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最適化社会

2021.03.22文部科学教育通信掲載

2月22日に、元国会議員の二之湯武史氏が出版された「最適化社会日本幸せの国の作り方」をテーマに、最適化社会実現フォーラム第1回を開催しました。二之湯武史氏のミニ講演の後は、私を含めた五名の登壇者(共感資本主義の実現を目指し活動する株式会社eumoの岩波直樹氏と武井浩三氏、鎌倉に禅2.0を立ち上げた宍戸幹央氏、GCストーリー常務取締役の萩原典子氏)も参加して、最適化社会について語り合いました。

最適化社会とは何か、その実現に何が必要か 

テーマは、資本主義から教育まで多岐に渡り、1回でまとめることは不可能です。そこで、これから、当分、月1回、最適化社会実現をテーマに、ゲストを招聘し、対話を行うことになりました。オンラインなので、ぜひ、皆様にもご参加いただきたいです。

 最適化社会とシニック理論

今日は、最適化社会 という言葉の由来となるシニック理論を紹介したいと思います。シニック(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution,)理論は、オムロンの創業者 立石一真氏が、1970年に構築し、国際未来学会で発表した理論です。シニック理論は、未来を指し示す羅針盤として、今もオムロンの経営を支えています。立石氏は、経営者の最大の仕事は、次の時代がどのような時代になるかをいち早く予測して、その時代に対応する商品を開発することと考え、この理論を創られたそうです。今から50年以上も前に、考えられた理論とは思えず、立石氏の先見性に脱帽します。

イノベーションの円環的展開

シニック理論は、日本語に訳すとイノベーションの円環的展開という意味です。立石氏がどのように、この理論を解説していたかを、『「できません」と云うな』オムロン創業者立石一真(湯谷昇羊著 ダイヤモンド社)から引用します。

「人類が地球上に現れてから今日までの歴史を見ると、科学と技術の間には、円環論的な関係があるんや。まず、新しい科学が生まれると、その科学にタネ(Seed)をもらって新しい技術が開発される。その新しい技術がイノベーションの形で社会を変貌させていくという、こういう一つの方向があるんや」

「そして、それとは逆に、社会からはニーズ(必要性、要請)がでてくるんや。そして、このソーシャル・ニーズを満足させるための新しい技術、商品、システムが開発される。もちろん、そういう商品やシステムは、確実にうれるわなあ。その場合、それまでの技術だけでは解決できないというんであれば、科学の分野に対して刺激(impetus)を与えて、新しい技術の誕生を促すんや。これが最初に云った正方向の相互関係に対して、逆方向の相互関係ということになる」

「こんな風に、科学、技術、社会の間には、二方向の相互関係が合って、お互いが因となり果となって社会が変貌し、発展していくんや。つまり、サイクリック・エボルーション、円環論的なツー・ウェイの関係が合って、常にサイクリックに流れている」

立石氏が、幹部にこう話した際に、ある幹部が、「なんで人間だけが、常にそういう新しい技術や商品、システムを求めて進歩を図ろうとするんですか」と質問し、「それはなあ、人間の一種の業や、常に進歩したいという意欲がもとになってるんや」と立石氏は答えました。

1952年の出会い

立石氏が、シニック理論を構築した背景には、20年前の2つの情報との出会いがあります。

1952年に、立石氏は、初めてオートメーションという技術革新の存在を知ります。当時、アメリカでは、すでにオートメーション工場が存在していましたが、日本では、オートメーションが何かもほとんど知られていませんでした。同年、立石氏は、マサチューセッツ工科大学のノーバード・ウィーナー博士によって提唱されたサイバネティックスにも、出会います。サイバティニックスとは、通信工学と制御工学を融合し、生物、人間、機械、社会のメカニズムを統一的に解明しようとする学問です。

アメリカでは、サイバネティックスの本が出版されると、もしこの科学が応用されると、機械化が進み、労働者が失業してしまうことを恐れ、本の流通が止められたという話を聞いた立石氏は、どれだけ科学技術が発展し高度化されても、それを駆使するのは人間であり、どれだけ優れたシステムでも、人間の介在をなくすことはおそらく不可能だろうと考えました。そして、機械化できる仕事は機械に託し、人間には、創造的な仕事が残ることが、人間にとっても幸せであると結論付けます。そして、翌年の1953年には、オートメーションに進出することを決めます。

AIと人間

モノが中心の時代に、機械化されるのは製造ですが、情報が中心の時代に、機械化されるのは事務作業です。AIに人間の仕事が奪われることを恐れる我々と、サイバティニックスに怯えた当時の人々の心情はとても似ています。立石氏の考えに見習い、機械と人間の役割の違いを意識し、人間である私は、創造的な仕事に喜びを得るよう心掛けたいと思います。

シニック理論の素晴らしい所は、技術だけが先行するのではなく、人間の進歩欲求が、技術、商品、システムを創造する原動力にもなっているという点です。環境問題がより深刻化する今日、技術と人間と社会と自然の4つの調和をどのように保つことができるのかも見極める必要があります。技術革新のスピードが増す今日でも、人間が社会と未来を創るという気概を忘れず、最適化社会から自律社会への移行に、ポジティブな影響を与える人間でありたいと思います。

経験から学ぶリフレクション【実践編】

2021.03.08文部科学教育通信掲載

21世紀学び研究所では、経験から学ぶリフレクションを広める活動に従事しています。そのために、様々なフレームワークを作成し、試行錯誤を繰り返し、最も簡単に、最も質の高い経験学習を行っていただくための「問い」を模索してきました。

最新版の経験から学ぶリフレクションの問いを、新入社員のリフレクションを事例にご紹介してみたいと思います。

明確なゴール

経験から質の高い学びをえるために大切なことは、行動する前に、明確なゴールを持っていることです。新入社員の事例では、オンライン上で行う自己紹介で好印象を持ってもらうことがゴールでした。

問い:想定していた結果は何ですか。

答え:自己紹介で、好印象を持ってもらう。

 

計画と仮説

ゴールの次に重要なもの、それは計画と仮説です。行動には、計画が必要ということは誰もが知っていることです。仮説とは、経験の前提となるものの見方のことです。誰もが、行動する前には、「こうすればうまく行く」という考えを持っています。過去の経験により形成されたものの見方を、私たちは常に活かしています。多くの場合、無意識に活かしているために、その存在に気付き難いですが、誰もが、うまくいくであろうという仮説を持って行動しています。ところが、実際に行動してみると、うまく行かないこともあります。新入社員の事例では、事前に、パワーポイントを準備し、プレゼンの練習を行うことにしました。その前提となる仮説は、パワーポイントを使うと、口頭だけよりも、たくさんの情報を伝えられ、練習をするとスムーズに話せるようになるというものでした。

仮説の前提には、過去の経験があります。それは、自身の経験の場合もあれば、他者の経験に学ぶ場合もあります。本やセミナーなどから学んだことかもしれません。私たちは、常に、経験に学び、次に生かすという習性を持っているために、いざ、何かのゴールを達成しようと思うと、過去の経験に基づき、仮説を立て、その仮説に基づき行動します。ところが、この仮説は、過去の経験に基づくものであり、未来のゴール達成を保証するものではありません。このため、うまく行く時と、うまく行かない時があります。いずれの場合でも、仮説を明確にしていれば、その経験から学ぶことができます。

問い:どのような行動計画を立てましたか。

答え:オンラインでの自己紹介なので、パワーポイントを準備し、発表の練習をして本番に臨む。

問い:計画の前提にある仮説(判断基準)は何ですか。(「こうすればうまくいく」等の持論、過去の成功・失敗体験から得た知恵・成功法則等)

答え:パワーポイントを使うと、口頭だけよりもたくさんの情報を伝えられる。練習をすることで、スムーズに話せる。

 

