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教育改革のゴール

2020.07.27文部科学教育通信掲載

OECDが提唱する教育改革のためのガイドは、多くの専門家や教育関係者との対話を通して作成している所が魅力です。成果物に、多面的な視点が含まれていて、かつ、統合されている背景には、関係者が、リフレクションと対話を積み重ねた歴史を感じます。

教育改革の芯

今日の教育改革の発端は、21世紀教育国際委員会報告書「学習:秘められた宝」です。報告書は、学習の4本の柱を定義しました。4本の柱とは、知ることを学ぶ(Learning to know)、成すことを学ぶ(Learning to do)、共に生きることを学ぶ(Learning to live together)、人間として生きることを学ぶ(Learning to be)です。この委員会の委員長が、欧州委員会委員長を務めたジャック・ドロール氏であったことから、この報告書は、ドロール報告書とも呼ばれています。ドロール報告書は、今日、グローバル企業の人材開発においても、指針としての役割を果たしています。

秘められた宝

秘められた宝の由来は、日本では、北風と太陽の作者としても有名なジャン・ド・ラ・フォンテーヌの寓話「農夫とその子どもたち」です。ある農夫には、3人の働かない子どもがいました。その農夫は亡くなる直前に、子どもたちに、畑には宝物が隠してあるから、収穫を終えたら深く掘り起こしてみるように伝えました。子どもたちは、父親の遺言に従い、畑を、隅々まで深く掘り起こしましたが、宝物を見つけることができませんでした。しかし、翌年には、今までにないほどの大豊作になったというお話です。この寓話では、主役は労働ですが、ドロール報告書では、勿論主役は、学習です。

30年後の成果物

21世紀教育国際委員会が発足した1991年から、約30年が経過した今、私たちは、OECDが発表した新しいガイド 学びの羅針盤2030を手に入れることができました。OECDが提唱する教育改革の進化を目の当たりにして、リフレクションと対話を続けることで、人間の思考がいかに進化発展していくのかを知ることができます。学びの羅針盤2030は、2003年に発表されたキーコンピテンシーに比べると、とても解りやすいです。

生徒エージェンシー

新しいガイド、学びの羅針盤では、新たに生徒エージェンシーという言葉が登場しました。エージェンシーは、聴きなれない言葉ですが、主体性を意味する言葉です。主体性は、おそらくすべての日本の学校のホームページに、必ず登場する定番の言葉なので、目新しくないと思われるかもしれません。しかし、西洋人の語る生徒エージェンシーは、日本のそれとはかなり異なることを認識する必要があります。

主体性のアップデート

デンマークのある学校では、高校生が委員会を創り、次期校長を選定します。生徒が自ら、校長先生に求める要件を定義し、候補者のプレゼンテーションを聴き、対話を通して候補者を理解した上で、最適な人材を選考します。勿論、先生も、学校の構成員として、この議論に加わります。これが、デンマークにおける生徒の自治を意味します。

日本で広める活動に従事しているオランダのシチズンシップ教育では、小学生が、学校中のけんかの仲介を行い、学校社会の紛争(けんか)を自ら話し合いで解決する共生社会を実現しています。先生が、けんかの仲介を行うのは、子どもたちだけで問題を解決することができない時のみで、それ以外の時は、子どもたちが自ら社会を創る様子を見守ります。

勿論、世界でも、学校は、校長先生が管理し、先生が教え、生徒が、受け身に学ぶという構図になりやすく、この枠組みが、これまでの主流です。しかし、生徒エージェンシーは、この枠組みを、根本的に変えていくことを求めています。

主体性をアップデートする理由

子どもたちは、なぜ、生徒エージェンシーにならなければならないのでしょうか。その背景には、大人による社会変革の行き詰まりがあると感じます。1972年にローマクラブが、成長の限界を発表し、自然資本には限りがあることを知った人類は、半世紀過ぎても、統一見解を持つことすらできず、解決策も十分なものではりません。そして、そのつけを誰が引き受けるのかと考えると、未来の成人である子どもたちですから、彼らが今から社会の課題解決に参画する意義を容易に見出すことができます。

AARモデル

学びの羅針盤では、Anticipation見通し Action行動 Reflectionリフレクション の3つの実践を組み合わせたAARモデルを生徒エージェンシーに必要な習慣と定義づけています。仮説を立て、見通しを持って行動し、その結果を振り返り、次の仮説と行動に活かす力があることが、生徒エージェンシーの条件であるとも言えます。主体的に行動し責任を取るという意味は、常に成功することではなく、行動したら、必ずリフレクションを行い、経験から学ぶことを意味します。

仮説を立って見通しを持って行動した時には、リフレクションのテーマがとても明確です。結果は、見通しの通りだったのか、異なっていたのか、その理由は何か、この経験から何が学べるか と考えることができます。しかし、もし、誰かにやれと言われたからやったという経験では、リフレクションのテーマを特定することができません。AARモデルは、生徒エージェンシーを前提としていると云えます。

時代が求める学習法

AARモデルは、実は、時代が求める学習法で、すでに、ビジネスの世界でも、広く実践が始まっています。前例のある時代には、既知情報を正確に処理し、成果につなげる仕事が主流でしたので、従来の学校教育は、ビジネスにおける生産性と直結していました。学校でよい成績を取れる生徒が、企業でも有能な社員になるという成功法則が存在しました。しかし、前例のない、答えのない時代になると、誰もが、正解を創造することが求めらるえるようになります。創造的な仕事では、自ら答えを見出すために、情報収集を行い、情報を統合し、仮説を構築することから始めなければなりません。そして、勇気をもって、仮説を試し、その結果に学び、仮説を進化させ続けなければなりません。

答えのない時代には、仮説の前提となるゴールも、自ら定義する必要があります。何を実現したいのか、その前提には、現状とありたい姿のギャップとしての課題認識が存在するはずです。AARモデルの実践において、生徒エージェンシーが前提となるのは、このためです。自ら、課題を発見し、定義することで初めて、AARモデルを活用するスタート地点にたつことができます。

AARモデルは、人間の創造性を豊かにするものですが、科学的な思考法でもあります。データに基づく裏付けのある仮説を持つことで、AARモデルの質は大きく変わります。この思考法が、学問の世界だけではなく、社会を動かす上で重要になっている背景には、我々が、複雑な難題を山のように抱える時代、テクノロジーを駆使すれば世界を大きく変えることができる可能性を秘めている時代に生きているからです。

まだ議論されていないこと

ビジネスの世界では、データを持つものが世界を制覇するという予測が、当たり前のように語られています。アマゾンは、すでに、受注前に商品を発送することができる所まで、人間の購買行動を予測することができると言われています。為政者ではなく、技術者の倫理観が世界の倫理を支配する時代に、利他の心を備えた思慮深い生徒エージェンシーを育む教育を目指すことが、教育の究極のゴールではないかと思います。

ジェンダーギャップ

2020.07.13文部科学教育通信掲載

労働人口の減少により、成長戦略の一環として始まった、女性活躍推進を皆さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

毎年、発表されるグローバルジェンダーギャップレポート2019年では、日本は、153か国中121位となっており、G7の中でも最下位です。また、アジアにおいても、106位の中国、108位の韓国よりも、男女平等が進んでいない国というのが日本の現実です。このレポートは、経済、政治、健康、教育の4つの指標で、男女の差を評価しています。日本は、健康と教育では、男女の差がなく、経済と政治において大きな差があるというのが121位の理由です。

ジェンダーギャップを埋める動きは、日本だけでなく、世界でも加速しており、女性の特性についても、様々な視点で語られるようになっています。そのいくつかをご紹介したいと思います。

リーン・イン

フェイスブックのCOOを務めるシェリル・サンドバーグ氏は、女性の課題を取り上げた本「リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲」(日本経済新聞社)を出版し話題になりました。サンドバーグ氏は、「私達女性は、自信に欠けていたり、手を挙げなかったり、乗り出すべきときに身を引いたりと、大なり小なり自制して行動してしまっている」と指摘します。そして、女性が国や企業の半分の舵取りをし、男性が家庭の半分を代表する存在となる、真の平等な世界が実現すれば、人的資本と才能の全てを取り込むことができ、国家や企業全体としてのパフォーマンスが上がると主張しました。

