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脳科学を学びに活かす

文部科学教育通信No.401 2016.12.12掲載

近頃は、教育やビジネスの世界でも脳科学の研究内容を活かす取り組みが進んでいます。日常の中でも「脳トレ」「左脳と右脳」など脳科学に関するキーワードを聞く方も多いのではないでしょうか。先日「Neuroscience of Learning」という脳科学の勉強会に参加をしてきました。今回は脳科学の世界で現在明らかになってきたことと、その活用法についてお伝えしたいと思います。

 

脳科学と創造性

脳科学が重要視されている理由の一つに、人工知能(AI)の存在があります。今後はルーチンワークと呼ばれる単純作業はどんどん機械に移行していくことでしょう。人工知能が人間の仕事を奪い、敵対する脅威と捉える方も多いのですが、本来、人間の生活を快適かつ豊かにする存在として開発されています。最近では日本人の約半分の仕事が人工知能に移行すると言われていますが、その時、人間に残されるものは何でしょうか。それは、新しいものを取り入れる創造性だと言われています。創造性を生み出す元となるのが脳です。脳科学が注目されているのは、脳の仕組みを知ることで、より効果的に使っていくことができると考えられているからです。脳科学は医療の世界だけでなくリーダーシップ開発やマーケティング、子育てなど幅広い分野で活用されています。マーケティングで活用される事例を一つご紹介します。病院で使用される備品や設備には青色のものが良く売れるそうです。脳科学の観点から見ると、青色は自律神経を安定されるセロトニンという分泌を促進する効果があるからです。このように脳がどのように判断や思考に影響しているかを知ることで、人の購買活動に応用するという活用方法もあります。

 

創造性の必要性は世界中でも謳われています。これからの時代に必要な能力として世界経済フォーラムで掲げられた能力のうち、2015年と2020年で大きく変化がありました。

 

これからの時代に必要になる能力


2015年

  1. 複雑な問題解決
  2. 他者との協同
  3. マネジメント力
  4. クリティカルシンキング
  5. 交渉力
  6. 品質管理
  7. サービス指向
  8. 判断力と決断力
  9. 傾聴力
  10. 創造性

 

2020年

  1. 複雑な問題解決
  2. クリティカルシンキング
  3. 創造性
  4. マネジメント力
  5. 他者との協同
  6. エモーショナルインテリジェンス(こころの知能指数)
  7. 判断力と決断力
  8. サービス指向
  9. 交渉力
  10. 認知の柔軟性

 

(参照元:Neuro-Link Global「Neuroscience of Learning」)
2015年は創造性は10位でした。しかし、2020年では3位まで上昇しています。この5年で、創造性の重要性が高まっているのです。また、2020年の1位〜3位にランクされているものは、脳の仕組みと非常に関連性の高い能力になっています。

 

脳科学とEQ

2020年6位のエモーショナルインテリジェンスも脳科学の発展により解明されてきた能力です。日本では「EQ」と表記されており、1996年に心理学者のダニエル・ゴールマン氏の著書『EQ こころの知能指数』がベストセラーとなったことで注目されました。一般的に言われている知能指数「IQ」に対し「EQ」は感情と思考をコントロールする情動指数です。

 

最近では、感情が行動を支配していると言われています。長年にわたって、行動を支配するのは論理であり、感情は秩序を乱す邪魔なものと考えられてきました。1980年代になってアントニオ・ダマシオ博士(南カリフォルニア大学Brain and Creativity Institute所長)が、感情に関連する脳の前頭前皮質腹内側部(vm-PFC)に損傷を受けた患者は自分のとった行動を忘れ、他人の感情に無関心になってしまう、ということを発見したのです。これらの患者は、理論や社会的ルールを理解し、将来の計画やビジネス上の決定について知的にスピーチをすることはできても、過去の経験から学んで自ら正しい決定を下したり、現在の行動に生かすことはできなくなっていました。つまり感情が判断や行動を決めているということです。

 

私たちは、生活をする上で様々な決定を下します。その際に指針となるのが過去の経験です。自分のとった行動の結果を、その時に味わった感情から「知恵」と「愚行」に区分して知識として脳の中に蓄え、次に決定を下す際の指針にします。また、行動の結果を予測した時に起きる感情も決定を下す際の指針となります。

 

自分の感情を認識し、上手に向き合うことで、ものごとへの柔軟な対応力が身につき、他者を理解することができます。感情を扱うことは、人生を豊かにするうえで欠かせない能力なのです。企業や学校でもEQ教育が注目され始めています。これからの社会ではEQを育むことが高い人間力を養う上で必須となることでしょう。

 

脳科学で潜在能力を高める

脳科学の世界では、一人ひとりがもつ脳の特性を診断し、潜在的な能力を高めることで自分を活かすことができると考えられています。自分の能力を開発していくためにはまず自分を知ることから始まるということです。脳診断における専門のアセスメントを受けると、脳のパフォーマンス状況、特性、好みといった診断結果が出ます。脳のパフォーマンスでは、右脳と左脳の使われ方、ストレス対応力、ポジティブ思考かネガティブ思考、睡眠、健康、食事といった内容が明らかになります。

 

左脳と右脳に関しても研究が進んでいます。単純に左脳は論理性、右脳は創造性と言われていますが、それだけではないようです。ほとんどの人が両脳を使っていますが、人によって優先的に使う脳が異なります。物事を考えるときに左脳を使って考え始める人と右脳を使って考え始める人がおり、人それぞれより強く働く脳があるのです。本来はバランス良く両脳を使っていくことが理想とされています。両脳を柔軟に使うことによって、より賢く、早く自分の能力を発揮することができます。自分の脳のどちらが支配的なのかを知ることによって、どちらの脳を活性化していく必要があるのかを理解できます。脳の活性化方法には、運動、食事、芸術鑑賞、楽器を弾く、瞑想など様々な方法があるようですので、自分に合った方法を試してみると良いでしょう。

 

ストレスと脳

脳の働きに大きく影響を与える要素のひとつとしてストレスがあります。マイナスの感情をもつと脳神経内のセルとセルの伝達が遮断され、脳の働きが鈍くなります。その結果、悲観的になりモチベーションが下がるといったネガティブな気持ちや行動を促進させてしまうのです。逆に「楽しい」「幸せ」といったポジティブな気持ちをもったり、リラックスすることにより脳内伝達物質が多く放出され、脳がよく働くようになります。ポジティブ思考により生産性が上がっていくのです。学校や職場の環境でも、育成者や上司の発言ひとつで気持ちがネガティブな方向に働いてしまうことがあります。汚い水にスポンジをいれると汚い水に染まってしまうのと一緒で、周囲の環境によりネガティブ強化が進むとより促進されます。ゲームなどで暴力的なコンテンツにさらされている子供は脳にネガティブな影響を受けやすいと言われています。また困難な状況に落ちいったときの対応力も脳に影響を与えます。自分自身で問題に向き合い、建設的な対応をできるようにならなければ、マイナスの影響を受けやすくなります。考え方が変わると感情が変わり、行動、パフォーマンスが変わってきます。子供は特に学びが多い時期ですので、脳に良い刺激を与える学びの環境を増やしてあげましょう。誰かの真似をするのが最もパワフルな学びです。子供が「お父さんのようになりたい! 」といった憧れの人を身近にもつことも良い影響を与えます。学びが必要な環境には心理的に安心し脳がポジティブな影響を受けられる環境が必要なのです。

 

誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

文部教育科学通信No.400 2016.11.28掲載

先月から品川女子学院の高校生を対象に「リーダーシップ講座」を実施しています。リーダーシップとは、自分の言葉や行動、存在を通して、自分以外の人も主体的に動くようにしてしまう影響力のことです。リーダーシップは特別な人のものと思われがちですが、誰にとっても必要な力です。これは大人だから、子どもだからということは関係なく、高校生でも幼稚園児でもリーダーシップを発揮することは可能です。

 

