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 人・企業・社会への期待

2023.11.13文部科学教育通信掲載

人的資本経営が重視され、企業は、新しい考え方に基づき、「人」に向き合い始めています。同時に、「人」も、新しい考え方に基づき、「キャリア」に向き合い始めています。難関大学を卒業し、大企業に就職することで、幸せな人生が保障されるという時代が終わり、職場で理不尽なことが合っても、家族のために我慢するという時代も終わりました。

転職も当たり前になり、新卒の3年以内の転職も、「3年3割」と言われており、3人に1人が転職しています。

学校教育も、社会の変化に合わせて、答えのない時代に生きる子どもたちに、自ら考え、行動し、自分の考えを試しながら、正解を見出す力を育む授業が始まっています。また、起業家教育に力を入れる大学も増えています。

 

時代背景

これまでの考え方で、キャリアを考えることが難しくなった背景には、4つの大きな変化があります。まだ、他にもたくさんの変化がありますが、ここでは、4つに絞ります。

・VUCA

・AI・データ・ネットワーク

・サステナビリティ/SDGs

・システムチェンジ

 

VUCA

VUCAは、Volatility 不安定で変化が激しい、Uncertainty 先が読めず不確実性が高い、 Complexity 服zタス、Ambiguity 曖昧模糊とした の頭文字を繋げた、変化の激しい先の読めない時代の様子を表す言葉です。このように、不安定で変化の激しい時代に、持続可能な発展を目指す企業では、変化に合わせて必要な能力を準備しなければならず、リスキリング(別な役割に移行するための能力アップ)やアップスキリング(今の職業で必要更なる能力アップ)という言葉も生まれています。

 

AI・データ・ネットワーク

AI・データ・ネットワークのテクノロジー革新は、私達の仕事を大きく変えていきます。10年前の予測では、おおよそ半分の仕事がマシーンに代替されると言われています。言い換えると、すでにある仕事を、マシーンに置き換える事自体が、新しい職業になるということです。この領域では、技術革新のスピードが早く、日々、新たな職業が生まれている言われるくらい、新しい領域を学び続ける必要があります。このため、海外のIT系の企業では、学歴を問わない大企業も生まれています。能力があるかだけではなく、能力を高め続けることができるかが、勝負だからです。

 

サステナビリティ/SDGs

サステナビリティ/SDGsは、経済成長の結果、人間が作り出した人間にとって深刻な課題です。2009年に、地球の限界を示すプラネタリーバウンダリーを、ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム博士(現ポツダム気候影響研究所所長)のチームが発表し、この考え方は、SDGsの土台となっています。プラネタリーバウンダリーは、地球の健康を9つの領域で捉えられることを明らかにしました。そして、残念ながら、私達人間の営みが地球に与えている負荷は、地球の限界を超え始めています。例えば、気候変動に関連する大気中の二酸化炭素の濃度は、限界値の下限が350ppm、上限が450ppmで、450ppmを超えると、地球の容量の限界を超えてしまうのですが、すでに、現在、この値が400ppmを超えています。地球の健康が危機にさらされる中でも、世界は、経済の成長を手放す覚悟を持つことができず、刻一刻と迫る地球と人類の危機に向かって邁進しています。

そんな中で、新たに「ドーナッツ経済学」という新しい経済学が、オックスフォード大学の経済学者ケイト・ラワース氏により2011年に発表されました。皆さんもご存知のドーナッツの形をした経済学のアイディアです。このドーナツには、2つの大事なコンセプトが含まれています。一つは、経済活動を、プラネタリーバウンダリーの内側で行うことです。現在のように、地球の限界を超えても、資源が枯渇するまで、自然資本を使い続けるのではなく、持続可能な地球を前提に経済活動を行うことを目指す経済学です。もう一つは、すべての人たちが、一定の生活水準を保ち、水や食料が不足し苦しんでいる人たちがいない社会です。富の格差も貧困問題も、地球から消滅します。

「ドーナッツ経済学」は、現在、アムステルダムやメルボルン等、世界中の地域で、経済の仕組みとして活用する試みが始まっています。世界を一度に動かすことは無理でも、地域の住民や企業が合意すれば、実践できるというのが、「ドーナッツ経済学」の魅力でもあります。

システムチェンジ

この話は、4つめのシステムチェンジの話にも繋がります。システムチェンジとは、課題の根本原因を取り除く課題解決の手法です。事象に働きかける課題解決とは異なり、システム思考や対話を通して、その課題を生み出している構造や仕組み、人々のものの見方を理解し、システム全体を変えることを目指します。システムには、3つ(目的、要素、要素同士の繋がり)の要素があります。システムチェンジでは、この3つの要素のどこを変化させれば、システム全体によい変化を起こせるかを探求します。

今日の課題は、事象に対処していても、課題解決を行うことができず、根本解決を目指すためには、多くの関係者のマインドと行動が変わる必要があります。また、人々は、既存の組織や既存の枠組みに縛られない発想で、課題解決に取り組むことが期待されます。「自社の利益ために、自分の人生を捧げる人」の集団では、大きな社会問題を解決することはできません。雇用の流動化や、越境学習は、システムチェンジを推し進めるためにも、不可欠なものなのかもしれません。

このような時代の変化の中で、「良い仕事」の定義も変わります。

 

企業の強さ

この新しい環境の中で、企業は、かつてないスピードで「付加価値」を創出する力を鍛えることが必要になりました。強い企業であり続けるために、企業は、新たなものの見方を前提に、組織力を強化する必要があります。

「どうすれば、一人ひとりの潜在能力を開花させ、創造に向かうエネルギーを高め続けることができるのか」

「どうすれば創造性の高いチームをつくれるのか」

これら問いに、答えるために様々な考え方が生まれています。

創造性を高めるためには、心理的安全性が必要です。クレイジーなアイディアを言葉にすることが許されない組織で、独創的なアイディアが生まれることはありません。また、同質性が高い組織では、発想が広がらず、新しいアイディアが生まれにくいので、多様性が大事だと考えるようになりました。また、創造的な活動を、指示命令と管理のアプローチで促進することが不可能なので、自律的な人材を増やしていこうという話になりました。このように、イノベーションを実現するために、今、「組織」と「人」は変わり始めています。

企業活動においても、最近では、社会問題の解決が大きなテーマになっています。そのためには、共感力が大事だと言われるようになりました。自分と置かれた状況やバックグラウンドが異なる他者の気持ちや立場を理解し、よい変化を実現するために行動することができる人が増えれば、社会問題の解決にもよい影響を及ぼします。

人・企業・社会すべてがよい変化に向かうことで、よい未来を共に創ることができるのではないでしょうか。

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