2007年10月20日に青山ビジネススクールにおいて、MBAに関する講演を行いました。
概要:
【留学の目的】
私の留学の目的を整理すると、3つになります。 1つ目は、本業が衰退産業になるとき、「新規参入」する事業を選ぶ方法が知りたかったことです。当時、斜陽産業を代表する業界に、製鉄業界がありました。今は、見事に本業での競争力をつけていますが、当時は、円高による価格高騰により国際市場における価格競争力に負け、苦しい時代でした。現業における業績が芳しくない中、潤沢な資本を、次々と新規事業に投入していました。その様子をみて、資金力があれば、企業はどのような新規事業にも参入することができるのだと解りました。レストランでも、テーマパークでも、農業でもよいわけです。では、本当に、企業は、何の事業に参入しても、その事業を成功させることができるのだろうかという疑問が浮かんできました。そして、きっと、ビジネススクールでは、新規事業参入における正しい選択軸を教えてくれるに違いないと考えました。
2つ目は、「投資の意思決定」という未来に対する決断を、科学的に分析する方法を知りたいということです。経営者には、意思決定がつきものです。しかし、その当時の私には、正しい意思決定とは何なのか皆目検討がつきませんでした。どうすれば、会社に損害を被らせることなく、リスクのない、大胆な意思決定ができるのかを知りたいと思いました。
【企業価値】
企業価値という視点を学んだことも大変有意義でした。理論株価に株式総数を掛けたものが、企業の将来生み出すであろうキャッシュフローの現在価値により決まるという考え方です。そして、企業を買収する際の適正価格は、同じ会社でも買い手にとって違うという考え方に感動しました。また、それまで、無借金経営がすばらしいと私は信じていましたが、無借金企業は、借入れを起こし企業価値をさらに高める努力を放棄しているので、必ずしも良い経営ではなく、経営者が怠けていることを意味する、という話には目からうろこが落ちました。また、このような企業は、企業価値を高める力を持つ企業の買収ターゲットになり易いと言われ、思わず、実家の家業を思い出しました。
また、一方、会社を売り買いすることにすら大きな抵抗があり、会社は、従業員の雇用を確保することが、株価を上げるよりもずっと重要であると信じていた私にとっては、アメリカ的な経営にはついていけない部分もたくさんありました。しかし、世界を動かしているアメリカ経済のメカニズムを理解したことは有意義でした。
【アメリカ企業が人を大切にする意味】
また、アメリカ型経営、日本型経営という視点では、どちらにも良い点があり、弱点があるという客観的な見方ができるようになったのも、ビジネススクールのおかげです。アメリカの企業でも、良い企業は、人を大切にし、人に投資をしています。学年には、何人もIBM営業出身者がいました。彼らは、共通して優秀でした。マツダの社長になった同期生のマークフィールド氏もその1人です。友達が、「彼らは、IBM卒業生だから。」と普通に話していたのは印象的でした。「育てた彼らが、IBMをやめてしまって、IBMは平気なの?!」と考えるのは、日本人のせこさでしょうか。優秀に育てても会社を辞めてしまうのなら育てる意味がない?アメリカ人の考えはそうではないようでした。GEもそうですが、流動性は前提で、自社で育てた社員が自社で活躍しても、他社で活躍してもよいという前提で、すばらしい教育システムを自社内に持っている-そんな名門企業がたくさんあります。人を育てることで、人を大切にする米国企業のあり方にも、大いに学ぶことがあると感じました。
【多角化】
留学の目的のひとつである多角化における正しい意思決定については、明確に答えをもらうことが出来ました。それは、企業の存在意義に鑑み事業を発展させることが重要であるというものでした。
ここで、皆さんに質問です。
Q1 皆さんは、3つ星、4つ星というランキングをご存知ですか?
Q2 そのレストランガイドの名前をご存知ですか?
Q3 ミシュランというレストランガイドを作っているのは、あのフランスのタイヤ会社 ミシュランであるということをご存知の方はどのくらいいらっしゃいますか?