品川女子学院では、このような内容で「リーダーシップ講座」を進めています。

第1回:誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

第2回:自分の強みを活かしたリーダーシップ

第3回:対話、メンタルモデル 第4回:リフレクション

第5回:未来のためのリーダーシップ論・学びの振返り

 

今回は第1回と第2回の内容について触れていきたいと思います。
第1回:誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

 初回はリーダーシップとは何かを知り、自分のリーダーシップを振り返ることを目的に授業を実施しました。

 

まずは、皆さんが憧れる身近なリーダーを具体的にイメージしてもらいました。部活の部長や先輩、校長先生、スティーブ・ジョブス、孫正義、SMAPの中居正広など高校生のイメージするリーダーは多種多様ですが、高校生も自分なりのリーダーのイメージはきちんと持っています。ここで、リーダーシップは誰もが持つ力であり、潜在的な力であることを伝えました。さらに、誰もが持つ力であることの理解を深めるために、「赤ちゃんには、どんなリーダーシップ(影響力)があるでしょうか。」と質問をしました。リーダーシップは影響力であると捉えれば、赤ちゃんにもリーダーシップがあるのです。赤ちゃんには人に「見てるだけで幸せな気持ちになる」「何かしたあげたくなる」といった感情を抱かせます。これもリーダーシップの一つであり、赤ちゃんにもできるのだから自分にもその力があることを気づいてもらいました。

 

リーダーは常に未来に対する意図を持っています。ありたい未来を描き、それを実現したいと思う意図があるのです。その意図が強ければ強いほど、ありたい未来の実現に向けてリーダーシップは向上します。人の言動には必ず意図があります。意図とはどのようなものかを理解してもらうために、このような問いについて考えてもらいました。
問い:どんな意図をもっている?

  • そのアクションにはどのような想いが込められていますか。
  1. 話し合いが煮詰まった時、気分転換を提案する。
  2. お母さんが不機嫌だと解ったら、「お母さんのおいしいご飯が食べたいな」と言ってみる。
  3. みんなのノリが悪い時、自らテンションをあげて頑張る。
  • そんな時、どのようなアクションをとりますか。その意図は。
  1. 友達が悲しんでいる時、どんなアクションをとりますか。その意図は。
  2. みんながやる気をなくした時、どんなアクションをとりますか。その意図は。
  3. お父さんが疲れていると思ったら、どんなアクションをとりますか。その意図は。

 

さらに「どんな時に、誰に対して、身近なリーダーシップ行動をとっていますか。」という問いを投げかけ、自身がリーダーシップを発揮したいと感じるときの意図は何かを考えてみます。この意図を考えることがリーダーシップの始まりです。自分はどのようなときにモチベーションや行動力が上がるのかを知り、その力を原動力にすることが困難と向き合いながら、推進していく根源となるからです。

 

第2回:自分の強みを活かしたリーダーシップ

第1回の未来に対する意図を発展させ、あなたの心を突き動かす動機の源をテーマに実施しました。意図の段階では、まだ自分に対しての理解が漠然としており深掘りできていません。誰のために、どんな役に立ちたいのか、社会にどんな価値を提供したいのかを追求し、自分の判断基準や信念としてありたい未来のために活用できるのが動機の源です。  自分の動機の源を知るために、気になるテーマとそれはなぜか、自分の価値観と紐付けて拾ってもらうことにしました。ここで使用したテーマは、SDGsという国連が提唱する持続可能な開発目標です。SDGには人間、地球及び繁栄のための行動計画に対し、17の目標があります。貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のためのテーマからひとつ、自分の興味があるテーマを選択し、その理由を探ってもらいました。いずれのテーマもこれからの時代を生きる高校生にとっては、避けては通れない、世界共通の課題です。同じものを見ても、人それぞれ興味をもつものは異なります。そこには自分が大切にしている価値観や信念とつながる理由があるからです。自分が興味のある領域と理由を見出し、動機の源とつなげることで、自分が進みたい将来の道やありたい姿も明らかにすることができます。多くの高校生が悩む自分の進む方向性を探すきっかけづくりにもなるのです。 動機の源とリーダーシップ ・人は、複数(たくさん)の動機の源を持っている。人それぞれの個性や専門性が多様なリーダーを存在させ、問題解決の幅が広がる。

・動機の源を知るには、ポジティブ、ネガティブな感情の声に意識を向け、その感情の理由を探る。

・動機の源を記録しリスト化し、モチベーションやビジョンとつなげることで、自分を活かしたリーダーシップを発揮できる

・日々の生活で、意識的に動機の源を活用することで、学習意欲や解決力が高まり、能力が最大化する。

 

現代は、子どもたちが社会の中でリーダーシップを伸ばす機会が減っていると言われています。核家族化や地域との関わりの減少で、異年齢の集団に属したり、多様な背景をもつ人とのふれあいが減っているのです。学校生活の中では、リーダーの不在により、子ども同志でコミュニケーションが上手に取れない、学校行事の推進役不足など影響が出始めています。また集団の中で発生するトラブルの仲裁役がおらず、不登校やいじめにもつながることがあります。子ども達自身が自分たちの遊び場や学び場をより良い環境へと変化させていくことができれば、充実感、満足感の高い豊かな子ども時代をおくることができます。子どもの頃からリーダーの経験を積み重ねることは、社会に出て活躍する良い練習となることでしょう。  リーダーシップは他者をリードし導く印象が強いですが、自分に対するセルフリーダーシップの意味合いも含まれています。自分の個性や能力を活かしながら、これからの人生を切り開いていくためにも、自分自身をリードしていくことが必要です。このためには様々な体験の中から自己肯定感を高め、「自分はできる」と自信を持たせることです。また、新しい体験の中では、異なる考え方の友達と話をしたり、ロールモデルとなる先輩や大人と触れ合う機会も増えるでしょう。その中から自分は何者なのか、どんな強みや弱みを持っているのか、自分を知る機会を得ることにもなります。

様々な体験の中には、失敗をしたり、挫折を味わうこともあるでしょう。「失敗したらどうしよう」「失敗したら恥ずかしい」といった気持ちが先行してしまうとせっかくの成長の機会を逃してしまうことになります。このように子どもが困難にぶつかったときには大人の適切なサポートが必要になります。何よりも失敗をしたことを怒らないことです。まずは挑戦したことを褒めてあげましょう。その上で「なぜ失敗をしたのか」「次はどうすれば良いのか」を子どもが考えるサポートをしてあげましょう。その時、大人が答えを与えてはいけません。子ども自身で考え、持論を持つことで主体性が育まれます。

「失敗は誰にでもある。乗り越えることが大切なんだ」ということを子どもが理解すれば、いろいろとなことに興味を持ち、挑戦する行動力が芽生えることでしょう。こういった日々の積み重ねがリーダーシップを育むのです。

 

 

幼児期からはじめるシチズンシップ教育 ~神奈川県箱根町でのピースフルスクールの実践~

文部科学教育通信No.398 2016.10.24掲載

平成27年度より神奈川県箱根町の幼稚園・保育園・認定こども園計5園でシチズンシップ教育ピースフルスクールプログラムの導入が開始しました。

今回は、ピースフルスクールのような子どもたちの心を育てるシチズンシップ教育プログラムが幼児期の子どもになぜ必要なのかをご説明し、箱根町での取り組みをご紹介いたします。

ぜひ、未就学児の姿だけでなく、彼らが小学生、中学生、高校生、大人になった時のことを想像しながら読んでいただけると幸いです。

 ピースフルスクールプログラムとは

子どもたちの主体性を伸ばし、共生社会を実現する力を磨く幼児・小学生を対象としたシチズンシップ教育プログラムです。多様化する社会において、子どもたちが主体的に共生社会に参画し貢献する大人に成長することを願って開発されました。

