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AARモデル

20230515 文部科学教育通信掲載

OECDが提唱する学びの羅針盤2030で紹介されているAARモデルについてご紹介したいと思います。

人類のウェルビーイングを目指す学びの羅針盤2030は、VUCA時代に生きる子どもたちが未来を幸せに生きる力を育むために、開発されました。学びの羅針盤2030は、現在、日本だけでなく、世界の義務教育の指針となっています。

学びの羅針盤2030の土台は、基礎となる学力です。学びの羅針盤2030は、基礎となる学力や知識を、より良い未来を創造するために活用する力を、変革を起こすコンピテンシーと定義し、学校教育で育むことを求めています。

チェンジメーカー

今日、教育に与えられた使命は大きく、チェンジメーカーを育てることが期待されています。国境を超えた協力と共創が求められる地球環境をはじめとする課題解決に参画するチェンジメーカーを育むことで、人類に必要な変革を成功させることがゴールです。

従来であれば、一人の偉大なリーダーが世界を変えることができましたが、今日の変革の特徴は、みんなの参画が必要になること、あるいは、みんなが、変革の担い手になれる環境が整備されたことです。インターネットやAIの恩恵により、情報格差は圧倒的に縮まりました。私たちは、国境を超えて、情報を共有することも、コミュニケーションを取ることも、つながることも可能です。みんなの参画が必要なのは、社会全体が変わることが期待されているからです。誰もが、変革の中で、取り残されないために、前向きに変化に対処する必要があります。

AARモデルとは

学びの羅針盤は、変革を起こすコンピテンシーを習得し、変革を成功させるために、生徒が、AARモデルを実践することを期待しています。AARは、Anticipation(見通す)、Action(行動する)、Reflection(振り返る)の3つを意味します。

経験学習サイクル

AARモデルは、経験学習サイクルの実践に応用することができます。経験学習サイクルは、経験→振り返り→法則の概念化→計画 の4つのサイクルで、経験からの学びを次の経験に活かすことを奨励します。AARモデルは、経験学習サイクルの計画において、仮説を明確にすることを奨励します。なぜ、その計画や行動を選んだのか、その前提には、過去の経験から得たどのような知識に基づいた仮説があるのかを明らかにした上で、行動することで、行動の結果を検証する際に、仮説に照らした検証を行うことができます。また、仮説の前提には、ゴールがありますから、AARモデルを実践すると、ゴールを定める必要があり、仮説検証の中で、ゴールそのものを見直すことも可能になります。

ダブルループラーニング

学習には、シングルループラーニングと、ダブルループラーニングがあると提唱したのは、ハーバード大学のクリス・アージリスです。行動と結果の関係を振り返るのがシングルループラーニングで、行動の前に想定していた前提と結果の因果関係を振り返るのがダブルループラーニングです。AARモデルは、経験学習サイクルに、ダブルループラーニングの要素を加えることを奨励していると言えます。

アンラーニング

最近では、学びほぐしと呼ばれるアンラーニングも、重要であると言われるようになりました。前例が通用しない時代になり、過去の経験によって形成されたものの見方や行動様式を手放し、新しいものの見方や行動様式を自分のものにしていくことが、成功を手に入れるために必須の学び方になっています。

トランスフォメーショナルラーニング

この言葉を20年前にはじめて聴いたときには、正直、意味がよくわからなかったのですが、今日、その必要性が明らかになり、腑に落ちました。従来の知識学習やスキル習得の学習をトランザクショナルラーニングと呼び、ものの見方の転換が必要となる学習をトランスフォメーショナルラーニングと呼びます。ダブルループラーニングも、アンラーニングも、トランスフォメーショナルラーニングです。

トランスフォメーションは、変革のことですが、社会変革や組織変革は、人間にも変革を求めます。環境の変化が激しい今日では、トランスフォメーションが特別なことではなくなりました。学びの羅針盤が、変革を起こすコンピテンシーを育むことを教育に期待することも、そう考えると自然な流れです。

学びの高度化

過去の成功事例に答えを見いだせない時代には、誰もが、より創造的な仕事に従事することになります。行動と結果を振り返るだけでは、ゴールに到達することが難しくなりました。仮説検証を奨励するAARモデルは、前例のない時代の学び方です。子どもたちが幸せな人生を生きるためには、生涯を通じて、アップデートし続けることが当たり前である時代に相応しい学び方を義務教育で習得することが大事です。

デザイン思考

変化のスピードは早く、子どもたちが教育で習得するAARモデルは、今日の社会に生きる大人にも期待されるスキルになりました。創造的な活動の手法として、世界で実践されているデザイン思考にも、AARモデルの要素が盛り込まれています。デザイン思考は、創造活動のプロセスを、共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テストの5つに分けています。デザイン思考が提唱されるまで、企業は新製品を発売した後に、その製品を評価していました。しかし、デザイン思考が提唱されるようになり、企業は新製品を開発する過程で、プロトタイプをテストするようになりました。この過程で、企業は、AARモデルを実践しています。仮説を持って、プロトタイプを作り、潜在顧客にフィードバックをもらい、仮説を検証し、仮説をアップデートしていきます。このプロセスを繰り返すことで、顧客の真のニーズに答える新製品やサービスを開発することができます。

 

AARモデルと主体性

AARモデルの前提には、生徒エージェンシーがあります。生徒エージェンシーとは、生徒はより良い未来をつくる主体であるという意味で、学びの羅針盤2030が期待する生徒像です。

AARモデルの実践には、主体性が欠かせません。このため、AARモデルは、生徒エージェンシーを前提とします。仮説を持って行動するためには、その前提としてゴールが必要になるからです。ゴールに対して仮説を持って行動し、振り返るというAARモデルを実践することで、ゴールに到達する可能性が高まります。

自律型人材の時代

誰かの指示に受け身で答える人材が重宝される時代が終わり、誰もが、より主体的に、自らの意思を持ち、考え行動することが期待される時代になりました。小学生の頃から、AARモデルを身に付けることで、自律型学習者として、自ら設定した目標を達成することができる自律型人材に育つことができます。

教育が大きく変わる時代に生きる私達大人にも、AARモデルの実践が欠かせません。

女性のエンパワメント

2023.04.24文部科学教育通信掲載

今年から、ファッションブランド ケート・スペード ニューヨークと共に、女性のエンパワーメント活動を開始します。昭和女子大学キャリアカレッジで、社会の女性活躍やダイバーシティ推進を支援して10年目になります。この活動を通して、多くの女性たちに出会う中で、女性の潜在能力の大きさを実感しています。一方、女性は、完璧主義で責任感も強いため、自信が持てなかったり、様々な役割を担う中で、一歩踏み出すことを躊躇する様子も、多く見てきました。

 

共働き社会への移行

1985年以降、全く、道が開かなかった女性活躍の流れも、労働人口の減少により、経済成長の一環と位置づけられた2013年以降、本格化し、その勢いが止まりません。世の中は、グラデーションで出来ているため、未だに、1985年と変わらない様子の社会や企業も存在しますが、先進事例は、確実に積み上がっており、共働き社会への移行が着実に進行しています。

共働き社会への移行が始まり、社会は、女性管理職比率3割を目指し、女性に期待を寄せています。保育園が整備され、産休から復帰しても、時短で働ける環境も整備されました。もう、結婚、出産というライフイベントで会社を辞める女性はいません。一方で、家庭における女性の仕事量は、以前と変わらないというケースも多く、女性には、会社でも、家庭でも、頑張ることが求められているという様子も、多く見られます。そこで、男性の家事・育児への参加を呼びかけるために、昨年から、産後パパ育休制度が始まりました。出産直後に、パパが子育てに参画することで、その後のパパの育児参加の可能性が高まることが期待されています。

 

サウジアラビアの女性たち

昭和女子大学キャリアカレッジで、女性活躍支援を行うきっかけとなったのは、2012年に訪れたサウジアラビアの女性たちとの出会いでした。ジェトロ主催の「サウジアラビアの女子教育」を視察する企画に参画し、サウジアラビアの大学や教育機関を訪問し、たくさんの女性たちと交流しました。そこで、改めて、自分自身の姿を客観視する機会を得たことが、女性を応援しなければと思ったきっかけでした。

