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一瞬一生の会

2020.06.08 文部科学教育通信掲載

知性発達学者の加藤洋平さんとみずほ銀行で女性初の執行役員として活躍された有馬充美さんが主宰する「一瞬一生の会」という半年間の勉強会が、5月にスタートしました。

有馬さんが、ハーバード・アドバンスト・リーダーシップ・イニシアティブ・フェローという、ハーバード大学が主催するプログラムに参加された頃から、温めてこられた企画なので、2期生として参加させていただけることをとてもうれしく思っています。

加藤洋平さんの著書「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」(日本能率協会マネジメントセンター)にも、衝撃を受けていたので、成人発達理論を学ぶことも、とても楽しみです。

今回は、私自身も、学び始めたばかりの成人発達理論の一部をご紹介してみたいと思います。

ダイナミックスキル理論

カート・フィッシャーによって提唱されたダイナミックスキル理論は、私たちの能力がどのようなプロセスとメカニズムで成長していくのかを説明する理論です。その根幹には、「私たちの能力は、多様な要因によって影響を受けながら、ダイナミックに成長していくものである」という考え方があります。

私たちの能力は、単純な直線を描きながら発達していくのではなく、発達のスピードも時により異なり、時には退行することなどを繰り返し、紆余曲折に富むダイナミックな特性を持つものです。カート・フィッシャーが、階段のイメージ図で、発達を表すことを止めたのもこのためです。

私たちの1つの能力は、他の能力と関係し合いながら発達することも興味深いです。たとえば、「文章を書く力」は、「文章を読む力」と密接に関係し合っていて、お互いが補完し合いながら、発達していきます。この理論に従えば、自分が伸ばしたい能力を、伸ばすために、補完し合う他の能力を探し、自らの能力開発に活かすことも可能です。

最適レベルと機能レベル

最適レベルとは、他者や環境のサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。機能レベルは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる最も高度な能力レベルです。

例えば、誰かと一緒に取り組んでいたら出せる成果が、一人で行うと出せない時は、前者で発揮する能力が最適レベルであり、後者で発揮する能力が機能レベルということになります。あるいは、指導者がいる時には発揮できる能力が、指導者がいない環境で、一人では出せないという時も、前者が最適レベル、後者が機能レベルです。

カート・フィッシャーは、最適レベルと機能レベルのギャップを、発達範囲と呼んでいます。この理論で、最も衝撃なのは、この発達範囲が、年齢を重ねるごとに拡大することです。子どもの発達が大人の支援によって変わるというイメージはありましたが、むしろ、大人の発達の方が、他者の支援を必要とするというのは驚きの事実です。

他者の支援があれば到達できる最適レベルは、機能レベルよりも先行する特性を持ちます。最初は、誰かの助けが必要なことも、支援を得て、能力が発達し、やがては、一人でできるようになるということは、誰もが経験を通して知っています。このため、成人発達理論でも、

ヴィゴツキーの提唱した最近接発達領域という考え方が当てはまり、他者の助けを得れば発揮できる能力を使う機会は、人を成長させます。そしてもし、自らの成長や発達を止めたくないのなら、常に、この最近接発達領域にあるテーマと共に生きることが大事ということになります。

13の能力レベル

ダイナミックスキル理論によれば、私たちの能力は、「反射階層」、「感覚運動階層」、「表層階層」、「抽象階層」、「原理階層」の5つの階層を経て発達していくそうです。最初の2つは、成人期前に見られる発達です。

「表層階層」は、頭の中に、物事をイメージすることができる能力で、例えば、パソコンという言葉で、パソコンのイメージを頭に思い浮かべることができます。4つ目の階層は、「抽象階層」で、形のない抽象的な概念、例えば、愛情を、言葉によって捉えられるようになる力です。そして、最後は、「原理階層」ですが、これは、アインシュタインの相対性理論や、ダーウィンの進化論のような、抽象的な様々な概念をさらに高度な概念や理論に昇華させる能力で、一般の成人がこのレベルに到達することは少ないようです。

私たちの能力は、この5つの階層を経て成長していきますが、一つひとつの階層の中には、「点・線・面・立体」の成長サイクルが現れます。

➀点:単一要素段階(点を作る段階)

②線:要素配置段階(線を作る段階)

③面:システム構成段階(面を作る段階)

④立体:メタシステム構成段階(立体を作る段階)「点・線・面・立体」の成長サイクルは、自らの成長を振り返っても、イメージがつきやすいです。

ダイナミックスキル理論では、「点・線・面・立体」の成長サイクルの「点」は「立体」と重複するので、3つの成長サイクルに絞り、また、「原理階層」は特例として、残りの4つの能力の階層について、3つの成長サイクルがあると考え、「3(線・面・立体)x4(反射階層、感覚運動階層、表層階層、抽象階層)+1(抽象概念)=13」で、人間の能力のレベルを13に分類し説明しています。

 

主体客体理論

もう一つ、成人発達理論として、本勉強会で学ぶのは、ロバート・キーガンが提唱する主体客体理論です。この理論では、意識の発達を、主体から客体に移行する弁証法なプロセスと定義しています。意識の発達においては、主体が縮小し、客体が拡大するということは、誰もが、自らの発達を通して味わったことのある経験ではないかと思います。

ロバート・キーガンの提唱する理論では、生涯を通じて意識は発達するとし、その発達段階は、「利己段階」、「他者依存段階」、「自己主導段階」、「相互発達段階」に分類されます。

主体客体理論 意識の発達

利己段階では、自分の欲求や関心に支配されている

他者依存段階では、自分独自の価値体系を構築できず、社会や所属する集団によって構築された価値体系の中に生きる

自己主導段階では、自己独自の価値体系を構築できるが、自分の価値観や視点から距離を置くことができない

相互発達段階では、自己を構成するいかなるものにも同一化していないで、自己の価値体系を持ちながらも、他者の価値体系との融合を図る

(4分類は、加藤洋平氏の一瞬一生の会第1回テキストを参考に作成)

 

自分の意識の発達を客観視することは、今からの作業になりますが、過去に遭遇した人々を頭に思い浮かべると、意識の発達についても、経験知を当てはめることができるように思います。自我が芽生えたばかりの子どもの様子や、尊敬できる成人の姿をイメージすると、理解し易いです。

今回、私が、本勉強会に参加する目的は、人材育成に関与する上で、自ら成長する機会を設けることと、現在推し進めているリフレクションと対話のメソッドとその実践が、成人発達に価値をもたらすために、成人発達理論に対する理解を深めることの2つです。

第1回の勉強会では、点の数が増えて、点が線になりつつあるという段階なので、道のりは長いと感じますが、私自身が、学びの最近接領域に居ることを信じて、学び続けてみようと思います。

 

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