子どもたちは、レッスンと日常での実践を通して、多様な人々が共生する社会を実現するために必要なマインドと行動を身につけます。プログラムを通して、対立を話し合いによって子どもたち自身で解決することや、建設的な議論をして合意形成すること、自分とは異なる他者を尊重し共生すること等を小さなステップで学んでいきます。レッスンでの学びを学校生活の中で起きる他者とのトラブルに活かし、問題解決に取り組みます。このため、プログラム導入により、けんかやいじめのトラブルは減少し、子どもたちは安心して学校生活を送ることが可能になります。
また、お友達と一緒に問題を解決し、よりよい学級創りに貢献した経験を積むことで、子どもたちの自己肯定感や効力感が高まります。
このように、子どもたちはプログラムを通して「みんなが幸せになるために一人ひとりにできること」を学びます。具体的には、以下の項目に集約されます。

  1. 自分を幸せにすること
  2. 家族やお友達を幸せにすること
  3. みんなが幸せになるコミュニティづくりに参加すること

教育の役割の増大

家庭や社会が多様化している中で、子どもたちが育つ環境も大きく変化しています。心を育む機会やコミュニティでの生き方を学ぶ機会が子どもによって担保されないことがあります。教育の機会が得られないまま、子どもたちは経験を通して、裏切られ、傷つき、平和の実現や善く生きることを諦め、時には怒りや悲しみから平和を破壊するエネルギーを高めてしまうこともあります。

そのため、教育の役割に、「話す・聴く」といったコミュニケーションの基礎や、感情を認識し言葉で伝えること、怒りの感情をコントロールすること、多様な人を尊重し共生するための方法、問題が起きた時にどう解決するのかといった知識を得ることが求められるようになりました。
ピースフルスクールプログラムを幼児期から実施することで、平和を好み、善く生きようとする子どもたちの心が育つので、理想を諦めず、平和を守る人・善く生きる人に成長する確率が高まります。

 子どもたちの知っていることと知らないこと

園で、「いやな時は”いやだ、やめて”と言おう」というレッスンを行いました。トラとサルのパペットを使い、サルがお絵かきをしている時にトラがサルのクレヨンを奪ってしまうというシチュエーションの劇を演じます。

子どもたちに、こんな時どうしたらいいのかを尋ねたところ、多くの子どもが「謝ればいいんだよ」と答えてくれました。子どもたちは、お友達を傷つけるのはよくないこと、よくないことをした時は謝るということは既に知っています。

しかし、「嫌なことをされたサルは、”いやだから、やめて”とトラに言えばいいんだよ」と答える子どもはいませんでした。この実践から、子どもたちがお友達に「いやだ、やめて」と言うことに慣れていないことがわかります。

幼児期の間であれば、お友達から嫌なことをされても先生に助けを求めることができます。「先生、Aくんに嫌なことをされたの」「先生、BちゃんとCちゃんから仲間はずれにされた」という風に先生に報告し、助けを求めることは園の生活でよくあることです。

このように、嫌なことをされた時にその気持ちを伝える経験を積まないまま大きくなると、いつか先生に助けを求められなくなった時に、嫌な気持ちを抱えたまま我慢することになります。先生に助けを求めると、けんかやいじめが悪化してしまうからです。

また、からかい(おふざけ)からいじめに発展することもあります。それを防ぐためには、コミュニティに約束が必要です。

・楽しくない、いやだと感じた時に、自分の気持ちに気付いて「いやだ、やめて」と相手に伝えること

・どんなに楽しくても、お友達が「いやだ、やめて」と言った時は止めること

この二点をコミュニティ(この場合、園全体やクラス)の約束事とし、日常で実践することで、自分の限界を知り自分を守る力、相手の気持ちに気付き共感する力を磨くことができます。このような経験を幼児期から積むことで、お友達とのトラブルが増える年代になった時に、自分たちでどうしたら良いのかを考え、行動することができるのです。

 幼児のころから共に生きる善い経験を積む

幼児のころから、自分の心の声と相手の心の声を聴き、誰もが心地よい状態をみんなでつくるために行動する経験は、生涯の財産になります。

また、子どもたちが主体的に学び、積極的に他者と関わるためには、安心できる環境と心の繋がりが必要です。子どもたちが「こんなことを言ったら、誰かに悪口を言われるかもしれない」「目立ってしまったら、批判されるかもしれない」といった不安や過度の緊張感を持つような環境では、子どもたちの主体性を育むことはできません。

複雑で解決することが難しい問題が起きる前に、幼児のころから子どもたちの心を育て、共に生きる善い経験を積むことで、コミュニティがより安心安全な環境となり、より主体的に活動できるようになります。

箱根町の園では、月に二回ピースフルスクールプログラムのレッスンを実施しています。上記の「いやな時は”いやだ、やめて”と言おう」のレッスン以外にも、「ほめ言葉とけなし言葉」や「自分の気持ちを言葉で表現しよう」「相手のためになる助け方をしよう」「怒りの気持ちをコントロールしよう」「対立した時の助け方」などのレッスンと日常での実践を行い、多様な人々が共生する社会を実現するために必要なマインドと行動を身につけています。今は幼児である子どもたちが小学生、中高生、社会人になった時に、この学びがより活かせるようになることを願っています。

組織の気づきや学びを高めるリーダーシップ(後)

文部科学教育通信No.398 2016.10.24掲載

リーダーの大きな役割のひとつとして他者の「育成」があります。リーダー自身がリーダーシップを発揮することはもちろんですが、リーダーシップを発揮してくれる他者を育て、次世代のリーダーが生まれることで組織は強くなります。他者の育成においてリーダーが行うことのひとつにフィードバックがあります。組織のメンバーを成長させたいと思うのであれば、”気づきを与える”適切なフィードバックは欠かせない育成の手法です。フィードバックは現状とありたい姿のギャップを伝えることで、相手の気づきや学びを引き出すことです。これにより私たちは考えや行動を改善し、モチベーションや自信をもって次の行動に取り組むことができます。

ストレートで適切なフィードバック

フィードバックは目的を達成し、善い組織や未来をつくるために欠かせない要素です。リーダーがフィードバックをする前提として心構えがあります。それは、相手の無限の可能性を信じるということです。最初から、「この人には無理かも。」「面倒だな、厄介だな。」という気持ちで相手と関わっても結果は出ません。自分の考えを決めつけたままで思考停止していては、相手の真の気持ちや行動を捉えることができませんし、相手からの信用を得ることもできません。いつまでたっても行動が変わらず「なぜ変わらないんだ」と不満や怒りをもったままです。

適切なフィードバックを行うためには、観察や対話を通して、フィードバックをする相手のデータを収集しておくことも重要です。

結果:あるべき姿に対して、どのような結果なのか。

行動:どのような行動を取っているか。

 思考、感情:何を考えて、どのような気持ちなのか。

 スキル、能力:どのようなスキル、能力を持っているのか。

 傾向、パターン:どのような傾向やパターンが見受けられるか。

フィードバックに対して誤解している人も多くいます。よくある事例として、「よく頑張ったね」「よかったよ」などの曖昧なフィードバックです。これでは何に対して頑張ったのか、何を強化すれば良いのか抽象的で次の行動に活かす再現性がありません。フィードバックで重要な点は、行動と結果の関係が明らかになることです。そのために、前述のデータ収集が必要になります。事前の観察や対話ができていないと、フィードバックを行うリーダー自身が相手の何を振り返り、伝えれば良いのか曖昧になってしまいます。行動と結果の関係が明らかになり認識できると、行動の何を変えることで(理想の行動)、望んでいる結果を出せるのか、その答えを見出すことができます。これをトリプルフィードバックと言います。トリプルフィードバックで明らかにする要素はこの3点です。

行動を変えるトリプルフィードバック

①実際の行動

②その結果

③理想の行動

行動による結果を、具体的に伝えることがフィードバックの本来の意義なのです。

 フィードバックの基本的な流れ

トリプルフィードバックを踏まえた、フィードバックの基本的な流れを見てみましょう。

  1. 話し合うテーマを共有する
  2. 本人の自己認識(良い点・改善点)を共有する
  3. 本人の自己認識を育成者の言葉で要約し認識の共有を確認する
  4. トリプルフィードバックで良い点を伝える
  5. トリプルフィードバックで改善点を伝える
  6. フィードバックに対するリフレクションと相互理解の対話を持つ
  7. 合意したことを整理する
  8. アクションプランを構築する
  9. 期待値に対する相互理解を確認する
  10. フォローアップスケジュールを決める
  11. 謝辞を述べて終了する