サウジアラビアは、イスラム教徒の国ですが、女性教育に関しては先進的で、1960年代から、女性にも教育の機会が与えられており、多くの女性たちが大学に進学しています。イスラム教徒の国なので、女性はアバヤという黒い服を纏い、女性は、親族以外の男性と話すことはありません。このため、多くの女性たちは、女子大に通います。しかし、最近では、科学技術革新で、国力を高めていくことを目指す国が、女性の科学者を増やすことにも力をいれており、男性中心の理工系の大学にも、女性が通い始めています。私達が訪問した理工系の大学では、教室が2階建てになっており、1階に男子学生が座り、スクリーンで覆われた2階に女子学生が座っています。女子学生は、2階の席から、活発に意見を述べていましたが、女性たちの顔は、先生からも、男子学生からも見えません。イスラム教徒の社会を保ちつつ、同時に、女性の潜在能力を活かす社会を実現するために、様々な工夫がされていました。

 

男性社会にお邪魔する生き方

サウジアラビアでは、黒いアバヤを纏い、男性と話すことができない女性たちは、私達よりも、ずっと生きにくいはずだと思い込み、サウジアラビアを訪れた視察団が、実は、生きにくいのは我々日本の女性たちの方だと気づいたのは、ある大学に設置された保育園を見学したときのある対話がきっかけでした。

「大学に、保育園があるのは素晴らしいこと」と、ある女性が発言しました。私も、他のメンバーも、その言葉を聴いて、「本当にその通り、素晴らしいです」と賛同した所、「あなた達は、何を感動しているのですか???」と、大学を案内してくれていた女性の教授が、驚きの表情を見せました。その様子に、こちらも、驚きました。彼女は、更に、言葉を続けて、「私たちは、女性ですよ。女性は、勉強もするし、出産もする。保育園があるのは、当たり前で、感動する理由などありません」そのように、解説してくれました。

このコミュニケーションを通して、私たちは、自分の境界線の外にでることができました。そして、始めて、自分たちを、外から眺める機会を得ました。視察に参加した女性たちの多くは、日本社会が特に女性を歓迎していない時代に、社会に進出した女性たちでした。当時は、ビルに女子トイレを設置するのを設計段階で忘れたというような笑い話が有るくらい、男性中心の社会でした。このため、保育園など、女性の社会進出に伴い必要になった施設は、少しずつ整備されていきましたし、整備されると、ありがたいことと感じていました。

サウジアラビアでは、女性は黒いアバヤを着ていますが、日本と大きく違う所は、男性社会と同じ大きさの女子社会がある所です。例えば、結婚式も、男性、女性が別々に祝います。学校の保護者会も、お父さんの会と、お母さんの会が別々に開催されます。男性社会が存在すれば、同じように女子社会が存在します。日本では、女性はアバヤを纏うことはありませんし、男性と話をすることも許されていましたが、その結果、男性社会しか存在しない中で、女性が社会に進出するので、男性社会に女性が進出することになりました。

サウジアラビアを訪れなければ、一生気づくことがなかったと思いますが、この視察を通して、我々が男性社会にお邪魔する生き方をしていることに気づきました。このような生き方を、後輩の女子たちに継承して欲しくありません。

幸い、日本でも、労働人口の減少をきっかけに、共働き社会への移行が始まり、同時に、多様性を包摂する社会づくりも、始まったため、社会全体が変わり始めています。しかし、社会通念や、人々の心の中がすべて刷新されている訳ではなく、まだまだ、すっきりしない気持ちで、活躍している女性たちもたくさんいると感じます。そこで、押し付けにならない、誰にとっても心地の良い支援ができるとよいのではないかと考えています。

私達が、サウジアラビアで自分たちの姿を俯瞰することができたように、自分の内面をメタ認知することは、自分を幸せにするために、とても大切なことです。一方、自分の枠を、自分だけの力で捉えることは難しく、自己内省(リフレクション)と共に、他者との対話が欠かせません。このため、私が主軸においているリフレクションと対話を広める活動と、女性のエンパワーメントは、とても親和性が高いと感じています。

ケイト・スペードニューヨークは、女性と女の子のエンパワーメントとメンタルヘルスに関する取り組みを、世界中で開始しています。メンタルヘルスは、3つのカテゴリーに分類されています。一つは、メンタルの病気です。これが、日本では一般的なメンタルヘルスに関するイメージかもしれません。2つ目は、メンタルウェルビーイング、3つ目は、メンタルフィットネスです。メンタルヘルスに対する正しい理解を持つことで、心のケアを正しく行うことができます。世界のアプローチに学び、日本に合った女性のエンパワーメントに取り組んでいきたいと思います。

 

 

対話の5つの基礎力

2023.04.10文部科学教育通信掲載

価値創造や問題解決に多様性を活かす対話の実践方法を紹介するために、ダイアローグの本(『ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』ディスカヴァー/トゥエンティワン)を出版致しました。著書の中で紹介している対話の5つの基礎力について、紹介したいと思います。対話の基礎力が身につくと、対立を楽しむことも、多様な意見を融合することも、簡単に行えるようになります。

 

対話の5つの基礎力

対話の基礎力は、メタ認知、評価判断の保留、傾聴、学 習と変容、リアルタイム・リフレクションの5つに分けられます。 これらは一つひとつ個別に習得するものではなく、メタ認知を中心に広がるように 身につけていくものだと考えてください。

 

 

5つの基礎力の説明を書籍から引用致します。

1メタ認知

メタ認知とは、自分が認知していることを俯瞰して認知することです。自分の考え がどこからやってきたのか、リフレクションを通して、意見の背景にあるメンタルモ デルを理解し、自己の内面をメタ認知します。 自己の内面をメタ認知することは、対話の基礎力の要です。他の4つの実践が難し いと感じる人は、まずはメタ認知だけに焦点を当ててもよいです。 メタ認知の実践に慣れることで、残りの4つの対話の基礎力も身についていきま す。逆に、メンタルモデルを俯瞰することができないと、残りの基礎力を実践するこ とが難しくなります。 自分の考えを当たり前だと思わずに、「なぜ私はそう思うのか」を自分に尋ねる習 慣を持ちましょう。

 

2評価判断の保留

価値のある対話をするためには、自分の意見を持っていたとしても、その意見を横 に置き、他者の意見に耳を傾ける、つまり評価判断を保留にする必要があります。 自分の意見に固執した状態で対話をしても、ただ忍耐力が磨かれるだけで、創造性 は高まりません。評価判断を保留にしてこそ、多様な意見に学ぶことができます。 評価判断を保留にするためには、自分の内面を俯瞰し、自分と自分の考えを切り離 すことが必要になるので、ここでも先ほど挙げた「メタ認知」ができていることが重 要になります。 もし「そんな考えは間違っている」と決めつけながら他者の話を聴いている自分に 気づいたら、すぐに「評価判断の保留」を意識し、自分を制御してください。

 

3傾聴

メタ認知と評価判断の保留では、自らのメンタルモデルに意識を向けていました が、傾聴では、他者のメンタルモデルに意識を向けます。 他者の考えがどこからやってきたのか、相手はどのような価値観やものの見方を判断の尺度に用いているのか、他者の意見の背景にあるメンタルモデルを理解します。 自分の内面をメタ認知するように、相手の内面を理解することができると、相手に 共感することも可能になります。 ただし、傾聴し、相手の内面を理解しても、賛成する必要はありません。相手の世 界を、相手の感情も含めて正しく知ればよいのです。

 

4学習と変容

対話を通して何を学んだのか、自分の考えにどのような変化が起きたのかを明らか にするのも、大切な対話の基礎力です。 対話は、「他者の見ている世界を知る」という学びの場であると同時に、「自分を知 る」機会でもあります。対話における学習と変容は、「想像」「共感」「変容」の3ス テップで行います。その結果、対話を通して新しいものの見方を手に入れることがで きます。 学習と変容は、対話の大切な成果物です。しかし、学習と変容は、自己の内面に起きることなので、意識を向けないと自覚できません。ぜひ、リフレクションを通して、学習と変容をメタ認知することも、忘れないでください。

