビジョンが共有されています。ビジョンは、厳密には3つの要素に、分かれます。①我々の使命は何か、②我々は、何を実現したいのか(ゴール)、③我々が大事にしている価値観は何か この3つのことについて誰もが合意をした形で物事が動きます。そのためには、集団のものであるビジョンが、個人のものになる必要があります。学習する組織では、集団のビジョンが、自分にとってなぜ大切なのか、そのために自分は何に取り組むのかを、誰もが私を主語に語ることができます。

 

クリエイティブテンション

学習する組織は、クリエイティブテンションで動きます。クリエイティブテンションとは、現状と有りたい姿にギャップが存在する時に生まれる緊張感のことです。理想の状態でない現状に対して、イラッとしたり、不満やストレスを感じることがあります。これは、理想の姿に向かいたいという欲求がもたらす緊張感の表れです。その際に、しかたがないと考え、その緊張感を開放するという処理の仕方もありますが、学習する組織では、どうすれば理想を創れるかを人々が考え始めます。我々が自ら課題を発見し、課題解決に向かう行為の前提には、必ずこのクリエイティブテンションがあります。

 

ホラクラシーとは

ホラクラシーは、非管理型組織を実現したい人々が、管理型組織からどのように移行すれば良いのかをガイドする手法です。最近では、起業の段階から、非管理型組織を目指す人々も現れていて、その場合には、出資者やオーナーという概念まで取り除き、既存の会社組織に存在する全ての潜在的なヒエラルキー概念を取除く法人運営を実現しています。

 

トムに、既存の企業の中でどのような企業が非管理型組織を選択するのかと尋ねたところ、従来型のヒエラルキー組織では、企業の成長に限界があり、同時に、個人も強いストレスにさらされている組織だそうです。非管理型組織に移行することにより、企業は高い生産性と持続可能な成長を手に入れ、個人は、自由と安心を手に入れるというのです。

 

ボスはパーパス(目的)

従来の管理型組織では、ボスは上司である管理者ということになりますが、非管理型組織には、上司が存在しません。全ての人々が自分の役割に対して、権限を持ち、主体的に考え行動することができます。その際に、指針となるのが、組織のパーパスであり、組織における自分の役割のパーパスです。何のために存在するのか、何を実現するのか、成功の評価軸は何かは、全てパーパスを指針に判断することになります。

 

役割と権威

非管理型組織では、一人ひとりが、役割と権限を持ち、自分の役割においての意思決定は全て行います。それでは、間違ってしまうことがあるのではという不安を感じる方もいるもしれませんが、心配には及びません。課題があると、誰かが気づき声をあげます。一人ひとりが、パーパス(目的)に意識を向けて入れば、理想の姿とは違う現状を発見すると、クリエイティブテンションが生まれ、課題を解決する方向に組織は向います。ホラクラシーは個人の主体性が開花する21世紀型組織の一つの強力なモデルではないかと思います。

非管理型組織の創り方を学ぶ ホラクラシーR研修資料より引用

 

 

 

 

 

 

リーン・イン・東京のイベント

文部教育科学通信 2017.11.27掲載

11月12日にリーン・イン・東京が主催するスペシャルイベントにファシリテーターとして参加いたしました。

 

リーン・インとは

リーン・インとは、「勇気を持って一歩踏み出そう」という意味で、この言葉を世界に広めたのは、現在フェイスブックのCOOを勤めるシェリル・サンドバーグ氏です。2013年に出版された著書「リーン・イン」に、世界中の若者が賛同し、各地で、リーン・イン・コミュニティが生まれています。リーン・イン・東京も、その団体のひとつです。

 

アメリカの女性活躍の現実

サンドバーグ氏が出版を決意した背景には、アメリカでも女性活躍が進まないという現実があります。フォーチュン500企業のうち女性が最高経営責任者(CEO)の座に就いているのは23社のみで、役員クラスの役職に占める女性の割合は14%です。国会議員に占める女性の割合は18%です。