【リーダーシップ】
3つ目は、本質的な問題です。「経営」とは何をすることかを知り、自らのリーダーシップを磨くことでした。経営やリーダーシップという言葉は、概念的であり、人それぞれその解釈が違います。また、たくさんの著書も出ていますが、どの本も正しく思え、なんとなくは理解できても、実感は持てません。そこで、私なりに、経営とは何かを理解し、自らのリーダーシップを強化していきたいと考えました。
【何を学んだか】
それでは、ハーバードビジネススクールで何を学んだかについてお話をします。
1つ目は、一貫性についてです。 ハーバードの1年目は、同じクラスでの授業になります。マーケティングからスタートするクラスは、ファイナンス、IT戦略、製造管理、ジェネラルマネジメント、組織行動と企業のすべての機能についてクラスが用意されています。最初は、講義のテーマのみに集中したクラスディスカッションが、どんどん広がっていき、1年目の終わりには、マーケティングのケーススタディにもかかわらず、ファイナンスの視点、人事の視点、組織の視点、製造部門の視点と、すべての基本的な知識が統合されたディスカッションになっていきます。まさに、経営会議のように、あらゆる立場の視点が議論されるようになります。こうして、私たちは、企業経営における基本となる視点・機能を一通り学ぶことができました。さらに重要なことは、すべてのことが一貫していなければ、個別の戦略がいくらすばらしくても機能しない、結果に繋がらないということを学び、一貫性の作り方を根本から理解することができました。
2つ目は、意思決定をする習性です。 ケーススタディのクラスは、『コールドコール』というオープニングでスタートします。教授は、ディスカッションの口火を切る人を一人指名します。このとき、オープニングの機能が果たせないと落第ですから、ケースの準備に手抜きはできません。落第というのは、冗談ではなく、成績下位者の16名は毎年すぐには2年生にはなれず、一旦社会に出て2年間の勤務経験後に、再度2年生に復帰できるという仕組みになっています。当然、みんな必死です。また、期末試験は、必ず休みの後なので、1年間気が休まることはありません。ハーバードの2年間は、決して、楽しい思い出ばかりではありませんが、卒業して思うと、「経営者の孤独とプレッシャー」を疑似体験させてくれているのだと気づきました。確かに、このプレッシャーの中を生き抜いたことが誇りであり、卒業したことが自信に繋がったことは事実です。後に、熊平製作所で取締役になり、ケーススタディではなく、実際に資金を使う意思決定を行い、組織に対する責任を持った時、実社会における経営者のプレッシャーを知りました。そして、ビジネススクールにおけるプレッシャーは、幼稚園レベルだったのだと気づき、苦笑したものです。しかし、ビジネススクールにおけるプレッシャーと、約一千のケースの中に出てくる主人公たちの意思決定を疑似体験できたことは、冷静な判断を行う上で大変役に立ちました。
ケーススタディでは、常に、主人公の立場で考え、答えを導き出すことが求められます。1日に2つから3つのケーススタディを2年間こなすと、経営者としての判断をする習性が身につきます。経営者のプレッシャーの中で、経営判断を次々に行うビジネススクールでの2年間を経て、企業に就職したハーバードMBA卒業生の失敗は、笑い話のようですが、上司から「君の判断を聞いていないよ。」と言われることだそうです。
3番目は、ビジネススクール卒業生ならではの思考プロセスです。 マーケティングでもファイナンスでも、すべては経営環境の認識からスタートします。業界を理解し、3C(カスタマー、カンパニー、コンペティター)で自社を客観的に眺めた上で、経営判断に必要な情報が全て揃っているのかを確認し、判断を下します。また、その判断の結果として、どのようなリスクがあるのか、想定される最悪の事態は何かを考え、それらに対する対応策を考えます。また、判断を実行する上で必要な経営資源、障害となる事柄とそれに対する対処などを考えます。この思考プロセスは、2年間で習性になります。もちろん、意思決定は、実行のスタートですから、幾ら良い意思決定でも、実行レベルで間違いを犯しては、成功に至りません。そういう意味では、実行の段階が鍵を握るわけです。少なくとも、頭の中でどれだけ未来をシミュレーションすることができるか、未来の出来事にイマジネーションを広げられるかは、実行を成功させるために重要です。そういう意味では、ビジネススクール卒業生ならでの思考プロセスは、実社会で、ビジネスシーンを生き抜いていく上で、大変強い力となります。