そのためには、女性がキャリアを積めるよう社会や組織の柔軟性を高めるだけではなく、女性自身が内面に作った壁を克服する必要があるとサンドバーグ氏は強調します。この精神的な壁は、社会的風潮によって成長の過程で自然に作られたもので、特に、成功を手に入れる男性は周りから好かれる一方で、女性は敬遠される傾向があることが、女性が積極的にリーダーシップを取りに行きにくい大きな要因だといいます。サンドバーグ氏は、世界中に、「気が強い」という言葉が存在し、それは、すべて女性にのみ使われる言葉であるとも述べています。

シェリル・サンドバーグ氏は、自分の娘が成人する頃には、成功しても人から好かれる(嫌われない)と信じられる人に育って欲しいと願い、子育て世代と共に、ジェンダーギャップをなくす社会創りにも取り組んでいます。

女性が持つ12の特性

コーチングの神様が教える「できる女」の法則(サリー・ヘルゲセン、マーシャル・ゴールドスミス/日本経済新聞出版)は、コーチングを通して明らかになった、女性の課題を解りやすく解説しています。女性が持つ12の特性は若年層では強みとして効果を発揮しますが、キャリアの次のステージに進む際に、女性のキャリアアップを阻む要因となってしまうと言われています。

  1. 自分の成果を主張しない
  2. 自分の貢献は誰かが自然と気づいてくれて、いつか報われるだろうと期待している
  3. 専門知識を重視しすぎる
  4. 人間関係を築くだけで活用しない
  5. 初日から協力者を得ようとしない
  6. 自分のキャリアよりも目の前の仕事を優先する
  7. 完璧主義者の罠に陥る
  8. 他人を喜ばせることに執着する
  9. 小さく見せたがる(矮小化する)
  10. 全てに過剰
  11. 反省しすぎる(反芻する)
  12. 周囲を気にしすぎる

アメリカの女性について書かれた本ですが、日本の女性にも当てはまることが多く、とても参考になります。

女性のリーダーシップから学ぶ7つのポイント

コロンビア大学トマス・チャモロ・プレミュジック教授は、女性リーダーを増やし、女性の声を経営や政治に反映させるために、女性が男性のように振る舞うことが必要だと言われているが、本当にそうだろうかという疑問を投げかけました。そして、プレミュジック教授は、男性が女性のリーダーシップから学ぶべき7つのポイントを紹介しました。

  1. 積極的になるべき対象がないなら、積極的になる必要はない
  2. 自分の限界を知る
  3. 変革を通じてモチベーションを高める
  4. 自分よりも他者を優先する
  5. 命令ではなく共感する
  6. 仲間を高めることに力を入れる
  7. 「恐縮です」と言うだけではなく、謙虚になれ

(ハーバードビジネスレビュー/2020.05.07)

女性活躍が進む海外では、たくさんの事例を基に、女性の課題や、女性の強みが議論されるようになっていることはとても興味深いです。日本では、サンプルが少なく、まだ、女性活躍も道半ばであり、ここまでの議論は始まっていませんが、近い将来、日本でも、このような議論が盛んになる日が来るのではないかと思います。

私の経験

女性活躍推進に取り組み始めて、14年になります。14年前に比較すれば、女性の社会進出は進み、今では、結婚し、出産しても時短で働くことが当たり前になりつつあります。

14年前には、女性がリーダーシップを発揮するという考え自体も一般的ではありませんでしたが、今では、多くの女性が、しなやかなリーダーでありたい、チームを大切にするリーダーでありたい等、自らのリーダーシップについて普通に語るようになりました。

女性の強みをリストにすると、オープンなコミュニケーション、フラットな人間関係、チームワーク、柔軟さ、ぶれない軸、完璧主義、責任感等が挙げられます。

ある海外の調査では、「採用の募集要件に、いくつ該当すれば応募するか」について男女の違いを調べたそうです。その結果、男性は、6割の要件を満たしていれば応募すると考え、女性は、100%要件を満たしていないと応募しないことが明らかになりました。日本で調査を行っても、同様の結果になるのではないかと想像します。女性が、自信を持つためには、完璧主義(100%)を少し手放し、男性のものの見方(6割)に学ぶ必要があるようです。

時代と共にリーダーの要件は変わります。カリスマ性が重視された時代は終わり、今は、チームを大切にするリーダーの時代だと言われています。その観点からは、オープンなコミュニケーション、フラットな人間関係、チームワークを重んじる女性の強みは、時代の求めるリーダーシップに活かせるはずです。女性リーダーが増えれば、忖度文化も組織からなくなるかもしれません。

ダイバーシティの推進

ダイバーシティを推進する上で、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を撲滅することが大切であるというのは、今日、世界の常識になっています。しかし、アンコンシャツバイアスは、その名の通り、無意識なものなので、気づくことが難しいです。

ダイバーシティの推進に力を注ぐGEでは、リーダーに自己認識を高めるよう求めています。その理由は、人は、自分と似た人を高く評価する特性をもっているからだそうです。リーダーが、評価における自分の偏見を理解し、意識することで、多様な人々を正しく評価することができると云います。

人間は、一人ひとり異なり、一人ひとりが多様性の一部です。男性か女性かという違いは、一人の人間の個性の一部ですが、それがすべてではありません。また、ジェンダー特性をどのアングルから捉えるかにより、その特性が強みにも、弱みにもなります。

ダイバーシティの推進のゴールが、誰もが自分らしく活躍し世の中に貢献することだとすれば、一人ひとりが本当の自分らしさを知ることが、ダイバーシティを推進する社会づくりにおいてとても大切なことだと思います。

 

多様性の心得

2020.06.22 文部科学教育通信掲載

多様性の時代になり、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくそうという取り組みが世界中で始まっています。グーグルでも、アンコンシャスバイアスをなくす活動が盛んですが、その目的は、誰もが、潜在的な能力を開花させることと言います。グーグルでは、「新しいアイディア生み出したいから、若い人を集めたチームにしよう」というと、「それは、アンコンシャスバイアスに基づく発言だよ」と注意されるそうです。皆さんは、このメッセージの問題が何か解りますか。

もし、このメッセージを、若くない人が聞いたら、その人は、自分には新しいアイディアを出す力がないと思うことが問題。その人は、自分の潜在的な能力を諦めてしまうというのです。誰かが、潜在的な能力を諦めてしまうメッセージは発しないというのが、グーグルにおけるアンコンシャスバイアスの取り組みです。優秀な人を採用し、その潜在的な能力をフルに開花してもらえれば、企業にとっても喜ばしいことです。そして、勿論、個人にとっても幸せなことです。

昭和女子大学キャリアカレッジでは、ダイバーシティの推進に取り組んでいます。また、クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育を広める活動をしています。

この2つは別な活動のように見えますが、共通点があります。それは、どちらもダイバーシティの推進のための取り組みであるということです。

オランダのダイバーシティ推進

民主的な社会と、強い市民のお手本となる国オランダでは、しっかりと子どもの頃から多様性を包摂する社会のつくり方を学びます。子どもたちに、共生社会を実現して欲しい時、日本では、「お友達となかよくしましょう」「お友達の気持ちを理解しましょう」と、すぐに他者との関係づくりを指導しますが、オランダは違います。オランダの子どもたちが最初に学ぶのは、自分の意見を持つこと、そして、ともだちと意見がちがっても、ともだちでよいということです。そこには、民主的な社会は、対立を前提とするという考えがあります。だから、対立は悪くない、しかし、対立を話し合いではなく、けんかや譲歩で解決するのはいけないことだと学びます。

ダイバーシティの推進は、主体性の推進でもあるということが、とても大きな学びでした。今、日本でも、多様な働き方が当たり前になりつつあります。しかし、組織マネジメント手法を変えていません。しかし、多様性を画一性のように管理することはできないというのも事実です。ダイバーシティの推進は、個を自律に向かわせ、マネジメント手法も、それに合わせて、セルフマネジメントへと移行していくという流れは、世界ではすでに始まっています。ティール組織は、上司という概念、ヒエラルキーという概念を捨てました。また、スクラムというシステム開発の手法では、チームが仕事の上で行う意思決定権を100%持つことになります。