 

アメリカで女性活躍が進まない理由に、ガラスの天井などの外的要因もありますが、サンドバーグ氏は、その著書の中で、女性の社会進出が進まない理由に、女性自身が持つ心の壁があると指摘しました。「私達女性は、自信に欠けていたり、手を挙げなかったり、乗り出すべきときに身を引いたりと、大なり小なり自制して行動してしまっている」と、ご自身の体験も踏まえて語りました。そこで、女性が社会で活躍するためには、女性も勇気を持って、一歩踏み出そう(リーン・イン)というメッセージを発信しています。

 

理想の世界の実現に向けて

サンドバーク氏が女性の弱みについてオープンに語ってくれたことに、私は心より感謝しています。社会的に成功した女性は、これまで女性の弱みを口にすることはありませんでした。

女性が国や企業の半分の舵取りをし、男性が家庭の半分を代表する存在となる、真の平等が実現すれば、社会は人的資本と才能の全てを取り込むことができ、国家や企業全体としてのパフォーマンスが上がるというのが彼女の考えです。そのためには、社会のあり方も変わる必要があるが、女性自身も変わる必要があるというのが彼女の提案です。

 

興味深いのは、このような女性の心の壁の背景には、たとえば、「気が強い」という言葉で傷ついた経験などがあります。同じ発言をしても、男性であれば高く評価され、女性だと否定的に受け止められてしまう経験です。その結果、女性は、主張や要求をすることを控えてしまう傾向が強いというのです。そこで、彼女は、若いカップルが子育てを行う際に、女の子に、このような言葉がけをしないことも奨励しています。

 

国際男性デーのイベント

リーン・インの活動のファンである私にとって、そのイベントでのファシリテーションを行えることはとても幸せなことでした。11月19日の国際男性デーに合わせて行われたイベントには、蓮舫議員の夫であり、双子のお父さんでもある早稲田大学客員准教授の田村信之先生、サイボウズ株式会社人事マーネジャーとして100人100通りの働き方を推進し、家庭では子育に参画する青野誠さん、リーン・イン・東京の立ち上げから参画している20代の松本大地さん、みずほ銀行執行役員国際営業部長の有馬充美さん、kay me株式会社を起業した代表取締役の毛見純子さん、ユニリーバにお勤めで、リーン・イン・東京のメンバーである高尾美江さんの6名のパネリストの皆さんにご参加いただきました。

 

田村先生、青野さん、松本さんは、世代も背景も異なりますが、3人に共通していたのは、身近にいる女性のリーン・インを応援し、女性はこうあるべきであると決めつけるのではなく、一人の人間としての選択を尊重するという考えをお持ちだったことです。

 

有馬さん、毛見さん、高尾さんに共通なことは、自分らしさを大切に、一歩踏み出さないで後悔するよりも、行動することを選んでこられたことです。まさに、リーン・インのモデルです。

 

イベントには、90名近くの方々にお集まりいただき、パネルの後の会場でのディスカッションも盛り上がりました。参加者は、社会人と大学生が中心ですが、中には高校生の参加者もいらっしゃいました。ディスカッションの最後に、一人ひとりが、自分のリーンイン目標を設定し共有しました。このような活動を通して、一人ひとりの心の持ち方を変わり、社会が変わっていくのだと、実感することができました。

 

リーン・イン・東京を立ち上げてくれた鈴木玲奈さんとその活動をサポートしてくださっているパートナーのフェリックスさんにも心から感謝いたします。

 

 

 

 

 

 

人一生の育ちプロジェクト

文部科学教育通信 No.423 2017.11.13掲載

2014年に立ち上げた未来教育会議では、教育がよい方向に変わるために何ができるのかを考え、毎年活動方針を決めています。今年は、「人一生の育ち」プロジェクトに取り組むことになりました。この2年間、ずっと温めていた企画です。人が生まれてから死ぬまでの育ちについて考えるというプロジェクトで、とても難易度が高く躊躇していたのですが、勇気を持ってプロジェクトを開始することにしました。

