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教育という社会の宝物

文部科学教育通信 2018.06.25掲載

幸せな人生を生きるために教育が果たす役割はとても大きいと感じます。誰でも学ぶチャンスを得ることができる学校があり、どこに住んでいても、子どもたちの指導に当たる優秀な先生たちがいることは、本当にありがたいことです。それでも、多くの人々が、日本の教育に危機感を覚えるのはなぜなのでしょうか。

教育の使命が、幸せな人生のための準備であるとすれば、今日の教育が人生の準備の役割を果たしていないのではないかとう疑問が残るからです。しかし、それは、学校や先生、行政の責任ではなく、社会の責任であると感じます。

ダブルスクールを認める

日本の教育は、学校と塾に通うダブルスクールを前提に発展してきました。塾の補完があって初めて学力が習得できる教育をいつのまにか当たり前と考えるようになりました。子どもたちの多くは勉強は塾、友達や部活は学校と、塾と学校の使い分けをしています。その中で、塾に通う子どもたちは、自分の学習にとって意義のない授業に、意思を持たずに座り続ける習慣を身に付けていきます。教室の中には、塾に通っていない子どもたちや、先生の授業が難しいと感じている子どもたちもいます。先生は、塾に通っていない子どもたちや、学力が遅れる可能性のある子どもたちの学習に集中する方が、個人にとっても社会にとっても有益ではないかと思います。しかし、一斉授業を前提とする画一的な教育を手放せない学校教育は、平等という建前の元、授業を行います。

21世紀の問題解決思考ではない

今日の学校は、子どもたちに未来を生きる力として複雑な問題を解決する力を育む使命を持ちます。しかし、ダブルスクールを放置する世界観や、多様な子どもたちの発達を同時に実現する教育をあきらめてしまう問題解決思考の中で育つ子どもたちが、21世紀の問題解決思考を磨くことは困難なのではないかと思います。同時に、21世紀の教育は、生徒とともに創るという発想の転換が鍵を握るのではないかと思います。大人は、正直に課題に直面していることを子どもたちに伝え、時代の求める教育を子どもたちと一緒に作り上げていく覚悟が必要ではないかと思います。

総合的な学習

時代の変化に対応し、世界中の教育改革が始まったのは2000年初頭です。同時期、日本でも総合的な学習が導入されました。OECDが21世紀の教育方針を発表する2年前に、すでに、日本は21世紀型教育を始めていました。しかし、残念ながら、総合的な学習は、学力低下につながるという批判を受け、2011年に、大幅に縮小されます。本当に残念なことです。総合的な学習が継続していたら、教育を大きく発展させる可能性がありました。いまさら、アクティブラーニング等という言葉を用いる必要もなったのです。しかし、当時、誰も21世紀型教育の意味を理解しておらず、教育に「学力」のみを求めていたために、教育批判に耐えることができず、総合的な学習の導入は失敗という認識になりました。

塾は大繁盛

総合的な学習がスタートした頃、私は小学生の子どもを持つ母親でした。子どもの教育は親の責任と感じている親たちは、学校に教育を期待できないと考え、その結果、塾は大繁盛。低学年から塾に通う子どもたちも増えたのではないかと思います。私たち親の頭の中には、「学力」しかなかったのです。その後、教育の世界に身を置くようになり、非認知能力や複雑な問題を解決する力を伸ばすことが、豊かな人生につながることや、個人の幸せだけでなく社会の幸せに一人ひとりが貢献する生き方を奨励することも教育の責任であることを知りました。総合的な学習の価値は、学力とは異なる力を育むことにあったのです。

教育現場の変革

総合的な学習の時間が大幅に削減される時期、私は、日本教育大学院大学で教員養成に取り組んでおり、多くの現場の先生方との交流がありました。そんな中で、先生方から、新しい教育が根付くのには10年はかかるという話を聞きました。総合的な学習も紆余曲折を経て、やっと教育現場に根付いてきた所で、大幅な縮小となり、先生方がとても残念がっていらしたのが印象的でした。もし、総合的な学習を継続していたら、プロジェクトベースの学習に発展させることもできたでしょう。2020年からスタートするアクティブラーニングでは、総合的な学習の導入、そして縮小という歴史を繰り返さないように、教育現場を支援する社会でありたいです。

教育批判には価値がない

オランダでは、親が200人集まれば学校を設立できる仕組みになっています。一方で、監督庁が学校を評価し、子どもたちの発達に貢献できない場合には、学校を継続することができない仕組みになっています。このため、学校は、常に、一定の質を担保する使命を持ちます。親は、様々な理念と教育方法を持つ学校の中から、子どもに最も適した学校を選びます。学校は、文科省の示す指針には従いますが、理念、教育内容、教育方法を自由に選択できます。簡単に言えば、日本とほぼ真逆の教育システムです。教育の選択は、自己責任ですが、オランダの親は、日本の親のように不安を抱えている様子はありません。既存の教育に不満を持つ親は、学校を立ち上げる権利をもっているのですから、教育批判を行う必要もありません。日本の教育行政は、社会の教育批判に強い影響を受けます。教育批判を助長するのではなく、教育に本当に必要なことが何かについて理解を深めていく社会を実現できるとよいと思います。

時代が求める教育

日本では退化した21世紀型教育ですが、世界では着実に進展しています。OECDが21世紀の教育方針を打ち出した2002年には、アメリカでも、パートナーシップフォー21世紀スキルという団体が立ち上がりました。時代の変化に併せて教育が変わるという考えは世界中に広まり、次々と新たな教育の可能性が生まれています。「学力」も大切ですが、「学力」がすべてではないという事実を日本も受け入れ、教育を進化させていくことが必要です。それが、これまでの教育を支えてこられた人たちの心情に反していたとしても、教育の使命が、こどもたちの幸せのためにある社会の宝物であるとするならば、教育を変える勇気と信念が必要です。

学習 秘められた宝物

欧州共同体委員長のジャック・ドロール氏を委員長として発足したユネスコの21世紀教育国際委員会は、21世紀の教育および学習に関する報告書「学習:秘められた宝」を1996年に発表しています。生涯学習や人類の発展につながる教  育のあり方等幅広い観点から検討し、教育方針となる4つの学習指針を打ち出しています。

  • 知ることを学ぶ(learning to know)
  • 為すことを学ぶ(learning to do)
  • 共に生きることを学ぶ(learning to live together)
  • 人間として生きることを学ぶ(learning to be)

OECDの提唱する教育方針が力強いのは、教育、学習、人間の本質に対する深い理解が根底にあるからではないかと思います。

教育改革への期待

もし、日本でも、このような対話を経て総合的な学習という授業スタイルが生まれていたら、総合的な学習の時間を守り抜くことができたでしょう。これから始まる教育改革で同じことが繰り返されないように、社会の宝物である教育をみんなで守り育てる必要があります。教育ビジョンに確信を持つ社会の形成が、教育現場を支え、子どもたちを幸せにすることを、すべての大人が認識する必要があります。

 

仲介のレッスンで磨く主体性

文部科学教育通信 2018.06.11掲載

ピースフルスクールプログラムでは、シチズンシップを3分類に分けて考えています。その上で、子どもたちが、社会的正義を守る市民に成長してくれることを願い、プログラムを開発をしています。オランダ生まれたプログラムですが、日本でも、この教育観を大切にしています。

 

シチズンシップ教育の三分類

個人的な責任を持つ市民

法を遵守し、共同体に対しての責任を持っている。

より良い目標に向かって生きており、緊急事態には進んで助け合うことができる。

大半のシチズンシップ教育プログラムは、このタイプの市民の育成を目指す。

しかし、個人の責任だけであれば、独裁体制でも求められる。

 

参加的市民

共同体の活動に対して、積極的に参加し、物事を変革し、改良することができる。

また、政府の制度がどのように機能するかを知っている。

しかし、参加的市民の段階では、システムそのものに対して批判的に考え、アイディアを生み出すことはできない。

社会的正義を守る市民

社会的、政治的、経済的な構造に対して、クリティカル(批判的)に判断し、より良い社会にするために、新たなアイディアを生み出すことができる。また、そのアイディアを実行に移すことができる。

