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大学への期待 10年前のリアル熟議から

2020.10.26 文部科学教育通信掲載

大学は、もういらない?

今から10年前、慶応義塾大学で、リアル熟議に参加した。リアル熟議とは、官だけでなく、

市民、NPO、企業等多様な当事者が共助の精神で支え合う「新しい公共」の実現のために、文科省が始めた取り組みです。当時、日本中で、教育をテーマに様々な熟議が展開されていたことを記憶しています。

私が参加した熟議は、慶応義塾大学日吉キャンパス来往舎で開催され、大学生、高校生、経営者、企業人事担当者等が参加し、大学入試制度、大学内の学習・研究・活動、就職と進学等について、議論が行われました。鈴木寛文部科学副大臣、「熟議」に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会の金子郁容座長、田村哲夫副座長も参加され、文部科学省からも10名の出席者がいたと記憶しています。

熟議のテーマは、「大学は、もういらない?~私たちと大学はいかにあるべきか~」と刺激的です。私は、当時、ティーチフォージャパンというNPO活動に参加しており、大学生ボランティアと協働することも多く、息子も大学生だったので、大学入試制度、大学内の学習・研究・活動、就職と進学の3つのテーマの中から、大学内の学習・研究・活動をテーマに選び、ディスカッションに参加しました。グループには、優秀な大学生や高校生と共に、私たちのような大学や大学生に関心のある社会人が参加していました。

教授と学生のWin Win

受験戦争を勝ち抜いてきたエリート大学生の正直な声に、衝撃を受けました。

  • 僕らは、〇〇大学卒の学歴に授業料と4年間を投資にしているだけで、教育を受けに大学に行っているのではない。
  • 教授は教師というよりは研究者で、執筆した教科書を読んでいるだけという授業も多く、ほとんどの学生はただノートをとるために講義に出ている。
  • 就活で出会う社会人は、大学時代に遊んでいた自慢話ばかりで、そもそも、大学教育に意味があるのか、だれも分かっていない気がする。

大学の学生にとっての存在理由は、優良企業に就職するための資格取得であり、大学生活は、彼らにとってのモラトリウムであることが解りました。

高度経済成長期に確立した幸せな人生を生きるための方程式は、受験戦争を勝ち抜き高学歴を取得すれば、大企業に就職することができ、豊かな人生が保証されるというものです。当時は、まだ、大企業に就職し、定年まで働き続けるという考えが主流でしたし、企業では、24時間働くことも期待されていましたから、大学時代が、人生最後のモラトリウムという考えにも共感を覚えます。この状況は、大学教員にとっても好都合で、教育に力を注ぐ必要はなく、講義以外の時間は、研究に没頭することができました。しかし、この高度経済成長期に形成されたWin-Winの構造は、過去のものと云えます。

ライフシフト

「ライフシフト」の提唱者でロンドン・ビジネススクールの教授リンダ・グラットン氏は、人生100年時代には80歳まで働くことになるといった試算を紹介しています。

これまでは、人生を、「勉強」「仕事」「リタイヤ」という一方通行の三つのステージで区切る生き方が主流でしたが、人生100年時代には、「探索」、「創造」、「同時進行」、「移行」の四つステージを組み合わせていくことが人生を幸せにするのではないかと提案しています。

  • 「探索」のステージ:長い人生を豊かに生きるために、旅に出て充電したり、自分をもっと理解したりする時期
  • 「創造」のステージ:起業など、自らの仕事を自分で創造する時期
  • 複数のことを「同時進行」のステージ:仕事の量を少し抑えて、子育てや地域活動や、芸術活動等に時間を費やす時期
  • 「移行」のステージ:仕事を変えたり、変身を遂げるための準備期間

 「ライフシフト」は、私たちに様々な選択を突きつけます。また、受験戦争に勝ち抜いたこと、優良企業に就職したことは、一時期の成功を保証しても、生涯を通しての人生の成功を保証することはないでしょう。変化する時代の中で、世の中に貢献し続けるためには、生涯を通して学び続ける習慣も、とても大切なものになります。この時代の変化に合わせて、大学への期待も変わります。

大学の使命とは

システム思考では、今、起きている現実は、大きな氷山に支えられていると考えます。氷山モデルは、過去からの経緯、現実を支えている構造、人々のものの見方や社会通念の3つの要素で構成されています。その中でも、人々のものの見方や社会通念が、現実を創り上げる上で大きな影響を与えていると云われています。

現在、受験制度の見直しが進められています。受験制度が変われば、高校生の学習スタイルも変わり、大学への期待も変化することになります。しかし、もし、当事者である受験生とその親、大学生が通う大学の教職員、就職先である企業、塾産業が、高度経済成長期に形成されたものの見方に固執するのであれば、受験制度を変革しても、理想の姿を実現することは難しいです。

リアル熟議に参加した2010年には、ハーバード大学のファウスト元学長が来日し、私も、歓迎パーティに参加し、お話を伺う機会を得ました。その際に、ある卒業生が、「大学は、学歴以外に何を提供しているのか」という問いかけをしました。その問いに対して、ファウスト氏が、「大学が提供するのは、表面的なブランドではなく、リベラルアーツの過程で将来人間として有意義な人生を生きるためのツール(道具)を提供することだ」と明言されたことがとても印象的でした。大学での学びを通して、ツール(道具)を手にいれるためには、教員も、学生も、真剣勝負で臨まなければなりません。

大学が使命を果たすためには、アドミッション(入学)、カリキュラム(教育)、ディプロマ(卒業資格)の3つのポリシーの一貫性を見直す必要があります。受験制度の見直しは、それだけでは意味がなく、カリキュラムとディプロマの3つのポリシーの見直しを進めることが大切です。カリキュラムの充実においては、ファカルティデベロップメントも重要な役割を果たします。小・中・高の教育改革が進み、アクティブラーニングに慣れ親しんだ大学生には、ワンウェイで講義を聞き、ノートを取る大学の授業に耐えることはできないでしょう。コロナ禍で進んだオンラインの活用をさらに推し進めるのであれば、インプットだけの講義は、オンデマンドで聴くことができますから、反転授業を取り入れ、講義の時間を対話やディスカッションに活用することも可能です。学生の学習体験をどう充実させていけるかは、これからの大学の大きなテーマです。

クワトロヘリックス(大学・研究機関、市民、企業、行政の連携)

大学には、もう一つ重要な期待があります。それは、社会の知識創造のプラットフォームとしての役割です。ドイツやデンマークを訪れ、クワトロヘリックスという考えを学びました。クワトロ・ヘリックスとは、様々な異なるステイクホルダーが問題解決に関わりながら、共にイノベーションを起こしていくというもので、国家戦略に基づく地域開発、都市開発の基盤となる考え方です。クワトロヘリックスにおいて、大学・研究機関は、知的創造のプラットホームとしての役割を果たします。

有意義な人生を生きるためのツール(道具)を提供する大学、社会の知的創造のプラットフォームの役割を果たす大学が増えることを期待したいと思います。

システム思考を学ぶ理由

2020.09.28文部科学教育通信掲載

昨年から、昭和女子大学昭和こども園の年長さんにシステム思考を学ぶレッスンを実施しています。今年も、9月からスタートするレッスンに向けて、保護者の皆様に、映像メッセージで、幼児がシステム思考を学ぶ理由についてお伝え致しました。

幼児期からの習慣化

こちらは、システム思考者の習慣 子ども版です。システム思考者の習慣は、前例のない時代を生きる上で、私たち大人にも不可欠な力であると云われ始めています。そして、世界では、幼児期から、システム思考者の習慣を身に付ける学習が始まっています。

アメリカでは、各州独自の学習指導要領を作成していますが、アマゾンやマイクロソフトの本社のあるワシントン州では、幼児期から段階的にシステム思考を学ぶことが、学習指導要領に記載されています。

私たち人類が直面する課題が、単純ではなく、一生懸命問題解決に取り組んでも、問題を解決することができなかったり、問題に対処した結果、新たな課題をうみだしたりすることもあります。そうならないためには、誰もが、物事の部分ではなく全体をととらえ、物事のつながりを理解する力を育むことが必要になります。

赤ちゃんはシステム思考者

赤ちゃんは、泣いて、おなかがすいたことを親に知らせる等、システム思考を生まれた時から活用しています。しかし、従来の学校教育は、システム思考を必要とせず、本来、子どもたちの中にあるシステム思考を眠らせてしまい、大人になった頃には忘れているというのが、私たち大人の現実ではないかと思います。

