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就活生のためのリフレクション講座

2021.01.25文部科学教育通信掲載

就活生を対象にリフレクション講座を始めました。就活生が、キャリアを選択する上で欠かせない自己認識を深めるためにリフレクションを学びたいというご相談を頂き、始めた講座です。

 自分を知るリフレクション

メタ認知のためのメソッドを活用し、リフレクションを行うと、自分が何者なのかを理解することができます。人生で印象に残った経験を振り返ると、自分が何にこだわり、どのような経験を大切にしてきたのかを俯瞰することができます。20年間の人生の歩みの中で、思い出に残る出来事、嬉しかったこと、辛かったこと等を振り返ることで、自分を知ることができます。

感情と価値観の関係

私たちは、日頃、価値観レベルで考えることが少ないです。大人もそうですが、学生も同様に、学校教育で、価値観を扱うことが少ないため、「価値観はなにか」と問われると、困ってしまいます。しかし、嬉しかったこと、悲しかったことなど、出来事を尋ねれば、簡単に答えることができます。出来事を題材にリフレクションを行えば、実は簡単に、価値観を見出すことができます。学校の合唱祭で優勝した出来事を、テーマに選んだとしても、みんなと頑張れたことが喜びの源泉である場合も、競争に勝つことが最高という場合もあります。感情の背景には、価値観があります。感情がポジティブな時、価値観は満たされていて、ネガティブな感情になった時には、自分の大切にしている価値観とは異なる価値観が優先されていると感じているはずです。

 なぜ、なぜ、なぜ

なぜを5回繰り返すことが、思考を掘り下げることができると云いますが、リフレクションでも、同じことが云えます。合唱祭で優勝して楽しかったのはなぜか。みんなと頑張れたから。Why➀なぜみんなと頑張れたからうれしいの? 練習をサボりたかったけど、凄い頑張ってた子がいて、その子のパワーに影響を受けた。Why②どんなパワー? その子は、理想の音を心に持っていて、理想を手放さなかった。Why③理想って? 全員の音が揃っているのか、普通なら上手といってもいいレベルでも、彼女だけ、音のズレに気づいて、何度も、何度もやり直しを求めた。その過程で、みんなの心が合わさった感じ。Why④大変だったと思うけど、どんな気持ちだった? 誰もが、声を合わせることに必死になって、集中力があがり、最初は音が合っているかどうか、みんなわからなかったのに、最後には、誰もが、1ミリの音のずれに気づけるようになった(笑) why⑤この練習の思い出のどこが一番楽しかったの? みんなで一つのゴールに向かって、進化に挑戦したこと。

Why5回で明らかになった価値観

みんなで頑張ることもうれしい。一人ひとりがゴールを自分事にした状態で、共通のゴールの実現に向かっていること、そのゴールが簡単ではなく、挑戦がそこにあること、ゴールを達成するために、進化が求められていること等が、大切な価値観であることに気づくことが出来ました。

就活のヒント

就活は、人生で初めて行う大きな意思決定です。終身雇用の時代ではなくなり、大企業からベンチャー企業まで選択肢が広がる中で、外から眺めて企業を理解し、就職先を選ばなければなりません。できれば、最良の選択、最良の決断をしたいと考えれば、考えるほど、正解が何かわからなくなるというのが正直な所ではないでしょうか。

そこで就活という意思決定のためのヒントもお渡ししました。自己認識、事業、人、企業文化、働き方、社会、時代、学べることの8つの視点です。

 【自己認識】

好き、得意、志向特性、興味関心、憧れ、キャリアビジョン、ワークライフバランス、
暮らす場所、仲間

 人生の意思決定ですから、自分を起点に考えなければなりません。自己分析が大切なのもこのためです。自分の嫌いなこと、不得意なことが求められる場所に居ても、人は幸せになれません。同時に、ワークライフのバランスのとり方や、暮らす場所についての希望があるのであれば、それも明確にしておくことが大事です。海外に行きたいのなら、海外展開をしている企業を選ぶ必要があります。一緒に働く人が、苦手なタイプばかりだと、仕事そのものが好きでも、おそらく、充実したキャリアを構築することが難しいかもしれません。

【事業】

パーパス製品・サービス規模収益性独自性ブランド市場地域

次は、会社と事業の評価です。この会社が好きとか、この会社はいい会社だという時に、何を見ているのかを点検してください。その会社の存在理由なのか、製品やサービスなのか、規模や収益性なのか、その企業の持つ独自性やブランドなのか、誰がお客様なのか、どんな地域に進出しているのか。企業の魅力を多面的に理解することも大切です。

【人】

人材特性(仕様)人材のスタイル(社風)市場価値(評価)中途採用・出戻りの動向

ダイバーシティ推進・女性管理職比率の推移

 人生の最初に就職する会社は、人間の職業観にとても大きな影響を与えると云われています。このため、その会社に入ると、どのような仕事のスタイルを身に付けることになるのかを知っておくことが大切です。また、終身雇用が終焉した今日、その会社で働いている人たちは、転職市場でどのような評価を得ているのかを知ることも大切です。

最近では、多様性を重んじる企業が増えています。中途採用や一度辞めた社員の再就職を歓迎するような風土がある会社であれば、多様性を大切にしようとする姿勢が見えます。女性管理職比率を上げるために、どのような施策に取り組んでいるのかは、女性にとっては重要な指標かもしれません。

 【企業文化】

理念、創立の精神、創業者/経営者の特性

理念がしっかりとしている会社であれば、その理念が、自分にとってどんな意味を持つのかをしっかりと考えることが大切です。

 【働き方】

ジョブ型リモートワーク、兼業、副業

 現在進行中の働き方改革の取り組みは、100社100通りと云ってもよいかもしれません。これから本格化する働き方改革に対ししてどのような意識で臨んでいるのかを知っておくことで、理想のワークスタイルを実現することができます。

 【社会】

ESG、SDGs 統合レポート

 SDGsに代表される持続可能性に対する企業の取り組み姿勢は、企業の未来志向度を表しているとも云えます。HPで紹介されている取り組みをチェックしてみると、企業の取り組み姿勢を知ることができます。

【時代】

時代の創造/時代への適応

時代が大きく変化する中で、企業は大きく2つに分類することができます。時代を創る企業なのか、時代の変化を追いかけている企業なのか。そのどちらに身を置くのかは、好みの問題ですが、どちらなのかを知っておくことは大切です。

【学べること】

バリュービジネスモデルスキルセット経験業界人脈

変化する時代にキャリアを考える上で、最も大切なことは、「何を学べるのか」だと思います。どのような価値基準や行動規範を身に付ける企業なのか、どのようなビジネスモデルを学ぶのか、どのような経験を積み、どんなスキルを身に付けるのか、どのような業界について学び、どんな人脈を形成することになるのか。

学びの観点も、キャリアの選択において大切にして欲しいと思います。

大学生の皆さんには、幸せなキャリアの選択をし、自分らしく、キャリアを積み、楽しく充実した人生を生きて欲しいと思います。

 

オンライン化への適応

2021.01.11文部科学教育通信掲載

コロナ禍で、会議、研修、セミナー、ワークショップがすべてオンライン化して、半年が過ぎました。皆さんは、この変化をどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

オンラインのコミュニケーション

オンラインでいきなり初対面という出会いもたくさんあり、名刺交換ができないことに不便を感じます。しかし、オンライン初対面でも、自己肯定感が高く、自分をよく知っている人や、コミュニケーション力のある人とは、すぐに親しい関係になることができます。お人柄というものは、オンラインでも伝わるものであることが解りました。

あるプロジェクトでは、コロナ禍でもリアルな会議を続けています。リアルでもなかなか会話も弾まない会議です。この会議を、オンラインでファシリテーションして欲しいと言われたらと想像してみると、「ちょっと無理」という心の声が聞こえてきました。ある研修講師が、「オンラインでコミュニケーションに問題が出てきているというのは嘘です。リアルに場を共有していただけで、リアルにオフィスで時間を過ごしていた時からコミュニケーションの問題は存在していて、その問題がオンラインになり露呈しただけです」と厳しくお話されていたことを思い出します。