画一性のレガシー

日本では、ダイバーシティの推進が進められている一方、文化的な背景もあり、画一性のレガシーがまだ健在です。違うよりも、同じ方がよいというものの見方は、根強く、人の話を聴いていても、共感することばかりを強調しがちです。「その意見は、考えてもみなった意見だ。もっと、詳しく教えて欲しい」と違う意見を見つけ、賞賛するようにならなければ、多様性が歓迎されているとは言えません。

同調圧力の中で、人は、安心して自分を出すことはできません。グーグルが、「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉通りのチームを実現するために行った調査研究アリストテレスプロジェクトでは、強いチームには、心理的安全性があることを突き止めました。心理的安全性があるチームは、メンバー全員が同じ位話をするという特徴があるそうです。ところが、心理的安全性がないチームでは、誰かがとても長く話し、外の人は聴いているというのがその特徴だそうです。多様性は、一緒にいるだけでは、イノベーションに貢献せず、アイディアを出し合う過程に多様性が生かされて初めて、価値を生むという、言われてみれば当たり前のことを、多くのチームはやれていないのです。

多様性を包摂するためには、心理的安全性を実現すること以外にも、いくつかの心得があるので、紹介したいと思います。

心得➀自分も多様性の一部である

多様性を尊重する姿勢は、誰もが持っていると思います。日本人には、他者を思いやる気持ちもあります。これは、ダイバーシティの推進において、とても心強いことです。しかし、これでは十分ではありません。皆さんが多様性を尊重する時、「私は、私と違うあなたを尊重します」と考えていませんか。これが、問題です。その理由は、自分を多様性の外に置いて、あなた自身を違いの基準にしているからです。多様性を包摂する時には、あなたも多様性の一部、相手も多様性の一部と捉える必要があります。

心得②それは事実ですか。あなたの解釈ですか

自分とは異なる多様な世界や人々を理解する際には、常に、事実と解釈を分ける習慣が必要です。なぜなら、私たちは、事実を解釈する際に自分の経験を当てはめるからです。あなたは、当然ながら、自分とは異なる多様な世界に生きている人たちの経験を知りません。彼らが、どのようなものの見方をしているのかも、知りません。だから、あなたが、事実を勝手に解釈するのは、とても危険なことです。

例えば、「女性は管理職になりたくないらしい」という男性社会の女性に対する解釈を耳にします。そんな時、私がこんな説明をしていました。「一般的に、女性には、男性のように強いヒエラルキー概念がなく、フラットなチーム概念の方が強いため、階層を上がること自体に意義を感じていないだけです。管理職になることよりも、自分に何をすることが期待されているのか、どんな成長ができるのかを理解したら、やりたいと思う女性は多いです」 おそらく、上司の皆さんは、これまで、男性部下に「管理職になって欲しい」と伝えて、「結構です」という返答をもらった経験がなく、女性部下の言葉を、過去の経験に照らし、「女性は管理職になりたくない」という解釈になったのだと思います。ダイバーシティの推進には一拍置いて、「それは事実か、あなたの解釈か」と自問することが、不可欠です。

心得③フラットでオープンである

これが最も大きな抵抗にあう心得です。多様性に、ヒエラルキーの概念を持ち込むことは本当に意味のないことです。なぜなら、多様性が一緒に存在する最大の価値が、相互学習だからです。多様性が化学反応を起こす過程は、相互学習の過程です。ところが、ヒエラルキーの中に多様性を配置すると、優は劣から学ばず、劣は優を超えられず潜在的な能力を閉じてしまいます。ハーバード教育大学院では、マインド・ブレイン・エデュケーションという脳科学と教室をつなぎ、脳科学の発展を子どもたちの学習に活かす取り組みが始まっています。脳科学者と心理学者と先生がチームとなって行うプロジェクトは、フラットでオープンなメンバーの関係性によって支えられています。

心得④対話する

対話を通して、境界線の外に出ることができなければ、同質性の高い小さな和の中に生きることになります。

ぜひ、皆さんも、多様性の心得を実践してみてください。

一瞬一生の会

2020.06.08 文部科学教育通信掲載

知性発達学者の加藤洋平さんとみずほ銀行で女性初の執行役員として活躍された有馬充美さんが主宰する「一瞬一生の会」という半年間の勉強会が、5月にスタートしました。

有馬さんが、ハーバード・アドバンスト・リーダーシップ・イニシアティブ・フェローという、ハーバード大学が主催するプログラムに参加された頃から、温めてこられた企画なので、2期生として参加させていただけることをとてもうれしく思っています。

加藤洋平さんの著書「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」(日本能率協会マネジメントセンター)にも、衝撃を受けていたので、成人発達理論を学ぶことも、とても楽しみです。

今回は、私自身も、学び始めたばかりの成人発達理論の一部をご紹介してみたいと思います。

ダイナミックスキル理論

カート・フィッシャーによって提唱されたダイナミックスキル理論は、私たちの能力がどのようなプロセスとメカニズムで成長していくのかを説明する理論です。その根幹には、「私たちの能力は、多様な要因によって影響を受けながら、ダイナミックに成長していくものである」という考え方があります。

私たちの能力は、単純な直線を描きながら発達していくのではなく、発達のスピードも時により異なり、時には退行することなどを繰り返し、紆余曲折に富むダイナミックな特性を持つものです。カート・フィッシャーが、階段のイメージ図で、発達を表すことを止めたのもこのためです。

私たちの1つの能力は、他の能力と関係し合いながら発達することも興味深いです。たとえば、「文章を書く力」は、「文章を読む力」と密接に関係し合っていて、お互いが補完し合いながら、発達していきます。この理論に従えば、自分が伸ばしたい能力を、伸ばすために、補完し合う他の能力を探し、自らの能力開発に活かすことも可能です。

最適レベルと機能レベル

最適レベルとは、他者や環境のサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。機能レベルは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる最も高度な能力レベルです。

例えば、誰かと一緒に取り組んでいたら出せる成果が、一人で行うと出せない時は、前者で発揮する能力が最適レベルであり、後者で発揮する能力が機能レベルということになります。あるいは、指導者がいる時には発揮できる能力が、指導者がいない環境で、一人では出せないという時も、前者が最適レベル、後者が機能レベルです。

カート・フィッシャーは、最適レベルと機能レベルのギャップを、発達範囲と呼んでいます。この理論で、最も衝撃なのは、この発達範囲が、年齢を重ねるごとに拡大することです。子どもの発達が大人の支援によって変わるというイメージはありましたが、むしろ、大人の発達の方が、他者の支援を必要とするというのは驚きの事実です。

他者の支援があれば到達できる最適レベルは、機能レベルよりも先行する特性を持ちます。最初は、誰かの助けが必要なことも、支援を得て、能力が発達し、やがては、一人でできるようになるということは、誰もが経験を通して知っています。このため、成人発達理論でも、

ヴィゴツキーの提唱した最近接発達領域という考え方が当てはまり、他者の助けを得れば発揮できる能力を使う機会は、人を成長させます。そしてもし、自らの成長や発達を止めたくないのなら、常に、この最近接発達領域にあるテーマと共に生きることが大事ということになります。

13の能力レベル

ダイナミックスキル理論によれば、私たちの能力は、「反射階層」、「感覚運動階層」、「表層階層」、「抽象階層」、「原理階層」の5つの階層を経て発達していくそうです。最初の2つは、成人期前に見られる発達です。

「表層階層」は、頭の中に、物事をイメージすることができる能力で、例えば、パソコンという言葉で、パソコンのイメージを頭に思い浮かべることができます。4つ目の階層は、「抽象階層」で、形のない抽象的な概念、例えば、愛情を、言葉によって捉えられるようになる力です。そして、最後は、「原理階層」ですが、これは、アインシュタインの相対性理論や、ダーウィンの進化論のような、抽象的な様々な概念をさらに高度な概念や理論に昇華させる能力で、一般の成人がこのレベルに到達することは少ないようです。

