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人と組織は変われる

2020.09.14文部科学教育通信掲載

「人と組織は変われない」と信じている人がとても多いように思います。私も、長い間、「人と組織は変われない」と信じていました。皆さんは、どうですか。

リフレクション(内省)力を高める方法を学び、今の私は、私の考えは変わりました。「人と組織は変われる」と断言できます。そして、皆さんにも、「人と組織は変われる」ことを、信じ始めて欲しいと思います。

長い間、変化を促進する仕事に取組み、「人は変われない」というコメントを何万回聞いてきました。そう信じることで、自分が変わらない正当な理由ができるので、「人は変われない」という神話は、変わりたくない人にとって、とても都合のよいことです。同様に、「僕たちは逃げ切れる」という言葉もよく聞きました。この言葉の裏側には、未来に対する危惧する様子が伺えます。変わる必要性は認識しているが、我々は変わらなくてよいと述べているのだと思います。

 原発事故で学んだこと

東北大震災に向き合う日本人は、世界から賞賛されました。空腹の中でも、人々は、きれいな列を作り自分が食料をもらえる順番を待つことができます。多くの人たちが、東北大震災直後に、ボランティアに参加したり、寄付をしたりして、困難を抱える人々を救いました。一方で、原発事故に関しては、議論もそこそこで、静かに、その再開を受け入れました。

東北大震災で明らかになったこと。それは、日本人が天災に強く、人災に弱いということでした。震災を受け入れ強く生きる人々の姿は美しいと感じました。しかし、時間が経過し、震災直後の目に見える混乱が収まり始めると、その当事者は別として、多くの人々が、震災のことを忘れていき、「風化」という言葉も使われるようになりました。日本人は、説明のいらない天災に強く、説明の必要な人災には弱いと思いました。

ティーチフォージャパンという教育NPO活動でご一緒していた黒川清先生が、国会事故報告書を作成されたご縁で、私は、後に、原発事故の経緯について知る機会を得ました。そして、東北大震災は天災ですが、原発事故は、天災が引き起こした人災であることを知りました。もっと悲しいことは、その人災に私が無縁ではなったという事実を知ったことです。そして、この事実は皆さんにも当てはまります。「えつ?」と思われる方も多いでしょう。

その説明をする前に、まず、氷山モデルについてお話したいと思います。氷山モデルとは、目に見える事象は、目に見えない大きな氷山で支えられているというシステム思考者の提唱する現状分析の方法です。今起きている現実の多くには、過去からの経緯があり、法律や

制度、仕組みや構造で支えられています。さらにその奥には、社会通念をはじめとする人々のものの見方が、その出来事を支えていると云います。

地震と津波によって引き起こされた原発事故は確かに天災です。しかし、ずっと以前から、津波の危険性は叫ばれており、その対策が後回しになっていたことは人災です。さらに、大きな人災は、私たちは、子どもたちに、原発の安全性を教え、原発を推奨するポスターを描くことを奨励し、原発の設備を訪問する学習ツアーをつくり、子どもたちが原発政策を支援する国民教育を、受け入れていたことです。そして、私たち大人も、原発が安全であるという神話を信じていたことです。事故直後に、子どもたちが書いた原発が安全と幸せをもたらすというポスターは、撤収されました。しかし、私たちは、再び、静かに、原発は安全であるという神話を信じ始めています。誰もが、私には直接関係ないと信じながら、同時に、神話を支えているのです。

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の事務局調査統括補佐を務め国会事故調報告書の作成に尽力され、現在は、東京理科大学の教員を務める石橋哲さんと、わかりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた経緯があり、私もこの事実を知りました。神話は、みんなが信じることで初めて存在します。私も、神話を信じていました。原発事故から、9年が経過し、私も、どこかで、再び、皆さんと共に、この神話を受け入れているのだと思います。

わかりやすいプロジェクトが教えてくれたこと

わりやすいプロジェクト国会事故調編を立ち上げた当時、何度も、対話のイベントを企画し、自ら対話に参加しました。福島の方たちともお話する機会を得ました。福島高校の素敵な高校生とも、たくさんお話をする機会を得たのですが、その時に、とても驚いたことは、福島では、原発事故のことや震災のことは、誰も話さないという事実でした。個々に、被害状況が異なり、保証金の額も異なり、そのことに触れるのはタブーだということを知りました。

人や組織が変われない一番の理由は、課題について話すことを許されない日本の文化にあると気付きました。話さなければ、課題は存在しないことになります。言霊を信じる私たちだから、話さないことで、存在しないことにできるのかもしれません。2012年に、原発事故についての声の中心は、政府への批判や、権利の主張でした。そこに暮らす人々は、語らないし、語れないという事実は、衝撃でした。

リフレクションと対話

私は、現在、日本にリフレクションと対話を広める活動を始めています。日本人の人を思いやる心や、震災の時でも、調和を大切にし、社会秩序を守ることができる国民性に、リフレクション(自己内省)する力や、対話する力が加われば最強だと気付いたからです。話さなければ、人を思いやる心は届きませんし、対話をしなければ、本当の課題を見ることができません。誰もが、神話を信じているということにも、気づくことはできません。この活動を始めて9年が経過し、私も少し進歩しました。そして、今日のテーマである「人と組織は変われる」ことに確信が持てるようになりました。

人は変われるという事実

ロバート・キーガン先生の免疫マップを参考し、21世紀学び研究所でも、自己変容のための思考法を開発しました。リフレクションと対話的深い学びを組み合わせた手法です。

私たちが、変わりたいのに変われない時には、変われない理由があります。この理由を、ロバート・キーガン先生は、強固な固定観念と呼んでいます。社会はこうあるべし、学生はこうあるべし、人間はこうあるべし、私は、こんな人間とおもわれたい等、誰もが、固定観念を持っています。私たちの固定観念は、経験を通して形成されていきます。固定観念というと、少しネガティブに聞こえるかもしれませんが、それは、私たちが生きた証とも言えます。だから、誰も、それを手放すことができないと思い込んでいます。しかし、この思い込みも、固定観念なのです。

日本社会に生きていると、私たちは、「人は変われない」という固定観念を形成するたくさんの経験をすることになります。その結果、「人は変われない」が確信になります。だから、何かを変えようという話をしていても、どこかで、「人は変われない」という固定観念が姿を現します。そして、これは、私たちにとって、都合の良い「固定観念」でもあります。私たちに、これまで通りでよいという許可を与え、楽な道を選択することに罪悪感を持たずに済むからです。

コロナ禍で、世の中には変化の兆しがあります。自己変容の思考法を広め、人と組織と社会は変えられるという固定観念を広め、みんなで変わることに挑戦していきたいと思います。

 

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