正義を守る市民を育てる教育観

子どもたちが、自分の生きる社会である学校で、社会的正義を守る市民になることを目指します。

この教育理念に共感していただき、佐賀県武雄市にある武内小学校でピースフルスクールをスタートしたのは、今から、5年前のことです。5年目になる今年、初めて5、6年生に喧嘩の仲介の仕方を学ぶ授業を行いました。すでに、上級生たちは、1、2年生の喧嘩の仲直りを助けてくれているのですが、ピースフルスクールの求める仲介の仕方は、いつもの要領とは、少し違います。

喧嘩をしているお友達を助ける時には、助けに入る許可をもらうことから始めます。子どもたちが、自らの意思で喧嘩の問題を解決することが大切だからです。仲介者は、あくまでも支援の役割を担います。仲直りをするのは、喧嘩をしている当事者同士です。このため、仲介する許可を得た上で仲介をスタートさせることが必要になります。「あなたに、その意思はありますか」それを確認しないまま、仲介者の意思だけで進めることはできないのです。とても小さいことのように感じるかもしれませんが、常に、そこに意思があることを確認することが、主体性を守り、育てるために大切なことであることを、ピースフルスクールプログラムは教えてくれます。

冷静に話し合う

忘れてはいけないことは、怒りの温度計を下げること。すでに、怒りの温度計については学んでいるので、怒ると温度計が上がることを、武内小学校の子どもたちは知っています。怒りにもレベルがあります。レベル1は、不満やイライラ。レベル2は、カチンとくる、怒る。レベル3は、激しく怒る、怒り狂う。こんな風に、怒りの温度計は上昇するから、今の自分が温度計のどこに位置しているのかを知ることが大切。そして、怒りの温度計が上がったら下げるために、深呼吸したり、10数えたりと、色々な工夫ができることを学んでいます。感情のコントロールができない時は、話さないというルールもすでに共有されています。仲介でも、同様に心を落ち着けることを求めます。そして、いよいよ仲介が始まります。

出来事と気持ちを振り返る

次に、仲介者が行うことは、それぞれの言い分と気持ちを尋ねることです。喧嘩を振り返り、何が起きたのかについて共通の認識を持つことが目標です。そのために、一人ひとりに、何が起きたのか、どんな気持ちなのかを尋ねます。出来事と自分自身の気持ちの両面から振り返りを行うことが、仲介者の支援によりスムーズに進みます。夫々の意見が出揃ったら、仲介者が何が起きたのかを要約します。事実関係について、お互いの認識が一致することが大事です。

仲直りの方法も自分たちで考える

事実に対するお互いの認識が一致したら、次は、仲直りの方法を模索します。この際にも、仲介者がアイディアを出すことはありません。あくまでも、当事者に考えてもらいます。

仲直りのアイディアを夫々から聞き出し、当事者の出したアイディアを要約するのが、仲介者の役割です。最後に、両者の合意を確認した後は、実際に仲直りをしてもらいます。仲直りができたら、最後に、褒めることも大切なことです。こうして、仲介が完了します。

自分の問題は自分で解決できる

仲介のステップは、自立と共生を学ぶ教育観を反映しています。自分の問題は自分で解決できる人になるための練習でもあります。喧嘩の仲直りだけが目的ではなく、自分で、喧嘩の仲直りができる人に育つことを目的にしたステップです。

授業の最後に、仲介について何を学びましたかと尋ねた際に、ある男の子が、「勇気を作る」と言ってくれました。喧嘩をしても、話し合えば解決できること。介入することで、仲直りを助けることができること。この経験が、次の勇気に繋がるというのです。本当に嬉しいメッセージでした。たくさんの経験を積んで、勇気を作って欲しいと思いました。

学年を超えて約束事をもつ

1、2年生に対して、仲介が実践できるのは、学校全体が、幾つもの約束事をすでに共有しているからです。意見が違うのは当たり前なので、対立は悪いことではないこと。対立をけんかにしてしまうことが悪いことで、話し合いで解決をすることが大事ということ。喧嘩は赤い帽子、話し合いは黄色い帽子と、みんなが覚えていてくれるので、仲介者も、喧嘩をしている当事者に、黄色い帽子をイメージしてもらいやすいです。

青い帽子

子ども達は、もう一つ青い帽子も学んでいます。自分の意見を言わないで、我慢することです。喧嘩ではないのですが、実は、青い帽子も良くないことであることを学びます。赤い帽子も、青い帽子も、見え方は違いますが、Win-Loseであることには、違いがありません。我慢を続けていると、問題は表面には現れませんが、本人は、楽しくありません。人と人が、お互いに思いやりを持つ社会ではなくなってしまいます。ちゃんと自分の考えを述べて、対立があったら、話し合う。これが基本です。また、子どもたちは、感情リテラシーを高めるレッスンもたくさん行います。自分の気持ちを言葉にすることができ、同じ状況でも人の気持ちが違うことを理解できると、他者の気持ちに共感することが自然にできるようになります。

オランダの子どもたち

オランダの小学5年生の仲介者のお話を聞いた時の感動は、今でも忘れることができません。オランダでは、小学5、6年生が、小学校(日本の幼稚園と小学校に当たる)全体の喧嘩の仲介を、当番で毎日行います。当番の一人が、「私たちは、どちらの肩を持ってもいけないのです。私たちは、問題を解決するわけではありません。あくまでも、当事者同士が仲直りをする際の支援を行うのです」と私に仲介の役割を説明してくれました。自立と共生の力を育み、正義を守る市民を育てる教育が、日本でも当たり前になる日が待ち遠しいです。

 

教育が変わる理由

文部科学教育通信 2018.05.28掲載

5月16日に、自由民主党政務調査文部科学部会「10年後の教育のあり方を考えるプロジェクト」にて、「教育への期待」と題してお話をさせていただく機会を頂戴いたしました。その中で、教育が変わる理由を、4つに絞りお伝えしました。

今日、教育改革に向かう機運が高まる中、「なぜ変わるのか」について、まだ十分な議論が行われていないと感じます。AIに仕事が奪われてしまうといった表現、グローバル時代のための英語教育、プログラミング、暗記編重からアクティブラーニングへ と様々な変化が進んでいます。どれも、要素として間違っていないのですが、バラバラに進む教育改革は、子どもたちや先生にとっては、タスクが増えるだけといった印象になってしまうのではないでしょうか。

ゆとり教育が終わり子どもたちの多忙化が加速しています。8年前に、教育の未来を創るワークショップでも、子どもの多忙化が話題になりました。ある独身の女性が、「姪っ子と遊ぶのが大好きだったのに、小学校に入って最近姪っ子が忙しくなってしまった。なぜ、子どもは、そんなに忙しいの?」と質問しました。それを聞いた子育て経験者は、水泳やスポーツクラブ、英語、塾など、子どもたちが放課後に通う教室がたくさんあることを話してくれました。そのワークショップでは、こうした一つひとつの経験を聴きながら、その関係性をシステム図に書くことに挑戦していました。そこで出来上がった作品が、「ゆとり教育から奴隷教育へ」というタイトルで描かれた図です。子どもたちにとって一番大切な主体性が奪われてしまうという悲しい図です。

それは、同時に、先生や教育関係者を苦しめる教育システムでもありました。この10年間、たくさんの教育関係者とお話をして来ました。誰もが、子どもたちのために一生懸命です。しかし、その努力が結果に繋がらない。関係者が一生懸命になればなるほど、子どもたちの主体性を開花させる機会を奪ってしまう。そのような結果になっているのではないでしょうか。

教育改革の機運が高まることはすばらしいのですが、これまでと同じように変化を創ることが、子どもたちを幸せにする教育改革に繋がらないのではないかという危機意識があります。そこで、教育が変わる理由を4つに絞りお伝えしました。何をどのように変えるのかの議論の前に、なぜ変わるのかについて、深く理解する必要があると思うのです。VUCAワールド(変化、不確実、複雑、曖昧の頭文字を繋げた時代を表す言葉)、AI時代だから、教育改革はまったなしと批判の声が上がりそうですが、とても大きな変化が求められているからこそ、立ち止まって考え抜く必要があるのではないかと思います。

教育が変わる4つの理由

①人類の学ぶ力に限界はない!