④と⑤にトリプルフィードバックが出てきますが、トリプルフィードバックは改善点を伝えるだけでなく、良い点を伝えるときにも使えます。その際、先に良い点を伝えるようにしましょう。褒めるだけでは人は育ちませんが、褒めないと人は育ちません。褒めることによって信頼関係が生まれ、フィードバックを聞いてもらえるようになるからです。普段から、オープンな状態で話ができるコミュニケーションの土台づくりを行っておくことが重要です。その一つの方法として相手を褒めるということがあります。褒められて嫌な気分になる人はいません。相手は褒めてくれたあなたに対して「自分を理解してくれる人だ」と信頼感を寄せることになります。通常のフィードバックは相手の失敗や不足している点に対して行うため、ネガティブな要素が強くなってしまいます。しかし、日頃からしっかりと信頼関係ができていれば、ストレートな発言を伝えても相手は冷静に受け入れることができます。

⑥に「リフレクションと相互理解の対話を持つ」とあります。リフレクションとは前例を踏襲する(状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する)だけでなく変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動くために必要な力です。リフレクションは自分の気づきや能力を高める非常に重要な要素ですが、そこに他者が入り、フィードバックをもらうことで、より効果を高めることができます。自分一人では自覚できない曖昧なことへの認識が高まり、他者の意見を取り入れることで新しい発想が生まれます。相手のリフレクションを促すにはいくつかポイントがあります。リーダーは経験が豊富なため自分の意見を主張し指導してしまいがちです。しかし、それでは相手は自分で考えることをやめてしまいます。リーダーは自分の意見を出さずに、質問と反映を繰り返しながら、相手の顕在化している意見や課題の背景にある潜在的な意識を探求してください。

反映

話し手の言葉と気持ちを聴き取り、聞き手がその内容を話し手に伝えること。「○○なのですね。」「○○という気持ちなのですね。」

質問

YES、NOで答えられるクローズ質問よりも、自由に答えを考えられるオープン質問の方が思考を刺激する。

顕在化していることよりも、その奥にある潜在的な部分に本当の課題が潜んでいる可能性があります。答えを渡すのではなく、本人が深く考え、気づきを得ることが重要です。解決策を決めていく上で、アドバイスをあまり具体的にしてしまうと主体性を阻害することになってしまいます。解決策を与えると課題に取り組むモチベーションを上げる機会を逃し、アドバイス通りに課題に取り組んで上手く行かなかったら、他者のせいにできてしまうのです。答えを渡していると、相手が自立的に問題解決することができません。長期的にはリーダーの助けを最小限として一人でリフレクションし成長することがゴールです。

⑧でアクションプランを構築する、⑨期待値に関してもできるだけ本人に計画を立ててもらうようにしましょう。アクションプラン構築時には目標を明確に定義します。そのためにSMARTゴールのフレームワークを活用することができます。

  • Specific【具体的】
    ゴールが具体的に表現されている
  • Measurable【測定可能】
    ゴールの達成が、測定可能である
  • Achievable【実現性】
    チャレンジングなゴールであるとともに、実現可能である
  •  Relevant 【企業・組織目標との整合性】
    企業や組織の目標と整合性が明らかである
  • Time-bound【スケジュール】
    期限が明確である目標に対する理解を一致させるためにはSMARTゴールを意識してみましょう。

フィードバックを一度すれば終わりということではなく、⑪フォローアップスケジュールを決め、進捗確認を継続していきましょう。フィードバックの時間が終わっても相手を観察し、必要に応じで適切に介入していくことが重要です。

組織の気づきや学びを高めるリーダーシップ(前)

文部教育科学通信 No.397 2016.10.10掲載

リーダーシップとはリーダー的立場の人だけが備えるべきものではありません。リーダーシップが特別な能力だと勘違いされることが多いのですが、リーダーとメンバーは役割の違いであり、能力の違いではありません。メンバーであってもリーダーシップは必要なのです。メンバーでもリーダーシップが求められる理由は何でしょうか。これからの時代の価値創造は、スピードや正確性だけではなく、個々の能力を活かし多様な人たちの掛け算で生まれる創造性が鍵となるためです。そのためには、個人が自律し主体的であることが求められます。リーダーの指示を待つのではなく、自ら考え行動していくことそのものがリーダーシップのはじまりなのです。

リーダーシップとマネジメントの違い

 よく混同されるのがリーダーシップとマネジメントの能力です。マネジメントとは、目標を実現するために、資源配分を行い計画を策定すること、また作成した計画に基づきPDCAサイクルを管理する力を指します。一方、リーダーシップとは自分の言葉や行動、存在を通して、自分以外の人も主体的に動くようにしてしまう影響力のことを言います。つまり、自分自身がリーダーであるとともに、周囲の人もリーダーにしてしまうということです。

リーダーシップに対しての誤解

 1930年代は、リーダーシップと高い相関関係のある特性として、想像力、人気、社交性、判断力、説得力、優越力、ユーモア、協調性、活発性、運動能力などが挙げられていました。リーダーは生まれ持ったもの、能力のある人だけのものという認識があったのです。しかし、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは「リーダーシップは、学べる時代になった。」と語り、今までの概念を覆しました。ドラッカーはまた「リーダーシップに適した性格、スタイル特性などは存在しない。優秀なリーダーたちに共通な特徴は、カリスマ性を持っていないことだ。」とリーダーシップについて言及しています。リーダー像もひとつではなく、一人ひとりの個性を土台に、人の数だけ存在して良いのです。誰かの真似をしても、理想のリーダーにはなれません。自らを知り、自分らしいリーダーシップを構築していくものなのです。これからはチームの時代となりました。リーダーは一人で良いというわけではありません。個性を活かすリーダーシップを、全員が発揮することで、最強のチームをつくることが可能となります。

チームのはじまり

 それでは、リーダーして良いチームをつくるために、どうすれば良いでしょうか。チームづくりにもまずは準備が必要になります。チームメンバー一人ひとりの心の中にあるビジョンを共有することから始めましょう。個人のビジョンから対話を通して、チームのビジョンを創造します。このとき個人のビジョンとチームのビジョンがつながっていることが重要です。この対話を繰り返し、チームで共有することは簡単なことではありませんが、重要なプロセスです。個人とチームのビジョンがつながることで、チームのビジョンが一人ひとりの心の中に存在し、実現したい願う強固なビジョンとなります。これを共有ビジョンと言います。共有ビジョンを創造する際に大切な問いがこちらです。

  1. あなたは何を実現したいのか?(ビジョン)
  2. 何を大切にする仲間なのか?(価値観)
  3. 私たちは、何のために存在するのか?(ミッション)

どれだけメンバーの心を動かし、行動を引き出すことができるかが共有ビジョンの良し悪しを決めます。大きな変化を創り出したいときや、困難が大きいときなどは、評価や対価だけで人動かすことができません。チームに根付いた共有ビジョンが、原動力となり目標達成に向け、人は動き出すのです。

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文化をつくる

 多くの組織で独自の文化が存在し、そこにいる人々の行動や価値観に影響を与えています。この組織文化こそが、望む結果や未来を得るために重要な基盤となります。組織文化を創るには、ある程度長い期間が必要になりますが、ここでも鍵を握るのがリーダーの存在です。リーダーの一貫性のある言動が、仲間に浸透することで、文化となるのです。一貫性のある言動と一言に言っても、その階層は多岐に渡ります。根底にある信念や価値観、それに紐づく感情、思考、態度、行動すべてにおいて一貫性が求められます。これは容易なことではありません。例えば、いくら素晴らしい信念や価値観を語っても、行動が伴わない人は誰も信用しません。リーダーはロールモデルとなるために、自らを冷静に客観視し、振り返る必要があります。