 

5リアルタイム・リフレクション

自分の内面に起きていることをリアルタイムにリフレクション(内省、振り返り)す ることで、対話からより多くのことを学ぶことが可能になります。 対話の5つの基礎力は、一つずつ順番に行うものではなく、複数の実践を同時に走 らせることになります。このため、リアルタイム・リフレクションを通して、自分の 内面に起きていることをメタ認知することが欠かせません。 対話の持つ潜在的な可能性が開花するのは、多くの場合、驚きや違和感といった多様なものの見方に遭遇したときです。 ところが、油断をしていると、驚きや違和感につながる意見や発言者に対してネガ ティブな感情が生じ、評価判断をしてしまう可能性が高いです。感情が動くのは人間として自然なことですが、対話を続けたいのなら、評価判断をしている自分にすぐに気づき、評価判断を保留にする習慣を持つことが大切になります。

 

一人で考えることには限界がある

ームで考えると、一人で考えるより生産性が下がると感じる人も多いと思います。知識の豊富な人ほど、その傾向が強いです。しかしそれは、あくまでも過去の知 識の蓄積を土台とした考えであり、前例のない発想ではありません。 あなたがエジソンのような発明家でないのなら、独創的なアイディアが、一人の頭 から生まれる可能性は低いと考えるほうが賢明です。 対話は、他者の頭を使う手段です。他者と一緒に考えることで、自分一人では思いつかない新しい発想に出会えます。そのような成功体験を、多くの人に持ってほしい です。

多様性を活かすチームで成果を出すために、対話の基礎力を実践していただきたいです。チーム全員が、対話の基礎力を身につけることで、対話の質が高まります。一方、メンバーの中に、一人でも評価判断を保留に出来ない人がいると、対話の場が破壊されてしまうので、対話の質が低下してしまいます。このため、対話の基礎力を、みんなで実践することがオススメです。

NPO次世代リーダー育成

202302.13文部科学教育通信掲載

先日、NPO法人で働く若者を対象に、ワークショップを行いました。

特定非営利活動を行う団体

特定非営利活動促進法が施行され、特定非営利活動を行う団体に法人格が付与され、 ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動が本格的に始まったのは、1998年です。

法人数も4万6千になり、NPO法人が社会に定着した2012年には、大幅な法改正が行われました。認定NPO法人の制度も導入され、寄付に伴う税制優遇措置が適用されることになりました。現在、全国に、5万を超える団体があり、1220が認定法人(2021年時)になっています。

特定非営利活動に含まれるのは、以下の20種類の分野に該当する活動です。

  1. 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
  2. 社会教育の推進を図る活動
  3. まちづくりの推進を図る活動
  4. 観光の振興を図る活動
  5. 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
  6. 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
  7. 環境の保全を図る活動
  8. 災害救援活動
  9. 地域安全活動
  10. 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
  11. 国際協力の活動
  12. 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
  13. 子どもの健全育成を図る活動
  14. 情報化社会の発展を図る活動
  15. 科学技術の振興を図る活動
  16. 経済活動の活性化を図る活動
  17. 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
  18. 消費者の保護を図る活動
  19. 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
  20. 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

 

フローレンスとかたりば

ワークショップの企画運営を行ってくれたのは、日本を代表するNPO法人であるフローレンスとかたりばのメンバーです。

2005年に病児保育事業をスタートしたフローレンスは、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」の実現を目指す、社会問題解決集団です。現在は、訪問型病児保育、障がい児保育、小規模保育など、常識や固定概念にとらわれない新しいサービスを創造し続けています。

かたりばは、2001年に活動を始め、「すべての10代が、意欲と創造性を育める、未来の当たり前を目指して」子どもたちを支援する様々な活動を行っています。カタリバは、12億円の規模の寄付を集める団体に成長しています。

ワークショップには、放課後NPOアフタースクール、キッズドア、全国こども食堂支援センターむすびえ、Ridilover, RCF,育て上げネット、クロスフィールド、エティック、CLACK、ASHA等日本を代表するNPO法人で活躍する若者が参加しました。

ワークショップのテーマは、リーダーシップとリフレクションです。ワークショップで、次世代リーダーの皆さんが学んだことを以下に紹介します。

 

リーダーシップとマネジメントの違い

多くの場合、リーダーとマネージャーという言葉を、管理者を表す言葉として、その違いをあまり意識することなく活用しています。このため、リーダーシップとマネジメントの違いを理解していない人が以外に多いです。

マネジメントは、目標を達成するために、資源配分を行い、計画を立て、その進捗を管理し、結果を出す一連のプロセスです。一方、リーダーシップは、他者に対する影響力の話です。他者が、ビジョンに向かって主体的に行動するために、発信する言葉やアクション、存在そのものを通して、他者に影響を与えます。

このため、リーダーに取って欠かせないのは、自分を知ることです。そこで、リーダーには、リフレクションが欠かせません。自分が何者なのか、自分は何を願っているのか、自分はどこに向かっているのか。この問いに対する答えを持つことがリーダーシップを発揮する上で欠かせません。

NPO法人を立ち上げたリーダーたちを上司に持つ皆さんは、団体に、ロールモデルとなるリーダーが存在しているので、企業で働く若者よりも、リーダーシップの大切さをよく理解している様子でした。

 

ビジョンと対話

リーダーには、様々な機能があります。自分を知り、ビジョンを形成したら、他者を巻き込むために、発信をします。ありたい姿がどんな姿で、そこに行くことがどれほど魅力的なことなのかを発信し、多くの人に共感してもらう必要があります。磁石のように、人々を引き寄せられるビジョンを語ることができるリーダーが、多くの仲間を集めることができるからです。

同時に、リーダーには、対話の力も必要です。対話を行うことで、一人ひとりの主体性を育むことが大事だからです。発信力の強いリーダーに引き寄せられた仲間たちが、リーダーの夢を実現するために活動すると、強い組織は創れません。このため、「あなたはどうしたいのか」、「あなたにとって、なぜこの活動が大切なのか」を問いかけ、一人ひとりが、リフレクションを通して、ビジョンを自分ごと化するプロセスが大切です。

 

問題解決

リーダーは、問題解決力を磨く必要があります。大きな夢を実現するプロセスには、多くの課題が存在します。今とは違う世界を創造するのであれば、誰もが解決したことのない課題に向き合う必要があります。NPO法人のビジョンの多くは、今の社会課題を解決する活動なので、リーダーの問題解決力が試されます。

問題解決力には、課題発見、解決策の創造、解決策の実行、恊働と幅広い力が必要になります。また、課題が顕在化する前に、課題を予知する力があると、組織は安泰です。

課題解決に際しては、多様なメンバーの知恵を結集し、解決策を見出すことも大切になります。リーダーが一人で考えているようでは、発想も広がりません。また、解決のためのアクションにおいては、ビジョンの共有、課題の自分ごと化等、リーダーの発信力と対話力が欠かせません。

 

育成力

組織を率いるリーダーには、育成力が欠かせません。組織の成長は、人の成長とも言えるからです。多くの組織の成長が鈍化するのは、人の成長が鈍化するからです。組織が成長すれば、人に求められることが変わるのは当然です。ところが、そのことに気づかない人たちがいます。そこで、リーダーは、人々が学習と成長に向かうために工夫する必要があります。同時に、リーダー自身も、役割の変化を理解し、できれば、次のステージに行く前に、自分をアップデートする習慣を持つことが望ましいです。

組織の成長に欠かせないのが、経験から学ぶリフレクションです。経験を通して学習し、法則を見出し、仮説を持って次の行動を行うという学習サイクルを上手に回す人は、成長し続けます。また、他者の成長を支援するコーチングやフィードバック等のスキルセットも欠かせません。

 

受け手主導

リーダーシップの評価は、受け手が決めます。どれほど、素晴らしい人物でも、どれほど雄弁な語り手でも、他者が、リーダーの意図した通りに、主体的に動くことができなければ、リーダーシップは機能していないということになります。このため、リーダーには、受け手に学ぶ謙虚さも欠かせません。意図通りでなければ、そのことに気づき、改善点を模索する経験学習サイクルを回し続けることで、多様な相手に対しても、効果的にリーダーシップを発揮することができます。

