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キャリア開発最前線

文部科学教育通信 No.313 2013-4-8に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る25をご紹介します。

今、学校に通う子どもたちが成人する頃に、今ある仕事の6割はなくなっているというダイナミックな予測が、海外ではなされています。グローバル競争の時代、企業は持続的な成長を実現するために、絶え間ない進化を続けています。経済の変動、技術革新、少子・高齢化の進行、顧客ニーズの変化など企業を取り巻く様々な環境の変化に対し、職場環境も変化を続けています。スリム化や効率化により組織のフラット化が進んでおり、仕事のスピード、意思決定のプロセス、昇進昇格の機会など、様々な形で人の働き方に影響が出ています。激動の時代に、自分のキャリアを守り、フラット化する組織の中で、自己成長し続けることは困難なことです。その現実を直視し、自己のキャリア開発にどう取り組むかを教えているのが、ノベーションズ社*1の開発した「タレントディべロップメント」プログラムです。

「タレントディベロップメント」には、キャリア開発のためのたくさんのヒントと使いやすいフレームワークが盛り込まれています。その中で、最も重要な教えは、キャリア開発のイニシアティブは、自分にあり、自分でその機会を創造していかなければいけないという考え方です。上司や会社が何かをしてくれるのを待つという考え方ではなく、自ら、道を切り開いていくという考え方です。フレームワークを用いてそのいくつかをご紹介しましょう。

 

● 【フレームワーク1】貢献の4ステージ®

1960年頃、ハーバード・ビジネス・スクールのダルトン教授とトンプソン教授は2000人の技師を対象に組織への貢献度調査を行い、この結果を元に「貢献の4ステージ®」というフレームワークを開発しました。二人は、技師の貢献度が35歳頃までは上昇するのにそれ以降は退職まで徐々に下降すること、同じように貢献度が高くても、若い世代と中堅世代と後年世代では全く違った行動や役割を果たしていることを発見しました。対象者の行動を時間軸に沿って捉えると、4つの異なるステージがあり、このステージをきちんと「移行」することで、いつまでも貢献者であり続けられることがわかりました。(出典:「Novations:Strategies for Career Management, Gene Dalton, Paul Thompson, Novations Group 1993)

ステージ1: 指示監督下での貢献

新入社員を想像してください。上司や先輩の指示監督の下、責任のある仕事を遂行するステージです。転職や部署を移動した直後、自立できるまでの学習期間もこれに当たります。

ステージ2: 自立的な貢献

上司や先輩の指示監督を必要とせず、自立的に仕事ができる状態です。上司や先輩も安心して仕事が任せられる状態と判断し、当人も、1人で職務を全うすることに不安はありません。もちろん、全ての仕事がこの状態にあるとは限らず、ある仕事ではステージ2でも、別の仕事では、ステージ1の場合があります。

ステージ3: 他の人を通しての貢献

有能な一個人から他者を活用して成果を出すステージに「移行」します。部下や後輩だけでなく、同僚や他部署の人たちや顧客や提携先など組織の壁を越えた人たちとの協働が求められるステージです。有能な個人から、他者を通して成果を出す人へと「移行」するには、職務遂行能力だけでなく、対人関係能力、交渉力、リーダーシップなど多くの力を必要とします。

ステージ4: 戦略的な貢献

第4のステージは、経営者目線で物事を捉え、戦略的なレベルで組織にインパクトを出すことができる状態です。第3のステージに求められる力に加え、視野の広さ、戦略立案力、中・長期的な視点などが求められます。

変化の激しい時代には、あなたの価値は地位ではなく貢献度で決まります。このため、キャリア開発において重要なことは、常に貢献者でいられるように貢献の『仕方』を変えていくことです。

 

●【フレームワーク2】キャリア・ベスト

キャリア開発において、キャリアベストと呼ばれる仕事を手に入れることが重要です。キャリア・ベスト(Career Best)とは、能力(Talent)、情熱(Passion)、組織のニーズ(Organization)

の3つの要素が全て揃った仕事のことです。自分の能力に適していて、情熱が注げる仕事であり、組織にとっても重要な仕事のことを指します。組織のニーズに該当しなくても、自分の情熱を捧げられて、能力が発揮できれば十分、と考える人もいるかもしれませんが、どれだけ頑張っても、周囲に評価されず、感謝されることのない仕事から、本当の意味での達成感を得られることはありません。能力、情熱、組織のニーズの3つが揃った時、人は良い仕事をしているという実感を持ち、やりがいを感じ、より真剣に仕事に取り組むことになり、その結果、自己成長を遂げます。

しかし、組織や上司が常にこのような状態を用意してくれることを期待するのは現実的ではなく、プログラムでは、自らがこのような環境を手に入れるために計画的に行動することを教えます。

 

●【フレームワーク3】キャリア志向

仕事に対する個人の動機・価値観を説明するのに、キャリア志向という考え方を用います。キャリア志向とは生まれ持った志向ではなく、仕事の経験により確立していく志向です。職業体験を通して、自分なりの心地よさを見出していくもので、人生の節目などにおいて変化していくものと考えられます。プログラムでは、次の5つの志向に分類しています。

◎上昇志向(アドバンスメント)・・・影響力、インパクト、上昇を求める

◎安定志向(セキュリティ)・・・認知、安定した仕事、尊敬、組織からの忠誠を求める

◎自由志向(フリーダム)・・・自分の仕事を行う上で、最大限の自由裁量を得ることを求める

◎バランス志向(バランス)・・・仕事、人間関係と自己開発の有意義なバランスを求める。
夢中になりすぎる仕事や興味が持てない仕事は避ける

◎挑戦志向(チャレンジ)・・・興奮、冒険そして『先端を行く』機会を求める

 

キャリア志向は、人の有能さを表すものではありません。研修プログラムは、それぞれのキャリア志向の強みとともに潜在的な落とし穴にも目を向けるよう教えます。例えば、上昇志向の人は、大きな仕事に対して責任を持つことやリーダーシップを発揮することを厭わず、結果を出すために最善を尽くす一方で、自己中心的になり、孤立してしまう可能性があります。バランス志向の人は、仕事にエネルギーを注がないわけではなく、仕事以外のことに費やす時間を捻出するために、計画的に仕事を組み立て、効率的に仕事をこなします。安定志向の人は、リスクを取る挑戦的な仕事を好まない代わりに、組織に対する忠誠心が高く、企業理念を体現するよき先輩役を担うことができます。それぞれの良いところを活かし、弱点を克服することにより、自らの個性を最大化することができます。

誰もが同じ志向であることを求めるのではなく、多様な志向が存在することを理解し、尊重することで、個人のやりがいと組織の成果を結びつけるという考え方は、これからのキャリア開発において大変興味深いものです。

学校教育を終え、企業に入っても、人は成長し続けることを求められます。変化の激しい時代に、組織に貢献できない人は求められなくなるという厳しい時代でもあります。植木仁氏が、「サラリーマンほど気楽な商売はない・・」と歌った時代は、はるか遠い昔のことです。 自律的学習力、主体的に道を切り開く力を、大学を卒業するまでに身に付けておくために、学校に何ができるのかを考えていく必要があります。(2996字)

 

*1 現在、「タレントディベロップメント」は、ノベーションズ社の買収先のコーン・フェリー社(グローバルな大手のエグゼクティブ・サーチ会社)が所有するプログラムとなっています。この記事はプログラムの内容を参考に書いております。

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