skip to Main Content

学びの啓発

2018.12.24文部科学教育通信 掲載

今年も、一年、様々な形で、「学び」」をテーマに啓発活動を行なっています。

「学び」は、誰にとっても、生活の一部であり、実践していることなので、なぜ、啓発活動が必要なのかと思われるかもしれませんが、啓発を通して、改めて、学びの奥深さを実感しています。

社会人基礎力の改定

今年、経済産業省が社会人基礎力を改定し、リフレクションという言葉が加わりました。リフレクションは、2003年に、OECDが、義務教育のガイドラインを発表した際に、その中核に置いた言葉です。リフレクションとは、前例を踏襲する(状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する)だけでなく変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動くために必要な力です。

リフレクションとの出会い

私が、最初にリフレクションという言葉に出会ったのは、日本教育大学院大学で教員養成を行なっている時でした。当時の私は、リフレクションが、なぜ、義務教育の中核となるが概念なのか解りませんでした。しかし、OECDが定義した義務教育のガイドラインがあまりにも、「美しく」整理されていたので、リフレクションがなぜそこまで大切なのかを理解するために、リフレクションについて学ぶことにしました。いろいろなことに取り組みましたが、その中でも、ドイツでの気づきがもっとも衝撃的でした。

ドイツ人のリフレクション

ドイツには、インダストリー4.0という国家戦略があります。日本でも、第4次産業革命と呼ばれる、テクノロジー革新に伴う産業革命を国家戦略に掲げています。指数関数的に進歩するマシーンラーニングをはじめとするテクノロジー革新に合わせて、産業のあり方を更新させていくことで、ドイツでは、アマゾンやグーグルを超える産業を生み出すことを目指しています。この国家戦略が生まれた背景に、リフレクションがありました。世界のIT トップ企業30社を並べると、26社のアメリカ企業がリストに入り、EUの企業は、4社しかリストに上がらないという現実を直視し、生まれたのが、インダストリー4.0という国家戦略であることを知りました。

ドイツでは、この議論に、15年以上もかけたと聞いて驚きました。大きなパラダイムシフトを起こすためには、様々なステイクホルダーを代表するリーダーたちが議論する必要があったのです。日本では、第4次産業革命という言葉は、政府が打ち出すたくさんの方針の中の一つであり、国家戦略とは言えません。最近では、ソサエティ5.0という言葉の影に隠れてしまっている考え方とも言えます。しかし、ドイツでは、インダストリー4.0が、中核の概念となり、働き方改革も、労働法の改定も、教育改革も進んでいます。この様子から、リフレクションとは、課題を直視する力であり、ビジョンを形成する力であることを学びました。

インダストリー4.0を掲げるドイツでも、わが国と同じように、課題山積です。ドイツは、日本同様、中小企業が、99.7%を占める為、テクノロジー革新は容易なことではありません。6割以上の企業が、インダストリー4.0に懐疑的であったり、投資力を持たないというのが現状です。しかし、15年以上かけて議論し、選択した国家戦略は、課題に直面しても揺らぐことはありません。課題を直視し、前に進むための方策を考え、問題解決を行えば良いのです。

リフレクションとは、過去を反省することではなく、過去を振り返り、現実を直視し、未来を創る力であるということを、ドイツから学びました。OECDが提唱している教育改革のガイドラインでは、問題解決力やテクノロジー革新を起こす力、多様性を包摂し、自分の幸せに責任を持つ力等が掲げられています。その全てにおいて、リフレクションと創造性が大事で、その中でも、中核となるのがリフレクションと記載されていた意味を、ドイツ訪問で初めて理解できたように思います。

リフレクションの啓発

教育改革や社会人育成をミッションに掲げて日々活動しているので、この気づきは、多くの人たちに広めるべきだと考えました。その一つの方策が、リフレクションを社会人基礎力に盛り込んで頂くことでした。

オランダを訪問した際には、4歳児が、リフレクションを行なっている姿を見ました。「3ヶ月を振り返り、一番誇りに思うことは何?なぜそう思うの?どこが一番苦労したこと?次にやるとしたら、どこを変える?」とても自然に先生が、子供に問いかけを行なっています。この発想は、私には全くありませんでしたし、日本では、ほとんど見かけない光景だと思います。教育を変える前に、大人が変わる必要があるという気づきを得たのは、この経験からです。

リフレクションの対象

現在、企業人に対してリフレクションを行う啓発活動を始めています。その活動を通して、改めて、リフレクションの奥深さを実感しています。同じ経験をしても、その意味づけは人により異なり、リフレクションの中身が変わります。リフレクションは、経験の中から、自分の学びに焦点を当てる作業ですから、何に焦点を当てるのかも、個人の選択になります。

このため、リフレクションの質を高めることがとても難しいことに気づきました。これまでの活動を通して、リフレクションの対象は、結果、他者、環境、自分の行動、自分の内面に分類されることがわかりました。リフレクションを行なっていても、結果、他者、環境を対象にしている人は、大事な学びを得ることができないことも解りました。自分の行動、自分の内面を振り返ることで初めて、次に活かせる学びを得ることができます。その前提として、結果や他者、環境の振り返りは大事ですが、自分自身の振り返りを行うことが必須です。

こうすればうまくいく!

振り返りの上手な人には、明確な目的意識があることが解ってきました。目的意識のある人は、行動の前に、仮説を持ちます。「こうすればうまくいくはずだ」と考え、行動します。結果は、期待通りの場合と、期待はずれの場合があります。いずれの場合も、彼らは学びます。この法則は合っていたという幸せな学び、あるいは、私には知らないことがあったという学び、いずれも自分のものにして行きます。うまくいかなければ、なぜ、うまくいかなかったのかを振り返ります。こうして、自分が知らなかったことに気づくので、失敗も、大事な学習の機会になります。

アンラーン

振り返りの先に、アンラーンがあることもあります。これまでの当たり前を手放し、新しい当たり前を手に入れることを、アンラーンと呼んでいます。アンラーンでは、価値観の転換が起きるとも説明しています。これまで、こうすればうまくいく、この考え方が正しいと思われていたことが、通用しないという場面に直面した時、人は、アンラーンを迫られます。

変化の激しい今日では、多方面から、アンラーンの必要性に迫られるので、軽やかにアンラーンすることが、幸せに生きるコツでもあります。そのためにも、リフレクションが大事になります。

自分は何を当たり前と考えているのか。それはどのような経験に基づく考えなのか、その考えは、今日、そして明日も当たり前なのか。そうではないのか。自分の考えをリフレクションすることは、アンラーンの準備とも言えます。

すぐにできること

うまく行ったこと、いかなかったことを、振り返り、成功の法則を見出すことから、初めてみていはいかがでしょうか。

Back To Top