ZOOMは民主的

インターネットは、世の中を民主化するツールであるということは、以前から言われていたことですが、ZOOMを体験して、民主的であることを実感します。オンラインの会議では、社長も部長も平社員もみんな同じように画面に映ります。席次も自分で変えられますから、社長が常に中心に存在する訳ではありません。話している人の顔は大きく映っても、地位によって、画面に映る顔のサイズが変わることはありません。

私は、女性なので、これまでたった一人の女性という立場で会議に参加することが多くありました。例えば、100人中女性1人という会議の場では、場の空気を読み、少し緊張感が生まれていたように思います。ところが、ZOOMになりますと、場の空気がないのです! これは、ジェンダーの問題だけでなく、部屋に入るだけで他者に圧のようなものを感じさせていた人の圧も、ZOOM画面では届きません!リアルな会議であれば、その人の存在が、部屋全体の空気を換える存在でしたが、オンライン会議では、画面上の1人として存在するだけです。

ZOOMでグループワークをする時には、全員がちゃんと話すことができます。リアルなグループワークでは、誰か一人がしゃべり、聞き役に回る人もいたように思いますが、オンラインでは、全員が話すようになります。誰もの顔が画面上にあり、話していない人は誰かを誰もが意識できるからだと思います。私は、講師という立場で、グループワークを皆さんに実施していただくことが多いのですが、ZOOMになって初めて、彼らが本当に何を話しているのかを聞かせていただくことが出来ました。これまでは、一人だけ、立ったまま、グループの話を横で聞くことしかできなかったのですが、ZOOMに入れば、一緒に座って話を聴いている感じです。彼らが何を考えているのか、生の声が聞こえます。講師が、グループワークに入っても、誰も遠慮する様子もなく話してくれます。ZOOMが民主的なツールだからなのだと思います。

会議の数

会議がオンラインとなり、時間の使い方が変わりました。これまでは、移動の時間を含めると、訪問などを含む会議であれば、午前に一つ、午後に2つと、一日3つ位しか入れられなかったのではないかと思います。ところが、会議がオンラインになると、会議の数を無限大?に増やすことが可能になります。これまでは、目上の方に、オンライ会議でお願いしますということは失礼に当たりましたが、今では、オンライン会議も、会議の部屋を選ぶのと同じ位当たり前の選択しになりました。これには、良い面と悪い面があると感じます。よい面は、移動という無駄がなくなったこと。CO²の排出量も削減できます。悪い面は、移動という気分転換の時間が消え、運動不足になることです。また、移動という空きスペースが、発想を広げたり、意外なものに遭遇したり、自然と触れたり等、色々な経験をする場になっていたということに改めて気づかされました。最初は、オンライン会議があまりにも便利で、時間のある限り、予定を埋めていたのですが、そのスタイルは危険であることに気づきました。そして、画面の前に1日中座り、会議を続けることは、意図的に避けなければならないことを学びました。パソコンと人間が同じ様に働くことはできません。

オンラインプレゼン

オンラインでも、とても素敵なプレゼンをされる講師のお話を聴く機会がありました。背景にもこだわり、カメラ目線も決まっていて、画面の構図も完璧です。休憩時間には、音楽が流れ、コーヒーブレイクにも癒しのための工夫が見られます。完璧なオンラインの講義とは、こういうものかと、大変勉強になりました。そして、改めて自分のプレゼンを見直し、恥ずかしく思いました。2021年には、少し改良を加えていきたいと思います。

オンラインは、リアルよりも、プレゼンを聴いている方の体験が薄くなるため、聴衆の関心を引き付けることが難しいと云います。このため、最低限注意しなければならないことは、目線をカメラに向かって真っすぐ自然な角度に合わせることだそうです。カメラをまっすぐ見ることで、相手の顔を見て話す状態になります。照明の明るさやマイクなどに、こだわる方もいるようです。ZOOMの背景も大切になります。リアルでは、身だしなみが大事と言われていましたが、オンラインになると、また、違った配慮が必要になることがとても興味深いです。

メラビアンの法則によれば、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%なので、画面の背景や、自分の顔や目線に意識を向けることは大切なことです。同時に、聴覚情報にも、注意を払わなければなりません。そこで、ポイントとなるのが、緩急だそうです。注意を惹きたい時に少し話すスピードを落とすなど、話すスピードを変えて、変化をつくることで、聴衆が注意を向けるよう促すことができます。声の大きさや高さを変えることも、同様に、聴衆の注意を喚起するために役立ちます。オンラインに移行することで、誰もが、新しい自己表現の力を身に付け機会になっています。

対話力

主催している21世紀学び研究所では、意見だけではなく、その背景にある経験、感情、価値観まで含めて、伝え、聴き合う対話のコミュニケーションを広める活動をしています。この対話のアプローチが、オンラインになり、とても役立つというお言葉をたくさん頂きました。初対面の人でも、この対話を実践すると、どんな経験の持ち主で、何を大切だと思っているのかを知ることができるからです。

私も、意見、経験、感情、価値観を活用して、オンライン初対面の人間関係の構築に挑戦しています。一緒に暮らしたことも、仕事をしたこともない他人のことを知るということは、簡単なことではありません。特に、異なる経験を持っている人のことを知ることは、難しいものです。そんな時にも、意見、経験、感情、価値観の4つを聴き取るように心がけてみてください。そして、ご自身も、この4つを伝えてみてください。たった15分の対話でも、相手をよく理解できたと感じることができるはずです。

これからも、オンライン化に適応し、進化を遂げたいと思います。

ブルーミング実践コミュニティ

2020.12.28文部科学教育通信掲載

ブルーミングとは、花が咲いている状態のこと。人が夢を叶えている状態を、花にたとえて、ブルーミングと名付けることにしました。そして、年明けから、ブルーミング実践コミュニティを立ち上げることになりました。

実践と相互学習

参加者は、ブルーイングの手法を学び、自組織で実践し、その結果をコミュニティに共有する使命を持ちます。コミュニティは、お互いの実践事例を通して、学びを深める、リアルなアクションラーニングの場です。組織開発やリーダーシップ開発では、知識のインプットは、学びの2割位に当たり、実践を通して試行錯誤する中で得る学びが、学びに占める割合は8割ぐらいではないかと思います。この割合は、人によって異なるかもしれませんが、知識のインプットだけでは、学びを手に入れることができないというのは誰にとっても真実です。このため、アクションと共に欠かせないのがリフレクションです。

経験の意味付け

経験をどのように捉えるのかは、個人のものの見方により決まります。多面的に状況を捉える上で、知識のインプットが役立ちます。例えば、「リーダーシップは他者に与える影響力のことで、その評価は受けて主導であり、自分が意図を持ち、相手に働きかけ、相手がその通りに主体的に反応してくれたら、リーダーシップを発揮したと云える」という知識があれば、意図を持ち、相手に働きかけ、相手の反応に注意を払い、その結果を前提に、自分の言動ヲ振り返ることができます。リフレクションでは、結果の振り返りだけでなく、そのために、自分がどのような働きかけをしたのか、その前提にどのような仮説を持っていたのかを振り返ります。知識があることで、リフレクションの的を的確に絞り込むことができます。

多様性の価値

実践学習において、経験を振り返るリフレクションは、欠かせません。しかし、誰もが、起きた出来事のすべてを俯瞰的に捉えることはできず、経験を振り返るリフレクションでは、多様な経験を持つメンバーの存在が欠かせません。他人のレンズ・ものの見方を借りることで新しい学びを手に入れることが可能になります。例えば、アクションの前提となる仮説は、過去の経験に基づく知恵で、当人にとっては、空気のように当たり前のことになっている場合が多く、自分では気づくことができないことも多いです。そんな時に、「どうして、このアクションを選んだのですか」と誰かが質問を投げかけてくれることで初めて、「自分が何を前提にしていたのか」と、過去の経験に、その答えを探し始めることができます。

チームダイナミックス

チームダイナミックスとは、個人がチームに与える影響、チームが個人に与える影響のことです。どのチームにも、特有のチームダイナミックスがあり、指導者は、そのダイナミックスに責任を持たなければなりません。一人ひとりが、その個性を最大限発揮し、全員がリーダーシップを発揮するチームにすることができると、学びが最大化します。誰かが遠慮して本当のことを言えない状況の中では、潜在的な学びが失われてしまいます。同時に、テーマが同じでも、メンバーの実践学習の様子が異なり、また、チームダイナミックスもチーム特有のものなので、ワークショップは決して予定調和で終わることがない所が、講師にとっても魅力です。ワークショップは、いつも、驚きの連続で、飽きることはありません。

