skip to Main Content

PRESIDENT(プレジデント)2014年2.17号に記事を掲載していただきました

PRESIDENT(プレジデント)2014年2.17号の「あなたの未来を変える! 先手必勝、5つのスキル」にて、井上和幸様、小杉俊哉様と一緒に6ページにわたって活躍できる人の条件を解説しています。President 2014.2.17号.jpg

成功からも失敗からも糧を得る“リフレクション力”では、わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)を例に挙げて、リフレクションの重要さと3つのレベルについてふれています。

チームをつくってメンバーを生かす“プラットホーム力”では、Teach For JapanやLearning for Allの研修でも伝えているパーソナル・マスタリーの探求に基づくチームビルディングについて言及しています。

自分の世界観だけで考えない“上司操作力”では、会社やチームのビジョンに照らした他者とのコミュニケーションのあり方についてふれています。

ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

 

デジタル版:

http://www.fujisan.co.jp/product/5774/?gclid=COWg2NKyorwCFYZapQodfzgAow

 

タブレットを用いた反転授業 佐賀県武雄市の取り組み

文部科学教育通信 No.330 2013-12-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(40)をご紹介します。

 

先日、佐賀県武雄市の公立小学校で実施されている「タブレットを用いた反転授業」の公開授業を見学してきました。

子どもたちの「明日の授業、楽しみ!」という声や、授業中にまったく途切れることのない集中力に大変驚きました。
また、反転授業の醍醐味である「話し合いによる学びあい」といった21世紀の学校教育の様子を実際に見ることができ、多くの気付きや学びがありましたので、ご紹介します。

なお、細かな文言は武雄市で用いられているものと異なる場合がございます。

 

タブレットを用いた反転授業

タブレットを用いた反転授業とは、どのような授業を行うのでしょうか。20131121_武雄市反転授業3.JPG
授業前の準備、授業中、授業後に分けてポイントを示しました。

 ■ 授業前の準備

  <子ども>

タブレットを用いて次の授業に関する動画コンテンツを見る+手を動かして問題を解くという、二つの事前学習(予習)を行う。

 <先生>

集計システムを利用して子どもたちが事前学習で行った小テストの結果と感想を確認し、授業前に子どもたちの理解の度合いや苦手箇所を把握する。その情報を元に、授業をデザインする。

20131121_武雄市反転授業2.JPG

 <保護者>

子どもと一緒に動画コンテンツを見て、子どもたちがどのようなことを学習しているかを具体的に知る。

■ 授業中

 <子ども>

  • 事前に自分はどこがわからないかを把握しているため、意欲的に授業に臨める。
  • 「一人で考える時間」や「話し合いで学びあう時間」といった変化に飛んだ授業に、集中力が途切れることなく参加できる。

 

 <先生>

  • 従来の黒板や教科書、ドリルといった教材に加え、電子黒板・タブレットを駆使して授業を行う(*)。
  • 子どもそれぞれの進度に合わせた指導を行うことができる(躓いてしまった子どもをフォローし、理解が進んでいる子どもには更に理解を深める問題にチャレンジするように促す)。
  • 「子ども同士の話し合いによる学びあい」を聞いて、子どもたちが本当に理解しているのかをその場で確認できる。
  • 授業の最後に集計システムを用いて、子どもたちが授業中に行った確認問題や授業に対するアンケート結果を集計する。クラス全体の理解度や授業に対する子どもの意見を知り、授業後にリフレクション(内省)して、次の授業に活かすことができる。

 

■ 授業後

 <子ども>

  • 気になる箇所の動画コンテンツをもう一度見て(復習)、再度理解を深める。
  • 達成度テストを受けて、本当に理解できているかを確認する。

 

<先生>

  • 宿題の集計などをシステムで管理し、丸付けや点数入力といった作業に割く時間を減らすことができる。

 

今後改善することのできる課題点

子どもたちの学習意欲を向上し、主体的に学ぶことを促進する反転授業を、より多くの子どもが経験できるようになることが望ましいです。
その際、以下の課題を解決する必要があると考えます。

  1. タブレットや電子黒板といった新しいツールやシステムを、より多くの先生が使いこなすこと
  2. 導入や維持のコストを下げ、より多くの学校が捻出できるようにすること
  3. 動画コンテンツなどの教材を一般化すること

武雄市のように、公立の学校でも導入や維持のコストを捻出でき、ツールを用いて効果的な指導ができる先生のいる学校では問題ないのですが、そうでない学校も多いです。
たまたま反転授業を導入している学校に入学できたから良かったということでは、格差が広がってしまう可能性があります。生まれた地域や進学する学校を子どもが選択することは難しいので、学校単位での差が広がらないようにする必要性を感じます。

また、現時点では担当の先生と民間企業が協力して、担当の先生にあった教材を作っています。タブレットを用いた反転授業を広く展開する場合、より一般化された教材を準備する必要が出てきます。武雄市の教育関係の方々は、教材を一般化する策を考えているようですので、これからの動きに注目していきたいと思います。

 

反転授業を見学した感想

今回初めてタブレットを用いた反転授業を見学し、様々な発見と学びがありました。
 

①予習の有効活用

授業前の家庭学習時に、動画コンテンツで学習内容を先取りするため、授業に対する子どもたちのモチベーションが上がることがわかりました。どこが理解できて、どこがわからないかを子ども自身が把握することで、ただ漫然と授業を受けるよりも効果的であると考えます。「明日の授業、楽しみ!」という子どもの声を聞くことは、教育に携わる者にとって、かけがえのない喜びになると思います。

②特性に合わせた多様な学び

私が実際に見た算数の動画コンテンツ(台形の面積の求め方)は、画面上で図形が動き、音声での解説があるため、目と耳を使って理解を深めることができました。従来の教科書やドリルといった静的コンテンツではなかなか理解できなかった子どもにも効果があると思います。授業でも「一人で学ぶ時間」や「話し合いで学ぶ時間」が設けられているため、子どもそれぞれの特性(マルチプルインテリジェンス)に上手く働きかけることができます。子どもだけの話し合いで「台形の公式」を導き出しているのを見て、先生からの一方通行の授業ではなかなか実現できない学びが生まれていることを実感しました。