今日の教育改革の原点は、1972年に出版された『成長の限界』ではないかと考えます。

成長の限界は、ローマクラブが資源と地球の有限性に着目し、マサチューセッツ工科大学のデニス・メドウズ博士を主査とする国際チームに委託して、システムダイナミクスの手法を使用してとりまとめた報告書です。人口増加や経済成長を抑制しなければ、地球と人類は、環境汚染、食糧不足により100年以内に破滅するだろうと警告しました。

『成長の限界』は問題提議には成功したものの、企業も、人々もそれまでの暮らしやあり方を見直す気配はなく、これまで同様に、人類は破滅の方向に突き進んでいました。そこで、ローマクラブは、1979年に、『限界なき学習』を出版します。『成長の限界』で示した「このまま放置すると、人間が作り出した科学技術で地球が破局を迎えてしまう」という危機感のもと、『限界なき学習』では、破局を避けるための方法として「学習」を提唱しました。資源に限界はあっても学習に限界はないと展望を示し、学習を革新するためには「先見」と「参加」の両方が必要であると強調しています。

2013年に出版された「2052 今後40年のグローバル予測」では、「成長の限界」から40年が過ぎ、持続不可能な方向に進んでいる地球に対して、人類が取るべきアクションを示唆しています。未来予測には、経済、環境、エネルギー、政治など30以上の分野にわたる世界のキーパーソンが参加しました。

そして、2015年には、世界がはじめて気候変動対策に協力することを「パリ協定」で合意します。同年、国連の持続可能開発目標SDGsもスタートし、人類の学習に限界がないという言葉が試される時代が本格的に始まりました。

2003年にスタートしたOECDの提唱する教育改革は、教育が目指す社会として2つの目標を掲げています。1つ目は、持続可能な成長。『成長の限界』の問題提議に対する答えを見出せる社会です。2つ目は、民主的な社会の実現。グローバル化する社会、フラット化する社会の中で新たに生まれた富の格差や移民問題を、人類は乗り越えられるのか。そのためにも、人類は「限界なき学習」に挑戦する必要があります。

②誰もがチェンジメーカー!

人類の課題が複雑化する中で、新たな機運が生まれています。アメリカで1980年にスタートしたアショカという団体は、誰もがチェンジメーカーになれる時代が到来したと言います。アショカの創業者ビル・ドレイトン氏は、社会起業家という言葉を生み出した方です。テクノロジー革新により、誰でも変化を創造する力をもつようになりました。そして、10代のうちに、小さな事柄でも、自ら見つけた課題にチャレンジすることがとても大切だといいます。チェンジメーカーの「限界なき学習」への道は、行動の主体である主体性の感覚を育む幼児期から始まっているといえます。

③みんなが社会に責任を持つ

オランダ、デンマーク、ドイツを訪問し、市民力のパワーに圧倒されました。当たり前のように、誰もが国家戦略を理解し、町を良くするために活動しています。ヨーロッパでは、クワトロ・へリックス(4重螺旋)という考え方を教わりました。市民、行政、企業、アカデミアが、同じ目標に向かって協働する社会のあり方です。当然ですが、最初から利害が一致することばかりではありませんが、対立を乗り越え、合意形成を実現する社会です。教育改革の話をしていても、一市民が、「私たちは、この道を選んだのです」と、何を優先しているのかを語ることができます。日本も、成熟社会に向かい様々な社会システムを変えていく必要があります。しかし、社会システムを変えるだけの市民力を備えていません。大きな政府に任せるという市民のあり方を変えるためには、シチズンシップ教育が必要です。

④学力の再定義

AI時代の学力のあり方については、日経新聞に掲載されたシンガポール教育相ヘン・スイキャット氏の言葉が、最も端的に表していると思います。

「あらゆる情報が氾濫する世界で、価値ある情報を見極める能力が問われる。事実(ファクツ)と意見(オピニオン)を区別し、無数の断片的な情報を結合して意味を持たせるには、受身ではなく創造的な力が要る。読み書き能力や計算力で高得点が取れても、それだけでは不十分だ」

「ロボットを創り出す人材になるか、あるいはロボットによって置き換えられる人間になるか。20~30年先の世界の姿を考えれば、情報通信を扱う能力の重みが増すのは間違いない」

社会と人々をともに幸せにする教育の実現に向けてビジョンが共有される日を心待ちにしています。

民主化するソサイティー

2018.05.14文部科学教育通信 掲載

企業経営の世界にも、民主化の波が押し寄せている。

 

シチズンシップ教育

オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを通してデモクラシーについて学んだ。デモクラシーは、多様な人々が安心して共に生きることを可能にする。デモクラシーは、対立を前提としている。多様な人々が、自らの考えを述べることが許可される。意見の対立を話し合いで解決し、共に社会を創る責任を持つ。民主的な社会を実現する人々には、多様性が共に生きることができるという信念がある。

日本の教育を受けた私にとって、この考えに最初に触れた時、とても新鮮に感じた記憶がある。学校でも、社会でも、異質な人は排除される社会だ。異質な人はマジョリティに同化することで存在が可能になる。そんな社会に生きていると、デモクラシーを体験する機会がない。だから、多様な人々が自由に発言をする様子を想像すると、混沌とした社会になるのではないかという心配があった。しかし、ピースフルスクールが子どもたちに教える内容を学ぶ中で、主体性を育むことで初めて、共生社会を創れる人になるということを知り、日本に欠落しているのは、主体性の教育であるという結論に至った。自分らしさを守ることと、共生社会を創ることの2つの責任を持つ人が、デモクラシーを実現できるのだ。

シチズンシップ教育に、8年間取り組み、日本のダイバーシティ推進を眺めると、同じ課題に行き着く。企業では、LGBTをはじめとする様々なダイバーシティ教育が進んでいるが、根っこの部分では、私同様、多くの人たちは、デモクラシーを良くわかっていない。多様な人々を尊重することはできるが、ダイバーシティを包摂する組織創りに到達しない。多様性を受け入れることができるようになったことは大きな進歩だが、多様性の包摂が実現するのは、これからである。

 

経営の民主化

そんな中で、経営の世界にも、民主化の波が押し寄せている。経営の民主化を促進するティールやホラクラシーという新しい組織論だ。ディールとホラクラシーは、それぞれ主張する人が異なり、その手法にも違いがあるが、共通するのは、ヒエラルキー組織を解体させて、完全にフラットな組織を実現する組織論であること。企業経営にも、デモクラシーを導入することを提唱している。非管理型組織の中で、人々はやりがいを持ち、主体的に行動することができ、組織全体もその方が強くなるという主張だ。

はじめに、非管理型組織の存在を知った時、そんな組織がうまく機能するとは思えなかった。どうやって、一つの組織として、方針が徹底できるのか、大きな決断は誰がするのか等、次々と疑問が湧いてきた。しかし、日本でも、非管理型組織を実践している企業があることを知り、それが実現可能なものであるという考えに変わった。

管理者のいないフラットな組織に興味を持ち、IT企業を訪れると、組織のフラット化は彼らにとって常識であることが解る。彼らにとって、ヒエラルキー組織や、フォーマルな上下関係、忖度文化の方が不慣れな世界のようだ。ネットの世界では、オープン、フラット、シェアリング、透明性が常識で、その世界で育った若者にとって、それはネットの世界だけの常識ではなく、ライフスタイル全体に当てはまる。こうして、テクノロジー革新が、人々の物の味方や価値観を変え、その結果、社会を変えいく。この流れが止まらないとすれば、我々の生きる社会は、今後益々民主化することが容易に想像できる。そんな中で、ヒエラルキー組織が常識であると考える企業においても、民主化の流れが進んでいくのだろう。

 

ラリーとサーゲイの予言

「インターネットが民主的な社会を可能にする」と予言したのは、グーグルの創業者ラリーとサーゲイだ。グーグルが世の中に生まれる前、検索エンジンは、テレビコマーシャルのように広告宣伝費の値段に合わせて検索結果が表示されていた。検索エンジンの世界が民主的に運営されなければ、病気のお母さんのために本当に必要な薬を見つけ出すことができない。「そんな世界は間違っている」 ラリーとサーゲイの強い信念がグーグルを誕生させた。グーグルは、民主的に検索結果が表示されるインターネット上の検索システムを実現した。グーグルが、検索事業で収入を得るのではなく、広告で収益を得る事業モデルを実現したことで、我々は、地位や年齢、所得に関係なく、誰でも、同じように検索エンジンを通してウェッブ上の情報にアクセスすることが可能になった。ラリーとサーゲイは、間違った世界を変え、お金で検索結果が操作されない社会を実現した。こうして、彼らの予言通り、インターネットの世界の中で、民主的な社会を実現した。無論、テクノロジーは完璧ではなく、真の民主化が公正な判断に至るとも限らない。しかし、ネットにアクセスする力を持っていれば、誰でも膨大な情報に平等にアクセスすることが可能になり、同時に、善いアイディアを地球全体に広めることも容易になった。誰にでも、世界を変えられる時代が到来している。

