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就活生のためのリフレクション講座

2019.04.08文部科学教育通信掲載

3月21日に、ニュースピックスにて、就活生のためのリフレクション講座を実施し、150人の大学生が日本中から集まってくれました。講座では、リフレクションの目的を、「何に貢献すると、やりがいと幸せを感じられるのか」の問いについての答えを見つけることと定義しました。

 

リフレクション講座のテーマは、3つです。

1.リフレクションでやりがいを見つける

2.リフレクションで貢献するテーマを見つける

3.リフレクション活用のためのヒント

 

リフレクションでやりがいを見つける

最初のテーマは、やりがいの見つけ方についてです。価値観リストを活用して、動機の源を探す方法を学びます。動機の源とは、やりがいを感じる理由であり、あなたを突き動かす大切な価値観のことです。同じ仕事をしていても、やりがいを感じる所は、人によって異なります。

 

仲間とプロジェクトを成功させた時も、嬉しい理由は様々です。

嬉しい理由(事例)

    • みんなとがんばれたことがうれしい
    • クリエイティブなアイディアが生まれてうれしい
    • 他のチームに勝てたことがうれしい
    • 計画通りに実施できたことがうれしい
    • リーダーシップを発揮できたことがうれしい
    • スキルアップできたことがうれしい

動機の源を知るために大切なことは、自分が嬉しい理由、やりがいを感じる理由を知ることです。価値観リストの中から、自分の大事にしているキーワードを選び、そのキーワードに紐付く経験を掘り下げていきます。

 

愛情というキーワードを選んだ方の事例を見てみましょう。自分が小さい時に体が弱く、おばあちゃんによく面倒を見てもらった思い出と繋がっているある方は、愛情という言葉に、看病をしてくれたおばあちゃんとの思い出を結びつけています。病気でも、おばあちゃんが一緒にいてくれるので、安心して過ごすことができたのだそうです。そこで、自分も、大切な人を幸せにすることを大切にしたいと考えています。

 

もう一人愛情というキーワードを選んだ人の事例を聞いてみると、同じ、愛情というキーワードを選んでいても、その言葉の意味づけがまったく異なります。お家が幼稚園を経営しているその方は、子どもたちの笑顔が、園長先生をしているお母さんと結びついています。子どもたちが元気で笑顔一杯の様子を見ると、心が安らぎます。そこで、自分も、みんなを笑顔にできることを大切にしたいと考えています。

 

私たちは、過去の経験を通して、大切な価値観を形成します。このため、過去の経験を振り返ることはとても大切なこと。自分史を書くことも、その意味で有益です。ただ、多くの場合、自分史を書いても、出来事を振り返るだけで終わってしまっている場合が多く残念です。自分史を振り返るのであれば、過去の経験を、自分がどのように意味づけているのか、ポジティブと感じているのであれば、その理由は何かをリフレクションすることが大切です。そうすれば、自分が何者かを知ることができ、自分を活かしやすくなります。

 

私たちは、数多くの動機の源を持っているので、皆さんには、そのリストを作ることをお勧めしています。そうすれば、あらゆる場面で、何かしら自分がやりがいや幸せを感じる理由を見つけることができます。

 

リフレクションで貢献するテーマを見つける

動機の源の見つけ方の次は、「貢献するテーマ」の見つけ方を学びます。私は、どんなテーマに取り組むとやりがいを感じることができるのか。貢献するテーマとやりがいの関係は、3つの要素でできています。3つの要素とは、現状とありたい姿と動機の源です。この3つの要素が、情熱のメカニズムです!

 

貢献するテーマを見つけるためにお勧めなのが、取り組むすべてのテーマに関して、現状とありたい姿を定義し、それを自分の動機の源に結びつける思考の習慣を持つことです。たとえば、議事録を書くことを頼まれたら、これまでの私の議事録作成を振り返り、自分なりにビジョンを定義します。あの先輩と同じレベルにしよう。所要時間を短くしよう。誰々さんにこんなフィードバックをもらうことを目標にしようなど、自分なりのビジョンを決めます。この際、動機の源にも意識を向けます。そうすればゲーム感覚で楽しむ、人から認められる、期待を超える、効率的な仕事をするなど、自分の大事にしていることとビジョンと繋げることができます。こんな風に、3点セットを頭の中に持ちながら活動することができると、どのような取り組みにおいても、自分らしく貢献することができます。

 

ワークショップでは、国連のSDGs(持続可能開発目標)を活用し、自分の情熱のメカニズムを探求しました。17の目標の中で、自分の興味のあるテーマを選び、認知の4点(意見、経験、感情、価値観)セットに答えます。

 

教育というテーマを選んだ人の事例をみてみましょう。

①私の意見:教育に関心がある。②私の経験:ボランティア活動で困難を抱える子どもの学習支援を行ったことがある。その際に、学習する環境をまったく与えてもらっていない子どもたちがいることを初めて知った。これまで、自分の力だけで志望校に合格できたと思っていたが、家族の支えがあったことに初めて気づいた。

③感情:悲しみと喜びの両方

④価値観:家族への感謝

 

認知の4セットを活用し、選んだテーマとその理由をリフレクションしてみると、自分が大事にしていることや、自分が、そのテーマをどのように解釈しているのかを知ることができます。こんな風に、リフレクションを行えば、驚くほど自分のことを知ることができます。

 

クリエイティブテンション

情熱のメカニズムと命名した「現状とありたい姿と動機の源の3点を結びつける考え方」のことを、学習する組織では、クリエイティブテンションと呼んでいます。自分が強く願っていることを実現する際に、自分の潜在的な能力が最大化し、創造性も高まるというのです。この法則を元に、アントレプレナーを眺めてみるととてもわかりやすいです。誰もが、できると思えないようなことに挑戦する彼らには、自分なりの理由があります。たとえば、グーグルを創業した2人の若者の親は科学者で、情報を正しく扱うことも、大事にしていたそうです。そんな彼らが、当時、テレビ広告のように扱われていた検索システムに大きな疑問を持ったことが、グーグルの生まれた背景です。誰もが、何も疑問を持たず、高い広告収入を払っている企業の情報が、検索結果のトップに掲載される検索エンジンを使っている中で、彼らは、「世界が間違っている」と叫びます。検索エンジンが民主的な仕組みに生まれ変わった背景には、彼らのクリエイティブテンションがあります。

 

クリエイティブテンションにつながる「貢献のテーマ」に取り組むと、多くの場合、学びと成長という副産物もついてきます。多くの場合、ありたい姿を実現することが簡単ではないからです。

 

リフレクション活用のヒント

最後は、リフレクション活用のヒントです。それは、ネガティブな感情を活用することです。

ネガティブな感情は、大切にしている価値観に紐づいています。なぜ、ネガティブな感情になるのか、現状とありたい姿を分析してみると、容易に自分の動機の源を知ることができます。頭にくる。間違っている。いやだ。もっとこうだったらいいのに。不便だ。こんな気持ちになったら、認知の4点セットでリフレクションすることがお勧めです。きっと、「なにに貢献するとやりがいや幸せを感じることができるのか」その答えを見つけるヒントがあるはずです。

 

 

「未来の教室」実証事業を終えて

2019.03.11 文部科学教育通信掲載

クマヒラセキュリティ財団は、経済産業省の未来の教室実証事業を通して、おそらく、日本で初めてであろう幼児向け「システム思考」教育に挑戦しました。

 

背景と狙い

世界93カ国3500人のチェンジ・メイカーのネットワークを構築している非営利団体アショカは、システミック・チェンジ(課題の根本原因を特定し、抜本的な課題解決を行うこと)を起こす人々を発掘し、その取り組みを広く世界に紹介しています。そこで、未来の教室実証事業が目指すチェンジ・メイカーの育成において、「システム思考」が必須だと考えました。

