小学生がアドバイスを学ぶ授業
2020.08.10文部科学教育通信掲載
オランダのピースフルスクールというシチズンシップ教育を、日本に紹介する活動を行っています。今日は、その学びの一つをご紹介します。
オランダの15%の小学校が実践
オランダは、現在、ユニセス イノチェンティ研究所の調査で、世界一子どもが幸せな国ですが、ピースフルスクールが生まれた当初のオランダは、少し違っていて、オランダでも、1990年代 学校では、いじめや子どもの問題行動が目立ち、学校風土の改革が求められ、シチズンシップ教育の必要性が生まれました。憲法で教育の自由が認められているオランダでは、そのために様々なプログラムが開発されます。ピースフルスクールも、その一つで、ユトレヒト市がユトレヒト大学と連携し生まれたのが、このプログラムです。ピースフルスクールは、現在、15%を超える小学校に導入されています。
学校・地域、家庭で実践
ピースフルスクールの特徴は、子どもたちが、けんかやいじめの問題解決を自ら行う所です。
小学校5,6年生の中から選ばれた仲介役が話し合いで問題を解決するファシリテーター役を担います。現在は、学校での取り組みだけではなく、地域にもこの取り組みア広がり、学校の仲介者が、地域の公園でのけんかの仲介をしたり、警察官もピースフルスクールプログラムを理解し、子どもたちのトラブルを仲介する姿勢で臨んでいます。子どもたちは、学校でも、家でも、地域でも、けんかはいけないことで、けんかをしたら話し合いで問題を解決する責任があると考え行動するようになります。
自立と共生の力
子どもたちは、多様性な人々が安心して幸せに共生する社会のつくり方を、学校での実践を通して学んでいきます。民主的な社会を創るために、子どもたちは、自立と共生の2つを学びます。
民主的な社会では、誰もが、自分の意見を持つ責任があることを学びます。そして、人の意見に反対の意見を持つことは悪くないことを教わります。民主的な社会は、対立に基づくことを学び、悪いのは、コンフリクトではなく、けんかであるということを子どもたちは学びます。そのうえで、コンフリクトを話し合いで解決する力を身に付けます。
コミュニケーション
ピースフルスクールで、子どもたちは、コミュニケーションスキルを磨きます。意見には、理由と事例を添えて述べるという基本の型に始まり、相手の意見や気持ちをしっかりと評価判断を保留にして傾聴する練習を行います。
特に驚いたのは、小学生がすでに、お友達の気持ちを評価判断しないで聴くことができることです。
オランダで授業を参観した際に、実際に聴くことができた小学生の対話です。オランダの小学校には卒業試験があります。丁度その直前に学校を訪問したので、対話の中である男の子が、こんな風に自分の気持ちを話していました。
- 「僕は、小学校卒業試験という1回の試験で、進路が決まってしまうと思うと、ドキドキして不安な気持ちなんだ」
すると、この話を聴いていた、女の子が、
- 「ふ~ん。そうなの。私にはその気持ちないみたい。もっとどんな感じなのか教えて」
と、前のめりになり、男の子に質問していました。
この男の子は、自分の気持ちを正直に開示し、聴いているお友達は、その気持ちは、自分にないものだから、理解するために、もっと聴いてみようと考えます。そこには、一切の評価判断はなく、100%の心理的安全があります。
ポジティブなメッセージ
ピースフルスクールのレッスンは、すべてワークショップ形式です。子どもたちは、民主的社会には対立を前提としていて、対立したら話し合うという基本理念と、共生社会を実現するためのスキルを磨きます。ご紹介するけなし言葉をアドバイスに変えるというレッスンも、その一つです。対立が当たり前の社会で、気持ちよく共生するために、日頃から、ポジティブなコミュニティ創りを心掛けることが大切です。しかし、時には、相手にネガティブなメッセージを伝えなければならない時があります。そんな時には、アドバイスという伝え方があるということをこのレッスンで学びます。皆さんも、実際にやってみてください。
けなし言葉をアドバイスに変える
パート1:けなし言葉の事例を聴きます。
誰かにけなし言葉を言われたらどんな風に感じるか、みんなで学んでいきましょう。(事例は大人版に変更してあります)
ピピピピピピ… 今日も6時に目覚まし時計がなりました。田中さんは(昨日も遅くまで残業だったし、会社に行きたくないなぁ。)と思います。うとうとしていると、奥さんが「いつまで寝ているの!時間にルーズだから、今年のボーナスも下がったんじゃない?」と言いました。
急いで身支度をして家を出ます。田中さんは駅まで走りながら、(7時の電車に乗れるかな…遅刻ギリギリだなぁ。)と思います。 駅に着くと、人身事故のため20分ほど電車が遅れていました。(朝イチの商談に間に合わない…)田中さんは、急いで上司に電話をします。事情を伝えたところ、「ギリギリに家を出るから遅刻するんだよ!」と言われました。
急いでオフィスに入ったところ、同僚から「何やってんだよ、お前。お客様がもう来ているぞ。資料の準備はできてるのか?」と言われました。
商談でお客様に説明していると、お客様から「君の説明はわかりにくいな。もうちょっと簡潔に説明できないの?」と言われました。
午後、上司から「昨日頼んでおいた資料、直してくれた?」と言われます。田中さんは、昨夜遅くまで準備していた資料を上司に見せました。「お前の資料は、本当にセンスがないなぁ。」と言われました。
パート2:けなし言葉をアドバイスに変えてみましょう。
けなし言葉をアドバイスに変えると、どうなるでしょうか。
ピピピピピピ… 今日も6時に目覚まし時計がなりました。田中さんは(昨日も遅くまで残業だったし、会社に行きたくないなぁ。)と思います。うとうとしていると、奥さんが「 ① 」と言いました。
急いで身支度をして家を出ます。田中さんは駅まで走りながら、(7時の電車に乗れるかな…遅刻ギリギリだなぁ。)と思います。 駅に着くと、人身事故のため20分ほど電車が遅れていました。(朝イチのミーティングに間に合わない…)田中さんは、急いで上司に電話をします。事情を伝えたところ「 ② 」と言われました。
急いでオフィスに入ったところ、同僚から「 ③ 」と言われました。
商談でお客様に説明していると、お客様から「 ④ 」と言われました。
午後、上司から「昨日頼んでおいた資料、直してくれた?」と言われます。田中さんは、昨夜遅くまで準備していた資料を上司に見せました。「 ⑤ 」と言われました。
けなし言葉は上手にアドバイスに変えることができましたか。ピースフルスクールには、怒っている時は、心を落ち着かせてから話す練習をするレッスンもあります。私も、どんな状況でも、けなし言葉を使わないよう心掛けたいです。