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経済産業省 未来の教室実証事業

2019.01.14 文部科学教育通信 掲載

経済産業省の未来の教室実証事業で、幼児期のシステム思考教育にチャレンジしています。税金を使った事業を行うのは始めてのことなので、身の引き締まる思いです。

システム思考とは、複雑な物事を構造的に捉え、問題を解決するための道筋を描くためのアプローチで、環境問題の解決等、人類が直面する大きな課題を解決するために必要な力です。大きくて複雑な課題を解決する際には、課題そのものを俯瞰して捕らえる力が求められます。

 

幼児期からのシステム思考教育

世界でも、幼児からのシステム思考教育が盛んに行われています。マイクロソフトやボーイング社等数多くのハイテク企業が本社を置く米国ワシントン州では、理科の学習指導要領にシステム思考教育が含まれており、子どもたちは、幼児期から段階的に、教育課程の中で、システム思考を習得することができます。

 

持続可能な社会を維持することが、簡単なことではなくない今日、私たち大人にも、複雑な問題を解決するために、システム思考が求められるようになりました。私が、システム思考に出会ったのは、今から20年以上前ですが、システム思考を自分のものにするのは容易ではなく、現在でも、複雑な問題に対処する際には、専門家の力を借りています。

 

10年ほど前に、米国で、子どもたちがシステム思考を学ぶ様子を見学し、システム思考を、大人になってから学ぶよりも、幼児期からはじめる方が楽に学べることを知りました。人間は、生まれた時には、システム思考者であると、米国の専門家から教えないとことも、印象的でした。赤ちゃんは、誰から教えられた訳でもないのに、お腹が空くと泣いて、お母さんを呼びます。

私たちは、暑くなると汗をかき、体温が、ある一定以上に上昇することを防ぎます。こんな風に、人間の体は、システム思考を知っています。ところが、いざ、私たちが、無意識に活用しているシステム思考を、紙の上に表そうとすると容易なことではないのです。そこで、以前から、日本でも、小さい時から、システム思考を子どもたちが学ぶ環境を創りたいと考えました。

 

子どもの学ぶ力は大人より高い

実証事業は、まだ、始まったばかりですが、子どもたちの学ぶ力には、圧倒されます。大人が、システム思考を学ぶと、最初に感じることは、その難しさです。そして、失敗するリスクを恐れ、自らシステム思考を積極的に使おうとしません。その結果が、どのような学習効果につながるかは、ご想像のとおりです。ところが、子どもたちは、学んだら、即使うが鉄則です。子どもたちは、自分の理解したことを、リスクを恐れず使おうとします。もし、子どもたちが、間違っていたとしても、それをうまく軌道修正してくれる大人が周囲に入れば、柔軟に変わることもできます。こうして、新しい学びは、あっと間に、子どもたちの一部になります。大人も、子どものベービーステップで学ぶスキルに学んだ方がよいと感じます。

子どもたちの学ぶ力に驚いた経験を、シチズンシップ教育 ピースフルスクールの実践でも持っていたので、ある程度予測はしていたのですが、システム思考教育でも、同様に、子どもたちの吸収力がとても高いことがわかります。特に驚かされることは、子どもたちの実践での活用力です。教育学では、認知理解には段階があり、知識を持つこと、知識を理解すること、理解した知識を活用することと、最初の3段階を説明しています。大人は、知識を持つことや理解することは得意ですが、3番目の活用することが得意ではありません。ところが、子どもたちは、すぐに、3番目の認知理解に挑戦します。試すことによって、理解が深まることを子どもたちは知っているようです。好奇心を持ち、試して自分のものにしていくという学びの基本動作を、子どもたちは知っていて、それを実践しているのです。

西洋の基本動作の教え方

日本の教育は、教え込む傾向があります。しかし、思考を教える教育では、教え込みは通用しません。子どもに、答えではなく、考えるプロセスを教える必要があります。今回は、米国で生まれたシステム思考教育に取り組んでいますが、教え方という点では、オランダで生まれたシチズンシップ教育ピースフルスクールととても大きな共通点があることに気づきました。どちらも、考えるプロセスを丁寧に分解し、パーツに分けて教えています。

 

ピースフルスクールのもっとも大きな特徴は、小学校5,6年生が、学校中のけんかを仲介することです。すべてのけんかをした子どもたちは、仲介者の助けを得て、話し合いで仲直りをすることが学校の決まりになっています。どんなに頭にきていても、どんなに悲しくても、子どもたちは、心を落ち着かせて話し合いに臨みます。日本でも、このような取り組みが大切だと気づいた学校では、仲介のステップを教える授業を行っています。しかし、日本での教え方と、オランダの教え方には、大きな違いがあります。日本の教育は、仲介のステップを知識として伝え、ロールプレイで練習をすればできるようになると考えます。しかし、オランダの教育は、問題解決型のアプローチを取っており、なぜ仲介が難しいのか、をしっかりと考え、教育を設計しています。このため、子どもたちが、自ら問題解決を行える学校を創るために必要なコミュニケーション力をパーツに分けて教えます。人のものの見方の違いや、誤解が生まれる原因、怒りの温度計を使って自分の感情を俯瞰すること、建設的に批判を伝える方法など、様々な事柄を身につけた上で、仲介を実践する準備をします。

 

システム思考でも、同様に、幼児は、時間の経過とともに物事がどのように変化するのかを理解するために、時系列変化パターングラフを書く練習をします。縦軸に変数があり、横軸に時間が描かれているシンプルなグラフを学ぶのですが、そのために必要な能力用件が大きく4つに分類されています。何を変数に選ぶのか(Y軸)、時間の枠組み(分数、時間、月、年等)をどのように定義するのか(X軸)、グラフを描けるか、グラフをどのように説明するのか。今回は、幼児を対象としているので、絵本やデジタル映像を見て、グラフを書いてもらうことにしました。そのため、変数と時間の枠組みはあらかじめ決めて置き、子どもたちは、登場人物の気持ちや、自転車のスピードがどんな風に変化したのかをグラフにして、そのストーリーを語る練習をします。この練習を繰り返すことで、リフレクション(内省)する力や、将来を予測したり、想像したりする力を身につけることができます。

 

子どもたちが、システム思考を日々の生活の中でどのように活用してくれるか、今からとても楽しみです。

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