学習する組織論の提唱者ピーター・センゲ氏は、「人間はみんな生まれつきシステム思考家としての素養を持っている(People are all innate systems thinkers.)」と主張していますが、残念ながら日本国内においては「システム思考」教育が教育現場では行われておらず、その素養が育まれる環境がありません。またはその芽が摘まれている状況ですらあることを課題と捉えました。

「未来の教室」と EdTech 研究会第1次提言では、「幼児が小さな興味や意志の芽が出た時に「もっと!」という気が芽生える仕掛け、さらに『今の生活の、身近な課題』の解決に向けて、個と集団を活かした行動を通じて、その変化を体感できるプログラムを、全国の保育所でも幼稚園でも認定こども園でも一般的に行うべき」とあります。そこで、チェンジ・メイカーの資質を育むために「システム思考」教育こそ、経済産業省事業で就学前から行うべきであると考えて、本事業に挑戦することにしました。国外の先行事例を参考にし、世界の「システム思考」教育を牽引するウォーターズ財団(米国)の協力を得ながら行いました。

 

学習範囲の決定

ウォーターズ財団(米国)が開発した、子ども向けシステム思考者の14の習慣を参考に、①大きな視点でみてみよう、②時間と共に、どう変化するか観察してみよう、③原因や行動と結果には必ずつながりがある の3つの習慣を習得するために、時系列変化パターングラフを活用した学習プログラムを開発および実施することに決定しました。時系列変化パターングラフとは、X軸に時間の流れ、Y軸に時間とともに変化する要素を置き、要素が変化する様子を線グラフで表すシステム思考のツールのひとつです。システム思考は、目的と要素と、要素の関係性を理解する思考法であり、時系列変化パターングラフを理解することは、要素と要素の関係性を理解する上で、とても有効な方法です。成人は、変数を自ら考えることができますが、今回は、5歳児を対象としましたので、XとY軸をあらかじめ設定し、グラフを作成してもらうことにしました。

到達目標は、「時系列変化パターングラフを作成できるようになり、できごとを時間軸に沿って原因や理由を含めながら説明できるようになる」と定めました。

教材の開発

絵本を使ったレッスンでは、絵本の登場人物の気持ちが、場面ごとにどんな風に変わるのかを、グラフに表します。シールを貼って、シールを線で繋ぐと、気持ちの変化が可視化されます。グラフが書けたら、次はお話タイムです。どんな物語だったのか、登場人物はどんな気持ちだったのかをみんなでお話します。子どもたちは、グラフを見ながら、時には、手でグラフを描きながら、お話をしてくれました。

 ■アナログ教材(事例)

・絵本『ソフィーはとってもおこったの』を活用し、ソフィーの気持ちをグラフ化する。

・大きさを変えられる教具「ホーベルマン球」を使って、子どもの成長や、園での1日をグラフ化する。

 

実証事業では、独自に映像を活用したデジタル教材を開発しました。映像では、自転車のスピードの変化や、ピザやドーナッツをみんなで食べている様子など、物事が時間の経過とともに変化する様子を表しました。子どもたちは、映像を視聴し、グラフを描きます。

■デジタル教材(事例)

・自転車が速度を変えて進む映像を視聴し、グラフ化する。

・グラフを描いた後は、時系列で何が変化したのか、なぜ変化したのかを話し合い、グラフの理解を深める。

 

デジタル教材開発の指針

就学前の子どもたちがシステム思考の基本となるいくつかの習慣を理解する手助けとして有効な教材になるために、次の基準を設けました。

1. 子どもたちの生活体験にある素材から学習課題に入る。 2. 教え込みではなく子どもたち自身で気がつくようなしかけを加える。 3. 子どもたちの自由なつぶやきや発言、意見のやりとりを可能にするために映像は静止画像と無音声を中心にする。 4. 子どもたちの集中度を高めるために2分以内の映像にする。

事前事後アセスメント

事前事後アセスメントでは、季節と気温の変化をグラフに表しました。事前アセスメントでは、ほとんどの子どもたちがグラフの概念を知りませんでした。しかし、6回のレッスンを行った後は、X軸、Y軸を理解し、グラフを活用し、物事の変化とその原因を説明できるようになりました。

(事後アセスメントの事例)

ウォーターズ財団からも、グラフを書くことで、説明のし方が変わり、語彙も増えると伺っていましたが、実際に、事後アセスメントでは、多くの子どもたちが、時間の経過とともに何が変化するのか、どうして変化するのかをとても上手に語ることができるようになりました。

 

プログラム開発協力園の声

プログラム開発にご協力いただい園の先生方からは、以下のようなコメントを頂戴しました。

「年長児の話を聞いていたら、ちゃんと時間の流れに沿って話をしていることに気がつき、成長を感じることができました。自分自身もこのプログラムを知ることで、時間の流れに意識を向けて、子どもたちの変化を気づくことができました。」

「園の中で日々起きるいろいろなことに、時系列変化パターングラフをイメージして考えると、その時の目の前で起きていることだけでなく、その日の朝や少し前に起きたことや気持ちの動きまで考えたり、そのうえで本当に解決すべきことを考える手助けになるのではないかと思います。」

「年長児について入学準備として自分の名前が書けるようにとか、10まで数えられる等の指導がありますが、一方でシステム思考等の考える習慣を身に着けることは、自分の身の回りで起きたことを解決するのに役立つのではないかと思います。年長さんなら、身に着けることができると思います。」

実証事業を終えて

今回の実証事業は、短期間であり、実証データとしては十分ではありませんが、子どもたちが時系列変化パターングラフを習得し、自分の言葉で時系列で何が変化したのか、なぜ変化したのかを語る様子から、システム思考者の習慣化に向けたファーストステップを歩んでいる様子が伺えました。本事業の結果を踏まえて、今後も、長期にわたる実証実験を継続していきたいと思います。同時に、国外ですでに先行事例のある小学校におけるシステム思考教育の実証実験にも、取り組んでみたいです。

 

最高のアクティブラーニング

2019.02.25 文部科学教育通信 掲載

大人の教育事業に従事する中で、世界の教育プログラムに多くのことを学んで来ました。そこで、今回は、財務会計を教えるインカム・アウトカムという教育プログラムについてご紹介したいと思います。

 

アクティブラーニングのゴール

インカム・アウトカムとの出合いは、私の教育観を変えました。このプログラムを通して、「大人も楽しく、そして深く学ぶことができる」というアクティブラーニングの魅力を実感することができました。

財務会計の研修に参加した経験を持つ多くの人は、研修に楽しい思い出を持っておらず、また、財務会計自体におもしろさを感じる人は、とても少ないというのが現実です。一般的には、財務会計の研修に参加した結果、苦手意識を持つ人が多いです。しかし、インカム・アウトカムに参加する人たちは、財務会計を、楽しく学び、もっと学びたいという意欲も高まります。財務会計に対する苦手意識よりも、好奇心を持つ人が圧倒的に多いです。

今日、日本の学校教育でも、アクティブラーニングが始まっています。グループで話し合ったり、探求したりする授業は、生徒の思考を活性化し、相互学習が促進されます。アクティブラーニングの究極のゴールは、もっと学びたいという探究心が高まることではないでしょうか。インカム・アウトカムを通して、そのヒントを提供できればと思います。

 