③進度に合わせた指導

授業の理解が追い付いていない子どもには、「一人で学ぶ時間」などを使って先生がサポートしていました。また、理解が進んでいる子どもには、よりチャレンジングな問題に挑戦するように促し、教室にいる子どもが誰一人として暇を持て余すことがなかったのが印象的です。普段の授業でこのような時間を設けることができると、落ちこぼれてしまう子どもを減らすことができると思います。

④授業効率の向上

従来の黒板や教科書といった静的コンテンツに電子黒板やタブレットなどの動的コンテンツやアイテムを組み合わせることで、授業の効率が上がると感じました。

算数の授業では、電子黒板に子どものノートを投影し、投影した映像の一部分を切り取り、他の子どものノートを投影したものと比較していました。先生が黒板に書き写すといった作業が発生しないため、効率よく授業が展開できていたのが印象的です。間延びしてしまう時間を極力つくらず、子どもが主体的に学ぶ時間を多く設けることで、集中力が続くことに感動しました。
 

反転授業は子どもの学習意欲を上げるための一つのソリューションとして、これからの教育に必要な視点であると思います。学習の楽しさを知れば、子どもたちは自主的に学習し続けます。

新しい取り組みのため、展開に際しての課題もあると思いますが、ひとつずつクリアすることで21世紀の学校教育をより良くしていけると確信しました。

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(3)

文部科学教育通信 No.329 2013-12-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(39)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(以下、LFA)の魅力をご紹介しています。

今回は、LFAのプログラム中の学生教師やスタッフの学び、子どもたちの変化についてお伝えします。

 

● 学生教師の学びについて

LFAの学生教師は、3カ月という短い期間で子どもたちとの信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるため、自らの学びを最大化します。

現場では常にPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回します。

学生教師は、初回授業の前に実施される「事前テスト」を穴が空くほど確認し、子どもたちの学力や学習意欲をチェックします。学生教師の中には、子どもが消しゴムで消した跡まで見て、どのような過程で問題を解いたかを確認している人もいます。

この事前テストと前回担当していた学生教師からの情報を元に、初回授業の準備をします。

この準備段階では、その子どもにあわせた指導案を書くこと、教材を準備するだけでなく、どのような声掛けをするかまで綿密に考えます。

また、指導のロールプレイを行い、スタッフからフィードバックを受けます。そのフィードバックを元に、様々な状況をシュミレーションし、授業に臨みます。

指導中は、子どもたちの反応を見ながら授業を展開します。準備していた内容では授業が上手くいかない場合は、その内容を一旦置いて、その子どもにあった指導を行います。この時に焦らずに対応できるのも、何度もロールプレイを行い、様々な状況をシュミレーションしているからです。

また、指導中、LFAスタッフが学生教師の指導を細かくチェックします。指導終了後、学生教師はスタッフからフィードバックを受けます。学生教師、スタッフを含むチーム全員が、子どもたちの成長を心から望んでいるので、お互いにフィードバックし合うことも厭わないオープンな関係が築かれています。

学生教師自身もその日の指導をリフレクション(内省)します。子どもたちの反応はどうだったか、想定していた授業とどこが違っていたか等、徹底的に振り返ります。

スタッフからのフィードバック、自身のリフレクション、他の教師のグッドプラクティスを元に、学生教師は次の指導準備を開始します。

学生教師が、私に以下のことを教えてくれました。

「子どもたち向き合うことを通じて、常に自分自身も学習し続けなければならないということを実感しました。以前と同じ授業をするだけでは、子どもたちの成長はありません。子どもの成長を絶えず実現するためには、自分の行動を変え続ける必要があります。」

この通り、学生教師は全力で子どもたちと向き合います。とてもエネルギーの要ることですが、LFAで学生教師を経験した学生は、次のプログラムでも再度採用教師となる者や、スタッフになって子どもと学生教師を支える者がとても多いです。

長期間LFAに携わる理由は、子どもたちの成長を身近で感じることができること、学生が学んでいるという実感が持てるところにあると聞きます。

学生教師の学びがLFAの活動を支えていることがわかります。

LFA画像.jpg

 

● LFAスタッフの学びについて

それでは、LFAスタッフはどのようなことを学んでいるのでしょうか。

あるLFAスタッフは、以下のことを私に話してくれました。

「学生教師をしていた時は、子どもの成長だけを考えて行動していました。プログラム終了後、どうしても子どもたちと関わっていたかったため、LFAスタッフになりました。

最初、子どもたちから遠くなってしまい、少し残念な気持ちもありましたが、現場で子どもたちを指導している学生教師の成長を支えることで、スタッフは、子どもから学生教師までの成長を考えられるポジションだと気が付きました。

また、スタッフ歴が長くなってくると、新しいスタッフの成長も考えることができます。プロジェクトマネージャーは、子どもたち・学生教師・スタッフの成長を促すことができるので、私自身もさらに成長できたと思います。」

LFAスタッフも、学生教師と同様、子どもたちの成長のために何ができるのかを自身に問い続けています。スタッフは、子どもが成長するためには学生教師が成長しなければならないことを知っているため、学生教師の成長を全力で促します。同じロジックで、学生教師が成長するためにはスタッフが成長し続ける必要があるため、スタッフも日々リフレクションし、自らの学びを最大化させる努力をしています。

また、LFAはスタッフ向けの研修も行っていて、新しい知識や情報をインプットすることも怠っていません。

このように、スタッフも学習し続けることが、LFAの強みであると考えます。

 

