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箕面市の子ども成長見守りシステム

2022.01.24文部科学教育通信掲載

こども庁創設の準備が始まり、こどもを中心に置いた社会づくりの第一歩が始まろうとしています。名称が、こども庁から、こども家庭庁に変更されたことは大変残念ですが、縦割り行政の弊害をなくし、すべての子どもたちの成長と発達を支援する社会を目指すことは、素晴らしいことです。

 

縦割り行政の壁

NPOラーニングフォーオールの活動を通して、子どもの学習支援を行う際にも、省庁や、自治体の部署の壁にぶつかることが多く有りました。例えば、学習支援事業を行う際も、福祉の予算の場合、学校での学習支援が実施できないなど、子どもたちの事情ではなく、大人の事情で物事を推進していかなければなりません。それは、まるで、一人の子どもの一日の暮らしを、福祉と教育で区分するような発想は、人間の営みから見ると、とても不自然な在り方です。また、縦割り行政では、妊娠期、小児期を経て大人になるまで、切れ目のない支援体制を実現することがとても難しいです。

こども家庭庁創立にあたり、子どもを中心に置いた取り組みのベストプラクティスの勉強会が行われています。そこで、ベストプラクティスの代表例である箕面市の「子ども成長見守りシステム」をご紹介したいと思います。

 

貧困の連鎖を断ち切るために

大阪府箕面市の人口13万8千人。そのうち、0から18歳が2万7千人います。箕面市では、貧困の連鎖を断ち切ることを目的とし、生活困窮世帯の子どもに対して支援を行っています。多くの場合、生活困窮世帯の子どもたちに対する支援は、「せめて学校についてこられるように最低限の手当をする」という考え方が一般的のようですが、箕面市は、最低限の手当をするだけでは不十分であると言い切っています。

  • 箕面市の役割認識

箕面市では、課題が健在化している子どもだけを対象に支援を行うのではなく、今、“健全”に見える子どもたちでも、「家庭の貧困」という今後課題を抱える危険をはらむ「環境因子」のある子どもたちに目を向けて、見守り続ける取り組みを行っています。

また、最低限の支援ではなく、社会に出でる選択肢の前に立つ18歳まで、子どもの能力・自信・気概を高いレベルにまで押し上げるために、継続して切れ目のない支援を行うことが大切であると考えています。そして、それは、子どもの義務教育を担い、住民の基礎情報を持つ継続的な組織である市町村だからこそできることだと考えています。

  • 教育と福祉の融合

箕面市では、組織改編を繰り返し、現在では、「子どもに関することはすべて教育委員会で」と、すべての子どもに関連する施策を教育委員会に一元化しています。福祉と教育の役割を明確に切り分けるのが、一般的な考え方なので、とても先進的な取り組みです。教育と福祉が融合することで、子育て支援と母子保健の融合が進み、就学前の子どもを一元化して、幼稚園、保育園、在宅保育のすべての0~5才児を教育委員会で一元的に見ることができる体制を整えることができます。また、その前提として、子どもの貧困の連鎖の根絶は、敎育大綱における方針に位置づけられ、組織全体の重点事項として取り組まれています。

  • こども成長見守り室

平成28の構造改革に合わせて敎育委員会の子育て担当部門に、新たに「子ども成長見守り室」が設置されました。子ども成長見守り室は、子どもに関する市役所内に分散している情報を集約するハブとしての機能を果たします。また、子どもに関する情報を定点観測し、支援の必要な子どもを見つけたり、支援をしている子どもの変化をおとなになるまで追い続けて、随時、必要な支援を行うために、市役所内の司令塔の役割を果たします。

こども成長見守り室が中心となり、市内の小中学校30校が、年2回のシステムの情報更新と、見守りシステム活用会議を実施し、子どもの状況のフィードバックを行うなど、情報共有と連携が進められています。

  • 子どもを支援するためのデータベース

子どもの支援を行うためのデータベースには、①親の経済的困難を想定できる情報、②経済的困窮を要因として発生している現象の2つがあります。

子どもの状況が見えるが根本にある貧困が見えない情報

  • 学力・体力調査結果
  • 生活状況調査結果
  • 日常の行動・衣服などの状況
  • 学校検診・乳幼児検診の結果
  • 虐待に関する通報・対応状況

家庭の困窮は推定できるが子どもの状況が見えない情報

  • 生活保護の受給状況
  • 児童扶養手当の受給状況
  • 保育料算定時の所得状況
  • 給食費の滞納状況
  • 就学援助の受給状況

子ども個人をキーに名寄せをすると、子どもを支援するために必要な情報が明らかになります。

  • 見守りが必要な子どもが見えてくる(経済的困窮)
  • 支援が必要な子どもが見えてくる(経済的困窮と子どもの変化)
  • 支援を受けている子どもの現状が分かる(親の状況と子どもの状況)
  • 支援を受けている子どもの経年変化を追跡できる(子どもの変化と集団の変化)

・子ども成長見守りシステムによる判定

子ども見守りシステムでは、生活困窮判定、学力判定、非認知能力判定の3つの判定を行い、3つの要素を統合して子どもの状態の総合判定を行います。判定は、年に2度行われ、それ以外にも、必要に応じて、個別に判定を行います。

2018年後半の判定では、0歳から18歳の子どものうち、4774人が見守り・支援の対象としてリストアップされ、そのうち462人の小中学生が、重点支援が必要と判定されました。しかし、そのうち116人(25%)は、学校などでは見守りの対象になっておらず、ノーマークの子どもたちだったそうです。

ノーマークの子どもたちは、学校で、低学力であることは認識されていても、特に目立つことがなく、特に気になることがない場合には、「おとなしい子ども」という認識で、学校現場では、特に支援が必要な子どもであることに気づき難いようです。

子ども成長見守りシステムでは、学力偏差値、非認知能力の一部の数値が乱高下している等の異常値を見つけることができるため、学力や気持ちが不安定であることがわかり、学校現場では気づけない、支援の必要な子どもを特定できたそうです。

最近では、政府もDXを奨励していますが、箕面市の子ども成長見守りシステムは、まさに、データ駆動型行政システムのモデルケースだと思いました。

 

  • 個人情報保護条例への対応

子ども成長見守りシステムを実現するためには、個人情報保護条例による「実施機関のかべ」と「収集目的のかべ」という2つの壁を取り除く必要があったそうです。そこで、平成27年度に条例を改正し、切れ目のない支援を実現するために情報共有ができる環境を整備しました。

また、平成24年度から、子ども達一人ひとりの状況を、学力、体力、生活の観点で調査し把握するステップアップ調査を実施し、見守りや支援を受けている一人ひとりの子どもの変化を把握しています。調査結果は、支援の効果を評価するために活かされ、支援の見直しにも活用されています。

 

箕面市のさらなる願い

高校との情報共有を、市町村単位で行うことが難しく、現在の仕組みでは、中学校を卒業した子どもたちの状況を把握することができないことが課題だといいます。

多くの自治体では、中学校を卒業するまでの子どもたちの情報は一元管理されておらず、支援を必要とする子どもたち全員にリーチすることが困難な状態です。箕面市の事例が、日本中に広がることを期待したいです。

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