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大人(先生)と子どもの役割期待

2018.12.10.文部科学教育通信 掲載

人生の準備

2003年にOECDが、新たな教育方針を打ち出した際に、その理由として、これまでの教育では、子どもたちは、人生の準備ができないと述べていました。そして、新しい教育指針には、複雑な問題を解決する力として、3つの大きな領域を示しました。変化・複雑・相互依存の時代に生きる私たちには、これまでとは異なる能力が求められることを、とてもわかりやすく説明しています。

義務教育の指針として、どのような職業につく人にも必要な力として示されているキーコンピテンシーは、とてもレベルが高く、私自身を振り返る際にも、十分に活用できる厚みのある内容になっています。私は、この教育方針に感銘を受け、15年が経過した今日でも、バイブルとして活用しています。

 

もし、OECDの打ち出した教育方針が教育に反映される世の中であれば、明らかに子どもたちの能力は、我々よりも高まっているということになります。実際はどうでしょうか。OECDのキーコンピテンシーが提唱している教育には、学力以外にも、問題解決やテクノロジー活用、対人関係や主体性などの非認知能力も多く含まれています。その多くは、創造性に関連するものであり、実践学習が求められる領域です。このため、経験学習が必要になります。

 

経験学習

私たちは、子どもたちの経験学習を本当に許しているでしょうか。そこで気になるのが、過保護化のトレンドです。教育の仕事を始めた10年前に、はじめて、ある高校の先生から、「40歳成人説」という言葉を教えてもらいました。子どもたちは、20代で人生の選択を迫られるのに、40歳で成人するという考え方を知り、驚きました。しかし、その後、周囲を見回してみると、大学のオープンキャンパスに親が出向き、大学の卒業式にも親が参加し、大学の成績が実家に届き、会社を病欠する際に、親が会社に電話をする等、過保護化の流れが止まらないことに気づきました。これでは、いくら、教育が、アクティブラーニングを推し進めても、子どもたちは、時代が求める主体性を習得することはできません。高齢化社会の中では、10代の子どもたちは、十人に一人。縦社会の中で、子どもが、自分を表現する機会もないかもしれないと、心配になります。

管理者を必要としない人

そんな中、自分で考えて、行動することを奨励する動きは強まりを見せています。学校教育にも、その動きが見られますが、ビジネス界でも同様です。特に、若い企業では、その動きが加速しており、とても興味深いです。大きな流れは、管理される人から、管理者を必要としない人が集う企業の時代に向かっています。10年前には、管理者のいない組織を想像したこともありませんでしたが、今日では、たくさんの企業が、様々なチャレンジをしながら、管理者のいない組織を作りはじめています。

これからの時代の教育

これからの時代の教育が、主体性と経験学習に重点を置くのは、自然な流れであり、また、教育が時代を創っていくのでしょう。そのためには、一日も早く、私たち大人が、過保護になることを止めることが大切です。学校も親も、子どもに、自分で考え行動するスペースを与えること、経験学習を通して成長する楽しさをたくさん味あわせてあげることが大切です。

オランダのシチズンシップ教育を通して、私自身も、主体性と経験学習について学んでいます。その中でも、特に、感銘を受けたことを2つご紹介してみたいと思います。

 

 

約束とルールの違い

子どもたちに裁量を与える場合に、陥ってしまうのが自由放任という考えです。ところが、オランダのシチズンシップ教育は、子どもたちに裁量を与えながらも、大人がしっかりとグリップを握っているところがとても力強く感じます。

【ルール】

ルールとは、何をしてよくて、何をしてはいけないのかを決めたもの。

 

ルールとは、物事がスムーズに進むようにするためのものです。ルールは守らなくてはいけません。どんなクラスや学校にもルールが必要です。多くのルールは先生たちが決め、生徒たちはすべてのことに口を挟むことはできません。ルールは長期間使用されるものであり、多くの場合、一般的なものです。

【約束】

約束とは、お互いに守ると決めたこと。

約束はルールとは異なり、話し合いで決められます。生徒たちは一緒に話し合いに参加し、約束がいったん決まったら、クラス全体でそれを守ることが期待されます。約束を決めるためには、プロセスが大切です。生徒たちは自分の意見を述べることができ、約束について共同責任を負います。そのために、約束を承認する「場」を設けます。つまり、それは、「わたしたちの」約束だという自覚を生徒に持たせることが重要です。

子どもたちは、共同生活に必要なルールと、自分たちで決めることができる約束の2つの違いを理解し行動しています。また、ルールについては、校長先生にインタビューをし、なぜ、そのルールが存在するのかを理解した上で守るので、大人には説明責任が求められます。主体性を育むためには、「なぜ」を理解して行動することが欠かせないということも、シチズンシップ教育から学びました。

子どもと大人(先生)の役割期待

発達の過程にいる子どもたちに、100%の裁量権を与えることはできません。しかし、主体性を育むためには、失敗を許容する経験学習が必要です。このジレンマの中に、親も先生もいるのではないでしょうか。オランダのシチズンシップ教育では、その問題を解決するために、6段階のかかわリ方を定義しています。

1命令

先生が考えて決める。生徒は、先生の決めたことに従う。

2選ぶ

先生は、選択肢を提示し、生徒が選ぶ。

3意見を言う

先生の計画や決定に生徒が意見を聞かれて答える。先生は、生徒のよい意見を計画や決定に反映させる。

4.一緒に考える

計画から、先生と生徒が一緒に考え、最終決定は先生が行う。

5.一緒に決める

生徒が、計画・決定を行う場に、先生も参加し、一緒に実行する。

6.オーナーシップ

子どもが計画・実行を行い、先生は確認だけ行う。

この表に、日本では、0.過保護を加え、先生が問題を解決するを盛り込みました。

この6段階のかかわリ方を実践するためには、先生と生徒が、役割期待に対する認識を一致させる必要があります。また、一緒に決めるやオーナーシップの領域を実現するためには、先生と生徒の対等な関係、相互への強い信頼関係が必要になります。これは、親子でも、同様です。子どもだから親の言うことを素直に聞くということだけではなく、子どもを信じて、子どもの考えに耳を傾ける必要があります。

子どもたちが、人生の準備を行う教育を実現するために、大人が変わり続けることが大切です。子どもの素朴な質問に答えることで、大人も成長できるのではないでしょうか。

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