学びの最近接領域

ヴィツコギーが提唱した学びの最近接領域は、学びを設計する上でとても大事な概念です。

難易度が高すぎても、やさしすぎても学ぶ意欲が下がるというのは、大人も子どもと同じです。

インカム・アウトカムは、とてもシンプルな導入に始まり、だんだん、複雑になるよう設計されています。シンプルなまま続けても、途中で飽きてしまいますが、次々と新しい課題が登場し、飽きる暇がありません。最初に学ぶのは、貸借対照表ですが、むずかしい用語は最低限です。貸借対照表には、「もっている資産」と、「誰が資金を出したのか」の2つのことが書いてあることを学びます。少し時間が経過すると、資産には、流動資産と固定資産がある等、財務用語が登場しますが、誰もが悩むことなく自然に財務用語を理解していきます。

難易度の設定は、楽しく学ぶプログラム開発において、もっとも重要でむずかしいことのように思います。テーマから心が離れない状況を設計できると、最高の学び体験を提供することができます。

本質が土台にある

先ほど、貸借対照表を、「もっている資産」と「誰が資金を出したのか」の2つの要素で説明するという事例を紹介しました。このようにシンプルにすることができるのは、本質が土台にあるからです。シンプルにすることで、本質を見えなくしては意味がありません。根底には、財務会計の理論があり、その理論には忠実に、しかし、シンプルに設計することが大切です。実際、このプログラム参加者は、研修終了後に、企業の財務会計報告書を読み、理解することができるようになります。会計士レベルでの用語の理解はできませんが、財務諸表の骨格を学ぶことにより、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つの財務諸表を理解することができます。

専門家は知りすぎていて、どこまで何を教えることが本質を教えることなのかを、区分することが苦手です。その結果、学び手は、研修を通して学ぶことをあきらめてしまうというのが、もっともかなしい結果です。専門家も、教える立場になるのであれば、知識の伝達ではなく、本質を伝える工夫が必要です。本質を見極め、枝葉末節をそぎ落とす勇気を持つ必要があるかもしれません。すべてを理解してもらうことが不可能な時、何を教えるのかを見定める必要があります。

マルチプルインテリジェンスに対応している

ハワード・ガードナーの提唱するマルチプルインテリジェンスは、IQ(言語、論理・数学)以外にも、人のインテリジェンスが存在すると述べています。体を動かすことや、人と対話すること、内省すること、空間を捉えることなども、インテリジェンスに含まれます。アクティブラーニングの魅力は、机上での学習スタイルに縛られず、多様なインテリジェンスを活用することができることです。

インカム・アウトカムでは、財務諸表がボード上に表現されるために、視覚的にも、わかりやすく、空間を視覚的に捉えることが得意なインテリジェンスに対しても、有効なプログラムです。通常、財務会計の研修では、会計資料に目を通し、それを理解、分析するのですが、このプログラムでは、ボード上に、財務の結果を表し、その姿の変化を追いかけながら、財務状況を理解することになります。たとえば、負債には、赤いチップを活用し、赤いチップが山積みになると、返済が迫るという感覚を視覚的にも実感することができます。紙面でゼロの数がひとつ増えても、負債が増えた危機感はあまり高まりませんが、赤いチップを使うと、誰もが現状を理解し、なんとかしなければと考えるようになります。

 

 

 

 

 

 

チームで戦う

通常、インカム・アウトカムは、4人のチーム編成で行い、6チームが、経営成績を争います。財務会計を学ぶという目的と同時に、ゲームに勝つという目的が加わります。そのために、メンバーは、話し合い、経営判断を行います。経営判断には、様々な要素が含まれるため、一人で判断を行うことは困難です。チームの相互学習の質が、チームの成果を決定付けることになります。

会社経営を行うので、営業、製造、開発、人事、財務等幅広い視点が求められるため、多様性のあるチームの方がパワフルです。一方、多様性があっても、誰かがワンマンで進めてしまうと、集合知を生かすことができず、チームは退廃してしまいます。

チームで議論を戦わせ、相互学習を通して、成長していくチームが、多くの場合、もっともよい成績を上げることも、大変興味深いです。

全員が同じ情報を共有するための工夫

全員で考えを深めるために、様々なツールが用意されています。予算の作成や、キャッシュフロー予測、借入適正の計算等、全員で使用できるツールを用意しておくことで、ディスカッションの質と生産性があがります。

みんなで一緒に考えるためには、自分の考えを可視化する必要があり、そのためには、共通のフォーマットがあることが助けになります。自分の考えを共有するフォーマットがない時には、自分の考えをチームメンバーに共有できるように、白板を用意しています。このような環境整備も、アクティブラーニングを促進する上で、重要なポイントです。

さいごに

インカム・アウトカムを通して、学び手を理解し、彼らの立場に立ち、プログラムを設計することの重要性を学びました。教える側の論理ではなく、学び手の論理に従って、楽しく学ぶプログラムの設計にこれからも取り組みます。

社会企業家という生き方

2019.02.11 文部科学教育通信 掲載

2011年より日本でも活動している米国に本拠をおくアショカという団体の活動を支援しています。アショカは、1980年に、ビル・ドレイトン氏により設立されました。

ビル・ドレイトン氏は、マッキンゼーのコンサルタントとして長く活躍する中で、ビジネスの世界に存在する起業家のマインドや手法と、社会問題を解決する活動が融合することで、社会問題の解決に取り組む人々の成果が大きく飛躍するのではないかという仮説をもちます。そして社会起業家という言葉を生み出しました。今日、アショカは、世界80カ国に、3500人を超える社会起業家のネットワークを構築し、その活動を支援しています。

デイビッド・グリーンの招聘

アショカジャパンでは、昨年7月に続き、今年1月に、アショカフェローに選出された社会起業家デイビッド・グリーン氏を招聘し、2日間のワークショップを行いました。デイビッド・グリーンは、貧しい人たちにも良質な医療が届く世界を実現するために、医療関係者を巻き込み活動しています。彼が、最初に取り組んだのは、白内障の手術をインドの貧しい人たちに届ける取り組みでした。

 活動の起源

デイビッドは、困難を抱える人々を支援する非政府団体でキャリアをスタートさせます。そこで、寄付を集めて、その資金で白内障の手術を支援する活動に取り組みます。最初の支援では、予算が十分でないために、手術に使用するレンズが悪質で、手術にも課題があり、支援したにも関わらず、患者さんの目を傷つけてしまうこともありました。そこで、潤沢な資金を集め、良質な手術に従事します。ところが、この取り組みも、資金がなくなると続けることができません。資金がなくなり良質な医療を届ける活動を継続することが困難になりました。そして多くの人々から、この取り組み自体が批判を浴びる結果となってしまいました。この経験により、貧しい人々に良質の医療を届けることをあきらめてしまいます。この時、デイビッドは、周囲の人々とは、間逆のことを考えていました。周囲の人は、貧しい人たちに、良質な医療を届けようと考えたこと自体が間違っていたと考え、デイビッドは、どうずれば、貧しい人たちにも、先進国の人々が得ている医療と同質の医療を届けられるのかと考えたのです。こうして、デイビッドの活動の基礎が固まっていきます。当然、この時点で、デイビッドは解決策を持っていません。しかし、問いは明確です。「どうすれば、貧しい人たちにも、先進国並みの良質な医療を届け続けることができるのか」

 

答えを探す旅

デイビッドは、問いと共に、医療の世界を探求し始めます。その中でも、特にコスト構造に注目しました。貧しい人々に良質な医療を届けるためには、コストを削減する必要があるからです。こうして、彼は、レンズの価格と原価には大きな開きがあることを発見します。そして、付加価値を生まない流通などのコストを限りなく削減することができれば、レンズの価格を大幅に下げることができることを突き止めます。ビジネスの世界でいうバリューチェーンに注目し、その構造的な課題を突き止めていきます。また、病院のコストの中心が、医師の報酬であることにも注目します。一人の医師が大量の患者さんの手術を行うことができれば、一回の手術のコストを削減することができます。そこで、医師には手術の重要なパートのみを担ってもらい、それ以外の事柄はすべて補佐役が担うという手術のプロセスを開発します。さらに、病院には、富裕層と一般向けの有料サービスと、お金を払うことができない人々への無償サービスを組み合わせた価格体系を提案します。その結果、インドのアラヴィンド病院は、世界でも最も多くの白内障の手術を行う病院になりました。無償で手術を行っているにもかかわらず、この病院は、33%の利益を実現しています。デイビッドは、こうして、貧しい人々を対象にした持続可能な医療を提供する事業モデルの確立に成功しました。

