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いじめサミット

文部科学教育通信 No.325 2013-10-14に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(35)をご紹介します。

生徒会活動をする中学生が意見交換する「全国生徒会サミット2013~いじめ撲滅宣言」が9月24日、オリンピック記念青少年総合センターで開かれました。全国から43中学校の生徒45人が参加し、8グループに分かれて、いじめの事例やいじめの防止策について話し合いました。作成したアクションプランを翌日、下村文部科学大臣の前で発表し、いじめ撲滅宣言を行いました。

 

●いじめに関するアンケート

サミットの開会に先立ち、参加者はNHKのハーバード白熱教室、マイケル・サンデル教授の「15歳の君たちと学校のことを考える」というTV番組のDVDを見て、次の質問に答えました。

1)DVDを見て共感したことは何ですか?

2)DVDを見て違和感を感じたことは何ですか?

3)いじめはなぜ起こると思いますか?撲滅することはできると思いますか?

4)自分はいじめる方ですか?いじめられる方ですか?傍観者ですか?また、なぜそう思うのですか?

生徒のアンケートを分析してまとめたところ、以下のようないじめの原因、継続する理由が明らかになりました。

<いじめの原因>

  • 多様性を認めない文化(外見、行動など自分たちと違うところがある人や自分より劣っている人を認めない)
  • 嫌われることや孤独になることへの恐怖感(自分がいじめられたくないからいじめる)
  • 先輩・後輩などの上下関係
  • ストレスの発散の場(受験のストレス、恋愛問題、学力・運動能力の差、自分に対する自身の欠如、認められないことに慣れていない)
  • 共感力の欠如(相手の気持ちを知らないし、知ろうともしない)
  • コミュニケーション力の欠如(言葉にしないで、自分の中で納めておけばよいことを言葉にしてしまう)
  • いじめの陰湿化(通常は普通に接しているのに、陰でこそこそいじめる ⇒ 陰湿化しているので周りが気づきにくい)
  • インターネット上のいじめ(ネット上でのいじめは周りから見えにくい)

<いじめが継続する理由>

1.相談できない

  • いじめられていると認めるのは負けを認めること
  • いじめられていると認めるのは恥ずかしいこと
  • 学校、先生は信用できない
  • 相談しても解決したことがない
  • 親を心配させたり、がっかりさせたくない

2.傍観者の存在

  • 告げ口をして、次のターゲットになることへの恐れ
  • 面倒な事に巻き込まれたくない
  • いじめている友人との関係性を壊したくないから注意できない
  • いじめに気づけない結果、傍観者になっている


●問題解決的アプローチ

生徒たちに、いじめ問題に対して問題解決的なアプローチで、取り組んで欲しいと願い、オランダとアメリカの子どもたちの問題解決事例を紹介しました。

 

<オランダのピースフルスクール>

日本のいじめ問題の状況は、1990年代初頭、いじめが大きな社会問題となったオランダの状況と似ています。大人の介入が逆効果だったことから、生徒全員に当事者として問題の解決に関わってもらい、学校全体の文化を民主的なものに改善していくためのプログラムが開発されました。このプログラムでは、いじめの構造を以下のように説明しています。

 

・いじめの構造いじめの構造

お互いが、からかいを楽しいと感じている間は、いじめではありません。しかし、からかわれている側が不快だと感じた時点で、遊びではなくなり、いじめの構造が生まれます(図)。いじめには、いじめている生徒に加わっていじめを拡大する‘加担者’といじめを見て見ぬふりをする‘傍観者’という存在があります。傍観者は、いじめに加担はしませんが、いじめを解決する手助けもしません。いじめがある環境が嫌だと感じつつも、いじめられている側を助けて、巻き込まれないように、傍観者となっているのです。そのため、それほど悪いことをしているという感覚がなく、集団圧力となっていじめを支えています。

 

・生徒による仲裁

このプログラムでは、喧嘩や問題が起きると、学校内の仲裁役のところに行き、大人の力を借りずに自分たちで問題を解決するという仕組みがあります。仲裁役を希望する生徒が自ら立候補し、クラスの承認を受けた後に、数回の研修を受けて、仲裁役としてスタートします。今回はサミットの参加者に、生徒自らが仲裁を行ない、問題を解決している動画を見てもらいました。

 

<システム思考による問題解決>

米国アリゾナ州のツーソンでは、3人の小学1年生がシステム思考を使って、校庭での喧嘩を分析していました。喧嘩は、相手に対するちょっとした悪口から始まりました。発した言葉が相手を傷つけ、傷ついた相手がさらにひどい言葉を返してきて、お互いの関係がどんどん悪化していったのです。子どもたちは、この関係性をシステム思考の自己強化型ループであると理解し、ループを断ち切る方法を考えました。たとえ、相手にひどいことを言われても、ひどい言葉で返さない(良い言葉で返す)ということで、悪循環のループを断ち切ることができることを、子どもたち自身が発見しました。

 

●現代のいじめのあいまいさ

いじめの実態を正しく理解した上でアクションプランを考えようということで、生徒たちはグループに分かれていじめの事例を洗い出しました。そこで、明らかになったのは、現代のいじめのあいまいさです。椅子に画びょうを置くとか、下駄箱の靴を隠すというような明らかないじめであれば、本人も周りもそれと気付き、誰かに相談することができます。でも、実際には、最初はいじめかどうかも気が付かないグレーゾーンのいじめが多いのが現実です。単なる不快な出来事が、いじめのような状況にまで発展してしまうのは、言いたいことを相手に面と向かって伝えることができないコミュニケーション力の不足が背景にあります。

 

 

●いじめ問題解決のためのアクションプラン

最後に、生徒たちが下村大臣に提出したアクションプランをご紹介させていただきます。

・いじめ討論会などイベント化して定期的な話し合いの場を持つ(全校で考え、解決、防止する)

・いじめ問題を解決する仲裁者育成プロジェクトを始める

・道徳や学活の時間を使い、いじめについての授業を設ける

・事例やいじめの構造を考えたり、みんなで話し合いの場を持つ

・意見箱を設置し、テーマを決めて投稿してもらい、それをもとにクラスで話し合う。結果をクラスの代表が報告し合う

・いじめについてのアンケートを取り、アンケートを基にクラスで話し合う。意見をまとめて集会や校内新聞で発表する

・悪いことは悪いと言える環境作りをする

・クラス、学校、地域でお互いのことをよく知る

アクションプランを見ていただければわかるように、ほとんどが先生や親に頼らず、自分たちの力でいじめ問題を解決しようとする意見です。自分たちで問題を解決するための仲裁者の導入や生徒同士の話し合いや交流を通じて、クラスや学校の雰囲気を改善しようする考え方は、まさにピースフルスクールの目指すところと一致しています。生徒同士が互いに敬意を持ち、独立心と責任感を持って安心して過ごせる学校こそがいじめ問題の解決につながるという確信を得ました。

 

 

 

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