 

大きな志を持って

未来教育会議は、行政でも、教育機関でも、教育サービス業者でもない一市民団体ですが、志は大きく、日本の教育に貢献できると信じて活動を進めてきました。学校や行政の教育関係者、生徒や学生、保護者、塾関係者と対話を繰り返し、教育の現実を正しく捉える努力を積み重ねてきました。同時に、企業の経営者、人事や人材育成に関わる人たちとも対話を行い、経済と教育を結びつける努力もしてきました。そんな中で、経済と教育の間に大きな分断があることに気づきました。この分析を埋めることができれば教育改革がより大きな成果につながると考え「人一生の育ち」プロジェクトを始めました。

 

教育が日本を変える

今日の日本企業は様々な課題を抱えています。失われた20年は、大人の実行力の問題でもありますが、それは、高度経済成長を支えてきた様々な仕組みや構造が、成熟に向かう社会において機能しなくなっていることを意味しています。教育もその一つです。戦後の工業化社会を支えてきた教育は、正確な情報処理を行う有能な人材を大量に排出し、高品質な製品を世界で販売し、日本製品の信頼とブランドを築き上げました。しかし、時代は移り変わり、日本が先進国の仲間入りをした今日では、これまでの日本の役割は後進に譲り、さらに高付加価値な製品やサービスを生み出していくことが求められるようになります。これまでと同じことをやっていても、その価値は同じように認められることはなく、世界経済の発展により、その価値は下がってしまいます。このような時代の変化に対応し、日本がその存在価値を維持し続けるためには、不易と流行に注意を払い教育を正しく変えていくことが鍵を握ると信じています。

 

危機は創造の原動力である

21世紀に入り、世界のイノベーション力が大きく飛躍しています。その背景には、サイエンスとテクノロジーの発展とともに、人類が直面する危機の存在があります。環境破壊、人口の増加、貧困と経済格差の拡大、民主社会の崩壊といった課題は、世界中の人々のイノベーションに向かう意欲を掻き立て、人類がこの危機を乗り越えるために、これまでとは異なる発想が次々と生まれています。チェンジメーカーにとっては、危機はチャンスであり、創造の母です。「楽天主義者の未来予測」の著者でシリコンバレーにシンギュラリティ大学を創設したピーター・H・ディアンマディス氏は、テクノロジーの指数関数的発達や、メーカーズ・ムーブメント、テクノフィランソロピストの活躍などによって、世界には近い将来、必要なものが全ての人に行き渡る時代がやってくると予測しています。社会起業家の父と言われるビルドレイトン氏は、世界中の3000人を超える社会起業家をネットワークし、誰もがチェンジメーカーとして身近な問題を解決するために行動することができる時代が到来したと言います。ディアンマディス氏は、サイエンスやテクノロジーの世界から世の中を見ており、ドレイトン氏は、社会問題を創造的に解決する力を持つ起業家に焦点を当てています。二人は違うところから世界を見ていますが、共通していることは、より良い世界を実現するために、創造的な問題解決に人々が参加することを歓迎していることです。世界中の若者たちが、この空気を吸い、自分の可能性に気づき、様々な問題解決に挑戦し始めています。就職に対する考え方も変化し、企業に属するのではなく、プロジェクトベースで仕事をしたり、起業する若者も増えています。

 

このような時代の変化は、高度経済成長の成功モデルが手放せない高齢化社会では感じ取りにくく、優秀な日本の若者は、一歩前に踏み出すことを自分に許可することを躊躇しているというのが現実ではないでしょうか。若者に勇気を与え、若者が困難な問題を解決することを楽しみ、自己の成長を自ら促進できる教育に変えることが必要です。このような教育のシフトを起こしたいと思い、人一生の育ちプロジェクトを始めました。

 