デイビッドが開発した医療事業モデルは、今日世界中に広がり始めています。そのために、デイビッドは、アイ・ファンドという資金調達手法や、医師向けのトレーニング手法を確立し、その展開を支援しています。また、義足や聴覚障害をはじめとする医療領域に、同様のモデルを当てはめ、事業化を進めています。

 

資本主義の未来

現在、多くの企業が参画し、その取り組みが活発化している国連の持続可能開発目標SDGsも、地球のすべての人々を包摂するという理念に基づく活動です。26人が世界の富の半分を所有する今日のグローバル経済の仕組みの中で、貧しいことによって、苦しい生活をしている多くの人々がいることは、日本にいると想像しにくいように思います。我々もデイビッドのお話を通して、世界の課題に少しだけ触れることができました。

アラヴィンド病院を、年間22万人の手術を行う世界最大の眼科病院に育てあげ、そのモデルを世界に広げることにも成功しているデイビッドは、現状に満足などしておらず、次の打ち手を懸命に探求しています。デイビッドは、人口が爆発的に増えている途上国において、やがて深刻化する高齢化の問題にも意識を向けています。高齢化問題が深刻化する前に、貧しい人々も、医療にアクセスできる仕組みを確立する必要があると言います。課題がそこにある限り、デイビッドが、現状に満足する日はこないのでしょう。ワークショップの参加者からは、「なぜそこまで頑張れるのか。いつになったら満足できるのか。どこまでいくつもりなのか」等の質問が出ました。

デイビッドは、資本主義の新たな形についても言及しました。我々に必要なのは、共感資本主義なのではないかと彼は言います。利益を最大化することを至上命題としてきた資本主義の世界からは、アラヴィンド眼科病院の事業モデルは生まれなかったでしょう。しかし、一方で、デイビッドが業界に参入したことで、手術の数が爆発的に増え、レンズの販売数も急成長しました。世界の全人口を医療の世界に招き入れることに成功すれば、市場は拡大していきます。ビジネスチャンスといえます。

従来のビジネスモデルの枠組みで、物事を捉えていては、寄付モデルしか成立しない医療の世界に、デイビッドは、新たなモデルを提示し、持続可能な儲かる仕組みが創れることを証明しました。多くのビジネスパーソンが、デイビッドの活動に触発され、様々な領域で、多くの人々の幸せのために事業活動に取り組んでくれることを期待したいと思います。

 

アショカジャパン

誰もが、そんなことができるはずなないと、思考停止してしまう課題に真摯に向き合い、次々と課題を乗り越えていくデイビッドの生き方を通して、ファシリテーターとしてワークショップに参加した私も、多くのことを学びました。デイビッドを招聘してくれたアショカジャパンにも感謝しています。

アショカは、誰もがチェンジメーカーになる時代を予測し、そのために最も大切なのが、エンパシー(共感力)であると言います。また、今後ますます、社会問題の解決が、ビジネスにおいても活動の中心になっていくことを予測しています。営利企業が営利を追求し、そこで得た儲けの一部をフィランソロピーにまわすという考え方は、もう古いと言います。時代が求める企業の活動目的は、営利の追求と共に、持続可能な社会を維持することであり、営利、非営利の区別は今後消滅していくであろうというのです。これは、日本に昔からある三方よしの考え方にも通じています。

持続可能な社会を実現するために、チャレンジしている人たちを今後も、微力ながら支援して行きたいと思います。

教育改革の壁

2019.1.28 文部科学教育通信 掲載

2020年の学習指導要領の改訂に向けて、教育改革の波が、全国に広がる中、今起きていることを心から喜べない私がいます。この10年間、教員養成、教育NPO活動、未来教育会議、オランダのシチズンシップ教育等 様々な活動を通して教育改革の実現を願ってきました。しかし、今、起きていることを、10年前の課題認識に照らすと、真の課題解決には至っていないのではないかと思います。私たちは、もう少し上手に、教育改革に臨めないものでしょうか。

 

ゆとり教育から奴隷教育へ

2012年に描いた「ゆとり教育から奴隷教育」への絵は、小学校に英語とプログラミング教育が加わり、益々悪化することが容易に予測されます。子どもたちにとって、もっとも残念な教育は、人から、その人が大事にしていないことを教わる授業です。多くの小学校の先生は、プログラミングを教えたくて学校の先生になったのではないという思いを持っています。そんな中、教員の手当てもないままに、既存の教員の善意に頼る改革が、さらに状況を悪化させます。

教員養成と連動しない教育改革

教育改革の結果は、学習指導要領の改訂ではなく、子どもたちがどのように成長、発達していくのかで評価されるものです。改定した学習指導要領に基づき行われる教育が子どもたちの血肉になる場所、それが学校です。従って、教育改革の鍵は、教員が握ることになります。その教員養成に、どれだけのエネルギーが今注がれているのでしょうか。答えはノーです。

先生にも安心安全な場が必要

ビジネスの世界では、安心安全という言葉が流行です。イノベーションの時代になり、多様な人たちが、オープンに意見を出したり、失敗を恐れずチャレンジするためには、職場で、誰もが安心安全を感じることが大事だと言われています。前例を踏襲しない、答えのない時代に、新たな世界を作り上げるためには、心理的安心が不可欠だというのです。この話は、丸々、学校の先生に当てはまると感じます。一斉授業からアクティブラーニングへのシフト、プログラミングや英語などの新たな教育への挑戦など、教員はこれまでにない教育にチャレンジする必要があります。学校を劇場に例えるなら、十分な養成の機会を得ないまま、ぶっつけ本番で劇を演じなければならないというのが、学校の様子なのではないでしょうか。その劇場には、様々な親がやってきて、先生のご苦労を察し見守る温かさよりも、批判をぶつけることの方が多く、新しいことに挑戦する先生たちは、心地のよい状態にはいられないのではないかと思います。

 教員養成改革

教員免許更新制度の導入や、教職大学院の設立等、教員養成に力を入れた時期もありました。12年前のことです。当時は、研究者がフィンランドに出向き、教員のコンピテンシーの研究などが行われていました。しかし、現在、この流れは完全に断ち切れ、巷では、教職大学院がなくなるという噂が立つほどです。

私自身も教員養成に関与していたので、教員という職業の特異性には、悩みました。大学院の修了生が、先生になると、初日から、30年のベテランと同じことを期待される職場は、学校以外にはないのではないかと思います。また、子どもたちの多様化が進み、配属される学校により、先生に求められる力が大きく違うのです。大学院で学ぶことはすばらしいことですが、目の前の子どもたちの状況に合わせて、自ら職場で教育をつくり上げるために必要なすべてのことを大学院で提供することができません。この状況の中で、先生となった修了生が、様々なチャレンジに直面しながらも、真摯に職務に取り組む姿には、涙がでることもありました。

オランダなどでは、教員志望の大学生は、学生時代から、かなり長い時間を学校で過ごし、子どもたちの様子を知ることができ、教員になった時には、安心して子どもたちの前に立てるといいます。子どもたちの未来を託している先生たちに対して、私たちは、もっと愛情を注ぎ、育む姿勢を持たなければ、教育改革は成功しません。

