skip to Main Content

ピースフルスクールとアクティブ・ラーニングとの関係性 -佐賀県武雄市立武内小学校での公開授業-

文部科学教育通信No.382 2016.2.22掲載

2016年123日に、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてピースフルスクールプログラムの公開授業を行いました。

今回はその様子をお伝えいたします。

 

 なぜ、小学校にピースフルスクールプログラムを導入するのか

日本でのプログラムの開発と展開をスタートした二〇一三年に、佐賀県武雄市の教育監に就任された代田昭久先生とお話する機会があり、ピースフルスクールの特徴や魅力をお伝えしたところ、対立を恐れることなく自分の意見を伝え、話し合いで問題を解決する力を身につけるといったプログラムの特徴に共感いただきました。

その後、二〇一四年度から代田先生が校長を務められる武雄市立武内小学校の先生方にプログラムをご紹介いただき、子ども同士の対話力の向上を目指している学校の実態や先生方のお話を受けて、二〇一四年度より導入することが決まりました。

小学校を見学した際、好奇心が旺盛で、他者と関わることを前向きに捉えている子どもが多いと感じました。異質な人や事柄を排除し、誰かをいじめるといった課題も見受けられませんでした。しかし、先生方とお話していると、各学年二十人程といった少人数の限られたコミュニティのなかで、同調圧力がかかりやすく、多様化しにくいという課題があることがわかりました。人間関係が固定化しやすく、異なる意見や考えを持っていても、それを相手に伝えることが苦手である児童が多かったのです。

また、武内小学校ではアクティブ・ラーニングの一種であるスマイル学習(武雄式反転授業)を導入しているので、子ども同士の協同学習(学び合い)がさかんです。この協同学習では、話し合いがベースとなっているため、より学習効果を高めるためにも、ピースフルスクールプログラムを通して、同調圧力に負けず自分の意見を伝え、意見が対立した時は話し合いでより良い答えを探す力を身につけることが大切になります。このような願いがあり、プログラムの導入が始まりました。

 

 対立をどのように解決したら良いのか、子どもたちが考える時間

この日、武内小学校の三年生はウィンとルーズの関係について学びました。
これまでの授業で子どもたちは、自分の意見を持つことの大切さ、価値観や今までの経験がみんな異なるため意見が一人ひとり異なることは当たり前だということ、お友達と対立した時にはケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決した方が良いことなどを学んでいます。

今回の授業では、対立を話し合いで解決する時のパターンについて扱いました。
まずは、対立している双方がどちらも満足する「ウィン・ウィン解決」、双方が不満足の「ルーズ・ルーズ解決」、どちらか一方だけが満足しもう一方の人は不満足な「ウィン・ルーズ解決」があることを認識させるために、トラとサルのパペットを使って一台のすべり台を巡って言い争うシーンを子どもたちに見せます。

言い争いが続いてどちらもすべり台を滑ることができなかったら「ルーズ・ルーズ解決」であること。一方だけが滑ってもう一方が我慢していたら「ウィン・ルーズ解決」であること。二人が話し合って交互に滑ることができたら「ウィン・ウィン解決」であること。

ただ単に用語を説明するのではなく、子どもたちの身近に起きる事例をもとに3つの解決方法について理解を深めます。

その後、どう頑張ってみても「ウィン・ウィン解決」ができないケースを扱いました。

ちょうど子どもたちが来年度からのクラブについて考える時期であることから、一人しか入れないクラブに二人が一緒に入りたいというシチュエーションについて考えます。

トラとサルは二人で一緒にクラブに入りたいので、どのようなクラブがあるのか検討していたところ、スポーツクラブだったら二人が満足できるという話になりました。しかし、スポーツクラブは一人分の空きしかなく、二人同時に入ることはできません。

この時のウィン・ウィン解決は、二人で一緒にスポーツクラブに入ることですが、それができないため、どうしたら良いかを考えます。

子どもたちは二人組になって解決策について話し合います。「トラとサルは、”二人で一緒に”クラブに入りたいのだから、スポーツクラブは無理でも、違うクラブに二人で入ったら少しは満足できるかも」、「話し合って、どちらかだけでもスポーツクラブに入るとどうだろう?」といった話し合いがなされていました。

その後の発表では「我慢して一年後にスポーツクラブに入る」や「一人が譲って、別のクラブに入る」などの意見が出ました。ここで、先生は子どもたちに「妥協」という解決の仕方を教えます。「今年はスポーツクラブに入るのを我慢して別のクラブに二人で入って、一年後に二人でスポーツクラブに一緒に入る」という妥協案も出ました。

先生は、子どもたちの日常で起きている対立を例に挙げ、その時の解決の仕方が「妥協」であったことを指摘します。子どもたちからは「どちらか一方だけが満足して、もう一方が残念な気持ちになるよりも、お互いが少しずつ満足になる”妥協”も時には大事なんだね」や、「”妥協”はどうしたら良いかわからない時のお助けの役割みたいだね」という発言がありました。

このように、子どもたちの日常で起きることを丁寧に紐解いて、どのようにしていくのが良いかを子ども自身に考えさせ、考えたことや学んだことを授業や日常生活で活かすということを繰り返し行っています。

 

 ピースフルスクールはアクティブ・ラーニングの基礎である

武内小学校の先生からは、「ピースフルスクールプログラムはアクティブ・ラーニングの基礎であり前提です。アクティブ・ラーニングの中心は子ども同士の話し合い、学び合いですが、積極的に意見を言えば対立が起こります。時にそれは相手の人格否定にまで達しますが、それでは協働学習は成り立ちません。ピースフルスクールプログラムを通して、一人ひとりの顔が違うように意見も違って当たり前だということ、お友達と意見が違っていてもお友達でいられること、意見の対立は話し合いでわかり合うことができ、より理解を深めることにつながるので、むしろ素晴らしいことを子どもたちに認識させ、対立を乗り越える具体的なスキルを教えています」と評価いただいています。

アクティブ・ラーニングのように学びの手法と併せて、ピースフルスクールのような考えが教育現場に広がることを願っています。


Back To Top