教育にも分断がある

二つ目に、教育の分断という構造的な問題の解決策の一つとして本プロジェクトが役に立つのではないかと考えました。クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを幼稚園、小学校、中学校、高校に紹介する取り組みを行なっています。この活動を通して見えてきたことは、教育も分業になっていて、幼稚園の先生には、中学校の様子が想像しにくいというものでした。ピースフルスクールでは、お友達と喧嘩をするのは良くないことで、喧嘩をしたら話し合いを行い仲直りすることが決まりです。幼児の喧嘩は、先生が介入するとすぐに仲直りを促すことができます。このため、先生は、喧嘩を見つけると、「◯◯ちゃんが悲しいといっているよ」などと、お友達の気持ちを代弁し、仲直りを促したりします。しかし、中学生になると、喧嘩やいじめに先生が介入することが難しく自分で問題を解決しなければなりません。お友達を助けることについても、同様に、幼稚園では、喧嘩に気づいたお友達が、「◯◯ちゃんに謝って」などと介入することができますが、中学生になると、いじめに気づいても介入すると、自分がいじめの対象になる可能性があるため、誰もが傍観者でいることを選択します。この現実を打破するためには、幼稚園、小学校と連続性を持って、子どもたちが自らいじめのない社会を実現する力を磨く必要があるのです。幼稚園から練習を続け、習慣化することができると、中学生になっても、いじめが起き難く、いじめが起きても話し合いで問題解決するコミュニテを創る力を磨くことができます。幼稚園の先生の子どもへの関わりが、将来、中学生になった時のいじめ問題への対処につながっているということを知っていただきたいです。また、財界は、教育の問題を、大学や高校の教育と紐付けて考える傾向があります。しかし、例えば、イノベーションを実現する上で重要な役割を果たす自己肯定感や自己効力感の発達には、高校以前の教育が重要な役割を果たします。発達を理解しない経済界の要求に合わせて教育を設計してしまうと、成果が上がらないのみならず、子ども達のストレスの原因にもなりかねません。このような教育改革を避けるために、本プロジェクトが役に立つことを願っています。

 

一生育ち続ける

3番目は、人生100年時代の学びです。ライフシフトの著者リンダ・グラットン氏は、誰もが同じタイミングで学校を卒業し、就職し、定年退職するという画一的な生き方の時代が終わり、社会人も何度か学びなおすことが当たり前の時代になると言います。変化する時代の中で、幸せに生きるために、老若男女誰もが学び、育ち続ける日本になることを願ってプロジェクトを進めます。

 

 

 

保護者の皆様との対話

文部科学教育通信 No.422 2017.10.23掲載

先日、小学1年生の保護者の皆様に、クマヒラセキュリティ財団で展開しているシチズンシップ教育ピースフルスクールについて講演を行う機会を頂戴しました。オランダで生まれたピースフルスクールは、幼稚園、小学校で子どもたちが自立する力と共生する力を育む教育プログラムです。保護者の皆様に、熱心にお話を伺っていただき、とても貴重な機会となりました。

 

小学生への期待

保護者の皆様にお話をすることで、2011年震災直後の4月に、始めてピースフルスクールに出会い感動した思い出が蘇りました。世界一こどもが幸せな国オランダの教育を知りたいと思い、オランダ教育視察ツアーを企画していたのですが、東北大震災が起き、視察ツアーは中止になりました。そこで意を決し、一人で視察に行くことにしました。ちょうど、その時、大学に入学したばかりの息子を誘い、2人での視察となりました。

 

ピースフルスクールでは、小学5、6年生が、学校中のけんかのメディエーションを行います。民主性を教える教育ですから、人と意見が違うことは当然で、対立は当たり前であることを子どもたちは教わります。その上で、対立をけんかに発展させてはいけないし、けんかをしたら必ず話し合いにより仲直りすることが必要であるということを子どもたちは学びます。

 

