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お茶の水女子大学附属小学校 第78回教育実際指導研究会 学びをひらく -”てつがくすること”を始めた子どもと教師-

文部科学教育通信No.383 2016.03.14掲載

2016年219日に、お茶の水女子大学附属小学校の第七十八回教育実際指導研究会が開催されました。
お茶の水女子大学附属小学校は、2015年度から四年間、文部科学省の研究開発指定を受けて、「教育課程全体で、人間性・道徳性と思考力とを関連づけて育む研究開発」を行っています。2008年以降は、公共性を育むための「シティズンシップ教育」の研究開発をベースに、子ども一人ひとりを尊重し、主体性を発揮できる環境をつくること、他者との相互作用によって生まれる共同的な学びを追求すること、民主主義の質を問い続ける市民を育成することを研究の目的とした実践を進め、2014年度からは「学びをひらく」をテーマとして、子どもと教師が思考し続けるための環境や方法を開発しています。

今年度は、新教科「てつがく」科の創設に向けた研修を進めています。
「てつがく」科とは、自明と思われる価値や事柄を「対話」や「討議」などの多様な言語活動を通して問い直し考える教科をめざしています。お互いの考えを聴き、しっかりと受け止めたうえで、自分の考えを問い直し、思考し続けることを大切にした”てつがくすること”を取り入れた授業を様々な教科の中で行っているのです。

このような研究の一環として、一年生の子どもたちにピースフルスクールプログラムを実践するという試みを201510月から始めています。一年生の段階で、自分の意見をお友達に伝えること、お友達の意見を聴くこと、意見の対立を恐れないことなどの”てつがくする”ために必要な力を育むことで、子どもたちが安心してじっくりと「人・モノ・こと」と関わることができるようになると考えています。

今回の教育実際指導研究会にて、一年生のクラスでピースフルスクールプログラムの公開研究授業を行いました。

今回はその様子をお伝えいたします。

 

 研究会までの取り組みについて

二月の研究会までに週二回程度ピースフルスクールプログラムを扱った授業を行ってきました。
一年生の子どもたちは、入学した四月から「サークル対話」や「共同推敲」などを行っているため、自分の意見を伝えること、お友達の意見を聴くこと、みんなで何かについて考えることといった経験を積んでいます。
このプログラムを通して、子どもたちがこれまでに学んできたことや経験してきたことを意味づけ、メタ認知すること。そして、自分たちの手で学級の諸問題を解決し、子どもたちにとっての社会である学級をつくる力を育てていきたいと担任の先生と共に考えています。

十月にピースフルスクールプログラムを開始した時、「わたしたちのクラスのルール」について考える授業を四回程度行いました。

自分が過去に通っていた園やおうちでのルールにはどのようなものがあるか。今通っている小学校のルール、クラスのルールにはどのようなものがあるかを振り返ります。そして、なぜそのルールがあるのかを考えます。子どもたちは自分の意見をみんなの前で発表し、他のお友達の意見に対して、さらに発言をすることを繰り返します。先生がフォローすることはありますが、先生からの問いに対して、自分たちで考える時間を大切にしています。ルールがなぜあるのかについて理解が進んだ時点で、自分たちのクラスをもっと居心地の良いクラスにするために、どのようなルールがあると良いかについて話し合います。

子どもたちは、自分の都合だけでなく、みんなの視点に立って考えることができていました。また、自分たちに守ることのできるルールの数やみんなが守ることのできるルールという観点でも話し合っていました。
ピースフルスクールの授業を通して、子どもたちひとり一人が、クラスに所属している以上、自分にできることをして貢献する必要があると理解していることがわかりました。そして、「今」と「大人になってから」をつなげて考えることができている子どももいました。自分だけが良くても、他の人が嫌な気持ちになることもあるということも理解できています。

次に、けなし言葉がもたらす影響について学びました。けなし言葉を言われるとどのような気持ちになるかを想像し、もしけなし言葉を使ってお友達と仲が悪くなってしまった時にどうしたら良いかを考えました。

また、相手から嫌なことを言われたり、された時に、「いやだから、やめてほしい」と自ら伝える必要があることも学びました。子どもたちは、よく「○○くんが私のことをからかってきます」と先生に言います。どのようなことが「からかい」なのか、子どもたちの考えを聴き、そのような時にどうしたら良いのか話し合いました。

子どもたちからは、以下の感想があがりました。

・嫌な気持ちになった時は、ちゃんと「やめて!」と言う。私がいやだと思うことはしない。

・「ばか」や「あほ」と言われるとすごく傷つく。誰かがけなし言葉を言ってきたら「いやだから、やめて!」と言うことを心がける。あと、私がわざとじゃなくてもけなし言葉を言ってしまったら、ちゃんと「ごめんね」と許してくれるまで言うし、けなし言葉はもう言わない。

・からかうことをよく考えたことはなかったけど、今日、私に「いやだから、やめて」と言ってきたら、「ごめんね」と言ってやめることがわかった。

その他に、自分とお友達の似ているところと違うところについてアクティビティを通して話し合ったり、先生が出した質問についてクラス全員で答えを考えることを通してお話をしっかり聴く練習をしています。答えがわかった時に「自分が答えたい!」という気持ちをセーブして、みんながわかるための質問をするのです。このようなレッスンを繰り返すことで、「何を大事にしたら良いのか」「何をしてはいけないのか」という価値観を子どもたちが納得したうえで身につけることができると考えています。

 

 対立とけんかの違いについて学ぶ

子どもたちは、ピースフルスクールのレッスンを通して、それぞれ意見を持つことの大切さや、お友達と意見が違っていても問題のないことを理解しています。

公開研究授業では、対立は意見が違うことが原因で起きるので悪いことではないこと、その対立をけんかやいじめに発展させず、対立を自分たちで建設的に解決するために何ができるのかについて学びました。
子どもたちが話し合う題材として、ライオンとウサギのパペットを使って、子どもたちの身近に起きる対立の事例を扱いました。

ウサギが子どもたちに「好きな遊び」について質問したいと言い、ライオンは「好きな食べ物」について質問したいと言います。どちらが先に質問するかを巡って、お互いに暴力をふるいけんかしてしまいました。

先生は子どもたちに、何が起きたのか、ウサギとライオンはどのような気持ちになっているか、どうしたら解決できるのかを質問します。

子どもたちは自分の考えをお友達に伝え、お友達の考えを聴くことで、なぜけんかになってしまったのか、どうしたら解決できるのかを考えていました。

自分の頭で考えることで、対立とけんかの違いについて納得することができます。このレッスンを通して、対立は生じて当たり前であるが、その後に言葉や力で攻撃を加えると、けんかになってしまうことを理解していました。

今までの自分たちに起きた対立とけんかの経験を思い出し、今後どうしたらいいのかについても考えます。

このように、意見やものの見方、考え方がそれぞれ違うこと、違っていることは当たり前であることを理解し、学んだことを日常生活で活かしていくことが、”てつがくすること”の基礎となると考えています。

引き続き、ピースフルスクールプログラムの学びが子どもたちにどのような影響を与えるかについて研究を進めたいと思います。

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