21世紀スキルを画一的に学ぶ学校

未来教育会議では、2014年に、教育の未来シナリオを描きました。文科省、教育委員会、校長、先生、保護者、大学生、高校生等 様々な関係者の意見を伺いながら、教育の未来がどうなるのかを描いたのが教育の未来シナリオです。その結果、3つの未来の姿が見えてきました。①21世紀スキルを画一的に学ぶ学校、②地域とつながり学ぶ学校、③社会と一緒に学ぶ学校のシナリオは、どれも、現在の様子を表しています。地方創生の中で、子育てを大切にする地方では、②番目の地域とつながり学ぶ学校がブームです。③番目の社会と一緒に学ぶ学校も、少しづつではありますが、始まっています。②も③も、起きて欲しい未来の姿なので、この2つに関しては、とても喜ばしく感じています。しかし、問題は、①番目の21世紀スキルを画一的に学ぶ学校です。これは、大きな矛盾を抱えた学校の姿を現しており、子どもたちがダブルメッセージを受け取る学校の姿です。

そもそも、21世紀の教育は、多様性を前提としています。一人ひとりが個性や能力を伸ばし、自分らしく世の中に貢献していく力を育む教育へのシフトが求められます。工業化社会のように、誰もが一定レベルの能力を獲得し、工業製品のように画一的な品質を担保するために存在した学校教育を、テクノロジー革新が進む社会の中で、創造力を発揮できる人材

育成を行う学校教育にシフトしていくことが、個人にとっても社会にとっても幸福をもたらすというのが前提となる理念です。しかし、長く、画一的な教育に従事してきた学校が、この大きな理念の転換を行うことは容易ではありません。生徒の主体性を育むためには、生徒の判断力に委ねる必要がありますが、生徒側も、決められたレールに乗っかる教育と、教師との主従関係に慣れており、「指示をだしてください」と不満を表出します。

アクティブラーニングとは、話し合いの形式のことではなく、生徒がどれだけ頭に汗をかくか、どれだけ思考を活性化し、深く考えるかという話です。一斉事業のように、アクティブラーニングの授業を一斉に行っていても、一人ひとりの思考が活性化することは期待できません。それなら、まだ、単語のひとつでも暗記していた方がまだましということになります。

新学習指導要領は、教室における先生と生徒の役割期待を大きく変える話です。生徒が主体的に学ぶ目的を持ち、自らの意思で考えを深め、自律的に学ぶ大人に育つ訓練をする場所が、教室です。これまでのように、座っていれば、先生が学びを届けてくれるという考えを捨てなければなりません。同時に、教員も、すべてを教えることで任務を果たすという視点を捨てなければなりません。そして、先生と生徒の間で、このことについて合意形成がなされる必要があります。

理念なき学校

公立学校では、数年で校長先生も、先生も異動するのが当たり前です。こうして、日本中津々浦々、一定レベルの教育が担保されてきたという利点がある一方、学習指導要領の改訂に際して、このあり方には限界を感じています。学校の人事の仕組みも、工業化社会の教育の仕組みとしては理にかなっていると思いますが、多様性を前提とする21世紀の教育においては、矛盾した仕組みです。先生も生徒も、役割を越えて人間として存在できる学校が、21世紀の教育には必要ではないかと思います。

教育改革の壁が消滅する日を心待ちにしています。

経済産業省 未来の教室実証事業

2019.01.14 文部科学教育通信 掲載

経済産業省の未来の教室実証事業で、幼児期のシステム思考教育にチャレンジしています。税金を使った事業を行うのは始めてのことなので、身の引き締まる思いです。

システム思考とは、複雑な物事を構造的に捉え、問題を解決するための道筋を描くためのアプローチで、環境問題の解決等、人類が直面する大きな課題を解決するために必要な力です。大きくて複雑な課題を解決する際には、課題そのものを俯瞰して捕らえる力が求められます。

 

幼児期からのシステム思考教育

世界でも、幼児からのシステム思考教育が盛んに行われています。マイクロソフトやボーイング社等数多くのハイテク企業が本社を置く米国ワシントン州では、理科の学習指導要領にシステム思考教育が含まれており、子どもたちは、幼児期から段階的に、教育課程の中で、システム思考を習得することができます。

 

持続可能な社会を維持することが、簡単なことではなくない今日、私たち大人にも、複雑な問題を解決するために、システム思考が求められるようになりました。私が、システム思考に出会ったのは、今から20年以上前ですが、システム思考を自分のものにするのは容易ではなく、現在でも、複雑な問題に対処する際には、専門家の力を借りています。

 

10年ほど前に、米国で、子どもたちがシステム思考を学ぶ様子を見学し、システム思考を、大人になってから学ぶよりも、幼児期からはじめる方が楽に学べることを知りました。人間は、生まれた時には、システム思考者であると、米国の専門家から教えないとことも、印象的でした。赤ちゃんは、誰から教えられた訳でもないのに、お腹が空くと泣いて、お母さんを呼びます。

私たちは、暑くなると汗をかき、体温が、ある一定以上に上昇することを防ぎます。こんな風に、人間の体は、システム思考を知っています。ところが、いざ、私たちが、無意識に活用しているシステム思考を、紙の上に表そうとすると容易なことではないのです。そこで、以前から、日本でも、小さい時から、システム思考を子どもたちが学ぶ環境を創りたいと考えました。

 

子どもの学ぶ力は大人より高い

実証事業は、まだ、始まったばかりですが、子どもたちの学ぶ力には、圧倒されます。大人が、システム思考を学ぶと、最初に感じることは、その難しさです。そして、失敗するリスクを恐れ、自らシステム思考を積極的に使おうとしません。その結果が、どのような学習効果につながるかは、ご想像のとおりです。ところが、子どもたちは、学んだら、即使うが鉄則です。子どもたちは、自分の理解したことを、リスクを恐れず使おうとします。もし、子どもたちが、間違っていたとしても、それをうまく軌道修正してくれる大人が周囲に入れば、柔軟に変わることもできます。こうして、新しい学びは、あっと間に、子どもたちの一部になります。大人も、子どものベービーステップで学ぶスキルに学んだ方がよいと感じます。

子どもたちの学ぶ力に驚いた経験を、シチズンシップ教育 ピースフルスクールの実践でも持っていたので、ある程度予測はしていたのですが、システム思考教育でも、同様に、子どもたちの吸収力がとても高いことがわかります。特に驚かされることは、子どもたちの実践での活用力です。教育学では、認知理解には段階があり、知識を持つこと、知識を理解すること、理解した知識を活用することと、最初の3段階を説明しています。大人は、知識を持つことや理解することは得意ですが、3番目の活用することが得意ではありません。ところが、子どもたちは、すぐに、3番目の認知理解に挑戦します。試すことによって、理解が深まることを子どもたちは知っているようです。好奇心を持ち、試して自分のものにしていくという学びの基本動作を、子どもたちは知っていて、それを実践しているのです。

西洋の基本動作の教え方

日本の教育は、教え込む傾向があります。しかし、思考を教える教育では、教え込みは通用しません。子どもに、答えではなく、考えるプロセスを教える必要があります。今回は、米国で生まれたシステム思考教育に取り組んでいますが、教え方という点では、オランダで生まれたシチズンシップ教育ピースフルスクールととても大きな共通点があることに気づきました。どちらも、考えるプロセスを丁寧に分解し、パーツに分けて教えています。

 