コミュニティで学ぶこと

コミュニティで学ぶことは、以下の通りです。1か月に一つのテーマを掲げ、その実践を通して学びを深めて生きます。

  • 動機の源を知る
  • なりたい自分を見つける
  • 対話と傾聴のスキルを身に付ける
  • 経験から学ぶリフレクションの質を高める
  • 自己変容のスキルを磨く
  • ブルーミングを支援する人になる
  • ブルーミングに相応しい環境を創る
  • 学習する自律型組織を創る
  • 組織開発に取り組む

主体性を育むということ

ブルーミングは、花が咲いている状態のことです。そのためには、「自分が何者なのか」を知り、「なりたい自分を見つける」必要があります。生きていれば、小さい単位では、常に、私たちは、この問いに答えているのですが、人生やキャリアという単位になると、簡単に明快な答えを手に入れることができません。

デンマークやオランダを訪れると、幼児期から、「自分が何者なのか」と「なりたい自分を見つける」ために、大人が、子どもに対してブルーミングを自然に行っていることが解ります。例えば、オランダでは、幼稚園の遊びのスペースが、マルチプルインテリジェンス仕様になっていて、言語、算数、音楽、絵画等のコーナーが用意されています。勿論、お庭遊びや植物のコーナーもあります。そして、子どもたちは、毎日、どこで遊ぶのかを選びます。私が訪問した園では、子どもたちは、コーナーが絵かれているタペストリーに、自分の名前のついたカードを置き、「自分の計画を表明してから遊ぶ」というのが日課であると教わりました。先生は、その記録を持ち、子どもたちの特性を把握したり、時には違うコーナーで遊ぶことを提案します。この小さい積み重ねが、「自分が何者なのか」を知る大切なプロセスなのです。

就活と自分探し

日本では、残念ながら、幼児期から、その子の特性を見るという習慣がなく、学力、偏差値、部活の選択が、子どもを捉える視点となります。しかし、人間の個性の複雑性を、この3つの視点で把握することは不可能です。そして、就活生になると、いきなり、自分が何者なのかを説明するために、様々なアセスメントを実施し、自己認識を深める実践が始まります。しかし、就活対策で行う自分探しのゴールは、就活の成功であり、自分を知り尽くすことではありません。学生の話を聴いても、「自分は何者か」に対する答えを見出せていないと感じます。

学校教育にもブルーミング

VUCA時代に入り、安定と幸福の象徴であった大企業に異変が見られます。高い偏差値と学歴を手に入れた人たちだけが、手に入れられた幸福と成功は、大学卒業後に就職する企業選択に繋がっていました。だから、学力や偏差値で子どもを評価することが、正しく合理的な幸福の追求方法でした。しかし、この方程式が通用しなくなった今日、もし、親や学校や塾が、このもの差しで、子どもたちの教育に当たっているとしたら、とても恐ろしい間違いを犯していることになります。

こう話すと、インターネットの時代になり暗記はいらないと、高学歴者の多くが気軽に語ります。しかし、これも大きな間違いです。インターネットの時代だからこそ、検索能力と、検索結果を読み解く力を磨く必要があり、そのためには、前提となる知識が欠かせません。世界中の大学の研究成果を手に入れることはできても、それを理解できるかどうかは、土台となる知識の質と量により変わります。興味を持って、探求し、学んだことを実社会に活かしていく学び方と共に土台となる基礎学力をしっかりと身に付けることが、本当に大切な時代です。

いつの日か、ブルーミングが学校教育の当たり前になることを願って、まずは、社会でブルーミングの実装を試みたいと思います。

ブルーミングの勧め

2020.12.14文部科学教育通信掲載

オンライン研修会【祝!JobPicksローンチ】自分のOSをアップデートする方法 〜自分と世界を幸せにするために学び続ける「自立型人材」を増やす〜  を、開催致しました。前半は、私の方から、21世紀学び研究所の取り組みを紹介させていただき、後半は、JobPicks編集長 佐藤留美氏と代表世話人株式会社の杉浦佳浩氏と対話を行いました。

NewsPicks副編集長でもある佐藤留美氏は、大学生の就職活動や、20代のキャリア選択を支援するためにJobPicksという新しいメディアを立ち上げられています。厚労省が「未来の働き方2035」レポートで考察したテクノロジー、社会、働き方の変化が現実味を帯びていく中で、若者が、自分らしさを大切に、充実したキャリアを構築するために、JobPicksの果たす役割はとても大きいと思います。

代表話人株式会社の杉浦佳浩氏は、年間1000人を超える経営者と会い、企業の事業展開をサポートしたり、人をつなぐお仕事をされています。50歳までのキャリア経験を活かし、独立された杉浦氏は、人生100年時代の働き方を実践するロールモデルとも言えます。

研修会の目的 

杉浦佳浩氏が、研修会をご案内する際に発信してくださったメッセージは以下の通りです。

「失われた30年」が当たり前のワードとなっている現代、しかしながら本来は【失わせた30年】と自覚・自責を持つべき昭和な人々の責任感の無さがまさに引き起こしたことと感じます(自戒も含めて)。企業、組織、ビジネスパーソン全てが過去の成功体験(昭和的価値観)にしがみつき、【振り返り】の大切さに気づかず実行せず、同じ過ちを繰り返す(変化に取り残されれている)。まさに変化についていけない自身の【OS】をアップデートできていないことが大きな問題です。そこで講師の熊平氏から、これまでの常識に頼らずに自分自身と対話しながらOSアップデートする方法を学び、自立型人材の育成の一助になればとこの機会を企画いたしました。

またこの企画は、10月にローンチする新しい仕事メディア【JobPicks】スタートにも連動した企画となっており、新メディアが世の中に広がることで自立した人材が増え、自分で選択できる職、考え方、捉え方の多様化を促し、そして【振り返り】により自身の人生を深め、変化に柔軟になり人生を楽しく歩み続けることを願っています。

ブルーミング

本企画に当たり、わかりやすく、OSをアップデートする方法をご紹介するために、ブルーミングという言葉を使うことにしました。ブルーミングとは、花が咲いている状態のことです。人が夢を叶えるプロセスを、植物に例えました。種は、動機の源。誰もが、心の内に秘めているモチベーションの源泉です。ブルーミングの最初のステップは、自分を突き動かす大切な価値観を知ることです。

新卒一括採用の制度を持つ国は、韓国と日本だけという話を聴いたことがあります。企業の人事制度が、メンバーシップ型からジョブ型に移行する中で、新卒一括採用にも、少しづつ変化が現れています。大学受験と就活で成功を収めれば、生涯安泰という時代が終焉した今日、若者が、自分の動機の源を知り、活かす道を見出すことができれば、自分らしく、キャリアを積み上げていくことができるのではないかと思っています。

動機の源を知るためには、メタ認知力が必要になります。自分の思考と感情を俯瞰することができるようになると、自分が何に突き動かされているのか、自分が何を望んでいて、何が課題だと捉えているのかを知ることができるようになります。その結果、自分がやりたい事、やりたくない事を、自己認識できます。しかし、自分の物差しではなく、偏差値的な物差しで、キャリアを選択する若者も多く、その結果、キャリアの選択に迷うケースも多いようです。

種を植える

動機の源が解れば、次は、自分が咲きたい場所に種を植え、水をやります。この際に、大切な役割を果たすのが、周囲の環境です。云われたことを云われた通りにやることだけを期待される環境では、種は芽を出すことができません。自分の動機の源を活かし、ありたい姿と現状を埋めるために、自ら行動し、学び続けることが奨励される環境と成長を支援してくれる人の存在が、水やりに当たります。