チームビルディング

 チームは、以下のような流れを経て成長していきます。

  1. 信頼関係の確立
    お互いの信頼関係ができている
  2. 自然な対立の発生
    メンバーの意見に対して自然な対立が起こる。
  3. コミットする姿勢
    メンバーは決定事項や行動計画に対してコミットする姿勢ができている。
  4. 実行に対する責任感
    一人ひとりが計画の実行に対して責任を負っている。
  5. 結果の達成
    チーム全体の結果の達成に注意が払われる。

(引用:The Five DYSFUNCTIONS of a TEAM Patrick Lencioni

 まずは信頼関係の構築がベースとなります。チームのメンバーがお互いの弱点や失敗に対して、心からオープンになれなければ、信頼関係は築けません。メンバー一人ひとりが周囲の人に対して、素の自分を見せることができる状態であり、周囲の人に受け入れてもらえる安心感が信頼につながります。信頼を欠いたチームでは、自分の意見を出せず、チームの決定にコミットすることも難しくなるでしょう。

 複数の人が集まれば、自然な対立が起こります。対立と言うとネガティブな印象がありますが、決して悪いことではありません。対立が起こることで問題が顕在化し、変化や改善へのきっかけとなるのです。対立することへの恐怖を克服し、受け入れることが重要です。率直に意見交換をし、価値観ベースで対話を行えば、対立を乗り越え、新たな発想が生まれます。これが一人では生まれないチームであることの効果となります。

 前述した共有ビジョンがしっかりと握れていれば、コミットする姿勢や責任感も増していくことでしょう。ただし、最初に握れば後は放置しても良いということはなく、メンバーの状況を常に観察し、支援していくことが重要です。

保存

セルフリーダーシップを磨く

文部科学教育通信 No.396 2016.09.26掲載

現代は情報に溢れ、仕事や日常生活での判断の数が急速に増えています。常に脳がフル回転しており、注意が散漫になっている状態が続いています。心身ともに疲れ果てているという方も多いのではないでしょうか。このような時代に見直されているのが、落ち着いた状態を取り戻し、今の自分に注意を向ける認知の力です。メタ認知とも言われ、頭の中のもう一人の自分が自分を客観視して、コントロールできる能力を指します。現在、Googleで開発され世界のあらゆる企業で広まっている「マインドフルネス」もこの認知の力を活用したものです。

先日、日本でマインドフルネスを広める一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)とイベントを開催しました。

マインドフルネスとは、「今この瞬間に、完全な注意を向けた状態」です。今、周囲で起きていること、自分に生じている感情や思考、身体的な感覚などに目を向けることを指します。

一方、マインドフルネスでない状態とは、注意が「今」からそれ、散漫になることです。そのことに気づかず、起きることすべてに反応し、特定のことに執着して全体が見えないことを指します。例えば、あれやこれやと物思いにふけっていたり、血眼になって頑張っていたり、感情的に行動している状態です。また、湧いてくる考えや感情を抑え込んでいることもマインドフルネスとは言えません。

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私達が広める企業向けプログラム「OS21」でも、マインドフルネスと共通する「認知」の力を重要としています。ここでポイントになるのが感情です。忙しい日々の中では、感情が動く場面に遭遇することが多々あると思います。しかし、私達は自分の感情の変化を立ち止まって認知し、受け止めることをしないまま過ごしています。自分の感情をきちんと受け止め、評価判断を保留にしていくことが要となります。日本では感情について語る機会が少なく疎かにされがちです。しかし、人の言動はすべて感情に紐付いています。様々な状況の中で困難を乗り越え、他者と協同していくために、この感情のコントロールが欠かせないのです。

当日は認知や感情の扱いを中心に、このような流れで進みました。

気づく力と制御する力
マインドフルネスを養うために、訓練として瞑想を取り入れることが多くあります。心が「今」という瞬間を意識し、評価判断を挟まない気づきの状態になるのです。プロセスとしては、自分の呼吸に注意を向けることから始めます。呼吸に集中しているうちに、注意がそれて雑念がわいてきます。注意がそれたことに気づき、また呼吸に注意を戻すといったサイクルを回します。この時に雑念がわいてしまってはいけないと無理に考える必要はありません。違うことを考えてしまっても、また自然と呼吸に意識を戻し、評価判断をしないことが大切です。瞑想を通じて、「メタ注意」の力を養います。「メタ注意」とは一般的な「注意」に対し、注意自体への注意、注意がそれたことを知る能力を言います。自己の内面の状態をメタ注意することで、はじめて制御ができるのです。ここでは、自己制御のメカニズムを学びました。

認知と動機の源
私達は知らず知らずのうちに認知をして物事を捉えています。過去の経験、価値観、そこに紐づく感情により形成されるものの見方です。ここでは認知の力を使いペアを組んでお互いの内面を探求するワークを行いました。嬉しい時、モチベーションが高い時、悔しい時、怒っていた時など感情の記憶と結びつく出来事や、人生に大きな影響を与えた出来事を思い出してもらい、そこから自分の大切にしている価値観や信念を見つけていきます。これが、人それぞれが異なって持っている動機の源です。自己の内面を探ることで、自分がどのようなときに能力が最大化し、生き生きと行動することができるのか、自分の活かし方も見えてきます。

マインドフルカンバセーション
聴き手、話し手として、マインドフルネスをコミュニケーションに応用する〝マインドフルリスニング〟”マインドフルトーキング”の練習です。ペアを組み、話し手が話をし、聴き手は瞑想の呼吸のように相手に注意を向けて聴きます。意見や感想などは返しません。話が止まって沈黙が訪れたら、その〝気まずさ〟にも注意を向けながら反応せずに実践をつづけます。このようにすぐに評価判断をせず、なぜ自分や他者がそう思うのか受容し合うことが真の対話につながるのです。

つながる力と多様性
合わない人と仕事をするとき、無関心な人、我慢できない人、制御する人と人によって対応は様々です。マインドフルネスや認知の力が高まると、自分や相手に対し寛容になっていくことが実感できます。ネガティブな感情に気づいて、セルフマネジメントすることができ、異質なものにあったとき感情の制御が働くのです。自分や他者の内面を知ると同時に、人それぞれが違って当たり前なことに気づきます。これが、多様性を受け入れるということにつながっていくのです。

リフレクション
ここまでの力を統合すると、経験を振り返り自分の学びを高めることができます。出来事や他者、環境ではなく、自己の行動や内面を振り返ることが可能になります。この自己の振り返りが、一番の学びとなり、次のアクションに応用ができるのです。つまり望む結果を得る最善の方法を手に入れることができます。今回のイベントでは、リフレクションのサイクルに基づき、イベントでの経験を自分のものとして活かす方法を体験していただきました。

今回のイベントで行ったような内容を習慣的に続けることによって、様々な効果が実感できるようになります。まず、心の落ち着きが得られやすくなります。すると、様々な仕事や考え事がある中でも集中力が高まり、生産性があがります。緊張をともなう場面でも、自分の不安を制御し、普段の自分の力を出し切る状態をつくることができます。他者とのコミュニケーションにおいても、即座に感情で判断することが減り、相手への共感力が高まることでしょう。お互いの信頼関係も築きやすくなるはずです。

こうした自己認識力、自己管理能力はセルフリーダーシップにつながります。リーダーシップというと他者率いて統括するイメージがありますが、自分自身をリードするという考え方です。今の社会は、仕事や解決すべき問題が高度となり、一人のリーダーが道を示し、メンバーがその通りに動くだけでは機能しなくなっています。一人ひとりが自ら考え、行動する力がより求められているのです。そのためには、まず自分の考えや行動をきちんと認知し、マインドフルネスな状態になることから始まるのです。

自立と共生の力を伸ばすシチズンシップ教育 ~ピースフルスクールプログラム実践報告会より~

文部科学教育通信No.395 2016.09.12掲載

ピースフルスクールプログラムとは、子どもたちが園や学校という「社会に出る前にチャレンジできる場所」で、主体性を伸ばし、共生社会を実現する力をみがくシチズンシップ教育プログラムです。