経験の振り返り

経験を振り返りでは、ゴールに対してうまく行ったこと、うまく行かなかったことを洗い出します。この際に、感情を振り返ることもお勧めしています。新入社員の事例では、うまく行ったことは、練習の成果もありスムーズに語ることができたことです。うまく行かなかったことは、少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまったことです。

経験の振り返りでは、感情を振り返ることも大事です。プレゼン中はドキドキ、終了してほっとした、その後、ちょっと残念な気持ちと、気持ちの変化を追うことで、自分の経験を追体験することができるからです。経験の振り返りにおいて、最も難しいことは、経験という膨大な情報の中から、何を切り出して振り返るのかということです。経験と繋がる感情を思い出すことによって、この経験のどこに満足していて、どこに不満が残ったのかが解りやすく、振り返りのツボが見つけ易くなります。

問い:どのような経験でしたか。うまくいったこと、うまくいかなかったことは何ですか。

答え:・練習の成果もあり、スムーズに語ることができた。
・少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまった。

問い:その経験には、どのような感情が紐付いていますか。

答え:(プレゼン中)どきどき  (終了後)ほっとした  (その後)ちょっと残念

 

経験からの学び

経験を振り返ったら、いよいよ学びの刈り取りです。成功しても、失敗しても、経験を通して人は賢くなるというのが、経験から学ぶリフレクションの理念です。うまく行ったことも、うまく行かなかったことも共に学びの材料になります。

新入社員の事例では、うまく行ったことは、練習の成果があり、スムーズに語れたことです。うまく行かなかったことは、少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまったことです。また、終了後に、少し残念と感じたのは、普段、面白いと言われる性格なのに、その部分が、自己紹介で全く出せなかったことです。もう少し、自分の面白いキャラクターを知って欲しかったという残念な気持ちが残りました。

うまく行かなかったことについては、経験前に戻れるとしたら、何を変えるかという問いにしています。次のアクションにつなげ易いと考えたからです。新入社員は、練習とは違い、本番では緊張することを改めて認識しました。このため、普段の面白さを、自然に出すことはできませんでした。そうであれば、プレゼンの中に、面白さを盛り込んでおけばよかったという気づきに至ります。

問い:(うまく行った場合)なぜうまくいったのだと思いますか。

答え:〇 練習の成果があり、スムーズに語れた。

問い:(うまく行かない場合)経験前に戻れるとしたら、何を変えますか。

答え:△ 緊張すると硬い話し方になることを計算に入れ、普段のような「面白さ」をあらかじめプレゼンに盛り込んでおけばよかった。

法則の定義

経験の振り返りを基に、法則を定義します。経験から学ぶリフレクションのクライマックスです。この際に、計画当初の仮説と、経験を照らし合わせることも重要なポイントです。

仮説は役に立ったのか、想定外の何かがあったのかを確認します。新入社員の場合、パワーポイントの準備も練習も役に立ちました。しかし、仮説の段階で、本番での緊張は考慮していなかったので、そういう意味で、本番での緊張は想定外ということになります。そして、自分らしさを十分表現できなかったことも残念に感じ、準備の段階で、自分の面白いキャラクターを伝えようという意識を持っていなかったことに気付きます。プレゼンを実際にやってみたことで、改めて、自己紹介とは何かについても、振り返ることになります。

問い:リフレクションから明らかになったことは何ですか。仮説(判断基準)がアップデートされた法則を定義してみましょう。

答え:自己紹介では、情報共有のみならず、自分らしさを伝えることも大切。まじめな自己紹介の中でも、愉快な自分を、どう表現するかを工夫することが大事。

行動計画

経験で学んだことは、すぐに活かす!これも、経験から学ぶリフレクションの大切なことです。新入社員は、まじめな自己紹介で、どう愉快な自分を表現するかその方法を考える事にしました。自己紹介がどんな風に進化するのか楽しみです。

 

問い:明らかになった学びをどのように活かしますか。

答え:まじめな自己紹介の中で、愉快な自分を表現する方法を考える。

ぜひ、皆さんも、経験から学ぶリフレクションで、進化し続ける楽しさを味わっていただきたいです。

教えない教育

2021.02.22文部科学教育通信掲載

2018年に、東日本大震災・福島第一原発事故から7年ぶりに再開した福島県双葉郡の小中学校には、毎年、一人のプロフェッショナル転校生がやってきます。1月24日に、今年で、3年目となる「教えない教育」を振り返るオンラインイベントが開催され、私も、モデレーターとして登壇させていただきました。「教えない教育」を通して、子どもたちは何を感じ、何を学んでいるのかを探求する中で、たくさんの気づきを得ることが出来ました。

PnS(ピンズ)は、プロフェッショナル・イン・スクールの略で、各界のプロ、特にアーティスト、建築家、音楽家、職人などクリエイティブな職種の人が、「プロフェッショナル転校生」として、教室を仕事場としながら子供達と学校生活を共にするプロジェクトです。

3人の登壇者との対話を振り返りながら、「教えない教育」の可能性を考えてみたいと思います。

大工棟梁の林敬庸さん

転校生第1号は、岡山県西粟倉村を拠点に90年以上にわたり神社・仏閣、住宅などの建築物を創り続ける大工の3代目 林敬庸さんです。プロフェッショナル転校生 林さんのミッションは、台風で倒れた地元の樹齢350年の黒松を使って、大きな机を創ることでした。当時の教育長が、「証し」と半紙に筆で書き、なぜ林さんが学校にやってきたのかを子どもたちに説明し、林さんの転校生生活がスタートしました。林さんの職場は、校長室の隣にある教室です。

子どもたちは、林さんの職場が大好きで、みんな何かお手伝いをしたいと集まってきます。最初に、みんなでルールを決めようということになり、プロの仕事場で何を心掛けるかを、書き出してみると、あっという間に10以上のルールが出来上がりました。林さんや先生が指示をしたわけでもなく、子どもたちが自らの意志でルールを考えました。子どもたちなりに、ここはプロの仕事場であるということを理解したのだと思います。リストの中には、「棟梁の言うことを聴け」というものもありました。

大工が美しい仕事をするために、掃除がとても大切であるという林さんの職人としての哲学は、子どもたちの心を動かします。子どもたちが、いつも、掃除に来てくれたと、棟梁は思い出を語ってくれました。普段とは全く異なる姿勢で、誰もが一生懸命、掃除に打ち込む様子には、先生も驚いたようです。

子どもたちは、棟梁が真剣に仕事に打ち込んでいる時には、教室に入らず、廊下に立ち、窓の外から仕事の様子を眺めていて、棟梁が休憩に入ると、部屋に入ってきたそうです。子どもたちは、真剣に仕事に向かう棟梁の姿から、何を学び取ったのでしょうか。

完成した大きな机の裏側には、棟梁が、タイムカプセルのように、手紙を入れるスペースを作り、みんなの手紙をその中に締まっておいたそうです。富岡町の学校再開の証しとして作られた大きくて美しい机は、今も、学校で子どもたちと共に暮らしています。

 油絵画家の加茂昂さん

二年目の転校生は、油絵画家の加茂昂さんです。加茂さんは、3.11後、「絵画」と「生き延びる」ことを同義に捉え、心象と事象を織り交ぜながら「私」と「社会」が相対的に立ち現れるような絵画作品を制作されていることから、プロフェッショナル転校生2期生に選ばれました。

「鴨ではなく、加茂です」と白板に名前を書き、自己紹介する加茂さんに、子どもたちは興味津々です。加茂さんは、林さんの大きな机を見て、「大きな絵」を書こうと決めたそうです。完成した絵を飾るのは、大きな壁があり、子どもたちが登校したら必ず通る場所にある階段の踊り場に決まりました。加茂さんは、「最初から、どこに飾られるのかが決まっていて、その場所で絵を描くことはめったになく、移動で破損することを心配せず、たっぷりと、絵の具をキャンパスに載せることができた」とお話されていました。実際に、私も完成した絵を見せていただきましたが、そのせいか、作品の中央で美しく咲いている桜の木がとても立体的に見えます。