● 子どもたちの変化について

LFAの活動も、今年で3年以上となっています。継続的に学習支援を受けている子どもたちも複数います。その子どもたちの変化を一部ご紹介します。

LFAのアラムナイ(卒業生)から以下の報告を受けました。

「3年前に私が指導していた子どもは、小学6年生の女の子でした。当時、2~3学年の学習遅滞を抱えていたと思います。算数の事前テストを確認したところ、ほぼ白紙でした。よく答案を見ていると、計算をして答えを出しているのに、消しゴムで消してしまっている跡が見つかりました。その答えは正解だったのですが、消してしまっているため、点数になりません。私は、彼女がなぜ答えを消してしまったのかよく考えました。もしかしたら、自信がないのかもしれない。点数がつくことが恥ずかしいと思っているのかもしれない。点数が低いことで叱られると思っているのかも…。

色々と状況を想像して指導初日を迎えました。子どもたちに、『は苦手だけど、これから得意になりたい教科は何ですか?』と質問したところ、事前テストを白紙で提出した彼女が『算数が得意になりたい』と答えました。私はその答えにとても驚きましたが、彼女のその思いを叶えたいと強く思いました。

授業中、『なぜテストを白紙で提出したの?』とは聞かず、『間違えても大丈夫だよ。間違えたら、なぜ間違ったのかを考えて、次からできるようになれば良いんだからね』『計算の過程は消さずに残しておくと、後から自分がどう解いたのか確認できるよ。最後まで答えが出せなくても、途中の計算は残しておこうね』といった声掛けをしました。最初白紙だった問題用紙は、指導の回を重ねるごとに、力強い計算で埋まり始めました。授業中に質問する回数も増え、学習意欲が向上していることを感じました。

指導最終日に実施した事後テストでは、9割近い点数をあげることができました。このことが彼女にとってとても自信につながったようで、算数以外の教科も真剣に取り組むようになりました。」

3カ月という短いプログラム期間でここまで子どもの成長を促すことができるのは、学生教師とLFAスタッフの子どもたちに対する深い愛情と自らが学習し続ける姿勢があるからだと思います。

LFAは、これからも日本の子どもたちのために活動を続けます。ウェブサイトがありますので、ぜひご覧ください。

http://learningforall.or.jp/

 

保存

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(2)

文部科学教育通信 No.328 2013-11-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(38)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をご紹介しています。

第37回は、ラーニング フォー オール(以下、LFA)が「学習する組織」であることをお伝えしました。

今回は、LFAが提供している研修の魅力をお伝えいたします。

 

● LFAの学習支援の特徴

LFAは、春季・夏季・秋季・冬季のプログラムに分かれて、通年で学習支援を継続しています。これは、より多くの学生に困難を抱えた子ども達と向き合ってほしいというLFAの願いはあるものの、1年中学習支援に参加するという長期間のコミットメントを学生に強いると、参加できる学生が減ってしまう懸念があるからです。

そのため、LFAはプログラムごとに学生教師を採用しています。

そうすると、一人の教師が子ども達と向き合える期間は、長くても3カ月となります。

この3カ月という短い期間で、子ども達との信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるためには、現場に入る前に相当な準備をしておく必要があります。

そこでLFAは、過去の学生教師のナレッジ(経験知)や、子ども達とのコミュニケーションの取り方、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を上手く回す方法などを、研修を通して学生教師に伝えています。

学習支援の質を担保し、学生教師が無駄な時間を過ごすことなく効率的に指導に集中できるようにするため、研修は外すことの出来ないLFAの強みであると言えます。

 

● LFAの研修について

LFAは、2010年に学習支援の活動を開始して以来、採用した学生教師に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。

以下、LFAの研修が大切にしていることをまとめました。

1.子ども目線であること

全ての研修は、学生教師を通して子ども達に届けられるため、子どものことをよく考えた内容であることを重視しています。

LFAが学習支援をしている対象は、様々な困難を抱えている子ども達です。そのため、コミュニケーションの取り方や使用する言葉についても、その子ども達に受け入れられるものである必要があります。研修では、これらの情報を共有し、子ども達と学生教師がより良い関係を築けるベースをつくっています。

2.学生教師がすぐに実践できる内容であること

初めて現場で指導をする教師がぶつかる壁は、以前に別の教師もぶつかった壁であることが多いです。そのため、過去の教師がどういった工夫をして壁を乗り越えたか、どのようなやり取りをすることで子どもの学習意欲が向上したかといったナレッジ(経験知)を共有し、同じことで躓かないようにしています。

また、子どもとのコミュニケーションや指導の練習を、ロールプレイで実践します。
そのロールプレイに対して、過去の教師やスタッフがフィードバックをします。学生教師は、そのフィードバックをふまえ、より良いコミュニケーションや指導の仕方を習得していきます。何度も繰り返し練習することで、初回の指導でも緊張することなく、子ども達とのコミュニケーションがとれるようになります。

このような研修をすることで、継続して高いレベルの指導を子ども達にできるようになるため、子どもにとっても、学生教師にとっても有意義だと考えています

3.長期にわたって活用できる内容であること

2.では、すぐに使用できる実践的な研修の必要性を説明しましたが、それと同じぐらい重要なのが、時間をかけて学生教師に浸透し、LFAでの活動後にも使える内容であることです

例えば、LFAの研修では、リフレクション(内省)の重要性を何度も繰り返して伝えています。具体的には、研修後や指導後にリフレクションをして、次に活かす方法を考えるのですが、これはLFAのプログラムだけでなく、これからの人生のあらゆる場面で使うことのできるアクションです。

LFAは、学習支援を通して学生のリーダーとしての成長を支援していますので、プログラム後や学生が社会人になってからもLFAでの経験を活かせるように研修をデザインしています。☆使用 LFA研修画像2.jpg
 

● 研修での取り組みについて

LFAが研修でどのようなことをしているのか、一部ご紹介いたします。
指導前に行われる事前研修は、2日間で20時間、計18コマのレッスンを実施します。
各レッスンの内容を充実させることはもちろん、全研修を通して学習のサイクルにつながるように綿密にデザインされています。

