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園児向けシステム思考教育

2020.04.13文部科学教育通信掲載

経済産業省未来の教室とEdTech研究会の実証事業で幼児を対象に行ったシステム思考レッスンを、本年度も行いました。講師は、実証事業でもお世話になった福谷彰鴻先生と、風間紗喜先生です。今回は、お二人の先生が作成してくださった報告書の一部をご紹介したいと思います。

システム思考教育のねらい

「システム」という言葉を聞くと、ITや理系の学問の印象を持たれる方も多いと思われますが、システム思考におけるシステムとは、相互に影響を与える関係性のことです。人や社会やものごとは相互につながり合っていて、関係性の中で存在しています。この「つながり」に着目して、個別のできごとや目の前のできごとといった「氷山の一角」だけに囚われるのではなく、背景にある経緯、人の思考や感情、物理的な要素など、全体の構造に目を向ける考え方を、システム思考と呼びます。

氷山モデル(システム思考のプロセス)

システム思考のプロセスは、しばしば「氷山モデル」で表されます。私たちに見えるのは、氷山の海面から突き出した1割ほどだけで、残りの9割は水中に隠れています。この目に見える部分が「できごと」です。しかし、一歩引いて見てみると、できごとは「パターン」の中で生まれていることに気づきます。この動きのパターンを生み出しているものが「システム構造」です。ルールや制度、配置などの見えやすい構造と、思考、感情、行動の習慣という目に見えにくい構造があります。システム思考では、このシステム構造を捉えることで、ものごとにより根本的で効果的なアプローチを探ります。

 

システム思考者の習慣

システム構造を探る思考を学ぶ中で、子どもたちは「システム思考者の習慣」を身に付けます。自分たちが直面するさまざまな問題に対して、ただ感情的に反応するのではなく、立ち止まり、一歩下がってものごとを客観的に捉えて話し合い、解決策を生み出していく。そんな習慣を育むのがシステム思考教育です。

本レッスンでは、システム思考者の習慣のうち、②時間と共に、どう変化するか観察してみよう、④原因や行動と結果には必ずつながりがある、⑤別の見方から考えてみる、⑫時間と共に物事が変化することを知る、を重点的に扱ってきました。

 

システム思考レッスンの構成

時系列変化パターングラフ

内容:絵本の場面で、登場人物の気持ちや、花の種の数がどう変化したかを、グラフに表しました。氷山モデルの「パターンやトレンド」を捉える習慣を身に付けることを意図しています。

意図:

  • 一つひとつのできごとだけでなく、時間の経過とともに変化するものを捉える。
  • 変化とその原因を結びつけ、起きているできごとと、それが起きたのはなぜかを考える。
  • アイディアを視覚的に表現し、人に伝える。話し合いに活用できる。

①絵本「むしゃむしゃむしゃ」 ②絵本「きりんはダンスをおどれない」

感情のレッスン(Peaceful School Programより)

内容:人の思考や感情の習慣は、システム構造の「見えにくい部分」として、私たちが体験するできごとを生み出しています。このレッスンでは、パペットを用いて「感情」という概念を理解します。自分の気持ちを認知し、理解することと、次に、周囲の人の気持ちを理解し、言葉で伝えあうことを学びます。また、自分とお友だちは違う感情を持っていて、同じ場面でも人によって違う気持ちを覚えたり、違う行動を取ることを学びます。自分自身やお友達の感情を理解することで、

意図:

  • 自分の内面の変化に気づき、自分の感情の取り扱い方を学ぶ。
  • 人の気持ちへの共感の醸成と、違いを認識し受容する力を育む。

①うれしい気持ち   ②はずかしい気持

つながりの輪(コネクテッド・サークル)

内容:「つながりの輪」は、要素のつながり、特に原因と結果の関係を可視化するツールです。さまざまな要素がどのように影響を与え合って、繰り返される動きのパターンを生み出しているかを理解します。

 

意図:

  • 「原因」と「結果」の関係性の可視化と理解
  • 一方向的な線形の関係に対し、「結果」が今度はまた「原因」となり、「結果」に影響する…といった循環の関係になっていることに気づく。

 

「つながりの輪」の例(『キリンはダンスを踊れない』より)

物語の冒頭、ダンスが苦手だったキリンは、みんなに笑われることを恐れるあまり動きがぎくしゃくして、ますますみんなに笑われ、ますますダンスが苦手になり、ついにはパーティーを逃げ出してしまいます。一方、物語のおしまいでは、自分の中に大好きな音楽を見つけて、思うように踊り始めたキリンが、みんなの拍手や喝采を受けて、ますますダンスが楽しく、そして上手になっていきます。このような物語を題材に、日常にも、社会や自然界にも多く存在する好循環、悪循環といったパターンを生み出している仕組み(構造)を考えます。

 

ループ図(因果関係ループ図)

内容:

  • つながりの輪を元に、因果関係を図示してそこから生まれる変化のパターンを考えるツールです。

意図:

  • 私たちの身の回りにあるできごとの背後に、どんなつながり(システム構造)があるか理解する。
  • 「もしも〇〇だったら、〇〇したら」、どのような変化が起きるかを想像する習慣を身に付ける。

例:身体にばい菌が入ると、熱が上がってばい菌を減らしてくれます。そして、熱が上がると汗が出て、身体を冷やしてくれるので、熱が次第に下がっていきます。

熱が出る、汗が出るといった「できごと」の背景に、私たちの身体というシステム構造が、相互につながりあってばい菌から私たちを守ってくれていることを理解します。

また、 熱をすぐに下げてしまったり、汗が出なくなったらどんなことが起きるのか? など、思考と洞察の引き出しを増やしていく効果もあります。

来年度に向けて

来年度は、5月からレッスンをスタートする予定で、今年よりもレッスンの数が増えます。日本では例を見ない幼児のシステム思考教育を実現できたのも、福谷彰鴻先生と、風間紗喜先生のおかげです。一人でも多くの子どもたちが、システム思考者の習慣を持つ大人に育ってくれることを願っています。

 

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