加茂さんが学校にやってくると、棟梁の仕事場が、アトリエに変身です。加茂さんの最初の仕事は、デッサン。町中を歩きデッサンを何枚も何枚も書き、アトリエの壁に貼っていきます。サッカーをしている子どもたち、遊んでいる子どもたちの様子も、何枚も何枚も書きます。そして、絵の構想が決まり、キャンパスに書き始めてからも、何度も、書いた絵を白く塗り、書き直す様子を、子どもたちは、驚きと共に見ていたようです。「あんなにきれいに書いてあったのに、なぜ、書き直すのかな」、「それがプロの仕事なんだ」こんな風に、先生と子どもたちは話していたようです。

絵の好きな子どもたちが、アトリエで加茂さんと一緒に絵を描く授業もあります。プロのアトリエで、小学生が絵を描くことを想像しただけで、ワクワクします。「教えない教育」なので、加茂さんも絵の指導は行いません。でも、子どもたちの中には、加茂さんに絵の指導をした子がいたそうです。厳しいダメ出しをされたと、加茂さんも苦笑しながら話していました。

加茂さんが行った「色の三原色の授業」は、石を写生することを通して、グレーという色にも、色々なグレーがあるということを体験学習するというもの。色に対して興味が沸く「教えない教育」に相応しい素敵な授業です。

加茂さんの作品「富岡に灯る桜」には、校舎と桜と共に、校庭で活動している子どもたちが描かれています。生徒全員が絵の中に、誰とはわからないように描かれているのだそうです。子どもたちが、躍動感のある姿で描かれている背景には、子どもたちの様子を観察し、何枚も何枚も書き貯めたデッサンがあることを知り納得しました。絵の中央には、大きな桜が描かれています。富岡町には、2キロ以上の桜並木があり、春になると「桜まつり」が開かれます。7年ぶりに避難指示が解除され、小中学校が再開した年には、「桜まつり」も復活しました。加茂さんの絵には、復興への願いと、子どもたちが、今、ここに生きている証し、そして、未来への希望が描かれているように見えました。加茂さんが転校生の任期を終えた今も、加茂さんの絵は学校に存在し、子どもたちの成長を見守っています。

先生の尾形泰英さん

もう一人の登壇者は、林さんと加茂さんをプロフェッショナル転校生として受け入れた学校の尾形泰英先生です。「最初は、えっ? 何?」という感じだったという率直なコメントから始まった尾形先生のお話もとても興味深いものでした。「プロフェッショナル転校生は、先生とは違う、安心できる大人の存在だ」と尾形先生は話されました。先生は、子どもたちを評価する存在なので、先生と生徒の関係には、何かしらの緊張感が存在しますが、プロの転校生と生徒の関係には、この緊張感が全くない様子でした。加茂さんにダメ出しをする子どもがいたり、林さんに人生相談する子どももいたという話にもつながります。

また、尾形先生が、「僕もプロの教員。林さんはプロの大工。加茂さんはプロの画家。異なる世界のプロと一緒に過ごせたことは、自分にとっても貴重な経験となった」というお話がとても印象に残りました。

「教えない教育」とは、子どもたちも、転校生も、学校の先生も、みんなが学び、成長するものなのかもしれません。

 

 

チェンジ・メーカー教育

2021.02.08文部科学教育通信掲載

ワシントンに本拠を持つ非営利団体アショカは、エブリワン・ア・チェンジメーカー(誰もが、みんなチェンジ・メーカーだ)というキャッチフレーズを掲げ、世界中の社会起業活動を促進する取り組みをおこなっています。創業者のビル・ドレイトンは、社会起業家という言葉の生みの親で、社会起業家の父と言われる人です。その日本事務所アショカ ・ジャパンから、新年に素敵なメッセージが届きました。15年に一度見直される国際バカロレアの教育内容に、新たにチェンジ・メイキング思考が加わるというニュースです。

チェンジ・メーカー大学

アショカは、チェンジ・メーカーを増やすために、小・中・高・大学生を対象に、チェンジ・メイキング教育を奨励しています。2008年には、大学に、チェンジメーカー・キャンパスというコンセプトを創り、社会イノベーションと高等教育の変革をリードする大学をチェンジメーカーキャンパスに認定し、学生とすべての大学の利害関係者が、チェンジメーカーとして地域および世界の課題に取り組むことを奨励し、キャンパス全体の文化と運営に、チェンジメイキングの思想が反映されることを目指しています。現在、チェンジメーカー・キャンパスに認定されている大学は、43校で、アメリカのみならず、世界の大学が参画し、アジアでは韓国の大学も、チェンジメーカー・キャンパスの認定を受けています。

国際バカロレア

国際バカロレアは、国際的な初等中等プログラムで、通称IBと呼ばれています。現在、150か国で5,500校以上の学校がIB認定を受け、国際バカロレアに基づく教育を行っています。

IBの使命と学習者像

【使命】

すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する人間を育てます。

【学習者像】

IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。

探究する人
私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

知識のある人
私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取り組みます。

考える人
私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。

コミュニケーションができる人
私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。

信念をもつ人
私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動します。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動します。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。

心を開く人
私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと努めます。

思いやりのある人
私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために行動します。

挑戦する人
私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合います。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑戦と変化と機知に富んだ方法で快活に取り組みます。

バランスのとれた人
私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存していることを認識しています。

振り返りができる人
私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます。(出典:文部科学省IB教育推進コンソーシアム)

日本でも、161校(令和2年11月時点)が、国際バカロレア校として認定されています。

システミック・チェンジ

アショカは、社会問題の解決方法として、システミック・チェンジを提唱しています。私たちは、食べるものがない人に、魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教えてあげる方がよいと言います。しかし、アショカは、釣りの仕方を教えてあげるのだけでは十分ではないと言います。そして、食べるものがない現状を変えるために、その根本原因を探り、漁業システムそのものを変えることを奨励しています。そして、この根本原因まで遡り社会システムを変えることを、システミック・チェンジと名付けました。

困っている人がいたら助けるという、誰にでもできる直接的なチェンジ・メイキングはダイレクト・チェンジ・メイキング。たくさんの困った人を助けようと、その活動を拡大することもできます。この取り組みも素晴らしいものですが、このやり方では、いつまでたっても、困った人が減ることはなく、支援し続けなければなりません。勿論、最初は、身近な誰かを助けたいという思いからスタートするのですが、いつまでも、同じやり方で支援をするだけではなく、その課題の背景にある構造的な問題に目を向け、創造的な発想で課題を解決するシステミック・チェンジを実現することができると、社会を大きく変えることができます。

アショカは、現在、3500人の社会起業家をフェローと認定しています。彼らは、教育から医療まで様々な分野でシステミック・チェンジに取り組んだ実績を持つ人たちです。国際バカロレア教育に、システミック・チェンジの考えが盛り込まれることで、世界のIBスクール5500校で、システミック・チェンジを起こすことに、意欲を持つ学習者が育まれることを考えると、とてもワクワクした気持ちになります。

教育のシンクロシティ

私が、世界の教育改革に最初に触れたのは、2003年のことです。当時、ヨーロッパでは、OECDを中心に、VUCA時代の教育改革の推進が始まり、アメリカでは、アップルをはじめとするIT企業が中心となり設立されたパートナーシップフォー21という非営利団体が、21世紀スキルと教育を提唱し始めていました。OECDは、キーコンピテンシーを提唱し、パートナーシップフォー21はスキルを中心に、それぞれ教育指針を打ち出していたので、その内容は全く同じという訳ではありませんでしたが、両者の目指すところは同じであることがとても興味深かったです。

日本は、その頃、持続可能開発教育が導入され、2015年まで継続することになります。世界に先駆けて行われた日本の持続可能開発教育は、今日推し進められているSDGs(国連の持続可能開発目標)にもつながる取り組みです。