多様化する社会において、子どもたちが無力感や孤独感、不安感に押しつぶされる前に、

「問題が起きても、自分たちで解決できるから、大丈夫!」

「誰かと違っていても、お互いの個性を尊重して活かすことができるから、安心!」

という気持ちで日々を過ごし、自分たちの力で安心安全な環境をつくることのできる人へと成長してくれることを願い、オランダで開発されました。現在オランダでは800校以上に導入されています。

2013年度より日本でのプログラム開発をスタートし、2014年度に佐賀県武雄市の小学校、2015年度に神奈川県箱根町の幼稚園・保育園・子ども園全5園に導入しています。

2016年8月20日に実践報告会を兼ねた公開イベントを開催しました。保育園や幼稚園、小学校の先生をはじめ、教育委員会や民間企業、保護者など、様々な立場の方にご参加いただきました。今回は、このイベントでの発表内容の一部をご紹介いたします。

日本に必要な理由

2011年にオランダのピースフルスクールを訪問した際、子どもたち自身で自らのコミュニティを安心で安全なものにしている姿を目の当たりにし、日本の子どもにもこの学びが必要だと感じました。

その理由の一つに、いじめの問題があります。いじめは、被害者と加害者・加担者だけの問題ではありません。いじめを見て見ぬふりする傍観者こそが集団圧力となっていじめを支える原因となっているのです。本来であれば、いじめに気付いた人がその解決のお手伝いをすることが望ましいですが、そのような行動をとると自分がいじめの標的になってしまう恐れがあるので、傍観者でいる選択をする子どもたちが多いです。

日本にプログラムを展開しようとしていた2013年当時、「全国生徒会サミット2013 いじめ撲滅宣言」という北海道から沖縄まで、全国から43校の中学校生徒会の代表が集まり、いじめ問題の解決について話し合うイベントが開催されました。日本全国でいじめの問題が起きていて、誰もがその問題に困っていることがわかりました。

その当時、中学・高校でピースフルスクールの話をする機会があり、「いじめを話し合いで解決する」というテーマで行ったワークショップを通してわかったことは、「いじめは良くないと頭でわかっていても、解決のために行動を起こせる人はほぼいない」ということでした。いじめのある状態を望む人はいないのですが、解決しようとするマインドもスキルも身についていないことが明らかとなり、オランダのピースフルスクール導入校の子どもたちは、けんかやいじめといった問題を自分たちで話し合って解決していることを知っていたため、日本にもこの学びが必要だと確信しました。

二つ目は、世間一般で優秀とされる学生の現状に危機感を覚えたことです。2010年頃から教育系NPOで活動する学生の研修を担当してきました。21世紀という複雑な時代を生きる彼らは、多様な人々と話し合い、刺激し合い、新しいアイディアや知恵を創造する共創力が求められているにも関わらず、みんなで考えるよりも一人の頭で考える方が得意であったり、コミュニケーションにおいて対立を回避しようとしたり、話し合いでは主張しないで合意に導くか、一人で決めようとするかいずれかのパターンが多いことに気付きました。

ピースフルスクールでは、一人ひとり自分の意見を持つことを大切にしていて、意見が対立することは当たり前であるという共通認識を持っています。対立した時にけんかやいじめに発展させたり、相手の言いなりになるのではなく、話し合いで解決することが必要であるというマインドとスキルを4歳の頃から少しずつ身につけているのです。そのため、多様な人と協働し、何かを生み出すことが得意です。

日本の学生と話していて、彼らはオランダのピースフルスクール導入校の子どもが学んでいることを学ぶ機会さえもなかったこと、「対立は良くない」という価値観が染みついていることに気が付き、日本にもこの学びを届けることにしました。

特徴的な学び

ピースフルスクールプログラムには、4つの特徴的な学びがあります。

  1. 自分の意見を持つ責任がある
    コミュニティに所属しているということは、自分の意見を持つ責任があるということを学びます。例え「わからない」であっても、自分の頭で考えて、意見を持たなくてはならない。このことをコミュニティの共通理解としています。
  2. 対立は悪くない
    民主的な社会とは、多様な意見が存在する社会です。そのため、対立することが前提となります。対立は起きて当たり前、起きても話し合って解決できるということを知っているので、対立を必要以上に恐れることはありません。
  3. コミュニティには共感がある
    子どもたちは、感情に関することを丁寧に学んでいます。自分の感情を認識すること、感情を言葉で伝えること(伝えないとわからないこともあるため)、相手の感情に耳を傾けることを日々経験し、共感力を高めています。そうすることで、子どもたち自身で安心安全な環境をつくることができるのです。
  4. 問題解決に取り組む
    子どもたちは、問題が起きることは仕方のないことだが、その問題を放置したり、さらに悪化させることはいけないことだという共通認識を持っています。お友達とけんかした時は話し合って解決する。クラスや学校の課題を話し合って解決する。このマインドとスキルを身につけていきます。

日本での実践

2014年度より佐賀県武雄市の小学校、2015年度に神奈川県箱根町の幼稚園・保育園・子ども園全5園にプログラムを導入し、現在も子どもと大人が一緒にプログラムを学び続けています。

園や小学校での導入のねらいは、「同調圧力に負けず、自分の意見を伝え、意見が対立した時は話し合いでよりよい答えを導き出す力を身につけること」「幼少期から心が繋がるよい経験、共に生きるよい経験を積むこと」です。

現在は、先生をはじめとする子どもと関わる大人がプログラムを学び、子どもたちにレッスンを実施して学びを届け、学んだことを日常で使えるようサポートすることを続けています。2年半の活動を通して以下のことがわかりました。

  • ピースフルスクールプログラムは、「実際にできるようになること」を目的としている
  • クラスで対立が起こった時に、話し合って問題を解決しようとする姿が見られる
  • 授業や日常生活において、自分の意見を伝えることができるようになっていて、自分とは異なる意見であっても、相手の話に耳を傾け、理解しようと努める姿が見られる
  • プログラム実施前は「意見が違う人とは仲良くできない」「理解し合えない」と思っていた児童が、プログラム導入後は、「意見が違っても友達でいられる」「対立は意見の違いから生じるものだから、怖がらなくて大丈夫」と考えるようになっている
  • アクティブ・ラーニングなど、話し合いによる学び合いの基礎として必要な力を身につけられること

ピースフルスクールプログラムの学びを園や学校の文化とし、コミュニティに関わる人全員の共通認識とするまで時間はかかりますが、いい兆しは見られていると思います。

2030年の企業、社会、人のあり方(その1)

文部科学教育通信No.391 2016.07.11掲載

未来の社会、未来に人、未来の教育のあり方の3つの視点で教育のビジョンを語れる社会を創るために、未来の企業、社会、人のあり方について考えました。今回は、2回シリーズで、その結果、明らかになった4つの異なる世界をご紹介したいと思います。

2030年の企業、社会、人のあり方に関する4つの異なる世界

未来に影響を及ぼす要因に関して、6つ領域の膨大なトピック(日本の人口減少、グローバル化、資源危機リスク、自然災害リスク、AIやロボットなどテクノロジーの進化等)から「確実なこと」は共通とし、「不確実かつインパクトが大きい要素」の組合せ方によって、2030年に起こりうる4つの世界を想像し、シナリオを描きました。これらのシナリオは「未来予測の正しい答え」を示しているのではなく、「未来をどう創っていくか」の問いです。

2030年 確実に/ほぼ確実に起こること

日本の人口減少、3人に1人が6歳以上の高齢者。
アジア、アフリカを中心とする世界の人口の増大と、都市部への集中。
グローバル化・国境を越えた経済活動の拡大と日本の存在感の低下。
資源危機リスク、食糧危機リスク、自然災害リスク、国際政治不安・テロリズム、金融危機の存在。
AI(人口知能)やロボットなどのテクノロジーの進化と職業の変容。
価値観の変化、ミネリアル世代の台頭。

