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シティズンシップ教育宣言

2020.08.24文部科学教育通信掲載

経済産業省が、2006年に発表したシティズンシップ教育宣言をご紹介します。

シティズンシップの定義

シティズンシップ教育と経済社会での人々の活動についての研究会(以下研究会)は、シティズンシップを、「多様な価値観や文化で構成されている社会において、個人が自己を真真理、自己実現を図ると共に、よりよい社会の実現に寄与するという目的のために、社会の意思決定や、運営の過程において、個人としての権利と義務を行使し、多様な関係者と積極的に関わろうとする資質」と定義しています。

シティズンシップ教育が必要な理由

研究会は、シティズンシップ教育の必要性として、2つの現実を紹介しています。

➀成熟した市民社会形成の兆し

我が国は、敗戦から復興し、高度経済成長を経て、世界でも有数の経済水準を達成するとともに、ようやく、自立・自律した個人が活躍する時代を迎えつつある。そして、多様な価値観や文化を持つ人々で構成される成熟した市民社会が形成されうる状態になりつつある。

②社会の複雑化の進行

しかしながら、現代は、同時に、所得、職業、学力、健康レベルなどの格差が拡大したり、家庭が育児に悩んだり、従来の発想ではとらえられないような多様な価値観がでてきたり、人々の自殺がふえたりと、非常に複雑な様子を見せるようになってきていて、必ずしも、全ての市民が容易に自発的に社会とのかかわりを持てる環境にはない。

2006年に発表されたシティズンシップ宣言には、高度経済成長を遂げた日本が、バブル崩壊を経て、どのような国づくりを目指すべきかを示唆しているように感じます。経済が成長すれば幸せになれる、豊かになれば幸せになれるという幸せの法則が、これから先の日本を支える指針にはならないことが明らかになった時、一人ひとりが、自分自身を守り、他者と共生し、よりよい社会に貢献するというシティズンシップに期待するのは当然のことだと思います。

シティズンシップ教育への期待

研究会は、シティズンシップ教育が果たす役割を、以下のように述べています。

成熟した市民社会が形成されていくためには、市民一人ひとりが、社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、その解決やサービス提供に関する企画・検討、決定、実施、評価の過程に関わることによって、急速に変革する社会の中でも、自分を守ると同時に他者との適切な関係を築き、職について豊かな生活を送り、個性を発揮し、自己実現を行い、さらによりよい社会づくりに関わるために必要な能力を身に付けることが大切だと考える。

一方で、こうした能力を身に付けることは、いかなる人々にとっても、個々人の力では達成できないものであり、家庭、地域、学校、企業、団体など、様々な場での学びや参画を通して初めて体得されうるものであると考える。

上記のような能力を身に付けるための教育、すなわちシティズンシップ教育を普及して、市民一人ひとりの権利や個性が尊重され、自立・自律した個人が自己の意思に基づいて多様な能力を発揮し、成熟した市民社会が形成されることを期待する。

シティズンシップが発揮される3つの分野

研究会は、シティズンシップを内包し、シティズンシップなしには成立しえない分野として、➀公的・公共的な活動(社会・文化活動)、②政治的活動、③経済活動の3つがあると考えました。

➀公的・公共的な活動

地域や学校、仲間などの中で、市民の多様なニーズや社会的な課題へ対応するために、政府でもなく企業でもなく、市民一人ひとりが自分たちの意志に基づいて、関係者と協力して取り組む活動。

  • 社会を良くしようとする意識をもち積極的に地域の活動に参画し、生涯に亘って学び続ける。
  • 学校や地域などにおける意思決定や活動の場に参画する活動。
  • 地域社会における生活の質を維持・工場するために、他の住民たちと協力して取り組む活動(防犯・防災、介護、清掃、青少年育成等)。
  • 賛同する関係者とネットワークを形成しながら、環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援など、国内外の課題解決に取り組む活動。
  • 社会人として必要な文化的な知識や素養を身に付けたり、学問・芸術・スポーツ・道徳などの活動に取り組んだりすることで、周りの身近な人々との豊かな生活づくりに関わること。

②政治的活動

民主主義社会での司法・立法過程で政策決定過程等、積極的に関与・参画し、自分たちの生活を左右したり、社会の仕組みに影響を及ぼしたりする政策に、自分たちの意志を反映しようとする活動。

  • わが国の民主主義の制定およびそれを指させる国民の権利と義務について理解し行動すること。
  • 自分たちの意志と判断に基づき、選挙や住民投票などで投票を行うこと。
  • パブリックコメント、審議会、住民説明会、電子市民会議などを通じて、政府にたいして自分たちの意見や要望を伝達すること。
  • 市民の自発性・主体性に基づき、政治的な運動・活動を行うこと。
  • 経済活動で得られた報酬等に応じて納税し、社会保険料を負担すること。

③経済活動

他者と関わり合いながら、社会が必要とする商品やサービスの生産・提供に参加すること、および、アクティブな消費者として、自分たちの生命や資産を守りながら、さらにそれにとどまらず、社会全体にとってプラスと考えられる消費・生活行動を実現する活動。

  • 自分たちの志向と社会のニーズのバランスを理解し、社会に関わる職業に就いて、生活に必要な収入を得ること。自分たちの生活に関わる法律や制度、仕組みを理解するとともに、不公正や違法な経済活動を見抜く力を身に付けること。
  • 環境保護・省エネルギー、貧困撲滅・経済支援、文化育成など、企業等の社会的な貢献を促進する消費活動を行うこと。

シティズンシップを発揮するために必要な能力

研究会は、市民一人ひとりが、シティズンシップを発揮し、社会との関わり合いを通じて、自分たちを守り、豊かな生活を実現し、自己実現し、また、よりよい社会づくりに参加するために必要となる多様な能力を「意識」「知識」「スキル」の3つに分類して示しています。

意識

社会の中で、他者と協働し、能動的にかかわりを持つために必要な意識

  • 自分自身に関する意識
  • 他者との関わりに関する意識
  • 社会への参画に関する意識

知識

  • 公的・社会的な分野での活動に必要な知識
  • 政治分野での活動に必要な知識
  • 経済分野での活動に必要な知識

スキル

多様な価値観・属性で構成される社会で、自らを活かし、共に社会に参加するために必要なスキル

  • 自己・他者・社会の状態や関係性を客観的・批判的に認識・理解するためのスキル
  • 情報や知識を効果的に収集し、正しく理解・判断するためのスキル
  • 他者とともに社会の中で、自分の意見を表明し、他人の意見を聞き、意思決定し、実行するためのスキル

オランダのシティズンシップ教育

現在、オランダのシティズンシップ教育ピースフルスクールを、子ども園や小学校に導入する支援を行っていますが、そのカリキュラムと、経済産業省のシティズンシップ教育宣言には、驚くほど共通点があります。

大きな政府に守られ、発展した我が国の国づくりの手法が、多様で成熟した社会を運営する上で限界に来ています。一人ひとりがよい市民になることで、自ら幸せな社会を築けるように、シティズンシップ教育の普及に取り組んで参ります。

 

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