skip to Main Content

教育行政リーダー研修

2023.09.11 文部科学教育通信掲載

8月に独立行政法人教職員新機構で行われた教育行政リーダー研修の講師メンバーの一員として、研修に参加致しました。日本全国から集まった33名の教育委員会の優秀な方々の学びの場にご一緒できたことは、とても貴重な経験になりました。

講師陣は、帝京大学大学院講師 町支大裕氏、国立教育政策研究所統括研究官 千々布敏弥氏 秋田教育委員会次長 和田渉氏、愛知県立大学准教授 葛西康介氏、兵庫教育大学院准教授菅野裕太氏、北海道立教育研究所長 中澤美明氏、新潟県新潟市教育委員会次長 池田浩氏、宮崎県延岡市教育長 澤野幸司氏、兵庫県加西市教育委員会主幹兼指導主事 藤田亮氏、鳴門教育大学学長 佐古秀一氏、大分県別府教育事務所所長 板倉慎二氏、神奈川県鎌倉市教育長 高橋洋平氏(担当順)です。

本研修の準備に当たっては、講師陣との打ち合わせを何度も実施しており、ZOOMでは、何度もお会いしておりました兵庫教育大学の日渡先生が6月にお亡くなりになられたことはとても悲しい出来事でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

今回は、 教育行政リーダー研修に参加して得た2つの学びに触れたいと思います。

 

2つの相似系

よく学校と教育委員会は、相似系であると言われます。しかし、この研修を通して、教育委員会には、もう一つ大事な景色があり、教育委員会は、行政とも相似系であるという事実を知りました。私は、学校と教育委員会の関係性にばかり目を向けていたのですが、教育委員会がその使命を果たすためには、議会や財政との関係性が重要であるという、言われてみれば当たり前の事実を改めて理解することが出来ました。ディスカションの中で、「学校にいたときには、子どもたちの目線を大事にしていたのに、教育委員会では、子どもたちのことを考えることがとても少なくなる」という発言が多く出て、改めて、学校教育を支える仕組みの構造的な難しさを実感しました。また、同時に、この構造が、子ども中心の教育改革がスムーズに進行しない理由なのだと思いました。

 

オランダの教育監督局

ディスカッションをしながら、オランダの教育監督局を訪れたときのディスカッションを思い出しました。憲法で教育の自由が保障されているオランダでは、200人の父母が集まれば学校を設立することが可能です。学校の土地や建物は行政が提供することが決まりなので、誰もが、教育理念と志を持てば学校を始めることができます。一方、オランダでは、小学校の卒業試験があるため、誰もが、中学校に行ける訳ではありません。このため、学校は、教育の質を担保できなければ、子どもたちが小学校を卒業できなくなるので、しっかりとした教育を行う必要があります。そして、教育監督局が、学校を監督します。

教育監督局は、小学校卒業試験の結果を元に、教育の質に課題がある学校に対して改善を求めます。学校は、教育監督局から改善を求められると、必要に応じて外部の教育専門家の支援を受け、教育改善に取り組みます。この仕組みでは、教育の質を担保する責任は学校(を運営する理事会)にあり、課題を発見し指摘するのが教育監督局で、教育専門家はそのための改善策を学校現場の先生たちとともに講じます。学校の運営する理事会は、改善のための予算を確保し、教育の質向上に責任を持ちます。行政と学校の役割と責任がとても明確です。また、教育監督局の改善要求に答えられない学校は、退場するという仕組みなので、課題が永遠に残ることもありません。

子どものよい育ちを願う仲間

家庭も、先生も、校長も、教育委員会も、議会も、地域も、みんな子どものよい育ちを願う仲間であるはずなのに、なぜ、子どもを中心に据えて物事を考えることが難しいのでしょうか。秋田県の和田先生のお話を伺いながら、改めて地域社会や家庭と学校の関係について考えさせられました。2010年にも、当時の秋田県教育委員会の根岸教育長のお話を伺ったのですが、秋田県では、学校や先生の悪口をいう親はいないというお話がありました。共働きも多いそうで、祖父母が子育てに関わることも多く、祖父母会(祖父母版保護者会)を行う学校もあると伺いました。和田先生のお話を通して、秋田県の教育委員会には、今日でも、子ども目線がしっかりと定着していることがわかりました。子どもを中心に置いた議論があることで、学校、家庭、地域が、子どもたちのよい育ちを願う仲間になることができます。

 

子どもの変化、子どもの成長

鳴門教育大学学長の佐古先生には、学校の内発的改善力を高める実践事例をご紹介いただき、リフレクションやチーム学習が生かされている様子を嬉しく思いました。子どもの問題行動を改善する取り組みを行う学校において、チーム学習を通してビジョンを形成し、みんなで学校改善を行う取り組みはとても参考になりました。特に、(1)子どもの問題行動ではなく、その背景にある根っこの課題を見つけた時に、みんなの行動が変わること、(2)子どもの変容のエピソードが先生の内発的改善力の原動力になることの2つが、私にとっては大変貴重な学びでした。ある学校で、子どもの問題行動の背景にある根っこの課題として、「自分を大切にしてもらった経験が少ない」という視点が持てた時、「ようきたね」という心で迎えるという先生たちの立ち位置が明確になり、その結果、子どもにも先生たちの思いが届き、子どもたちにも変化が見られたという成功事例を伺い、私も嬉しくなりました。また、子どもたちの変容のエピソードを、「あの子がこんな風に変わった」「こんな子どもたちが増えた」と、先生たちが語り始めると、それは何よりも先生たちの喜びなので、みんなの内発的動機に火がつくということも、とても納得できるお話でした。

 

子どもの靴を履いてみる

以前、ある学校の校長先生と、先生に向けたリフレクション講座を企画したことがあります。

校長先生のご依頼は、先生たちはとても多忙で疲れているので、先生たちを元気にするリフレクションを行いたいというものでした。悩んだ末に企画したのが、「あなたを悩ませている子ども」をテーマにしたリフレクションでした。最初は、自分の経験と感情を振り返り、「なぜ、その子が自分のとって悩みの種なのか」をリフレクションしてもらいました。例えば、ある先生は、授業中に、算数の問題を全く解こうとしないBさんについてリフレクションをしてみると、「みんなに算数ができるようになって欲しい」という願いがあるために、自分が、Bさんの様子に不満を感じてしまう事に気づきました。その後で、Bさんの靴を履いて、Bさんの世界を想像するリフレクションを行うと、Bさんの問題行動の背景を理解することができます。(図参照) 佐古先生のお話を伺い、このアプローチは、学校における課題解決にも役立つのではないかと思いました。

教育委員会にも、リフレクションと対話が広がることを願っております。

Back To Top