よりよい社会を目指して、様々な領域で活躍する次世代リーダーの益々の活躍を期待したいです。

 

ティール組織

2023.01.23文部科学教育通信掲載

未来の組織論 ティール組織をご紹介します。

ティール組織は、マッキンゼーで10年以上 組織変革プロジェクトに関わったデリック・ラルーが提唱する新しい組織モデルです。

ティール組織のティールは、鴨の羽色(はいろ)を意味します。

今日における新しい組織モデル ティール組織は、一言で言うと、管理者のいない組織です。ティール組織のボスは、人間ではなく、組織のパーパスです。

ティール組織では、一人ひとりが、パーパスとつながることで、管理者がいなくても、使命を果たすことができると考えます。

5年前に、始めて、この考えに触れた時の驚きは、今も忘れることができません。私は、大抵のことには驚かないのですが、ボスはパーパス と知ったときには、「それで、どうっやって組織が回るの?」と大きなはてなマークが頭に浮かびました。

 

組織の進化

フレデリック・ラルーは、組織の進化は、人間の意識の進化共にあると言います。

最も古いのは、レッド組織です。

恐怖を与え、服従させる最古の組織モデルです。

次のモデルは、アンバー組織です。

権限や階層などを重視する軍隊のような組織です。

次のモデルは、オレンジ組織です。

実力主義・成果主義に基づくピラミッド型の階層構造の組織です。

今日の組織の多くは、オレンジ組織です。

最近では、オレンジ組織と共に、グリーン組織も登場しています。

成果よりも主体性やダイバーシティを重視するボトムアップ型の組織です。

オレンジやグリーン組織が進化した結果、フレデリック・ラルーが紹介するティール組織が登場します。 ティール組織は、一つの生命体や生物のように、平等に権限と責任が与えられ、進化し続ける次世代型組織です。

 

人間の意識

人間の意識の進化については、ケン・ウィルバーのインテグラル理論を参考にしています。ケン・ウィルバーは、意識のレベルを10種類に分けています。

ティール組織のティールは、インテグラル理論で、10種類の下から7番目に位置する意識レベルの名称で、統合的という意識レベルを表します。ティール組織のティールは、この意識レベルに由来しています。

ここで、少しだけ意識レベルの進化についても触れておきます。

私たちの意識は、自己中心的から、集団中心的な意識へと発達します。

今日、一般的な組織の形と考えられているオレンジ組織は、集団中心的な意識レベルに合った組織モデルといえます。

インテグラル理論によれば、私たちの意識は、自己中心的な意識から、集団中心的な意識を経て、世界中心的、更には、宇宙中心的な意識へと発達してきます。

ティール組織は、世界中心的な意識レベルに合った組織モデルです。

ティール色が表す意識レベルでは、世界をより広い視点で捉えることが可能となり、あらゆるものを統合していくことができるようになります。

 

ティール組織の特徴

ティール組織の特徴は、自主経営(セルフ・マネジメント)、全体性(ホールネス)、進化し続けるパーパス(エボリューショナリー・パーパス)の3つです。

ティール組織には、ボスがいないので、誰もが自律的に考え、行動し、問題を解決し、ゴールに到達します。このため、自主経営が基本となります。

2番目の特徴 ホールネス 全体性には、3つの視点があります。

1つ目は、人間の全体性です。会社でも、仮面をかぶるのではなく、ありのままの自分でいることを当たり前と考えます。

2つ目は、組織の全体性です。組織を、一つの生命体と捉えます。

3つ目は、世界の全体性です。人間も、組織も、地球の一部であり、社会の一部であると捉えます。

全体性という視点に立てば、自分も自然の一部であり、自然破壊は、自己を破壊しているのと同じことであるという捉えることができます。

持続可能な地球と人類の未来のために、私たちが、生き方を変えていかなければならない時代に、私たちの意識レベルが高まり、組織も進化するのかもしれません。

 

ビュートゾルフ

ティール組織の代表例として、看護師を中心に質の高い在宅ケアサービスを提供し、成功を収めている「ビュートゾルフ」というオランダの組織があります。

ビュートゾルフは、ティール組織なので、上司はいません。ただし、メンバー全員が守っている3つの約束があります。1つ目は、すべてのチームが財政的に持続可能であることです。そのために、ガイドラインとなる生産性の目標値が設定されています。2つ目は、看護師は必ずビュートゾルフ のWEBシステムを使用することです。共通のWEBシステムを使用することで、各チームの状況を把握することが可能になります。この2つの約束により、メンバーが自律的に動くことと、組織の持続性を担保することの2つの目的を両立させることができます。3つ目は、各チームが自分たちで採用を行うことです。メンバーは、この3つの約束を守り、それ意外は自律的に決断し行動することができます。ただし、チーム全員が意思決定の内容に居心地の良さを感じることは、大前提です。

抑えるところが、明瞭で、看護師の皆さんが、患者さんのために、最良の意思決定を行う様子が想像できます。

 

学習する組織

ティール組織の本(『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代組織の出現』フレドリック・ラルー著 英治出版)が出版され、ティール組織のことをもっと知りたいと思い、日本で、ティール組織を実践している企業を探したところ、ダイヤモンドメディア社という会社が、もう何年も前からティール組織を実践していることを知りました。そこで、ダイヤモンドメディア社の創業者で、当時、社長を努めていた武井さんにお話を伺い、みんなで勉強会も実施しました。その際に明らかになったのは、ティール組織が、学習する組織であるということでした。

学習する組織の要は、パーソナルマスタリーを持つ人です。パーソナルマスタリーを持つ人は、自分を知り、自分らしく活躍し、組織に貢献します。パーソナルマスタリーを持つ人は、組織のビジョンを自分ごと化することができます。そして、現状と有りたい姿にギャップを発見すると、内発的動機を高め、ビジョン達成のための道を模索します。この姿勢を持つ人は、主体性のある人であり、ティール組織が求めるセルフ・マネジメントができる人です。

2018年に、ティール組織の本が出版され、日本でも大きな反響がありました。そして、多くの人達から、「管理型組織ではなく、ティール組織で働きたい」という声を聞きました。

 

リフレクション

上司のいない組織では、指示命令ではなく、リフレクションを通して、成果に到達しなければなりません。リフレクションは、セルフ・マネジメントを前提とする組織において、欠かせない習慣です。

ティール組織も、学習する組織も、現状と有りたい姿のギャップを埋めるために、誰もが、内発的動機に基づき、考え、行動することを期待します。そのうえで、結果や行動、自己の内面を振り返り、次のアクションを見出します。

その際に、チーム学習も欠かせません。失敗についても、恐れず、安心して語り、みんなで一緒にリフレクションを行えるチームは、経験から学ぶことができるので、得たい結果を手に入れることができます。リフレクションは、セルフ・マネジメントに欠かせないもの、学習する組織を実現する上で欠かせないものです。

ティール組織、学習する組織と共にリフレクションの習慣が広がることが楽しみです。

 

環境保護と企業活動

2023.01.09文部科学教育通信掲載

今年も、青山ビジネススクールで、ソーシャルアントレプレナーの授業に取り組んでいます。社会課題の解決に取り組む個人や企業、団体のことを学び、ソーシャルアントレプレナーが、何を考え、どのようなアクションに取り組んでいるのかを研究します。最近では、営利企業においても、気候変動に対する取り組みが盛んになり、ビジネススクールの授業の特徴でもありますが、授業の内容を毎年アップデートしています。この授業で、今年、特に注目しなければならないのは、パタゴニアという企業です。

パタゴニアの起源

パタゴニアは、アメリカのアウトドア・スポーツ用品のメーカーです。パタゴニアは、自らもロッククライマーであるイヴォン・シュイナードが1973年に創業した会社です。イヴァンは、ロッククライミングを行っている時に使っている道具が、岩をキヅつけている事に気づきました。そこで、自ら岩をキヅつけない道具を作り始めたのが、創業の起源です。このような創業の起源を持つパタゴニアが、自然環境保護に力を注ぐアクティビズムに力を注ぐようになるのは、自然の摂理かもしれません。創業して間もない頃、パタゴニアのオフィスの近くにあるベンチュラ川の河口のサーフィンスポットに開発計画が浮上します。その開発計画に反対する活動に参加していた社員を応援するために、パタゴニアは、オフィスのスペースを提供することになります。こうして、パタゴニアは、自然環境保護活動を支援する取り組みが始まります。

