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隠岐隠岐島前高校と地域の魅力化の取り組みに学ぶ

2022.04.11文部科学教育通信掲載

隠岐島前高校の魅力化の取り組みをご紹介します。

隠岐島前高校の危機存続

昭和25年には、6500人いた島の住民は、平成17年には、2500人に減少し、高齢化率は40%になっていました。昭和40年代には在籍数が300人を超えていた隠岐島前高校も、平成9年には、77人(2学級)、平成20年には、28人(1学級)となり、平成25年には、島根県の高校統廃合基準である入学生21人を下回っていくという統廃合の危機に直面します。

地域が隠岐島前高校を失うと、地域の子どもたちは、中学を卒業すると島を離れなければならなくなります。島外の寮で暮らした高校生は、島に対する愛着も失い、島に戻る若者は減少していきます。その結果、地域の衰退は避けられなくなります。

島前3町村にとって、隠岐島前高校の存続は、島前3町村の存続に不可欠です。そこで、立ち上がったのが海士町副町長の吉元操さんです。2004年に高校の存続問題に取り組む重要性を盛り込んだ「自立促進プラン」を策定し、2008年から本格的に隠岐島前高校魅力化プロジェクトを立ち上げます。吉本さんを支援したのが、現在、地域・教育魅力化プラットフォーム代表の岩本悠さんです。岩本さんは、ソニーで人材育成・組織開発・社会貢献事業に従事されていた方です。岩本さん以外にも、現在プリマペンギン代表の藤岡慎二さん、学習センター長を務めら、現在は、海士町の大人留学に取り組む豊田庄吾さんが、地域と隠岐島前高校の魅力化の立ち上げに取り組んで来られました。

 

いけている大人たち

日本教育大学院大学では、隠岐島前高校魅力科プロジェクトが立ち上がった頃に、吉元さん、岩本さん、藤岡さんをお招きし、毎年、講演会を行っていました。島留学のスタート時には、生徒募集を兼ねたイベントを開催したこともあります。今では、日本中で地域創生の取り組みが行われていますが、その当時には、地方創生という言葉を耳にすることはほとんどなく、吉元さんの「自立促進プラン」に込めた思いに、心が打たれたことを思い出します。高校が消えたら、島が消える。だから、高校を絶対に存続させなければならない。吉元さんの強い思いが、岩本さんを始めとする「いけている大人たち」を魅了し、奇跡を起こすことができたのだと思います。

今日も、島前高校魅力化プロジェクトには、たくさんの「いけている大人たち」が関わっています。教育の専門家である大学教授、企業で活躍されたリーダー、探求教育の専門家、教育委員会の方々、学校の先生、先生と共に生徒の教育を支援するコーディネーター、学習センターの皆さん、寮で生活を見守る大人たち、みんなが、生徒の育ちをサポートしている様子に、心を打たれました。「いけている大人たち」という言葉で一括にするのは少し失礼かもしれませんが、いけている大人たちには、以下の5つの特性があります。①自分を知っている、②生徒の多様性を包摂できる、③生徒の過去ではなく、未来を見る、④願いを押し付けず、伝える、⑤待てる  いけていない大人は、この真逆の特徴を持ちます。

 

島留学

隠岐島前高校の総生徒数は、158人、そのうち留学生が、90人を占める高校です。スタートした当初は、説明会を実施できる大都市からの留学生が多かったそうですが、現在では、オンライン説明会も可能となり、日本全国から留学生が来るようになったそうです。このため、生徒は、とても多様です。島で育った生徒と、東京をはじめとする他県で育った生徒が、一緒の教室で学びます。

島親制度があり、すべての留学生には、島親さんが付きます。寮には、ハウスマスターがいて、近くには学習センターがあり、放課後に学ぶ場所もあります。

 

島前3島がまるごと学校

隠岐島前高校の魅力の一つが、学校と地域の境目が溶けてなくなっていることです。このため、学校、寮、学習センターだけではなく、学校のある海士町、漁業と観光を主な産業とする景勝地「魔天崖」のある西ノ島町、畜産を主な産業とし、国の名勝天然記念物「赤壁」を有する知夫村がすべて、生徒の学びの舞台になっています。地域の住民が、生徒を歓迎し、生徒が学びたいこと、やってみたいことを応援する地域文化が醸成されています。 地域の人々に歓迎され、暖かく見守ってもらえる生徒は、安心して行動することができます。

 

隠岐島前高校が目指す生徒像

隠岐島前高校は、「グローカル人材」の育成を目標に、以下の4項目を定義しています。

  • 真理の探求に向け、協働的に粘り強く挑戦する人の育成
  • 理想を追求し、自己を高め、地域社会に貢献する人の育成
  • 進取の気象をもち、主体的、意欲的に行動する人の育成
  • 心身ともに健康、情操豊かで、他人を思いやる人の育成

 

海士町にある隠岐島前高校の高校1年生と2年生に、「リフレクションの習慣」を届けに行きました。隠岐島前高校の生徒たちは、行動する高校生なので、リフレクションの題材をたくさん持っています。このため、驚くほど、リフレクションの価値をすぐに理解してくれたことがとても印象的でした。

隠岐島前高校で生徒と過ごしたのは、2日間だけでしたが、①から④の項目は、生徒の中に染み込んでいるかもしれないと思いました。リフレクションを行った際にも、一人ひとりが、自らの意思で取り組んだことがあり、振り返りのテーマも多様でした。進取の気象を持ち、主体的、意欲的に行動することを許可されていることは、高校生の成長において、とても大切なことです。行動力に、リフレクションの習慣が加われば、経験を意味づけ、経験から学ぶことができます。また、自分で決めて行動することが許されているので、リフレクションは、自分を知る大切な機会になります。

地域共創科のカリキュラム

この春から地域共創科がスタートし、値域共創科で学ぶ生徒は、毎週金曜日は、一日地域に出て学ぶことができるようになります。

【伸ばしたい資質・能力=人生の宝物】

新学科「地域共創科」では、意思ある未来を共に創っていくために、4つの観点を大切する。

主体性:未知なる物事に対して一歩踏み出す・踏み込むことができる・踏み込むことができる

協働性・自分を活かしながら、多様な人と協働することができる

探求性:適切に問い続けることができる、適切に振り返ることができる

社会性:小さな行動・小さな越境を粘り強く続け、周囲に貢献することができる

値域共創科で学ぶ生徒たちには、リフレクションの達人になってもらいたいです。そのために、先生たちとも、リフレクションの勉強会を行いました。

 

先生の勉強会

先生の勉強会でお伝えした一番やってはいけないことは、「評価のために振り返る習慣」を身に付けさせることです。

リフレクションの習慣は、人生の宝物です。答えのない時代に、答えを見つけるために欠かせない、とても大切なツールだからです。しかし、学校では、生徒のリフレクションを評価するという動きがあります。その際に、教育関係者にお願いしたいのは、評価のために振り返るという意思のないリフレクションを生徒に習慣化させないことです。かつて、関心意欲態度の評価のために、授業中に手を挙げる、授業後に先生に質問に行く等々、生徒は、見せかけの関心意欲態度にも価値があることを学びました。しかし、見せかけが通用するのは学校社会だけで、現実社会はそれほど甘くはありません。

次回は、生徒が行ったリフレクションについてご紹介したいと思います。

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