新人は、勿論、まず、云われたことが遂行できることが大切ですが、同時に、マシーンではなく、一人の人間として組織に存在していると感じられることがポイントです。大企業の一員になれば、誰もが、代替可能なことは事実ですが、職場の人間関係が充実していれば、誰もが、自分がコミュニティの一員であると感じることができるはずです。最近では、社員の仕事に対してポジティブで充実した状態を示すエンゲージメントという言葉をよく耳にしますが、エンゲージメントにおいても、その7割は、人の気持ちに依存すると云われています。気持ちよく働き、成長できる環境に植えた種は、すくすくと育つはずです。

すくすくと育つ

出た芽が、すくすくと育つために鍵を握るのが、リフレクションの習慣です。リフレクションの習慣を持つ人は、現状とありたい姿のギャップを常に把握し、ありたい姿に向かって行動し、その結果をリフレクションし、次の行動計画に反映させます。時には、自分自身が、前進の障害となっていることに気づき、軌道修正をすることができれば、ありたい姿に到達することが可能になります。ありたい姿に到達できない時には、現状の見立てとありたい姿に向かう道筋が間違っているかどちらかです。課題に直面した際に、一番難しいのは、自分自身を客観視すること。特に、自分の思い込みやものの見方にある課題を特定することです。壁にぶつかった時に、壁が何かを考え続けるよりも、自分のものの見方を点検する方が懸命なのですが、このプロセスを一人で行うことは難しく、他者との対話が役立ちます。

フィードバックを活かす

成人発達理論でも、人は他者の力を借りることで大きく成長できると云います。他者からのフィードバックで、自分の盲点に気づくことができ、新しい視点を手に入れることができます。対話を通して、自分の境界線に出る習慣を持てば、自分の知らない世界から知恵を授かることも、容易です。この際にも、忘れてはいけないのは、現状とありたい姿の点検です。自分の動機の源とありたい姿と現状の3つを、常に俯瞰できることが、ゴールを見失わないために、とても大切なことです。そのためにも、あなたのビジョンを応援してくれる仲間の存在が欠かせません。

皆さんも、ブルーミングに取り組んで頂ければと思います。

レジリエンスの力を高める

2020.11.23文部科学教育通信掲載

VUCA(複雑で曖昧、不確実で変化の激しい)時代に生きる私たちは、これまでとは異なる能力を身に付ける必要があると云われています。その中の一つに、レジリアンスがあります。

レジリエンスとは、回復力、弾性を意味し、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力です。

逆境から素早く立ち直る回復力は、昔なら、大きなチャレンジに臨んだ人に役立つ力であり、人生に1度位訪れる厳しい現実に向き合う際に必要なものでしたが、今日では、誰もが日常的に磨いておいた方がよい能力ではないかと思います。

答えのない時代には、現状を維持するために、変化することが求められたり、前例を踏襲しないやり方を期待されたりします。常に、リスクと隣り合わせで生きることが、日常的になり、私たちのストレスも高まっています。

レジリエンスの力を日ごろから磨いておけば、いざという時に役立ちますし、日常も生きやすくなるのではないかと思います。そこで、レジリエンスの力を高める方法を紹介したいと思います。

 レジリエンスの8要素

レジリエンスは、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、繋がり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ)の6つの要素で構成されていると云われています。そこで、自己認識、自制心に絞り、レジリエンスの育み方をご紹介します。

自己認識

自分を客観視し、メタ認知する力は、レジリエンスにおいて欠かせないものです。自分の大切にしている価値観やものの見方、自分の判断、その判断に紐づく経験、自分の心の動き、自分の言動等、自分自身を客体化し見つめる力を磨くことが大切です。そのために、対話が欠かせません。異なる他人と接することは、自分を知る機会になります。

日本人は和を重んじ、同質性を好みます。その結果、自分を知る機会がとても少ないように思います。若者には、自分を知るために、異質な世界に出会う機会を増やし、真の自分を知ることに、意識を向けて欲しいと思います。異質な世界に身を投じると、最初はストレスを感じるかも知れませが、ストレスを感じるのは、自分の境界線の外との接点を持っている時なので、自分を知るチャンスが高まっているはずです。

自分の感情の声を聴き、自分の考え、自分の常識、自分のこれまでの経験と、違和感のある異質な世界は、何が異なるのだろうか。そう自分に問いかけ、異質だと感じる世界を探求することで、自分を知ることができ、同時に、新しい世界を自分のものにすることができるかもしれません。

自分を知っていることは、レジリエンスの要素に含まれている自制心や自己効力感を強化する上でも、重要な能力です。スマホやテレビの取説のように、自分の取説を持つことが、大事な時代なのではないかと思います。

自制心

ここでは、自制心を支える心を扱う力の磨き方を、特にネガティブな感情の扱い方を対象に、ご紹介します。

➀感情を知る

ネガティブな感情になるには、必ず原因があります。もやもやしている時も、必ず原因があります。面白いことに、私たちの心は、私たちがその原因を認識する前に、その原因を知り、反応します。このため、ネガティブな感情の原因を知るためには、まず、自分の感情を正しく理解する必要があります。

②ネガティブな感情の原因を知る

怒りや不満、イライラ、もやもや等の感情を捉えることができたら、次は、その原因を探ります。「私はなぜそう思うのか。なぜそう感じるのか」この際に役立つのが、価値観レベルまで、自分の内面をメタ認知する力です。ネガティブな感情の背景には、何かに対する不満があります。自分が大切にしている何かが満たされていないことが、ネガティブな感情の原因です。私たちの心は、自分が大切にしていることを知っていて、それが満たされていると幸せな気持ちになり、満たされていない時にネガティブな気持ちになります。

ネガティブな気持ちになっている原因を突き止めたら、次は、その感情を扱う次のステップに行きます。ここからは、少し難易度があがるので、初級、中級、上級に分けて、その方法をご紹介します。

 

初級:自分がどのように経験を意味づけているのかを理解する

同じ経験をしているのに、誰かが怒っていて、驚いた経験はありませんか。同じ状況において、人間が同じ感情を抱かない理由は、経験の意味付けにあります。経験は同じでも、その経験をどう意味付けるのかは人それぞれ異なります。経験の意味付けに用いる価値観やものの見方が異なるために、経験は同じでも、経験の捉え方は、人によって異なるという事実を認識することが大切です。

ネガティブな感情の原因を知るために、自分が大切にしている何が満たされていないのかを客観視することができたら、次は、自分がなぜ、その物差しを使っているのかに目を向けます。その物差しが自分にとってなぜ大切なのか。どのように形成されたのかを知ることで、ネガティブな感情の引き金となった自分自身のものの見方を客観視できるようになります。

中級:相手の気になるところが「肥大化」する理由を知る

私たちは、毎秒1100万ビッドの情報の中から、たった40ビッドほどの情報を選択し認知しているそうです。私たちは、1%にも満たない情報を選択して認知しているという事実を、知ることがスタートです。私たちは、自分の持つセンサーが捉えた情報を拾います。例えば、

「ある人のこの特性が気になる」と思うようになると、常に、自分の中にあるセンサーが、その特性に注意を払い、その情報を発見し続けるようになります。その結果、「ある人のその特性」は、心の中で、肥大化していきます。やがて肥大化した課題に押しつぶされそうになるかもしれません。こうして、「もう我慢できない」と怒りが爆発します。しかし、周囲を見渡すと、そんなことは誰も気にしていないという経験はありませんか。どのような物差しを用いるかにより、同じ経験は同じ意味を持たないのです。自分の価値観やものの見方が、課題を「肥大化」させていることを認識することが大切です。

上級:怒りの原因は、他者ではなく自分(のものの見方)であることを理解する

経験をどう捉えるかは、自分の価値観が決めているということが理解できれば、目の前にいる相手が、私の怒りの原因であるという考えは間違いであることが解ります。目の前の相手は、怒りのトリガーではありますが、怒ることを選択したのは、あなたの価値観なのです。かなり上級者ではありますが、ここまでくれば、怒りの感情を、簡単に、自分でコントロールすることができるようになります。