私たちの能力は、この5つの階層を経て成長していきますが、一つひとつの階層の中には、「点・線・面・立体」の成長サイクルが現れます。

➀点:単一要素段階(点を作る段階)

②線:要素配置段階(線を作る段階)

③面:システム構成段階(面を作る段階)

④立体:メタシステム構成段階(立体を作る段階)「点・線・面・立体」の成長サイクルは、自らの成長を振り返っても、イメージがつきやすいです。

ダイナミックスキル理論では、「点・線・面・立体」の成長サイクルの「点」は「立体」と重複するので、3つの成長サイクルに絞り、また、「原理階層」は特例として、残りの4つの能力の階層について、3つの成長サイクルがあると考え、「3(線・面・立体)x4(反射階層、感覚運動階層、表層階層、抽象階層)+1(抽象概念)=13」で、人間の能力のレベルを13に分類し説明しています。

 

主体客体理論

もう一つ、成人発達理論として、本勉強会で学ぶのは、ロバート・キーガンが提唱する主体客体理論です。この理論では、意識の発達を、主体から客体に移行する弁証法なプロセスと定義しています。意識の発達においては、主体が縮小し、客体が拡大するということは、誰もが、自らの発達を通して味わったことのある経験ではないかと思います。

ロバート・キーガンの提唱する理論では、生涯を通じて意識は発達するとし、その発達段階は、「利己段階」、「他者依存段階」、「自己主導段階」、「相互発達段階」に分類されます。

主体客体理論 意識の発達

利己段階では、自分の欲求や関心に支配されている

他者依存段階では、自分独自の価値体系を構築できず、社会や所属する集団によって構築された価値体系の中に生きる

自己主導段階では、自己独自の価値体系を構築できるが、自分の価値観や視点から距離を置くことができない

相互発達段階では、自己を構成するいかなるものにも同一化していないで、自己の価値体系を持ちながらも、他者の価値体系との融合を図る

(4分類は、加藤洋平氏の一瞬一生の会第1回テキストを参考に作成)

 

自分の意識の発達を客観視することは、今からの作業になりますが、過去に遭遇した人々を頭に思い浮かべると、意識の発達についても、経験知を当てはめることができるように思います。自我が芽生えたばかりの子どもの様子や、尊敬できる成人の姿をイメージすると、理解し易いです。

今回、私が、本勉強会に参加する目的は、人材育成に関与する上で、自ら成長する機会を設けることと、現在推し進めているリフレクションと対話のメソッドとその実践が、成人発達に価値をもたらすために、成人発達理論に対する理解を深めることの2つです。

第1回の勉強会では、点の数が増えて、点が線になりつつあるという段階なので、道のりは長いと感じますが、私自身が、学びの最近接領域に居ることを信じて、学び続けてみようと思います。

 

レジリエンスとリフレクション

2020.05.25 文部科学教育通信掲載

今回は、リフレクションが、どのようにレジリエンスを高める効果につながっているのかを紹介致します。

リフレクションとは、自己の内面を客観的・批判的に振り返る行為です。リフレクションの習慣を持つ人は、物事に対して、これまで通りのやり方やモノの見方を、そのまま適応するのではなく、批判的スタンスで、経験から学び、考え行動することが可能になります。

レリエンスとは、回復力、弾性のことで、レジリエンス研究の第一人者であるペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力と定義しています。レジリエンスを構成する要素は、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、つながり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ等)の8つです。そのうち、6つの要素を強化するためには、リフレクションの習慣が役立ちます。

自己認識とリフレクション

自分の思考、経験、感情、価値観を振り返るリフレクションは、自己認識を高める上で、なくてはならない習慣です。特に、内発的動機や信念につながる価値観について、自己認識を深めることは、自分を活かす上で欠かせません。

変化の激しい時代だからこそ、自分の意志と選択で、道を切り開いていくことがこれまで以上に大切になっていると感じます。多様性も増す中で、「自分が何を実現したいのか」「自分が何者なのか」を見出せないまま、変化の波に乗ってしまうと、「今、自分がどこに立っているのか」も、解らなくなってしまいます。

 

自制心

リフレクションを通して、自分の感情や思考、行動をメタ認知することで、自分を制御する力が高まります。

 

脳科学の発展により、感情が、我々の思考に大きな影響を及ぼすことが明らかになった今日、自分が感情を支配するのか、感情に支配されるのかは、人生に大きな違いをもたらすことが容易に想像できます。

 

精神的敏捷性

精神的敏捷性とは、物事を多面的に捉え、大局的な見地から対処することを意味します。困難に直面した時でも、冷静に本質的に物事を捉え、適切に対処するためにも、リフレクションが役立ちます。

リフレクションで、自分の内面を客観視し、対話のアプローチで、境界線の外にある世界から学ぶことができれば、多面的、多角的に物事を理解したうえで、適格な判断を下すことができます。

楽観性                          

リフレクションを行えば、自分自身が、物事のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかが解ります。同じ出来事に遭遇しても、可能性に注目できる時と、リスクに意識が向く時があります。心身のコンディションも、大きく影響を及ぼします。

物事は、簡単ではなく、すぐに、解決策が見いだせない環境の中では、問いと共に生きる時間は、当然長くなります。私たちは、これまで以上に、楽観的で居にくい環境にいる中で、課題解決を諦めないためにも、これまで以上に、楽観的であることが求められていることを認識する必要があります。

自己効力感

「やればできる」という自信は、逆境を乗り切る上で欠かせません。人の自信はどこから生まれるのでしょうか。幼い頃に、無条件の愛情を注いでもらった経験を持つ人は、自己効力感が高いと言われます。あなたもその一人かも知れません。でも、もし、そうでなかったとしても、自己効力感は、後天的にも高め続けることができます。その際に役に立つのが、やはり、リフレクションです。

NHKの連続テレビ小説「エール」の中で、得意なこととは、人よりほんの少し努力することが苦痛でなく、ほんの少し簡単にできることという説明がありました。とても上手に、得意なことを説明していると思います。自分の得意なことを実践する機会が増えれば、自己効力感も高まります。また、得意なことは自分にとって当たり前すぎて、気付けないこともあるので、他者からのフィードバックも有効です。

経験から学ぶリフレクションも、自己効力感を高める有効な手段です。私たちは、日々、たくさんの経験をしていますが、リフレクションを行わなければ、自分がどれだけ成長しているのか、賢くなったのかを知ることができません。経験を通して得られた学びを放棄している状態では、自己効力感を高めることは難しいです。

多くの人たちが、自分の持っていないものに焦点をあて、自己効力感を下げている様子を目にすることが多いです。矢印を自分に向け、自分が生きている証である経験をリフレクションすることで、自己効力感を高めることが可能であることを、多くの人に体験して欲しいです。

つながり

つながりを強める上でも、リフレクションと対話が役立ちます。リフレクションは、まず、自分自身とつながる力を高めます。リフレクションと対話を実践すれば、人とのつながりを深めることができます。相手の意見だけではく、相手の経験を知ることや、相手の気持ちを理解すること、そして、相手が大切にしている価値観を知ることができれば、つながりは深まります。初対面でも、相手のことをとてもよく理解することができます。

グーグルは、アリストテレスプロジェクトを通して、成果を上げるチームに共通している特徴は、心理的安全性であることを明らかにしました。心理的安全性のあるチームでは、誰もが、意見を述べることができるが、心理的安全性がないチームでは、限られた人だけが意見を述べていることが多いそうです。勿論、そのためには、フラットでオープンな文化づくりが必要になりますから、認知の4点セット(意見、経験、感情、価値観の4つに意識を向けて話し、聴く方法)を使うとよいのではないかと思います。相手を知らなければ、相手の反応も予想できませんから、本音を出しにくいです。しかし、お互いの価値観やものの見方、バックグランドが解っていれば安心して話せます。