ピースフルスクールのもっとも大きな特徴は、小学校5,6年生が、学校中のけんかを仲介することです。すべてのけんかをした子どもたちは、仲介者の助けを得て、話し合いで仲直りをすることが学校の決まりになっています。どんなに頭にきていても、どんなに悲しくても、子どもたちは、心を落ち着かせて話し合いに臨みます。日本でも、このような取り組みが大切だと気づいた学校では、仲介のステップを教える授業を行っています。しかし、日本での教え方と、オランダの教え方には、大きな違いがあります。日本の教育は、仲介のステップを知識として伝え、ロールプレイで練習をすればできるようになると考えます。しかし、オランダの教育は、問題解決型のアプローチを取っており、なぜ仲介が難しいのか、をしっかりと考え、教育を設計しています。このため、子どもたちが、自ら問題解決を行える学校を創るために必要なコミュニケーション力をパーツに分けて教えます。人のものの見方の違いや、誤解が生まれる原因、怒りの温度計を使って自分の感情を俯瞰すること、建設的に批判を伝える方法など、様々な事柄を身につけた上で、仲介を実践する準備をします。

 

システム思考でも、同様に、幼児は、時間の経過とともに物事がどのように変化するのかを理解するために、時系列変化パターングラフを書く練習をします。縦軸に変数があり、横軸に時間が描かれているシンプルなグラフを学ぶのですが、そのために必要な能力用件が大きく4つに分類されています。何を変数に選ぶのか(Y軸)、時間の枠組み(分数、時間、月、年等)をどのように定義するのか(X軸)、グラフを描けるか、グラフをどのように説明するのか。今回は、幼児を対象としているので、絵本やデジタル映像を見て、グラフを書いてもらうことにしました。そのため、変数と時間の枠組みはあらかじめ決めて置き、子どもたちは、登場人物の気持ちや、自転車のスピードがどんな風に変化したのかをグラフにして、そのストーリーを語る練習をします。この練習を繰り返すことで、リフレクション(内省)する力や、将来を予測したり、想像したりする力を身につけることができます。

 

子どもたちが、システム思考を日々の生活の中でどのように活用してくれるか、今からとても楽しみです。

学びの啓発

2018.12.24文部科学教育通信 掲載

今年も、一年、様々な形で、「学び」」をテーマに啓発活動を行なっています。

「学び」は、誰にとっても、生活の一部であり、実践していることなので、なぜ、啓発活動が必要なのかと思われるかもしれませんが、啓発を通して、改めて、学びの奥深さを実感しています。

社会人基礎力の改定

今年、経済産業省が社会人基礎力を改定し、リフレクションという言葉が加わりました。リフレクションは、2003年に、OECDが、義務教育のガイドラインを発表した際に、その中核に置いた言葉です。リフレクションとは、前例を踏襲する(状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する)だけでなく変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動くために必要な力です。

リフレクションとの出会い

私が、最初にリフレクションという言葉に出会ったのは、日本教育大学院大学で教員養成を行なっている時でした。当時の私は、リフレクションが、なぜ、義務教育の中核となるが概念なのか解りませんでした。しかし、OECDが定義した義務教育のガイドラインがあまりにも、「美しく」整理されていたので、リフレクションがなぜそこまで大切なのかを理解するために、リフレクションについて学ぶことにしました。いろいろなことに取り組みましたが、その中でも、ドイツでの気づきがもっとも衝撃的でした。

ドイツ人のリフレクション

ドイツには、インダストリー4.0という国家戦略があります。日本でも、第4次産業革命と呼ばれる、テクノロジー革新に伴う産業革命を国家戦略に掲げています。指数関数的に進歩するマシーンラーニングをはじめとするテクノロジー革新に合わせて、産業のあり方を更新させていくことで、ドイツでは、アマゾンやグーグルを超える産業を生み出すことを目指しています。この国家戦略が生まれた背景に、リフレクションがありました。世界のIT トップ企業30社を並べると、26社のアメリカ企業がリストに入り、EUの企業は、4社しかリストに上がらないという現実を直視し、生まれたのが、インダストリー4.0という国家戦略であることを知りました。

ドイツでは、この議論に、15年以上もかけたと聞いて驚きました。大きなパラダイムシフトを起こすためには、様々なステイクホルダーを代表するリーダーたちが議論する必要があったのです。日本では、第4次産業革命という言葉は、政府が打ち出すたくさんの方針の中の一つであり、国家戦略とは言えません。最近では、ソサエティ5.0という言葉の影に隠れてしまっている考え方とも言えます。しかし、ドイツでは、インダストリー4.0が、中核の概念となり、働き方改革も、労働法の改定も、教育改革も進んでいます。この様子から、リフレクションとは、課題を直視する力であり、ビジョンを形成する力であることを学びました。

インダストリー4.0を掲げるドイツでも、わが国と同じように、課題山積です。ドイツは、日本同様、中小企業が、99.7%を占める為、テクノロジー革新は容易なことではありません。6割以上の企業が、インダストリー4.0に懐疑的であったり、投資力を持たないというのが現状です。しかし、15年以上かけて議論し、選択した国家戦略は、課題に直面しても揺らぐことはありません。課題を直視し、前に進むための方策を考え、問題解決を行えば良いのです。

リフレクションとは、過去を反省することではなく、過去を振り返り、現実を直視し、未来を創る力であるということを、ドイツから学びました。OECDが提唱している教育改革のガイドラインでは、問題解決力やテクノロジー革新を起こす力、多様性を包摂し、自分の幸せに責任を持つ力等が掲げられています。その全てにおいて、リフレクションと創造性が大事で、その中でも、中核となるのがリフレクションと記載されていた意味を、ドイツ訪問で初めて理解できたように思います。

リフレクションの啓発

教育改革や社会人育成をミッションに掲げて日々活動しているので、この気づきは、多くの人たちに広めるべきだと考えました。その一つの方策が、リフレクションを社会人基礎力に盛り込んで頂くことでした。

オランダを訪問した際には、4歳児が、リフレクションを行なっている姿を見ました。「3ヶ月を振り返り、一番誇りに思うことは何?なぜそう思うの?どこが一番苦労したこと?次にやるとしたら、どこを変える?」とても自然に先生が、子供に問いかけを行なっています。この発想は、私には全くありませんでしたし、日本では、ほとんど見かけない光景だと思います。教育を変える前に、大人が変わる必要があるという気づきを得たのは、この経験からです。

リフレクションの対象

現在、企業人に対してリフレクションを行う啓発活動を始めています。その活動を通して、改めて、リフレクションの奥深さを実感しています。同じ経験をしても、その意味づけは人により異なり、リフレクションの中身が変わります。リフレクションは、経験の中から、自分の学びに焦点を当てる作業ですから、何に焦点を当てるのかも、個人の選択になります。

このため、リフレクションの質を高めることがとても難しいことに気づきました。これまでの活動を通して、リフレクションの対象は、結果、他者、環境、自分の行動、自分の内面に分類されることがわかりました。リフレクションを行なっていても、結果、他者、環境を対象にしている人は、大事な学びを得ることができないことも解りました。自分の行動、自分の内面を振り返ることで初めて、次に活かせる学びを得ることができます。その前提として、結果や他者、環境の振り返りは大事ですが、自分自身の振り返りを行うことが必須です。

こうすればうまくいく!