事前研修1日目の前半は、学生教師もスタッフも初対面であることが多いので、チームビルディングやビジョン・ミッション・課題意識の共有を行います。

後半は、「LFAの研修について」でも挙げたように、学生教師としてのコミュニケーションの取り方や、リーダー/学習者としての教師の在り方についてなど、より実践的な内容を学びます。私が担当している研修は、この「リーダー/学習者としての教師」です。

事前研修2日目は、指導に直結する内容の研修を行います。

学生教師が担当する子どもの詳しい情報の共有や、指導案の作成法、学習習慣定着のための指導法、学習者目線の教授法、学習過程分析と仮説検証のための指導実践、そして指導のロールプレイを行います。

このように、研修初日には感情やマインドといったハートに働きかける内容の研修を多く行い、2日目は指導力を上げるための具体的な研修を集中して行っています。

初回の指導が終わったのち、中間研修という機会を設けています。

中間研修では、指導前に考えていたイメージと、実際に指導を行った時のギャップをどう埋めるのかを考えるため、課題解決のトレーニングを行います。

この課題解決の研修は、2011年頃までは事前研修に組み込まれていたのですが、実際に指導した経験がない状態(課題のない状態)でレッスンを受けても、なかなか定着しないため、初回指導後に研修を行うというシステムに修正されました。

前回、LFAが「学習する組織」であるとお伝えしましたが、このように、学生教師や子ども達のためにより役立つように、研修の構成も内容も常に磨き上げ続けています。既存の研修を見直し、新しい情報を取り入れることで、子ども達により良い学習支援を続けているのです。

 

● 「リーダー/学習者としての教師」という研修について

私は、2010年以降、事前研修の「リーダー/学習者としての教師」というパートを担当していますが、この内容も進化し続けています。その一部をご紹介します。

LFAと私は、リーダーを以下のように定義しています。

◇ 起こりうる最良の未来を実現するために、必要な気づきや能力を高め続ける「学習する組織」を創ることができる人

子ども達を導く教師こそ、リーダーであり、自らが学習者でなければなりません。

学生教師が上記のリーダーとなって子ども達と向き合うことができるよう、研修では、学生教師のロールモデルとなる「リーダーの物語」を共有します。

また、リーダーは文化を味方にし、学習する組織をつくることが必要であるため、ダイアログ(対話)の重要性やメンタルモデル(色眼鏡)に縛られないことの大切さ、チームビルディングについて詳しく説明します。

そして、学習者のリフレクションの大切さについても話しています。

今後も、子ども達へのより良い学習支援を目指し、研修内容を磨き上げていこうと思っています。

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(1)

文部科学教育通信 No.327 2013-11-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(37)をご紹介します。

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をお伝えしたいと思います。

私は、2010年のラーニング フォー オール(以下、LFA)の活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの運営に携わっている学生からも学んできました。今回は、これまでの活動を振り返りつつ、ラーニング フォー オールをご紹介する機会にしたいと思います。

シリーズ第1回は、LFAの概要をご紹介いたします。第2回では、LFAの独自の研修プログラムについて、第3回は、プログラム中の学習サイクルとプログラム後のリフレクションについてお伝えいたします。

ラーニング フォー オールについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子ども達の可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

団体のミッションは、次の3つです。

  1. 困難を抱えた子ども達の可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による“社会全体で教育を変える”システムを創る

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北・九州に拠点が広がっています。
2012年度までに、延べ1337人の子ども達に学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ445名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ152名となっています。また、2013年は既に春季、夏季のプログラムが終了し、現在は秋季のプログラムが始まっています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたのに、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。

持続可能な学習支援に向けて第37回 掲載写真.jpg

LFAは学生が運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子ども達により良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子ども達のおかれている状況に共感し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や子ども達の変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子ども達を支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうかも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。このように、LFAは、子ども達の成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 

学習する組織としてのラーニング フォー オール

LFAの一貫した活動についてふれましたが、団体設立時からこのような流れがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。
私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律を活動全体で体現しています。

学習する組織の5つの規律とは、以下の5点です。

①パーソナルマスタリー
パーソナルマスタリーパーソナルマスタリーとは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンをもち、ビジョンと現実との間のギャップを埋めるために、創造的な力を発揮するプロセスである。

②共有ビジョン
共有ビジョンとは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針を羅針盤のように示す。

③メンタルモデル
メンタルモデルとは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。自らのメンタルモデルとそれが周りに及ぼす影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルを見直す。

④チーム学習
チーム学習とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスである。メンバーは、ダイアログ(対話)を通して本音で腹を割って話をし、集団で気づきの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する。

⑤システム思考
システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用される。

 

私は、LFAのスタッフや学生教師向けの研修を担当する際、学習する組織の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えています。

 

LFAに参加している学生は皆、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといった①パーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この②共有ビジョンと個人のビジョンをすり合わせることを目的としています。

LFAに携わる学生は、③メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、④チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験知をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれがちですが、⑤システム思考を用いて、全体を眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、アプローチします。

このように、子ども達の学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

アショカ・ユースベンチャラー活動報告会「We are the Change」

文部科学教育通信 No.326 2013-10-28に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(36)をご紹介します。

 

アショカ・ジャパンの活動の一つに「社会のために行動を起こしたい」という想いを持ち、若者自らが始める活動を支援するアショカ・ユースベンチャーという取り組みがあります。ユースベンチャーの目的は、「参加する若者を将来のチェンジメーカーとして育てること」です。若者が日常で感じる「こんなことがおかしい」という気づきに対し、若者自らが起こす取組みを支援しています。この活動は、1996年に本国アメリカで始まり、今では日本を含む世界17か国に広がっています。日本での活動は2011年にスタートしました。通常のアショカ・ユースベンチャーのほかに、2011年3月の震災の後、「東北の未来のために何かしたい」と、立ち上がった若者を支援する東北地域限定の東北ユースベンチャーもあります。東北ユースベンチャーでは、2016年までに150人の東北ユースベンチャラーのネットワーク作りを計画しています。