自分の心の状態を客観視することができ、その原因を知ることができれば、自分の感情をコントロールすることができ、自制心を磨くことにもつながるはずです。

ウェルビーイングにつながる組織開発

2020.11.09文部科学教育通信掲載

最近では、人材開発に加えて、組織開発に取り組む企業が増えています。

終局のゴール

組織開発の究極のゴールは、社員をはじめとするステイクホルダーのウェルビーイングを高めることではないかと考えます。ウェルビーイングとは、心身が良好な状態であることを意味します。ポジティブ心理学を提唱するマーティン・セグリマン博士によれば、人間のウェルビーイングには、5つの要素があると云います。5つの要素とは、ポジティブな感情、エンゲージメント、関係性、人生の意味、何かの達成とそのための努力です。エンゲージメントとは、何かに没頭している状態・夢中になっている状態のことです。関係性には、人間関係のみならず、組織の存在目的とのつながりも含まれます。何かの達成とそのための努力には、自らが得たいゴールに向けて努力する過程と努力の結果得られた成果が含まれます。

ウェルビーイングの要素であるエンゲージメント、関係性、何かの達成とそのための努力は、仕事には密接な関係があります。人生の意味は、勿論仕事だけではなりませんが、自分の人生に意義があると思える仕事に取り組むことができれば、仕事を通して、ウェルビーイングを高めることが可能になります。

組織開発

組織開発が注目される背景には、経営環境の変化があります。優秀な人材を採用し、育て、目標管理を行うことで業績が上がるという方程式が通用しなくなったことがその理由です。一人ひとりが生む付加価値の質と大きさが、組織の業績に直結する時代には、イノベーションを生むことができる組織づくりが鍵を握ります。

私が最初に、組織開発の手法に触れたのが、GEが取り組む学習する組織開発でした。もう、20年も前のことですが、GEの学習する組織のリーダーを養成するプログラムを日本に広める活動に従事した際に、GEが、いかに、学習する組織を作りあげたのかを学びました。学習する組織とは、進化し続ける組織、変革し続ける組織のことです。そのためには、組織的な動きと共に、一人ひとりの学習力と革新力を高める必要があります。このため、GEは、学習する組織づくりを、リーダーの学習力と革新力を高めることから始めました。

学習する組織のリーダー養成

世界中から150人のリーダーが選抜され、1年間の学習する組織のリーダー養成プログラムに参加したそうです。彼らには、ボーダーレス、オープン、フラットの3つの行動様式を習得することが期待されました。ボーダーレスとは、自らが境界線を作らないことを意味します。リーダーに期待されたのは、どこで生まれたアイディアでも、よいものは、すぐに取り込める学習力です。その逆は、高い壁で、組織を守り、組織の外で生まれたよいことから学ぶことを拒否する態度で、ヒエラルキー組織では、よく見受けられるリーダーの行動様式です。

学習する組織づくりを推し進めたNO.1が大好きなジャックウェルチには、ある確信がありました。それは、世界一学習力の高い組織を作ることができれば、世界最強の組織が作れるという確信です。ジャックウェルチ自身も、真摯な学び手でした。社員の声に耳を傾け、常に、組織の課題を直視し、課題解決に尽力していました。社員アンケートで、品質に問題があるという指摘をもらうと、世界一品質管理が上手な会社を調べ上げ、その会社が実践している品質管理手法を学び、GE流の品質管理手法を作りあげました。その展開を支えるのは、学習する組織のリーダーです。ボーダーレスな行動様式を身に付けているリーダーは、GE以外の会社で生まれたよい手法を、何の抵抗もなく、組織に広げることができます。

学習する組織になる前のGEは、いわゆる名門の大企業ですから、リーダーは、ヒエラルキーの権威的存在であり、組織のあらゆる所に、壁(ボーダー)がありました。その壁を壊し、喜んで学び、進化し続ける組織を作りあげたジャックウェルチは、組織づくりの達人です。GEは、その後も、学習する組織として、進化を遂げています。最近では、ベンチャー企業の仕事術であるリーンスタートアップという手法に学び、小さいスケールでスピーディに新規事業を立ち上げるGE流新規事業立ち上げ手法を開発し、かつて、品質管理手法を全組織に展開したように、新たに開発した新規事業立ち上げ手法を全組織に展開しています。

人材開発との連動

学習する組織でなければ、新しい考え方を誰もが認識するのに、3年かかり、組織全体にそのやり方が広がるのに、10年かかるようなことを、GEでは、1~2年で徹底させることができます。その土台には、人材育成への投資があります。新しい手法を展開するには、手法を理解し、それを組織に落とし込める人が必要です。また、手法を組織に落とし込むためには、解りやすく、落とし込みやすい手法であることも大切です。GEが新たな手法を落とし込むことができるのは、この2つを上手にやることができるからです。日本でも、このような取り組みが、当たり前になることを願っています。

ツール

組織開発に欠かせないのが、誰もが簡単に使えるツールの開発です。GEでは、例えば、変革に取り組むことになったチームには、組織変革のプロセスの中で使えるたくさんのツールが渡されます。例えば、何を変えることに取り組むのかを明確にするために、「増やしたい行動」、「減らしたい行動」を可視化するためのフレームワークがツールとして用意されています。GEが開発するすべてのツールの背景には、学術的な理論があります。しかし、理論を理論のまま社員に渡しても、展開することが難しいため、すべて展開可能なフレームワークに落とし込み、ツールとして社員には届けられます。そのため、社員も、すぐに学び、すぐに実践することが可能です。

 文化と口癖

GEの組織開発の特徴は、文化を醸成することに力を注いでいることです。そして、興味深いのは、人々が口癖にすることが、文化の醸成に繋がっているという考え方です。

GEでの経験を著書にされた安渕聖司氏の『世界超一流であり続けるGEの口ぐせ』(PHPビジネス新書)から、GEの口癖の一つを引用したいと思います。

 

シンプリフィケーション
「それ、もっとシンプルにしようよ。まだまだ、複雑だよ」

◆競争に欠かすことができないスピードを阻害するのは、複雑さ

組織も手続きも複雑になり過ぎている、これが競争に欠かすことが出来ないスピードを阻害している。そんな問題意識から、GE全体で2012年から全社的に取り組みを進めたのが「シンプリフィケーション」です。これはその名の通り、組織が業務を簡素化し、スピードを取り戻し、結果的にお客様へのサービスレベルを向上させようという取り組みです。

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう」を文化にする

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう、という取り組みは、さまざまな会社で行われいると思います。しかし、GEの特徴はこれを文化にしようとしたことです。

シンプルでスピード感があって、しかも正確なプロセスというマインドセット(心構え)を、社員全員が持つようになり、「いや、これはあまりシンプルじゃないね」 「ちょっと複雑だよな」といった声がすぐに上がってくるようになりました。

 

社員と社会のウェルビーイングに繋がる組織開発に、私も貢献できればと思います。

大学への期待 10年前のリアル熟議から

2020.10.26 文部科学教育通信掲載

大学は、もういらない?

今から10年前、慶応義塾大学で、リアル熟議に参加した。リアル熟議とは、官だけでなく、

市民、NPO、企業等多様な当事者が共助の精神で支え合う「新しい公共」の実現のために、文科省が始めた取り組みです。当時、日本中で、教育をテーマに様々な熟議が展開されていたことを記憶しています。

私が参加した熟議は、慶応義塾大学日吉キャンパス来往舎で開催され、大学生、高校生、経営者、企業人事担当者等が参加し、大学入試制度、大学内の学習・研究・活動、就職と進学等について、議論が行われました。鈴木寛文部科学副大臣、「熟議」に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会の金子郁容座長、田村哲夫副座長も参加され、文部科学省からも10名の出席者がいたと記憶しています。

熟議のテーマは、「大学は、もういらない?~私たちと大学はいかにあるべきか~」と刺激的です。私は、当時、ティーチフォージャパンというNPO活動に参加しており、大学生ボランティアと協働することも多く、息子も大学生だったので、大学入試制度、大学内の学習・研究・活動、就職と進学の3つのテーマの中から、大学内の学習・研究・活動をテーマに選び、ディスカッションに参加しました。グループには、優秀な大学生や高校生と共に、私たちのような大学や大学生に関心のある社会人が参加していました。

教授と学生のWin Win

受験戦争を勝ち抜いてきたエリート大学生の正直な声に、衝撃を受けました。

  • 僕らは、〇〇大学卒の学歴に授業料と4年間を投資にしているだけで、教育を受けに大学に行っているのではない。
  • 教授は教師というよりは研究者で、執筆した教科書を読んでいるだけという授業も多く、ほとんどの学生はただノートをとるために講義に出ている。
  • 就活で出会う社会人は、大学時代に遊んでいた自慢話ばかりで、そもそも、大学教育に意味があるのか、だれも分かっていない気がする。