1%フォー・ザ・プラネット

1985年以降、パタゴニアは、売上の1%を自然環境保護/回復のために使うことを宣言し、自然環境保護活動を行う草の根運動に寄付してきました。パタゴニアは、この1%は、地球に支払う税金と考えています。その後、この取り組みは多くの個人や企業から賛同を得て、今日では、世界85カ国6000社以上の団体が参加する基金に発展しています。パタゴニアと共に、自然環境保護に取り組みたいと考える人々が、世界中から集まる時代です。

創業者の決意

今年、パタゴニアの創業者イヴァンが、その株式の多くを、環境危機との戦いと自然保護を目的とする非営利団体ホールドファースト・コレクティブに譲渡したことが、大きな話題になりました。今後は、議決権付きの株式を保有するパタゴニア・パーパス・トラストが、パタゴニアの経営を行い、ホールドファースト・コレクティブを通して、パタゴニアの利益は、自然環境保護のための資金として活用されることになります。このような株式保有のあり方は、これまでに例を見ないものですが、パタゴニアのこれまでの取り組みを振り返れば、創業者の思いは、ずっと自然とともにありましたから、創業者にとってはあたり前のことなのかもしれません。

以下に、イヴァンのメッセージを引用します。https://www.patagonia.jp/ownership/

地球が私たちの唯一の株主

事業の繁栄を大きく抑えてでも地球の繁栄を望むならば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが私たちにできることです。

イヴォン・シュイナード

 

私は、ビジネスマンになりたいと思ったことはありません。クライミング用具を友だちや自分ように作る職人から始めて、後にアパレルの世界に入りました。世界中で温暖化や環境破壊が広がり、自分たちのビジネスが及ぼす影響を目の当たりにするようになったことで、パタゴニアは、自分たちの会社を活用して、これまでのビジネスのやり方を変えることに取り組んで来ました。ただし日行いをしながら生活に十分な資金を稼げるならば、顧客や他のビジネスにも影響を与えられるし、そうしている間にこの仕組も考えられるだろう、と。

まず製品に環境負荷が少ない素材を仕様することから始めました。毎年売上の1%を寄付しました。Bコーポレーション認証を受け、カリフォルニア州のベネフィット・コーポレーションとなり、私達の価値観を保持するために会社定款にこれを記載しました。最近では2018年に、パタゴニアの目的を「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に変更しました。

 ”本当のところ、優れた選択肢はなかったのです。だから自分たちで作りました。“

 選択肢の一つはパタゴニアを売却してその売却益をすべて寄付すること。しかし、私たちの価値観や世界中で雇用されている人材を維持してくれる新たなオーナーを見つけるという確信はありませんでした。

 もう一つの選択肢は、会社の株式を公開することでした。とんでもない失敗になったでしょう。どんなに素晴らしい志のある公開会社でも、短期的な利益を得るために長期的な活力や責任を犠牲にしなければならないという過剰なプレッシャーに晒されます。

 本当のところ、優れた選択肢はなかったのです。だから自分たちで作りました。

 私たちは、「株式公開に進む(Going public)」のではなく、「目的に進む(Going purpose)」のです。自然から価値あるものを収奪して投資家の富に変えるのではなく、パタゴニアが生み出す富を全て富の源を守るために使用します。

その仕組みは、会社の議決権付株式の100%を会社の価値観を守るために設定された、パタゴニア・パーパス・トラストに譲渡し、無決議権株式の100%を環境機器と戦い自然を守る非営利団体ホールドファースト・コレクティブに授与とする、というものです。また、毎年、事業に再投資を行った後の剰余利益を配当金として分配することで、パタゴニアから環境危機と戦うための資金を提供します。

 私達が責任ある事業という試みを始めてから約50年になりまり、それはまだ始まったばかりです。事業の繁栄を大きく抑えてでも今後50年間の地球の繁栄を望むまらば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが、私たちが見つけたもう一つの方法です。

 地球のリソースは、莫大ではありますが無限ではありません。そして、私たちがその限界を超えてしまっていることは明らかです。しかし、まだ回復可能です。私たちが最大限努力すれば地球を救うことができるのです。

 

リフレクション

1972年にローマクラブが、「成長の限界」という報告書を発表して、50年が経過しました。私たちは、同時期に、安くて良いものを大量に生産する企業活動を発展させ、大量生産・大量消費社会を発展させてきました。それは、同時に、地球環境破壊社会を突き進んできた50年とも言えます。ベルリンの壁が崩壊し、地球全体が資本主義社会に塗り替えられ、大量生産・大量消費社会は地球全体に広がっています。

パタゴニアの創業者イヴォンは、ロッククライミングを始めとするアウトドア・スポーツを通して、自然とつながる心を持っており、地球を株主と捉えることが出来たのだと思います。しかし、多くの人たちにとって、自然は、それほど身近な存在ではないかもしれません。

ローマクラブは、「成長の限界」を発表した後に、「限界なき学習」という報告書を発表しています。その当時、このまま経済成長を続けると自然資本に限界がやってくるという事実を世の中に発表しても、誰も、イヴォンのように行動しようとしなかったからです。どうすれば、人間は、将来の危機を想像し、そのために行動することができるのか。その答えが、人間の学習する力の持つ可能性でした。

ゲーム・チェンジ時代のリーダーシップ

2022.12.26文部科学教育通信掲載

先日、電通育英会の集いで、大学生や大学院生の皆さんに向けて講演を行う機会を頂戴致しました。

変化の激しい時代に生きる彼らに、何を伝えるべきかを考えた結果、辿り着いたのが、「ゲーム・チェンジ時代のリーダーシップ」というテーマでした。

ゲーム・チェンジ時代に生きる若者

ゲーム・チェンジ時代に生きる若者にとって大切なことは、大人や先輩の意見を聴くべきことと、聴かない方がよいことを、識別することです。長く生きる大人が持つ智慧や、古き良き日本については、先輩の話を聴き、これからの未来を創造するテーマについては、多くの場合、自ら考える方が賢明ではないかと思います。無論、未来を創造するためには、哲学が必要になるため、リベラルアーツに代表される人類の智慧は大切です。しかし、AIやWEB3.0を始めとするテクノロジーやカルチャーについては、先輩の意見はあまり役に立たないかもしれません。

 

正解はひとつではない

学校教育を素直に受けて育った、真面目な学生の皆さんに、絶対に知っておいてほしいことは、大人の言うこと、先輩の言うことを鵜呑みにしないことです。

原発事故の直後に、学校の先生方にお話を伺う機会があり、驚いたことは、学校では、政府の見解が明確なテーマしか扱わないというお話でした。原発事故については、様々な意見があり、学校で、このテーマを扱うのは危険であるという考えを持つ先生方がとても多かったです。事故の直前まで、子どもたちは、原発は安全でクリーンなエネルギーであると教わり、原発を広報するポスター作成のコンテストもありました。学校では、このコンテストへの参加を奨励していました。原発事故が発生して、原発を奨励する教育は、学校から姿を消しましたが、原発についてクリティカルな話ができるようになったのは、何年も後のことです。

「学校では、正解しか教えてはいけない」という教育の使命は、多くの生徒に、先生や大人の言う事を素直に聴く習慣を植え付けます。

 

サステナビリティと幸福の定義

ゲーム・チェンジ時代というネーミングには、もう一つ込めた思いがありました。それはSDGsを始めとするサステナビリティや人権などに対する取り組みの本格化です。ドネラ・メディウス先生が、「成長の限界」という報告書をローマ・ローマクラブに依頼され作成したのが、ちょうど50年前の1972年です。その後、数多くの人たちが、地球環境の危機を訴え続けた結果、世界全体がSDGsに取り組む社会が実現しています。COP27の様子を見れば、決して楽観視することはできませんが、それでも、10年前に比べれば、人類の取り組みは前進しています。国単位で見ると利害の不一致が顕在化していますが、グローバル企業の取り組みは、とても積極的で、よい未来のために貢献する企業が増えています。

