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大空小学校の勉強会

2020.04.27文部科学教育通信掲載

皆さんは、『みんなの学校』という大阪市立大空小学校の映画をご覧になったことはありますか。もし、まだ、見たことがないという方は、ぜひ、ご覧いただきたいです。

大空小学校は、児童220人のうち、特別支援の対象となる子どもが30人いる学校で、すべての子どもたちが、同じ教室で学んでいます。

以前にも、『みんなの学校』は視聴したことがあったのですが、今回は、先生や教育関係者の皆さんと、大空小学校の勉強会として、映画を視聴しました。勉強会の目的は、大空小学校から学び、実践することです。

映画を見ながら、10年前に、ティーチフォージャパンというNPOの立ち上げに尽力し、日本教育大学院大学で教員養成を始めた頃のことを思い出しました。

 

困難を抱えた子どもたちの学習支援

現在は、ティーチフォージャパンから独立し、活動を大きく発展させているNPO団体ラーニングフォーオールのスタートは、10年前の葛飾区の学習支援教室 寺子屋くらぶ でした。寺子屋くらぶで学ぶ子とどもたちは、『みんなの学校』では、しんどい子どもと呼ばれている子どもたちです。大空小学校では、彼らも、みんなと一緒に学ぶことができるのですが、普通の学校では、クラスでみんなと一緒に学べなかったり、不登校になってしまう子どもたちです。

寺子屋くらぶには、不登校の子どもも居ましたが、学校に通っている子どもも来ました。そこで、最初に、頭に浮かんだのは、「なぜ、学校にちゃんと通っているのに、中学校になっても、九九も割り算もできないのか」という疑問でした。この疑問を持ちながら、学生ボランティアと一緒に、NPO活動を推進する中で、たくさんの驚きに出会ったことを思い出します。

 

驚きの数々

まず、一番の驚きは、彼らの可能性をつぶしているのは「大人や社会の諦め」であるという事実でした。寺子屋くらぶ初日、その場を運営し、私たちに学習支援の機会を下さった本当に親身に子どもたちのことを見ている方たちが、もちろん、一生懸命な学生ボランティアをがっかりさせないようにという親切心からだとも思いますが、「この子たちは、15分机に座れたら、それで素晴らしいことですから」と我々に伝えてくれました。

ところが、九九のできない中学生も、親身に向き合う学生教師と一緒に、初日から、主体的に3時間勉強し続けたのです。もちろん、問題を次々と解く3時間ではありません。しかし、小さいステップかもしれませんが、確実に、解らないことが解るようになるという学びに、彼らが3時間取り組んだのです。

 

寺子屋初日のリフレクション

この日のリフレクションは、3つありました。

  • 九九のできない中学生(本来なら小学生の学びを中学生で取り戻さなければならない子どもたち)は、学習指導の支援を受ける機会を得ることが難しい。その理由は、支援側の大人が、彼らが勉強することを諦めているから。
  • 九九の出来ない中学生も、「本当は、勉強ができるようになりたい」と思っている。しかし、自信もないし、誰からも期待されていない。だから、「自分は馬鹿だ」と思い込み、自分を諦めてしまう環境になっている。
  • 親身に彼らに向き合い、彼らを諦めない学生ボランティアと、彼らが出会うことで、小学校からの勉強の遅れも取り戻せる。

とても大きな収穫です。子どもたちを支援する方法はあると確信しました。

 

大きな疑問と小学校の事情

寺子屋初日の最も大きな疑問は、「学校に毎日通えているのに、どうして、九九ができない中学生になってしまうのか」でした。寺子屋に通う子どもの中には、不登校ではなく、学校に通えている子どもたちもいました。ところが、それでも、学習に遅れが見られます。「どうして、学校で学べないのだろう」そう素朴に思いました。

そこで、先生たちにヒヤリングをした所、学校の授業というものは、平均的な子どもたちのレベルに合わせて行われるという説明を受けました。確かに、授業は、個別指導ではなく、一斉授業なので、レベルを統一する必要があります。また、ある先生からは、落ちこぼれている子どもたちを対象に授業を行うと、学級崩壊が起きるというのが学校の常識だとも聞きました。

彼らの話を聴きながら、寺子屋に来ている子どもたちは、まじめに学校に通ったとしても、一旦、学力に遅れがでてしまうと、その遅れを取り戻すことが難しい状態で、授業を受けているということが解りました。

先生方の話から、同じ授業を同じように受けて、成績に差が出てしまう学校の仕組みは、困難を抱える子どもたちの自己肯定感を奪い続け、やがて、自分を諦めてしまうというとても残念な教育システムが出来上がっていることが解りました。

先生は、学級崩壊を起こさないために、一生懸命頑張っているのですから、非難する訳にもいきません。しかし、間違いなく、この環境は、しんどい子どもたちにとって、望ましい環境ではありません。

 

中学校の事情

その後、中学校でもティーチフォージャパンの先生が活躍するようになり、中学校の先生方とお話をする機会を得ました。

しんどい子どもたちの学力の遅れは、中学では、顕在化しています。寺子屋くらぶに通う子どもたちのように、九九や割り算ができないなど、小学校卒業の学力が身についていないまま、中学生になっています。当然ですが、中学校で、先生たちが、彼らの学力を高めることはできません。中学校の先生方が願っているのは、彼らが中学校を無事に卒業してくれること、その次の願いは、定時制高校に入学してくれることでした。

ところが、このような状態で、定時制高校に入学する子どもたちの多くは、高校を中退してしまうのが現実です。つまり、彼らが小学校、中学校に通えたとしても、義務教育の学力を身に付けることができないのです。

それどころか、9年間、彼らは、「自分は勉強のできない、ダメな奴だ」という刷り込みのために、学校に通っているのです。大人なら耐えられない職場に、9年も通い続けるのです。

しかし、『みんなの学校』大空小学校は、違います。

 

大空小学校を日本の当たり前に

大空小学校の理念は、「すべての子どもたちに学習権を保証する」です。寺子屋くらぶの活動経験から、私も100%この理念に賛同します。

もし、私たちが、小学校と中学校を義務教育と呼ぶのであれば、そして、義務教育の学びが、社会人として生きるベースの学力を身に付けることだと定義するのであれば、全ての子どもたちに、その学びを提供するために、学校や社会、全ての大人たちに何ができるのかを考えることが大切だと思います。

寺子屋くらぶで気づかされた、大人や社会の諦めは、そもそも、義務教育に対する諦めがスタートだと思いました。その結果、しんどい子どもたちは、自分を諦め、塾に通える子どもたちは、別の意味で、学校で学ぶことを諦めています。

大空小学校では、しんどい子どもが授業中教室を歩き回っても、誰もが授業に集中できます。一人ひとりが、自分の使命を持っているからです。同時に、しんどい子どもたちに共感する力ももっているからです。

学校は何のために存在するのか。誰のために存在するのか。しっかりと、勉強会で話し合っていきたいと思います。

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