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問題解決に向けた対話の力を身につける

文部科学教育通信No.360 2015.3.23掲載

ここ数年、日本全国で様々な「対話」の場が設けられ、安心して自分の気持ちや考えを話せる場、ありのままの自分でいることが許される場をつくる「対話」が普及してきました。

このように、安心してそれぞれの思いを伝えあうことが目的の場合は良いのですが、対話にはより大きな可能性-社会の様々な問題解決に直接寄与し、民主的な社会を実現できる可能性-があると考えています。

そのためには、「対立は対話を通して乗り越えられる」という価値観と対話方法を身につけることが大事です。

2013年より、日本ファシリテーション協会のメンバーと共に、大人向けのワークショップを開発しています。2014年には関東・中部・関西でパイロットプログラムを実施しました。その内容を改めて見つめ直し、より日常生活で使えるスキルを身につけることに重きを置いたプログラムを再開発いたしました。

この「問題解決に向けて対話を深めよう ~オランダの小学生のファシリテーション事例を通して~」と題したプログラムについて、2回にわたってご紹介いたします。

 

プログラムの狙い

冒頭でも示した通り、対話には問題を解決する力があると考えています。

様々なニーズを抱えた個人のいる社会において、自分の考えばかりを強く主張する、自分の意見を全く言えない、人と意見を分けられずに人格否定に走ってしまうことで相互理解が進まず、問題が根深くなるケースが頻発していることに危機感を覚え、何とかならないものかと考えてまいりました。

お互いがオープンに話し合って問題を解決していくことのできる民主的な社会を実現するためには、どうしたら良いのか。

問題が起きていても見て見ぬふりをしてやり過ごす、誰かのせいにして責任を逃れるのではなく、きちんと解決して前進するためには、何が必要なのか。

何度も議論を重ねることで、対立は対話を通して乗り越えられるという価値観と対話方法を身につけることが必要だという考えにいたりました。

大人である我々がこの力を身につけて実践することで、今起きている様々な問題を解決することにつながるのではないか。

このような思いと狙いでプログラムの開発がスタートしました。

 

プログラムの構成

価値観と対話方法を身につけることが狙いであると記しましたが、そのためにはいくつか知っておくべきことがあると考えています。

対話の方法だけを学んでも、なぜそれが必要なのか、どのように使うのかを理解しなくては、知識だけで止まってしまいます。

プログラムの構成は以下の通りです。

 

  1. 21世紀の教育とピースフルスクールプログラム

  2. ベースとなるスキルの紹介
    ‐感情と共感
    ‐小学生のファシリテーション

  3. 対立を乗り越える対話の経験

  4. 振り返り(リフレクション)

 

21世紀の教育とピースフルスクールプログラム

なぜ問題解決に向かう対話が必要なのでしょうか。

変化・複雑・相互依存の時代だと言われる21世紀において、OECDは以下の教育目標を掲げています。

 

  • 持続可能な成長を実現する社会を創る人々を育てる

  • 多様な人々が安心して共生できる民主的な社会を実現する人々を育てる

 

このように、持続可能・成長・民主的な社会という、一見相反する事柄を実現できる人間を育てる必要があるとOECDは定義しています。

そのため、子どもたちは様々なチャレンジを強いられています。

技術革新に対応すること・あふれる情報を取捨選択すること・経済成長と地球環境の保護という二つの矛盾する目的を達成しなければならないこと・豊かさの追求と、貧困や富の格差の是正を同時に考えること。

これらのことにチャレンジするために必要な力として、OECDは3つのキーコンピテンシーカテゴリーを定めています。

 カテゴリー1:相互作用的に道具を用いる
言語・シンボル・テクスト、知識や情報、技術を相互作用的に用いる能力が求められます。これらの能力が必要な理由は、技術を最新のものにし続けること、自分の目的に道具をあわせること、世界と活発な対話をすることが挙げられます。

  • カテゴリー2:異質な集団で交流する
    他人といい関係をつくる、協力する、争いを処理し解決する能力が求められます。これらの能力が必要な理由は、多元的社会の多様性に対応すること、思いやりの重要性に気づくこと、社会的資本の重要性に気づくことが挙げられます。

  • カテゴリー3:自律的に活動する
    大きな展望の中で活動する、人生計画や個人的プログラムを設計し実行する、自らの権利・利害・限界やニーズを表明する能力が求められます。これらの能力が必要な理由は、複雑な社会で自分のアイデンティティを実現し、目標を設定すること、権利を行使して責任を取ること、自分の環境を理解してその働きを知ることが挙げられます。

 

これら全ての力を大人になる前に身につける必要がありますが、学校や家庭など、一つの場所で実施することは難しいので、子どもが存在する様々な所で共通して実践することが大切であると考えます。

そのために、共通のビジョンを持ち、一貫した取り組みを行うことが必要です。

ここでもピースフルスクールプログラムが役立ちます。

このプログラムは、民主的な社会の実現に向けて、上記のコンピテンシーで定義されている力を身につけることができます。

民主的な社会とは、多様な人々が安心して幸せに共生することができる社会のことを指します。

真の民主性とは、何に基づいていると考えますか。

様々な人々が共生する社会。それぞれの人は、経験してきたことや信じていること、大切に思っていることが異なります。そのような中で、意見が異なり、対立することは当たり前のことです。

真の民主性とは、対立に基づくのです。この対立をいじめや戦争に発展させたり、見て見ぬふりをして避けては、民主的な社会とは言えません。

民主的な社会を実現するためには、自立(主体性)と共生のこころを育てることが必要だと考えます。

ピースフルスクールプログラムでは、自立(主体性)と共生のこころを育み、対立を話し合いで解決する力を身につけます。

自立(主体性)とは、自分の意見を持ち、相手にきちんと伝えること、人の意見に対して反対の意見を持つことは悪いことでないと認識すること、人と意見を分けて考えること。共生は、対立は意見が異なるために発生するものであり、あって当然のものであると認識し、話し合いで解決することが大前提となります。

子どもたちが学んでいるプログラムではありますが、これは大人にとっても必要です。

問題を解決し、民主的な社会を実現するためには、それぞれの人が自立と共生のこころを持っていなくてはならないのです。

 

感情と共感

自立と共生のこころを持ち、対立している相手と話し合いで問題を解決する際に必要となってくるのが、他者の気持ちを理解することです。

日本の教育では、これが大事なことであると子どもたちに教えていますが、この部分だけを取り出して教えても、本当に相手の気持ちを理解し、尊重できるようにはなりません。

他者の気持ちを理解するためには、まず自分の気持ちを知り、言葉で伝えることができるようになることが大切です。そして、誰かと対立した時に、怒りの気持ちをコントロールできるようになることも必要です。

次回、この力を大人である私たちが身につけるためにできることからご紹介したいと思います。

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