シリコンバレーで経営者のチームビルディングを支援するコンサルタント パトリック・レンシオーニは、チームには、5つ( 信頼性の欠如 、衝突への恐怖 、責任感の不足、説明責任の回避、結果への無関心)の機能不全があると言います。そして、組織の信頼関係は、衝突を恐れる必要のない関係性を意味していると言います。このチーム理論でも、心理的安全性がないチームは、成果を出せないと言っています。

ぜひ、皆さんも認知の4点セットを活用した対話を、チームメンバーと実践してみてください。

【認知の4点セットの問い】

意見:あなたの意見

経験:あなたの意見の背景にある経験や知識

感情:経験に紐づく感情

価値観:意見の背景にある価値基準

 

レジリエンスにおける「つながり」は、人間関係のみならず、精神的なつながりも含む概念のようです。パーパスとつながるといった、より大きな目的とのつながりも、レジリエンスを助けます。

自分が、どこに向かっているのか。何のために、そこに向かうのか。何に貢献したいと考えているのか。リフレクションを通して、その答えを見出せると、クリエイティブテンションは高まり、眠っている潜在能力が目覚めます。この状態になれば、逆境を乗り越える力も、当然高まります。

信頼できるチームと、自分が心から実現したいことに取り組んでいる時には、レジリエンスも高まり、成果も上がるはずです。この好循環をつくるためにも、リフレクションを実践して欲しいと思います。

現実社会を幸せに生きるための教育

2020.05.11文部科学教育通信掲載

今から10年前に、ハーバード教育大学院では、未来の教育に関する研究会が開催されていました。ハワード・ガードナー教授を中心に、研究者が主催した会でしたが、探求型で未来の教育を創造することを目的とし、正解を前提としない研究会でした。学校の教員校長、教育委員会と、様々な関係者が集まり、教科学習、テクノロジー、脳科学、デザイン思考、21世紀スキル、倫理、グローバル、シチズンシップ、自律的学習等様々なテーマについて、インプットと対話を繰り返しました。

教育で教えていることと現実社会とのギャップ

研究会で初めて、Relevance GAP(教育で教えていることと現実社会とのギャップ)という言葉を耳にしました。教育には、2つのギャップがあるとう問題提議でした。教育関係者が、常に意識するのは、Achievement GAP(学習成績のギャップ)で、このギャップを埋めることは、誰もが使命と感じています。しかし、もう一つのギャップである、教育で教えていることと現実社会とのギャップについて、我々は真剣に考えているのだろうかという問いかけがとても印象的でした。その際に、事例に挙げられたのが、パンデミックでした。

学校社会と現実社会での成功

このギャップについて学んだ後、改めて教育を眺めてみると、これまでの教育は、学校社会での成功をゴールに企画設計されていることに気づきました。学校社会では、学力が最も重要な成功の評価軸です。その次が、部活での輝かしい貢献です。そして、長い間、学校社会での成功は、そのまま、社会での成功を保証した時期が続きました。難関大学を卒業した体育会系男子は、企業からも大人気です。

ところが、今日のように、早いスピードで世の中が変わり、社会で生きるために大人も、学び続けなければならない時代に、学校社会での成功は、社会での成功を保証することができないのは明らかです。しかし、教育を諦める訳には行きません。人生で最も成長が著しい時期に、人間の発達を支援することは、個人にとっても、社会にとっても、とても重要なことです。親は愛を注げても、教育の専門家ではありません。

その後、未来教育会議を立ち上げた時に、教育への願いを2つ掲げました。

・自立と共生が実現し、全ての人が、自分を幸せにすることができる社会をつくる。

・主体的に考え、相互に関わりあい、問題解決できる力を持つ人を育てる。

この思いは、今も変わらず、最近では、社会人育成においても、自分と社会を幸せにする自律型人材を育てることを目的に活動しています。

もう一つ、重要なこととして、時代の変化に合わせて、膨れが上がる教育への期待を、学校の枠組みの中で完結させるという前提も見直さなければならないと気付きました。そこで、未来教育会議が描いた教育シナリオ2030では、「社会と一緒に学ぶ学校」という言葉を使いました。学ぶのは子どもたちだけでなく、答えのない時代に生きる大人も学ぶという意味合いを含んでいます。

認知能力と非認知能力

10年前比べて、教育にはよい変化もたくさん見られますが、残念ながら、まだ、満面の笑顔で、現在の教育を讃えることはできません。今、私の頭を一番悩ませているのは、現在の教育が、子どもたちの非認知能力の発達に十分に貢献できていないことです。そして、これが、人間にとっても、社会にとっても最も重要な教育で教えていることと現実社会とのギャップではないかと危惧しています。

OECDの非認知能力に関する調査結果

国立教育政策研究所が2017年に行った「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」には、OECDによる非認知能力に関する調査結果について以下の通り言及されています。 その内容を引用し、ご紹介します。

OECD(経済協力開発機構)は、「Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills」 (OECD,2015)というレポートを刊行し、社会の発展及び個人のwell-beingにつながるような、我々人間が持つ様々なスキルとその教育に関する発表を行っている。

このレポートでは、人のスキルを認知的スキルと非認知的スキルに大きく整理して捉えており、後者を「社会情緒的スキル(Social and Emotional Skills)」と呼んでいる。認知的スキルは、知識、思考、経験を獲得する能力であり、獲得された知識に基づく解釈や推論などが含まれる。 一方、社会情緒的スキルは、「長期的目標の達成」「他者との協働」「感情を管理する能力」の3つの側面に関する思考、感情、行動のパターンであり、学習を通して発達し、個人の人生ひいては社会経済にも影響を与えるものとして想定されている。

レポートでは、現代社会において我々が円滑な個人生活及び社会生活を送るために、認知的スキルと社会情緒的スキルの双方を包括的に使用することが重要であると論じられている。

社会情緒的スキルも様々な社会的帰結への高い予測力を持っており、身体的健康、精神的健康、主観的well-beingの高さ、問題行動の少なさなどを予測していた。認知的スキルと非認知的スキルが、それぞれ異なる形で青少年の社会的適応や心理的適応に関係していることが明らかにされている点が注目される。また、スキル間の関連と発達に関して、例えば、14歳時点で測定された認知的スキルの高さが、その翌年の時点における認知的スキルの高さを予測することが示されており、社会情緒的スキルにおいても同様に、1時点目における程度の高さがその翌年におけるスキルの高さを予測していた。「スキルがスキルを生む(Skills beget skills)」(OECD,2015)と表現されているように、ある時点でのスキルの状態がその個人の将来のスキルの状態を予測するというパターンが分析結果から示されており、それゆえに、早い段階でスキルを高めるような教育の重要性が強調されている。さらに興味深い分析として、「非認知的スキルの状態は後の認知的スキルの状態を予測する」、すなわち、高い非認知的スキルを備えている個人は、その後にも高い認知的スキルを持つことが予想されるのだが、その逆の「認知的スキルの状態が後の非認知的スキルの状態を予測する」という関係は認められなかった。高い非認知的スキルは個人の中でどんどんと蓄積されていく性質のものであるという解釈に加え、社会情緒的スキルを高く持つ個人の方が経験を通した学習効率が良く(同じ経験をしたとしてもそこからより多くの学習をすることができる)、認知的スキルの向上にとって非認知的スキルが効果を持ちうる可能性が示されている。

現状として教育や政策に関する議論等においても、非認知的スキルは認知的スキルに比して過小評価されがちであるという。先に触れたように、社会情緒的スキルは、それ自体が持つ社会的帰結への効果のみならず、認知的スキルの向上にも効果を持ちうる重要なものである。レポートは、為政者は社会情緒的スキルを無視するべきではないと指摘し、認知能力に対する教育に加えて、非認知的能力の発達やその教育にも注目していくことの必要性を論じている。

国立教育政策研究所 平成27年度プロジェクト研究報告書 非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書