さて、今でこそ当たり前になった自由競争の視点と企業価値の評価の視点は、私にとっては大変興味深いものでした。
冒頭に申し上げたとおり、私がハーバードに留学した当時は、日本の資本市場が海外に開かれる以前のことです。このため、グローバル経済と日本のビジネス社会の関係は、輸出を中心とする産業の貿易摩擦ぐらいのものでした。このため、グローバルスタンダードが何かなど私はそれまで知りませんでした。そして、初めてビジネススクールにおいて、アメリカ経済の根底にある考え方に触れ、その意味を理解する機会を得ることになりました。アメリカ経済は、あるいは、アメリカ社会はといってもよいかもしれませんが、自由競争に基づいて動いています。この自由競争の受益者は消費者であるという考え方をアメリカ人は信じています。人は、労働者として、消費者として、投資家として経済活動の利益を享受しています。自由競争は、この中でも消費者の立場に軸を置いた考え方です。自由競争は、受益者である消費者により良いものをより安く手に入れることを可能にするという考えです。
【自由競争の意味】
日本では、1994年の大店舗法の改正により、地元の中小小売業者が失業するということが問題になっていました。そして、消費者の利益と、中小小売業者の利益を、ともに確保するためのバランスを模索していました。このことに対するアメリカの考え方は、自由競争の中、顧客に選ばれない店舗は存在意義がなく、存在意義のないビジネスを存続させることは、労働者にとっても、投資家にとっても、消費者にとっても最大のメリットをもたらさないという考え方です。一方、競争力のある大店舗が出店することにより、中小小売業者も、消費者という立場で、自由競争のメリットを享受できるという考え方です。すべてアメリカ式がよいとは考えませんが、競争力のないビジネスを保護することにより、長期的には誰も利益を享受できません。せっかく保護したビジネスは、自然淘汰されていくことになります。だからこそ、経営者は、競争力や存在意義を常に強化していくことが重要だということを学びました。
なぜ、フランスのタイヤ会社がレストランガイドを作っているのかと疑問に思われませんか。ここで、企業の存在意義の話に戻ります。ミシュランの存在意義は、「移動(モビリティ)に関する進化に貢献する」ことです。旅行に行き、知らない町に行ったとき一番困ることの1つにレストラン探しがあります。だから、人のモビリティ(移動)を支援することを使命と考えるミシュランは、レストランガイドを提供しているのです。この秋には日本版も登場するようです。
このように、新規事業を考える時には、企業の存在意義に立ち返り、環境の変化に応じて、提供する製品やサービスを変えていけばよいのです。また、存在意義と類似した考え方に事業領域の決定があります。私の家業、熊平製作所を例にとって見ましょう。米国の同業者のディーボルトは、金融機関設備業という定義をしていました。ヨーロッパの同業者であるCHUBBは、セキュリティ業と定義をしていました。我々は、金庫製造業と定義していました。この定義の違いは、企業の成長において大きな違いを生みました。金融機関設備業と定義していたディーボルトは、金庫屋からATMのシェアNO.1へと成長し、ヨーロッパのCHUBBは、ビルのセキュリティシステム全てを提供する企業へと成長しました。我々は、提供している商品に目を向けていたために、存在意義を小さく捉え、事業領域を限定してしまう結果になっていたのでした。
会社の存在意義を明確にし、ビジョンを打ち出すことが何よりも大切であることを学んだ私は、卒業後、熊平製作所に戻り、経営ビジョン作りを行いました。金庫は、守られた空間ですが、IT化が進み、現在、多くのオフィスに見られるように、建物自体のセキュリティを階層化していくことも事業領域に加えようということになりました。セキュリティレベルを決め、セキュリティの高い空間における入室は、2人でなければ入室できないなどをデザインし、システムを設計していくことが求められます。IT化においては、PC端末あるいは、資産が情報化し、その情報を扱う社員の人たちが入室している空間をセキュリティするという、金庫とはまったく逆なことが求められるわけです。そこには、発想の転換が要求されますし、お客様の要求も多様ですので、セキュリティコンサルティングの力も求められるようになります。最近では、個人情報保護法やコンプライアンスの重要性によりニーズも高まり、ビジネススクール後に作ったビジョンの流れから生まれた事業は重要な事業のひとつに成長しています。