この思考習慣を大人になってから学ぶのはとても大変なことですが、子どもの頃から馴染んでいれば、簡単に行うことができます。

世界の教育改革

世界の教育改革は、2003年に本格化しました。OECDがこの年に発表した教育指針は、日本の教育改革にも大きな影響を与えました。その狙いは、変化複雑相互依存の時代を生きる力を、学校教育で、子どもたちが手に入れることです。そのため、学校教育には、多様な利害関係者と協力し、複雑な問題を解決する力を育むことが求められるようになりました。そして、全ての能力を支える核となる力として、リフレクション(自己内省)の重要性が謳われるようになりました。システム思考は、リフレクションを行う上でも、重要な役割を果たします。

こちらは、OECDが発表した学びの羅針盤2030です。2003年に発表した教育指針をさらに発展させ、学び手が人生を歩む上で羅針盤となることを願い、作成されました。学びの羅針盤では、新たな価値を創造する力という言葉が加わり、仮説を持ち、行動し、リフレクションを通して正解を見出すという行動様式も加わりました。また、システム思考やデザイン思考の重要性も、明記されています。

従来は、高い学力が人生の幸せを保証しましたが、これからは、学力は土台であり、基礎知識を活かし、自ら問いを立て、学び、前例のない問題解決に挑戦する力が幸せを保証することになります。システム思考の習慣は、そのために、必要なものです。

子どもの発達

こちらは、ハーバード大学子ども発達センターが発表している遂行能力の発達に関するグラフです。4歳から5歳にかけて著しく成長し、小学校6年生になると、成人とほぼ同じレベルに到達します。大人になる土台が、この時期に育つのだとすれば、幼児期から、小学校高学年になるまでの間に、システム思考を磨く機会を得ることができれば、生涯活かせる思考力になるはずです。

学校の学びは、評価できなければいけないという使命感から、数値で測定できない学びは、学びとして認められないというものの見方が主流となっています。このため、心の教育は、目に見えない、曖昧なものとして置き去りになります。

システム思考の学びも、心の教育同様に、短期的な成績を上げる効果はありません。しかし、物事の繋がりを探し、時系列で起きた事柄を因果関係で結び付け、その事柄に意味付けをする力や、過去から現在を眺め未来を想像したり、予測したりする力が身に付きます。その結果、内省力、問題解決力や創造力も高まります。

目に見えないもの

世界は、無数の要素が絡み合って現実を創り上げていますが、この無数の要素の中から、重要な要素を選択し、原因と結果の関係を理解することで、根本原因を突き止め、課題を解決するためには、システム思考が欠かせません。システム思考が問題解決に活かされている今日の代表例は、地球温暖化や環境破壊についてです。専門家たちは、マサチューセッツ工科大学のジェイ・フォレスター教授により開発されたシステムダイナミックスという手法を使い、シミュレーションを行います。

システム思考の習慣を持つ人は、目に見える事象は、目に見えない大きな氷山に支えられており、そこに根本原因があるいると云います。システム思考者の習慣がなければ、目に見えないものはその人の目には存在しませんから、対処療法的に、問題に対処することしかできません。このため、一時的に問題を解決することはできるかもしれませんが、その問題を、根本的に解決することができません。

地球規模の問題解決

2006年に、「システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006」に参加されたシステム思考の専門家 小田喜一郎氏が、チェンジエージェントのHPで紹介している記事を引用致します。

地球温暖化問題を、「システム」として考える上で、重要なポイントが3つあります。「ストックとフローの構造」、「フィードバックの構造」、そして、「時間的遅れの構造」です。京都議定書にある1990年比で5~7%ほど二酸化炭素などの地球温暖化ガス排出量のフローを削減しても、大気中の二酸化炭素濃度(ストック)は増え続けること。また、温度が上昇し、ある閾値(てぃっピング・ポイント)を超えると、アック循環のスイッチが入って止められないほどの休息な勢いで温度が上昇すること。そして、今すぐ行動を取り始めても、自動車や家電、工場設備といった家庭や産業にある二酸化炭素を排出するものを十分効率的なものにお子変えることで排出量削減の成果をだすためには10年単位の時間を必要とし、さらに二酸化炭素濃度序章の温度への栄養を止めるには約30年の遅れが生じること。

システム思考者が増えることが、人類と地球のよい未来につながることを信じて、システム思考教育に取り組みたいと思います。

人と組織は変われる

2020.09.14文部科学教育通信掲載

「人と組織は変われない」と信じている人がとても多いように思います。私も、長い間、「人と組織は変われない」と信じていました。皆さんは、どうですか。

リフレクション(内省)力を高める方法を学び、今の私は、私の考えは変わりました。「人と組織は変われる」と断言できます。そして、皆さんにも、「人と組織は変われる」ことを、信じ始めて欲しいと思います。

長い間、変化を促進する仕事に取組み、「人は変われない」というコメントを何万回聞いてきました。そう信じることで、自分が変わらない正当な理由ができるので、「人は変われない」という神話は、変わりたくない人にとって、とても都合のよいことです。同様に、「僕たちは逃げ切れる」という言葉もよく聞きました。この言葉の裏側には、未来に対する危惧する様子が伺えます。変わる必要性は認識しているが、我々は変わらなくてよいと述べているのだと思います。

 原発事故で学んだこと

東北大震災に向き合う日本人は、世界から賞賛されました。空腹の中でも、人々は、きれいな列を作り自分が食料をもらえる順番を待つことができます。多くの人たちが、東北大震災直後に、ボランティアに参加したり、寄付をしたりして、困難を抱える人々を救いました。一方で、原発事故に関しては、議論もそこそこで、静かに、その再開を受け入れました。

東北大震災で明らかになったこと。それは、日本人が天災に強く、人災に弱いということでした。震災を受け入れ強く生きる人々の姿は美しいと感じました。しかし、時間が経過し、震災直後の目に見える混乱が収まり始めると、その当事者は別として、多くの人々が、震災のことを忘れていき、「風化」という言葉も使われるようになりました。日本人は、説明のいらない天災に強く、説明の必要な人災には弱いと思いました。

ティーチフォージャパンという教育NPO活動でご一緒していた黒川清先生が、国会事故報告書を作成されたご縁で、私は、後に、原発事故の経緯について知る機会を得ました。そして、東北大震災は天災ですが、原発事故は、天災が引き起こした人災であることを知りました。もっと悲しいことは、その人災に私が無縁ではなったという事実を知ったことです。そして、この事実は皆さんにも当てはまります。「えつ?」と思われる方も多いでしょう。

その説明をする前に、まず、氷山モデルについてお話したいと思います。氷山モデルとは、目に見える事象は、目に見えない大きな氷山で支えられているというシステム思考者の提唱する現状分析の方法です。今起きている現実の多くには、過去からの経緯があり、法律や

制度、仕組みや構造で支えられています。さらにその奥には、社会通念をはじめとする人々のものの見方が、その出来事を支えていると云います。

地震と津波によって引き起こされた原発事故は確かに天災です。しかし、ずっと以前から、津波の危険性は叫ばれており、その対策が後回しになっていたことは人災です。さらに、大きな人災は、私たちは、子どもたちに、原発の安全性を教え、原発を推奨するポスターを描くことを奨励し、原発の設備を訪問する学習ツアーをつくり、子どもたちが原発政策を支援する国民教育を、受け入れていたことです。そして、私たち大人も、原発が安全であるという神話を信じていたことです。事故直後に、子どもたちが書いた原発が安全と幸せをもたらすというポスターは、撤収されました。しかし、私たちは、再び、静かに、原発は安全であるという神話を信じ始めています。誰もが、私には直接関係ないと信じながら、同時に、神話を支えているのです。

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の事務局調査統括補佐を務め国会事故調報告書の作成に尽力され、現在は、東京理科大学の教員を務める石橋哲さんと、わかりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた経緯があり、私もこの事実を知りました。神話は、みんなが信じることで初めて存在します。私も、神話を信じていました。原発事故から、9年が経過し、私も、どこかで、再び、皆さんと共に、この神話を受け入れているのだと思います。

