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社会課題解決への挑戦

2023.11.13 文部科学教育通信掲載

世界の難民と世界へ挑戦する

今年も、青山学院大学ビジネススクールで担当しているソーシャル・アントレプレナーの授業が始まりました。毎年、この授業では、クライアントになる団体をお招きし、学生がクライアントに対してコンサルテーションを行います。今年は、WELgee(ウェルジー)代表 渡部カンコロンゴ 清花さんをクライアントにお招きします。ウェルジーのHPから、渡部さんのメッセージを引用します。

 

■渡部代表のメッセージを引用します■

2016年、今ではよき友人たちである「難民」に東京で出会ったことからWELgeeは始まりました。
難民の人々も、歓迎できる社会を作ろう。
Welcome と Refugeeを組み合わせたのがWELgeeです。「難民」と日本社会が、人として出会うきっかけを作るところから始まりました。そこに、志を同じくする仲間たち、応援団が集まって今があります。
彼らは、生き延びた土地で学び、働き、将来、平和になった社会の担い手となる人々です。命を繋いだ先がたまたま日本だった人々が、今ここにすでにいます。
わたし自身が、難民という背景や境遇を乗り越えて、前を向いて生きる友人たちの、ファンの1人です。自分で未来を選び、日本に降り立った同世代の彼ら彼女らが持つ志に励まされ、勇気をもらい、夢に感動し、一緒になにかしたいと感じた日本人の1人です。
そんな若者たちが、希望を取り戻し未来の選択肢をもてる社会を作りたいと思います。私たちは、彼らと共に、もっとカラフルな世界を作れるはず。これを読んでくださっている皆さんにもできることがあります。国政問わず、意欲ある若者の背中を押せる仕組み作りを一緒に仕掛けませんか?

■社会課題と出会い

社会課題解決に取り組む人は、何かをきっかけに、社会課題の存在を知り、現状とは異なる「有りたい姿」を願い、社会課題の解決に取り組み始めます。多くの社会課題は、人々がその課題に気づかず、放置されたままになっていることが多く、その解決は簡単ではありません。このため、最初に思いついた解決策をそのまま適応しても、社会課題の解決に繋がらず、道半ばで、課題解決を諦めてしまう人も多いです。

社会課題と向き合うと、当初捉えていた社会課題が、違ったものに見えてくることも多いです。その結果、課題そのものを再定義し、その上で、解決策を考えることも有益です。ビジネスの世界でも、今日求められるピボット(変化の推進)は、社会課題の解決にも欠かせません。

■7年間の活動を経て

渡部さんは、社会の代表的な反応を以下のような言葉で語っていました。

「難民・・・治安が悪くなったら心配。」「難民の前に、日本にも困ってる人いるんじゃない?」「国連とかヨーロッパは大変そうだけど、日本はあんまり関係ないよ」

難民問題に関心を示す人が少ない日本で活動するウェルジーも、この7年間は、試行錯誤の連続だったようです。それでも諦めず、渡部さんは、7年間で300人の難民を支援し、人生の再建を伴走した実績を作り上げました。そして、今年、ウェルジーは、「世界の難民と、世界へ挑戦する」という新しいコンセプトを作り、活動を強化しています。

■世界の難民と、世界へ挑戦する

未来を切り拓くために、いま必要な人は誰か?

ビジネスを見据える経営者ならば、決して避けて通れないこの問題に、私たちはひとつの新しい解を与えたい。それが、確固たる意思を胸に、海の向こうからやってくる難民人材という存在。彼らは、強い信念と個性、そしてプロフェッショナリズムを持ち、常に挑戦することを恐れず、さまざまな逆今日も機械に変えてきた。難民という言葉の先には、決して希望から逃げない一人の人間のストーリーがある。アフリカでの政治活動に命の危機を感じた彼は、日本で、“母国の医者の卵と日本の医療従事者との架け橋”になった。紛争地域で教師やジャーナリストとして活躍していた女性は、日本で“国際NGOのメンバーとして母国を応援する活動”を牽引している。

難民人材が、あなたのチームを、あなたの会社を、そして日本全体を、より強く、より豊かに、変革させる力になる。

(渡部さんの講義資料より引用)

 

労働人口の減少による人材不足や、グローバル人材不足に悩む企業の問題解決策の一つとして、難民人材の採用を促進するというアイディアは、とても素晴らしいです。人権を尊重し、多様性を包摂する新しい時代の経営の目指す方向性にも合致しています。

 

ウェルジーの就労支援

WELgeeは、日本にやってきた難民の人生の伴走者となり、彼らの経験や専門性を活かし、日本で人生を再建するために「就労・キャリア」を支援するプログラムを展開しています。そのために、キャリア教育、メンターシップ、スキル開発を手掛けています。キャリアコーディネーターが企業と本人の双方に伴走し、採用への道筋を模索していきます。

例えば、何世代にも渡る迫害や差別を受けてきた、ある少数民族の生まれであるAさんの伴走者は、Aさんに「IT技術を活かして、社会的に弱い立場に置かれた人の力になりたい」という夢があることを知ると、プログラミングの勉強をする機会を用意し、IT企業での就職先を探しました。現在、Aさんは、日本のIT企業でエンジニアとして活躍しています。

 

増え続ける難民

10年前に、ハーバード教育大学院で行われた未来の教育研究会に参加した際に、教育における重要な変化の一つに移民の増加が含まれていたことを思い出します。

2019年のデータを見ると、出身国以外で暮らしている移民の数は、2億7200万人で、世界の人口の3.5%を占めています。また、2022年末時点で、迫害や紛争などにより故郷を追われた人の数は約1億840万人で、その数は、増え続けています。国連難民高等弁務官事務所の保護対処となっている難民の数は、2012年以降、ほぼ2倍に増えています。

 

難民という言葉

「難民」とは、「人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の成員資格・政治的意見を理由に迫害されるという十分に理由のある恐怖のために国籍国の外におり、かつ、その国の保護を受けられないか、そのような恐怖のためにそれを望まない者」(UNHCR「難民の地位に関する条約」「難民の地位に関する議定書)を指します。

 

私自身、これまで難民についてあまり考える機会がなかったのですが、渡部さんのお話を聴きながら、改めて、「難民」というネーミングが良くないと思うようになりました。難民の人から、渡部さんが、「私たちのことを日本語では何ていうの? 漢字の意味はなに?」と聞かれたという話を聴き来ました。英語では、レフジーと言いますが、その語源は、フランス語のrefugieで、rifugierの過去分詞を名詞化したもので、「避難する、保護する」という意味を持ちます。日本語の「難民」とは、少し様子が異なります。渡部さんたちが付けた「難民人材」という言葉には、

命の危険があって祖国に戻れない人々に対して、私たちの社会が持つ眼差しを見直そうと投げかけているようにも思いました。

 

日本の難民の現状

現在、日本政府に、難民認定手続きを行なっている「難民認定申請者」は、9299人います。日本の難民認定申請者数と認定数、難民認定申請者が経験する壁については、図1、2をご覧ください。

私自身も授業を通して難民に対する理解を深めていきたいと思います。

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