アショカ・ユースベンチャー/東北ユースベンチャーの対象は自らがチェンジメーカーになって社会を変えたいと願う12歳〜20歳の若者です。候補者は、自分自身が具体的に取り組むアイデアを「活動プラン」にまとめ、パネル審査会で発表します。選考された若者は「アショカ/東北・ユースベンチャラー」として認定され、アショカ・ジャパンから10万円のシードマネー(活動立ち上げ資金)と社会人メンターからの活動アドバイスを受け、1年間、責任を持って活動プランを継続します。

 

●We are the Change

2012年9月から2013年8月までに合計28組、約140人の若いベンチャラ―が認定され、活動を続けています。先日、この若いチェンジメーカーが一同に会する第1回の大集会「We are the Change」が品川にて開催され、参加してまいりました。当日は、1年間の活動を終えた第1期・第2期ベンチャラ―による最終報告と第4期ベンチャラ―による中間報告が行われました。若いベンチャラ―の熱い思いがまっすぐに心に伝わる素敵なイベントでした。報告の中から印象に残ったベンチャラ―の活動をいくつかご紹介させていただきます。

◎堀池美里さん
「被爆ピアノ」のコンサート

被爆ピアノとは、1945年に広島と長崎に落とされた原子爆弾によって被爆したピアノです。堀池さんは、中学生の時に生徒会の一員として平和学習のために広島を訪れ、河本明子さんの被爆ピアノに出会いました。19歳の時、学徒動員中に被爆して亡くなった明子さんのピアノは、それから弾かれることのないまま眠っていましたが、平和を伝えるために修復され、展示やコンサートで使用されるようになりました。毎年、8月6日には原爆ドーム前でコンサートが開かれます。堀池さんは2003年のコンサートに参加し、明子さんのピアノとその音色に感動し、学校のみんなにも聞いて欲しいと思い、コンサートを企画しました。翌年、学校のホールで明子さんの物語を描いた劇とともに被爆ピアノコンサートを開催したところ、たくさんの生徒がピアノの音色と話に感動し、すばらしいコンサートになりました。 この感動を一人でも多くの人に味わってもらうために、堀池さんは学校という枠を超えて被爆ピアノコンサートを行っています。若者が「被爆」のことを知り、平和を考えるきっかけになるよう、今後もコンサートを行うだけではなく、意見や感想を共有する交流会も企画しています。

◎田畑 祐梨さん
震災の経験を伝える「語り部」活動

宮城県南三陸町の仮設住宅に住む田畑さんは、一向に進まない復興に、いら立ちを覚え、大人達に失望します。しかし、そんな大人達に頼り、何もしてこなかった自分にも怒りを感じ、自ら行動することを決めます。2013年3月11日から約半年間に日本の若者と外国の方々約2000人に対し、震災の経験を話す「語りべ」活動を行ってきました。

半年間の語りべ活動を通して、田畑さんはこれからの支援活動について考えるようになりました。東日本大震災から2年半たった今も、被害を受けた地域の人々は、漠然とした未来への不安や、なかなか進まない復興活動に対する葛藤と戦い続けています。そして、「2年半たった今、支援者が被災地にいつまで来てくれるのだろうか」と忘れ去られることを不安に思っています。そこで、田畑さんは、これからは「支援」という形ではなく、「語ること」を通して支援者と「つながる」ことを目標に、今後も活動を続けていくことにしました。田畑さんの語りべを聞いた多くの人が、「また、会いに来るね」と言って自分の故郷に帰っていきます。そのたった一言が、町の人たちの「次に来てもらえる時までに、この街を良くしておこう」という、今後も踏ん張る力になっています。田畑さんは、南三陸町の語りべ活動のほかに、遠方からでも活動に参加できる新プロジェクトを企画中です。

◎大前拓哉さん
被災地を訪れるバスツアーを企画

大前拓哉さんは、Investorという団体を作り、関西の学生を対象に東北地方を巡る「バスツアー」を運営しています。このツアーでは、観光地のほか被災地を訪れて、被災者の方々から直接体験談を聞いたり、地元の小学校で行われるスポーツ教室や運動会などを手伝って、実際の支援活動を行ないます。東北地方の「今」を知り、地元の方々と密接に触れ合える体験型のバスツアーです。ツアーを通じて参加者の学生に被災地を知ってもらい、東北を大好きになってもらおうという狙いです。

また、大前さんは、このツアーを通じて出会った気仙沼の高校生を彼が住んでいる大阪や京都に連れてきて、大阪を好きになってもらう「逆ツアー」も企画しました。実施した関西ツアーを振り返り、「関西の良さを知ってもらう楽しい旅を企画できたことはよかったが、関西にも問題はあるし、良くない所もある。良い面ばかりではなく、関西の課題も共有することで、より深い繋がりを実現できるツアーになるのでは・・・」と次のツアーに向けて、改善点を挙げていました。

 

●魚釣りを教えるのでなく、漁業全体に革命を起こす
アショカは、1981年に、ビル・ドレイトン氏により創立されたチェンジメーカーを育てる活動を行っている財団です。ビル・ドレイトン氏が、この活動を始めたきっかけは、19歳の時、2か月間インドを旅し、どうしようもない貧困を目の当たりにしたことでした。この問題を解決したいと考えましたが、その当時の彼には、何もすることができませんでした。まず、世の中を動かす仕組みを知ろうとハーバード、オックスフォード、エールの各大学に学び、大手経営コンサルタント会社のマッキンゼーで、官民両方の顧客を担当し幅広い経験を積みました。人づてに、インドで教育に取り組むグロリア・デ・ソウザという女性のことを知り、彼女の活動に資金的な支援を行うことを始めたこと(アショカフェロー第1号)が、アショカの始まりです。ビル・ドレイトン氏は、「魚釣りを教えるのではなく、漁業全体に革命を起こす」つまり、システム変革を起こす人を育て、活動を支援することを目指しています。

日本では、アショカ・ユースベンチャーの他にも、高校生や大学生を巻き込んだ多くの取り組みが行われています。それらの取り組みと、アショカの大きな違いは、「大人が取り組みに介入し、成功に導く支援をしないこと」です。若者が、自分の力で取り組み、成功や失敗の中から学び、目標を達成することで、チェンジメーカーになるための心の習慣とスキルを共に習得することがアショカ・ユースベンチャーの狙いです。アショカという文化の中で育った若者が、これからの社会にどのようなインパクトを与えてくれるのか、本当に楽しみです。

 

わかりやすいプロジェクト【国会事故調編】の英語版イラスト動画ができました!