世界有数の資金運用会社ブラックロックが、2018年に、企業経営者に宛てた手紙も、ゲーム・チェンジを加速する要因です。

 

CEOへの年次書簡2018年版

これからの企業は優れた業績のみならず、社会に対してどのように貢献できるかを示さなければ、長期的な成長を継続することはできない。自社の顧客や従業員など全てのステークホルダーにとって価値あるパーパスを示すことで、企業は競争力を強化でき、それは同時に株主には長期的な利益を提供することになる。

ブラックロック会長兼CEO ラリー・フィンク

 

経済界は、今、収益を追求するだけではなく、人類と地球の未来に対しても、責任を負うことが、良い経営であると考えられるようになりました。

この領域において、若者は、自らの考えに沿って行動し、リーダーシップを発揮して欲しいと思います。

 

リーダーシップ

リーダーシップという言葉には、様々な解釈が存在します。多くの人が、リーダーシップは特別な人だけが有する資質であると捉えているように思います。そして、リーダーシップには、カリスマ性が必要で、自分には、リーダーシップを発揮する適性はないと思っている人が以外に多いように思います。

講演では、この考えが間違であることを強く訴えました。ピーター・ドラッカーは、リーダーシップは、学べるスキルであると述べています。実際に、私もNPO活動に集う大学生に向けてリーダーシップ研修を行い、彼らのリーダーシップを引き出して来たので、リーダーシップが学べるスキルであることは立証済みです。

リーダーシップは、一人ひとりの個性を土台に、自分で伸ばしていくものであるということも、皆さんに知って欲しいです。声が大きくなくても、リーダーシップを発揮することはできます。リーダーシップは、他者に対する影響力だからです。

リーダーシップは、自分の言動や存在そのものを通して、他者に主体的に動いてもらう影響力のことです。よい未来を創造するために、他者を巻き込み、一緒に前進するために、多くの人にリーダーシップを発揮して欲しいと思います。

 

全員リーダー

最近では、全員がリーダーシップを発揮するチームが理想であるという考えがあたり前になっています。全員が、自分の個性を活かし、チームに貢献することで、チームが強くなるとう考え方は、統率することがリーダーの役割だと捉えている人に取っては、理解不能のようです。

人間の多様性に注目すれば、全員がリーダーシップを発揮するチームが理想だと考えることができます。例えば、冷静な判断、論理的思考でチームに貢献する人もいれば、場の雰囲気を明るく楽しくすることが得意な人もいます。スポーツ大会やバーベキューの企画が大好きな人もいます。このように、自分の個性を、自分だけのものにするのではなく、チームの力にするためには、他者を巻き込み、影響力を与えることが必要になります。

 

共感力

リーダーシップに欠かせないものとして、最近では、共感力が加わりました。多様性を包摂することが、チームを強くするために必要になったことや、世界規模でビジネスを展開する企業が増えたことが、その背景です。また、社会問題の解決に取り組むことが、これまで以上に重要になっているために、共感力が欠かせないものになりました。自分とは立場の異なる人の状況を正しく理解するために、共感力は欠かせません。気候変動への対処とともに、今、人権に対する見直しが、世界中で進んでいる背景には、リーダーの共感力があります。

人種問題を始めとするマイノリティへの配慮を、特権を持つマジョリティが行うためには、マイノリティの人々に共感する必要があります。

 

若者に期待すること

今、起きていることに目を向けるのではなく、何が自分にとって本当に大切なことなのか、自分を見つめることで、見えてくる、自分が大切にしたいことを自己認識した上で、よい未来づくりに参画して欲しいです。

変化の激しい時代ではありますが、よい未来に向けた大きな潮流は、すでに形づくられているので、そこはしっかりと見極めて欲しいです。産業革命以来、人類が突き進んできた経済的豊かさの追求には、持続可能な人類の発展と幸福という新しい命題が加わりました。

 

先が見えない

先が見えないという人が多いです。しかし、今、この瞬間も、よい未来を創るために活動している人たちがいます。よい未来を創る活動を見つけて、自らもリーダーとして、参画することで、未来をより具体的にイメージすることができるはずです。若者のリーダーシップに期待したいです。

 

トランスフォーメーショナル・ラーニング

2022.12.12文部科学教育通信掲載

1990年代に、アメリカの企業GEが取り組むリーダー養成プログラムについて学ぶ機会がありました。その際に、ラーニングには2種類あると教わりました。一つは、トランスフォーメーショナル・ラーニングで、もう一つは、トランザクショナル・ラーニングです。現在、リフレクションを広める活動をしていますが、そのきっかけとなった学習体験です。

 

トランザクショナル・ラーニングとは、知識やスキルを習得する学習のことで、私達が、一般的に学習という言葉でイメージする学びがこれに当たります。では、トランスフォーメーショナル・ラーニングとは、どのような学習なのでしょうか。

トランスフォーメーションと言う言葉は、性質や機能などが変化する際に使用します。例えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ITの浸透が、人々のあらゆる生活を良い方向に変化させることを意味します。トランスフォーメーショナル・ラーニングも同様に、学習者自身が変化する学習のことを言い、自己変容を伴う学習と説明されることもあります。

OECDが発表した学びの羅針盤2030では、それまで、キー・コンピテンシーと呼んでいた学習内容を、トランスフォーメーショナル・コンピテンシーと名付けました。従来の学校教育は、トランザクショナル・ラーニングが中心でしたが、トランスフォメーショナルという言葉が使われたことで、これからの時代の学校は、個人と社会をよい変化に向かわせる力を学ぶ場所であることが、この命名によって明確になりました。

 

コロナ禍での変化

コロナ禍で始まったリモートワークを事例に、2つのラーニングの違いについて説明してみたいと思います。コロナ禍で、突然、リモートワークが始まりました。その結果、「仕事は会社で行うもの」という常識が、「仕事は、会社でも家でも行える」という考え方に変化しました。そのために、新しいITシステムを活用する必要が生まれ、人々は、リモートワーク環境を整備するために、リモート会議や、オンラインで使うホワイトボード、チームとのコミュニケーションツールの使用方法を学びました。

リモートワークの事例では、「仕事は、会社でも家でも行える」というものの見方の転換がトランスフォーメーショナル・ラーニングです。5年前に、もし、誰かが上司に、「明日は、パソコンの前に座ってする作業が中心なので、自宅勤務にします」と上司に伝えたら、上司はどんな反応をしたでしょうか。コロナ禍では、社会全体の常識が変わりましたが、この際に一人ひとりが受け入れた常識の変化が、トランスフォーメーショナル・ラーニングです。同時に、人々は、リモートワークの環境を整えるために、新しいITシステムの使用方法を学びました。こちらが、トランザクショナル・ラーニングです。

 

リーダーのラーニング力

コロナは、社会全体に大きなインパクトを与え、私達の生き方や働き方にも大きな影響を及ぼしました。このため、私達は、主体的に自分の意思で、トランスフォーメーショナル・ラーンニングを行ったのではなく、危機を乗り越えるために行いました。しかし、20年前に、GEのリーダー養成プログラムで学んだことは、リーダーが自らの意思で、トランスフォーメーショナル・ラーニングを行うことで、会社の変革を成功させるという考え方です。前例を踏襲するのではなく、自分の意思で、新しい常識を自ら、そして集団で作り上げていくことがリーダーの使命であるというのが、GEのリーダー養成プログラムの教えでした。

 

学習する組織

リーダーのラーニングを支えたのは、学習する組織の技術の一つであるメンタルモデルという考え方でした。メンタルモデルとは、人が世の中や物事に対して持っている前提のことです。この前提は、経験を通して形成されます。メンタルモデルの教えでは、自分のものの見方が、どのような経験により形成したものの見方なのかに意識を向け、課題の要因を自分の外に探すのではなく、自分のものの見方を変えることに意識を向けるというものです。

