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多様性の心得

2020.06.22 文部科学教育通信掲載

多様性の時代になり、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくそうという取り組みが世界中で始まっています。グーグルでも、アンコンシャスバイアスをなくす活動が盛んですが、その目的は、誰もが、潜在的な能力を開花させることと言います。グーグルでは、「新しいアイディア生み出したいから、若い人を集めたチームにしよう」というと、「それは、アンコンシャスバイアスに基づく発言だよ」と注意されるそうです。皆さんは、このメッセージの問題が何か解りますか。

もし、このメッセージを、若くない人が聞いたら、その人は、自分には新しいアイディアを出す力がないと思うことが問題。その人は、自分の潜在的な能力を諦めてしまうというのです。誰かが、潜在的な能力を諦めてしまうメッセージは発しないというのが、グーグルにおけるアンコンシャスバイアスの取り組みです。優秀な人を採用し、その潜在的な能力をフルに開花してもらえれば、企業にとっても喜ばしいことです。そして、勿論、個人にとっても幸せなことです。

昭和女子大学キャリアカレッジでは、ダイバーシティの推進に取り組んでいます。また、クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育を広める活動をしています。

この2つは別な活動のように見えますが、共通点があります。それは、どちらもダイバーシティの推進のための取り組みであるということです。

オランダのダイバーシティ推進

民主的な社会と、強い市民のお手本となる国オランダでは、しっかりと子どもの頃から多様性を包摂する社会のつくり方を学びます。子どもたちに、共生社会を実現して欲しい時、日本では、「お友達となかよくしましょう」「お友達の気持ちを理解しましょう」と、すぐに他者との関係づくりを指導しますが、オランダは違います。オランダの子どもたちが最初に学ぶのは、自分の意見を持つこと、そして、ともだちと意見がちがっても、ともだちでよいということです。そこには、民主的な社会は、対立を前提とするという考えがあります。だから、対立は悪くない、しかし、対立を話し合いではなく、けんかや譲歩で解決するのはいけないことだと学びます。

ダイバーシティの推進は、主体性の推進でもあるということが、とても大きな学びでした。今、日本でも、多様な働き方が当たり前になりつつあります。しかし、組織マネジメント手法を変えていません。しかし、多様性を画一性のように管理することはできないというのも事実です。ダイバーシティの推進は、個を自律に向かわせ、マネジメント手法も、それに合わせて、セルフマネジメントへと移行していくという流れは、世界ではすでに始まっています。ティール組織は、上司という概念、ヒエラルキーという概念を捨てました。また、スクラムというシステム開発の手法では、チームが仕事の上で行う意思決定権を100%持つことになります。

画一性のレガシー

日本では、ダイバーシティの推進が進められている一方、文化的な背景もあり、画一性のレガシーがまだ健在です。違うよりも、同じ方がよいというものの見方は、根強く、人の話を聴いていても、共感することばかりを強調しがちです。「その意見は、考えてもみなった意見だ。もっと、詳しく教えて欲しい」と違う意見を見つけ、賞賛するようにならなければ、多様性が歓迎されているとは言えません。

同調圧力の中で、人は、安心して自分を出すことはできません。グーグルが、「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉通りのチームを実現するために行った調査研究アリストテレスプロジェクトでは、強いチームには、心理的安全性があることを突き止めました。心理的安全性があるチームは、メンバー全員が同じ位話をするという特徴があるそうです。ところが、心理的安全性がないチームでは、誰かがとても長く話し、外の人は聴いているというのがその特徴だそうです。多様性は、一緒にいるだけでは、イノベーションに貢献せず、アイディアを出し合う過程に多様性が生かされて初めて、価値を生むという、言われてみれば当たり前のことを、多くのチームはやれていないのです。

多様性を包摂するためには、心理的安全性を実現すること以外にも、いくつかの心得があるので、紹介したいと思います。

心得➀自分も多様性の一部である

多様性を尊重する姿勢は、誰もが持っていると思います。日本人には、他者を思いやる気持ちもあります。これは、ダイバーシティの推進において、とても心強いことです。しかし、これでは十分ではありません。皆さんが多様性を尊重する時、「私は、私と違うあなたを尊重します」と考えていませんか。これが、問題です。その理由は、自分を多様性の外に置いて、あなた自身を違いの基準にしているからです。多様性を包摂する時には、あなたも多様性の一部、相手も多様性の一部と捉える必要があります。

心得②それは事実ですか。あなたの解釈ですか

自分とは異なる多様な世界や人々を理解する際には、常に、事実と解釈を分ける習慣が必要です。なぜなら、私たちは、事実を解釈する際に自分の経験を当てはめるからです。あなたは、当然ながら、自分とは異なる多様な世界に生きている人たちの経験を知りません。彼らが、どのようなものの見方をしているのかも、知りません。だから、あなたが、事実を勝手に解釈するのは、とても危険なことです。

例えば、「女性は管理職になりたくないらしい」という男性社会の女性に対する解釈を耳にします。そんな時、私がこんな説明をしていました。「一般的に、女性には、男性のように強いヒエラルキー概念がなく、フラットなチーム概念の方が強いため、階層を上がること自体に意義を感じていないだけです。管理職になることよりも、自分に何をすることが期待されているのか、どんな成長ができるのかを理解したら、やりたいと思う女性は多いです」 おそらく、上司の皆さんは、これまで、男性部下に「管理職になって欲しい」と伝えて、「結構です」という返答をもらった経験がなく、女性部下の言葉を、過去の経験に照らし、「女性は管理職になりたくない」という解釈になったのだと思います。ダイバーシティの推進には一拍置いて、「それは事実か、あなたの解釈か」と自問することが、不可欠です。

心得③フラットでオープンである

これが最も大きな抵抗にあう心得です。多様性に、ヒエラルキーの概念を持ち込むことは本当に意味のないことです。なぜなら、多様性が一緒に存在する最大の価値が、相互学習だからです。多様性が化学反応を起こす過程は、相互学習の過程です。ところが、ヒエラルキーの中に多様性を配置すると、優は劣から学ばず、劣は優を超えられず潜在的な能力を閉じてしまいます。ハーバード教育大学院では、マインド・ブレイン・エデュケーションという脳科学と教室をつなぎ、脳科学の発展を子どもたちの学習に活かす取り組みが始まっています。脳科学者と心理学者と先生がチームとなって行うプロジェクトは、フラットでオープンなメンバーの関係性によって支えられています。

心得④対話する

対話を通して、境界線の外に出ることができなければ、同質性の高い小さな和の中に生きることになります。

ぜひ、皆さんも、多様性の心得を実践してみてください。

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