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グローバル化に向けて

20220725文部科学教育通信掲載

中教審でも、グローバル政策として、高等教育のあり方についての議論が始まっています。

産業界の要請

国内の市場が縮小する中、大手企業のみならず、中小含めてすべての企業で、海外進出や、海外との連携を視野に事業を発展させることが求められるようになりました。しかし、社内を見回しても、グローバル人材はいないというのが、多くの企業の抱えている課題です。

その結果、グローバル展開を覚悟した企業では、企業と個人が、共に、お金と時間を投資し、社内で、グローバル人材開発を行っています。中学校から英語を始めているにもかかわらず、仕事で英語を使えるレベルに到達している社員はほとんどおらず、グローバルに活躍が期待されている人材は、仕事をしながら英語を学んでいます。

世界は、かつてはものづくりの拠点でしたが、今日では、世界は市場です。このため、海外進出においては、多様な世界のニーズに共感できる企業だけが生き残るとも言われています。

 

英語教育のゴール

日本のグローバル化を本気で考えるのであれば、義務教育における英語教育のゴールは、社会どこでも英語が話せる人がいる国にすることです。

それは、企業のグローバル化にとっても、留学生の日本での就職にとっても、大学の発展にとっても重要なことです。

企業人は、社会に出てから、改めて英語を学び直す必要がなくなり、その結果、デジタルなど別な学びに、時間を使うことが可能になります。

留学生あるいは、外国人が日本で就職する際のハードルが下がります。米国企業の日本法人で働く日本人は、米国本社で働くことを夢見るのですが、日本企業の現地法人で働く外国人は、日本の本社で働くことを希望しません。言葉の壁があることを知っているからです。

大学に目を向けると、英語を話すことが当たり前の社会でないために、教員の英語力にも、課題があります。以前、オランダの教育関係者に、日本の大学教授を紹介したところ、「なぜ、彼は、教授なのに英語をはなさないのか」という質問をされて、驚いた経験があります。

オランダも、かつては、国際化に遅れを取り、大学のグローバル化に力を入れたそうです。このため、今日では、全て教授は英語を話せるようになったといいます。

大学教授が、英語でも、日本語と同等の授業を行うことができれば、より多くの留学生が、日本で学ぶことに興味を持つでしょう。日本語の授業を受けたとしても、友達や、事務部門の職員が英語を話すことができれば、留学生にとってはとても心強いです。

 

留学生の就職

留学生の就職に目を向けると、課題は山積です。多くの留学生が、日本に就職して驚くのは、会社が、彼らに日本人的な行動様式を求めることです。多様性枠で入社しているのに、なぜ、彼らは、我々を、彼らと同じ様に染めようとするのかと、不思議がります。

また、世界の優秀な人材は、誰も解決することができない難しい課題を解決することに、とても意欲的ですが、そういう人材が日本に魅力を感じないといいます。理由は、規制や組織内のしがらみなど、物事を前進させるための障壁がとても多いからです。

日本で働くことは、世界の人々にとってあまり魅力的ではないというデータも、出ています。

毎年、各国の国際競争力を報告するIMDの2021年の世界タレントランキングでは、日本は世界64の国と地域の中で、39位となりました。

世界タレントランキングでは、教育分野への投資、タレント(高度人材)の誘致、国内におけるタレント(高度人材)の育成という3つの項目から各国の競争力を比較しています。

世界ではスイスが1位となり、アイスランド、デンマーク、スウェーデンと続きました。アジア太平洋地域では、上からシンガポール(10位)、香港(11位)、台湾(16位)、韓国(33位)、日本(35位)という結果となっています。

また、英金融大手HSBCホールディングスが2020年に発表した、各国の駐在員が働きたいランキングでは、日本は調査対象33カ国中、32位という結果でした。「賃金」、「ワークライフバランス」、「子どもの教育」の3つが最下位であったことが、32位の結果につながっています。

外国人から見た視点が全てと言えないと思いますが、彼らの視点を真摯に受け止めることは、国内の優秀な人材の海外流出を抑えるうえでも大切ではないかと思います。

教育が変わることも重要ですが、それと同じくらい企業が変わることも重要です。教育と企業の両方が変わることで始めて、グローバル政策が実を結ぶのだと思います。

 

留学生の量と質の向上

理想は、大学が、グローバル化を牽引するプラットフォームとなり、世界に伍すのではなく、研究活動および、教育を通して地球や人類の発展に寄与する大学として、世界の優秀な人材を魅了し、研究活動と教育を通して、グローバルと日本社会の発展に寄与することではないかと思います。

教育再生実行会議でも提言しましたが、国際バカロレアやケンブリッジ国際の認定校の卒業生が、日本の大学に留学し易い環境整備が進むことを願っています。国際バカロレアの認定校は、世界150カ国の国と地域に5,500校、ケンブリッジ国際は、世界160カ国の国と地域に10,000校あります。

スタンフォードやハーバード等のトップクラスの大学が、この2つの認定校の卒業成績を入学資格にするほど、その教育レベルの高さが、世界的に評価されています。日本の大学に、優秀な留学生が来ることで、日本の学生にとっても、たくさんの良い刺激を得ることができます。

世界では、留学生の学費は、国内の学生よりも高く、同時に、留学生のための支援も充実しています。また、国立大学などでは、定員枠を留学生が埋めてしまうと、日本の大学生の門戸が狭くなってしまうので、留学生の定員枠を別途設けると良いのではないかと思います。このような制度改革が進むことで、大学も、留学生を歓迎し易くなります。

 

アウトバウンドの留学生

コロナで、日本から海外に留学する学生数が激減しました。2019年には、11.5万人に増加していた留学生は、98.6%減少し、1500人になりました。この数値が、どのくらいのスピードで回復に向かうのか、不安が残ります。

日本財団の18歳調査では、社会と自分のつながりについての意識がとても低いという結果が出ています。日本国内においても、社会とのつながりを感じられないとしたら、世界とのつながりはもっと感じられないのではないかと思います。

世界の若者と交流することで、社会や世界とのつながりを実感し、自分らしく貢献することができるとよいと思います。また、初等中等教育でも、今日は、生徒エージェンシーを高めることが求められています。社会課題に向き合い、社会を変えられると本気で思う生徒が増えることが、彼らの幸福にも、社会の発展にも重要です。

世界では、学位のインフレが起きていて、国際機関で働くのであれば、大学院、さらには博士過程の修了が当たり前と言われるようになりました。人類が直面する課題がより複雑になり、より高度な専門性が求められる時代になったためです。

しかし、日本では、学位のインフレは起きていません。学位をとっても、その価値を、企業も社会も評価しないからだと思います。

世界では、同時に、スタートアップや、テクノロジーの専門性を有する若者や、学位を必要としないというトレンドも生まれています。

グローバル政策の議論を大切に行いたいと思います。

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