5年前に、誰もが、仕事は会社で行うものと言う考え方をあたり前だと考えていた時に、自宅で働く仕事のスタイルを導入することを想像してみてください。管理職であれば、最初に頭に浮かぶのは、「家で怠けず仕事していることを、どうやって管理するのか」という問いかもしれません。あるいは、「チームでの仕事が進まない」という心配かもしれません。いずれにしても、たくさんの障害が頭に浮かび、「みんなが出社する方が、理にかなっている」という結論になるのではないでしょうか。

メンタルモデルの教えでは、この状態を俯瞰してみれば、実は、「障壁のすべての原因は、あなたのものの見方にあるのではないか」という問いを自分に投げかけます。管理しないと人は怠けるというものの見方が、家で仕事をする部下の勤務上状況が心配になる背景です。チームでの仕事が進まないというものの見方の前提は、例えば、物理的に一緒にいることがチームで仕事をする上で必須だという考えです。

トランスフォーメーショナル・ラーニングは、自らのものの見方を、自分の意思で変えることを意味します。先程の例では、コロナ禍で必要に迫られてリモートワークを導入するのではなく、自分たちが描く未来像となる働くスタイルを実現するために、リモートワークを始めるという世界です。当然、新しいことに取り組む際には、様々な障壁があります。ありたい姿を実現するために、その障壁を一つひとつクリアすればよい、これが、トランスフォメーショナル・コンピテンシーを持つ人の姿勢です。

 

アンラーン

リフレクションのひとつの型として、アンラーンを広める取り組みを進めています。アンラーンは、トランスフォーメーショナル・ラーニングの中でも、最も難易度が高い、過去の経験を通して形成されたものの見方(常識)を手放すことに焦点を置いた学習方法です。

アンラーンでは、自分のメンタルモデルをメタ認知することが、その基礎となります。自分が常識だと思っていることは、過去の経験により形成されたメンタルモデルであるという認識に立つことができれば、「これが正解だ」というものの見方を多面的、多角的に捉え直すことも可能になります。

アンラーンを成功させるためには、ありたい姿が何かを明確にする必要があります。そして、ありたい姿を実現する意思を持つことが前提になります。そのために何ができるのかと考えた時に至る結論が、アンラーンということになります。アンラーンは、誰にとっても、それほど簡単なものではありません。このため、ありたい姿を願う内発的動機を必要とします。

アンラーンを成功させるために、ビジョンが必要なのはこのためです。

 

課題解決とトランスフォーメーショナル・ラーニング

トランスフォーメーショナル・ラーニングは、課題解決の手段のひとつです。課題山積の時代に生きる子どもたちが、未来を創造するためには、トランザクショナル・ラーニングの力を身につけただけでは十分ではなく、トランスフォーメーショナル・ラーニングの力と習慣を持つ必要があります。そのために、アンラーンを、まずは大人が習慣化することが大切であると考え活動しています。

皆さんも、ぜひ、身近なことからアンラーンにチャレンジしてみてください!

 

進化し続けるハーバード・ビジネススクール

文部科学教育通信2022.11.28掲載

ハーバード・ビジネススクールは、今年、スリカント・ダター氏を第11代目の学長として迎えました。2年に一度、ビジネススクールで開催される、グローバルアドバイザリーボード会議に参加し、初めて、ダター学長にお会いし、学長の話を聞く機会を得ました。

グローバルアドバイザリーボード

グローバルアドバイザリーボードの仕組みは、ニティン・ノーリア前学長の時代に始まりました。ハーバード・ビジネススクールの授業は、ケーススタディを中心に行われ、教授たちは、世界のビジネスの実事例をテーマに、ケーススタディのための教材としてケースを書いています。このため、ハーバード・ビジネススクールは、世界に、11の拠点となるリサーチセンターを有しています。アドバイザリーボードメンバーは、各地域のリサーチセンターから推薦されたメンバーで構成されており、このため、会議には、世界中からメンバーが選出されたメンバーが集まります。

ニティン・ノーリア前学長は、5つのIを柱に、約10年間の任期中に、HBS改革を行いました。

グローバルアドバイザリーボードは、国際化の取り組みの一つです。

ビジネススクールは、進化し続けるビジネスの世界と共に生きる宿命を持っているということもあり、自らをアップデートしていく力がとても強いです。このため、リフレクションを欠かすことがありません。過去から、これまでの取り組みを振り返り、今の自分たちのあり方を直視することで、自らの強みと、変えたほうが良いことが鮮明になります。

前学長の時代に、ハーバード・ビジネススクールの授業をオンラインで実施できるケーススタディ用のオンラインシステムを開発する際にも、一ミリも妥協せず、リアルな授業を、オンラインで再現することに成功しました。それは、リアルな授業の素晴らしさを、クラスで起きるディスカッションの偶発性や良質な教授の属人性に依存するのでなく、科学的に説明できる意図的なものであったことを意味します。

前学長の時代に、ダイバーシティ・イクイティ・インクルージョンの取り組みも大きく進みました。それまで、ケーススタディの登場人物の多くが、白人の男性のリーダーであることが、無意識の偏見につながると考え、女性や黒人のリーダーが登場するケースの数を増やす取り組みを行いました。また、クラスでの発言が、成績に占めるウエイトが大きいために、男子学生の方が、女子学生よりも、よい成績を取るという傾向がありました。これが、正しい評価なのか、無意識の偏見によるものなのかを分析し、無意識の偏見を取り除くことにも成功しています。その結果、成績トップ5%に与えられる女性のベーカースカラーが、一気に増えました。

 

ダタール新学長

ダタール新学長は、ノーリア学長の時代にスタートしたハーバード・イノベーション・ラボの立ち上げに貢献した方です。ハーバード大学のファウスト学長が提唱したワン・ハーバードというビジョンの元、イノベーション・ラボは、立ち上がりました。ラボの目的は、学部を超えて、ハーバードの学生や教員、起業家、地域コミュニティが共に、イノベーションを生み出す拠点となることです。イノベーション・ラボの施設は、ビジネススクールに隣接した敷地に立っており、ビジネススクールが、ラボに果たす役割は大きいです。

ダタール新学長は、また、MBA教育を見直す必要性についても、その著書で論じています。彼が主張する「MBAは、よい社会や企業活動に貢献するリーダーを育てることに成功していないのではないか」という問題定義に、私も賛同します。同時に、このクリティカル思考を元に、今後、ダタール新学長が、どのような新しい戦略を打ち出し、これから10年の間に、どのようにハーバード・ビジネススクールの教育をアップデートしていくのかがとても楽しみです。

3Dインスティチュート

ハーバード・ビジネススクールは、7月に、3D(デジタル、データ、デザイン)インスティチュートを立ち上げ、この領域でのイノベーションを加速させる取り組みをはじめています。加速するテクノロジー革新を活かし、ビジネスを再発明することを目指しています。ここにも、ワン・ハーバードの思想が生かされています。複雑な課題解決に求められる学際を超えた協働リサーチやデータ活用が加速していくことで、どのような成果が生まれていくのか、とても楽しみです。

ケースメソッド100周年

今年は、ケースメソッド100周年に当たり、図書館には、100周年を祝う展示がありました。

ハーバード・ビジネススクールの設立は1908年です。スタートした当初は、今日のようなケースメソッドを活用した、学習者中心の指導法ではなく、教授による講義形式で行われていたそうです。

ビジネスを学ぶ上で、講義形式の授業に限界を感じた教授たちが、最初に始めたのは、企業のエグゼクティブを授業に招き、生の課題について語ってもらい、その課題を題材に、ディスカションを通して、ビジネスにおける意思決定を学ぶ授業の形式でした。

この授業を通して、ビジネスにおいては、マーケティングや、戦略、人事、生産管理などを、バラバラの科目として学ぶことにあまり意味がなく、意思決定は、常に、複合的な要素を統合するものであるという認識に発展していきます。こうして、ジェネラルマネジメントとリーダーシップを教えることに主眼を置くハーバード・ビジネススククールの原型が作られていきます。同時に、バラバラの要素を統合する戦略という概念の重要性が鮮明になります。