③OECDによる国際調査と教育に関するレポートより一部引用

数値で表すことができる学習成績と同等あるいは、それ以上の重要性が非認知能力の教育にあることを、自分の言葉で語れるようになりたいです。

大空小学校の勉強会

2020.04.27文部科学教育通信掲載

皆さんは、『みんなの学校』という大阪市立大空小学校の映画をご覧になったことはありますか。もし、まだ、見たことがないという方は、ぜひ、ご覧いただきたいです。

大空小学校は、児童220人のうち、特別支援の対象となる子どもが30人いる学校で、すべての子どもたちが、同じ教室で学んでいます。

以前にも、『みんなの学校』は視聴したことがあったのですが、今回は、先生や教育関係者の皆さんと、大空小学校の勉強会として、映画を視聴しました。勉強会の目的は、大空小学校から学び、実践することです。

映画を見ながら、10年前に、ティーチフォージャパンというNPOの立ち上げに尽力し、日本教育大学院大学で教員養成を始めた頃のことを思い出しました。

 

困難を抱えた子どもたちの学習支援

現在は、ティーチフォージャパンから独立し、活動を大きく発展させているNPO団体ラーニングフォーオールのスタートは、10年前の葛飾区の学習支援教室 寺子屋くらぶ でした。寺子屋くらぶで学ぶ子とどもたちは、『みんなの学校』では、しんどい子どもと呼ばれている子どもたちです。大空小学校では、彼らも、みんなと一緒に学ぶことができるのですが、普通の学校では、クラスでみんなと一緒に学べなかったり、不登校になってしまう子どもたちです。

寺子屋くらぶには、不登校の子どもも居ましたが、学校に通っている子どもも来ました。そこで、最初に、頭に浮かんだのは、「なぜ、学校にちゃんと通っているのに、中学校になっても、九九も割り算もできないのか」という疑問でした。この疑問を持ちながら、学生ボランティアと一緒に、NPO活動を推進する中で、たくさんの驚きに出会ったことを思い出します。

 

驚きの数々

まず、一番の驚きは、彼らの可能性をつぶしているのは「大人や社会の諦め」であるという事実でした。寺子屋くらぶ初日、その場を運営し、私たちに学習支援の機会を下さった本当に親身に子どもたちのことを見ている方たちが、もちろん、一生懸命な学生ボランティアをがっかりさせないようにという親切心からだとも思いますが、「この子たちは、15分机に座れたら、それで素晴らしいことですから」と我々に伝えてくれました。

ところが、九九のできない中学生も、親身に向き合う学生教師と一緒に、初日から、主体的に3時間勉強し続けたのです。もちろん、問題を次々と解く3時間ではありません。しかし、小さいステップかもしれませんが、確実に、解らないことが解るようになるという学びに、彼らが3時間取り組んだのです。

 

寺子屋初日のリフレクション

この日のリフレクションは、3つありました。

  • 九九のできない中学生(本来なら小学生の学びを中学生で取り戻さなければならない子どもたち)は、学習指導の支援を受ける機会を得ることが難しい。その理由は、支援側の大人が、彼らが勉強することを諦めているから。
  • 九九の出来ない中学生も、「本当は、勉強ができるようになりたい」と思っている。しかし、自信もないし、誰からも期待されていない。だから、「自分は馬鹿だ」と思い込み、自分を諦めてしまう環境になっている。
  • 親身に彼らに向き合い、彼らを諦めない学生ボランティアと、彼らが出会うことで、小学校からの勉強の遅れも取り戻せる。

とても大きな収穫です。子どもたちを支援する方法はあると確信しました。

 

大きな疑問と小学校の事情

寺子屋初日の最も大きな疑問は、「学校に毎日通えているのに、どうして、九九ができない中学生になってしまうのか」でした。寺子屋に通う子どもの中には、不登校ではなく、学校に通えている子どもたちもいました。ところが、それでも、学習に遅れが見られます。「どうして、学校で学べないのだろう」そう素朴に思いました。

そこで、先生たちにヒヤリングをした所、学校の授業というものは、平均的な子どもたちのレベルに合わせて行われるという説明を受けました。確かに、授業は、個別指導ではなく、一斉授業なので、レベルを統一する必要があります。また、ある先生からは、落ちこぼれている子どもたちを対象に授業を行うと、学級崩壊が起きるというのが学校の常識だとも聞きました。

彼らの話を聴きながら、寺子屋に来ている子どもたちは、まじめに学校に通ったとしても、一旦、学力に遅れがでてしまうと、その遅れを取り戻すことが難しい状態で、授業を受けているということが解りました。

先生方の話から、同じ授業を同じように受けて、成績に差が出てしまう学校の仕組みは、困難を抱える子どもたちの自己肯定感を奪い続け、やがて、自分を諦めてしまうというとても残念な教育システムが出来上がっていることが解りました。

先生は、学級崩壊を起こさないために、一生懸命頑張っているのですから、非難する訳にもいきません。しかし、間違いなく、この環境は、しんどい子どもたちにとって、望ましい環境ではありません。

 

中学校の事情

その後、中学校でもティーチフォージャパンの先生が活躍するようになり、中学校の先生方とお話をする機会を得ました。

しんどい子どもたちの学力の遅れは、中学では、顕在化しています。寺子屋くらぶに通う子どもたちのように、九九や割り算ができないなど、小学校卒業の学力が身についていないまま、中学生になっています。当然ですが、中学校で、先生たちが、彼らの学力を高めることはできません。中学校の先生方が願っているのは、彼らが中学校を無事に卒業してくれること、その次の願いは、定時制高校に入学してくれることでした。

ところが、このような状態で、定時制高校に入学する子どもたちの多くは、高校を中退してしまうのが現実です。つまり、彼らが小学校、中学校に通えたとしても、義務教育の学力を身に付けることができないのです。

それどころか、9年間、彼らは、「自分は勉強のできない、ダメな奴だ」という刷り込みのために、学校に通っているのです。大人なら耐えられない職場に、9年も通い続けるのです。

しかし、『みんなの学校』大空小学校は、違います。

 

大空小学校を日本の当たり前に

大空小学校の理念は、「すべての子どもたちに学習権を保証する」です。寺子屋くらぶの活動経験から、私も100%この理念に賛同します。

もし、私たちが、小学校と中学校を義務教育と呼ぶのであれば、そして、義務教育の学びが、社会人として生きるベースの学力を身に付けることだと定義するのであれば、全ての子どもたちに、その学びを提供するために、学校や社会、全ての大人たちに何ができるのかを考えることが大切だと思います。

寺子屋くらぶで気づかされた、大人や社会の諦めは、そもそも、義務教育に対する諦めがスタートだと思いました。その結果、しんどい子どもたちは、自分を諦め、塾に通える子どもたちは、別の意味で、学校で学ぶことを諦めています。

大空小学校では、しんどい子どもが授業中教室を歩き回っても、誰もが授業に集中できます。一人ひとりが、自分の使命を持っているからです。同時に、しんどい子どもたちに共感する力ももっているからです。

学校は何のために存在するのか。誰のために存在するのか。しっかりと、勉強会で話し合っていきたいと思います。

園児向けシステム思考教育

2020.04.13文部科学教育通信掲載

経済産業省未来の教室とEdTech研究会の実証事業で幼児を対象に行ったシステム思考レッスンを、本年度も行いました。講師は、実証事業でもお世話になった福谷彰鴻先生と、風間紗喜先生です。今回は、お二人の先生が作成してくださった報告書の一部をご紹介したいと思います。

システム思考教育のねらい

「システム」という言葉を聞くと、ITや理系の学問の印象を持たれる方も多いと思われますが、システム思考におけるシステムとは、相互に影響を与える関係性のことです。人や社会やものごとは相互につながり合っていて、関係性の中で存在しています。この「つながり」に着目して、個別のできごとや目の前のできごとといった「氷山の一角」だけに囚われるのではなく、背景にある経緯、人の思考や感情、物理的な要素など、全体の構造に目を向ける考え方を、システム思考と呼びます。

氷山モデル(システム思考のプロセス)

システム思考のプロセスは、しばしば「氷山モデル」で表されます。私たちに見えるのは、氷山の海面から突き出した1割ほどだけで、残りの9割は水中に隠れています。この目に見える部分が「できごと」です。しかし、一歩引いて見てみると、できごとは「パターン」の中で生まれていることに気づきます。この動きのパターンを生み出しているものが「システム構造」です。ルールや制度、配置などの見えやすい構造と、思考、感情、行動の習慣という目に見えにくい構造があります。システム思考では、このシステム構造を捉えることで、ものごとにより根本的で効果的なアプローチを探ります。

