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山城経営研究所

20220808文部科学教育通信掲載

先日、山城経営研究所創立50周年、KAE35周年イベントのパネルにモデレーターとして参加させていただきました。

山城経営研究所は、1972年に世界に通用する「日本経営」の確立に情熱を注いできた山城章(一橋大学名誉教授)によって創立され、「企業を同経営するか」だけではなく、社会のため、世界のため、更に地球のために「企業や経営はどうあるべきか」を真摯に追求する「経営堂」の実践を提唱しています。この思いに基づき、1986年に企業経営のあるべき姿を求めて、経営革新を実践するプロフェッショナル経営リーダー育成野鳩して「経営道フォーラム」を開講しました。今日では、1650名の経営リーダーネットワーク担っています。 私も、11期生として、コミュニティに参加しています。

山城経営研究所の理念

今回、モデレーターを担当するにあたり、改めて、山城経営研究所の理念に触れることができ、大きな刺激を受けました。

世界から尊敬される日本発地球企業を創ることができる 次世代経営リーダーを育成する

1.世界に通じる普遍的経営哲学を学ぶ場を提供する

2.未来をつくり、対境*を豊かにする心を持った経営リーダーを育成する

3.生涯学びあい、磨きあい、道を究める同志ネットワークを支援する

日本経営の強みを、世界に通用する普遍的経営哲学として学び、社会性、公共性、公益性を軸にした経営を担うことができる次世代経営リーダーが育つ教育を実現することを目指す、素晴らしい理念です。

SDGsやESG投資などにもつながるマルチステイクホルダー資本主義へのシフトが進む今日においても、決して古くなることのない理念です。

 

失われた50年の回避

パネルディスカッションのテーマは、「日本企業と経営リーダーのサスティナビリティ」 2030年に向けた企業と経営リーダーの価値基準と実践力 です。そのために、 捨てるもの、獲得するもの、伸ばすもの の3つの視点で、パネルを進めました。

パネルに登壇したのは、株式会社東急ホテルズ 代表取締役社長 村井 淳 氏、日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員 山口 明夫 氏、 株式会社エル・ティー・エス 代表取締役社長CEO 樺島 弘明 氏 の3名の経営者です。

皆さん、山城経営研究所の卒業生なので、根底に流れている思いは一緒です。一方、お立場や背景は三者三様で、パネルは、とても深い対話となりました。

以下、パネラーの皆さまのプレゼン内容を抜粋してご紹介致します。

 

村井さんから学んだこと

・大きくても変われる

村井さんは、歴史のある日本企業の

社長というお立場でお話くださいました。大きいから変われないという言い訳をしないことや、過去のすべての経験の価値を再考すること、経営リーダーが自ら、時代の求める学びに率先して取り組むことなど、ご自身が、日頃から、心がけ、実践されていることをお話いただきました。

サステナビリティの取り組みなどは、すでに、現場からボトムアップで実践が積み上がっているそうで、トップダウンと、ボトムアップの融合の大切さを語っておられました。これも、まさに、日本経営の強みの一つです。

・人的資本投資

経営戦略と人事戦略の融合した「戦略的人事」の重要性についても、語っていただきました。リスキリングなどの言葉が生まれるほど、今日では、誰もが自分自身をアップデートして行かなければならない時代になりました。若者も、自己成長の機会を得ることができる企業への就職を目指しています。一方で、企業に長く務めている社員の中には、学び続けることにそれほど意欲的でない人もいます。これが、どこの会社でもいま起きている現実です。

そこで、村井社長は、学びたいときに、学びたい分野について、学びたい社員が手をあげて学べる環境をつくり、社長自らも学ぶ姿勢を持ち、人的資本投資に取り組んでおられます。

歴史のある会社が、時代と共にアップデートすることができれば、最強だと思いました。

 

樺島さんから学んだこと

樺島さんは、ベンチャー企業の創業社長です。今回のパネルでは、若い世代の経営者や社員の代表として、時代が求める経営について語っていただきました。

・問題提起1 企業は、経営者のものから、社会と従業員のものへ 

樺島さんは、企業は、個人が社会に価値を提供する器になる時代と言います。多くの企業経営者が、社会価値の創造が、企業の使命であるという語り方をします。同じことを、個人のレンズから見ると、樺島さんの語り方になるのだと思いました。

・問題提起2

人と業績による管理だけでなく、事業構造と情報によるマネジメントへ

変化の激しい時代の経営者は、組織図や財務諸表を片手に、自らも現場に足を運び、時には、自らも活動に参加し、一次情報に基づく経営を行う必要があると言います。以前、別の経営者から、結果指標ではなく、原因指標に注目しないと、未来は作れないと教わったことがあり、その話にも通じるものがあると思いました。

・問題提起3

規模だけではく、社会的価値でも企業の成長を図る

成長と利益、ROEだけで経営を評価する時代は終わりました。そこで、今日では、パーパス経営が重視されるようになっています。何のために企業が存在するのか、どんな価値をお客様に提供し、その結果、どのように社会に貢献するのか この問いに対する答えを、社長だけではなく、すべての構成員が自分事として持つことで、パーパス経営が実現します。

最近の若手起業家は、事業を立ち上げる時から、社会に意識が向いているといいます。

・リーダーが入れ替わる

樺島さんは、オンラインゲームを事例に、ある時点では他の人たちに指示を当たるが、次の自邸では指示を受けるというように、リーダーが自然に役割を交代することが、ご自身も実践されているリーダーシップという解説がありました。いわゆる、フラット化する組織を、リーダーの景色から説明するとこうなるのだと納得しました。

 

山口さんから学んだこと

時代と共に変わり続ける大企業のロールモデルであるIBMのマインドセットに触れることができました。

・環境認識

まず、環境認識を揃えること、これが経営の使命だと思いました。ビジネススクールにおいても、環境認識を土台に、戦略を考えます。環境認識でコンセンサスを取ることで、変革する理由が明確になります。

・重要なキーワードの統合

パーパス経営の実践では、それが、自社都合ではなく、お客様にとって価値があること、その結果、社会にとって価値があることであるという確認を一致させるために対話を行うそうです。変革には、対話を通して共感を得ることが欠かせないそうです。

決断にもスピードが求められる時代ですが、間違いを正す機能を組織が持つことも重要です。このために、透明性が欠かせないと言います。このお話を伺いながら、ダイバーシティの力が生かされているとも思いました。年齢や立場に関係なく、おかしいと思ったら意見を言えるという心理的安全性が、正しい決断を支えています。

リスキリングに関しては、人材データベースもしっかりと構築されていて、1週間に1回、新たな学びに対するレコメンデーションが、社長を含めすべての人材に届くそうです。こうして、自然に、自分をアップデートしていくことができるようになっていることはすごいことだと思いました。

企業も教育も変化が求められる時代です。

 

〈注〉対境とは、実践経営学の「10の経営原理」で説かれている企業の「社会性、公共性、公益性」の原理のこと

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