このような進化の中で、1922年に、最初のケースが作成されました。マサチューセッツは、全米で、最も多くの靴を製造している地域であったため、最初のケースは、靴メーカーが題材でした。そして、驚くことに、最初のケースは、A41枚です。我々が入学した頃には、20、30、40ページのケースもありましたので、少し羨ましくも思いました。

最初のケースを読んでみると、そこには、ケースの原型が見られます。

  • 経営者が直面している課題
  • 課題に関する背景情報
  • 会社や組織に関する背景情報
  • 経営者が応えなければならない重要な問い

 

ケーススタディの質を高めるためには、よいケースの存在がかかせません。そこで、1922年には、ハーバード・ビジネススクールは、ジェネラルエレクトロニクス社と提携し、同社の実課題をもとに、ケースライティングを行います。テーマは、多岐にわたり、マーケティング、ファイナンス、貿易、生産管理、広告、PRなどの領域で、同社の協力を得て、ケースを作成していきました。ジェネラルエレクトロニクスは、人材育成およびリーダー養成にとても力を入れる会社としても有名ですが、すでにその思想は、100年前に存在していたことがわかります。ケースライティングに協力したことは、ジェネラルエレクトロニクスの人材育成にも大きく貢献したといいます。

このような先人の努力が積み重なり、今日では、そのティーチングメソッドも確立し、ハーバード・ビジネススクールが主催するケーススタディの教授法を教員が学ぶためのプログラムには、世界中の教授が参加しています。

このような進化は、一人では成し遂げられるものではなく、「なにが大切なことなのか」を継承し続けていくことが、革新の土台となっていることも、重要な気づきでした。

 

SDGsのロールモデル

文部科学教育通信2022.11.14掲載

2015年にスタートしたSDGsの社会への浸透は、目を見張るものがあります。初等中等教育から高等教育まで、SDGsに関する教育プログラムが展開されています。また、企業のホームページを訪れれば、SDGsの17項目に貢献する様々な取り組みが公開されています。政府が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指す目標に向けての取り組みも加速しています。

そんな中、今年も、青山ビジネススクールでソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の講義が始まりました。2012年にスタートしたこの講義では、目まぐるしい時代の変化に合わせて、毎年、講義内容がアップデートされることになります。スタート当初は、東北大震災の翌年ということもあり、日本でも盛り上がりを見せたNPO活動が研究の中心でした。しかし、今日では、企業のサステナビリティに向けた取り組みに大きな進展が見られ、研究テーマに、非営利団体のみならず、営利団体が含まれるようになりました。

企業のロールモデル

サステナビリティの取り組みにおいて、ロールモデルとなる企業がいくつもありますが、その中の代表的な存在がユニリーバです。

ユニリーバの起源

ユニリーバは、1985年にイギリスで誕生した石鹸を製造販売する企業です。ユニリーバは、それまで、切り分けて販売されていた石鹸を、単品で購入できる石鹸に切り分け梱包し販売を始めます。そして、イギリス人が手洗いの習慣を定着させることに大きな貢献をします。これが、サステナビリティの取り組みで世界をリードするユニリーバの起源です。

サステナブル・リビング・プラン

ユニリーバは、2010年から2020年の10年間の計画として、サステナブル・リビング・プランに取り組みました。この期間、ユニリーバは、売上を2倍にすることを目指す一方で、環境負荷を半減すること、そして、10億人の豊かな生活を実現することを目標に掲げて、様々な取り組みを行いました。

私が、この活動の存在を知ったのは、2015年です。当時は、まだ、SDGsが始まる前で、企業は収益を目的としているというマインドセットが主流でしたので、ユニリーバの取り組みを知り、驚いたことを思い出します。

ハーバードビジネススクールのケーススタディで紹介されたのは、彼らの紅茶事業の取り組みでした。ユニリーバのゴールは、紅茶事業において、100%の茶葉をレインフォレスト・アライアンスという団体の認証を受けた農家から購入するというものでした。認証を受けた農家は、ある一定レベルの生活水準を維持していることを意味します。レインフォレスト・アライアンスの認証を受けるためには、一定水準の経済レベルに到達していることや、教育を始めとする社会インフラが整備されていることなどが求められます。ユニリーバは、茶葉の調達だけではなく、農家のコミュニティの発展に寄与することも、調達という仕事に含まれることになります。その結果、私達が、リプトン紅茶を飲むことで、私達も、海の向こうにある大地で茶葉を育てる農家の人たちの豊かな生活に貢献することができる仕組みになっています。ユニリーバは、79万軒以上の小規模農家の支援を行ったそうです。

サステナブル・リビング・プランの意義

このプランにより、79万軒以上の小規模農家の豊かさが実現し、工場からのCO2排出量は65%、水使用量を47%、廃棄物量を96%削減したそうです。2010年頃は、株式市場が全くサステナビリティに興味を示しておらず、彼らの注目は、企業の収益でしたから、ユニリーバは、株式市場の批判の的でした。しかし、その批判にも負けず、プランをやり遂げたユニリーバの経営陣を心より尊敬したいと思います。

ユニリーバのメッセージ

私たちは、2010年、成長とサステナビリティを両立するビジネスプランとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(USLP)を導入しました。それから10年以上が経ち、世界は大きく変わりました。環境や社会の課題はますます複雑に、深刻になっています。企業のサステナビリティへの取り組みは「したほうがよいもの」ではなく「していて“あたりまえ”」になりつつあります。

USLPの10年間で、多くの成果がありました。世界で13億人以上の人々に石鹸を使った手洗いや朝晩の歯みがきなどの衛生的な生活習慣を身に着けていただき、常にうまくいっていたとは言えませんが、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」したいという想いを常に持ちつづけ、行動しつづけてきました。その原動力となった3つの信念があります。「パーパス(目的・存在意義)を持つブランドは成長する」、「パーパスを持つ人々は成功する」、「パーパスを持つ企業は存続する」ということです。

 

SDGsの素案作成

SDGsに先行して、企業としてサステナビリティに取り組む経験を蓄積してたユニリーバは、SDGsに草案作成の段階から関わっています。

2012年には、 ユニリーバのポール・ポールマン前CEOが国連の「ポスト2015年開発アジェンダに関する事務総長有識者ハイレベル・パネル」の一員として、SDGsに産業界の意見が反映されるよう努めたそうです。そして、2014年には、ユニリーバは「ポスト2015ビジネス・マニフェスト」 」を策定し、20社以上の国際的な企業の合意を得ました。これは、産業界がSDGsの達成を支援するための能力を強化するというビジョンを掲げています。そして、2015年に、国連総会で17の持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された翌年には、ポール・ポールマン前CEOが国連グローバル目標の事務総長アドボカシー・グループの一員となりました。

ユニリーバ、そして、ポール・ポールマンがいなければ、今日のような企業によるSDGsの取り組みの発展は無いのではないかと思います。

市民セクター

社会問題の解決に大きな力を注いでいるもう一つの団体が、アメリカの団体アショカです。

アショカの創業者ビル・ドレイトンは、長くマッキンゼーで政府や企業のコンサルティングを行った後に、その知見を活かし、世界の社会起業家の活動を支援するためにアショカを立ち上げます。最初に支援した団体は、インドの起業家ですが、今では、世界中に存在する3000人以上もの社会起業家の巨大ネットワークに発展しています。

社機会起業家という言葉の生みの親でもあるビル・ドレイトンは、市民セクターという言葉を使い、新しい時代を予測しています。これまでの時代には、営利、非営利あるいは、政府、非政府とう区分が存在しましたが、これからの時代は、市民セクター、非市民セクターの区分になるという予測です。

営利企業を中心に社会が発展したアメリカでは、非営利企業が生まれ、営利企業が担うことのできない社会課題に取り組んで来ました。同様に、ヨーロッパでは、政府が担うことのできない社会課題に非政府団体が取り組んできました。しかし、これからの時代に、この「非」という言葉のつく存在は消えていき、すべての団体と個人が市民セクターの一員として、社会問題の解決に取り組む時代が到来しているといいます。この視点に立てば、営利企業にも関わらず、サステナビリティに取り組んだユニリーバは、市民セクターの一員としてやるべきことに取り組んだといえます。

 

 

 

 

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