わかりやすいプロジェクトが教えてくれたこと

わりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた当時、何度も、対話のイベントを企画し、自ら対話に参加しました。福島の方たちともお話する機会を得ました。福島高校の素敵な高校生とも、たくさんお話をする機会を得たのですが、その時に、とても驚いたことは、福島では、原発事故のことや震災のことは、誰も話さないという事実でした。個々に、被害状況が異なり、保証金の額も異なり、そのことに触れるのはタブーだということを知りました。

人や組織が変われない一番の理由は、課題について話すことを許されない日本の文化にあると気付きました。話さなければ、課題は存在しないことになります。言霊を信じる私たちだから、話さないことで、存在しないことにできるのかもしれません。2012年に、原発事故についての声の中心は、政府への批判や、権利の主張でした。そこに暮らす人々は、語らないし、語れないという事実は、衝撃でした。

リフレクションと対話

私は、現在、日本にリフレクションと対話を広める活動を始めています。日本人の人を思いやる心や、震災の時でも、調和を大切にし、社会秩序を守ることができる国民性に、リフレクション(自己内省)する力や、対話する力が加われば最強だと気付いたからです。話さなければ、人を思いやる心は届きませんし、対話をしなければ、本当の課題を見ることができません。誰もが、神話を信じているということにも、気づくことはできません。この活動を始めて9年が経過し、私も少し進歩しました。そして、今日のテーマである「人と組織は変われる」ことに確信が持てるようになりました。

人は変われるという事実

ロバート・キーガン先生の免疫マップを参考し、21世紀学び研究所でも、自己変容のための思考法を開発しました。リフレクションと対話的深い学びを組み合わせた手法です。

私たちが、変わりたいのに変われない時には、変われない理由があります。この理由を、ロバート・キーガン先生は、強固な固定観念と呼んでいます。社会はこうあるべし、学生はこうあるべし、人間はこうあるべし、私は、こんな人間とおもわれたい等、誰もが、固定観念を持っています。私たちの固定観念は、経験を通して形成されていきます。固定観念というと、少しネガティブに聞こえるかもしれませんが、それは、私たちが生きた証とも言えます。だから、誰も、それを手放すことができないと思い込んでいます。しかし、この思い込みも、固定観念なのです。

日本社会に生きていると、私たちは、「人は変われない」という固定観念を形成するたくさんの経験をすることになります。その結果、「人は変われない」が確信になります。だから、何かを変えようという話をしていても、どこかで、「人は変われない」という固定観念が姿を現します。そして、これは、私たちにとって、都合の良い「固定観念」でもあります。私たちに、これまで通りでよいという許可を与え、楽な道を選択することに罪悪感を持たずに済むからです。

コロナ禍で、世の中には変化の兆しがあります。自己変容の思考法を広め、人と組織と社会は変えられるという固定観念を広め、みんなで変わることに挑戦していきたいと思います。

 

シティズンシップ教育宣言

2020.08.24文部科学教育通信掲載

経済産業省が、2006年に発表したシティズンシップ教育宣言をご紹介します。

シティズンシップの定義

シティズンシップ教育と経済社会での人々の活動についての研究会(以下研究会)は、シティズンシップを、「多様な価値観や文化で構成されている社会において、個人が自己を真真理、自己実現を図ると共に、よりよい社会の実現に寄与するという目的のために、社会の意思決定や、運営の過程において、個人としての権利と義務を行使し、多様な関係者と積極的に関わろうとする資質」と定義しています。

シティズンシップ教育が必要な理由

研究会は、シティズンシップ教育の必要性として、2つの現実を紹介しています。

➀成熟した市民社会形成の兆し

我が国は、敗戦から復興し、高度経済成長を経て、世界でも有数の経済水準を達成するとともに、ようやく、自立・自律した個人が活躍する時代を迎えつつある。そして、多様な価値観や文化を持つ人々で構成される成熟した市民社会が形成されうる状態になりつつある。

②社会の複雑化の進行

しかしながら、現代は、同時に、所得、職業、学力、健康レベルなどの格差が拡大したり、家庭が育児に悩んだり、従来の発想ではとらえられないような多様な価値観がでてきたり、人々の自殺がふえたりと、非常に複雑な様子を見せるようになってきていて、必ずしも、全ての市民が容易に自発的に社会とのかかわりを持てる環境にはない。

2006年に発表されたシティズンシップ宣言には、高度経済成長を遂げた日本が、バブル崩壊を経て、どのような国づくりを目指すべきかを示唆しているように感じます。経済が成長すれば幸せになれる、豊かになれば幸せになれるという幸せの法則が、これから先の日本を支える指針にはならないことが明らかになった時、一人ひとりが、自分自身を守り、他者と共生し、よりよい社会に貢献するというシティズンシップに期待するのは当然のことだと思います。

シティズンシップ教育への期待

研究会は、シティズンシップ教育が果たす役割を、以下のように述べています。

成熟した市民社会が形成されていくためには、市民一人ひとりが、社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、その解決やサービス提供に関する企画・検討、決定、実施、評価の過程に関わることによって、急速に変革する社会の中でも、自分を守ると同時に他者との適切な関係を築き、職について豊かな生活を送り、個性を発揮し、自己実現を行い、さらによりよい社会づくりに関わるために必要な能力を身に付けることが大切だと考える。

一方で、こうした能力を身に付けることは、いかなる人々にとっても、個々人の力では達成できないものであり、家庭、地域、学校、企業、団体など、様々な場での学びや参画を通して初めて体得されうるものであると考える。

上記のような能力を身に付けるための教育、すなわちシティズンシップ教育を普及して、市民一人ひとりの権利や個性が尊重され、自立・自律した個人が自己の意思に基づいて多様な能力を発揮し、成熟した市民社会が形成されることを期待する。

シティズンシップが発揮される3つの分野

研究会は、シティズンシップを内包し、シティズンシップなしには成立しえない分野として、➀公的・公共的な活動(社会・文化活動)、②政治的活動、③経済活動の3つがあると考えました。

➀公的・公共的な活動

地域や学校、仲間などの中で、市民の多様なニーズや社会的な課題へ対応するために、政府でもなく企業でもなく、市民一人ひとりが自分たちの意志に基づいて、関係者と協力して取り組む活動。

  • 社会を良くしようとする意識をもち積極的に地域の活動に参画し、生涯に亘って学び続ける。
  • 学校や地域などにおける意思決定や活動の場に参画する活動。
  • 地域社会における生活の質を維持・工場するために、他の住民たちと協力して取り組む活動(防犯・防災、介護、清掃、青少年育成等)。
  • 賛同する関係者とネットワークを形成しながら、環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援など、国内外の課題解決に取り組む活動。
  • 社会人として必要な文化的な知識や素養を身に付けたり、学問・芸術・スポーツ・道徳などの活動に取り組んだりすることで、周りの身近な人々との豊かな生活づくりに関わること。

②政治的活動

民主主義社会での司法・立法過程で政策決定過程等、積極的に関与・参画し、自分たちの生活を左右したり、社会の仕組みに影響を及ぼしたりする政策に、自分たちの意志を反映しようとする活動。

  • わが国の民主主義の制定およびそれを指させる国民の権利と義務について理解し行動すること。
  • 自分たちの意志と判断に基づき、選挙や住民投票などで投票を行うこと。
  • パブリックコメント、審議会、住民説明会、電子市民会議などを通じて、政府にたいして自分たちの意見や要望を伝達すること。
  • 市民の自発性・主体性に基づき、政治的な運動・活動を行うこと。
  • 経済活動で得られた報酬等に応じて納税し、社会保険料を負担すること。

③経済活動

他者と関わり合いながら、社会が必要とする商品やサービスの生産・提供に参加すること、および、アクティブな消費者として、自分たちの生命や資産を守りながら、さらにそれにとどまらず、社会全体にとってプラスと考えられる消費・生活行動を実現する活動。

  • 自分たちの志向と社会のニーズのバランスを理解し、社会に関わる職業に就いて、生活に必要な収入を得ること。自分たちの生活に関わる法律や制度、仕組みを理解するとともに、不公正や違法な経済活動を見抜く力を身に付けること。
  • 環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援、文化育成など、企業等の社会的な貢献を促進する消費活動を行うこと。

シティズンシップを発揮するために必要な能力

研究会は、市民一人ひとりが、シティズンシップを発揮し、社会との関わり合いを通じて、自分たちを守り、豊かな生活を実現し、自己実現し、また、よりよい社会づくりに参加するために必要となる多様な能力を「意識」「知識」「スキル」の3つに分類して示しています。