大学の学生にとっての存在理由は、優良企業に就職するための資格取得であり、大学生活は、彼らにとってのモラトリウムであることが解りました。

高度経済成長期に確立した幸せな人生を生きるための方程式は、受験戦争を勝ち抜き高学歴を取得すれば、大企業に就職することができ、豊かな人生が保証されるというものです。当時は、まだ、大企業に就職し、定年まで働き続けるという考えが主流でしたし、企業では、24時間働くことも期待されていましたから、大学時代が、人生最後のモラトリウムという考えにも共感を覚えます。この状況は、大学教員にとっても好都合で、教育に力を注ぐ必要はなく、講義以外の時間は、研究に没頭することができました。しかし、この高度経済成長期に形成されたWin-Winの構造は、過去のものと云えます。

ライフシフト

「ライフシフト」の提唱者でロンドン・ビジネススクールの教授リンダ・グラットン氏は、人生100年時代には80歳まで働くことになるといった試算を紹介しています。

これまでは、人生を、「勉強」「仕事」「リタイヤ」という一方通行の三つのステージで区切る生き方が主流でしたが、人生100年時代には、「探索」、「創造」、「同時進行」、「移行」の四つステージを組み合わせていくことが人生を幸せにするのではないかと提案しています。

  • 「探索」のステージ:長い人生を豊かに生きるために、旅に出て充電したり、自分をもっと理解したりする時期
  • 「創造」のステージ:起業など、自らの仕事を自分で創造する時期
  • 複数のことを「同時進行」のステージ:仕事の量を少し抑えて、子育てや地域活動や、芸術活動等に時間を費やす時期
  • 「移行」のステージ:仕事を変えたり、変身を遂げるための準備期間

 「ライフシフト」は、私たちに様々な選択を突きつけます。また、受験戦争に勝ち抜いたこと、優良企業に就職したことは、一時期の成功を保証しても、生涯を通しての人生の成功を保証することはないでしょう。変化する時代の中で、世の中に貢献し続けるためには、生涯を通して学び続ける習慣も、とても大切なものになります。この時代の変化に合わせて、大学への期待も変わります。

大学の使命とは

システム思考では、今、起きている現実は、大きな氷山に支えられていると考えます。氷山モデルは、過去からの経緯、現実を支えている構造、人々のものの見方や社会通念の3つの要素で構成されています。その中でも、人々のものの見方や社会通念が、現実を創り上げる上で大きな影響を与えていると云われています。

現在、受験制度の見直しが進められています。受験制度が変われば、高校生の学習スタイルも変わり、大学への期待も変化することになります。しかし、もし、当事者である受験生とその親、大学生が通う大学の教職員、就職先である企業、塾産業が、高度経済成長期に形成されたものの見方に固執するのであれば、受験制度を変革しても、理想の姿を実現することは難しいです。

リアル熟議に参加した2010年には、ハーバード大学のファウスト元学長が来日し、私も、歓迎パーティに参加し、お話を伺う機会を得ました。その際に、ある卒業生が、「大学は、学歴以外に何を提供しているのか」という問いかけをしました。その問いに対して、ファウスト氏が、「大学が提供するのは、表面的なブランドではなく、リベラルアーツの過程で将来人間として有意義な人生を生きるためのツール(道具)を提供することだ」と明言されたことがとても印象的でした。大学での学びを通して、ツール(道具)を手にいれるためには、教員も、学生も、真剣勝負で臨まなければなりません。

大学が使命を果たすためには、アドミッション(入学)、カリキュラム(教育)、ディプロマ(卒業資格)の3つのポリシーの一貫性を見直す必要があります。受験制度の見直しは、それだけでは意味がなく、カリキュラムとディプロマの3つのポリシーの見直しを進めることが大切です。カリキュラムの充実においては、ファカルティデベロップメントも重要な役割を果たします。小・中・高の教育改革が進み、アクティブラーニングに慣れ親しんだ大学生には、ワンウェイで講義を聞き、ノートを取る大学の授業に耐えることはできないでしょう。コロナ禍で進んだオンラインの活用をさらに推し進めるのであれば、インプットだけの講義は、オンデマンドで聴くことができますから、反転授業を取り入れ、講義の時間を対話やディスカッションに活用することも可能です。学生の学習体験をどう充実させていけるかは、これからの大学の大きなテーマです。

クワトロヘリックス(大学・研究機関、市民、企業、行政の連携)

大学には、もう一つ重要な期待があります。それは、社会の知識創造のプラットフォームとしての役割です。ドイツやデンマークを訪れ、クワトロヘリックスという考えを学びました。クワトロ・ヘリックスとは、様々な異なるステイクホルダーが問題解決に関わりながら、共にイノベーションを起こしていくというもので、国家戦略に基づく地域開発、都市開発の基盤となる考え方です。クワトロヘリックスにおいて、大学・研究機関は、知的創造のプラットホームとしての役割を果たします。

有意義な人生を生きるためのツール(道具)を提供する大学、社会の知的創造のプラットフォームの役割を果たす大学が増えることを期待したいと思います。

システム思考を学ぶ理由

2020.09.28文部科学教育通信掲載

昨年から、昭和女子大学昭和こども園の年長さんにシステム思考を学ぶレッスンを実施しています。今年も、9月からスタートするレッスンに向けて、保護者の皆様に、映像メッセージで、幼児がシステム思考を学ぶ理由についてお伝え致しました。

幼児期からの習慣化

こちらは、システム思考者の習慣 子ども版です。システム思考者の習慣は、前例のない時代を生きる上で、私たち大人にも不可欠な力であると云われ始めています。そして、世界では、幼児期から、システム思考者の習慣を身に付ける学習が始まっています。

アメリカでは、各州独自の学習指導要領を作成していますが、アマゾンやマイクロソフトの本社のあるワシントン州では、幼児期から段階的にシステム思考を学ぶことが、学習指導要領に記載されています。

私たち人類が直面する課題が、単純ではなく、一生懸命問題解決に取り組んでも、問題を解決することができなかったり、問題に対処した結果、新たな課題をうみだしたりすることもあります。そうならないためには、誰もが、物事の部分ではなく全体をととらえ、物事のつながりを理解する力を育むことが必要になります。

赤ちゃんはシステム思考者

赤ちゃんは、泣いて、おなかがすいたことを親に知らせる等、システム思考を生まれた時から活用しています。しかし、従来の学校教育は、システム思考を必要とせず、本来、子どもたちの中にあるシステム思考を眠らせてしまい、大人になった頃には忘れているというのが、私たち大人の現実ではないかと思います。

この思考習慣を大人になってから学ぶのはとても大変なことですが、子どもの頃から馴染んでいれば、簡単に行うことができます。

世界の教育改革

世界の教育改革は、2003年に本格化しました。OECDがこの年に発表した教育指針は、日本の教育改革にも大きな影響を与えました。その狙いは、変化複雑相互依存の時代を生きる力を、学校教育で、子どもたちが手に入れることです。そのため、学校教育には、多様な利害関係者と協力し、複雑な問題を解決する力を育むことが求められるようになりました。そして、全ての能力を支える核となる力として、リフレクション(自己内省)の重要性が謳われるようになりました。システム思考は、リフレクションを行う上でも、重要な役割を果たします。

こちらは、OECDが発表した学びの羅針盤2030です。2003年に発表した教育指針をさらに発展させ、学び手が人生を歩む上で羅針盤となることを願い、作成されました。学びの羅針盤では、新たな価値を創造する力という言葉が加わり、仮説を持ち、行動し、リフレクションを通して正解を見出すという行動様式も加わりました。また、システム思考やデザイン思考の重要性も、明記されています。

従来は、高い学力が人生の幸せを保証しましたが、これからは、学力は土台であり、基礎知識を活かし、自ら問いを立て、学び、前例のない問題解決に挑戦する力が幸せを保証することになります。システム思考の習慣は、そのために、必要なものです。