不確実かつインパクトが大きい要素

企業経営のものさしが画一か、多様化か。
働き方が画一か、多様か。終身雇用や年功序列型賃金等の日本的雇用慣行が継続するか否か。

今回は、4つの異なるシナリオのうち、企業経営のものさしが画一である場合の2つのシナリオについてご紹介したいと思います。

5.png■ 高齢化社会と「20世紀型労働」神話の維持

安定的な雇用へのニーズは根強く、転職や起業を積極的に志向する人は少なく、ジョブ型雇用や兼業(副職)、リモートワークやワークシェアリングといった自由な働き方を求める声は小さい。

■「五輪ロス」と日本企業の構造的弱体化

企業においては、株主と短期的収益を重視するものさしが中心的に機能。短期視点での経営に偏っていた企業は「五輪ロス」により経営難に陥っている。一方で、 解雇規制が厳しく、リストラも限界。社員平均年齢は高くなるばかりだ。

■ イノベーション後進国・日本の「失われた半世紀」

働き方の自由・多様性・テクノロジーなど土壌づくりの面で立ち遅れた日本は、 イノベーション後進国に転落している。

■「三すくみ」の社会

一方、政府は、年金支払い費用・医療費で毎年巨額の財政赤字。政府・企業・市民の各セクターがビジョンを共有しないまま、自己の行動を最適化しようとした結果、「三すくみ」 状態によって構造改革が阻害されている。

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【2030年シナリオ② 個の台頭シナリオ ~大格差の発生とニッチの台頭~】

■ テクノロジーによる「働き方のシフト」と「消える職業」

個人が時代の変化をリードする社会。「テクノロジーの発達」が個人の働き方をエンパワーメントし、働き方の多様化が拡がる。常にライフスタイルを更新しようという志向があるミレニアル世代の影響力も大きくなっている 。一方で、ロボット技術やAI技術で代替され消える職業も。

■ オープンで柔軟な雇用制度・人事制度

企業も、女性、シニア、中途採用、ジョブ型雇用等多様性ある人材を活用。また、解雇の規制も緩和され、成長分野への柔軟な人材配置が進む。

■ “近視眼的”経営と個人起点イノベーション

企業の長期視点やサステナビリティへの志向は薄く、短期的収益・株主志向。イノベーションを生み出すのはテクノロジーを駆使した個人である。

■ “電気羊が人間を喰い殺す” 大格差の時代

「就労格差」が増大し、個人の力の差がより顕著に表れる弱肉強食の時代。また、財政負担は増大、格差の拡大と社会保障制度危機が時代の一大テーマとなっている。

次回は、企業経営のものさしが多様な世界における2つのシナリオをご紹介します。

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未来教育会議の短い歴史

文部科学教育通信No.390 2016.06.27掲載

3年前に発足し活動を続けている未来教育会議は、昨年の活動を通して創り上げた「2030年の未来の社会・企業のシナリオ」を、6月12日に発表しました。シナリオは、未来教育会議のHPからもダウンロードしていただけます。ぜひ、教育に関わる多くの方々にも、ご覧頂きたいと思います。

未来教育会議は、なぜ、「2030年の未来の社会・企業のシナリオ」を描いたのか、どのように活用したいと考えているのかを、未来教育会議の短い歴史を振り返りながらご説明したいと思います。

未来教育会議の立ち上げ

未来教育会議は、2013年に、オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを開発したレオ.パオ氏と、奥様でビジネスパートナーであるカオリン氏の来日がきっかけで生まれた団体です。教育の未来を社会と共に創りあげているオランダの事例に勇気付けられ、ワークショップに参加してくれた3人の知人と共に、約1年の議論を経て未来教育会議を立ち上げることになりました。その後メンバーも増え、実行委員会のメンバーは7名になりました。

その際に、ヒントとなったのは2010年から2012年にかけて取り組んでいた「教育の未来を創るワークショップ」で積み重ねた議論でした。ワークショップでは、延べ200人を超える人々と教育の未来について考え、話し合いを行ってきました。話し合いには、文科省、教育委員会、校長先生、先生、NPO等の教育団体、民間教育事業者、保護者、学生と多様な人々にご参加いただき、マルチステイクホルダーで話し合うことを大事にしました。その結果、教育がよい方向に向かうためには、教育をシステムとして捕らえることが重要であることに気づきました。たとえば、21世紀スキルを身につけるためにスタートしたゆとり教育も、民間教育サービスに強く依存する日本社会では、子どもたちにゆとりを与える結果には繋がりませんでした。教育熱心な親たちは、子どもたちを塾に通わせることを選択し、ゆとり教育により、子どもたちの多忙化が加速しました。このような状態では、どのような施策を打ち出しても、真の狙いが具現化することになりません。

滝つぼで溺れている先生に気づく

マルチステイクホルダーによる対話を始めた当時、私は日本教育大学院大学の学長をしており、教員の職務についても、強い危機感を持っておりました。社会人経験と高い志を持ち教員になった修了生たちが、学校現場でさまざまな困難に直面していました。教師には、授業以外の多くの職務があります。家庭も多様化し、子どもたちを朝起こすことまでも先生の仕事になり、不登校の子どもたちの家庭訪問も必要な仕事です。複雑な社会環境による歪が、子どもたちの生活に影響を与え、そのインパクトをすべて先生が背負うことになります。そんな中、先のワークショップでのある議論で、私は自らを省みる必要性に迫られました。その議論の結論を絵で表すと、先生が滝つぼで溺れていて、滝つぼには、文科省、教育委員会、保護者、メディア等からの要求が次々と流れ落ちているのです。教育システムは、社会が教育に新しい要求をすればするほど、先生たちが安心して新しいことに取り組めない環境を作り出しているのです。息子が小学生の頃ゆとり教育が始まり、教育批判をしていた保護者の一人として、私も、先生が溺れる環境を作ることに加担していたことに気づかされました。先生を守らなければ、教育がよくならないことは明らかです。しかし、同時に、教育には変わってもらう必要があります。その両方を実現するために何が必要か、その結論が、教育のビジョンを共有する社会の実現でした。

教育のビジョン

こうして、1月にスタートした未来教育会議は、教育のビジョンを、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方の3点セットで語れる社会を実現することから始めることにしました。

未来教育会議は、4つのビジョンも掲げています。

  1. 自立と共生が実現し、すべての人が自分を幸せにすることができる社会をつくる
  2. 主体的に考え、相互にかかわりあい、問題解決できる力を持つ人を育てる
  3. 教育に関する柔軟性や自由さが担保されている社会をつくる
  4. 学校、家庭、地域、企業が共創して教育にかかわり合う社会を創る

未来教育会議の最初のゴールは、教育のビジョンが共有される社会を創ることです。ビジョンが共有されていれば、行政、学校、家庭、地域、企業が協働して、教育を作り上げることができます。しかし、ゆとり教育に始まる一連の教育改革において、必ずしもビジョンが共有されていないのが現実です。教育改革が進む中、現場の先生や保護者が求めていること、企業が求めていること、そして教育の主体である生徒が求めていることがバラバラでは改革を成功させることは困難です。特に、新しい教育を作り上げるプロセスにおいては、上手く行かない事も含めて関係者が振り返り、改善を繰り返すリフレクションのプロセスが不可欠です。善い事も悪い事も振り返るためには、関係者が有るべき姿についての共通認識を持つことと同時に、信頼関係があることが大前提となります。