【リスクはなくなるか】
ビジネススクールで学べば、投資のリスクをゼロにすることができるのか?という問いについては、結論から申し上げますと、NOでした。誰もが良く知っている投資に対するリターンの考えを最初に生み出したのは、アメリカの化学会社の財務担当責任者をしていたピエール・デュポンです。今から丁度100年位前のことです。彼らは事業を進めていく中で、ある悩みにぶつかりました。それは、いくつものアイディアがある中で、どのアイディアの実現を優先させるかというものでした。そこで、生み出されたのは、投資対効果、ROIという考え方だそうです。
【バブル崩壊を予期できた】
私がビジネススクールに留学したのは、バブル絶頂期です。そのため日本企業は、ハーバードにおいても重要な研究テーマでした。イギリスの盛衰、アメリカの盛衰、そして今ピークを迎えている日本は、このまま成長し続けるのか、それとも、イギリスやアメリカと同様に、衰退するのかを何度も何度も議論しました。当時、日本企業の特性は、社員の会社に対する忠誠心、大部屋で1人ひとりが境界を作らず仕事をし、情報も流動するため組織の連携が旨く出来ること、社長も社員も給与がそれほど違わず、現場の声が経営に反映されること、改善運動が象徴する現場のIQの高さ、株式の相互持合いによるもの申さぬ株主の存在、株主を気にせず長期的視点で経営判断を行えること、等にあるとされ、ビジネススクールでは日本企業の持っていた良さを研究していました。しかし日本では、この20年間に、この良さが失われつつあります。一方、アメリカは、国を挙げて日本的経営の良さを研究し、基本に立ち返ろうとしていました。こうして、バブル絶頂の日本も、かつてのイギリスやアメリカと同様の衰退の道をたどることになりました。バブル全盛期に帰国した私が、経営環境を楽観視せず、次の手を打てたのも、この授業のおかげかもしれません。
【エンロン事件】
ビジネススクールにおいて倫理が重要なテーマになります。私がハーバードを卒業した後、エンロン事件が起きました。ハーバードの学長は世界中の全卒業生に対して次のような手紙を送りました。「世界のビジネスリーダーとして倫理のスタンダードを維持し、手本となるように」というメッセージが書かれていました。ハーバードビジネススクールのこのような姿勢には、身の引き締まる思いがしました。
【パジャマで登校】
ここからは、クラスメイトのお話をしましょう。 9月の始業から、日々ケーススタディの準備に追われ、プレッシャーの中で過ごしていたのですが、クラスメイトの提案により、毎週金曜日は、テーマをもって過ごそうということになりました。ある日は、ハワイのバケーションということで、真冬にもかかわらず、みんな、ウィンタージャケットの中に、アロハシャツを着て、麦藁帽子をかぶってやってきました。ある金曜日のテーマは、「今一番したいこと」でした。テニスラケットを片手にテニスウェアで教室にやってくる人、旅行かばんを持ってやってきた人など、いろいろなスタイルで登場するクラスメイトの中に、パジャマ姿で枕を抱えて登場した女性がいました。「今一番したいことは、眠ることです」といい、一同大笑いです。みんな勉強は必死でしたが、楽しむことも半端ではありませんでした。こんな切り替えができるアメリカ人を、心から尊敬しました。
【チャリティへの参加】
チャリティに参加するクラスメイトもとても印象的でした。 どんなに忙しくても、また、ほとんどの学生が学費を借り入れでまかなっているのにもかかわらず、みんな、こまめにチャリティに参加するのです。「寄付をお願いします。今回は、缶詰3個です。」些細なことでも、申し込む人、集める人、送付する人など忙しい中、手分けしてやるのです。彼らはこういいました。「私たちは、とても恵まれている。これだけすばらしい教育を受けるチャンスをもらった我々は、社会に対して還元する責任がある」と。この思想が、みんなにありました。ともすると自己中心的になる日本の成功者との懐の深さの違いを感じました。
【外国人留学生への支援】
学校は、厳しいルールで、外国人留学生の言語的なハンディは一切考慮しないということが明確なルールになっていました。これは、経営者の孤独に耐えうる強靭なリーダーを育てるためです。しかし、クラスメイトは違いました。各クラスには、クラスメイトサポーターを任命し、海外留学生や、クラスについていけない学生を常にケアしてくれました。競争社会でありながら、弱者には優しいアメリカ人に助けられた、感謝の思いで一杯です。
【天安門事件】