振り返りの上手な人には、明確な目的意識があることが解ってきました。目的意識のある人は、行動の前に、仮説を持ちます。「こうすればうまくいくはずだ」と考え、行動します。結果は、期待通りの場合と、期待はずれの場合があります。いずれの場合も、彼らは学びます。この法則は合っていたという幸せな学び、あるいは、私には知らないことがあったという学び、いずれも自分のものにして行きます。うまくいかなければ、なぜ、うまくいかなかったのかを振り返ります。こうして、自分が知らなかったことに気づくので、失敗も、大事な学習の機会になります。

アンラーン

振り返りの先に、アンラーンがあることもあります。これまでの当たり前を手放し、新しい当たり前を手に入れることを、アンラーンと呼んでいます。アンラーンでは、価値観の転換が起きるとも説明しています。これまで、こうすればうまくいく、この考え方が正しいと思われていたことが、通用しないという場面に直面した時、人は、アンラーンを迫られます。

変化の激しい今日では、多方面から、アンラーンの必要性に迫られるので、軽やかにアンラーンすることが、幸せに生きるコツでもあります。そのためにも、リフレクションが大事になります。

自分は何を当たり前と考えているのか。それはどのような経験に基づく考えなのか、その考えは、今日、そして明日も当たり前なのか。そうではないのか。自分の考えをリフレクションすることは、アンラーンの準備とも言えます。

すぐにできること

うまく行ったこと、いかなかったことを、振り返り、成功の法則を見出すことから、初めてみていはいかがでしょうか。

大人(先生)と子どもの役割期待

2018.12.10.文部科学教育通信 掲載

人生の準備

2003年にOECDが、新たな教育方針を打ち出した際に、その理由として、これまでの教育では、子どもたちは、人生の準備ができないと述べていました。そして、新しい教育指針には、複雑な問題を解決する力として、3つの大きな領域を示しました。変化・複雑・相互依存の時代に生きる私たちには、これまでとは異なる能力が求められることを、とてもわかりやすく説明しています。

義務教育の指針として、どのような職業につく人にも必要な力として示されているキーコンピテンシーは、とてもレベルが高く、私自身を振り返る際にも、十分に活用できる厚みのある内容になっています。私は、この教育方針に感銘を受け、15年が経過した今日でも、バイブルとして活用しています。

 

もし、OECDの打ち出した教育方針が教育に反映される世の中であれば、明らかに子どもたちの能力は、我々よりも高まっているということになります。実際はどうでしょうか。OECDのキーコンピテンシーが提唱している教育には、学力以外にも、問題解決やテクノロジー活用、対人関係や主体性などの非認知能力も多く含まれています。その多くは、創造性に関連するものであり、実践学習が求められる領域です。このため、経験学習が必要になります。

 

経験学習

私たちは、子どもたちの経験学習を本当に許しているでしょうか。そこで気になるのが、過保護化のトレンドです。教育の仕事を始めた10年前に、はじめて、ある高校の先生から、「40歳成人説」という言葉を教えてもらいました。子どもたちは、20代で人生の選択を迫られるのに、40歳で成人するという考え方を知り、驚きました。しかし、その後、周囲を見回してみると、大学のオープンキャンパスに親が出向き、大学の卒業式にも親が参加し、大学の成績が実家に届き、会社を病欠する際に、親が会社に電話をする等、過保護化の流れが止まらないことに気づきました。これでは、いくら、教育が、アクティブラーニングを推し進めても、子どもたちは、時代が求める主体性を習得することはできません。高齢化社会の中では、10代の子どもたちは、十人に一人。縦社会の中で、子どもが、自分を表現する機会もないかもしれないと、心配になります。

管理者を必要としない人

そんな中、自分で考えて、行動することを奨励する動きは強まりを見せています。学校教育にも、その動きが見られますが、ビジネス界でも同様です。特に、若い企業では、その動きが加速しており、とても興味深いです。大きな流れは、管理される人から、管理者を必要としない人が集う企業の時代に向かっています。10年前には、管理者のいない組織を想像したこともありませんでしたが、今日では、たくさんの企業が、様々なチャレンジをしながら、管理者のいない組織を作りはじめています。

これからの時代の教育

これからの時代の教育が、主体性と経験学習に重点を置くのは、自然な流れであり、また、教育が時代を創っていくのでしょう。そのためには、一日も早く、私たち大人が、過保護になることを止めることが大切です。学校も親も、子どもに、自分で考え行動するスペースを与えること、経験学習を通して成長する楽しさをたくさん味あわせてあげることが大切です。

オランダのシチズンシップ教育を通して、私自身も、主体性と経験学習について学んでいます。その中でも、特に、感銘を受けたことを2つご紹介してみたいと思います。

 

 

約束とルールの違い

子どもたちに裁量を与える場合に、陥ってしまうのが自由放任という考えです。ところが、オランダのシチズンシップ教育は、子どもたちに裁量を与えながらも、大人がしっかりとグリップを握っているところがとても力強く感じます。

【ルール】

ルールとは、何をしてよくて、何をしてはいけないのかを決めたもの。

 

ルールとは、物事がスムーズに進むようにするためのものです。ルールは守らなくてはいけません。どんなクラスや学校にもルールが必要です。多くのルールは先生たちが決め、生徒たちはすべてのことに口を挟むことはできません。ルールは長期間使用されるものであり、多くの場合、一般的なものです。

【約束】

約束とは、お互いに守ると決めたこと。

約束はルールとは異なり、話し合いで決められます。生徒たちは一緒に話し合いに参加し、約束がいったん決まったら、クラス全体でそれを守ることが期待されます。約束を決めるためには、プロセスが大切です。生徒たちは自分の意見を述べることができ、約束について共同責任を負います。そのために、約束を承認する「場」を設けます。つまり、それは、「わたしたちの」約束だという自覚を生徒に持たせることが重要です。

子どもたちは、共同生活に必要なルールと、自分たちで決めることができる約束の2つの違いを理解し行動しています。また、ルールについては、校長先生にインタビューをし、なぜ、そのルールが存在するのかを理解した上で守るので、大人には説明責任が求められます。主体性を育むためには、「なぜ」を理解して行動することが欠かせないということも、シチズンシップ教育から学びました。

子どもと大人(先生)の役割期待

発達の過程にいる子どもたちに、100%の裁量権を与えることはできません。しかし、主体性を育むためには、失敗を許容する経験学習が必要です。このジレンマの中に、親も先生もいるのではないでしょうか。オランダのシチズンシップ教育では、その問題を解決するために、6段階のかかわリ方を定義しています。

1命令

先生が考えて決める。生徒は、先生の決めたことに従う。

2選ぶ

先生は、選択肢を提示し、生徒が選ぶ。

3意見を言う

先生の計画や決定に生徒が意見を聞かれて答える。先生は、生徒のよい意見を計画や決定に反映させる。

4.一緒に考える

計画から、先生と生徒が一緒に考え、最終決定は先生が行う。

5.一緒に決める

生徒が、計画・決定を行う場に、先生も参加し、一緒に実行する。

6.オーナーシップ

子どもが計画・実行を行い、先生は確認だけ行う。

この表に、日本では、0.過保護を加え、先生が問題を解決するを盛り込みました。

この6段階のかかわリ方を実践するためには、先生と生徒が、役割期待に対する認識を一致させる必要があります。また、一緒に決めるやオーナーシップの領域を実現するためには、先生と生徒の対等な関係、相互への強い信頼関係が必要になります。これは、親子でも、同様です。子どもだから親の言うことを素直に聞くということだけではなく、子どもを信じて、子どもの考えに耳を傾ける必要があります。

子どもたちが、人生の準備を行う教育を実現するために、大人が変わり続けることが大切です。子どもの素朴な質問に答えることで、大人も成長できるのではないでしょうか。

経験学習の質を高めるリフレクション

2018.11.26 文部科学教育通信 掲載

昨年12月に行われた経済産業省 我が国産業における人材力強化に向けた研究会「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」にて、リフレクションについての提案を行い、今年改定された新社会人基礎力にリフレクションを盛り込んでいただきました。

2003年に改定された世界の教育指針OECDキーコンピテシーの中で、リフレクションは、「状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定どおりに適応する能力だけでなく、変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え行動する能力」と定義され、変化・複雑・相互依存の時代に生きる子どもたちにとって、最も重要な力と位置づけられています。そこで、社会人には当然必要なことと考え、先の提案を行いました。