 

システム思考者の習慣

システム構造を探る思考を学ぶ中で、子どもたちは「システム思考者の習慣」を身に付けます。自分たちが直面するさまざまな問題に対して、ただ感情的に反応するのではなく、立ち止まり、一歩下がってものごとを客観的に捉えて話し合い、解決策を生み出していく。そんな習慣を育むのがシステム思考教育です。

本レッスンでは、システム思考者の習慣のうち、②時間と共に、どう変化するか観察してみよう、④原因や行動と結果には必ずつながりがある、⑤別の見方から考えてみる、⑫時間と共に物事が変化することを知る、を重点的に扱ってきました。

 

システム思考レッスンの構成

時系列変化パターングラフ

内容:絵本の場面で、登場人物の気持ちや、花の種の数がどう変化したかを、グラフに表しました。氷山モデルの「パターンやトレンド」を捉える習慣を身に付けることを意図しています。

意図:

  • 一つひとつのできごとだけでなく、時間の経過とともに変化するものを捉える。
  • 変化とその原因を結びつけ、起きているできごとと、それが起きたのはなぜかを考える。
  • アイディアを視覚的に表現し、人に伝える。話し合いに活用できる。

①絵本「むしゃむしゃむしゃ」 ②絵本「きりんはダンスをおどれない」

感情のレッスン(Peaceful School Programより)

内容:人の思考や感情の習慣は、システム構造の「見えにくい部分」として、私たちが体験するできごとを生み出しています。このレッスンでは、パペットを用いて「感情」という概念を理解します。自分の気持ちを認知し、理解することと、次に、周囲の人の気持ちを理解し、言葉で伝えあうことを学びます。また、自分とお友だちは違う感情を持っていて、同じ場面でも人によって違う気持ちを覚えたり、違う行動を取ることを学びます。自分自身やお友達の感情を理解することで、

意図:

  • 自分の内面の変化に気づき、自分の感情の取り扱い方を学ぶ。
  • 人の気持ちへの共感の醸成と、違いを認識し受容する力を育む。

①うれしい気持ち   ②はずかしい気持

つながりの輪(コネクテッド・サークル)

内容:「つながりの輪」は、要素のつながり、特に原因と結果の関係を可視化するツールです。さまざまな要素がどのように影響を与え合って、繰り返される動きのパターンを生み出しているかを理解します。

 

意図:

  • 「原因」と「結果」の関係性の可視化と理解
  • 一方向的な線形の関係に対し、「結果」が今度はまた「原因」となり、「結果」に影響する…といった循環の関係になっていることに気づく。

 

「つながりの輪」の例(『キリンはダンスを踊れない』より)

物語の冒頭、ダンスが苦手だったキリンは、みんなに笑われることを恐れるあまり動きがぎくしゃくして、ますますみんなに笑われ、ますますダンスが苦手になり、ついにはパーティーを逃げ出してしまいます。一方、物語のおしまいでは、自分の中に大好きな音楽を見つけて、思うように踊り始めたキリンが、みんなの拍手や喝采を受けて、ますますダンスが楽しく、そして上手になっていきます。このような物語を題材に、日常にも、社会や自然界にも多く存在する好循環、悪循環といったパターンを生み出している仕組み(構造)を考えます。

 

ループ図(因果関係ループ図)

内容:

  • つながりの輪を元に、因果関係を図示してそこから生まれる変化のパターンを考えるツールです。

意図:

  • 私たちの身の回りにあるできごとの背後に、どんなつながり(システム構造)があるか理解する。
  • 「もしも〇〇だったら、〇〇したら」、どのような変化が起きるかを想像する習慣を身に付ける。

例:身体にばい菌が入ると、熱が上がってばい菌を減らしてくれます。そして、熱が上がると汗が出て、身体を冷やしてくれるので、熱が次第に下がっていきます。

熱が出る、汗が出るといった「できごと」の背景に、私たちの身体というシステム構造が、相互につながりあってばい菌から私たちを守ってくれていることを理解します。

また、 熱をすぐに下げてしまったり、汗が出なくなったらどんなことが起きるのか? など、思考と洞察の引き出しを増やしていく効果もあります。

来年度に向けて

来年度は、5月からレッスンをスタートする予定で、今年よりもレッスンの数が増えます。日本では例を見ない幼児のシステム思考教育を実現できたのも、福谷彰鴻先生と、風間紗喜先生のおかげです。一人でも多くの子どもたちが、システム思考者の習慣を持つ大人に育ってくれることを願っています。

 

自己推進力養成ワークショップ

2020.03.23 文部科学教育通信掲載

ポジティブ心理学の専門家と協働して、「自己進化力養成ワークショップ」を開発しました。

人は、自己の弱みを改善するよりも、強みに意識を向けて、それを生かし、伸ばすことで、最大の能力を発揮することができるという信念に基づき、ドン・クリフトンが開発したストレングスファインダー(R)を基礎に、リフレクション(自己内省)のメソッドを組み合わせたワークショップです。

 

資質の診断

受講生は、ワークショップ参加前に、ギャロップ社がネット上で提供しているストレングスファイダー(R)診断を受け、自己のトップ5の資質を理解します。ワークショップでは、その資質について、リフレクション(自己内省)と対話を通して、お互いの共通点や違いに学びます。講師や他者からのフィードバックも、貴重な学びの機会になります。

ストレングスファインダー(R)では、人の資質を34分類しています。資質とは、無意識に繰り返される意見、感情、行動パターンであり、何かを生み出す力です。上位資質を磨くことで、資質を自分の強みにすることが可能です。

 

リフレクション

ストレングスファイダー(R)も、他のアセスメントもそうですが、診断結果をどのように、個人が受け止め、活用するのかが大切になります。そこで、自己のトップ5について理解を深める際に、認知の4点セットを活用したリフレクションを行います。

 

(ステップ1)資質の解説を読む

例えば、私の場合には、戦略性が最も強い資質でした。そこで、ストレングスファイダー(R)の解説書マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン著「さあ、才能に目覚めよう ~あなたの5つの強みを見出し、生かす」 日本経済新聞出版社に、記載されている戦略性についての解説を読みます。

「戦略性という資質によって、あなたは色々なものが乱雑にある中から、最終目的にあった最善の道筋を発見することができます。これは学習できるスキルではありません。これは得意な考え方であり、物事に対する特殊な見方です。他の人には複雑さとしか見えない時でも、あなたにはこの資質によってパターンが見えます。これらを意識して、あなたはあらゆる選択肢のシナリオの最後まで想像し、常に「こうなったらどうなる? では、こうなったらどうなる?」と自問します。このような繰り返しによって、先を読むことができるのです。そして、あなたは起こる可能性のある障害の危険性を正確に把握することができます。それぞれの道筋の先にある状況がわかることで、あなたは道筋を選び始めます。行き止まりの道をあなたは切り捨てます。まともに抵抗を受ける道を排除します。混乱に巻き込まれる道を捨て去ります。そして、選ばれた道――すなわちあなたの戦略――にたどり着くまで、あなたは選択と切り捨てを繰り返します。そして、この戦略を武器として先に進みます。これが、あなたの戦略性という資質の役割です:問いかけ、選抜し、行動するのです。」(同書より)

(ステップ2)アンダーラインを引く

該当する資質に関する解説を読んだ後は、文章の中から、特に自分に該当していると思える箇所にアンダーラインを引いてみます。私が選んだのは、以下の3つです。

  • 他の人には単に複雑さとしか見えないときでも、あなたには、この資質によってパターンが見えてきます。
  • あなたは起こる可能性のある障害の危機性を正確に予測することができます。
  • 問いかけ、選抜し、行動するのです。

(ステップ3)認知の4点セットでリフレクションする

次に、認知の4点(意見、経験、感情、価値観)セットを活用し、なぜ、この3箇所が気になったのかをリフレクションします。ここでは、一つだけ、リフレクションを紹介します。