OECDは、2003年に打ち出した教育指針をさらに発展させ、現在、トランスフォーマティブコンピテンシーと名付け、変革を推進ための力であることを強調しています。また、学生エイジェンシーという言葉を用い、子どもたちは、社会を変革する主体であるという概念を明確に打ち出しています。

世界、そして日本の教育も、確実に、チェンジ・メーカーを育む方向にシフトし始めているのだと感じます。

就活生のためのリフレクション講座

2021.01.25文部科学教育通信掲載

就活生を対象にリフレクション講座を始めました。就活生が、キャリアを選択する上で欠かせない自己認識を深めるためにリフレクションを学びたいというご相談を頂き、始めた講座です。

 自分を知るリフレクション

メタ認知のためのメソッドを活用し、リフレクションを行うと、自分が何者なのかを理解することができます。人生で印象に残った経験を振り返ると、自分が何にこだわり、どのような経験を大切にしてきたのかを俯瞰することができます。20年間の人生の歩みの中で、思い出に残る出来事、嬉しかったこと、辛かったこと等を振り返ることで、自分を知ることができます。

感情と価値観の関係

私たちは、日頃、価値観レベルで考えることが少ないです。大人もそうですが、学生も同様に、学校教育で、価値観を扱うことが少ないため、「価値観はなにか」と問われると、困ってしまいます。しかし、嬉しかったこと、悲しかったことなど、出来事を尋ねれば、簡単に答えることができます。出来事を題材にリフレクションを行えば、実は簡単に、価値観を見出すことができます。学校の合唱祭で優勝した出来事を、テーマに選んだとしても、みんなと頑張れたことが喜びの源泉である場合も、競争に勝つことが最高という場合もあります。感情の背景には、価値観があります。感情がポジティブな時、価値観は満たされていて、ネガティブな感情になった時には、自分の大切にしている価値観とは異なる価値観が優先されていると感じているはずです。

 なぜ、なぜ、なぜ

なぜを5回繰り返すことが、思考を掘り下げることができると云いますが、リフレクションでも、同じことが云えます。合唱祭で優勝して楽しかったのはなぜか。みんなと頑張れたから。Why➀なぜみんなと頑張れたからうれしいの? 練習をサボりたかったけど、凄い頑張ってた子がいて、その子のパワーに影響を受けた。Why②どんなパワー? その子は、理想の音を心に持っていて、理想を手放さなかった。Why③理想って? 全員の音が揃っているのか、普通なら上手といってもいいレベルでも、彼女だけ、音のズレに気づいて、何度も、何度もやり直しを求めた。その過程で、みんなの心が合わさった感じ。Why④大変だったと思うけど、どんな気持ちだった? 誰もが、声を合わせることに必死になって、集中力があがり、最初は音が合っているかどうか、みんなわからなかったのに、最後には、誰もが、1ミリの音のずれに気づけるようになった(笑) why⑤この練習の思い出のどこが一番楽しかったの? みんなで一つのゴールに向かって、進化に挑戦したこと。

Why5回で明らかになった価値観

みんなで頑張ることもうれしい。一人ひとりがゴールを自分事にした状態で、共通のゴールの実現に向かっていること、そのゴールが簡単ではなく、挑戦がそこにあること、ゴールを達成するために、進化が求められていること等が、大切な価値観であることに気づくことが出来ました。

就活のヒント

就活は、人生で初めて行う大きな意思決定です。終身雇用の時代ではなくなり、大企業からベンチャー企業まで選択肢が広がる中で、外から眺めて企業を理解し、就職先を選ばなければなりません。できれば、最良の選択、最良の決断をしたいと考えれば、考えるほど、正解が何かわからなくなるというのが正直な所ではないでしょうか。

そこで就活という意思決定のためのヒントもお渡ししました。自己認識、事業、人、企業文化、働き方、社会、時代、学べることの8つの視点です。

 【自己認識】

好き、得意、志向特性、興味関心、憧れ、キャリアビジョン、ワークライフバランス、
暮らす場所、仲間

 人生の意思決定ですから、自分を起点に考えなければなりません。自己分析が大切なのもこのためです。自分の嫌いなこと、不得意なことが求められる場所に居ても、人は幸せになれません。同時に、ワークライフのバランスのとり方や、暮らす場所についての希望があるのであれば、それも明確にしておくことが大事です。海外に行きたいのなら、海外展開をしている企業を選ぶ必要があります。一緒に働く人が、苦手なタイプばかりだと、仕事そのものが好きでも、おそらく、充実したキャリアを構築することが難しいかもしれません。

【事業】

パーパス製品・サービス規模収益性独自性ブランド市場地域

次は、会社と事業の評価です。この会社が好きとか、この会社はいい会社だという時に、何を見ているのかを点検してください。その会社の存在理由なのか、製品やサービスなのか、規模や収益性なのか、その企業の持つ独自性やブランドなのか、誰がお客様なのか、どんな地域に進出しているのか。企業の魅力を多面的に理解することも大切です。

【人】

人材特性(仕様)人材のスタイル(社風)市場価値(評価)中途採用・出戻りの動向

ダイバーシティ推進・女性管理職比率の推移

 人生の最初に就職する会社は、人間の職業観にとても大きな影響を与えると云われています。このため、その会社に入ると、どのような仕事のスタイルを身に付けることになるのかを知っておくことが大切です。また、終身雇用が終焉した今日、その会社で働いている人たちは、転職市場でどのような評価を得ているのかを知ることも大切です。

最近では、多様性を重んじる企業が増えています。中途採用や一度辞めた社員の再就職を歓迎するような風土がある会社であれば、多様性を大切にしようとする姿勢が見えます。女性管理職比率を上げるために、どのような施策に取り組んでいるのかは、女性にとっては重要な指標かもしれません。

 【企業文化】

理念、創立の精神、創業者/経営者の特性

理念がしっかりとしている会社であれば、その理念が、自分にとってどんな意味を持つのかをしっかりと考えることが大切です。

 【働き方】

ジョブ型リモートワーク、兼業、副業

 現在進行中の働き方改革の取り組みは、100社100通りと云ってもよいかもしれません。これから本格化する働き方改革に対ししてどのような意識で臨んでいるのかを知っておくことで、理想のワークスタイルを実現することができます。

 【社会】

ESG、SDGs 統合レポート

 SDGsに代表される持続可能性に対する企業の取り組み姿勢は、企業の未来志向度を表しているとも云えます。HPで紹介されている取り組みをチェックしてみると、企業の取り組み姿勢を知ることができます。

【時代】

時代の創造/時代への適応

時代が大きく変化する中で、企業は大きく2つに分類することができます。時代を創る企業なのか、時代の変化を追いかけている企業なのか。そのどちらに身を置くのかは、好みの問題ですが、どちらなのかを知っておくことは大切です。

【学べること】

バリュービジネスモデルスキルセット経験業界人脈

変化する時代にキャリアを考える上で、最も大切なことは、「何を学べるのか」だと思います。どのような価値基準や行動規範を身に付ける企業なのか、どのようなビジネスモデルを学ぶのか、どのような経験を積み、どんなスキルを身に付けるのか、どのような業界について学び、どんな人脈を形成することになるのか。

学びの観点も、キャリアの選択において大切にして欲しいと思います。

大学生の皆さんには、幸せなキャリアの選択をし、自分らしく、キャリアを積み、楽しく充実した人生を生きて欲しいと思います。

 

オンライン化への適応

2021.01.11文部科学教育通信掲載

コロナ禍で、会議、研修、セミナー、ワークショップがすべてオンライン化して、半年が過ぎました。皆さんは、この変化をどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

オンラインのコミュニケーション

オンラインでいきなり初対面という出会いもたくさんあり、名刺交換ができないことに不便を感じます。しかし、オンライン初対面でも、自己肯定感が高く、自分をよく知っている人や、コミュニケーション力のある人とは、すぐに親しい関係になることができます。お人柄というものは、オンラインでも伝わるものであることが解りました。