 

フラット化する世界

トーマス・フリードマンが、「フラット化する世界」(日本経済新聞社)を書いたのは、今から10年以上前の2005年だ。テクノロジー革新が人間社会にもたらした影響は、我々が想像する以上に大きい。特に、その影響が負のインパクトとして現れる時、その影響力に驚かされる。2008年に起きたリーマンショックは、世界の経済が網の目のように繋がっていることを可視化した。アメリカのサブプライム住宅ローン危機に端を発したリーマン・ラザーズの破綻は、世界の金融市場に大きな打撃を与えた。同時に、金融資本主義が限界に来ていることを世界が実感した。

テクノロジー革新が実現したフラットでオープンな社会の特徴は、透明性にある。世界の富の格差も可視化され、疑問視されるようになる。人道的な理由と、持続可能な経済発展の2つの理由により、世界は富の格差を是正するために協力を始めた。2015年にスタートした国連の持続可能開発目標SDGsは、貧困の解消を、大きな目標に掲げている。フラット化する世界には、光と影が存在するが、世界は善い未来に向けて協働できるという希望を捨てていない。

 

新たな価値

テクノロジー革新は我々の生活を豊かにした。インテル共同創業者のゴードン・ムーアは、今から50年以上も前の1965年に、半導体業界において、一つの集積回路に実装される素子の数は18ヶ月ごとに倍増すると述べた。それから、半世紀が過ぎ、我々は、パソコンや携帯端末の進化を通してムーアの法則を実感することとなった。

テクノロジー革新がもたらした新しい価値は、フラット化、オープン化、ネットワーク化、透明性、柔軟性だ。ヒエラルキー組織の特徴はその真逆で、階層、クローズ、分断、不透明、硬直だ。そう考えると、従来の組織のあり方が、これからも同様に続くことはないという予測ができる。

 

未来の組織

テクノロジー革新が組織にもたらす変化は、企業経営の民主化だ。民主化された組織は、そこに集う一人ひとりの意志と選択により創られる。組織に存在する一人ひとりが、気持ちよく活躍できる組織のあり方を選ぶことが可能な時代の始まりである。日本でも始まっている働き方革命とも無縁ではない。

ミレニアム世代は、階層を上がることに興味がなく、パーパス(目的や社会的意義)にこだわる傾向があるといわれる。これは、世界共通のトレンドだ。日本では、それを「野心がない」と捕らえる人がいるのは、残念なことだ。彼らは、工業化社会の負の遺産を引き継ぎ、環境問題を解決しなければならない。経済活動においても、成長よりもパーパスを大事にするのはこのためだ。生まれた時からインターネットの世界に生きる彼らにとってフラットにネットワーク化する社会の方が自然で心地よいのだ。日本は高齢化した縦社会なので、29歳以下が人口の75%を占めるアフリカの国のように、ミレニアム世代の物の見方が社会通念になりにくい。若者が創りたい未来の組織を実現するために、ヒエラルキー組織が当たり前と思う我々にも、発想の転換が求められる。

民主化する時代に生きる子どもたちが人生の準備を行う教育を実現していきたい。

女性セミナー 幸せな人生・幸せな社会(その2)

文部科学教育通信2018.4.23掲載

2018年2月26日に、保険会社のエムエスアンドエイディーホールディングスで活躍する女性の皆さんを対象に基調講演を行いました。前回掲載したその1の続きです。

 

女性はリーダーに最適!

・女性に向いたリーダーシップの時代になっている。

マネジメントは目標を実現するためにPDCA管理に重点を置いている。

一方、リーダーシップは自分の言葉や行動を通して人も主体的に動くようする影響力のこと。人に焦点を当てている。

・リーダーシップとは、立場であり、生まれ持ったもの、カリスマ性やロールモデルが必要、リーダーは一人だけでいい等という考えは全て誤解だ。

・リーダーシップが生まれ持ったものと言われたのは1930年代だ。

ドラッカーは「リーダーシップは学べるもの、優秀なリーダーの特徴はカリスマ性を持っていないことだ」と語っている。

・一人のリーダーが回せるほど世の中は簡単ではなくなった。

現場にはリーダーがたくさん必要だ。

リーダーシップは個性を土台に自ら構築していくもので、誰かの真似をしてもだめだ。

・自分の強みを生かして組織に貢献してくのがリーダーシップだ。

・リーダーには共感力が必要だ。

市場が多様化しており、先進国パターンだけで捉えられず、各国ごとの置かれた状況も理解する必要がある。

市場に対してもそのくらいの共感力が必要で、これからのリーダー像は女性に合っている。

・2006年、欧米の女性リーダーたちにインタビューをしたところ、全員が共通して「チームを大事にする」と述べており、女性はチーム志向があるとの仮説を持った。

・彼女たちから「力のある男性のメンターを持つことが必要」というアドバイスを受けた。

男女平等とは言っても、女性が社会を動かしている訳ではないので、今の社会のゲームやルールを男性から学ぶ必要があるということだ。

・女性は組織の中で上がっていくことに関心がなく、管理職に興味がないとも言われるが、女性に管理職を求めるなら、上司は、彼女に何を期待しているか、どんな成長の機会があってどんな世界が広がるか等を説明してほしい。

女性も世界が広がることに興味はあるはず。女性は管理職について違う観点も持ってほしい。

 

ダイバーシティの心得

・男性はヒエラルキー型、女性はチーム型と言える(世界共通のジェンダー論から)。

・ダイバーシティに優劣の概念を持ち込んではいけない。

優は劣に学ぶことができず、多様な人々が一緒にいる意味がないからだ。

相互に学習していくことに意味があり、優劣の概念がダイバーシティの障害となっている。

・「自分と違う人を尊重する」というのは自分軸で相手を評価していることになる。

自分自身が多様性の一部であり、多様性を受容することが重要だ。

 

さらなる成長に向けて 

・仕事は成長の機会であり、昇進に伴って意思決定のインパクトや責任、影響力等も広がっていく。

枠が広がり成長につながるという観点を意識してほしい。

自分が今どこにいて、どんな成長が可能なのか可視化してほしい。

・時代背景を無視しては生きていけない。

自分と世界がつながっており、自分がどこに立っているか考えないといけない。

会社の将来は昔は経営者だけが考えていた。

今は経営者だけが考えて回る時代ではない、現場が考えなくてはいけない。

・会社の中期経営計画にも自分の仕事が紐づいている。すべて自分事で考えよう。

・受け手に残る印象も重要だ。

話の内容が受け手に与える影響は7%と言われている。

他者を説得するために、内容だけでなく自信のある話し方や見た目も意識しよう。

・米国では女性活躍が進まない理由の一つに偏見があると言われており、能力が同じでも男性と同様の評価が得られないという現実がある。

・ビジネス社会では女性はマイノリティ、ヒエラルキーが上がれば更にそうだ。

だから男性のメンターが必要なのだ。

・女性の強みとして「柔軟だがぶれない」「間違っていると思ったら変わる」等がある。

・女性は100%要件を満たしたら手を上げる、男性は6割でも手を上げると言われている。

女性も最初から100%と思わずに、6割で手を上げる男性のおおらかさは見習うとよい。

・一方で、男性の真似をしても三流の男性にしかなれない。

自分という人格のひとつの要素が女性であるとの意識でいてほしい。

最後に、現代は地位や年齢に関係なく誰もが学ぶ時代です。 GEのリーダーたちは、リーダーに専門家的な態度ではなく、学習者の態度を求めています。世界中からよいものを検索し、最もよいものを上手に取り込もうとしています。 幸せな人生、幸せな社会とするために学び続けてほしいと思います。

女性セミナー 幸せな人生・幸せな社会(その1)

