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自己理解

202307.10文部科学教育通信掲載

今回のテーマは、自己理解です。AIに代替できない仕事の一つが、他者に関わる仕事です。エッセンシャルワーカーや、先生等の仕事は、AIの時代にも、大切な職業として存在し続けると言われています。他者に関わる仕事を行う上で、最も大切なことの一つが、自己理解です。そこで、本日は、自己理解をテーマに選びました。

自己理解の重要性を教えない日本の教育

今日の学校教育の課題の一つは、自己理解をあまり重要視していないことです。知識やコンピテンシーを習得することや、他者を思いやる心を育むことは大切にしているのですが、自分を知ることが大切だという教えはあまり聴きません。

自己理解が重要になるのは、大学生から社会人になるタイミングで、就活のエントリーシートを埋めるために、大学生は必死で、自己理解のための活動を行います。しかし、無事エントリーシートを記載したら、自己理解のための活動を終えるそうなので、やはり、ここでも、自己理解があなたの人生にとって大切なものであることを教えている訳ではありません。

自己を知るリフレクション

出版致しました書籍 『リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』では、5つのリフレクションの型を紹介しています。その最初の一つが、自己を知るリフレクションです。

自己理解には、様々な視点があります。自分の得意なこと、自分の育った環境、自分の好きなこと・嫌いなこと、自分の家族、自分の専門分野やキャリア等々、人間は、一人一人異なるため、自分のことは、自己理解する以外に、知ることはできません。勿論、先生やお友達、家族から見た「あなた」について、他者が語ってくれる事はあると思いますが、それは、他者が経験を通して知り得た事柄に限定されます。

自分を知るために欠かせないのが、リフレクション(内省)です。自己の内面と向き合うことで自分について深く知ることができます。書籍の中で紹介しているのは、自分の動機の源を知る方法です。動機の源とは、自分が大切にしていること、自分を突き動かす動機の源泉となるものの見方や価値観のことです。

例えば、競争で燃える人もいれば、他者の協働する方が楽しい等、人のモチベーションが上がる理由は一人ひとり違います。このため、自分を知ることは、自分らしく活躍出来る手段であり、また、自分が幸せでいられる確率を高めるための手段でもあります。なんとなく、楽しいとか、なんとなく楽しくないと感じているだけでは、自分の意思でその状態を変えたり、再現することが難しいです。

自己を知ることは、教育が目指すウェルビーイングを実現するためにも、欠かせないものといえます。

思考の分析

「私の考えは、どこからやってきたのか」と自分の思考を分析することも、自分を知る上でとても大切な習慣です。クリティカルシンキングにも役立つ習慣です。学習する組織のメンタルモデルという考え方を学ぶと、自分の考えの背景を簡単に知ることができます。

メンタルモデルとは、我々が人や物事を捉える際に用いるものの見方(思い込み)のことです。メンタルモデルは、経験を通して形成されます。

私達の考えは、過去の経験や知識を土台にしています。何か知っていることがあるから、意見を持つことができます。また、考えの背景には、判断の尺度に用いたものの見方があります。経験と結びついたものの見方が、判断の尺度となり、ある考えが形成されます。このため、「考え」というものは、経験の蓄積を土台にしており、自分を最もよく表しているということになります。

例えば、私は、「自己理解の習慣を子どもたちに幼児期から教える教育が望ましい」と考えています。この考えの背景には、どのような経験があるのでしょうか。高校の時に、交換留学生としてアメリカに留学した際に、自己理解ができておらず、とても苦労した経験があります。「あなたは誰なの?」という問いに、アメリカの高校では、自己紹介をしなければなりません。しかし、当時の日本の学校教育では、そのような授業はなく、自分の特性をうまく説明できなかったことがとても残念でした。幸い、時間をかけて、みんなと付き合う中で、「美香はこんな人だね」と他者からのフィードバックで自分を知ることができました。

また、未来教育会議の活動をしていた時に、デンマークの幼稚園の様子を学びました。森の幼稚園では、子どもたちが、沢山の種類の遊びにチャレンジしていました。「子どもたちは、遊びを通して、自分の好きなことを学びます。お友達との違いを通して、自分を知る機会を得ています。私達も、子どもたち一人ひとりの様子に注意を払い、子どもたちが、自分を発見する機会を創るよう心がけています」とお話をされていたのが印象的でした。オランダでは、幼稚園にマルチプルインテリジェンスのコーナーが用意されていて、子どもたちは、どのコーナーで遊ぶのかを計画して遊んでいるので、その履歴が、そのまま、子どもたちの特性を見出すヒントになります。デンマークやオランダでは、自己理解を幼児期から大切なものと捉えている様子が、とても羨ましかったです。

このような経験から、私は自己理解が大切だと思うようになりました。自分らしく生きる、活躍する、社会に貢献することのために、自己理解がとても大切だと言えます。それこそが、私達が、この世の中に生まれて来た理由なのではないかと思っています。

これが、私のメンタルモデルです。勿論、人のメンタルモデルは多様です。「あなたは、自己理解について、どんな考えを持っていますか。その考えの背景には、どのような経験がありますか。あなたは何を大切に考えているから、そう考えるのでしょうか」ぜひ、ご自身に問いかけてみてください。

自己の感情

次に、自分の気持ちを知ることの大切さに触れたいと思います。私達は、日々の生活を通して、様々な気持ちを味わいます。朝の目覚めが爽やかなら、幸福で満たされるでしょう。外出なのに土砂降りの雨なら悲しい気持ちになるかもしれません。皆さんは、この瞬間、「どんな気持ちですか」という問いに、すぐに答えられますか。私の経験では、大人の多くは、自分の気持ちをすぐに言葉で表せる人はとても少ないです。「気持ち?!?」という反応が一般的です。自分の気持ちはそこに必ず存在しているのですが、それが何かを特定することが難しいです。

自己理解の中でも、最も重要なことの一つが、自分の気持ちや感情を理解することです。「今、自分はどの様な気持ちなのか」を知ることは、心身のウェルビーイングのために必要なことは、誰もが知っています。しかし、多くの人は、自分の気持ちが、自分の思考や行動とその結果に大きな影響を及ぼすことに無自覚です。

皆さんも、前向きな気持ちには、楽観的な判断ができるのに、悲観的な気持ち担っている時には、一歩踏み出す決断ができないという経験がありませんか。自分の感情を理解することは、最良の判断を行うためにも欠かせない習慣です。

私達は、同じ状況でも、同じ気持ちにはなりません。例えば、新しい長靴を買ってもらった子どもは、土砂降りの雨を喜んでいるかもしれません。私達の心は、大切にしていることが満たされればポジティブになり、満たされなければネガティブになります。このため、感情は、自分を知る上でも重要な役割を果たします。

 

 

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