あるプロジェクトでは、コロナ禍でもリアルな会議を続けています。リアルでもなかなか会話も弾まない会議です。この会議を、オンラインでファシリテーションして欲しいと言われたらと想像してみると、「ちょっと無理」という心の声が聞こえてきました。ある研修講師が、「オンラインでコミュニケーションに問題が出てきているというのは嘘です。リアルに場を共有していただけで、リアルにオフィスで時間を過ごしていた時からコミュニケーションの問題は存在していて、その問題がオンラインになり露呈しただけです」と厳しくお話されていたことを思い出します。

ZOOMは民主的

インターネットは、世の中を民主化するツールであるということは、以前から言われていたことですが、ZOOMを体験して、民主的であることを実感します。オンラインの会議では、社長も部長も平社員もみんな同じように画面に映ります。席次も自分で変えられますから、社長が常に中心に存在する訳ではありません。話している人の顔は大きく映っても、地位によって、画面に映る顔のサイズが変わることはありません。

私は、女性なので、これまでたった一人の女性という立場で会議に参加することが多くありました。例えば、100人中女性1人という会議の場では、場の空気を読み、少し緊張感が生まれていたように思います。ところが、ZOOMになりますと、場の空気がないのです! これは、ジェンダーの問題だけでなく、部屋に入るだけで他者に圧のようなものを感じさせていた人の圧も、ZOOM画面では届きません!リアルな会議であれば、その人の存在が、部屋全体の空気を換える存在でしたが、オンライン会議では、画面上の1人として存在するだけです。

ZOOMでグループワークをする時には、全員がちゃんと話すことができます。リアルなグループワークでは、誰か一人がしゃべり、聞き役に回る人もいたように思いますが、オンラインでは、全員が話すようになります。誰もの顔が画面上にあり、話していない人は誰かを誰もが意識できるからだと思います。私は、講師という立場で、グループワークを皆さんに実施していただくことが多いのですが、ZOOMになって初めて、彼らが本当に何を話しているのかを聞かせていただくことが出来ました。これまでは、一人だけ、立ったまま、グループの話を横で聞くことしかできなかったのですが、ZOOMに入れば、一緒に座って話を聴いている感じです。彼らが何を考えているのか、生の声が聞こえます。講師が、グループワークに入っても、誰も遠慮する様子もなく話してくれます。ZOOMが民主的なツールだからなのだと思います。

会議の数

会議がオンラインとなり、時間の使い方が変わりました。これまでは、移動の時間を含めると、訪問などを含む会議であれば、午前に一つ、午後に2つと、一日3つ位しか入れられなかったのではないかと思います。ところが、会議がオンラインになると、会議の数を無限大?に増やすことが可能になります。これまでは、目上の方に、オンライ会議でお願いしますということは失礼に当たりましたが、今では、オンライン会議も、会議の部屋を選ぶのと同じ位当たり前の選択しになりました。これには、良い面と悪い面があると感じます。よい面は、移動という無駄がなくなったこと。CO²の排出量も削減できます。悪い面は、移動という気分転換の時間が消え、運動不足になることです。また、移動という空きスペースが、発想を広げたり、意外なものに遭遇したり、自然と触れたり等、色々な経験をする場になっていたということに改めて気づかされました。最初は、オンライン会議があまりにも便利で、時間のある限り、予定を埋めていたのですが、そのスタイルは危険であることに気づきました。そして、画面の前に1日中座り、会議を続けることは、意図的に避けなければならないことを学びました。パソコンと人間が同じ様に働くことはできません。

オンラインプレゼン

オンラインでも、とても素敵なプレゼンをされる講師のお話を聴く機会がありました。背景にもこだわり、カメラ目線も決まっていて、画面の構図も完璧です。休憩時間には、音楽が流れ、コーヒーブレイクにも癒しのための工夫が見られます。完璧なオンラインの講義とは、こういうものかと、大変勉強になりました。そして、改めて自分のプレゼンを見直し、恥ずかしく思いました。2021年には、少し改良を加えていきたいと思います。

オンラインは、リアルよりも、プレゼンを聴いている方の体験が薄くなるため、聴衆の関心を引き付けることが難しいと云います。このため、最低限注意しなければならないことは、目線をカメラに向かって真っすぐ自然な角度に合わせることだそうです。カメラをまっすぐ見ることで、相手の顔を見て話す状態になります。照明の明るさやマイクなどに、こだわる方もいるようです。ZOOMの背景も大切になります。リアルでは、身だしなみが大事と言われていましたが、オンラインになると、また、違った配慮が必要になることがとても興味深いです。

メラビアンの法則によれば、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%なので、画面の背景や、自分の顔や目線に意識を向けることは大切なことです。同時に、聴覚情報にも、注意を払わなければなりません。そこで、ポイントとなるのが、緩急だそうです。注意を惹きたい時に少し話すスピードを落とすなど、話すスピードを変えて、変化をつくることで、聴衆が注意を向けるよう促すことができます。声の大きさや高さを変えることも、同様に、聴衆の注意を喚起するために役立ちます。オンラインに移行することで、誰もが、新しい自己表現の力を身に付け機会になっています。

対話力

主催している21世紀学び研究所では、意見だけではなく、その背景にある経験、感情、価値観まで含めて、伝え、聴き合う対話のコミュニケーションを広める活動をしています。この対話のアプローチが、オンラインになり、とても役立つというお言葉をたくさん頂きました。初対面の人でも、この対話を実践すると、どんな経験の持ち主で、何を大切だと思っているのかを知ることができるからです。

私も、意見、経験、感情、価値観を活用して、オンライン初対面の人間関係の構築に挑戦しています。一緒に暮らしたことも、仕事をしたこともない他人のことを知るということは、簡単なことではありません。特に、異なる経験を持っている人のことを知ることは、難しいものです。そんな時にも、意見、経験、感情、価値観の4つを聴き取るように心がけてみてください。そして、ご自身も、この4つを伝えてみてください。たった15分の対話でも、相手をよく理解できたと感じることができるはずです。

これからも、オンライン化に適応し、進化を遂げたいと思います。

ブルーミング実践コミュニティ

2020.12.28文部科学教育通信掲載

ブルーミングとは、花が咲いている状態のこと。人が夢を叶えている状態を、花にたとえて、ブルーミングと名付けることにしました。そして、年明けから、ブルーミング実践コミュニティを立ち上げることになりました。

実践と相互学習

参加者は、ブルーイングの手法を学び、自組織で実践し、その結果をコミュニティに共有する使命を持ちます。コミュニティは、お互いの実践事例を通して、学びを深める、リアルなアクションラーニングの場です。組織開発やリーダーシップ開発では、知識のインプットは、学びの2割位に当たり、実践を通して試行錯誤する中で得る学びが、学びに占める割合は8割ぐらいではないかと思います。この割合は、人によって異なるかもしれませんが、知識のインプットだけでは、学びを手に入れることができないというのは誰にとっても真実です。このため、アクションと共に欠かせないのがリフレクションです。

経験の意味付け

経験をどのように捉えるのかは、個人のものの見方により決まります。多面的に状況を捉える上で、知識のインプットが役立ちます。例えば、「リーダーシップは他者に与える影響力のことで、その評価は受けて主導であり、自分が意図を持ち、相手に働きかけ、相手がその通りに主体的に反応してくれたら、リーダーシップを発揮したと云える」という知識があれば、意図を持ち、相手に働きかけ、相手の反応に注意を払い、その結果を前提に、自分の言動ヲ振り返ることができます。リフレクションでは、結果の振り返りだけでなく、そのために、自分がどのような働きかけをしたのか、その前提にどのような仮説を持っていたのかを振り返ります。知識があることで、リフレクションの的を的確に絞り込むことができます。