卒業式の朝 卒業のガウンをまとい、ハーバードヤードに集まった卒業生たちは、腕に白いリボンを付けていました。中国の天安門事件の直後でしたので、卒業生たちは、国民に対する政府の武力弾圧に抗議をするためにつけていたのです。大きな力ではないかもしれないけれど、個人の意志を主張する彼ら彼女たちの姿には最後まで教わることがありました。
【MBAがキャリアにどのように役立ったか?】
では、MBAはキャリアにどのように役立つのでしょうか?私の事例をお話しましょう。
私の場合のキャリアは大きく3つの流れがあります。ファミリーカンパニーで経営ビジョンおよび方針を打ち立て、熊平製作所に新たな成長の種を植えた時代、藤田田会長の下、タイラックというイギリスのチェーン店を日本で立ち上げた時代、そして、コンサルタントとして、企業の成長や改革を支援する現在です。
3つに共通なのは、企業の未来を作る、成長を支えるという目的です。しかし、業種は、「金庫・セキュリティ」、「ネクタイ・スカーフ」、「多種多様な現在のクライアント」と多様です。このように、業種にかかわらず仕事ができるのは、ほかならぬMBAのおかげです。業種業態により成功要因や求められる人材のコンピタンスは違い、企業の未来を左右する環境要因も違います。顧客セグメントの定義も違えば、競合との関係も違います。このような違いを前提に、ゼロベースで環境を眺めることができ、一貫性のあるストーリーを持ち、競争力を強化することができるのは、MBAで学んだ企業の捉え方、経営を眺める視点が役立っています。
もちろん、MBAで学んだことを実践し、失敗を通じて学んだことも全てがキャリアにおける私の武器になります。コンサルタントをする際に、常に考えることは、クライアントの立場になることです。
日本の企業は、すぐに流行を取り入れようとします。カンパニー制が流行すると、カンパニー制を導入していないと遅れているのではないか、バランススコアカード、EVAとさまざまな経営手法が流行すると、みんなが導入する。そして、このような手法を導入すれば、どの企業でも一律効果に繋がると信じています。このような判断についても、企業の置かれている環境、その手法を導入した際の効果と副作用などを考えるよう自信を持って経営者に進言できることは、とてもありがたいことだと思います。
ゴルフでも基本を学び、練習をすると強くなる。と同様に、MBAでビジネスの基本を学び、実践で学習を重ねると強くなれると考えます。
【MBAに行く価値】
私自身の経験を踏まえて、MBAに行く価値について整理をしてみたいと思います。
第1に、「経営の基礎」が学べます。MBAの価値は、客観的に、ゼロベースで企業の置かれている環境を把握し、未来を予測し、打つべき手を考えることが出来る力です。企業戦士として実践から学ぶと、多くの場合、判断の軸が自分の経験、特に成功体験に偏りがちです。しかし、MBAの基礎を持ち、経験を積むと、その経験は普遍的な法則になり、他の場面で応用できるのか否かも、ゼロベースで捉えることができます。ベンチャーの社長は、ビジネスを成長させる天才です。独自のマーケティングセンスを持ち、実行力でビジネスを成長に導きます。しかし、彼らの多くは、組織を作ることに関心がなく、いつまでも、“市場の変化に敏感に反応する機敏さ”という創業期の成功の法則を活用し、成長の弊害を作ります。MBAであれば、創業期、成長期、成熟期の段階に応じて、次の打つ手を考えることができます。このように、基礎力を持っていると、未経験領域に関しても、有効な手立てを考えることが可能になります。
第2に、「経営に必要な機能」すべてを理解できる点も、MBAの強みです。マーケティングの専門家であれ、製品や顧客に関する視点以外に、会社の置かれている財務状況、株主が求めていることを理解することは重要です。ファイナンスの専門家でも、事業の成熟度を把握し、投資戦略の方向性を想定しながら、財務戦略を構築することが求められます。経営における全ての意思決定は、一貫性を持つことが求められます。自分の責任領域が、他部門とどのような関係性にあり、何と一貫性を持つことが重要かを自ら考える力をMBAは与えてくれます。
第3に、「MBA的な思考プロセス」を支えるたくさんのフレームワークや視点を持つことが可能になります。5フォースや3Cをはじめ、物事を整理するフレームワークを持ち、自在に使いこなせるようになることは強みです。
第4に、「専門分野に関する最先端の知識や手法」を学ぶことができます。これは、転職のチャンスに繋がります。金融からコンサルへ、あるいは、マーケティングから経営へなど、これまでの経験にMBAの知識をプラスしてより多くのキャリアの選択肢を持つことが可能になります。