訪問した小学校では、メディエーターを担当する6年生の男の子と女の子の2人にインタビューもさせてもらいました。その時の衝撃は、今でも忘れることができません。「私たちは、問題を解決するのではありません。けんかをしている当事者が、話し合い問題を解決することを支援します。私たちは、どちらの立場に立ってもいけません。中立の立場で、お互いの言い分をお互いが聞き合い、理解することを助けます。状況に関して、お互いの理解が一致したら、当事者が問題を解決することを支援します」メディエーターの説明を聞きながら、自分が恥ずかしくなったことを今でもはっきりと覚えています。私は、小学生に負けていると正直思いました。

 

メディエーターは日替わりの当番制になっており、一日2名が担当するので、ひとつの学校には、10名から12名のメディエーターがいます。メディエーターに志願をし、なぜメディエーターになりたいのかについて作文を書き、選抜された方たちのお話を聞いた訳ですから、すべての子ども達が、彼らと同じという訳ではありません。しかし、メディエーターの子どもたちは、とても落ち着いていて、人間としての成熟度がとても高いと感じました。

 

同時に、私は、小学6年生にこのような姿を期待していただろうかと自分の子育てを振り返りとても反省しました。対立を話し合いで問題解決するという姿勢を十分もっているだろうかと、私自身のあり方を振り返りました。そして、ピースフルスクールを日本で広めようという決意を固めました。

 

一緒に視察に行っていた息子には、まず謝罪をしました。「私は、小学生のあなたに、ここまでの期待をしていませんでした。本当は、期待することができて、期待をすれば、あなたもここまでできたのですね」息子は大学1年生で、私の子育てがちょうど終了した年に、このような対話を息子とすることになるというのも、なんだか複雑な思いでした。一生懸命子育てしたはずなのにというとても残念な気持ちです。

 

日本で、メディエーターのお話をすると、なんだか子どもらしくないという印象を持たれる方が多いのですが、決して、オランダの子どもたちが、子どもらしくない訳ではありません。校庭で元気に遊ぶ様子は、日本の子どもたちと一緒で、あどけない笑顔がとてもかわいいです。しかし、幼稚園児も小学生も、教室に入るととても落ち着いています。社会における責任というものを学んでおり、教室は学ぶ場所ということを理解しているからの様です。

 

社会的情緒的発達

日本にピースフルスクールを紹介するために、教材を翻訳し、何を教えたら、あのメディエーターのような子どもが育つのかを学びました。たくさん驚いたことがありましたが、最も大きな驚きは、子どもたちがとてもたくさんの小さいことを学んでいることでした。日本では、いきなりメディエーターの手法を学び、話し合いで問題を解決することを促すというのが普通だと思いますが、ピースフルスクールでは、その前提としてたくさんの学びがデザインされています。

 

一番大切なことは、社会的情緒的な発達の支援です。子どもたちは、幼稚園の頃から、うれしい、悲しい、怒るなどの基本となる気持ちについて学びます。顔の絵をみて気持ちを当てたり、人形劇に出てくるトラやサルがどんな気持ちなのかを考えます。そして、自分がどんな時にうれしい気持ちになるのか、悲しい気持ちになるのかを考えたり、同じ状況でも、お友達と自分の感じ方が違うことを学びます。こうして、子どもたちは、自分の気持ちを知り、言葉にすることができるように成長します。

 

授業のはじめには、先生が、「今日ピースフルではない人はいますか」と子どもたちに尋ねます。すると、「おばあちゃんが田舎に帰って寂しい」「お兄ちゃんとけんかをした」など、次々とピースフルではない話をしてくれます。先生は、その話に深く入り込むわけではありませんが、会話を通して、今、一緒にいるみんながどんな気持ちなのかをお互いに知ることができます。このようにして、子どもたちは、目に見えない「気持ち」を認知する力を磨きます。メディエーションの手法を学んでも、冷静ではない子どもたちを相手に話し合いを行うことはできません。自分の気持ちを認識することができ、怒りをコントロールする力を磨くことによってはじめて、けんかをしている相手と落ち着いて話し合うことが可能になります。