意見:他の人には単に複雑さとしか見えないときでも、あなたには、この資質によってパターンが見えてきます。

経験:どんな経験がありますか。

未来の教育を創るワークショップや未来教育会議では、多様な立場の教育関係者と対話を繰り返し、教育の課題を探求しました。その際に、システム思考を使い、先生が滝つぼで溺れている教育システム(①)や、主体性を奪う教育のシステム的な課題(②)、教育と経済は双子(③)であるなどを明らかにしてきました。

感情:その経験には、どんな感情が繋がっていますか ——苦しさ

価値観:どのような価値観が、その意見や経験の背景にありますか。あなたは、何を大事にしているのでしょうか。——–課題解決のために、課題を可視化する、課題について認識を揃える、全容を俯瞰する

 

 

 

(ステップ4)価値観を理解する

リフレクションを行うと、私がパターンを見ようとする背景に、課題を可視化して、共通認識を確立することや、課題を俯瞰することが、課題解決のために必要なことだと思っていたことがわかります。私は、おそらく、課題解決のために、戦略性という資質に、投資し続けてきたようです。

 

リフレクションと多様性

このように、トップ5の各資質について、自分の経験を振り返り、自分がどのように、その資質を活用してきたのかを理解することで、資質との向き合い方を整理することも可能になります。ワークショップでは、他にも、戦略性をトップ5に含む人がいましたが、当然、夫々が、戦略性の解説の中で、自分に該当すると思う箇所も、その解説に紐づく経験も異なります。もちろん、リフレクションで明らかになる価値観も異なります。

 

診断結果が同じでも、その資質が持つ意味や、生かし方は一人ひとり異なることが、認知の4点セットを活用したリフレクションを行うと明らかになります。

これからのキャリアや人生に、強みの源泉となる資質をどう生かしていくかをより深く考える機会になります。

 

リフレクションは幸福の元

診断結果に限らず、自分の考えを深掘ってみたい時、ぜひ、認知の4点セットを活用したリフレクションを実践してみてください。リフレクションを繰り返すと、自分が何を大切にしているのかがはっきりと見えてきます。自分が大切にしている価値観は、自分を幸せにする原動力になります。また、時に、その価値観は、資質同様、使いすぎると人生の阻害要因になることもあります。リフレクションの習慣を持っていれば、そのことにも、気づきやすくなります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の人財育成(後半)

2020.0309 文部科学教育通信掲載

2月3日に、三菱総合研究所にて、DX時代の人財育成に関するセミナーで、NPO法人人間中心設計推進機構理事長 篠原稔和氏、株式会社三菱総合研究所デジタル戦略グループ主任研究員清水浩行氏と共に登壇し、人間のOS(学ぶ力、創造力等)のアップデートについて講演を行う機会を頂戴致しました。2回に分けて、その概要をご紹介します。

前半では、OSをアップデートする方法と、OSをアップデートすることが大切な理由を紹介しました。後半では、OSをアップデートする効果をお伝えします。

 

OSのアップデートの効果

OSをアップデートには、3つの効果があります。

  • 圧倒的な当事者意識が醸成される

ダニエル・ピンクの提唱する主体性 モチベーション3.0を手に入れることができます。

  • 前例を踏襲しない学びが可能になる

過去に縛られない思考の柔軟性と創造力が高まります。

  • 多様性を活かす共創力が高まる

多様性を活かす共創に適した環境を創ることが容易になります。

 

1.圧倒的な当事者意識

OSをアップデートすると、自己の内発的動機 動機の源を知ることができます。動機の源とは、あなたがやりがいを感じる理由であり、あなたを突き動かす大切な価値観のことです。

仲間と一緒にプロジェクトを成功させた時でも、嬉しい理由は様々です。競争に勝ったことが嬉しい人もいれば、みんなで頑張れたことを喜んでいる人もいます。同じように喜んでいても、実は、喜んでいる理由が、一人ひとり違います。

皆さんはご自身の動機の源を知っていますか。認知の4点セットを活用すれば、動機の源を簡単に知ることができます。あなたは、自分の動機の源を知らないと思っているかもしれませんが、実は、あなたの心は、あなたの動機の源をすでに知っているからです。私たちは、大切な価値観が満たされている時に、ポジティブな気持ちになり、その逆の場合、ネガティブな気持ちになります。とても楽しい時、どのような価値観が満たされているから楽しいのかを自分に尋ねてみてください。何度か、自分への問いかけを繰り返していると、あなたの動機の源が明らかになります。

動機の源につながるビジョンを持った時に、人の潜在能力は最大化すると言われています。

創造力も、問題解決力も高まります。動機の源は、課題を発見するセンサーの役割を果たします。動機の源の説明は、皆さんもよく知っている企業の起業ストーリーに照らして説明すると一番わかりやすいので、グーグルを事例にご紹介したいと思います。

グーグルの共同創業者ラリー・ペイジと、セルゲイ・ブリンは、テレビ広告と同じように、高い広告料を支払った企業の情報が、検索結果の上位にくる検索エンジンのビジネスモデルに大きな疑問を抱きました。

二人とも科学者の家に生まれ育ち、スタンフォード大学で研究をしていたので、ラリーとサーゲイは、情報がお金で操作される検索エンジンの世界は間違っていると思いました。

例えば、病気のお母さんのために薬を探しても、高い広告料を支払った薬品会社の薬を選んでしまう検索エンジンでは、役に立たないと思ったのです。

当時、誰もが、疑問を持つことなく、当たり前に使っていた検索エンジンを課題だと思う背景に、彼らの動機の源がありました。彼らが信じている大切な価値観があったからこそ、彼らは、「広告料をもらわないで、どうやって検索エンジンを稼働させるのか」という投資家の批判にも負けず、民主的に検索結果が一覧として表示されるグーグルを誕生させることができました。

動機の源につながるビジョンを実現するために最善を尽くしている時、人のクリエイティブテンションが最高に高まると言います。クリエイティブテンションとは、ありたい姿と現状のギャップを埋めたいという強い思いで、動機の源とありたい姿がつながっている時に、人の創造力や問題解決力が高まる理由でもあります。

             OSのアップデートに活用する認知の4点セット

 

2.前例を踏襲しない学び

前例を踏襲しない学びを実践するためには、自分の境界線の外に出る必要があります。そのためには、自分の知らない多様な世界との対話を通して学ぶ力が大切になります。そこで役立つのが、認知の4点セットです。他者の世界にある経験、感情、価値観を聴き取ることで、自分の知らない世界をより深く学ぶことが可能になります。

そのために最も大切な力は、感情をコントロールし、評価判断を保留にする力です。すぐに判断する習慣を少し見直す必要があります。

 

3.多様性を活かす共創力

創造的なチームには、心理的安全性が重要であることは、グーグルのアリストテレスという研究で広く知られるようになりました。

心理的安全性とは、周囲に素の自分を見せることを、自分自身が受け入れられる状態であり、同時に、素の自分を見せても、周囲の人に受け入れられる安心感のある状態です。

認知の4点セットで経験を振り返るリフレクションができる組織は、自分の内面、感情までも開示しており、心理的安全性を保ちやすいです。

多様性を活かすためには、オープンでフラットな文化を醸成することも大切です。文化を創るのは難しそうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。文化を支えるのは、一人ひとりの行動様式です。誰もが、理念を共有し、理念を体験する行動様式をとっているのかが、文化を創る上で決め手となります。

そのためには、誰もが、ありたい姿を認識し、自分の言動を振り返り、あるべき姿に近づこうとする努力が欠かせません。リフレクションは、文化を創る際にも、欠かせないのはこのためです。

 

対話から共創へ

共創では、自己と他人の思考に境界線がなくなります。この状態になると、多様性が化学反応を起こすことが可能になります。

誰もが、クリエイティブテンションを持ち、ビジョンを自分事化し、フラットでオープンで、心理的安全があり、評価判断を保留にして多様な世界から学べるチームになると、共創力は高まります。そのためには、リフレクションや対話力が欠かせません。

OSをアップデートするために、認知の4点セットを活用したリフレクションと対話を皆さんも、ぜひ、実践してみてください。

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