意識

社会の中で、他者と協働し、能動的にかかわりを持つために必要な意識

  • 自分自身に関する意識
  • 他者との関わりに関する意識
  • 社会への参画に関する意識

知識

  • 公的・社会的な分野での活動に必要な知識
  • 政治分野での活動に必要な知識
  • 経済分野での活動に必要な知識

スキル

多様な価値観・属性で構成される社会で、自らを活かし、共に社会に参加するために必要なスキル

  • 自己・他者・社会の状態や関係性を客観的・批判的に認識・理解するためのスキル
  • 情報や知識を効果的に収集し、正しく理解・判断するためのスキル
  • 他者とともに社会の中で、自分の意見を表明し、他人の意見を聞き、意思決定し、実行するためのスキル

オランダのシティズンシップ教育

現在、オランダのシティズンシップ教育ピースフルスクールを、子ども園や小学校に導入する支援を行っていますが、そのカリキュラムと、経済産業省のシティズンシップ教育宣言には、驚くほど共通点があります。

大きな政府に守られ、発展した我が国の国づくりの手法が、多様で成熟した社会を運営する上で限界に来ています。一人ひとりがよい市民になることで、自ら幸せな社会を築けるように、シティズンシップ教育の普及に取り組んで参ります。

 

小学生がアドバイスを学ぶ授業

2020.08.10文部科学教育通信掲載

オランダのピースフルスクールというシチズンシップ教育を、日本に紹介する活動を行っています。今日は、その学びの一つをご紹介します。

オランダの15%の小学校が実践

オランダは、現在、ユニセス イノチェンティ研究所の調査で、世界一子どもが幸せな国ですが、ピースフルスクールが生まれた当初のオランダは、少し違っていて、オランダでも、1990年代 学校では、いじめや子どもの問題行動が目立ち、学校風土の改革が求められ、シチズンシップ教育の必要性が生まれました。憲法で教育の自由が認められているオランダでは、そのために様々なプログラムが開発されます。ピースフルスクールも、その一つで、ユトレヒト市がユトレヒト大学と連携し生まれたのが、このプログラムです。ピースフルスクールは、現在、15%を超える小学校に導入されています。

学校・地域、家庭で実践

ピースフルスクールの特徴は、子どもたちが、けんかやいじめの問題解決を自ら行う所です。

小学校5,6年生の中から選ばれた仲介役が話し合いで問題を解決するファシリテーター役を担います。現在は、学校での取り組みだけではなく、地域にもこの取り組みア広がり、学校の仲介者が、地域の公園でのけんかの仲介をしたり、警察官もピースフルスクールプログラムを理解し、子どもたちのトラブルを仲介する姿勢で臨んでいます。子どもたちは、学校でも、家でも、地域でも、けんかはいけないことで、けんかをしたら話し合いで問題を解決する責任があると考え行動するようになります。

自立と共生の力

子どもたちは、多様性な人々が安心して幸せに共生する社会のつくり方を、学校での実践を通して学んでいきます。民主的な社会を創るために、子どもたちは、自立と共生の2つを学びます。

民主的な社会では、誰もが、自分の意見を持つ責任があることを学びます。そして、人の意見に反対の意見を持つことは悪くないことを教わります。民主的な社会は、対立に基づくことを学び、悪いのは、コンフリクトではなく、けんかであるということを子どもたちは学びます。そのうえで、コンフリクトを話し合いで解決する力を身に付けます。

コミュニケーション

ピースフルスクールで、子どもたちは、コミュニケーションスキルを磨きます。意見には、理由と事例を添えて述べるという基本の型に始まり、相手の意見や気持ちをしっかりと評価判断を保留にして傾聴する練習を行います。

特に驚いたのは、小学生がすでに、お友達の気持ちを評価判断しないで聴くことができることです。

オランダで授業を参観した際に、実際に聴くことができた小学生の対話です。オランダの小学校には卒業試験があります。丁度その直前に学校を訪問したので、対話の中である男の子が、こんな風に自分の気持ちを話していました。

  • 「僕は、小学校卒業試験という1回の試験で、進路が決まってしまうと思うと、ドキドキして不安な気持ちなんだ」

すると、この話を聴いていた、女の子が、

  • 「ふ~ん。そうなの。私にはその気持ちないみたい。もっとどんな感じなのか教えて」

と、前のめりになり、男の子に質問していました。

この男の子は、自分の気持ちを正直に開示し、聴いているお友達は、その気持ちは、自分にないものだから、理解するために、もっと聴いてみようと考えます。そこには、一切の評価判断はなく、100%の心理的安全があります。

 

ポジティブなメッセージ

ピースフルスクールのレッスンは、すべてワークショップ形式です。子どもたちは、民主的社会には対立を前提としていて、対立したら話し合うという基本理念と、共生社会を実現するためのスキルを磨きます。ご紹介するけなし言葉をアドバイスに変えるというレッスンも、その一つです。対立が当たり前の社会で、気持ちよく共生するために、日頃から、ポジティブなコミュニティ創りを心掛けることが大切です。しかし、時には、相手にネガティブなメッセージを伝えなければならない時があります。そんな時には、アドバイスという伝え方があるということをこのレッスンで学びます。皆さんも、実際にやってみてください。

 

けなし言葉をアドバイスに変える

パート1:けなし言葉の事例を聴きます。

誰かにけなし言葉を言われたらどんな風に感じるか、みんなで学んでいきましょう。(事例は大人版に変更してあります)

ピピピピピピ… 今日も6時に目覚まし時計がなりました。田中さんは(昨日も遅くまで残業だったし、会社に行きたくないなぁ。)と思います。うとうとしていると、奥さんが「いつまで寝ているの!時間にルーズだから、今年のボーナスも下がったんじゃない?」と言いました。

急いで身支度をして家を出ます。田中さんは駅まで走りながら、(7時の電車に乗れるかな…遅刻ギリギリだなぁ。)と思います。 駅に着くと、人身事故のため20分ほど電車が遅れていました。(朝イチの商談に間に合わない…)田中さんは、急いで上司に電話をします。事情を伝えたところ、「ギリギリに家を出るから遅刻するんだよ!」と言われました。

急いでオフィスに入ったところ、同僚から「何やってんだよ、お前。お客様がもう来ているぞ。資料の準備はできてるのか?」と言われました。

商談でお客様に説明していると、お客様から「君の説明はわかりにくいな。もうちょっと簡潔に説明できないの?」と言われました。

午後、上司から「昨日頼んでおいた資料、直してくれた?」と言われます。田中さんは、昨夜遅くまで準備していた資料を上司に見せました。「お前の資料は、本当にセンスがないなぁ。」と言われました。

パート2:けなし言葉をアドバイスに変えてみましょう。

けなし言葉をアドバイスに変えると、どうなるでしょうか。

ピピピピピピ… 今日も6時に目覚まし時計がなりました。田中さんは(昨日も遅くまで残業だったし、会社に行きたくないなぁ。)と思います。うとうとしていると、奥さんが「 ① 」と言いました。

急いで身支度をして家を出ます。田中さんは駅まで走りながら、(7時の電車に乗れるかな…遅刻ギリギリだなぁ。)と思います。 駅に着くと、人身事故のため20分ほど電車が遅れていました。(朝イチのミーティングに間に合わない…)田中さんは、急いで上司に電話をします。事情を伝えたところ「 ② 」と言われました。

急いでオフィスに入ったところ、同僚から「 ③ 」と言われました。

商談でお客様に説明していると、お客様から「 ④ 」と言われました。

午後、上司から「昨日頼んでおいた資料、直してくれた?」と言われます。田中さんは、昨夜遅くまで準備していた資料を上司に見せました。「 ⑤ 」と言われました。

けなし言葉は上手にアドバイスに変えることができましたか。ピースフルスクールには、怒っている時は、心を落ち着かせてから話す練習をするレッスンもあります。私も、どんな状況でも、けなし言葉を使わないよう心掛けたいです。

教育改革のゴール

2020.07.27文部科学教育通信掲載

OECDが提唱する教育改革のためのガイドは、多くの専門家や教育関係者との対話を通して作成している所が魅力です。成果物に、多面的な視点が含まれていて、かつ、統合されている背景には、関係者が、リフレクションと対話を積み重ねた歴史を感じます。