多様性の価値

実践学習において、経験を振り返るリフレクションは、欠かせません。しかし、誰もが、起きた出来事のすべてを俯瞰的に捉えることはできず、経験を振り返るリフレクションでは、多様な経験を持つメンバーの存在が欠かせません。他人のレンズ・ものの見方を借りることで新しい学びを手に入れることが可能になります。例えば、アクションの前提となる仮説は、過去の経験に基づく知恵で、当人にとっては、空気のように当たり前のことになっている場合が多く、自分では気づくことができないことも多いです。そんな時に、「どうして、このアクションを選んだのですか」と誰かが質問を投げかけてくれることで初めて、「自分が何を前提にしていたのか」と、過去の経験に、その答えを探し始めることができます。

チームダイナミックス

チームダイナミックスとは、個人がチームに与える影響、チームが個人に与える影響のことです。どのチームにも、特有のチームダイナミックスがあり、指導者は、そのダイナミックスに責任を持たなければなりません。一人ひとりが、その個性を最大限発揮し、全員がリーダーシップを発揮するチームにすることができると、学びが最大化します。誰かが遠慮して本当のことを言えない状況の中では、潜在的な学びが失われてしまいます。同時に、テーマが同じでも、メンバーの実践学習の様子が異なり、また、チームダイナミックスもチーム特有のものなので、ワークショップは決して予定調和で終わることがない所が、講師にとっても魅力です。ワークショップは、いつも、驚きの連続で、飽きることはありません。

コミュニティで学ぶこと

コミュニティで学ぶことは、以下の通りです。1か月に一つのテーマを掲げ、その実践を通して学びを深めて生きます。

  • 動機の源を知る
  • なりたい自分を見つける
  • 対話と傾聴のスキルを身に付ける
  • 経験から学ぶリフレクションの質を高める
  • 自己変容のスキルを磨く
  • ブルーミングを支援する人になる
  • ブルーミングに相応しい環境を創る
  • 学習する自律型組織を創る
  • 組織開発に取り組む

主体性を育むということ

ブルーミングは、花が咲いている状態のことです。そのためには、「自分が何者なのか」を知り、「なりたい自分を見つける」必要があります。生きていれば、小さい単位では、常に、私たちは、この問いに答えているのですが、人生やキャリアという単位になると、簡単に明快な答えを手に入れることができません。

デンマークやオランダを訪れると、幼児期から、「自分が何者なのか」と「なりたい自分を見つける」ために、大人が、子どもに対してブルーミングを自然に行っていることが解ります。例えば、オランダでは、幼稚園の遊びのスペースが、マルチプルインテリジェンス仕様になっていて、言語、算数、音楽、絵画等のコーナーが用意されています。勿論、お庭遊びや植物のコーナーもあります。そして、子どもたちは、毎日、どこで遊ぶのかを選びます。私が訪問した園では、子どもたちは、コーナーが絵かれているタペストリーに、自分の名前のついたカードを置き、「自分の計画を表明してから遊ぶ」というのが日課であると教わりました。先生は、その記録を持ち、子どもたちの特性を把握したり、時には違うコーナーで遊ぶことを提案します。この小さい積み重ねが、「自分が何者なのか」を知る大切なプロセスなのです。

就活と自分探し

日本では、残念ながら、幼児期から、その子の特性を見るという習慣がなく、学力、偏差値、部活の選択が、子どもを捉える視点となります。しかし、人間の個性の複雑性を、この3つの視点で把握することは不可能です。そして、就活生になると、いきなり、自分が何者なのかを説明するために、様々なアセスメントを実施し、自己認識を深める実践が始まります。しかし、就活対策で行う自分探しのゴールは、就活の成功であり、自分を知り尽くすことではありません。学生の話を聴いても、「自分は何者か」に対する答えを見出せていないと感じます。

学校教育にもブルーミング

VUCA時代に入り、安定と幸福の象徴であった大企業に異変が見られます。高い偏差値と学歴を手に入れた人たちだけが、手に入れられた幸福と成功は、大学卒業後に就職する企業選択に繋がっていました。だから、学力や偏差値で子どもを評価することが、正しく合理的な幸福の追求方法でした。しかし、この方程式が通用しなくなった今日、もし、親や学校や塾が、このもの差しで、子どもたちの教育に当たっているとしたら、とても恐ろしい間違いを犯していることになります。

こう話すと、インターネットの時代になり暗記はいらないと、高学歴者の多くが気軽に語ります。しかし、これも大きな間違いです。インターネットの時代だからこそ、検索能力と、検索結果を読み解く力を磨く必要があり、そのためには、前提となる知識が欠かせません。世界中の大学の研究成果を手に入れることはできても、それを理解できるかどうかは、土台となる知識の質と量により変わります。興味を持って、探求し、学んだことを実社会に活かしていく学び方と共に土台となる基礎学力をしっかりと身に付けることが、本当に大切な時代です。

いつの日か、ブルーミングが学校教育の当たり前になることを願って、まずは、社会でブルーミングの実装を試みたいと思います。

ブルーミングの勧め

2020.12.14文部科学教育通信掲載

オンライン研修会【祝!JobPicksローンチ】自分のOSをアップデートする方法 〜自分と世界を幸せにするために学び続ける「自立型人材」を増やす〜  を、開催致しました。前半は、私の方から、21世紀学び研究所の取り組みを紹介させていただき、後半は、JobPicks編集長 佐藤留美氏と代表世話人株式会社の杉浦佳浩氏と対話を行いました。

NewsPicks副編集長でもある佐藤留美氏は、大学生の就職活動や、20代のキャリア選択を支援するためにJobPicksという新しいメディアを立ち上げられています。厚労省が「未来の働き方2035」レポートで考察したテクノロジー、社会、働き方の変化が現実味を帯びていく中で、若者が、自分らしさを大切に、充実したキャリアを構築するために、JobPicksの果たす役割はとても大きいと思います。

代表話人株式会社の杉浦佳浩氏は、年間1000人を超える経営者と会い、企業の事業展開をサポートしたり、人をつなぐお仕事をされています。50歳までのキャリア経験を活かし、独立された杉浦氏は、人生100年時代の働き方を実践するロールモデルとも言えます。

研修会の目的 

杉浦佳浩氏が、研修会をご案内する際に発信してくださったメッセージは以下の通りです。

「失われた30年」が当たり前のワードとなっている現代、しかしながら本来は【失わせた30年】と自覚・自責を持つべき昭和な人々の責任感の無さがまさに引き起こしたことと感じます(自戒も含めて)。企業、組織、ビジネスパーソン全てが過去の成功体験(昭和的価値観)にしがみつき、【振り返り】の大切さに気づかず実行せず、同じ過ちを繰り返す(変化に取り残されれている)。まさに変化についていけない自身の【OS】をアップデートできていないことが大きな問題です。そこで講師の熊平氏から、これまでの常識に頼らずに自分自身と対話しながらOSアップデートする方法を学び、自立型人材の育成の一助になればとこの機会を企画いたしました。

またこの企画は、10月にローンチする新しい仕事メディア【JobPicks】スタートにも連動した企画となっており、新メディアが世の中に広がることで自立した人材が増え、自分で選択できる職、考え方、捉え方の多様化を促し、そして【振り返り】により自身の人生を深め、変化に柔軟になり人生を楽しく歩み続けることを願っています。

ブルーミング

本企画に当たり、わかりやすく、OSをアップデートする方法をご紹介するために、ブルーミングという言葉を使うことにしました。ブルーミングとは、花が咲いている状態のことです。人が夢を叶えるプロセスを、植物に例えました。種は、動機の源。誰もが、心の内に秘めているモチベーションの源泉です。ブルーミングの最初のステップは、自分を突き動かす大切な価値観を知ることです。

新卒一括採用の制度を持つ国は、韓国と日本だけという話を聴いたことがあります。企業の人事制度が、メンバーシップ型からジョブ型に移行する中で、新卒一括採用にも、少しづつ変化が現れています。大学受験と就活で成功を収めれば、生涯安泰という時代が終焉した今日、若者が、自分の動機の源を知り、活かす道を見出すことができれば、自分らしく、キャリアを積み上げていくことができるのではないかと思っています。

