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幼保小中一貫教育のためのピースフルスクールプログラム研修会②

文部科学教育通信No.372 215.9.28掲載

前回(No.371)と今回にわたり、平成27年度より開始した神奈川県箱根町での幼保小中一貫教育を見据えたピースフルスクールプログラム導入についてご紹介しています。

前回は、「いじめや不登校といった表面化した問題をどのように扱うのか」「自立と共生社会を実現するために何ができるのか」という視点からプログラムの特徴について取り上げました。

今回は、プログラムの導入前研修で実施したことがテーマです。

 

すべてのはじまりは、感情から

ピースフルスクールプログラムでは、感情を扱うことに重きを置いています。

それは、なぜでしょうか。

一つは、感情が行動を促すということです。

長年、行動を支配するのは論理であり、感情は秩序を乱す邪魔なものと考えられてきました。

しかし、論理的思考から感情が切り離されてしまうと、思考したり、決定したり、学習したりする能力が欠落することが研究を通してわかりました。

これを学習に当てはめて考えれば、感情を伴わない(興味の持てない)学習は、なかなか身につかないと言えます。何か行動を起こそうと思う時には、必ず感情が働きかけているのです。

もう一つは、他者の気持ちを理解するためには、まず自分の気持ちを知り、言葉で伝えられるようになることが必要だということです。

学校現場では「相手の気持ちを大切にしよう」ということが子どもたちに教えられますが、自分の感情をきちんと認識できないと、相手の気持ちを深く理解し、寄り添うことはできません。日頃から自分の感情を押し殺して生活していると、心の機微に気づくことができなくなってしまいます。そうならないためにも、なるべく幼い頃から自分の感情を認識し、言葉で表現する練習を行うことが有効です。

これは、子どもと関わる大人にとっても必要なことです。

子どもたちは大人の言動や振る舞いを見ながら生活しています。大きな影響を受けているのです。そのため、大人が自分の感情を押し殺すことなく大切にしていると、子どもたちにも伝わります。

ピースフルスクールでは、子どもと一緒に、大人も自分の感情を認識し、言葉で伝えられるように練習しています。今回の研修でも、最初のワークは感情を言葉にすることから始めました。

「最近の最も嬉しい・楽しい・わくわくした出来事」について、それはどのような出来事だったか、その時の気持ちはどうだったかを、まずは一人で思い出します。

その後、三人グループになり、気持ちを共有し、出来事について話します。

ポジティブな感情に関する話が終わったら、「最近の最も悲しい・悔しい・頭にきた出来事」について同様のワークを行います。

日頃から感情を意識している人は、すぐに出来事を思い出し、相手に話すことができています。このワークでなかなか感情が出てこなかった人も、日々の生活の中で自分の気持ちに意識を向けることを続けると、感情を認識する力が向上します。

続いて、幼児向けのピースフルスクールプログラムで特徴的なレッスンを取り上げます。

 

お互いに名前で呼び合い、挨拶をする

ピースフルスクールが目指している安心安全な環境をつくるために、子どもたちはお互いに名前で呼び合い、挨拶をします。「なんだ、当たり前のことじゃないか」と思われる方もいらっしゃると思いますが、これが文化となって実践できているところは少ないと思います。お友達や先生の名前を覚えることで、誰が園やクラスというコミュニティに属しているのかがわかります。名前を呼んで挨拶をすると、お互いをコミュニティに歓迎することができ、気持ちよく過ごせます。そうすると、コミュニティをより安心安全な環境にすることができます。

 

ほめ言葉とけなし言葉

子どもたちは、ほめ言葉とけなし言葉を言われた時に、どのような気持ちになるかを考え、

ほめ言葉とけなし言葉がもたらす影響を理解します。お互いにほめ言葉を伝えあうことで、コミュニティをポジティブな雰囲気にすることができます。

多くの園で、誰かがけなし言葉を言っていると「それは言ってはいけないよ」と都度教えていると思います。大人から指摘されて言うのを止めるということは、自分の頭で「この言葉を言っていいのだろうか?」と考える機会がないと言えます。ピースフルスクールでは、けなし言葉を言われた時の感情に着目し、自分で自分の発言をコントロールできるように子どもたちを育てます。

 

嫌だから、やめて

嫌なことをされた時に、直接相手に「嫌だから、やめて!」と伝えること、どんなに楽しいと思っていても、相手から「やめて!」と言われたらやめなくてはならないことを知ることで、からかいが深刻なけんかやいじめに発展するのを防ぐことができます。

そうすると、小さなけんかが起きた時に、いつも先生が介入しなくてすむようになります。

子どもたちは、レッスンで「嫌だから、やめて!」という練習をします。日常生活でも、誰かに嫌なことをされた時に「やめて!」と言う習慣を身につけます。先生は、お友達に嫌なことをされたと言いに来た子どもに対して、「自分で、いやだからやめて、と言ってみた?」と子どもたちを促します。

 

仲直り

けんかになった時に、子どもたち自身で問題を解決し、仲直りすることで、子どもの問題解決力や自分たちで解決できたという自己効力感を高めることができます。そうすると、全ての子どもたちのけんかに先生が介入する必要がなくなります。

子どもたちは、どうしたら冷静さを取り戻して仲直りができるのか、良い解決策を考えます。

先生は、子どもたちがけんかをした時に、すぐに介入するのではなく、子どもたち自身で問題を解決する機会を与えます。また、子どもたち自身でけんかを解決できたとき、そのことをしっかりとほめて、習慣となるように促します。

 

怒りの気持ち

ピースフルスクールでは、感情について複数のレッスンを行いますが、その一つに怒りの気持ちを扱うレッスンがあります。怒りの気持ちがわいてきた時に、もう一度冷静になることで、落ち着いて話ができるようになります。怒りの気持ちを自らコントロールできるようになると、けんかが炎上することや、伝えたいことが伝わらないといったことが起きなくなります。

子どもたちは、怒りがおさまるまで、相手と離れて別の場所に行く、ぬいぐるみを抱く、十秒数えるといったセルフコントロールを行います。先生自身もこのコントロールができるように日常で訓練します。そして、先生が怒りを感じた時にどのように気持ちと向き合っているかを子どもたちに話すことで、子どもたちは大人も自分と同様に気持ちを大切にしているということが理解できるのです。

 

得意なこと

自分とお友達の得意なことを知ることで、お互いに似ているところと違っているところがあることを知ります。似ているところも違っているところも、それぞれ尊いことを知り、お互いを尊重することができるようになります。

「多様性を尊重しようね」と子どもたちに教えても、多様性を尊重できるようにはなりません。子どもたちの生活に根差す形でお互いの一致点と相違点を明らかにしていき、違っていてもお友達でいられることを実感することが必要です。

このように、ピースフルスクールプログラムは、レッスンを通して「何が大切なのか」「どうすればよいのか」を子どもたちに教えます。そして、その学びを日常生活で実践し、普段から出来るようにするのです。「知っている」ところで終わらず、出来るようになることを目標としています。これは、子どもと大人にとってのチャレンジだと思います

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