2018.4.9文部科学教育通信掲載

2018年2月26日に、保険会社のエムエスアンドエイディーホールディングスで活躍する女性の皆さんを対象に基調講演を行いました。その内容をご紹介させていただきます。

 

1.私たちが生きる社会

・20世紀の後半から、経済社会は変化・複雑・相互依存の時代に入ったと言われている。OECDは2003年に教育改革を行っている。そのような時代を生きるためここから多くを学びたい。今は先例のない複雑な問題に対処する力が必要だ。相互依存の時代には教育が大変重要であり、大人も学び続けなければならない。

・2013年、安倍首相が経済界に対し女性管理職を2020年までに30%にするよう要請した。なぜ首相が実現しない目標を掲げるのか腑に落ちなかったが、答は到達できない目標でも掲げなければ始まらなかったということだ。

2012年、IMFのラガルド専務理事は日本の潜在成長率の低下に歯止めとかけるには女性の就業促進がカギと発言しており、安倍首相の「2020年までに30%」に影響を与えたのではと思っている。

・労働人口の急激な減少で女性の活躍推進が日本の成長維持に重要なポイントとなっているが、日本では今日まで女性活躍推進が成功していない。

・男女平等指数ランキングでも日本は114位(144カ国中)である。教育や健康は高指数だが、経済と政治がとても低い。

「日本は女性に投資しているのにもったいない。もっと女性が活躍できるはず」というのが世界の見方、このランキングは日本では女性が意思決定に参加していないことを示している。

・日本では生活者の視点がない人たち、女性の生き方がわからない人たちが重要なことを決めており、そのことが日本を難しくしている。

幸せな社会を作るために、皆さんならまず管理職になって意思決定の場に入ってもらいたい。

・女性が活躍するためには社会モデルのシフトを実現する必要がある。

男性は企業戦士、女性は母親として家庭を守るという分業の社会モデルを変えるということをこそ、安倍首相は言うべきだった。

女性も男性も経済と家庭の両方に関与することを前提とした働き方に移行する必要がある。社会が求めることが生き方にも関わってくる。

・これまでは長時間働くことがよしとされてきた。

共働き社会を実現するためには長時間労働を評価する価値観ではだめだ。

働き方改革のロジックはあっているが、これまで大切にしてきた価値観そのものの転換が必要であることを無視している。

・日本の過去の経済成長を支えた日本的な雇用慣行、新卒一括採用、終身雇用、年功序列等を変えていかなくてはならない。

・働き方改革の入口は女性活躍推進・共働き社会実現の妨げとなっている長時間労働の是正であったが、そこからさまざまに展開している。

・将来はAIが労働力の代替となる可能性も高い。

・また、人生100年時代と言われ、今までとは違うニュアンスで働き方が語られてきている。

・会社と社員の関係は対等な大人同士になるべきとも言われ、働く場所や時間を社員が自由に選べるユニリーバ・ジャパンや、積極的に兼業を認めるロート製薬など、多様な働き方を提唱する企業も出てきている。

2.私たちが未来を創る 

・自分たちが未来を創る、この流れは止まらないと確信している。

2006年に女性活躍の第一の波があり、2014年に転換点があった。

若い女性から働き続けなればならない意識に、早めにキャリアを積みたいという意識に変わっていった。そうなるとパートナーである男性の意識も変わる。共感者も増えていく。

・働き方改革・女性活躍推進の現状を氷山で捉えると、表層的に起きている出来事は根底にある氷山(社会通念や企業風土、価値観等)に支えられていることわかる。

社会全体がものの見方を変えて、新しい社会創りに貢献していく必要がある。まずは自分のマインドから変えて、周囲の近い人から一緒に変化を作っていこう。

・個人が幸せになる働き方改革を実現するためには、個人・企業・社会の3つの視点での改革が必要になる。

我々は選択してその場所にいるのだから、自分の人生に対して自分で責任を持たなくてはならない。働き方改革の根底には人々の自立が必要だ。

・どういう社会、何が幸せか、受け身ではなく自分で選び参加して作り上げなくてはならない。今までの社会を前提に自分のキャリを想像しない方がよい。

 

3.世界でも女性活躍推進

・サウジアラビアの状況の視察紹介。

サウジアラビアでは男性王国と同じように女性王国が存在し、それぞれ別々に生活している。女性たちは女性王国で日本女性より元気に生き生きと活躍していた。大学にも当然のように保育園もあって感動した。

・日本にはサウジアラビアのような女性王国はない。

男性王国のスペースを少し広げてもらい、小さくなって生きている状況だ。

・フェイスブックのCOOを務めるサンドバーグ氏が著書の中で、自信のなさや自制等女性自身の弱点について語っている。

成功している女性がわざわざ女性の弱みについて語るのは異例なことだ。

社会的風潮にも問題はあるが、女性自身が内側に作った心の障壁を克服し、一歩踏み出すことが重要だと指摘している。

・国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の中でも女性のエンパワーメントが重要項目に挙げられている。

ジェンダーの不平等をなくすことは倫理的に正しいだけではなく、地球的な成長に不可欠なことだ。

・グーグルはダイバーシティ推進の狙いはアンコンシャスバイアスを撲滅することして、社員の教育に取り組んでいる。

無意識の偏見が潜在的な能力を削いでいるのだ。

変わり続ける時代

文部科学教育通信 2018.03.26掲載

教育大変革期の中、教員には変わることが求められています。AI時代に突入する企業に働く人々も、次々と押し寄せる変革の波を乗り越えるために変わることが求められています。 VUCAワールドに活きる私たちは、どこで暮らしていても、誰もが変わることを求められ、変わり続けることが日常ということだと感じることが多いです。

人は変わり続けている

そんな中、教員は変われないとか、若者は変われるけど、年を取ると変われない等という人がいます。しかし、これは単なる思い込みで、正しくありません。私たちはみんな代わり続けています。最近、公衆電話を使う人はいませんし、インターネットに接続する経験がないという人も、少ないはずです。スマホで路線を調べたり、地図を見る人も多いでしょう。これは残念なことですが、新年を着物で過ごす人も、年賀状を書く人も、激減しています。私たちは、誰もが、時代の変化とともに変わり続けています。

人は変われない?

一方、突然、教員がプログラミングを教えてください、英語も教えてくださいと言われると、「できません」となり、企業の管理職が、育成のために人を褒めてくださいと言われると、「なかなかむずかしい」という声があがります。多くの場合、これらの変化は、これまで大事にしてきたこと以外のことを求められ、自分が否定されたような気持ちになる。あるいは、未知の世界すぎて、何をどこからどう始めてよいのかわからないので、現状のままでいたいという欲求がでてくるのでしょう。

変革プロセスの心理学

私がハーバードビジネススクールを留学したのは、日本がバブルの時代です。当時、アメリカの企業の多くはグローバル競争に負け苦戦していました。その中で、変革の推進が重要な経営テーマとなっており、様々な変革のアプローチが生み出されていました。その中に、心理学の視点で、人が変化を受け入れるプロセスを説明するものがありました。ドイツの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが提唱するフレームを企業変革に活用しています。変化は誰にとっても受け入れることが容易なことではありません。人が身近な人を亡くした際にその悲しみを乗り越えるステップを、企業変革に向かう人々の心の変化と重ねてみると、人々の心理を理解することが容易になります。変化は誰にとっても簡単に受け入れられるものではないのですが、それでも、変わるためには、一人ひとりが、この道筋を通りぬけなければなりません。

【変革の心理学】

 

グロースマインド

最近では、ポジティブ心理学の発展により、グロースマインドのように、前向きに変わるための心の習慣を幼児期から習得しておくことが大事といわれるようになりました。

グロースマインドは、キャロル・ドゥエック氏により提唱され、グーグルをはじめとする多くの企業で実践が広がり、子育てや教育にも活用が広がっています。困難に直面したり、成長の機会に遭遇した時に、グロースマインドを持つ人は、前向きにチャレンジを受け入れることができますが、フィックストマインドを持つ人は、チャレンジを避けようとし、成長の機会を自分のものにすることができません。変化の時代においては、グロースマインドを持つことがより重要になります。課題に直面した際に、できない理由を探すのか、できる理由を探すのかで、未来は大きく変わります。できる理由を探し、前に進み、時には人の助けを得ながらも、ゴールに到達する成功体験を持つと、それは次の挑戦の勇気になりますから、グロースマインドを持つ人は、ポジティブなサイクルがどんどん回転します。しかし、できない理由を探し、現状維持を選択する人は、次のチャレンジでも、同様に現状維持を選択するため、変化することに対する心の壁はどんどん高くなってしまいます。こうして、変われないことを受け入れてしまうと、変わることが不可能のように思えてきます。しかし、グロースマインドを意識すれば、誰もが、変わることができるというのが、今日の常識です。