第5に、「ビジネススクールで出会った仲間」は、大変貴重なものです。皆、向上心が強く、学ぶ意欲が旺盛です。自己実現を目指す仲間は、貴重な財産になります。また、多様な企業で活躍しているので、お互いに貴重な情報源になることでしょう。
【日本のMBAのよさ】
では、留学と日本のMBAどちらを選択するかという視点でお話をしてみましょう。
私が留学した時代は、今ではビジネスマンの常識用語になった戦略という言葉すら日本においては存在しない時代でした。当時は、まだ、日本的経営が世界中から注目されており、アメリカでMBAをとってきましたというと、「ああ、あの短期的視点、株主ばかりに目を向け社員を大切にしないくだらない経営を学んできたのか。日本では役に立たないよ。」などと辛口のコメントを頂いたりもしました。日本のビジネス社会全体が、MBAというものを理解していませんでしたし、少なくともバブル崩壊前は、日本企業こそが正しい経営をしていると日本全体が信じていました。しかし、この18年間、企業内研修におけるMBA講座も当たり前になり、青山学院大学をはじめとする日本のビジネススクールが社会に求められる時代が来ました。
こうなってきますと、私の時代と違い、海外のビジネススクールに行く必要はありません。日本でMBAが取れる最大の魅力は、仕事を続けながら学校に通えることです。MBAに行く=会社を辞めるという決断が必要ないということです。また、仕事を続けていれば、MBAで学びながら、実際の課題に取り組めます。解決できない課題については、ビジネススクールの先生方にお知恵を頂くことも可能です。学問と実践を融合し、アクションラーニング的に学ぶことが出来ます。また、卒業後も相談に乗ってもらえる先生方がいることも強みです
また、海外に留学して感じたのは、米国では、米国企業の視点が中心であり、米国企業の置かれている環境が中心になるということです。その点、日本のビジネススクールでは、先生方も日本の状況に精通しており、日本企業の置かれている環境を正しく理解し、直ぐに応用できる実践情報を持てます。これは、大きなメリットです。
また、青山学院大学大学院国際マネジメント学科では、グローバル・ナレッジネットワークや、グローバル・アクションラーニングを実践しています。これは、大変魅力的です。今日において、ビジネスをドメスティックに考えることは不可能です。グーグルは、地球上のすべての情報を対象にビジネスモデルを考えており、TOYOTAは、世界1の販売台数を誇る企業にまで発展しています。ヨーロッパにおけるパリバのファンド凍結により端を発したサブプライム問題は、日本の株価や為替レートに大きな打撃を与え、フロリダのハリケーンにより、日本のオレンジジュースが値上がりするなど、私たちは、すでにグローバル経済の中に身を置いています。そして、韓国の次は、中国、そして、インドと新しい経済大国が生まれつつあります。このような時代に、MBAで、日本の論理だけで物事を考えることは不可能です。青山学院で実践しているカーネギーメロン大学をはじめとする世界10カ国のビジネススクールとの連携により、世界中のビジネスプロフェッショナルの視点を学ぶ機会を持てることは大変有意義です。
最後に、ビジネススクールに行くことが意義あるものになるか否かは、あなた次第であると思います。間違いなく学ぶ機会は与えられています。知識の豊富な先生方も揃っています。あるいは、グローバルに学ぶチャンスも用意されています。これらすべてのチャンスをどこまで貪欲に使いきるかが、勝負ではないでしょうか。
ビジネススクールで知識を学ぶだけでは不十分です。なぜなら、2007年の最先端知識は、2009年には陳腐化してしまうからです。私の教えている『アントレプレニュアーシップ』のクラスでも、昨年の最もホットな企業は、グーグルでした。今年は、リンデンラボです。来年は、どんなアントレプレナーが現れるのかわかりません。しかし、AMAZON、スターバックス、グーグル、デル、アップルなど成功しているベンチャービジネスには、成功の法則があり、成功に導く思考プロセスがあります。このような法則や思考プロセスを1つでも多く武器として自分のものにしておくことで、環境の変化においても、組織そして自らのキャリアを成功に導くことができるのではないでしょうか。
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