わかりやすいプロジェクト (国会事故調編) ( http://naiic.net/ )は「福島原発事故では何が起こったのか」「福島原発事故の教訓とは何か」をひとりでも多くの方たちと共有することを目指しています。
2013年9月に、国会事故調報告書の要点を「短時間で概観できる」 イラスト動画 (6篇) をホームページ上に公開しましたが、さらに世界に向けて、ひとりでも多くの方と共有するため英訳版 を作成し、本日からホームページ上で公開しております。ぜひご覧ください。

【イラスト動画の内容】

  1. 国会事故調ってなに? What is the NAIIC?
    http://youtu.be/Ki6vCEhjAZc(2分11秒)
  2. 原発事故は防げなかったの? Was the nuclear accident preventable?
    http://youtu.be/DJVRBkMPlz4(2分52秒)
  3. 原発の中でなにが起こっていたの? What happened inside the nuclear plant?
    http://youtu.be/K4IrZY269ro(2分27秒)
  4. 事故の後の対応をどうしたらよかったの? What should have been done after the accident?
    http://youtu.be/dtJ8gvnKp-E(3分15秒)
  5. 被害を小さくとどめられなかったの? Could the damage be contained?
    http://youtu.be/O-ghbTy_HvY (3分02秒)
  6. 原発をめぐる社会の仕組みの課題ってなに? What are the issues with nuclear energy?
    http://youtu.be/0IHL_GIgv1o(2分38秒)


「わかりやすいプロジェクト (国会事故調編)」( http://naiic.net/ ) は、社会人、学生有志により2012年9月に発足しました。勉強会やワークショップ、講演会などを開催し、議論や対話を重ねています。プロジェクトに興味をお持ちの方はぜひご連絡ください。

【本件連絡先】

わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)  http://naiic.net/
Email: simple.project2012@gmail.com

いじめサミット

文部科学教育通信 No.325 2013-10-14に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(35)をご紹介します。

生徒会活動をする中学生が意見交換する「全国生徒会サミット2013~いじめ撲滅宣言」が9月24日、オリンピック記念青少年総合センターで開かれました。全国から43中学校の生徒45人が参加し、8グループに分かれて、いじめの事例やいじめの防止策について話し合いました。作成したアクションプランを翌日、下村文部科学大臣の前で発表し、いじめ撲滅宣言を行いました。

 

●いじめに関するアンケート

サミットの開会に先立ち、参加者はNHKのハーバード白熱教室、マイケル・サンデル教授の「15歳の君たちと学校のことを考える」というTV番組のDVDを見て、次の質問に答えました。

1)DVDを見て共感したことは何ですか?

2)DVDを見て違和感を感じたことは何ですか?

3)いじめはなぜ起こると思いますか?撲滅することはできると思いますか?

4)自分はいじめる方ですか?いじめられる方ですか?傍観者ですか?また、なぜそう思うのですか?

生徒のアンケートを分析してまとめたところ、以下のようないじめの原因、継続する理由が明らかになりました。

<いじめの原因>

  • 多様性を認めない文化(外見、行動など自分たちと違うところがある人や自分より劣っている人を認めない)
  • 嫌われることや孤独になることへの恐怖感(自分がいじめられたくないからいじめる)
  • 先輩・後輩などの上下関係
  • ストレスの発散の場(受験のストレス、恋愛問題、学力・運動能力の差、自分に対する自身の欠如、認められないことに慣れていない)
  • 共感力の欠如(相手の気持ちを知らないし、知ろうともしない)
  • コミュニケーション力の欠如(言葉にしないで、自分の中で納めておけばよいことを言葉にしてしまう)
  • いじめの陰湿化(通常は普通に接しているのに、陰でこそこそいじめる ⇒ 陰湿化しているので周りが気づきにくい)
  • インターネット上のいじめ(ネット上でのいじめは周りから見えにくい)

<いじめが継続する理由>

1.相談できない

  • いじめられていると認めるのは負けを認めること
  • いじめられていると認めるのは恥ずかしいこと
  • 学校、先生は信用できない
  • 相談しても解決したことがない
  • 親を心配させたり、がっかりさせたくない

2.傍観者の存在

  • 告げ口をして、次のターゲットになることへの恐れ
  • 面倒な事に巻き込まれたくない
  • いじめている友人との関係性を壊したくないから注意できない
  • いじめに気づけない結果、傍観者になっている


●問題解決的アプローチ

生徒たちに、いじめ問題に対して問題解決的なアプローチで、取り組んで欲しいと願い、オランダとアメリカの子どもたちの問題解決事例を紹介しました。

 

<オランダのピースフルスクール>

日本のいじめ問題の状況は、1990年代初頭、いじめが大きな社会問題となったオランダの状況と似ています。大人の介入が逆効果だったことから、生徒全員に当事者として問題の解決に関わってもらい、学校全体の文化を民主的なものに改善していくためのプログラムが開発されました。このプログラムでは、いじめの構造を以下のように説明しています。

 