心理的な安心安全

最近は、企業においても心理的な安心安全な場を創ることが大事と言われるようになりました。20年前には、安心安全というキーワードは、今日のように頻繁に取りざたされることはありませんでした。それだけ安心安全ではないという現実があるのだと思います。同時に、これまで以上に、心理的な安心安全が重要になってきているということを意味しているともいえます。変化の時代に、誰もが変わること、成長することを求められ、ビジネスにおいてもイノベーションが求められます。変わることもイノベーションもどちらも、アクションにはリスクが付き物です。最初から成功するときばかりではありませんが、試行錯誤することで、人は成長するし、イノベーションも生まれます。人々が安心して、建設的にリスクをとるためには、安心安全なスペースが必要であることは間違いありません。

心理的な安心安全には、2つの要素があります。一つは、自分自身が、素の自分を出すことを自分に許可できること、もう一つは、素の自分を出しても、他者が自分を受け入れてくれる安心感です。イノベーションを促進することに情熱を注ぐグーグルでは、心理的な安心安全を実現しているチームは、誰もが議論に参加し、同等に発言していると言います。そして、このようなチームの方が、誰か一人が牽引しているチームよりも良い成果を出していると言います。

教育改革

時代の変化に合わせて教育改革が進む中、教員に求められることが変わり始めています。教員は、現場で子どもたちの教育に責任を持ちながら、同時に、変化を求められるというとても難易度の高いチャレンジに直面しています。この変革が成功するか否かが、子どもたちの未来の幸せを決定付けます。現場には、変化を先取りする教員も、これら始める教員も、抵抗を示す教員もいます。同様に、変化に賛同する親も、批判的な親もいます。この環境の中で、チャレンジを始めるのはとても勇気のいることだと感じます。これから始まる改革が成功するか否かは、教員が心理的な安心安全を感じられる環境を、社会が創れるかどうかにかかっているのではないかと感じています。

誰もが変わり続ける時代に、お互いの成長を応援する心を大切にしたいです。

楽しく学ぶ

文部教育科学通信 2018.02.26掲載

ビジネス研修の中でも多くの人にとって最も楽しみにくいテーマの一つに、財務会計があります。もちろん、数値を扱うことが大好きで、財務会計を楽しく学んだ経験を持つ方もいらっしゃると思いますが、一般的には、「楽しい!!」と叫んでいる人に、あまりお会いしたことがありません。

そんな財務会計を、楽しく学ぶ教育プログラムの魅力を、学習理論の観点から捉えてみました。

 

経営シミュレーションゲーム

 

アメリカで生まれ経営シミュレーションゲーム インカムアウトカムに出会ったのは、今から、20年前のことです。世界中で企業研修にこのゲームを使用しているフランスの企業から、日本語化を依頼されました。

この企業では、工場現場から本社まで全ての人たちが、財務的な共通言語を持つためにこのプログラムを活用しています。

最初にこのプログラムを実施した際の驚きは、忘れることができません。財務会計という学ぶために忍耐の必要なテーマを、これほどまでに楽しく学ぶことができるのか!!! 日本語化されたこのプログラムは、国境を超え、今では日本でも人気のプログラムになっています。

このプログラムでは、6つのチームに分かれて、会社経営を行い、経営の意思決定と財務諸表の関係について学びます。決算を繰り返す中で、自然に財務用語を学び、損益計算書、貸借対照表、キャシュフロー計算書の3つの財務諸表が理解できるようになります。企業の実際の決算ほど細かくはありませんが、基本となる会計用語とその概念が理解できるようになりますので、実際の決算報告書を理解する力が習得できます。 興味深いのは、財務というレンズを手に入れることにより、これまでのビジネス上の経験に基づく気づきがたくさん現れてくることです。

製造部門にいる方が、なぜ営業が我々の製造する高品質な商品の値段を下げてしまうのか、その理由が解りました。なぜ在庫を減らす必要があるのか解りました。経営者の苦労が解りました等々、自分の役割を超えた視座を手に入れることができます。

座学の2日間のプログラムでは、ケーススタディのアプローチを活用しても、ここまでの気づきを得ることは容易ではありません。これが楽しく学ぶ効果なのだと思います。この学びの体験に久しぶりに触れ、マルチプルインテリジェンス理論に通じることに気づきました。

 

マルチプルインテリジェンスとエントリーポイント

 

日本教育大学院大学時代に、日本MI研究会 Japan MI Society 会長の上條雅雄氏にご講義いただいたマルチプルインテリジェンスの講義からマルチプルインテリジェンスと学びの入り口(扉)の概念をご紹介します。

人のインテリジェンスは、IQに代表される言語、論理的・数学的な2つのインテリジェンス以外にも6つあり、その相対的な強さと弱さの組み合わせから成り立っていると言われます。8つのインテリジェンスとは、言語、論理的・数学的、音楽、空間的、身体・運動感覚、博物的、対人関係、内省的インテリジェンスです。

 

教育へのアプローチ

マルチプルインテリジェンスを発見したハワード・ガードナー教授は、教育へのアプローチの最も大きな可能性はインテリジェンスのプロファイルの概念から発展するといいます。

8つのインテリジェンスに合わせて「8つの異なるレッスン」を組む必要はないといいます。一人ひとりの「インテリジェンスの組み合わせ」を育くむ、豊かな学ぶ経験の場を設計することが大切だといいます。

いかに豊かな、ためになるテーマでも、どのような教える価値のあるコンセプトでも、人は、いくつかの異なる仕方で近づくことが出来ると言います。テーマは同じでも、そのテーマに入る快適な入り口はインテリジェンスにより異なります。マルチプルインテリジェンス理論では、この入り口を、エントリーポイントと呼びます。

 

エントリーポイント(扉)

  • 説話的エントリーポイント : 物語や話すことで課題のコンセプトを伝える。
  • 論理的エントリーポイント : 論理的プロセスに訴えて、コンセプトに近づく。
  • 量的エントリーポイント : 数量や数量的関係をあつかう。
  • 根拠的エントリーポイント : そのコンセプトの哲学的、述語上の面を考察する。 <なぜ>のような質問に向く。
  • 審美的エントリーポイント : 生活経験に対して芸術的スタンスを好む学生の心に訴え、少なくとも注意を引くような知覚や外観上の特徴に重きを置く。
  • 経験的エントリーポイント : コンセプトを具体化したり、伝える材料を直接扱う<hands-on アプローチ>と良く習得出来る。
  • 共同制作エントリーポイント : 他の同僚と心地よく勉強する学生はグループ活動などから大いに学び、その中で各自がグループ内で個性を発揮して貢献をする。

 

※引用:上條雅雄氏ご講義資料

 

マルチプルインテリジェンス理論に基づけば、熟練した先生とは、同じ概念(コンセプト)に異なる複数の窓を開けることが出来る人であるということになります。

 

複数のエントリーポイント

論理的、量的、根拠的、経験的、共同作業の5つのエントリーポイントが先に紹介したプログラムには確実に含まれています。視覚的に物事を捉えるために用意されたツールを考えれば、審美的も含まれる可能性があり、会社が発展する経営は、説話的とも言えます。そう考えるとどのようなインテリジェンスの持ち主にも、扉が用意されていると言えるのでしょう。

 

 

理解の4本足 ハーバード教育大学院で行われている理解のための研究では、学校教育の、教育の課題を馬の4本足にたとえて紹介しています。本当の理解には、目的、知識、方法、形式の4本足が必要で、知識だけの1本足では、馬は走ることができないと言います。

 

Purpose(目的)

  1. 知識を活用する目的の意識
  2. 知識の多様な使用とその結果の認識
  3. 主体性と自主性

Knowledge(知識)