 

ピースフルスクールでは、日々心の扱い方を磨いているのです。自分の気持ちを知り、自分の気持ちを言葉にすること、そして、怒っている時は、その気持ちを自己認知し、冷静になることができるための訓練を、普段から行っています。ピースフルスクールを学び始めてから、私も、怒りをコントロールする力が以前よりも磨かれたと思います。

 

保護者の皆さんには、お内でできることとして、お話をする際に、出来事の共有だけでなく、気持ちにも触れる習慣を持つと良いとお伝えしました。大人の多くが、「今の気持ちを教えてください」といわれても、すぐに答えられないというのが現実ではないでしょうか。自分の気持ちを認識することを習慣化し、その気持ちを伝え合うことができるようになることが、ピースフルな社会を創る上でとても大切です。

 

自己肯定感

質疑応答では、自己肯定感がどうすればあがるのかという質問がありました。親の愛情が一番というお話をしました。自分の存在が歓迎されているという実感があると、自分の存在そのものに対する自信を持つことができます。人生には、うまく行かないこともあり、社会にでれば、自分の意見や存在を否定されたと感じるような場面もあります。そんな時でも、自分で自分を肯定的に受け止めることができる背景には、親や家族から愛情を受けた経験があります。

 

ピースフルスクールでは、先生が朝、教室の入り口に立ち、子どもたちを歓迎する習慣があります。家族の中で育った子どもたちがはじめて参加する社会である学校でも歓迎されているという実感を持ってもらうためだそうです。こうして、学校でも自己肯定感を育めるように配慮をしています。

 

すべての子どもたちにピースフルスクールが届けられるように頑張って行きたいと思います。

 

 

21世紀の思考法 セオリー・オブ・チェンジ

2017.10.09 文部科学教育通信掲載

2010年に、ティーチフォージャパンを立ち上げる準備会に参加し、この7年間、多くの時間をNPO活動に費やしてきました。それはたくさんの学びの機会となりました。大学生の若者たちとの交流を通して、デジタルネイティブに学ぶことも多くあります。また、ティーチフォーオールという世界45カ国に広がる教育NPOのネットワークに参加することで、NPO運営について多くのことを学びました。特に、驚いたのは、ネットワークの起源でもあるティーチフォーアメリカにおける仕事の仕方が、企業の手法ととても似ていることです。大手のコンサルティング会社がボランティアでNPOの指導に当たることも多く、課題の整理の仕方もビジネスの世界と同じです。

 

社会問題に取り組むNPOは、多くの場合、とても複雑な問題に関わっています。子どもの貧困を例にとっても、一昼夜で解決するような問題ではありません。また、収益を生まない社会問題の解決には、資金が必要であり、資金調達はNPOにとって、とても大きな課題です。NPO活動とは、日々難問を解く挑戦の連続であるともいえます。そんな中で、この数年間、世界中でより大きな広がりを見せているのが、セオリー・オブ・チェンジなのではないかと思います。

 

セオリー・オブ・チェンジ

セオリー・オブ・チェンジとは、変化を起こすために必要な理論です。その理論は、どこかに存在するのではなく、セオリー・オブ・チェンジは、変化を起こすために必要な理論を、自らデザインするためのツールです。多くの場合、その理論は一人で作り上げることは難しく、仲間とともに協働して、ロジックを組み立てていくことになります。このフレームワークを活用することにより、ロジックが可視化され、さらに多くの協力者を得るために必要なストーリー作りに生かされます。セオリー・オブ・チェンジは、また、アクションを通して明らかになった事柄により、塗り替えられていきます。正解が最初から完璧に描かれることはありません。

 

