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幼保小中一貫教育のためのピースフルスクールプログラム研修会①

文部科学教育通信No.371 2015.9.14掲載

いじめや不登校、学級崩壊といった子どもたちを取り巻く問題がなくなり、子どもたちが心から安心して学校に通い、学校生活を通して変化の激しい二十一世紀という時代を幸せに生きるための力を身につけることができればと、子どもに関わる誰しもが願っていると思います。

これらの願いを叶えるためのアプローチとして、クマヒラセキュリティ財団では「ピースフルスクールプログラム」というシチズンシップ教育プログラムを開発し、展開しています。

このプログラムは、子どもたちが自ら安心安全なコミュニティをつくるための教育プログラムです。建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、対立を子ども自身で解決することを軸として、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。

このプログラムを採用している学校で学んでいる子どもたちは、自分の意見を持つこと、その意見を相手にきちんと伝えること、相手の話をよく聞くこと、自分の感情を認識すること、相手の立場に立って物事を考えること、対立は意見が異なることが原因で起きるので悪いものではないと理解すること、対立をケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決すること、多様性を尊重することといった、幸せに生きるために必要な力を身につけています。誰かからの指示でしか行動できないのではなく、自分の頭で考え、答えを導き、主体的に活動することができるのです。これらの力を身につけるのは、子どもたちだけではありません。子どもたちと関わる先生や保護者といった大人も同様に成長することが可能です。

この度、幼保小中一貫教育を見据えて、神奈川県箱根町の教育委員会と連携し、平成二十七年度より箱根町の幼稚園でプログラムの導入が始まりました。

今回と次回は、プログラムの導入前研修を軸に、幼保小中一貫教育としてのピースフルスクールプログラムをご紹介いたします。

表面化した問題をどのように扱うのか、何ができるのか

いじめや不登校といった問題が表面化し、問題が起きて初めて対処療法的な対策を取り始めるということも多い中、そもそもこれらの問題が起きないようにするために根源的なアプローチとして何ができるでしょうか。

大人の力で管理すること、規則で抑制すること、問題の対象となった子どもの心に寄り添うこと。様々な取り組みが現場で行われていると思います。

安心安全な環境で学力と心の成長を続けることは不可能なのか、どのような取り組みを行えば実現できるのか。この問いのヒントを求め、世界の教育を研究していたところ、オランダで実践されている幼小一貫教育であるピースフルスクールを見つけました。このプログラムを導入している学校では、幼稚園から小学校までの八年間、レッスンと日常生活での実践を行います。子どもたちだけでなく、先生や保護者、学校を取り巻く地域の大人も同じプログラムを学び、実践するため、学校や地域の文化として醸成します。子どもたちはこの文化の中で育つのです。

プログラムの導入校の子どもたちは、冒頭に記した「幸せに生きるために必要な力」を幼い頃から身につけているため、いじめや学級崩壊といったコミュニティの崩壊という末期的な問題にさらされることがありません。いじめなどの問題に怯えることなく、ポジティブに人とつながり、社会で生きるための準備をしているのです。

日本にもこのようなプログラムが必要だと思い、オランダのプログラム開発者のアドバイスを受けながら、日本版のピースフルスクールプログラムを開発し、学校現場や大人たちに向けて展開しています。

小学校版のプログラムは平成二十六年度より佐賀県武雄市の武内小学校で導入がスタートしました。子どもたちが安心安全な環境で、人生を幸せに生きる力を身につけることを目標に、神奈川県箱根町では、幼保小中一貫を見据えて幼稚園でのプログラム導入が始まりました。

以下は、プログラムの導入前研修の一部をご紹介いたします。

子どもたちの自立と共生を目指すプログラム

研修の冒頭で、ピースフルスクールプログラムへの理解を深めました。

子どもたちを取り巻く様々な問題を解決し、安心安全な環境を自ら創る力を身につけるためには、子どもたちの自立と共生を目指す必要があります。

ピースフルスクールプログラムは、自立と共生社会を実現するために、以下のことを習得することを目指しています。

1.子どもたちは、クラスでの役割を分担します。また、お友達との関わり方を学ぶことで平和で明るいクラスを作ります。

2.子どもたちは、「明確に話す」「聞く」「質問をする」「他人の視点で考える」といった重要なコミュニケーションスキルを学びます。

3.子どもたちは、自分の感情と他人の感情にどう対処すれば良いかを学びます。

4.子どもたちは、対立を建設的に解決する方法や、未然に防ぐ方法を学びます。

5.子どもたちは、お互いに助け合いながらグループやコミュニティの運営に貢献します。

6.子どもたちは、お互いの違いに対してオープンな態度を取ることを学びます。お互いの違いを理解し、つながりを深めます。

学びの支援者である先生は、プログラムの内容を教え込むのではなく、子どもたちが自ら実践できるようにエンパワーします。学び手である子どもたちは、レッスンを受けるだけといった受身的に学ぶのではなく、日常での実践といった主体的な学びを目指します。そうすることで、自分で考え、行動することができるようになります。

また、共生社会を実現するために、子どもたちはどのようにしてコミュニティの創り方を学ぶのでしょうか。お友達との心のつながりを創り、そのつながりが広がる中で、コミュニティへの帰属意識が芽生えます。その結果、コミュニティのために何かをしようという気持ちが生まれます。

オランダのプログラム開発者から、いじめの傍観者がいる学級は本当のコミュニティではないと言われたことがあります。いじめは、加害者と被害者だけで成り立つものではありません。いじめがあることを認識しながら、何もしない傍観者の存在がいじめを成立させていると言えます。コミュニティへの帰属意識が芽生えている環境では、自分の気持ちだけでなく、他者の気持ちに意識が向きます。悲しい気持ちでいる人を放っておける状態はコミュニティではないのです。様々な力を身につける以前に、子どもたちが過ごす環境を変える必要があります。

このプログラムは、子どもの自尊心と自制心を育て、他者への共感力を高めることで、対立を子ども自身で解決するコミュニケーション力を養います。そうすることで、園や学校が子どもたちにとってより安心安全な環境になります。自立と共生を目指すことができるのです。

誰もがけんかやいじめのない環境を望んでいたとしても、心の中では「いじめはなくならない」「自分は関わりたくない」という思い込みがある状態では、問題が起きてからコミュニティのあり方を改善することは難しいです。

そのため、問題が顕在化する前、可能であれば幼児のころから、遅くとも小学校低学年から継続してこのプログラムを実践することが大切です。

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