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 演習 先生と児童の話し合い

2023.10.09文部科学教育通信掲載

オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールプログラムの『演習 先生と児童の話し合い』の内容をご紹介します。

児童の主体性を育むシチズンシップ教育ピースフルスクールでは、児童同士のトラブルを、子どもたちが、自らの力で解決することを練習します。ピースフルスクールプログラムを導入する小学校には、メディエーターという名の話し合いのファシリテーションを担当することども達がいます。メディエーターは、全て小学5、6年生で、毎日2名が交代で担当します。児童同士のトラブルは、メディエーターが、話し合いを支援します。メディエーターでは扱い切れない問題については、先生が介入します。

児童の主体性を育む先生は、頭ごなしに叱るのではなく、先生が自ら問題解決をするのでもなく、子ども達同士が言い分をお互いに伝え合い、自ら解決策を考えることを支援します。そのために、子ども達は、毎週、レッスンを行い、自分の頭を整理する方法や、心を落ち着かせる方法、

相手の話を傾聴する方法、自分の考えを根拠と理由を添えてわかり易く相手に伝える方法を学んでいます。この小さく切り分けられたレッスンを繰り返し行うことで、トラブルが起きた時にも、冷静に話し合うことができます。また、先生も、子ども達の主体性を尊重し、子ども達同志の話し合いを促進するメディエーター役ができるように練習を行います。オランダでも、日本同様に、先生達は、子ども達のトラブルに介入し、自ら問題解決を行うことが上手なので、メディエーター役を担うためには、そのスイッチを切り替える必要があるようです。

今回ご紹介する『演習 先生と児童の話し合い』は、子どもたちに石を投げられた先生と児童の話し合いです。先生自身が当事者であるため、この話し合いを冷静に行うことは、とても難易度が高いです。

 

【演習で扱う出来事】

イルマ先生は家に帰ろうとしていました。授業が終わった後に課題の評価をしていたらすっかり時間が遅くなってしまいました。もう辺りは真っ暗です。すると、突然窓を叩く音が聞こえました。しかしそれは上の階からです。先生は音の正体を確かめるために階段を上りました。するとまた窓を叩く音がします。今度はさらに大きな音です。上の階に着くと、先生は窓を見ました。外を覗き込もうとした時、窓に向かって石が飛んで来るのが見えました。幸運にも窓は割れませんでしたが、当然先生はとても驚きました。外に三人の少年が走り去って行くのが見えました。それは彼女の知らない子たちでした。彼女はまた下の階に行って誰かいないかどうか確認しました。幸い、インゲ先生がまだ残っていました。彼女たちは外に出て一緒に少年たちを探しました。今、何もせずに家に帰ってしまったら、今度こそ少年たちが石で窓を割ってしまうかもしれないからです。

外は真っ暗です。もう誰の姿も見えません。彼らが学校の周りを歩き、また中に戻ろうとした時、小さな沢山の石が飛んできました。彼女たちは「やめなさい!」と叫びながら、犯人の正体を確かめようとしました。その時一人の少年が走り去りました。イルマ先生はその少年を見て、それが自分のクラスにいるボブという生徒だということに気付きました。

彼女たちは家に帰りました。翌朝、イルマ先生は校長先生と一緒にボビーを呼び出し、昨日の夜何をしていたのか聞きました。ボビーは泣き始め、一緒にいたのが近所に住む年上の男の子二人だったことを話しました。彼らは別の学校に通っています。彼らはボビーが弱虫でないことを証明するように命令しました。彼らは一緒にボビーの学校へ行き、まだ明かりがついていることを確認しました。そこでいたずらをしようと、小さな石を窓に向かって投げ始めました。しかし反応がないので、二人の少年はどんどん大きな石を投げ始めました。ボビーは何も言うことができず、逃げ出す勇気もありませんでした。その後、先生たちが彼らを探すために学校の周りを歩いていることに気付くと、彼は巻き込まれることを恐れ、茂みの奥深くに隠れました。その時、別の男の子がイルマ先生に向かって手に持てるだけの砂利を投げつけました。ボビーはとても恐くなり、とにかく夢中で走り去ったのでした。

【パート1の問い 出来事の振り返り】

  1. ボブのストーリー:何が起きましたか。 どんな気持ちでしたか。
  2. 先生のストーリー:何が起きましたか。 どんな気持ちでしたか。
  3. 両者が合意したストーリー:何が起きましたか。

 

問題を解決するためには、出来事について両者の考えを一致させる必要があります。この話し合いを阻害するのが感情の働きです。怖い経験をしたイルマ先生も、その感情を横に置き話し合いに参加する必要があります。悪いことをしたと感じているボビーも同様です。恐れの感情に支配されている間は、冷静に話し合うことができません。

冷静に話し合いを行うために、お互いが、自らの感情について話すことは有益です。自分がどんな気持ちなのか、なぜそうなのかを言葉にして伝えることができると、冷静になることができます。また、相手の感情とその背景を聴くことで、自分の立場で主張するだけではなく、相手の立場に共感することができます。その結果、同じ出来事を、自分から見た景色と、相手から見た景色の両面から捉え直すことができます。

ピースフルスクールの演習を通じて、感情は、話し合いを阻害する要因であり、話し合いを促進する要因でもあることを学びました。その分かれ道が、自己の内面をメタ認知するリフレクションの実践です。

【パート2の問い 今の気持ちと願い】

  1. ボブの立場:ボブはどんな気持ちですか。何を願っているのでしょうか。
  2. 先生の立場:先生はどんな気持ちですか。何を願っているのでしょうか。

 

問題解決のためには、今の気持ちを伝え、聴き合うことも大切です。その上で、何を願っているのかを伝え合うことで、問題解決のための話し合いに進むことができます。

 

【パート3の問い 課題解決について】

  1. ボブと先生は、どのような課題を解決する必要がありますか。
  2. どのような解決策が考えられますか。どのようなアクションが考えられますか。
  3. ウィン・ウィン、ウィン・ルーズ、妥協、修復のどれに該当する解決策ですか。

この演習では、ウィン・ウィン解決のフレームワークを活用し、イルマ先生とボブの課題解決について考えます。その際に、修復という言葉についても学びます。イルマ先生とボブにとって、一旦壊れた信頼関係を元に戻すことが、重要な問題解決のポイントだからです。

 

演習のまとめ

コンフリクト( 対立) を、全員が満足するように解決できた場合、それはウィン・ウィン解決と呼ばれます。

両者のうちどちらか一方だけが満足している場合、それはウィン・ルーズ解決策と呼ばれます。どちらかが勝ち、もう一方が負けています。

どちらも満足していない場合、それはルーズ・ルーズ解決と呼ばれます。どちらも負けています。

時々、完全なウィン・ウィン解決策が不可能なことがあり、その場合は妥協という方法があります。全員が少し満足することができます。

時には、修復がウィン・ウィン解決策の一部であることがあります。

トライブが起きても信頼関係を修復できるという考え方も、とても大切なことだと思いました。ピースフルスクールの演習に学び続ける日々です。

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