教育改革の芯

今日の教育改革の発端は、21世紀教育国際委員会報告書「学習:秘められた宝」です。報告書は、学習の4本の柱を定義しました。4本の柱とは、知ることを学ぶ(Learning to know)、成すことを学ぶ(Learning to do)、共に生きることを学ぶ(Learning to live together)、人間として生きることを学ぶ(Learning to be)です。この委員会の委員長が、欧州委員会委員長を務めたジャック・ドロール氏であったことから、この報告書は、ドロール報告書とも呼ばれています。ドロール報告書は、今日、グローバル企業の人材開発においても、指針としての役割を果たしています。

秘められた宝

秘められた宝の由来は、日本では、北風と太陽の作者としても有名なジャン・ド・ラ・フォンテーヌの寓話「農夫とその子どもたち」です。ある農夫には、3人の働かない子どもがいました。その農夫は亡くなる直前に、子どもたちに、畑には宝物が隠してあるから、収穫を終えたら深く掘り起こしてみるように伝えました。子どもたちは、父親の遺言に従い、畑を、隅々まで深く掘り起こしましたが、宝物を見つけることができませんでした。しかし、翌年には、今までにないほどの大豊作になったというお話です。この寓話では、主役は労働ですが、ドロール報告書では、勿論主役は、学習です。

30年後の成果物

21世紀教育国際委員会が発足した1991年から、約30年が経過した今、私たちは、OECDが発表した新しいガイド 学びの羅針盤2030を手に入れることができました。OECDが提唱する教育改革の進化を目の当たりにして、リフレクションと対話を続けることで、人間の思考がいかに進化発展していくのかを知ることができます。学びの羅針盤2030は、2003年に発表されたキーコンピテンシーに比べると、とても解りやすいです。

生徒エージェンシー

新しいガイド、学びの羅針盤では、新たに生徒エージェンシーという言葉が登場しました。エージェンシーは、聴きなれない言葉ですが、主体性を意味する言葉です。主体性は、おそらくすべての日本の学校のホームページに、必ず登場する定番の言葉なので、目新しくないと思われるかもしれません。しかし、西洋人の語る生徒エージェンシーは、日本のそれとはかなり異なることを認識する必要があります。

主体性のアップデート

デンマークのある学校では、高校生が委員会を創り、次期校長を選定します。生徒が自ら、校長先生に求める要件を定義し、候補者のプレゼンテーションを聴き、対話を通して候補者を理解した上で、最適な人材を選考します。勿論、先生も、学校の構成員として、この議論に加わります。これが、デンマークにおける生徒の自治を意味します。

日本で広める活動に従事しているオランダのシチズンシップ教育では、小学生が、学校中のけんかの仲介を行い、学校社会の紛争(けんか)を自ら話し合いで解決する共生社会を実現しています。先生が、けんかの仲介を行うのは、子どもたちだけで問題を解決することができない時のみで、それ以外の時は、子どもたちが自ら社会を創る様子を見守ります。

勿論、世界でも、学校は、校長先生が管理し、先生が教え、生徒が、受け身に学ぶという構図になりやすく、この枠組みが、これまでの主流です。しかし、生徒エージェンシーは、この枠組みを、根本的に変えていくことを求めています。

主体性をアップデートする理由

子どもたちは、なぜ、生徒エージェンシーにならなければならないのでしょうか。その背景には、大人による社会変革の行き詰まりがあると感じます。1972年にローマクラブが、成長の限界を発表し、自然資本には限りがあることを知った人類は、半世紀過ぎても、統一見解を持つことすらできず、解決策も十分なものではりません。そして、そのつけを誰が引き受けるのかと考えると、未来の成人である子どもたちですから、彼らが今から社会の課題解決に参画する意義を容易に見出すことができます。

AARモデル

学びの羅針盤では、Anticipation見通し Action行動 Reflectionリフレクション の3つの実践を組み合わせたAARモデルを生徒エージェンシーに必要な習慣と定義づけています。仮説を立て、見通しを持って行動し、その結果を振り返り、次の仮説と行動に活かす力があることが、生徒エージェンシーの条件であるとも言えます。主体的に行動し責任を取るという意味は、常に成功することではなく、行動したら、必ずリフレクションを行い、経験から学ぶことを意味します。

仮説を立って見通しを持って行動した時には、リフレクションのテーマがとても明確です。結果は、見通しの通りだったのか、異なっていたのか、その理由は何か、この経験から何が学べるか と考えることができます。しかし、もし、誰かにやれと言われたからやったという経験では、リフレクションのテーマを特定することができません。AARモデルは、生徒エージェンシーを前提としていると云えます。

時代が求める学習法

AARモデルは、実は、時代が求める学習法で、すでに、ビジネスの世界でも、広く実践が始まっています。前例のある時代には、既知情報を正確に処理し、成果につなげる仕事が主流でしたので、従来の学校教育は、ビジネスにおける生産性と直結していました。学校でよい成績を取れる生徒が、企業でも有能な社員になるという成功法則が存在しました。しかし、前例のない、答えのない時代になると、誰もが、正解を創造することが求めらるえるようになります。創造的な仕事では、自ら答えを見出すために、情報収集を行い、情報を統合し、仮説を構築することから始めなければなりません。そして、勇気をもって、仮説を試し、その結果に学び、仮説を進化させ続けなければなりません。

答えのない時代には、仮説の前提となるゴールも、自ら定義する必要があります。何を実現したいのか、その前提には、現状とありたい姿のギャップとしての課題認識が存在するはずです。AARモデルの実践において、生徒エージェンシーが前提となるのは、このためです。自ら、課題を発見し、定義することで初めて、AARモデルを活用するスタート地点にたつことができます。

AARモデルは、人間の創造性を豊かにするものですが、科学的な思考法でもあります。データに基づく裏付けのある仮説を持つことで、AARモデルの質は大きく変わります。この思考法が、学問の世界だけではなく、社会を動かす上で重要になっている背景には、我々が、複雑な難題を山のように抱える時代、テクノロジーを駆使すれば世界を大きく変えることができる可能性を秘めている時代に生きているからです。

まだ議論されていないこと

ビジネスの世界では、データを持つものが世界を制覇するという予測が、当たり前のように語られています。アマゾンは、すでに、受注前に商品を発送することができる所まで、人間の購買行動を予測することができると言われています。為政者ではなく、技術者の倫理観が世界の倫理を支配する時代に、利他の心を備えた思慮深い生徒エージェンシーを育む教育を目指すことが、教育の究極のゴールではないかと思います。

ジェンダーギャップ

2020.07.13文部科学教育通信掲載

労働人口の減少により、成長戦略の一環として始まった、女性活躍推進を皆さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

毎年、発表されるグローバルジェンダーギャップレポート2019年では、日本は、153か国中121位となっており、G7の中でも最下位です。また、アジアにおいても、106位の中国、108位の韓国よりも、男女平等が進んでいない国というのが日本の現実です。このレポートは、経済、政治、健康、教育の4つの指標で、男女の差を評価しています。日本は、健康と教育では、男女の差がなく、経済と政治において大きな差があるというのが121位の理由です。

ジェンダーギャップを埋める動きは、日本だけでなく、世界でも加速しており、女性の特性についても、様々な視点で語られるようになっています。そのいくつかをご紹介したいと思います。

リーン・イン

フェイスブックのCOOを務めるシェリル・サンドバーグ氏は、女性の課題を取り上げた本「リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲」(日本経済新聞社)を出版し話題になりました。サンドバーグ氏は、「私達女性は、自信に欠けていたり、手を挙げなかったり、乗り出すべきときに身を引いたりと、大なり小なり自制して行動してしまっている」と指摘します。そして、女性が国や企業の半分の舵取りをし、男性が家庭の半分を代表する存在となる、真の平等な世界が実現すれば、人的資本と才能の全てを取り込むことができ、国家や企業全体としてのパフォーマンスが上がると主張しました。

そのためには、女性がキャリアを積めるよう社会や組織の柔軟性を高めるだけではなく、女性自身が内面に作った壁を克服する必要があるとサンドバーグ氏は強調します。この精神的な壁は、社会的風潮によって成長の過程で自然に作られたもので、特に、成功を手に入れる男性は周りから好かれる一方で、女性は敬遠される傾向があることが、女性が積極的にリーダーシップを取りに行きにくい大きな要因だといいます。サンドバーグ氏は、世界中に、「気が強い」という言葉が存在し、それは、すべて女性にのみ使われる言葉であるとも述べています。

