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レジリエンスとリフレクション

2020.05.25 文部科学教育通信掲載

今回は、リフレクションが、どのようにレジリエンスを高める効果につながっているのかを紹介致します。

リフレクションとは、自己の内面を客観的・批判的に振り返る行為です。リフレクションの習慣を持つ人は、物事に対して、これまで通りのやり方やモノの見方を、そのまま適応するのではなく、批判的スタンスで、経験から学び、考え行動することが可能になります。

レリエンスとは、回復力、弾性のことで、レジリエンス研究の第一人者であるペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力と定義しています。レジリエンスを構成する要素は、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、つながり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ等)の8つです。そのうち、6つの要素を強化するためには、リフレクションの習慣が役立ちます。

自己認識とリフレクション

自分の思考、経験、感情、価値観を振り返るリフレクションは、自己認識を高める上で、なくてはならない習慣です。特に、内発的動機や信念につながる価値観について、自己認識を深めることは、自分を活かす上で欠かせません。

変化の激しい時代だからこそ、自分の意志と選択で、道を切り開いていくことがこれまで以上に大切になっていると感じます。多様性も増す中で、「自分が何を実現したいのか」「自分が何者なのか」を見出せないまま、変化の波に乗ってしまうと、「今、自分がどこに立っているのか」も、解らなくなってしまいます。

 

自制心

リフレクションを通して、自分の感情や思考、行動をメタ認知することで、自分を制御する力が高まります。

 

脳科学の発展により、感情が、我々の思考に大きな影響を及ぼすことが明らかになった今日、自分が感情を支配するのか、感情に支配されるのかは、人生に大きな違いをもたらすことが容易に想像できます。

 

精神的敏捷性

精神的敏捷性とは、物事を多面的に捉え、大局的な見地から対処することを意味します。困難に直面した時でも、冷静に本質的に物事を捉え、適切に対処するためにも、リフレクションが役立ちます。

リフレクションで、自分の内面を客観視し、対話のアプローチで、境界線の外にある世界から学ぶことができれば、多面的、多角的に物事を理解したうえで、適格な判断を下すことができます。

楽観性                          

リフレクションを行えば、自分自身が、物事のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかが解ります。同じ出来事に遭遇しても、可能性に注目できる時と、リスクに意識が向く時があります。心身のコンディションも、大きく影響を及ぼします。

物事は、簡単ではなく、すぐに、解決策が見いだせない環境の中では、問いと共に生きる時間は、当然長くなります。私たちは、これまで以上に、楽観的で居にくい環境にいる中で、課題解決を諦めないためにも、これまで以上に、楽観的であることが求められていることを認識する必要があります。

自己効力感

「やればできる」という自信は、逆境を乗り切る上で欠かせません。人の自信はどこから生まれるのでしょうか。幼い頃に、無条件の愛情を注いでもらった経験を持つ人は、自己効力感が高いと言われます。あなたもその一人かも知れません。でも、もし、そうでなかったとしても、自己効力感は、後天的にも高め続けることができます。その際に役に立つのが、やはり、リフレクションです。

NHKの連続テレビ小説「エール」の中で、得意なこととは、人よりほんの少し努力することが苦痛でなく、ほんの少し簡単にできることという説明がありました。とても上手に、得意なことを説明していると思います。自分の得意なことを実践する機会が増えれば、自己効力感も高まります。また、得意なことは自分にとって当たり前すぎて、気付けないこともあるので、他者からのフィードバックも有効です。

経験から学ぶリフレクションも、自己効力感を高める有効な手段です。私たちは、日々、たくさんの経験をしていますが、リフレクションを行わなければ、自分がどれだけ成長しているのか、賢くなったのかを知ることができません。経験を通して得られた学びを放棄している状態では、自己効力感を高めることは難しいです。

多くの人たちが、自分の持っていないものに焦点をあて、自己効力感を下げている様子を目にすることが多いです。矢印を自分に向け、自分が生きている証である経験をリフレクションすることで、自己効力感を高めることが可能であることを、多くの人に体験して欲しいです。

つながり

つながりを強める上でも、リフレクションと対話が役立ちます。リフレクションは、まず、自分自身とつながる力を高めます。リフレクションと対話を実践すれば、人とのつながりを深めることができます。相手の意見だけではく、相手の経験を知ることや、相手の気持ちを理解すること、そして、相手が大切にしている価値観を知ることができれば、つながりは深まります。初対面でも、相手のことをとてもよく理解することができます。

グーグルは、アリストテレスプロジェクトを通して、成果を上げるチームに共通している特徴は、心理的安全性であることを明らかにしました。心理的安全性のあるチームでは、誰もが、意見を述べることができるが、心理的安全性がないチームでは、限られた人だけが意見を述べていることが多いそうです。勿論、そのためには、フラットでオープンな文化づくりが必要になりますから、認知の4点セット(意見、経験、感情、価値観の4つに意識を向けて話し、聴く方法)を使うとよいのではないかと思います。相手を知らなければ、相手の反応も予想できませんから、本音を出しにくいです。しかし、お互いの価値観やものの見方、バックグランドが解っていれば安心して話せます。

シリコンバレーで経営者のチームビルディングを支援するコンサルタント パトリック・レンシオーニは、チームには、5つ( 信頼性の欠如 、衝突への恐怖 、責任感の不足、説明責任の回避、結果への無関心)の機能不全があると言います。そして、組織の信頼関係は、衝突を恐れる必要のない関係性を意味していると言います。このチーム理論でも、心理的安全性がないチームは、成果を出せないと言っています。

ぜひ、皆さんも認知の4点セットを活用した対話を、チームメンバーと実践してみてください。

【認知の4点セットの問い】

意見:あなたの意見

経験:あなたの意見の背景にある経験や知識

感情:経験に紐づく感情

価値観:意見の背景にある価値基準

 

レジリエンスにおける「つながり」は、人間関係のみならず、精神的なつながりも含む概念のようです。パーパスとつながるといった、より大きな目的とのつながりも、レジリエンスを助けます。

自分が、どこに向かっているのか。何のために、そこに向かうのか。何に貢献したいと考えているのか。リフレクションを通して、その答えを見出せると、クリエイティブテンションは高まり、眠っている潜在能力が目覚めます。この状態になれば、逆境を乗り越える力も、当然高まります。

信頼できるチームと、自分が心から実現したいことに取り組んでいる時には、レジリエンスも高まり、成果も上がるはずです。この好循環をつくるためにも、リフレクションを実践して欲しいと思います。

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