世界一子どもが幸せな国 日本へ

なぜ教育が変わらなければならないのか。どのように変わらなければならないのか。この問いに、教育関係者、保護者、生徒全員が明確な答えを持つ社会を一日も早く気づきたいと思います。未来教育会議の活動で、オランダやデンマークを訪問すると、欧州では、目指す社会の姿や教育のあり方について、2015年の段階でコンセンサスが確立していることを実感します。21世紀がスタートして15年が経過しているため、彼らの取り組みは一定の成果もあげています。グローバル化やテクノロジーの進化が加速する中、20世紀の社会モデルを手放せない日本は、企業も教育も、ガラパコス状態です。しかし、大人は、組織の壁を越えて連携することができず、打ち出された改革も、抵抗勢力が存在しスムーズに前進しているとは言いがたい現実があります。子どもの幸せを願わない大人はおらず、これだけ多くの人々が教育をよくするために真摯に取り組んでいるのに、結局は、その阻害要因となっているのも、大人です。このような大人の様子を生徒たちはどのように眺めているのでしょうか。子どもには、一歩踏み出す勇気を持ち、コミュニケーション力を高めて欲しいと願う大人たちは、自らに対しても、同様の期待を持つ必要があります。ポジションパワーで押さえ込む改革は、受け身社会のアプローチです。私たち大人に、ビジョンを共有し、自らの意志で21世紀の教育を創造する先生たちを暖かく見守り、支援する社会を創ることができるでしょうか。誰でも、初めて取り組むことで、100%上手くいくことなどありません。今、学校の先生には、次々と新しい事が求められています。大きなプレッシャーを感じて当然です。批判の目ではなく、支援の心を持ち、先生が学び成長することを見守る社会を実現する必要があります。そして、全ての大人は、これまでの成功体験を手放し、21世紀が求める力を身につける努力をする必要があります。

世界一子どもが幸せな国日本を実現するために、立場や組織の壁を越えて全ての大人が協力する社会が実現するために活動して行きたいと思います。

昭和女子大学 ダイバーシティ推進機構の取り組みに思う

文部科学教育通信No.389 2016.6.13掲載

共働き社会への転換

昭和女子大学で、2014年からキャリアカレッジの学院長として女性の活躍を支援しています。安倍総理の成長戦略の施策の一つとして、2014年から女性活躍推進が本格的に動き始めました。20141月に開催されたダボス会議の基調講演で安倍総理は、女性の労働力は日本でもっとも活用されていない資源であり、日本は、女性が輝く国にならなくてはいけないと述べました。そして、オリンピックの年2020年までに、25歳から44歳の女性の就業率を73%にすることと、指導的地位に占める女性の割合を30%にすることを目標に掲げました。その後、女性活躍推進法が成立し、201641日から、労働者301人以上の企業は、女性活躍推進のための行動計画を提出することが義務付けられています。

政府による女性活躍推進の取り組みは新たらしいものではありません。しかし、現在の取り組みには、これまでとは大きな違いがあります。専業主婦が家庭を守り、男性が外で働くという社会モデルから、共働き社会に転換することを国が経済戦略の一貫として明確にしたことです。これまでであれば、企業は女性に働く機会を与え、出産後も働き続けられる制度を用意していれば十分でしたが、これからは、女性が働き続けていることや、男性同様に管理職に登用することが求められます。女性社員比率や、管理職比率等を数値目標に落とし込み、行動計画を策定し、実績を公開することが義務づけられています。同様に、女性にとって、働き続けることは選択肢の一つであった時代が終わり、誰もが働き続け、優秀なら管理職を目指すことが当然という時代が到来しました。

日本の女性の現状は奇異に映る

経済のグローバル化により、日本の女性活躍推進は世界の注目も浴びています。IMFのラガルド専務理事は、日本の女性活躍がG7並に進めば一人当たりのGDPが4%上昇し、北欧並なら8%上昇すると述べています。ゴールドマンサックスも、女性の労働力が男性並みになれば、GDPは13%上層すると予測しています。女性を経済活動に参加させることができなければ、日本の経済の先行きが厳しいというというのが世界の見方です。そんな中、女性の管理職比率が、OECD加盟国の平均の38.8%を大きく下回る現状も浮き彫りになりました。世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダー(男女平等)ギャップレポートでは、教育や健康面で平等が実現している一方、政治と経済活動におけるギャップが大きく、総合では101位という評価になっています。ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、著書「ワークシフト」の出版記念で日本に来日された際に、ビジネスの世界で高齢の女性には会うことがなかったと述べ、労働人口の半数が、「大人対大人」として意見を聞いてもらえていないとしたら、日本企業で働く人々が「意思を持った大人」に移行する妨げになると発言しています。世界から見れば、奇異に映る女性の社会進出の現状ですが、国内では慣習であり、むしろ、女性管理職比率を30%にする取り組みに違和感を覚える人の方が多いかもしれません。

古い社会モデルの中に新しい価値観が

男女雇用機会均等法とともにキャリアを歩んできた私は、複雑な心境でこの一連の動きに向き合っています。女性に機会が与えられ、女性に対する期待が高まることはとても素敵なことなのですが、現実を見ると、必ずしも女性たちにとって最良の環境が用意されている訳ではありません。これまで管理職になることを考えていなかった女性たちが、突然管理職になることを求められ、戸惑いを感じる人も少なくありません。彼女たちの上司である経営幹部や管理職の多くは、専業主婦を持つ企業戦士です。結婚・出産を抱える女性たちに、企業戦士の働き方を求めることは不可能ですが、長時間労働を止めることは容易ではありません。そんな中、男性と同じように頑張る女性たちに、「君はよく頑張る。いい仕事をしてくれるので大変助かっている」と高い評価を与える一方で、「でもうちの娘には、君みたいな働き方をしてほしくない」などと本音を漏らす上司もいるようです。

出産を終えて仕事に復帰する女性たちは増えていますが、時短の女性には、補佐的な仕事しか与えられないと多くの上司が考えています。海外では、フレックス、時短、在宅など多様な働き方が用意され、当たり前になっているのですが、日本では、まだまだ企業戦士という働き方が当たり前と考える人たちが多いです。そんな中、周囲に気を使い頑張りすぎて行き詰ってしまう女性も少なくありません。女性が男性同様に働く社会を実現するためには、男性の働き方も含めて見直しが必要になります。2006年にアメリカの女性リーダーに行ったヒヤリングで、大手コンサルティング会社でパートナーとして活躍している女性の話を伺った時の驚きが思い出されます。子育てとの両立のために彼女は在宅で勤務をしていました。上司はNYの本社にいて、チームは上海で仕事をしていると説明されました。上司とは、成果目標を握っているので、在宅でもまったく問題なくパートナーとしての機能を果たしているというのです。この話を元に考えれば、時短であっても、その枠の中で出すべき成果と役割期待を明確にすれば、補佐的な仕事ではなく、責任を持つ仕事をすることは可能なはずです。

女性の間にも不調和音が流れます。子育てなら早期退社が可能でも、独身の女性がお稽古に行くために早期退社することは否定的に受け止められ、独身の女性たちが不平等を感じるというのです。これらすべては、古い社会モデルの中に、突然、女性が働き続ける社会という新しい価値観が放り込まれ、当事者が右往左往する状態なのです。無論、2014年前から女性活躍推進に取り組んできた企業も、管理職として登用されている女性たちも存在します。子連れ出社を認めるなど、新たな発想で取り組む企業もあります。しかし、それが普通とはいえません。ダイバーシティ推進機構では、産学連携研究会を立ち上げ、このような現場の実態を把握し、企業と女性双方にWinWinとなるダイバーシティの推進に貢献していきたいと思います。

日本は今、大きな転換点に

世界第2位の経済大国に上り詰めた日本は今、大きな転換点に立っています。少子高齢化の中で持続可能な成長を実現するためには、男性も女性も同様に働ける企業に変わることが求められています。同時に、新興国が台頭する中、日本企業には、成長を続ける世界の市場に付加価値の高い新製品や新規事業の創造が求められています。前例を踏襲しない、新しいやり方に挑戦することや、イノベーションを起こす際に、多様性は欠かせません。ところが、日本の風土や文化は、画一性や調和を求める傾向が強く、多様性はイノベーションの源ではなくコストやストレスに繋がることの方が多いです。そこで、ダイバーシティ推進機構は、女性活躍推進をゴールに置くのではなく、「多様性を活かす経営でイノベーションを実現する」ことをビジョンに掲げました。イノベーションが求められる時代だからこそ、女性をはじめとする多様性を取り込める企業や社会創りが求められます。女性活躍推進に取り組む中で、さまざま困難が予測されますが、その先には明るい未来があると信じています。ぜひ、皆さんも、女性活躍推進をご支援いただきたいと思います。

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