シェリル・サンドバーグ氏は、自分の娘が成人する頃には、成功しても人から好かれる(嫌われない)と信じられる人に育って欲しいと願い、子育て世代と共に、ジェンダーギャップをなくす社会創りにも取り組んでいます。

女性が持つ12の特性

コーチングの神様が教える「できる女」の法則(サリー・ヘルゲセン、マーシャル・ゴールドスミス/日本経済新聞出版)は、コーチングを通して明らかになった、女性の課題を解りやすく解説しています。女性が持つ12の特性は若年層では強みとして効果を発揮しますが、キャリアの次のステージに進む際に、女性のキャリアアップを阻む要因となってしまうと言われています。

  1. 自分の成果を主張しない
  2. 自分の貢献は誰かが自然と気づいてくれて、いつか報われるだろうと期待している
  3. 専門知識を重視しすぎる
  4. 人間関係を築くだけで活用しない
  5. 初日から協力者を得ようとしない
  6. 自分のキャリアよりも目の前の仕事を優先する
  7. 完璧主義者の罠に陥る
  8. 他人を喜ばせることに執着する
  9. 小さく見せたがる(矮小化する)
  10. 全てに過剰
  11. 反省しすぎる(反芻する)
  12. 周囲を気にしすぎる

アメリカの女性について書かれた本ですが、日本の女性にも当てはまることが多く、とても参考になります。

女性のリーダーシップから学ぶ7つのポイント

コロンビア大学トマス・チャモロ・プレミュジック教授は、女性リーダーを増やし、女性の声を経営や政治に反映させるために、女性が男性のように振る舞うことが必要だと言われているが、本当にそうだろうかという疑問を投げかけました。そして、プレミュジック教授は、男性が女性のリーダーシップから学ぶべき7つのポイントを紹介しました。

  1. 積極的になるべき対象がないなら、積極的になる必要はない
  2. 自分の限界を知る
  3. 変革を通じてモチベーションを高める
  4. 自分よりも他者を優先する
  5. 命令ではなく共感する
  6. 仲間を高めることに力を入れる
  7. 「恐縮です」と言うだけではなく、謙虚になれ

(ハーバードビジネスレビュー/2020.05.07)

女性活躍が進む海外では、たくさんの事例を基に、女性の課題や、女性の強みが議論されるようになっていることはとても興味深いです。日本では、サンプルが少なく、まだ、女性活躍も道半ばであり、ここまでの議論は始まっていませんが、近い将来、日本でも、このような議論が盛んになる日が来るのではないかと思います。

私の経験

女性活躍推進に取り組み始めて、14年になります。14年前に比較すれば、女性の社会進出は進み、今では、結婚し、出産しても時短で働くことが当たり前になりつつあります。

14年前には、女性がリーダーシップを発揮するという考え自体も一般的ではありませんでしたが、今では、多くの女性が、しなやかなリーダーでありたい、チームを大切にするリーダーでありたい等、自らのリーダーシップについて普通に語るようになりました。

女性の強みをリストにすると、オープンなコミュニケーション、フラットな人間関係、チームワーク、柔軟さ、ぶれない軸、完璧主義、責任感等が挙げられます。

ある海外の調査では、「採用の募集要件に、いくつ該当すれば応募するか」について男女の違いを調べたそうです。その結果、男性は、6割の要件を満たしていれば応募すると考え、女性は、100%要件を満たしていないと応募しないことが明らかになりました。日本で調査を行っても、同様の結果になるのではないかと想像します。女性が、自信を持つためには、完璧主義(100%)を少し手放し、男性のものの見方(6割)に学ぶ必要があるようです。

時代と共にリーダーの要件は変わります。カリスマ性が重視された時代は終わり、今は、チームを大切にするリーダーの時代だと言われています。その観点からは、オープンなコミュニケーション、フラットな人間関係、チームワークを重んじる女性の強みは、時代の求めるリーダーシップに活かせるはずです。女性リーダーが増えれば、忖度文化も組織からなくなるかもしれません。

ダイバーシティの推進

ダイバーシティを推進する上で、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を撲滅することが大切であるというのは、今日、世界の常識になっています。しかし、アンコンシャツバイアスは、その名の通り、無意識なものなので、気づくことが難しいです。

ダイバーシティの推進に力を注ぐGEでは、リーダーに自己認識を高めるよう求めています。その理由は、人は、自分と似た人を高く評価する特性をもっているからだそうです。リーダーが、評価における自分の偏見を理解し、意識することで、多様な人々を正しく評価することができると云います。

人間は、一人ひとり異なり、一人ひとりが多様性の一部です。男性か女性かという違いは、一人の人間の個性の一部ですが、それがすべてではありません。また、ジェンダー特性をどのアングルから捉えるかにより、その特性が強みにも、弱みにもなります。

ダイバーシティの推進のゴールが、誰もが自分らしく活躍し世の中に貢献することだとすれば、一人ひとりが本当の自分らしさを知ることが、ダイバーシティを推進する社会づくりにおいてとても大切なことだと思います。

 

多様性の心得

2020.06.22 文部科学教育通信掲載

多様性の時代になり、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくそうという取り組みが世界中で始まっています。グーグルでも、アンコンシャスバイアスをなくす活動が盛んですが、その目的は、誰もが、潜在的な能力を開花させることと言います。グーグルでは、「新しいアイディア生み出したいから、若い人を集めたチームにしよう」というと、「それは、アンコンシャスバイアスに基づく発言だよ」と注意されるそうです。皆さんは、このメッセージの問題が何か解りますか。

もし、このメッセージを、若くない人が聞いたら、その人は、自分には新しいアイディアを出す力がないと思うことが問題。その人は、自分の潜在的な能力を諦めてしまうというのです。誰かが、潜在的な能力を諦めてしまうメッセージは発しないというのが、グーグルにおけるアンコンシャスバイアスの取り組みです。優秀な人を採用し、その潜在的な能力をフルに開花してもらえれば、企業にとっても喜ばしいことです。そして、勿論、個人にとっても幸せなことです。

昭和女子大学キャリアカレッジでは、ダイバーシティの推進に取り組んでいます。また、クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育を広める活動をしています。

この2つは別な活動のように見えますが、共通点があります。それは、どちらもダイバーシティの推進のための取り組みであるということです。

オランダのダイバーシティ推進

民主的な社会と、強い市民のお手本となる国オランダでは、しっかりと子どもの頃から多様性を包摂する社会のつくり方を学びます。子どもたちに、共生社会を実現して欲しい時、日本では、「お友達となかよくしましょう」「お友達の気持ちを理解しましょう」と、すぐに他者との関係づくりを指導しますが、オランダは違います。オランダの子どもたちが最初に学ぶのは、自分の意見を持つこと、そして、ともだちと意見がちがっても、ともだちでよいということです。そこには、民主的な社会は、対立を前提とするという考えがあります。だから、対立は悪くない、しかし、対立を話し合いではなく、けんかや譲歩で解決するのはいけないことだと学びます。

ダイバーシティの推進は、主体性の推進でもあるということが、とても大きな学びでした。今、日本でも、多様な働き方が当たり前になりつつあります。しかし、組織マネジメント手法を変えていません。しかし、多様性を画一性のように管理することはできないというのも事実です。ダイバーシティの推進は、個を自律に向かわせ、マネジメント手法も、それに合わせて、セルフマネジメントへと移行していくという流れは、世界ではすでに始まっています。ティール組織は、上司という概念、ヒエラルキーという概念を捨てました。また、スクラムというシステム開発の手法では、チームが仕事の上で行う意思決定権を100%持つことになります。

画一性のレガシー

日本では、ダイバーシティの推進が進められている一方、文化的な背景もあり、画一性のレガシーがまだ健在です。違うよりも、同じ方がよいというものの見方は、根強く、人の話を聴いていても、共感することばかりを強調しがちです。「その意見は、考えてもみなった意見だ。もっと、詳しく教えて欲しい」と違う意見を見つけ、賞賛するようにならなければ、多様性が歓迎されているとは言えません。