子どもの発達

こちらは、ハーバード大学子ども発達センターが発表している遂行能力の発達に関するグラフです。4歳から5歳にかけて著しく成長し、小学校6年生になると、成人とほぼ同じレベルに到達します。大人になる土台が、この時期に育つのだとすれば、幼児期から、小学校高学年になるまでの間に、システム思考を磨く機会を得ることができれば、生涯活かせる思考力になるはずです。

学校の学びは、評価できなければいけないという使命感から、数値で測定できない学びは、学びとして認められないというものの見方が主流となっています。このため、心の教育は、目に見えない、曖昧なものとして置き去りになります。

システム思考の学びも、心の教育同様に、短期的な成績を上げる効果はありません。しかし、物事の繋がりを探し、時系列で起きた事柄を因果関係で結び付け、その事柄に意味付けをする力や、過去から現在を眺め未来を想像したり、予測したりする力が身に付きます。その結果、内省力、問題解決力や創造力も高まります。

目に見えないもの

世界は、無数の要素が絡み合って現実を創り上げていますが、この無数の要素の中から、重要な要素を選択し、原因と結果の関係を理解することで、根本原因を突き止め、課題を解決するためには、システム思考が欠かせません。システム思考が問題解決に活かされている今日の代表例は、地球温暖化や環境破壊についてです。専門家たちは、マサチューセッツ工科大学のジェイ・フォレスター教授により開発されたシステムダイナミックスという手法を使い、シミュレーションを行います。

システム思考の習慣を持つ人は、目に見える事象は、目に見えない大きな氷山に支えられており、そこに根本原因があるいると云います。システム思考者の習慣がなければ、目に見えないものはその人の目には存在しませんから、対処療法的に、問題に対処することしかできません。このため、一時的に問題を解決することはできるかもしれませんが、その問題を、根本的に解決することができません。

地球規模の問題解決

2006年に、「システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006」に参加されたシステム思考の専門家 小田喜一郎氏が、チェンジエージェントのHPで紹介している記事を引用致します。

地球温暖化問題を、「システム」として考える上で、重要なポイントが3つあります。「ストックとフローの構造」、「フィードバックの構造」、そして、「時間的遅れの構造」です。京都議定書にある1990年比で5~7%ほど二酸化炭素などの地球温暖化ガス排出量のフローを削減しても、大気中の二酸化炭素濃度(ストック)は増え続けること。また、温度が上昇し、ある閾値(てぃっピング・ポイント)を超えると、アック循環のスイッチが入って止められないほどの休息な勢いで温度が上昇すること。そして、今すぐ行動を取り始めても、自動車や家電、工場設備といった家庭や産業にある二酸化炭素を排出するものを十分効率的なものにお子変えることで排出量削減の成果をだすためには10年単位の時間を必要とし、さらに二酸化炭素濃度序章の温度への栄養を止めるには約30年の遅れが生じること。

システム思考者が増えることが、人類と地球のよい未来につながることを信じて、システム思考教育に取り組みたいと思います。

人と組織は変われる

2020.09.14文部科学教育通信掲載

「人と組織は変われない」と信じている人がとても多いように思います。私も、長い間、「人と組織は変われない」と信じていました。皆さんは、どうですか。

リフレクション(内省)力を高める方法を学び、今の私は、私の考えは変わりました。「人と組織は変われる」と断言できます。そして、皆さんにも、「人と組織は変われる」ことを、信じ始めて欲しいと思います。

長い間、変化を促進する仕事に取組み、「人は変われない」というコメントを何万回聞いてきました。そう信じることで、自分が変わらない正当な理由ができるので、「人は変われない」という神話は、変わりたくない人にとって、とても都合のよいことです。同様に、「僕たちは逃げ切れる」という言葉もよく聞きました。この言葉の裏側には、未来に対する危惧する様子が伺えます。変わる必要性は認識しているが、我々は変わらなくてよいと述べているのだと思います。

 原発事故で学んだこと

東北大震災に向き合う日本人は、世界から賞賛されました。空腹の中でも、人々は、きれいな列を作り自分が食料をもらえる順番を待つことができます。多くの人たちが、東北大震災直後に、ボランティアに参加したり、寄付をしたりして、困難を抱える人々を救いました。一方で、原発事故に関しては、議論もそこそこで、静かに、その再開を受け入れました。

東北大震災で明らかになったこと。それは、日本人が天災に強く、人災に弱いということでした。震災を受け入れ強く生きる人々の姿は美しいと感じました。しかし、時間が経過し、震災直後の目に見える混乱が収まり始めると、その当事者は別として、多くの人々が、震災のことを忘れていき、「風化」という言葉も使われるようになりました。日本人は、説明のいらない天災に強く、説明の必要な人災には弱いと思いました。

ティーチフォージャパンという教育NPO活動でご一緒していた黒川清先生が、国会事故報告書を作成されたご縁で、私は、後に、原発事故の経緯について知る機会を得ました。そして、東北大震災は天災ですが、原発事故は、天災が引き起こした人災であることを知りました。もっと悲しいことは、その人災に私が無縁ではなったという事実を知ったことです。そして、この事実は皆さんにも当てはまります。「えつ?」と思われる方も多いでしょう。

その説明をする前に、まず、氷山モデルについてお話したいと思います。氷山モデルとは、目に見える事象は、目に見えない大きな氷山で支えられているというシステム思考者の提唱する現状分析の方法です。今起きている現実の多くには、過去からの経緯があり、法律や

制度、仕組みや構造で支えられています。さらにその奥には、社会通念をはじめとする人々のものの見方が、その出来事を支えていると云います。

地震と津波によって引き起こされた原発事故は確かに天災です。しかし、ずっと以前から、津波の危険性は叫ばれており、その対策が後回しになっていたことは人災です。さらに、大きな人災は、私たちは、子どもたちに、原発の安全性を教え、原発を推奨するポスターを描くことを奨励し、原発の設備を訪問する学習ツアーをつくり、子どもたちが原発政策を支援する国民教育を、受け入れていたことです。そして、私たち大人も、原発が安全であるという神話を信じていたことです。事故直後に、子どもたちが書いた原発が安全と幸せをもたらすというポスターは、撤収されました。しかし、私たちは、再び、静かに、原発は安全であるという神話を信じ始めています。誰もが、私には直接関係ないと信じながら、同時に、神話を支えているのです。

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の事務局調査統括補佐を務め国会事故調報告書の作成に尽力され、現在は、東京理科大学の教員を務める石橋哲さんと、わかりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた経緯があり、私もこの事実を知りました。神話は、みんなが信じることで初めて存在します。私も、神話を信じていました。原発事故から、9年が経過し、私も、どこかで、再び、皆さんと共に、この神話を受け入れているのだと思います。

わかりやすいプロジェクトが教えてくれたこと

わりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた当時、何度も、対話のイベントを企画し、自ら対話に参加しました。福島の方たちともお話する機会を得ました。福島高校の素敵な高校生とも、たくさんお話をする機会を得たのですが、その時に、とても驚いたことは、福島では、原発事故のことや震災のことは、誰も話さないという事実でした。個々に、被害状況が異なり、保証金の額も異なり、そのことに触れるのはタブーだということを知りました。

人や組織が変われない一番の理由は、課題について話すことを許されない日本の文化にあると気付きました。話さなければ、課題は存在しないことになります。言霊を信じる私たちだから、話さないことで、存在しないことにできるのかもしれません。2012年に、原発事故についての声の中心は、政府への批判や、権利の主張でした。そこに暮らす人々は、語らないし、語れないという事実は、衝撃でした。

リフレクションと対話

私は、現在、日本にリフレクションと対話を広める活動を始めています。日本人の人を思いやる心や、震災の時でも、調和を大切にし、社会秩序を守ることができる国民性に、リフレクション(自己内省)する力や、対話する力が加われば最強だと気付いたからです。話さなければ、人を思いやる心は届きませんし、対話をしなければ、本当の課題を見ることができません。誰もが、神話を信じているということにも、気づくことはできません。この活動を始めて9年が経過し、私も少し進歩しました。そして、今日のテーマである「人と組織は変われる」ことに確信が持てるようになりました。