・いじめの構造いじめの構造

お互いが、からかいを楽しいと感じている間は、いじめではありません。しかし、からかわれている側が不快だと感じた時点で、遊びではなくなり、いじめの構造が生まれます(図)。いじめには、いじめている生徒に加わっていじめを拡大する‘加担者’といじめを見て見ぬふりをする‘傍観者’という存在があります。傍観者は、いじめに加担はしませんが、いじめを解決する手助けもしません。いじめがある環境が嫌だと感じつつも、いじめられている側を助けて、巻き込まれないように、傍観者となっているのです。そのため、それほど悪いことをしているという感覚がなく、集団圧力となっていじめを支えています。

 

・生徒による仲裁

このプログラムでは、喧嘩や問題が起きると、学校内の仲裁役のところに行き、大人の力を借りずに自分たちで問題を解決するという仕組みがあります。仲裁役を希望する生徒が自ら立候補し、クラスの承認を受けた後に、数回の研修を受けて、仲裁役としてスタートします。今回はサミットの参加者に、生徒自らが仲裁を行ない、問題を解決している動画を見てもらいました。

 

<システム思考による問題解決>

米国アリゾナ州のツーソンでは、3人の小学1年生がシステム思考を使って、校庭での喧嘩を分析していました。喧嘩は、相手に対するちょっとした悪口から始まりました。発した言葉が相手を傷つけ、傷ついた相手がさらにひどい言葉を返してきて、お互いの関係がどんどん悪化していったのです。子どもたちは、この関係性をシステム思考の自己強化型ループであると理解し、ループを断ち切る方法を考えました。たとえ、相手にひどいことを言われても、ひどい言葉で返さない(良い言葉で返す)ということで、悪循環のループを断ち切ることができることを、子どもたち自身が発見しました。

 

●現代のいじめのあいまいさ

いじめの実態を正しく理解した上でアクションプランを考えようということで、生徒たちはグループに分かれていじめの事例を洗い出しました。そこで、明らかになったのは、現代のいじめのあいまいさです。椅子に画びょうを置くとか、下駄箱の靴を隠すというような明らかないじめであれば、本人も周りもそれと気付き、誰かに相談することができます。でも、実際には、最初はいじめかどうかも気が付かないグレーゾーンのいじめが多いのが現実です。単なる不快な出来事が、いじめのような状況にまで発展してしまうのは、言いたいことを相手に面と向かって伝えることができないコミュニケーション力の不足が背景にあります。

 

 

●いじめ問題解決のためのアクションプラン

最後に、生徒たちが下村大臣に提出したアクションプランをご紹介させていただきます。

・いじめ討論会などイベント化して定期的な話し合いの場を持つ(全校で考え、解決、防止する)

・いじめ問題を解決する仲裁者育成プロジェクトを始める

・道徳や学活の時間を使い、いじめについての授業を設ける

・事例やいじめの構造を考えたり、みんなで話し合いの場を持つ

・意見箱を設置し、テーマを決めて投稿してもらい、それをもとにクラスで話し合う。結果をクラスの代表が報告し合う

・いじめについてのアンケートを取り、アンケートを基にクラスで話し合う。意見をまとめて集会や校内新聞で発表する

・悪いことは悪いと言える環境作りをする

・クラス、学校、地域でお互いのことをよく知る

アクションプランを見ていただければわかるように、ほとんどが先生や親に頼らず、自分たちの力でいじめ問題を解決しようとする意見です。自分たちで問題を解決するための仲裁者の導入や生徒同士の話し合いや交流を通じて、クラスや学校の雰囲気を改善しようする考え方は、まさにピースフルスクールの目指すところと一致しています。生徒同士が互いに敬意を持ち、独立心と責任感を持って安心して過ごせる学校こそがいじめ問題の解決につながるという確信を得ました。

 

 

 

保存

保存

クマヒラセキュリティ財団 ウェブサイトが新しくなりました!

クマヒラセキュリティ財団の新ウェブサイトをリリース致しました。

当財団は、教育と学習のイノベーションを通して、安心安全な社会の実現に貢献して参ります。

教育と学習のイノベーションの第一弾として、オランダの初等教育プログラムであるピースフルスクールの日本での導入に取り組んでおります。

ピースフルスクールは、建設的に議論して意思決定する習慣や、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを教え、将来の民主的な社会の担い手となり、平和な社会を構築する人材を育てます。子どもだけでなく、大人である私たちにとっても学ぶことがとても多いと考えております。

ピースフルスクールに関するウェブサイトも同時にリリース致しましたので、ぜひご覧ください。

 

 

子どもたちの未来とシチズンシップ教育

文部科学教育通信 No.324 2013-9-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る34をご紹介します。

 

先日、ビジネス社会に生きる方々を対象に、オランダのシチズンシップ教育についての講演を行いました。ビジネス社会の視点で、シチズンシップ教育をご紹介してみたいと思います。

 

ご紹介の機会をいただいたのは、KAE(山城経営研究所)が主催する実践経営大学です。山城経営研究所は、世界に通用する「日本経営学」の確立に情熱を注いできた山城章(一橋大学名誉教授)によって、1972年に創立されました。こちらの主催する「経営道フォーラム」に以前、参加させていただいたご縁で、講演の機会を頂戴いたしました。

 

いうまでもなく、ビジネスと教育には、強い関係があります。戦後、日本の経済復興を猛スピードで成功に導いた背景には、日本の教育の強さがありました。日本の教育は、工業化社会を支える質の高い画一的な人々を大量に生産することに成功し、有能な人々が、工場の品質を支えました。緻密で正確な情報処理能力を持つ日本人は、その勤勉さにおいても、世界に誇れる能力を持っていました。ビジネスと教育が一体となり、日本の高度経済成長を支えてきたのです。

 

ところが、今日、ビジネスと教育は、その一体感を失いました。時代の変化とともに、ビジネス社会が求めているものが変わり、日本企業の世界における役割が変わりました。豊かな社会に生きる個人においても、多様な生き方の選択肢が生まれました。もし、教育の真の目的が、「人生の準備をすること」であるならば、このような時代にこれまでと同様の教育を行うことが、間違いであることは明らかです。我々、大人たちは自分たちが受けてこなかった教育を、子どもたちに提供する必要があります。それが、21世紀に生きる子どもたちが、「人生の準備をすること」だからです。

