探究スタートアップ
2024.01.22文部科学教育通信掲載
株式会社JTBと一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構の取り組む「探求スタートアップ」という中高生向けの教材開発の監修を手掛けました。
旅行の代名詞となっているJTBは、1912年(明治45年)に、訪日外国人への旅行斡旋を目的とした任意団体 「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」として創業を開始し、昨年創業110年を迎えた企業です。JTBは、今年4月に、一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構を創設し、次の時代を担う子どもたちのために様々な教育活動を手掛けています。
心ある企業や社会人が、学校と連携し時代が求める教育の推進に取り組む社会は、理想の社会の姿であるいう思いから、探求スタートアップの教材開発に参画致しました。
探求スタートアップ
「探求スタートアップ~発見!わたしのモノの見方・考え方~」は、リフレクションツール“セルフディスカバリー”を使って、これまでに気づかなかった自分自身の価値観(モノの見方・考え方)を発見し、そこから社会の様々な事象に対する課題意識(モヤモヤ)を自ら認識できるようになるための教材です。自分の内面にある課題意識に気づくことによって、自分の在り方行き方につながる探求課題を設定できるようになります。
クリエイティブテンションの原理
課題解决に欠かせない大切なものの一つに、クリエイティブテンション(創造的緊張)という概念があります。クリエイティブテンションとは、ありたい姿と現実との乖離を創造的エネルギーの源と捉える考え方です。
クリエイティブテンションは、今とは異なる未来を創造するための活動(問題解决、創造、学習、成長等)のエネルギーの源となります。このため、クリエイティブテンションは、探究学習における意欲の源と捉えることができます。
受け身に学ぶ教育から、主体的で自律的な学習を促進する教育にシフトすることが大切な時代が求める探求学習を実現するために、このクリエイティブテンションに基づく探究学習を促進していこう! という思いが、「探求スタートアップ」教材開発の背景にあります。
リフレクション
クリエイティブテンションを活かすために欠かせないもの それがリフレクションです。自分の気持ちや考えを認識し、分析することで、自分のモノの見方・考え方を発見するプロセスです。
自己の内面をリフレクションする際に、思考を可視化し、多面的多角的に、自らの考えを吟味するために、“セルフディスカバリー”というフレームワークの活用方法を活用し、探究学習のための準備を行います。
OECDは、生徒エージェンシーという言葉で、子どもたちの主体性を表現しています。生徒エージェンシーには、子どもたちが、よりよい未来を創る主体であるという思いが込められています。よりよい未来を創るために、自らのクリエイティブテンションを活かす探求に挑戦して欲しいと思います。
ここからは、探求スタートアップの4つのプラクティスを紹介します。
プラクティス1「違い」から発見する
リフレクションツール「セルフディスカバリー」の使い方を学びます。
同じテーマ 例えば、日曜日、部活、海、山、春、秋などについて、意見、経験、感情、価値観の4つの視点でリフレクションを行うと、様々な意見が出てくるだけではなく、その背景にある経験や気持ち、大切にしている価値観が一人ひとり違うことに気づきます。このワークを行うと、人は、実は、いつも同じことを考えている訳ではないことを体感することができます。また、このワークを通して、お互いの大切にしている価値観にも触れることができるので、クラスメイトとの相互理解も深まります。
セルフディスカバリーを活用することで、自分の考えていることだけではなく、自分のモノの見方や考え方についてもリフレクションを行えることが、探求学習の準備に欠かせないクリエイティブテンションに繋がっています。
自分が大切に思うことが満たされていない時に、人は何かを課題だと認識します。例えば誰かが嘘を付いていることを知り頭に来ている人は、「友達に嘘をつかない」ことを大切にしていて、今の現実が、その真逆であることを課題だと認識し、不満を感じます。
課題解决のテーマを探す際にも、同じ考え方を当てはめることができます。例えば、持続可能開発目標SDGsの17の項目の何に興味があるのかは、人によって異なります。教育二興味がある人もいれば、海の環境に関心を持つ人もいます。リフレクションを通して、自分はなぜ、教育に興味をもったのか、自分はなぜ海の環境に興味を持ったのかをリフレクションすることで、自分が、そのテーマに対して、どんな願いを持っていて、今の現実をなぜ課題だと思うのかを明らかにしていくことができます。このため、リフレクションは、課題発見のための重要な行為だと言えます。
プラクティス2 「共感」から発見する
このプラクティスでは、リフレクションフレームワーク「セルフディスカバリー」を活用し、インタビューを行います。お互いの強み・得意なことと共に、大切にしている価値観をインタビューを通して発見することを目指します。
このインタビューの手法では、相手の意見だけではなく、経験、感情、大切にしている価値観まで聴き取ることに挑戦するので、「共感」の体験学習にもなります。実際に、探求学習において、他者にインタビューを行う際にも、より深く話を聴き取ることができるようになります。また、お互いの強みだけではなく、大切にしている価値観を知ることで、相互理解も深まります。
プラクティス3 「強み」から発見する
このプラクティスでは、ハッシュダグで、自分の強み・好きなことに加えて、大切にしている価値観を3つ挙げてみます。また、プラクティス2のインタビューで発見したクラスメイトの強みと大切にしている価値観を伝え合うことも一緒に行います。プラクティス1~3を通して、リフレクションフレームワーク「セルフディスカバリー」を活用することと、価値観を言語化することにも慣れてきます。また、自分が、何を大切にしているのかについても理解が深まります。
プラクティス4 「モヤモヤ」から発見する
リフレクションフレームワーク「セルフディスカバリー」に慣れた所で、いよいよクリエイティブテンションにつながる探求テーマを見つける方法を学びます。それが、モヤモヤからの発見です。モヤモヤを言葉にし、リフレクションを行うことで、自分がどんなことを課題だと思うのか、理想の姿をどのように捉えているのかを明らかにすることで、クリエイティブテンションにつながる探求テーマを発見して欲しいと思います。