skip to Main Content

問題解決に向けた対話の力を身につける②

文部科学教育通信No.361 2015.4.13掲載

 自分の感情を認識し、言葉で伝える。相手の感情を受け止めるためのレッスン

前回、他者の気持ちを理解するためには、まず自分の気持ちを知り、言葉で伝えることができるようになる必要があると述べました。

自分の気持ちを認識することや言葉で伝えることが得意な人とそうでない人がいます。日頃から自分の感情に意識を向けていると、「今、どんな気持ちか?」と聞かれた時に答えられるかもしれませんが、そう簡単なことではないと思います。特に感情を押し殺して生活していると、心の機微に気が付きにくいものです。

ピースフルスクールでは、子どもの頃から自分の感情を認識して言葉で伝える練習を行っていますが、これは大人である我々にも必要なトレーニングだと思います。

以下の2つの質問について、それぞれ2分ほど考えてみましょう。

  1. 最近の最も嬉しい・楽しい・わくわくした出来事を思い出してください。
    それはどのような出来事でしたか。
    その時の気持ちはどうでしたか。

  2. 最近の最も悲しい・悔しい・頭に来た出来事を思い出してください。
    それはどのような出来事でしたか。
    その時の気持ちはどうでしたか。

 

いかがでしたか。大人向けのプログラムでは必ずこのワークを行うのですが、すぐに出来事や気持ちを言語化できる人と、なかなか思い浮かばない人がいます。一週間の終わりに、このことについて少し考える時間を持つだけでも、感情を認識する力を高めることができます。

 

対立を乗り越える対話の経験

続いては、対立を乗り越える対話の練習を行いました。

対話とはどのような話し合いのことなのでしょうか。対話の図をご覧ください。

講義形式で一方的に話をしている状態は、全体に対して過去の情報を共有しているにすぎないので、現状維持にとどまります。

意見と根拠を主張し合い、自分の意見の正しさを証明するディベートは、個々に働きかけますが、そこから何かを生み出すわけではないので、こちらも現状維持にすぎません。

対話とは、内省と共感のある話し合いのことを指します。個々に働きかけ、未来を変える可能性があります。

対話がさらに進化すると、目的に向かい、無から有が生まれる話し合いができるようになります。この時、話し合いのメンバーの脳が一つになる感覚で、全員で未来を変えることができるのです。

対立を乗り越える対話は、内省と共感のある話し合いであると述べましたが、具体的には以下のように進みます。

 

  1. 意見を伝える、聞く
    ある問いに対して自分の意見を持ち、相手に意見とその根拠を伝えます。相手の意見にも耳を傾けます。

  2. 内省する
    相手の意見を聞いた今、改めてなぜ自分はその意見なのか、その意見を持つ背景にどのような体験があるのかを考えます。

  3. 共感する、学習する
    なぜ相手がそう思うのか、その意見を持つ背景にどのような体験があるのかを考えます。自分と異なる意見であっても、その意見を持つに至った過去の経験や根拠を知ることで、相手に共感することができ、自分にはない世界を知ることができます。

  4. 価値観(大切にしていること)を洗い出す
    その意見を持つに至った背景や前提に、どのような経験があるのかを考え、自分の価値観を洗い出します。

  5. 意思決定の目的を明確にする
    対話の目的、つまり意思決定の目的を明確にします。この目的を相手と共有することができると、意思決定がスムーズに進みます。

  6. 目的にあわせて、評価軸を評価する
    目的にあわせて、対話している相手と大切にしたい評価軸を明らかにします。

  7. 意思決定をする
    目的に対する最良の解決策を決めます。

           

1~7までのステップを型として身につけると、日常生活でも自然と対立を乗り越える対話ができるようになります。

今回、大人向けにワークショップでは、以下の問いについて話し合いました。

 

あなた(高校生の親として)は、以下のガイドラインに、賛成か反対どちらでしょうか。

無料通話アプリ「LINE」などによる未成年のトラブルが相次ぐ中、県立高校PTA連合会と校長会が今月、生徒のスマートフォン・携帯電話の利用自粛を促すガイドラインを下記のように設けた。 

「午後9時から翌朝6時までは、原則として使用しない」

 

今回は10名でワークを行いました。

まずは、自分の意見を持つところからスタートします。問いについて考え、「賛成・反対・わからない」に分かれます。分かれた後、同じ意見を持っている人同士で、その意見に至った根拠や事例について話します。この時、同じ「賛成」を選んだ人でも、根拠が異なることを知ります。よく会社などでの議論では、意見のみ伝えて根拠や背景について触れることはあまりありません。そのため、誤解が生じたり、「あの人はああだから」といった具合に勝手に話が広がってしまいます。

その後、「賛成・反対・わからない」の意見を持つ人がそれぞれ揃うようにグループに分かれ、改めて自分の意見とその根拠、事例について話します。

一通りメンバーの意見を聞いた後は、自分がなぜその意見を持つに至ったのかを内省します。大切にしている価値観やその意見の背景・前提にどのような経験があるのかを深く考えていきます。

その後、メンバーに内省を通してわかったことを伝えます。この過程を経ることで、異なる意見を持っている人であっても、大切にしていることが実は似ていたり、相手に共感することができます。

安心してそれぞれの思いを伝えあうことが目的の場合はここで対話を終えてもいいのですが、問題を解決し、意思決定を行うことを目指す対話では、ここからが重要な局面です。

内省の問いをお互いに話すことを通して、メンバーが大切にしたいと思っている価値観が明らかになります。

その後、意思決定の目的を明確にします。何のために話し合っているのか、何を大事にすべきなのか。メンバー全員が合意できるまで話し合います。

明らかになった目的にあわせて、どのように意思決定をするかを決めます。

ここまで話し合うと、相互理解も進み、当初の意見が通らなくとも、みんなで決めたことにコミットしようという気持ちになります。自分では思いつかなかった結果が生まれていることもあります。

このような問題解決に向けた対話を仕事や日常生活で意識して行うと、多様な意見や対立を恐れることなく合意形成できるようになります。

まずは型を身につけるところから始めてみてはいかがでしょうか。型が身に着くと、より自然と問題解決に向けた対話ができるようになると思います。

Back To Top