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仮説の質を高めるリフレクション

2022.03.14文部科学教育通信掲載

経験から学ぶリフレクションの指導を繰り返す中で、新たな気付きが有りました。それは、リフレクションの質が高まると、仮説の質も高まるということです。

AARサイクル

OECDが提唱する学びの羅針盤2030は、子どもたちがトランスフォーマティブ・コンピテンシーを身につける敎育へのシフトを奨励しています。AAR(Anticipation, Action, Reflection)サイクルは、学びの羅針盤2030で紹介されたリフレクションのためのツールです。仮説を持って、行動し、リフレクションを通して学び、次の仮説に活かす。前例のない時代に必要なアジャイル思考や、プロトタイプ思考にもつながる、試しながら結果を創造するプロセスに、欠かせない思考習慣です。

 

経験から学ぶリフレクション

21世紀学び研究所は、経験学習サイクルを元に、経験から学ぶリフレクションを、5つのステップで行うことを奨励しています。経験学習サイクルは、皆さんのも御存知の通り、経験をしたら、経験を振り返り、法則を発見し、次の計画に活かすというシンプルでパワフルな経験学習のツールです。経験から学ぶリフレクションも、この経験学習サイクルを土台にしています。

 

経験から学ぶリフレクション 5つのステップ

  • 想定していた結果と、実際の結果を振り返ります。
  • 行動する前に考えていた行動計画と仮説を振り返ります。
  • 経験と感情を振り返ります。
  • 経験から学び、法則を見出します。
  • 法則を次の計画に活かします。

 

行動計画と仮説

経験を振り返る際に、行動は振り返るものの、行動計画を振り返る人は少ないかもしれません。また、その行動計画の前提となる仮説を振り返る人はとても少ないようです。しかし、実は、行動計画と仮説の振り返りが、未来を変える上でとても重要なものであることに、改めて気付かされています。

 

幸せになるために

経験から学ぶリフレクションを多くの方たちと実践する中で、「人は幸せになるために生きている」ことに確信を持つようになりました。それは、人生がすべて幸せで満ち溢れているという意味ではなく、私達は、幸せになるために行動しているという意味です。この気付きは、行動計画と仮説のリフレクションを通して得たものです。実際の結果が想定とかけ離れたものであったとしても、行動の時点では、「こうすればうまくいくはずだ」という前提で、人は行動を選択しています。

例えば、「これくらいでだいじょうぶだろう」とあるレベルを想定し、行動する時、人は、そのレベルで望んでいる結果を手に入れることができると考えています。そして、そのレベルの選定は、過去の成功体験に基づき設定されています。ヤマカンがあたって100点が取れた経験を持つ人が、次も、ヤマカンで90点は取れるだろうと、テストの準備に力を入れるのを止めるかもしれません。ところが、次のテストでは、ヤマカンが外れてしまった。そんな経験は、人生に付き物です。この2つの経験を経て、人生はそんなに甘くないと、地道に努力する大切さを学び、計画的に勉強することで、よい成績を取ることを目指すようになります。(ただし、人は幸せになるために生きているため、目の前に、ゲームなど、今の自分をもっと幸せにすることができる目的が現れると、勉強の習慣は後回しになってしまうかもしれません。これは、幸せの定義や人生の目的の話になりますので、また、別の機会で解説できればと思います。)

 

仮説に無自覚

「こうすればうまくいくはずだ」は、行動の前提にある仮説です。ところが、多くの人は、この仮説に無自覚なことが多いです。仮説を分析したり、評価したりする人はとても少ないです。もし、行動前に、行動の前提となる仮説をしっかりと点検することができたら、成功の確立が上がると思いませんか。

私達は、一日に3万5千回も決断をしているそうなので、一つひとつの決断の前提を自分に尋ねることは難しいです。しかし、自分が成功させたい、望む結果を手に入れたいと思う特別な決断に対しては、特別に扱ってもよいのではないでしょうか。その際に、計画や、シミュレーションなどを行うことも大切ですが、以外な盲点が、自分が立っている前提です。あなたが想定している「こうすればうまくいく」は本当ですかという問いかけをおすすめするのが、仮説のリフレクションです。

仮説の背景には、必ず経験を通して知っていることがあります。今日のように、変化の激しい時代には、過去の経験が通用しないこともありますから、更に、仮説の検証は重要になっています。

 

仮説のリフレクション

仮説はなにか。

仮説の背景には、どのような過去の経験があるのか。

例えば、自己紹介のプレゼンテーションを成功させるために、しっかりと練習することを計画した人には、どんな経験があるのでしょうか。

 

仮説の前提となる経験

大学の授業で行ったプレゼンで、資料づくりにエネルギーを使い果たし、発表の準備をせず本番に臨んだ。寝ずに準備したプレゼンの内容には自信があったのに、時間内にうまく説明できず悔しい思いをした。

この経験を通して、プレゼンテーションは、内容の準備のみならず、発表の準備も忘れては行けない事を学びました。また、発表は、時間の枠の中で収まるように準備しなければならないことに気付かされました。

この経験を経て、周到な準備には、プレゼンの内容やパワーポイントの準備に加えて、発表そのものを時間内に効果的に行える準備も大切であると意識するようになりました。そして、この気づきを、次のプレゼンに、その経験を生かしています。

 

AARサイクルと幸せな未来

OECDは、学びの羅針盤2030の中で、『計画的な行動と経験をリフレクションすることを通して、学習者は、物事に対する理解を深め、視野を拡大していく。AARサイクルは、個人と社会の幸福につながる学習方法』と説明しています。

AARサイクルは、前例のない時代に、未来を創造するプロセスでもあります。仮説を持って行動し、結果を検証し、軌道修正することの大切さは、今日、企業活動でも盛んに言われています。念入りな計画を作成し、計画通りに物事を推進することで成果が出る時代は終わりました。このため、一人ひとりに、より高い主体性が求められるようになりました。自ら、考え、行動し、経験から学び、仮説を組み立て行動し、必要なら軌道修正も行わなければならない。この新しい時代の仕事にも、AARサイクルは役立ちます。

 

生徒エージェンシーへの期待

学びの羅針盤2030では、生徒は、よりよい社会を創造する主体(エージェンシー)であると定義しています。誰もが、主体的に、自分と社会、今では社会は世界とつながっているので、合わせて世界を幸せにするために、様々な活動に参画し、寄与していくことになります。一人ひとりが、自分の判断と行動に意識を向けて、決断を下すことができるようになると、その結果、一人ひとりが願いを叶えることになり、また、社会全体でも、幸福度が増すはずです。

今日では、ESG投資やSDGs等 地球規模で同じゴールに向かって活動することが可能になりました。テクノロジーの進化により、生徒が、社会の一員として、よりよい社会に貢献しやすい環境も生まれています。

前例のない変化の激しい時代に生きる私たちが願いを叶えるためには、計画や行動の質に加えて、その前提となる『仮説の質』を高めるリフレクションが大切です。『PDCA&AARサイクル』の時代です。

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