動機の源を知るためには、メタ認知力が必要になります。自分の思考と感情を俯瞰することができるようになると、自分が何に突き動かされているのか、自分が何を望んでいて、何が課題だと捉えているのかを知ることができるようになります。その結果、自分がやりたい事、やりたくない事を、自己認識できます。しかし、自分の物差しではなく、偏差値的な物差しで、キャリアを選択する若者も多く、その結果、キャリアの選択に迷うケースも多いようです。

種を植える

動機の源が解れば、次は、自分が咲きたい場所に種を植え、水をやります。この際に、大切な役割を果たすのが、周囲の環境です。云われたことを云われた通りにやることだけを期待される環境では、種は芽を出すことができません。自分の動機の源を活かし、ありたい姿と現状を埋めるために、自ら行動し、学び続けることが奨励される環境と成長を支援してくれる人の存在が、水やりに当たります。

新人は、勿論、まず、云われたことが遂行できることが大切ですが、同時に、マシーンではなく、一人の人間として組織に存在していると感じられることがポイントです。大企業の一員になれば、誰もが、代替可能なことは事実ですが、職場の人間関係が充実していれば、誰もが、自分がコミュニティの一員であると感じることができるはずです。最近では、社員の仕事に対してポジティブで充実した状態を示すエンゲージメントという言葉をよく耳にしますが、エンゲージメントにおいても、その7割は、人の気持ちに依存すると云われています。気持ちよく働き、成長できる環境に植えた種は、すくすくと育つはずです。

すくすくと育つ

出た芽が、すくすくと育つために鍵を握るのが、リフレクションの習慣です。リフレクションの習慣を持つ人は、現状とありたい姿のギャップを常に把握し、ありたい姿に向かって行動し、その結果をリフレクションし、次の行動計画に反映させます。時には、自分自身が、前進の障害となっていることに気づき、軌道修正をすることができれば、ありたい姿に到達することが可能になります。ありたい姿に到達できない時には、現状の見立てとありたい姿に向かう道筋が間違っているかどちらかです。課題に直面した際に、一番難しいのは、自分自身を客観視すること。特に、自分の思い込みやものの見方にある課題を特定することです。壁にぶつかった時に、壁が何かを考え続けるよりも、自分のものの見方を点検する方が懸命なのですが、このプロセスを一人で行うことは難しく、他者との対話が役立ちます。

フィードバックを活かす

成人発達理論でも、人は他者の力を借りることで大きく成長できると云います。他者からのフィードバックで、自分の盲点に気づくことができ、新しい視点を手に入れることができます。対話を通して、自分の境界線に出る習慣を持てば、自分の知らない世界から知恵を授かることも、容易です。この際にも、忘れてはいけないのは、現状とありたい姿の点検です。自分の動機の源とありたい姿と現状の3つを、常に俯瞰できることが、ゴールを見失わないために、とても大切なことです。そのためにも、あなたのビジョンを応援してくれる仲間の存在が欠かせません。

皆さんも、ブルーミングに取り組んで頂ければと思います。

レジリエンスの力を高める

2020.11.23文部科学教育通信掲載

VUCA(複雑で曖昧、不確実で変化の激しい)時代に生きる私たちは、これまでとは異なる能力を身に付ける必要があると云われています。その中の一つに、レジリアンスがあります。

レジリエンスとは、回復力、弾性を意味し、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力です。

逆境から素早く立ち直る回復力は、昔なら、大きなチャレンジに臨んだ人に役立つ力であり、人生に1度位訪れる厳しい現実に向き合う際に必要なものでしたが、今日では、誰もが日常的に磨いておいた方がよい能力ではないかと思います。

答えのない時代には、現状を維持するために、変化することが求められたり、前例を踏襲しないやり方を期待されたりします。常に、リスクと隣り合わせで生きることが、日常的になり、私たちのストレスも高まっています。

レジリエンスの力を日ごろから磨いておけば、いざという時に役立ちますし、日常も生きやすくなるのではないかと思います。そこで、レジリエンスの力を高める方法を紹介したいと思います。

 レジリエンスの8要素

レジリエンスは、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、繋がり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ)の6つの要素で構成されていると云われています。そこで、自己認識、自制心に絞り、レジリエンスの育み方をご紹介します。

自己認識

自分を客観視し、メタ認知する力は、レジリエンスにおいて欠かせないものです。自分の大切にしている価値観やものの見方、自分の判断、その判断に紐づく経験、自分の心の動き、自分の言動等、自分自身を客体化し見つめる力を磨くことが大切です。そのために、対話が欠かせません。異なる他人と接することは、自分を知る機会になります。

日本人は和を重んじ、同質性を好みます。その結果、自分を知る機会がとても少ないように思います。若者には、自分を知るために、異質な世界に出会う機会を増やし、真の自分を知ることに、意識を向けて欲しいと思います。異質な世界に身を投じると、最初はストレスを感じるかも知れませが、ストレスを感じるのは、自分の境界線の外との接点を持っている時なので、自分を知るチャンスが高まっているはずです。

自分の感情の声を聴き、自分の考え、自分の常識、自分のこれまでの経験と、違和感のある異質な世界は、何が異なるのだろうか。そう自分に問いかけ、異質だと感じる世界を探求することで、自分を知ることができ、同時に、新しい世界を自分のものにすることができるかもしれません。

自分を知っていることは、レジリエンスの要素に含まれている自制心や自己効力感を強化する上でも、重要な能力です。スマホやテレビの取説のように、自分の取説を持つことが、大事な時代なのではないかと思います。

自制心

ここでは、自制心を支える心を扱う力の磨き方を、特にネガティブな感情の扱い方を対象に、ご紹介します。

➀感情を知る

ネガティブな感情になるには、必ず原因があります。もやもやしている時も、必ず原因があります。面白いことに、私たちの心は、私たちがその原因を認識する前に、その原因を知り、反応します。このため、ネガティブな感情の原因を知るためには、まず、自分の感情を正しく理解する必要があります。

②ネガティブな感情の原因を知る

怒りや不満、イライラ、もやもや等の感情を捉えることができたら、次は、その原因を探ります。「私はなぜそう思うのか。なぜそう感じるのか」この際に役立つのが、価値観レベルまで、自分の内面をメタ認知する力です。ネガティブな感情の背景には、何かに対する不満があります。自分が大切にしている何かが満たされていないことが、ネガティブな感情の原因です。私たちの心は、自分が大切にしていることを知っていて、それが満たされていると幸せな気持ちになり、満たされていない時にネガティブな気持ちになります。

ネガティブな気持ちになっている原因を突き止めたら、次は、その感情を扱う次のステップに行きます。ここからは、少し難易度があがるので、初級、中級、上級に分けて、その方法をご紹介します。

 

初級:自分がどのように経験を意味づけているのかを理解する

同じ経験をしているのに、誰かが怒っていて、驚いた経験はありませんか。同じ状況において、人間が同じ感情を抱かない理由は、経験の意味付けにあります。経験は同じでも、その経験をどう意味付けるのかは人それぞれ異なります。経験の意味付けに用いる価値観やものの見方が異なるために、経験は同じでも、経験の捉え方は、人によって異なるという事実を認識することが大切です。

ネガティブな感情の原因を知るために、自分が大切にしている何が満たされていないのかを客観視することができたら、次は、自分がなぜ、その物差しを使っているのかに目を向けます。その物差しが自分にとってなぜ大切なのか。どのように形成されたのかを知ることで、ネガティブな感情の引き金となった自分自身のものの見方を客観視できるようになります。

中級:相手の気になるところが「肥大化」する理由を知る

私たちは、毎秒1100万ビッドの情報の中から、たった40ビッドほどの情報を選択し認知しているそうです。私たちは、1%にも満たない情報を選択して認知しているという事実を、知ることがスタートです。私たちは、自分の持つセンサーが捉えた情報を拾います。例えば、