 

子どもたちが生きる未来

子どもたちが生きる未来は、私たちが生きてきた時代とどのように違うのでしょうか。

 

第1に、難しい問題を解決しなければ、幸せを手に入れることができない時代になりました。地球温暖化をはじめとする環境問題は、20世紀を駆け上ってきた我々が、自然資本を我が物として活用してきた結果、生まれた課題です。そして、地球規模に広がった経済成長熱を誰も止めることができません。地球は、管財人なしに、子どもたちの未来をより難しくする方向に向かっています。

 

第2に、日本では、安全神話に支えられた原発が、前例のない事故に見舞われ、その当事者すら対処することができない状態にあります。国会事故調査報告書が作成された後も、基本となる透明性はあいまいで、本質的な問題解決は始まっていません。失敗を認めることができない日本の文化は、21世紀の学習能力の要と言われているリフレクション(内省)の力を有しておらず、日本の子どもたちは、リフレクションを学ぶ機会すらないのです。リフレクションができないことが、21世紀において致命的である理由は、100%正しい答えを見つけるまで行動できないか、失敗してあきらめるかのいずれかの選択肢しか持てないからです。勇気を持って行動し、行動の結果を振り返り、再び学び直して、目的に到達するという学習能力を持たない大人になるのです。

 

第3に、世界では、紛争が絶えません。20世紀は戦争の時代と言われ、21世紀は平和の時代になることを期待していましたが、紛争のなくなる兆しはありません。一方、インターネットの普及により世界が繋がり、経済活動のグローバル化が進展する中で、世界の移民の数は2億1千万人以上に膨れ上がりました。子どもたちは、自国の平和のみならず、世界の平和に貢献するという役割を果たすことが求められます。

 

第4に、WHOの調べによりますと、2000年に、世界全体の年間自殺者数は戦争犠牲者の2倍以上となっており、私たちの創り出した社会は、多くの人々にとって生きにくい状態になっています。今後、ますます激化するグローバル経済活動は、社会や家族、人々の人生に大きな影響を与えます。持続可能な経済成長と、心の平和を同時に実現する社会を創るという、新たな社会創りも、子どもたちの未来の仕事なのです。

 

現在、グローバル人材の育成において、英語力の向上がうたわれていますが、英語力と同時に、人々と対話を通して意思疎通し、アイディアを創造していくプロセスに参画する力が不可欠です。もちろん、このことは、日本語におけるディスカッションにおいても同様に必要な力です。

多様な人々と話し合いにより問題を解決する力がなければ、今日のほとんどの問題は解決することができません。地球の自然資本をどのように分け合うのか、原発事故から何を学ぶのか、エネルギー政策をどのように考えるのか、紛争ではなく平和にどのように導くのか、国内に広がる富の格差にどう対処するのか、経済の発展と子どもたちと未来の幸福をどうすれば共に実現できるのか。

 

まだまだリストを増やすことができますが、このような時代だからこそ、日本の子どもたちにも「地球市民として生きる」教育を届けたいという強い衝動に駆られ、オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」を日本語化し、世の中に広める活動をしています。

 

オランダの「ピースフルスクール」

オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」では、小学校5、6年生が仲裁役として喧嘩の仲裁ができるまでに成長します。仲裁役の子どもたちの様子を見ると、その成熟した様子に、自分が恥ずかしくなるほどです。仲裁役には、以下のような力がしっかりと身についていました。

  • 主体的にそこに立つことができる
  • 客観的に、自分自身を見つめることができる
  • 自分の感情をコントロールすることができる
  • 他者の気持ちを理解することができる
  • 他者の気持ちに共感することができる

 

このような力を身につけた仲裁役は、温かく、冷静に、包容力を持ち、喧嘩で感情のコントロール能力を失っている子どもたちの間に立ち、当事者同士が、喧嘩の問題解決を進めるプロセスを支援することができます。

 

小学6年生では、世界で起きている紛争について学びます。紛争も結局は、3つの理由が原因で起きています。1つは、価値観の違い、2つ目は、不足しているものの取り合い、3つ目は、相手への迷惑。 その対応策にも3つあることを学びます。第1は攻撃する、第2は交渉する、第3は譲歩する、です。 小学校1年生の時から、子どもたちは、赤い帽子(攻撃)、青い帽子(言いなり)、黄色い帽子(話し合い)という対立への3つの対処方法の違いを学び、黄色い帽子で対処する練習を繰り返します。子どもたちが、「子どもたちの社会」である学校において、話し合いで紛争の解決をするという経験とスキルを習得することで、将来、話し合いにより対立を解決することができる大人へと成長する、という確信を持ち、教育に取り組んでいます。このような力を持って初めて、学習した知識が問題解決に活かされるのです。これが、21世紀を幸せに生きるための「人生の準備」となる教育の一つであると確信しています。

 

2013年の先進国における子どもの幸福度を調査したレポート*1で、オランダは2007年に引き続き、子どもの幸福度が総合1位であると評価されました。オランダの子どもたちが幸せであることの一つは、大人たちが、子どもの未来に必要な「人生の準備」をする教育を考えていることだと思います。

 

日本の教育改革の最重要課題

子どもたちは、大人以上に、学びの達人です。日本では、子どもたちの学ぶ意欲の低下が問題であると言われていますが、それは、子どもたちの問題ではなく、学びを提供する大人側の問題です。自分にとって本当の学びを得る機会をもつことができれば、子どもたちの学ぶ意欲はすぐに目を覚ますでしょう。21世紀という時代を見つめ、子どもたちに本当に必要な学びは何かについて、社会における合意形成を確立することが、今、日本の教育改革において最も重要な課題であると思います。

 

*1 UNICEF 「Child well-being in rich countries」 Report Card11(2013)

Back To Top