人は変われるという事実

ロバート・キーガン先生の免疫マップを参考し、21世紀学び研究所でも、自己変容のための思考法を開発しました。リフレクションと対話的深い学びを組み合わせた手法です。

私たちが、変わりたいのに変われない時には、変われない理由があります。この理由を、ロバート・キーガン先生は、強固な固定観念と呼んでいます。社会はこうあるべし、学生はこうあるべし、人間はこうあるべし、私は、こんな人間とおもわれたい等、誰もが、固定観念を持っています。私たちの固定観念は、経験を通して形成されていきます。固定観念というと、少しネガティブに聞こえるかもしれませんが、それは、私たちが生きた証とも言えます。だから、誰も、それを手放すことができないと思い込んでいます。しかし、この思い込みも、固定観念なのです。

日本社会に生きていると、私たちは、「人は変われない」という固定観念を形成するたくさんの経験をすることになります。その結果、「人は変われない」が確信になります。だから、何かを変えようという話をしていても、どこかで、「人は変われない」という固定観念が姿を現します。そして、これは、私たちにとって、都合の良い「固定観念」でもあります。私たちに、これまで通りでよいという許可を与え、楽な道を選択することに罪悪感を持たずに済むからです。

コロナ禍で、世の中には変化の兆しがあります。自己変容の思考法を広め、人と組織と社会は変えられるという固定観念を広め、みんなで変わることに挑戦していきたいと思います。

 

シティズンシップ教育宣言

2020.08.24文部科学教育通信掲載

経済産業省が、2006年に発表したシティズンシップ教育宣言をご紹介します。

シティズンシップの定義

シティズンシップ教育と経済社会での人々の活動についての研究会(以下研究会)は、シティズンシップを、「多様な価値観や文化で構成されている社会において、個人が自己を真真理、自己実現を図ると共に、よりよい社会の実現に寄与するという目的のために、社会の意思決定や、運営の過程において、個人としての権利と義務を行使し、多様な関係者と積極的に関わろうとする資質」と定義しています。

シティズンシップ教育が必要な理由

研究会は、シティズンシップ教育の必要性として、2つの現実を紹介しています。

➀成熟した市民社会形成の兆し

我が国は、敗戦から復興し、高度経済成長を経て、世界でも有数の経済水準を達成するとともに、ようやく、自立・自律した個人が活躍する時代を迎えつつある。そして、多様な価値観や文化を持つ人々で構成される成熟した市民社会が形成されうる状態になりつつある。

②社会の複雑化の進行

しかしながら、現代は、同時に、所得、職業、学力、健康レベルなどの格差が拡大したり、家庭が育児に悩んだり、従来の発想ではとらえられないような多様な価値観がでてきたり、人々の自殺がふえたりと、非常に複雑な様子を見せるようになってきていて、必ずしも、全ての市民が容易に自発的に社会とのかかわりを持てる環境にはない。

2006年に発表されたシティズンシップ宣言には、高度経済成長を遂げた日本が、バブル崩壊を経て、どのような国づくりを目指すべきかを示唆しているように感じます。経済が成長すれば幸せになれる、豊かになれば幸せになれるという幸せの法則が、これから先の日本を支える指針にはならないことが明らかになった時、一人ひとりが、自分自身を守り、他者と共生し、よりよい社会に貢献するというシティズンシップに期待するのは当然のことだと思います。

シティズンシップ教育への期待

研究会は、シティズンシップ教育が果たす役割を、以下のように述べています。

成熟した市民社会が形成されていくためには、市民一人ひとりが、社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、その解決やサービス提供に関する企画・検討、決定、実施、評価の過程に関わることによって、急速に変革する社会の中でも、自分を守ると同時に他者との適切な関係を築き、職について豊かな生活を送り、個性を発揮し、自己実現を行い、さらによりよい社会づくりに関わるために必要な能力を身に付けることが大切だと考える。

一方で、こうした能力を身に付けることは、いかなる人々にとっても、個々人の力では達成できないものであり、家庭、地域、学校、企業、団体など、様々な場での学びや参画を通して初めて体得されうるものであると考える。

上記のような能力を身に付けるための教育、すなわちシティズンシップ教育を普及して、市民一人ひとりの権利や個性が尊重され、自立・自律した個人が自己の意思に基づいて多様な能力を発揮し、成熟した市民社会が形成されることを期待する。

シティズンシップが発揮される3つの分野

研究会は、シティズンシップを内包し、シティズンシップなしには成立しえない分野として、➀公的・公共的な活動(社会・文化活動)、②政治的活動、③経済活動の3つがあると考えました。

➀公的・公共的な活動

地域や学校、仲間などの中で、市民の多様なニーズや社会的な課題へ対応するために、政府でもなく企業でもなく、市民一人ひとりが自分たちの意志に基づいて、関係者と協力して取り組む活動。

  • 社会を良くしようとする意識をもち積極的に地域の活動に参画し、生涯に亘って学び続ける。
  • 学校や地域などにおける意思決定や活動の場に参画する活動。
  • 地域社会における生活の質を維持・工場するために、他の住民たちと協力して取り組む活動(防犯・防災、介護、清掃、青少年育成等)。
  • 賛同する関係者とネットワークを形成しながら、環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援など、国内外の課題解決に取り組む活動。
  • 社会人として必要な文化的な知識や素養を身に付けたり、学問・芸術・スポーツ・道徳などの活動に取り組んだりすることで、周りの身近な人々との豊かな生活づくりに関わること。

②政治的活動

民主主義社会での司法・立法過程で政策決定過程等、積極的に関与・参画し、自分たちの生活を左右したり、社会の仕組みに影響を及ぼしたりする政策に、自分たちの意志を反映しようとする活動。

  • わが国の民主主義の制定およびそれを指させる国民の権利と義務について理解し行動すること。
  • 自分たちの意志と判断に基づき、選挙や住民投票などで投票を行うこと。
  • パブリックコメント、審議会、住民説明会、電子市民会議などを通じて、政府にたいして自分たちの意見や要望を伝達すること。
  • 市民の自発性・主体性に基づき、政治的な運動・活動を行うこと。
  • 経済活動で得られた報酬等に応じて納税し、社会保険料を負担すること。

③経済活動

他者と関わり合いながら、社会が必要とする商品やサービスの生産・提供に参加すること、および、アクティブな消費者として、自分たちの生命や資産を守りながら、さらにそれにとどまらず、社会全体にとってプラスと考えられる消費・生活行動を実現する活動。

  • 自分たちの志向と社会のニーズのバランスを理解し、社会に関わる職業に就いて、生活に必要な収入を得ること。自分たちの生活に関わる法律や制度、仕組みを理解するとともに、不公正や違法な経済活動を見抜く力を身に付けること。
  • 環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援、文化育成など、企業等の社会的な貢献を促進する消費活動を行うこと。

シティズンシップを発揮するために必要な能力

研究会は、市民一人ひとりが、シティズンシップを発揮し、社会との関わり合いを通じて、自分たちを守り、豊かな生活を実現し、自己実現し、また、よりよい社会づくりに参加するために必要となる多様な能力を「意識」「知識」「スキル」の3つに分類して示しています。

意識

社会の中で、他者と協働し、能動的にかかわりを持つために必要な意識

  • 自分自身に関する意識
  • 他者との関わりに関する意識
  • 社会への参画に関する意識

知識

  • 公的・社会的な分野での活動に必要な知識
  • 政治分野での活動に必要な知識
  • 経済分野での活動に必要な知識

スキル

多様な価値観・属性で構成される社会で、自らを活かし、共に社会に参加するために必要なスキル

  • 自己・他者・社会の状態や関係性を客観的・批判的に認識・理解するためのスキル
  • 情報や知識を効果的に収集し、正しく理解・判断するためのスキル
  • 他者とともに社会の中で、自分の意見を表明し、他人の意見を聞き、意思決定し、実行するためのスキル

オランダのシティズンシップ教育

現在、オランダのシティズンシップ教育ピースフルスクールを、子ども園や小学校に導入する支援を行っていますが、そのカリキュラムと、経済産業省のシティズンシップ教育宣言には、驚くほど共通点があります。

大きな政府に守られ、発展した我が国の国づくりの手法が、多様で成熟した社会を運営する上で限界に来ています。一人ひとりがよい市民になることで、自ら幸せな社会を築けるように、シティズンシップ教育の普及に取り組んで参ります。

 

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