同調圧力の中で、人は、安心して自分を出すことはできません。グーグルが、「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉通りのチームを実現するために行った調査研究アリストテレスプロジェクトでは、強いチームには、心理的安全性があることを突き止めました。心理的安全性があるチームは、メンバー全員が同じ位話をするという特徴があるそうです。ところが、心理的安全性がないチームでは、誰かがとても長く話し、外の人は聴いているというのがその特徴だそうです。多様性は、一緒にいるだけでは、イノベーションに貢献せず、アイディアを出し合う過程に多様性が生かされて初めて、価値を生むという、言われてみれば当たり前のことを、多くのチームはやれていないのです。

多様性を包摂するためには、心理的安全性を実現すること以外にも、いくつかの心得があるので、紹介したいと思います。

心得➀自分も多様性の一部である

多様性を尊重する姿勢は、誰もが持っていると思います。日本人には、他者を思いやる気持ちもあります。これは、ダイバーシティの推進において、とても心強いことです。しかし、これでは十分ではありません。皆さんが多様性を尊重する時、「私は、私と違うあなたを尊重します」と考えていませんか。これが、問題です。その理由は、自分を多様性の外に置いて、あなた自身を違いの基準にしているからです。多様性を包摂する時には、あなたも多様性の一部、相手も多様性の一部と捉える必要があります。

心得②それは事実ですか。あなたの解釈ですか

自分とは異なる多様な世界や人々を理解する際には、常に、事実と解釈を分ける習慣が必要です。なぜなら、私たちは、事実を解釈する際に自分の経験を当てはめるからです。あなたは、当然ながら、自分とは異なる多様な世界に生きている人たちの経験を知りません。彼らが、どのようなものの見方をしているのかも、知りません。だから、あなたが、事実を勝手に解釈するのは、とても危険なことです。

例えば、「女性は管理職になりたくないらしい」という男性社会の女性に対する解釈を耳にします。そんな時、私がこんな説明をしていました。「一般的に、女性には、男性のように強いヒエラルキー概念がなく、フラットなチーム概念の方が強いため、階層を上がること自体に意義を感じていないだけです。管理職になることよりも、自分に何をすることが期待されているのか、どんな成長ができるのかを理解したら、やりたいと思う女性は多いです」 おそらく、上司の皆さんは、これまで、男性部下に「管理職になって欲しい」と伝えて、「結構です」という返答をもらった経験がなく、女性部下の言葉を、過去の経験に照らし、「女性は管理職になりたくない」という解釈になったのだと思います。ダイバーシティの推進には一拍置いて、「それは事実か、あなたの解釈か」と自問することが、不可欠です。

心得③フラットでオープンである

これが最も大きな抵抗にあう心得です。多様性に、ヒエラルキーの概念を持ち込むことは本当に意味のないことです。なぜなら、多様性が一緒に存在する最大の価値が、相互学習だからです。多様性が化学反応を起こす過程は、相互学習の過程です。ところが、ヒエラルキーの中に多様性を配置すると、優は劣から学ばず、劣は優を超えられず潜在的な能力を閉じてしまいます。ハーバード教育大学院では、マインド・ブレイン・エデュケーションという脳科学と教室をつなぎ、脳科学の発展を子どもたちの学習に活かす取り組みが始まっています。脳科学者と心理学者と先生がチームとなって行うプロジェクトは、フラットでオープンなメンバーの関係性によって支えられています。

心得④対話する

対話を通して、境界線の外に出ることができなければ、同質性の高い小さな和の中に生きることになります。

ぜひ、皆さんも、多様性の心得を実践してみてください。

一瞬一生の会

2020.06.08 文部科学教育通信掲載

知性発達学者の加藤洋平さんとみずほ銀行で女性初の執行役員として活躍された有馬充美さんが主宰する「一瞬一生の会」という半年間の勉強会が、5月にスタートしました。

有馬さんが、ハーバード・アドバンスト・リーダーシップ・イニシアティブ・フェローという、ハーバード大学が主催するプログラムに参加された頃から、温めてこられた企画なので、2期生として参加させていただけることをとてもうれしく思っています。

加藤洋平さんの著書「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」(日本能率協会マネジメントセンター)にも、衝撃を受けていたので、成人発達理論を学ぶことも、とても楽しみです。

今回は、私自身も、学び始めたばかりの成人発達理論の一部をご紹介してみたいと思います。

ダイナミックスキル理論

カート・フィッシャーによって提唱されたダイナミックスキル理論は、私たちの能力がどのようなプロセスとメカニズムで成長していくのかを説明する理論です。その根幹には、「私たちの能力は、多様な要因によって影響を受けながら、ダイナミックに成長していくものである」という考え方があります。

私たちの能力は、単純な直線を描きながら発達していくのではなく、発達のスピードも時により異なり、時には退行することなどを繰り返し、紆余曲折に富むダイナミックな特性を持つものです。カート・フィッシャーが、階段のイメージ図で、発達を表すことを止めたのもこのためです。

私たちの1つの能力は、他の能力と関係し合いながら発達することも興味深いです。たとえば、「文章を書く力」は、「文章を読む力」と密接に関係し合っていて、お互いが補完し合いながら、発達していきます。この理論に従えば、自分が伸ばしたい能力を、伸ばすために、補完し合う他の能力を探し、自らの能力開発に活かすことも可能です。

最適レベルと機能レベル

最適レベルとは、他者や環境のサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。機能レベルは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる最も高度な能力レベルです。

例えば、誰かと一緒に取り組んでいたら出せる成果が、一人で行うと出せない時は、前者で発揮する能力が最適レベルであり、後者で発揮する能力が機能レベルということになります。あるいは、指導者がいる時には発揮できる能力が、指導者がいない環境で、一人では出せないという時も、前者が最適レベル、後者が機能レベルです。

カート・フィッシャーは、最適レベルと機能レベルのギャップを、発達範囲と呼んでいます。この理論で、最も衝撃なのは、この発達範囲が、年齢を重ねるごとに拡大することです。子どもの発達が大人の支援によって変わるというイメージはありましたが、むしろ、大人の発達の方が、他者の支援を必要とするというのは驚きの事実です。

他者の支援があれば到達できる最適レベルは、機能レベルよりも先行する特性を持ちます。最初は、誰かの助けが必要なことも、支援を得て、能力が発達し、やがては、一人でできるようになるということは、誰もが経験を通して知っています。このため、成人発達理論でも、

ヴィゴツキーの提唱した最近接発達領域という考え方が当てはまり、他者の助けを得れば発揮できる能力を使う機会は、人を成長させます。そしてもし、自らの成長や発達を止めたくないのなら、常に、この最近接発達領域にあるテーマと共に生きることが大事ということになります。

13の能力レベル

ダイナミックスキル理論によれば、私たちの能力は、「反射階層」、「感覚運動階層」、「表層階層」、「抽象階層」、「原理階層」の5つの階層を経て発達していくそうです。最初の2つは、成人期前に見られる発達です。

「表層階層」は、頭の中に、物事をイメージすることができる能力で、例えば、パソコンという言葉で、パソコンのイメージを頭に思い浮かべることができます。4つ目の階層は、「抽象階層」で、形のない抽象的な概念、例えば、愛情を、言葉によって捉えられるようになる力です。そして、最後は、「原理階層」ですが、これは、アインシュタインの相対性理論や、ダーウィンの進化論のような、抽象的な様々な概念をさらに高度な概念や理論に昇華させる能力で、一般の成人がこのレベルに到達することは少ないようです。

私たちの能力は、この5つの階層を経て成長していきますが、一つひとつの階層の中には、「点・線・面・立体」の成長サイクルが現れます。

➀点:単一要素段階(点を作る段階)

②線:要素配置段階(線を作る段階)

③面:システム構成段階(面を作る段階)

④立体:メタシステム構成段階(立体を作る段階)「点・線・面・立体」の成長サイクルは、自らの成長を振り返っても、イメージがつきやすいです。

ダイナミックスキル理論では、「点・線・面・立体」の成長サイクルの「点」は「立体」と重複するので、3つの成長サイクルに絞り、また、「原理階層」は特例として、残りの4つの能力の階層について、3つの成長サイクルがあると考え、「3(線・面・立体)x4(反射階層、感覚運動階層、表層階層、抽象階層)+1(抽象概念)=13」で、人間の能力のレベルを13に分類し説明しています。

 

