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タブレットを用いた反転授業 佐賀県武雄市の取り組み

文部科学教育通信 No.330 2013-12-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(40)をご紹介します。

 

先日、佐賀県武雄市の公立小学校で実施されている「タブレットを用いた反転授業」の公開授業を見学してきました。

子どもたちの「明日の授業、楽しみ!」という声や、授業中にまったく途切れることのない集中力に大変驚きました。
また、反転授業の醍醐味である「話し合いによる学びあい」といった21世紀の学校教育の様子を実際に見ることができ、多くの気付きや学びがありましたので、ご紹介します。

なお、細かな文言は武雄市で用いられているものと異なる場合がございます。

 

タブレットを用いた反転授業

タブレットを用いた反転授業とは、どのような授業を行うのでしょうか。20131121_武雄市反転授業3.JPG
授業前の準備、授業中、授業後に分けてポイントを示しました。

 ■ 授業前の準備

  <子ども>

タブレットを用いて次の授業に関する動画コンテンツを見る+手を動かして問題を解くという、二つの事前学習(予習)を行う。

 <先生>

集計システムを利用して子どもたちが事前学習で行った小テストの結果と感想を確認し、授業前に子どもたちの理解の度合いや苦手箇所を把握する。その情報を元に、授業をデザインする。

20131121_武雄市反転授業2.JPG

 <保護者>

子どもと一緒に動画コンテンツを見て、子どもたちがどのようなことを学習しているかを具体的に知る。

■ 授業中

 <子ども>

  • 事前に自分はどこがわからないかを把握しているため、意欲的に授業に臨める。
  • 「一人で考える時間」や「話し合いで学びあう時間」といった変化に飛んだ授業に、集中力が途切れることなく参加できる。

 

 <先生>

  • 従来の黒板や教科書、ドリルといった教材に加え、電子黒板・タブレットを駆使して授業を行う(*)。
  • 子どもそれぞれの進度に合わせた指導を行うことができる(躓いてしまった子どもをフォローし、理解が進んでいる子どもには更に理解を深める問題にチャレンジするように促す)。
  • 「子ども同士の話し合いによる学びあい」を聞いて、子どもたちが本当に理解しているのかをその場で確認できる。
  • 授業の最後に集計システムを用いて、子どもたちが授業中に行った確認問題や授業に対するアンケート結果を集計する。クラス全体の理解度や授業に対する子どもの意見を知り、授業後にリフレクション(内省)して、次の授業に活かすことができる。

 

■ 授業後

 <子ども>

  • 気になる箇所の動画コンテンツをもう一度見て(復習)、再度理解を深める。
  • 達成度テストを受けて、本当に理解できているかを確認する。

 

<先生>

  • 宿題の集計などをシステムで管理し、丸付けや点数入力といった作業に割く時間を減らすことができる。

 

今後改善することのできる課題点

子どもたちの学習意欲を向上し、主体的に学ぶことを促進する反転授業を、より多くの子どもが経験できるようになることが望ましいです。
その際、以下の課題を解決する必要があると考えます。

  1. タブレットや電子黒板といった新しいツールやシステムを、より多くの先生が使いこなすこと
  2. 導入や維持のコストを下げ、より多くの学校が捻出できるようにすること
  3. 動画コンテンツなどの教材を一般化すること

武雄市のように、公立の学校でも導入や維持のコストを捻出でき、ツールを用いて効果的な指導ができる先生のいる学校では問題ないのですが、そうでない学校も多いです。
たまたま反転授業を導入している学校に入学できたから良かったということでは、格差が広がってしまう可能性があります。生まれた地域や進学する学校を子どもが選択することは難しいので、学校単位での差が広がらないようにする必要性を感じます。

また、現時点では担当の先生と民間企業が協力して、担当の先生にあった教材を作っています。タブレットを用いた反転授業を広く展開する場合、より一般化された教材を準備する必要が出てきます。武雄市の教育関係の方々は、教材を一般化する策を考えているようですので、これからの動きに注目していきたいと思います。

 

反転授業を見学した感想

今回初めてタブレットを用いた反転授業を見学し、様々な発見と学びがありました。
 

①予習の有効活用

授業前の家庭学習時に、動画コンテンツで学習内容を先取りするため、授業に対する子どもたちのモチベーションが上がることがわかりました。どこが理解できて、どこがわからないかを子ども自身が把握することで、ただ漫然と授業を受けるよりも効果的であると考えます。「明日の授業、楽しみ!」という子どもの声を聞くことは、教育に携わる者にとって、かけがえのない喜びになると思います。

②特性に合わせた多様な学び

私が実際に見た算数の動画コンテンツ(台形の面積の求め方)は、画面上で図形が動き、音声での解説があるため、目と耳を使って理解を深めることができました。従来の教科書やドリルといった静的コンテンツではなかなか理解できなかった子どもにも効果があると思います。授業でも「一人で学ぶ時間」や「話し合いで学ぶ時間」が設けられているため、子どもそれぞれの特性(マルチプルインテリジェンス)に上手く働きかけることができます。子どもだけの話し合いで「台形の公式」を導き出しているのを見て、先生からの一方通行の授業ではなかなか実現できない学びが生まれていることを実感しました。

③進度に合わせた指導

授業の理解が追い付いていない子どもには、「一人で学ぶ時間」などを使って先生がサポートしていました。また、理解が進んでいる子どもには、よりチャレンジングな問題に挑戦するように促し、教室にいる子どもが誰一人として暇を持て余すことがなかったのが印象的です。普段の授業でこのような時間を設けることができると、落ちこぼれてしまう子どもを減らすことができると思います。

④授業効率の向上

従来の黒板や教科書といった静的コンテンツに電子黒板やタブレットなどの動的コンテンツやアイテムを組み合わせることで、授業の効率が上がると感じました。

算数の授業では、電子黒板に子どものノートを投影し、投影した映像の一部分を切り取り、他の子どものノートを投影したものと比較していました。先生が黒板に書き写すといった作業が発生しないため、効率よく授業が展開できていたのが印象的です。間延びしてしまう時間を極力つくらず、子どもが主体的に学ぶ時間を多く設けることで、集中力が続くことに感動しました。
 

反転授業は子どもの学習意欲を上げるための一つのソリューションとして、これからの教育に必要な視点であると思います。学習の楽しさを知れば、子どもたちは自主的に学習し続けます。

新しい取り組みのため、展開に際しての課題もあると思いますが、ひとつずつクリアすることで21世紀の学校教育をより良くしていけると確信しました。

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