平行して、社会人にリフレクションを広める取り組みを進めており、経験学習の質を高めるフレームワークの作成に挑戦しています。今回は、そのフレームワークを皆様にご紹介いたします。( ①~⑤)

ぜひ、使い心地を試していただき、フィードバックを頂戴できますと幸いです。

今年の終わりをリフレクションで締め括ってみてはいかがでしょうか。

動機の源を知る

218.11.12.文部科学教育通信 掲載

「動機の意味は解りますが、動機に源が付くとどのような意味になりますか」そんな質問を頂戴しました。

動機とは、人が、意識的あるいは無意識に、ある状況において行動を選択・決定する要因のことです。職場においては、動機付けが話題の中心となり、モチベーションの高い状態で、みんなが仕事をしているのが理想の職場と考えられています。人々のモチベーションを扱うことは、リーダーの仕事のひとつです。

 

動機の源とは、人が、意識的あるいは無意識に、ある状況において行動を選択・決定する要因のさらに奥にある要因のことで、その人がとても大切にしている価値観、信念に当たります。スポーツが好きな人でも、ランニングが好きな人もいれば、テニスが好きな人もいます。バレーボールやサッカーなどのチームプレイが好きな人もいます。ランニングをしていると楽しい、テニスをしていると楽しいというのは、十分な動機になりますね。動機の源では、もう一歩踏み込んで、なぜ楽しいのかの理由を探求します。ランニングが好きな理由が、一人の時間や内省する時間を大切にしているからという人もいれば、景色を楽しむという人もいるかもしれません。自己ベストに日々挑戦している人もいるでしょう。ランニングの計画は、自分の意思と予定で決められることが望ましいと考える人もいるし、大会に出場することを目指し、勝つことを目的にしている人もいるでしょう。

 

動機の源は、人が生きる上でとても大切なものです。なぜうれしいのか、楽しいのか、意義があると感じるのか、その理由を自らに問いかけることができる人が、本当の自分を生かすことができるからです。

 

キャリアの選択

「大学を卒業し、就職をしたら生涯ひとつの企業で働き定年を迎える」このような生き方が、当たり前だった時代が終わり、人生において何度かキャリアを選択することが当たり前になる時代です。これまでのように、大人や社会が引いたレールの上を、一定の評価を得る形走っていれば安泰という生き方が存在しなくなります。目の前には、レールはなく、自らレールを引いていくことが求められます。その際に、必要になるのが、「自分が何を望んでいるのか」を知ることです。この問いに対する答えを見出す上で大切なのが動機の源を知っていることなのです。

 

自己認識

自分の動機の源を知るためには、自分を知ることが大切です。就職活動では、よく、自分を知るためにアセスメントを使用しています。アセスメントも、もちろん、貴重な情報源ですが、より重要なことは、自分の心の声を聴き取ることです。日々の生活の中でも、楽しく感じる時、残念な気持ちになる時と、私たちは、様々な感情の動きを感じ取っています。多くの場合、私たちはそこには無関心ですが、行動(身体)は感情に忠実で、自分の心に従って行動しています。動機の源を知るためには、「なぜ」を自分に問いかけ、自分の心が大切にしていることが何かを探求することが大切です。

動機の源の多くは、強い原体験に紐付いていることが多いです。また、原体験の中でも、幼少期の原体験は、とても大きなインパクトがるようで、動機の源の中でも、その人にとってとても大切なものになることが多いようです。無論、人によっては、大人になってからの体験が自分の信念につながっているという人もいます。生きるということは、経験するということですから、いつ何時、自分にとって大切な体験に遭遇するかは誰にもわかりません。一方、体験をしたら、すぐに動機の源を見つけられるという訳ではなく、自分に対して問いかける必要があります。「なぜ」を繰り返す習慣はとても貴重なものです。

 

私の動機の源

私は、教育に関心があり、誰から求められた訳でもなく、未来教育会議という任意団体を立ち上げ5年間活動を続けてきました。教育NPOティーチフォージャパンやラーニングフォーオールの立ち上げに参画し、ボランティア活動を続けています。元々、課題を解決することが好きだから、教育というテーマの中で、特に自分が課題だと思うことを選び、活動をしてきました。未来教育会議を始めたのは、ビジョンなき教育改革が人々を不幸にすると考えたからです。教育NPOに参画したのは、既存の組織や制度の中で解決できない教育課題を解決するためでした。

 

課題解決が好きだから、私は教育をテーマに活動する。これが、5年前の私の動機の源に対する理解でした。しかし、活動を進める過程で、様々な選択を迫られる中、課題解決以外にも、大事な動機の源が存在することに気づきました。私は、以前から、企業変革の仕事をしていましたが、その根底には、人が幸せになることを重要視していました。企業は、収益を出し続けなければ人を幸せにすることができません。そのために、企業は環境の変化に併せて変わり続けることが大切です。そう考えて企業変革を推進していました。一方、人は、企業の中で、与えられた仕事に取り組むだけでは幸せになれないと考えていました。これは、私の勝手な思い込みですが、これが私の動機の源につながります。私には、「人は、潜在的な能力を生かすことで幸せになれる」という信念があることに気づきました。

 

私は、今の教育が子どもたちを幸せにしないと考えています。特に、素直なよい子が、先生や親の期待通りに勉強しよい成績を上げて、よい学校を卒業しても、幸せになる確率が非常に低いことがとても気になります。社会人になって、突然、「君の意思はないのか」と尋ねられて、困る様子が想像できるからです。素直なよい子が、周囲の大人を信じて成長したのに、自分の潜在的な能力を活かすことができなくなる。そんな状態を想像すると、勝手に憤りを感じてしまいます。

 

企業の中でも、多くの人々は、自分を抑えて会社や上司の期待に答えることが懸命な生き方だと考えていますが、本当にそうでしょうか。企業で働く優秀な人々は、本来の能力の2割位で仕事をしているのではないかと思う場面が多いです。20代の時には、そのことがとても気になっても、30代、40代とその仕事の仕方に慣れてしまい、やがて、本来の能力を生かす力も減退してしまいます。中には、成長課題を抱えながらも、育成の機会を得ることがなく、50代で突然リストラにあう人たちもいました。もっと、若いうちに潜在的な能力を伸ばす機会があれば、違う人生になったのではないかと思うと、とても残念な気持ちになります。

 

私は、30代の前半で大きなキャリアチェンジに遭遇しました。家業でクーデターが起こってしまい、突然、父が会社を離れることになり、私の進退も問題になりました。幼子を抱えていた私に、会社は、仕事をしないという条件で、毎月20万円の給与を支払ってくれるというとても親切なオファーを出してくれました。しかし、私はすぐに断ったことを今もはっきりと記憶しています。私の頭の中には、「チャレンジがない=成長が止まる=未来の可能性が消える=リスク」というような方程式がはっきりと浮かんでいました。

 

教育機関の使命と役割

私には、教育に対する感謝と信頼もあります。私にとっては、ハーバードビジネススクールに留学したことがとても大切な教育経験になっています。そこで何を学んだのかということよりも、ハーバードビジネススクールの教育機関としての使命や役割に学ぶことが大きいと感じます。彼らが、グローバルな活動を本格化したのは、今から20年前です。現在、世界に14のオフィスを持ち、執筆されるビジネスケースの半数以上がアメリカ以外の世界のビジネスに関する内容になっています。教育機関として、自らを変容させていくことで、存在意義を高め続けていく姿勢が、人々の潜在的な能力を高め続ける教育を支えていると感じます。私にとっては、動機の源に通じるものがあり、このビーイングがとても魅力的に感じます。

皆さんも、ご自身の動機の源を探求してみてください。

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