主体客体理論

もう一つ、成人発達理論として、本勉強会で学ぶのは、ロバート・キーガンが提唱する主体客体理論です。この理論では、意識の発達を、主体から客体に移行する弁証法なプロセスと定義しています。意識の発達においては、主体が縮小し、客体が拡大するということは、誰もが、自らの発達を通して味わったことのある経験ではないかと思います。

ロバート・キーガンの提唱する理論では、生涯を通じて意識は発達するとし、その発達段階は、「利己段階」、「他者依存段階」、「自己主導段階」、「相互発達段階」に分類されます。

主体客体理論 意識の発達

利己段階では、自分の欲求や関心に支配されている

他者依存段階では、自分独自の価値体系を構築できず、社会や所属する集団によって構築された価値体系の中に生きる

自己主導段階では、自己独自の価値体系を構築できるが、自分の価値観や視点から距離を置くことができない

相互発達段階では、自己を構成するいかなるものにも同一化していないで、自己の価値体系を持ちながらも、他者の価値体系との融合を図る

(4分類は、加藤洋平氏の一瞬一生の会第1回テキストを参考に作成)

 

自分の意識の発達を客観視することは、今からの作業になりますが、過去に遭遇した人々を頭に思い浮かべると、意識の発達についても、経験知を当てはめることができるように思います。自我が芽生えたばかりの子どもの様子や、尊敬できる成人の姿をイメージすると、理解し易いです。

今回、私が、本勉強会に参加する目的は、人材育成に関与する上で、自ら成長する機会を設けることと、現在推し進めているリフレクションと対話のメソッドとその実践が、成人発達に価値をもたらすために、成人発達理論に対する理解を深めることの2つです。

第1回の勉強会では、点の数が増えて、点が線になりつつあるという段階なので、道のりは長いと感じますが、私自身が、学びの最近接領域に居ることを信じて、学び続けてみようと思います。

 

レジリエンスとリフレクション

2020.05.25 文部科学教育通信掲載

今回は、リフレクションが、どのようにレジリエンスを高める効果につながっているのかを紹介致します。

リフレクションとは、自己の内面を客観的・批判的に振り返る行為です。リフレクションの習慣を持つ人は、物事に対して、これまで通りのやり方やモノの見方を、そのまま適応するのではなく、批判的スタンスで、経験から学び、考え行動することが可能になります。

レリエンスとは、回復力、弾性のことで、レジリエンス研究の第一人者であるペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力と定義しています。レジリエンスを構成する要素は、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、つながり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ等)の8つです。そのうち、6つの要素を強化するためには、リフレクションの習慣が役立ちます。

自己認識とリフレクション

自分の思考、経験、感情、価値観を振り返るリフレクションは、自己認識を高める上で、なくてはならない習慣です。特に、内発的動機や信念につながる価値観について、自己認識を深めることは、自分を活かす上で欠かせません。

変化の激しい時代だからこそ、自分の意志と選択で、道を切り開いていくことがこれまで以上に大切になっていると感じます。多様性も増す中で、「自分が何を実現したいのか」「自分が何者なのか」を見出せないまま、変化の波に乗ってしまうと、「今、自分がどこに立っているのか」も、解らなくなってしまいます。

 

自制心

リフレクションを通して、自分の感情や思考、行動をメタ認知することで、自分を制御する力が高まります。

 

脳科学の発展により、感情が、我々の思考に大きな影響を及ぼすことが明らかになった今日、自分が感情を支配するのか、感情に支配されるのかは、人生に大きな違いをもたらすことが容易に想像できます。

 

精神的敏捷性

精神的敏捷性とは、物事を多面的に捉え、大局的な見地から対処することを意味します。困難に直面した時でも、冷静に本質的に物事を捉え、適切に対処するためにも、リフレクションが役立ちます。

リフレクションで、自分の内面を客観視し、対話のアプローチで、境界線の外にある世界から学ぶことができれば、多面的、多角的に物事を理解したうえで、適格な判断を下すことができます。

楽観性                          

リフレクションを行えば、自分自身が、物事のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかが解ります。同じ出来事に遭遇しても、可能性に注目できる時と、リスクに意識が向く時があります。心身のコンディションも、大きく影響を及ぼします。

物事は、簡単ではなく、すぐに、解決策が見いだせない環境の中では、問いと共に生きる時間は、当然長くなります。私たちは、これまで以上に、楽観的で居にくい環境にいる中で、課題解決を諦めないためにも、これまで以上に、楽観的であることが求められていることを認識する必要があります。

自己効力感

「やればできる」という自信は、逆境を乗り切る上で欠かせません。人の自信はどこから生まれるのでしょうか。幼い頃に、無条件の愛情を注いでもらった経験を持つ人は、自己効力感が高いと言われます。あなたもその一人かも知れません。でも、もし、そうでなかったとしても、自己効力感は、後天的にも高め続けることができます。その際に役に立つのが、やはり、リフレクションです。

NHKの連続テレビ小説「エール」の中で、得意なこととは、人よりほんの少し努力することが苦痛でなく、ほんの少し簡単にできることという説明がありました。とても上手に、得意なことを説明していると思います。自分の得意なことを実践する機会が増えれば、自己効力感も高まります。また、得意なことは自分にとって当たり前すぎて、気付けないこともあるので、他者からのフィードバックも有効です。

経験から学ぶリフレクションも、自己効力感を高める有効な手段です。私たちは、日々、たくさんの経験をしていますが、リフレクションを行わなければ、自分がどれだけ成長しているのか、賢くなったのかを知ることができません。経験を通して得られた学びを放棄している状態では、自己効力感を高めることは難しいです。

多くの人たちが、自分の持っていないものに焦点をあて、自己効力感を下げている様子を目にすることが多いです。矢印を自分に向け、自分が生きている証である経験をリフレクションすることで、自己効力感を高めることが可能であることを、多くの人に体験して欲しいです。

つながり

つながりを強める上でも、リフレクションと対話が役立ちます。リフレクションは、まず、自分自身とつながる力を高めます。リフレクションと対話を実践すれば、人とのつながりを深めることができます。相手の意見だけではく、相手の経験を知ることや、相手の気持ちを理解すること、そして、相手が大切にしている価値観を知ることができれば、つながりは深まります。初対面でも、相手のことをとてもよく理解することができます。

グーグルは、アリストテレスプロジェクトを通して、成果を上げるチームに共通している特徴は、心理的安全性であることを明らかにしました。心理的安全性のあるチームでは、誰もが、意見を述べることができるが、心理的安全性がないチームでは、限られた人だけが意見を述べていることが多いそうです。勿論、そのためには、フラットでオープンな文化づくりが必要になりますから、認知の4点セット(意見、経験、感情、価値観の4つに意識を向けて話し、聴く方法)を使うとよいのではないかと思います。相手を知らなければ、相手の反応も予想できませんから、本音を出しにくいです。しかし、お互いの価値観やものの見方、バックグランドが解っていれば安心して話せます。

シリコンバレーで経営者のチームビルディングを支援するコンサルタント パトリック・レンシオーニは、チームには、5つ( 信頼性の欠如 、衝突への恐怖 、責任感の不足、説明責任の回避、結果への無関心)の機能不全があると言います。そして、組織の信頼関係は、衝突を恐れる必要のない関係性を意味していると言います。このチーム理論でも、心理的安全性がないチームは、成果を出せないと言っています。

ぜひ、皆さんも認知の4点セットを活用した対話を、チームメンバーと実践してみてください。

【認知の4点セットの問い】

意見:あなたの意見

経験:あなたの意見の背景にある経験や知識

感情:経験に紐づく感情

価値観:意見の背景にある価値基準

 

レジリエンスにおける「つながり」は、人間関係のみならず、精神的なつながりも含む概念のようです。パーパスとつながるといった、より大きな目的とのつながりも、レジリエンスを助けます。

自分が、どこに向かっているのか。何のために、そこに向かうのか。何に貢献したいと考えているのか。リフレクションを通して、その答えを見出せると、クリエイティブテンションは高まり、眠っている潜在能力が目覚めます。この状態になれば、逆境を乗り越える力も、当然高まります。

信頼できるチームと、自分が心から実現したいことに取り組んでいる時には、レジリエンスも高まり、成果も上がるはずです。この好循環をつくるためにも、リフレクションを実践して欲しいと思います。

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