「ある人のこの特性が気になる」と思うようになると、常に、自分の中にあるセンサーが、その特性に注意を払い、その情報を発見し続けるようになります。その結果、「ある人のその特性」は、心の中で、肥大化していきます。やがて肥大化した課題に押しつぶされそうになるかもしれません。こうして、「もう我慢できない」と怒りが爆発します。しかし、周囲を見渡すと、そんなことは誰も気にしていないという経験はありませんか。どのような物差しを用いるかにより、同じ経験は同じ意味を持たないのです。自分の価値観やものの見方が、課題を「肥大化」させていることを認識することが大切です。

上級:怒りの原因は、他者ではなく自分(のものの見方)であることを理解する

経験をどう捉えるかは、自分の価値観が決めているということが理解できれば、目の前にいる相手が、私の怒りの原因であるという考えは間違いであることが解ります。目の前の相手は、怒りのトリガーではありますが、怒ることを選択したのは、あなたの価値観なのです。かなり上級者ではありますが、ここまでくれば、怒りの感情を、簡単に、自分でコントロールすることができるようになります。

自分の心の状態を客観視することができ、その原因を知ることができれば、自分の感情をコントロールすることができ、自制心を磨くことにもつながるはずです。

ウェルビーイングにつながる組織開発

2020.11.09文部科学教育通信掲載

最近では、人材開発に加えて、組織開発に取り組む企業が増えています。

終局のゴール

組織開発の究極のゴールは、社員をはじめとするステイクホルダーのウェルビーイングを高めることではないかと考えます。ウェルビーイングとは、心身が良好な状態であることを意味します。ポジティブ心理学を提唱するマーティン・セグリマン博士によれば、人間のウェルビーイングには、5つの要素があると云います。5つの要素とは、ポジティブな感情、エンゲージメント、関係性、人生の意味、何かの達成とそのための努力です。エンゲージメントとは、何かに没頭している状態・夢中になっている状態のことです。関係性には、人間関係のみならず、組織の存在目的とのつながりも含まれます。何かの達成とそのための努力には、自らが得たいゴールに向けて努力する過程と努力の結果得られた成果が含まれます。

ウェルビーイングの要素であるエンゲージメント、関係性、何かの達成とそのための努力は、仕事には密接な関係があります。人生の意味は、勿論仕事だけではなりませんが、自分の人生に意義があると思える仕事に取り組むことができれば、仕事を通して、ウェルビーイングを高めることが可能になります。

組織開発

組織開発が注目される背景には、経営環境の変化があります。優秀な人材を採用し、育て、目標管理を行うことで業績が上がるという方程式が通用しなくなったことがその理由です。一人ひとりが生む付加価値の質と大きさが、組織の業績に直結する時代には、イノベーションを生むことができる組織づくりが鍵を握ります。

私が最初に、組織開発の手法に触れたのが、GEが取り組む学習する組織開発でした。もう、20年も前のことですが、GEの学習する組織のリーダーを養成するプログラムを日本に広める活動に従事した際に、GEが、いかに、学習する組織を作りあげたのかを学びました。学習する組織とは、進化し続ける組織、変革し続ける組織のことです。そのためには、組織的な動きと共に、一人ひとりの学習力と革新力を高める必要があります。このため、GEは、学習する組織づくりを、リーダーの学習力と革新力を高めることから始めました。

学習する組織のリーダー養成

世界中から150人のリーダーが選抜され、1年間の学習する組織のリーダー養成プログラムに参加したそうです。彼らには、ボーダーレス、オープン、フラットの3つの行動様式を習得することが期待されました。ボーダーレスとは、自らが境界線を作らないことを意味します。リーダーに期待されたのは、どこで生まれたアイディアでも、よいものは、すぐに取り込める学習力です。その逆は、高い壁で、組織を守り、組織の外で生まれたよいことから学ぶことを拒否する態度で、ヒエラルキー組織では、よく見受けられるリーダーの行動様式です。

学習する組織づくりを推し進めたNO.1が大好きなジャックウェルチには、ある確信がありました。それは、世界一学習力の高い組織を作ることができれば、世界最強の組織が作れるという確信です。ジャックウェルチ自身も、真摯な学び手でした。社員の声に耳を傾け、常に、組織の課題を直視し、課題解決に尽力していました。社員アンケートで、品質に問題があるという指摘をもらうと、世界一品質管理が上手な会社を調べ上げ、その会社が実践している品質管理手法を学び、GE流の品質管理手法を作りあげました。その展開を支えるのは、学習する組織のリーダーです。ボーダーレスな行動様式を身に付けているリーダーは、GE以外の会社で生まれたよい手法を、何の抵抗もなく、組織に広げることができます。

学習する組織になる前のGEは、いわゆる名門の大企業ですから、リーダーは、ヒエラルキーの権威的存在であり、組織のあらゆる所に、壁(ボーダー)がありました。その壁を壊し、喜んで学び、進化し続ける組織を作りあげたジャックウェルチは、組織づくりの達人です。GEは、その後も、学習する組織として、進化を遂げています。最近では、ベンチャー企業の仕事術であるリーンスタートアップという手法に学び、小さいスケールでスピーディに新規事業を立ち上げるGE流新規事業立ち上げ手法を開発し、かつて、品質管理手法を全組織に展開したように、新たに開発した新規事業立ち上げ手法を全組織に展開しています。

人材開発との連動

学習する組織でなければ、新しい考え方を誰もが認識するのに、3年かかり、組織全体にそのやり方が広がるのに、10年かかるようなことを、GEでは、1~2年で徹底させることができます。その土台には、人材育成への投資があります。新しい手法を展開するには、手法を理解し、それを組織に落とし込める人が必要です。また、手法を組織に落とし込むためには、解りやすく、落とし込みやすい手法であることも大切です。GEが新たな手法を落とし込むことができるのは、この2つを上手にやることができるからです。日本でも、このような取り組みが、当たり前になることを願っています。

ツール

組織開発に欠かせないのが、誰もが簡単に使えるツールの開発です。GEでは、例えば、変革に取り組むことになったチームには、組織変革のプロセスの中で使えるたくさんのツールが渡されます。例えば、何を変えることに取り組むのかを明確にするために、「増やしたい行動」、「減らしたい行動」を可視化するためのフレームワークがツールとして用意されています。GEが開発するすべてのツールの背景には、学術的な理論があります。しかし、理論を理論のまま社員に渡しても、展開することが難しいため、すべて展開可能なフレームワークに落とし込み、ツールとして社員には届けられます。そのため、社員も、すぐに学び、すぐに実践することが可能です。

 文化と口癖

GEの組織開発の特徴は、文化を醸成することに力を注いでいることです。そして、興味深いのは、人々が口癖にすることが、文化の醸成に繋がっているという考え方です。

GEでの経験を著書にされた安渕聖司氏の『世界超一流であり続けるGEの口ぐせ』(PHPビジネス新書)から、GEの口癖の一つを引用したいと思います。

 

シンプリフィケーション
「それ、もっとシンプルにしようよ。まだまだ、複雑だよ」

◆競争に欠かすことができないスピードを阻害するのは、複雑さ

組織も手続きも複雑になり過ぎている、これが競争に欠かすことが出来ないスピードを阻害している。そんな問題意識から、GE全体で2012年から全社的に取り組みを進めたのが「シンプリフィケーション」です。これはその名の通り、組織が業務を簡素化し、スピードを取り戻し、結果的にお客様へのサービスレベルを向上させようという取り組みです。

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう」を文化にする

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう、という取り組みは、さまざまな会社で行われいると思います。しかし、GEの特徴はこれを文化にしようとしたことです。

シンプルでスピード感があって、しかも正確なプロセスというマインドセット(心構え)を、社員全員が持つようになり、「いや、これはあまりシンプルじゃないね」 「ちょっと複雑だよな」といった声がすぐに上がってくるようになりました。

 

社員と社会のウェルビーイングに繋がる組織開発に、私も貢献できればと思います。

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