  1. 変換された直観的信念(教わったのではない生来の信念は学校教育の幾年後においても強固である)
  2. 理路整然とした豊かな概念体系

Method(方法)

  1. 健全な疑念
  2. 領域内の知識の構築 (その領域の専門家ならどう考えるか)
  3. 領域内の知識の正当性の認定

Form(形式)

  1. 実践ジャンルの専門的技能(知識)
  2. シンボルシステムの効果的使用
  3. 受け手と文脈への配慮

 

※引用:上條雅雄氏ご講義資料

経営シミュレーションゲームの学びが、なぜ楽しく、かつ、深い理解につながっているのかを、エントリーポイントと、馬の4本足に照らして考えるととても解りやすいです。

 

目的

ゲームを通して、意思決定を行う中で、財務会計はなくてはならない知識であり、自分たちの意思決定の評価指標となるため、良い経営を行う手段として財務会計の知識が不可欠なものとなります。学ぶ目的は、財務会計そのものではなく、よい経営であり、その手段として不可欠な知識が財務会計ということになります。

 

知識と方法

ボード上に人生ゲームのように表される財務の結果は、視覚的にも解りやすく、財務会計の専門家がゲームに参加しても感動するほどの精度であり、初心者でもわかるシンプルさがあります。数値に慣れている人も慣れていない人も、同じ目線で議論に参加できる環境が整えられています。その結果、財務会計の知識、経営判断の財務的インパクト、自らの仕事への活用について学ぶことができます。

 

形式

経営の意思決定の結果は、数値で表され、6社の経営判断の違いが、どのような財務的な成果につながっているのかを知ることができます。意思決定の結果を決算として表し、他社の結果との比較を行うというゴールが明確なことも、学びを促進する理由なのでしょう。

 

マルチプルインテリジェンス、エントリーポイント、理解の4本足を通して、経営シミュレーションゲームを眺めていると、なぜこのゲームが楽しいのかがよく理解できます。これらの理論が、学校教育のみでなく、成人教育にも当てはまる大事な理論であることを改めて実感しました。

テクノロジー革新により、誰もが自分のエントリーポイントに合わせた学びを手に入れる日は、そう遠くないことを願いたいです。

イノベーションの機運

文部科学教育通信 2018年2月12日掲載

「先が見えない時代だ」「どこに向かって良いかわからない」そう語りかけてくる方が多いのですが、そんな方にいつもこんな質問をします。「現状に、課題はないですか」すると、多くの場合、「課題だらけだ」という答えが返ってきます。そこで、次に私がお伝えするのは、「そうであれば、未来は見えています。その課題が解決された未来が、あなたが望む未来です」

 

この10年間、海外に視察や学びに出かけると、「この課題を解決するために、私に何ができるのか」この思考パターンを持つ人に多く出会います。

 

ハーバードビジネススクール

2008年に、ハーバードビジネススクールの100周年のイベントに参加しました。リーマンショックの1ヶ月後に行われたイベントでは、「てるてる坊主に、お天気のことは祈ってけれど、経済の天候については祈るのを忘れてしまった!」というジョークから始まり、ビルゲイツをはじめとするリーダーたちが登壇し、ビジネス界の未来についての議論が行われました。その時に、本当に自分の耳を疑いましたが、登壇者は、口々に、「富の格差が問題だ」、「退任する経営最高責任者が法外な退職金をもらい、ギリギリの生活をしているスタッフ社員には、失業中の生活を保障するだけの退職金が出ないのはおかしい」、「実態経済と、金融経済の乖離が問題だ」、「富の格差はなくさなければならない」などの発言をしていました。リーダーたちのこの発言は、リーマンショックが起こる前、そして起きてから、彼らがどのような議論を行なっていたのかを表しています。しかし、「あなたたちが作ってきた社会システムですよね!!」と心の中で叫んでしました。

 

ハーバードビジネススクールは、リーマンショックの後すぐに、リーダーシップ教育について新たな指針を打ち出しました。これまでは、責任を持つ組織の利益の最大化が強調され過ぎていたかもしれないと反省し、これからは、組織における意思決定が社会や世界に与えるインパクトにおいても責任を持つリーダーを育てることを我々の使命と述べています。

 

 

課題解決の機運

欧米のリーダーたちは、リーマンショック以降、自らが創り出した社会システムの課題解決に向かいます。日本では、それから数年に渡り、アメリカ型資本主義には問題があるという議論が続きます。「日本企業も、その資本主義に参画し、第2の経済大国にまで上り詰めたのに、なぜ、そこで、アメリカ型と述べ、自らの資本主義を振り返らないのか」ととても違和感を感じたことを覚えています。

 

残念ながら、欧米のリーダーたちが努力をしても、金融資本主義は止まることを知らず、世界の富の格差はリーマンショック後も、さらに拡大していることは問題ですが、そんな中、この課題解決に従事する人々や団体が拡大していることも事実です。

 

国連は、2015年に持続可能な開発目標を掲げ、世界的なアクションを促進しています。地球上の誰も置き去りにしないことを目標に掲げ、貧困や教育、環境など17のテーマを掲げ、企業や政府、NGOやNPOの活動を促進しています。ユニリーバをはじめとする多国籍企業も、事業活動を通して、貧困などの社会問題を解決する事業戦略を構築しています。ユニリーバの行動計画には、2020年までに、10億人の暮らしを豊かにすること、環境負荷を半減する目標が含まれています。社会起業家をネットワークするアショカは、社会問題の解決に従事する世界中の社会起業家の活動を通して、社会起業家の育成と、世界の社会問題解決力の強化に貢献しています。

 

イギリスでは、社会的なインパクトに対して投資を行うソーシャルインパクト投資という考え方が生まれ、今では、日本をはじめとする世界の金融業界の取り組みに発展しています。欧米の大学生は、温室効果ガス排出量の多い石炭関連企業に投資をしないカーボンダイベストメントという考え方を生み出し、その考えを世界に広めました。投資が未来を創るという発想は、金融業界の ESG(環境・社会・ガバナンス)投資という考え方に発展し、欧州では、投資全体のESG投資に占める割合が、5割を超えています。

 

イノベーションに向かう

 

 

今日、世界では、かつてないほどイノベーションが加速していると感じます。テクノロジー革新と、人々の課題を解決したいという衝動が原動力となり、地球規模での協働が可能になったことが、その背景にあるのではないかと思います。

 

2003年に打ち出されたOECDの教育方針も、イノベーション人材の育成を念頭に置いており、デンマークでは、小学生からのアントレプレナー教育も始まっていました。テクノロジーを活用することが可能な今日、莫大な資本がなくても、誰でも、問題解決に参加できる時代です。クラウドファンディングを活用すれば、良いアイディアを持つ個人が資金を集められる時代です。10代でも、問題解決に参加することが十分可能です。

 

以前、米国のブラウン大学の卒業式で聞いた学長のスピーチを思い出します。

壇上で祝辞を述べる学長や教授たちは、自分たち大人世代が解決に望みながらも失敗してきた環境をはじめとする社会問題に触れながら、卒業生に、世界で最も困難な課題に人生を捧げる覚悟を求めていました。「問題を見つけるだけでは不十分だ」(Problem-spotting is not enough)という言葉には、学生時代のように問題を見つけたり分析したりしてエッセイを書いているだけでは世界を変えることはできないという強いメッセージが込められていました。

 

問題を発見し、分析し、解決するために行動する。課題を直視し、自らを振り返り、課題解決のために何を変える必要があるかを考える。イノベーションの前提には、とてもシンプルでパワフルな思考パターンがあります。課題を解決したいという衝動が、前例のない解決方法を見出す創造活動に発展し、イノベーションが生まれます。多くの場合、一人では、解決策を見出すことができないため、必要な関係者との協働を通してイノベーションが生まれます。

 

日本では

日本に目を向けても、課題は山積みです。増え続ける社会保障費と国の財政問題、企業の低い生産性、労働人口の減少による人材不足と市場の縮小、グローバル経済の発展と日本企業の位置付け、環境エネルギー問題と原発の行方、安全保障問題等々。地域に目を向ければ過疎化の問題も深刻です。

 

これだけ課題にあふれているのに、なぜ、日本ではイノベーションの機運が高まらないのでしょうか。「日本は、行くところまで行かないと変われないんだよ」という多くの大人に出会います。

 