セオリー・オブ・チェンジは、6段階のステップで考える思考法です。

  1. 長期的なゴールを明らかにする。
  1. ゴールを達成するために必要な前提条件と、その前提条件が必要な理由を明らかにする。
    1. テーマに関する(前提となる)仮説を明確にする。
    2. 望んでいる結果を出すために、どのような介入(アクション)が有効かを明らかにする。
    3. 介入(アクション)の成果や効果を測定するインディケーターを作る。
    4. 介入(アクション)との有益性についてストーリーを描く。

 

セオリー・オブ・チェンジの事例

Center for Theory of change(http://www.theoryofchange.org/what-is-theory-of-change/)というサイトに行くと、DV被害のサバイバーの経済的自立を支援するある団体の取り組みが、紹介されています。セオリー・オブ・チェンジでは、ゴールを実現するために出したい結果をアウトカムとして定義し、そのために必要なアクションを描きます。DV被害のサバイバーの事例では、女性に電気や水道工事など、通常では選択しない領域での雇用を促進するアイディアが提示されています。その理由は、比較的給与が高く、スキルの習得によりステップアップが可能で、労働組合もあるため安定した経済基盤を確立できるからだといいます。海外の事例なので、日本でこのモデルが当てはまるかはわかりませんが、セオリー・オブ・チェンジとしては、とても分かり易い事例です。

 

【ゴール・アウトカム・アクション 3つのくくり】

 

前提となる仮説

セオリー・オブ・チェンジでは、自ら描いたアクション項目には、どのような前提があるのかを明らかにし、その仮説を検証することを重要視しています。先の事例には、どのような前提となる仮説があるのでしょうか。

〔前提となる仮説①〕 「DV被害サバイバーが電気や水道業で安定した雇用の機会を得る」について

  • この領域で、女性も採用される。
  • 電気、水道、建設業などは、比較的給与が高く、労働組合があり雇用が安定している。また、スキルを習得することでステップアップが可能となる。

〔前提となる仮説②〕 「サバイバーが状況に対処するスキルを習得する」について

  • DV被害にあった女性は、職務上のスキルの習得以外にも、心の面でも状況に対処する必要がある。

〔前提となる仮説③〕 「サバイバーが、電気・水道・建設業で仕事に就くために必要なスキルを習得する」について

  • 女性でも この領域でスキルを習得し、市場競争力を持つことができる。

 

インディケーター

セオリー・オブ・チェンジは、アウトカムを実現するために、数値目標を設定することを大切にしています。アウトカムを評価する軸は何かを特定し、それを測定するインディケーターを定義します。

〔アウトカム1〕 雇用の機会を得る。 ①採用数 ②プログラム卒業生の数 ③定義:6ヶ月以上働き続け、最低でも自給12ドルを得ている

〔アウトカム2〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①電気、水道、建設業のいずれかのスキルを習得した人の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:インターンシップを完了する

〔アウトカム3〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①プログラム卒業生の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:卒業する

〔アウトカム4〕 仕事に就くために必要なスキル研修に参加する。 ①参加の数 ②研修参加者 ③3日以上欠席しない

 

 

よいセオリーか

一旦、セオリーが完成したら、それがよいセオリーか否かを見定める必要があります。最終的には、望んでいる結果が出るかどうかということで評価されるべきですが、大きな課題解決に臨む時には、そこまでの道のりは遠く、一歩ずつゴールに近づくアクションを正しく行うことが不可欠です。そこで、専門家は、まずは実現性があり、多くの人々の目で眺めてみても理にかなっているセオリーを信じて行動することが重要だと言います。計画を実行し、その成果を分析することにより、セオリーに新たな知恵が加わることで、セオリーがどんどん進化し、ゴールに近づくというのです。このため、試せるセオリーを描くことが大切であるといいます。デザイン思考のプロトタイピングによく似た発想です。21世紀は、試して正解を見つけるという思考法がなによりも大事だと感じます。行動することと、思考することが切り離せない時代であることを、セオリー・オブ・チェンジを通して、再確認しました。

 

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