世界では、多くの若者が、困難な課題に挑戦することを楽しんでいます。リーダーも、その活動を支援し、成功の可能性を高めるために力を貸します。「お手並み拝見」という考えはありません。日本では、困難な課題に挑戦する人が圧倒的に少なく、課題の大きさに不安を覚え、立ちすくむというのが現実です。

その背景には、大人や社会が、そのアクションを歓迎し、支援していないという現実があるのではないかと思います。結果的に、引かれたレールをスマートに走る方が、賢い生き方という社会通念が存在しているのかもしれません。

今、そのレールさえも先がないと思える人々が増える中、立ちすくむ人々が増えているのかもしれません。

未来を見たければ、未来を創っている人の世界を覗くか、自ら未来を創ることに参画することだと教えてくれたのは父です。困難なことはたくさんありますが、善い未来に少しでも貢献したいと思います。

人一生の育ちプロジェクト

文部教育科学通信 2108.01.29掲載

未来教育会議では、現在、人一生の育ちプロジェクトに取り組んでいます。世の中は分断されており、私たちは生まれてから、家庭、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、企業、社会、塾や教室等々と、様々な場所で育つ機会を得ています。しかし、「私」の一生の育ちを全体としてプロデュースしてくれる他人はいません。人生100年時代に、人一生の育ちを自分事として考えてみよう。そんな思いでプロジェクトがスタートしました。

 

人一生の育ちを考える理由

  • 私たちは、どれだけ人の育ちについて知っているだろうか。親は、子どもの教育を考え、学校を選んではいるが、子どもの発達や、人間の成長についてあまりにも無知である。

 

  • 人生100年時代になり、死ぬまで学び続けることが、「現状を維持する」ために必要な時代に、成人は、子ども時代のような好奇心や学ぶ力を維持できているだろうか。

 

  • VUCAワールドにAIと共に生きる我々は、テクノロジーと共創するために必要な意識のレベルと、パラダイムシフトを起こす思考力を備えているだろうか。

 

  • 自分を活かす人生の目的を見つけ、その目的を通して社会に貢献するために、学び続ける力がこれまで以上に重要になることを私たちは認識する必要があるのではないか。生きることは学ぶことであると言い切っても間違っていないのではないか。

 

  • 自律的に学び続ける人が幸せになる時代だからこそ、子どもには、幼児のころから良質な学び体験をたくさんさせてあげて、自分を知り、育て、学ぶ喜びと楽しさを体一杯に感じさせてあげることが、なによりも大きな宝物になるのではないか。

 

  • 自分という人生で最も高価な「所有物」を大切にすること、活かすことができる成人をたくさん増やす環境を創ることができれば、それが最もパワフルな教育なのではないか。

 

  • 良質な学び体験を子どもの頃から積み重ねていくことで、VUCAワールドに必要なグロースマインドを育むことができるのではなだろうか。

 

育ちについての誤解

育ちについて専門家のお話を伺う中で、社会の中には、たくさんの誤解があることに気づきます。その一部をご紹介します。

 

主体性を育むことが大切ということは、誰でも認めることですが、幼児期に子どもたちが遊びを選ぶことが、主体性の形成に大きな影響を持っているという認識を持つ親はあまり多くないのではないでしょうか。秋田喜代美先生の講演で、行動の主体である主体性の感覚の重要性という言葉を教えていただきました。幼児期の遊びが、自己決定力、自己効力感を育むという認識を持ち親として子どもに関わればよかったと反省しています。

 

人間の知能は、IQだけでは語れないというのも大事な学びです。1970年代には世界中の教育学者の通説となったマルチプルインテリジェンスでは、IQ(言語、数学・理論)以外にも、身体、空間、対人、内省、音楽、自然の6つの知能が並列に並びます。人のインテリジェンスは、その組み合わせでできています。オランダの幼稚園にいくと、インテリジェンスごとに遊びのコーナーが用意されていて、子どもはコーナーを選ぶことで、自分のインテリジェンスを見出すことができます。オランダの幼稚園では、計画を立てて遊ぶので、毎日何を選んでいるかを先生も知ることができます。先生は、子どもが自ら選ばない遊びを試してみるように促すことも容易です。

 

学力

学力についても大きな誤解があります。学力の遅れは通常小学校高学年で顕在化します。しかし、遅れは乳幼児期から始まっている場合が多いです。言語活動や社会的・情緒的発達の遅れが、学力の遅れにつながっているからです。貧困による教育格差の問題を解決するためには、本来、小学校や中学校で学習支援に取り組むよりも、乳幼児期からの発達を支援する方が、本人も苦労なく育つことができるという認識を持つ国々では、乳幼児の発達に国家予算がしっかりと配分されていて、すばらしいと思いました。

 

多様性

オランダでは小学校6年生で小学校卒業試験に不合格の場合、落第することがあります。小学生なのに、そんなに厳しくしなくてもと思ってしまいますが、実は、中学生になる方が、その子の人生を考えるともっと厳しいという認識を持つ必要があります。なぜなら、小学校の遅れを抱えたまま、中学生になっても、その遅れを取り戻すことは難しく、中学校での学びを手に入れることができず、結果的に、義務教育が求める発達の水準に到達しないまま、成人になってしまうことになるからです。ダイバーシティの時代に、子どものインテリジェンスと発達のスピードが多様であるということを、すべての大人たちが認識し、子どもたちの発達を見守る社会を創りたいです。

 

子どもの尊厳と発達

女・子どもという表現がありますが、私たちの社会は、子どもの尊厳をあまりにも軽視しています。子どもは、生まれたときから完全な人間であるという認識を持ち、子どもを不完全なものとして扱わないことがとても大事です。同時に、子どもだからと過保護にすることも間違いです。自分で考え、自分で決めて、自分で行動し、結果に責任を持ち、経験を通して学ぶという一連の経験学習サイクルを通して、自律的に学習できる人を育てる関わりを増やしていくことが大切です。大人に感覚のずれがあるために、主体性や自律心を育めないばかりか、日本では、子どもたちの自己肯定感や自己効力感を育むことに失敗しています。

 

自分の心

学校教育は発達において大切な役割を果たす一方、一番大きな欠陥は、自分(の心)を大切にする力を育めていないことです。自分の気持ちを認知し、人に伝えることや感情をコントロールすること、他者の気持ちを理解して共感するという人間の根幹ともいえる力を育むことが軽視され、感情停止状態で、先生や親の期待に答える訓練を繰り返し成人になります。そのため、学力や知識を多く習得していても、それを自分らしく活かすことが困難な状態になります。そんな中で、就職活動の時だけ、自分らしさを表現することを求め、入社後は、我慢を求めるという矛盾した要求をしています。

 

コミュニケーション力

先日、ある企業の研修でIT技術者の人たちが、「コミュニケーションってなに? いらなくない!」という話をしていました。OECDのキーコンピテンシーは、義務教育の間に、誰もが多様性の中で対立を乗り越え、合意形成を行い、共創する力を育む必要があると定義しています。それが個人と社会が成功(幸せ)を手に入れるために必要だからです。どんな職業に就く人にも必要な力です。IT技術者の若者たちの話しを聞きながらそのことを、私たちは、子どもたちに伝えられていないことをとても残念に思いました。学力を向上させるための塾はありますが、コミュニケーション力を育む塾はなく、学校教育がしっかりと引き受けていかなければならないことだと思います。

 

思考力

オランダのピースフルスクールというシチズンシップ教育で、幼児、小学生、中高生の発達に関わっています。この教育プログラムを受けた小学生とオランダで話をした時に、人間の質感として、自分が小学生に負けたという敗北感が、この教育を日本に広めようと考えたきっかけです。実際に、子どもたちに展開してみると、日本の幼児も小学生も、大人顔負けの落ち着きを持ち、自分の気持ちや考えを述べることができます。幼児が、誰かに自分の気持ちや考えを伝えたいという欲求を持っていること、同時に、自分の考えを持っていることに気づきます。思考力を磨くためには、対話が必要です。先生や親の求める回答ではなく、自分の気持ちや考えを述べる訓練を小さいころから行うことがいかに大切かを実感しています。

人一生の育ちを自分ごととして考える対話イベントを、3月26日、27日に開催される東京国際教育際で実施する予定です。ご参加お待ちしています。

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