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未来教育会議シンポジウム2015

文部科学教育通信NO.362 2015.4.27掲載

未来教育会議シンポジウムを、3月7日に、慶應大学日吉キャンパスの会場をお借りして実施致しました。未来教育会議は、2014年3月に発足し、1年間の活動を終えたところです。

未来教育会議は、4つのビジョンを掲げ、活動して参りました。

  • 自立と共生が実現し、すべての人が自分を幸せにすることができる社会をつくる

  • 主体的に考え、相互に関わり合い、問題解決できる力を持つ人を育てる

  • 教育に関する柔軟性や自由さが担保されている社会をつくる

  • 学校、家庭、地域、企業が共創して教育に関わり合う社会をつくる

    なぜ、未来教育会議を始めたか。その前提には、このような課題認識がありました。
    教育に関わる総ての人々は、一生懸命目の前の子どもたちのために教育に取り組んでいるにもかかわらず、期待する成果に繋がっていません。

    目指す社会のイメージがバラバラ
    課題には対処療法で当たり
    教育現場への指示や負荷が増え
    教育システムはより複雑になり
    子どもたちへの負荷が拡大し
    何よりも残念なのは、子どもたちが本来の力を開花することを阻害される状況がある。
     このような状態の中、社会の教育への不信感も高まっています。

    未来教育会議は、マルチステイクホルダーが信頼関係を構築し、ビジョンを共有することが不可欠であると考えました。ビジョンを形成する上で、3つの問いに対する答えを持つことが大切であると考えました。3つの問いとは、未来の社会の姿、その社会が求める人材像、そして、それを実現する教育についてです。

    なぜ、教育が変わらなければならないのか

    OECDは、2002年に21世紀の教育について、その考えを発表しています。グローバル時代の今日、世界中の国々が教育を考える上で、OECDの教育観を、ガイドラインとして活用しています。日本には、学習指導要領という独自のガイドラインがありますが、その中にもOECDの考え方が盛り込まれています。

    OECDは、目指す社会の姿を大きく2つ掲げています。21世紀は、持続可能な成長を実現することが求められます。グローバル化する社会の中で、多様な人々が安心して共生できる民主的な社会を実現することが求められます。

    子どもたちが直面するであろうチャレンジについても、4つ挙げています。
     ・技術革新に対応すること
     ・溢れる情報を取捨選択すること
     ・経済成長と地球環境の保護という二つの矛盾する目的を達成しなければならないこと
     ・豊かさの追求と、貧困や富の格差の是正を同時に考えること

    これらのチャレンジは、20世紀にはないものでした。このような新たなチャレンジに直面している子どもたちが、社会に出て困らない教育を実現することが大切だと言っています

    2000年にOECDが発表したPISAテストの報告書の序文のタイトルは、「人生の準備は万全か」です。

    『若い成人が未来の挑戦に対処するために、果たして充分な準備ができているだろうか。彼らは分析し、推論し、自分の考えを意思疎通できるだろうか。彼らは生涯を通しての学習を継続できる能力を身につけているだろうか。父母、生徒、広く国民、そして教育システムを運用する人々は、こうした疑問に対して解答を知っておく必要がある。』

    OECDが定義する21世紀を幸せに生きる力の中で、これまでの学校教育の領域についての記載は全体の9分の1、それ以外はすべて新しい領域です。教科学習以外に、技術革新への対応、創造的問題解決力、多様な人々と共生する力、自律的に生きる力などが含まれます。これまでは、受験勉強を中心とした教育(学校)の社会で通用する力を身に付けることが、教育の目的でしたが、これからは、本当の社会で通用する力を付けることが人生の準備として大切であるということです。その力を付けるためには、社会と学校が協力をして子どもたちの学習環境を作る必要があると考えます。

    日本の教育について

    日本の教育は、世界で大変高い評価を得ています。
    日本は、戦後26年でドイツを抜き世界第2の経済大国になりました。その背景には、日本の教育力があります。工業化社会を支える画一性、勤勉さ、高い情報処理能力、組織行動や従順な人々。
    これらは、すべて日本の教育が大切にしてきたものです。このような教育は、今日でも、世界で高い評価を得ています。厚い中間層を創る日本の教育は、途上国における最高の教育モデルなのです。

    ここからは、少し耳に痛いお話です。日本の教育で育った前例を踏襲する力を持つ人々は、社会を硬直化させていきます。その結果、社会も教育もガラパゴスに発展していきます。今、私たちの前には2つの選択肢があります。このままの延長線での未来を選ぶのか、パラダイムシフトを実現させるのか。未来教育会議は、成熟した社会とその社会を実現する教育モデルへのシフトを願っています。

    では、どうすれば教育のパラダイムシフトを起こすことができるのでしょうか。私たちは、国内外40カ所のスタディツアーを行い、教育の未来について真剣に考えました。その過程で明らかになったことは、社会・企業と教育が、双子であるということです。20世紀の教育は画一性を重要視しています。
    成績評価や偏差値は、数値で測れる物差しです。企業における測定可能なゴールや説明責任と似ています。学習指導要領と教科書は、全国一律のマニュアルのようなものです。教師と生徒の主従関係は、上司と部下の関係です。上司の前で、賢い部下は本心を語りません。教育は、「社会や企業が大切にしていること」を投影しています。社会と企業は、鶏と卵の関係です。

    学校に通う子どもと親の「成功」の定義も、20世紀型のままです。子どもの持つ多様な才能よりも、大学受験の成功、大企業への就職を優先してしまう親や大人たちは、今日においても20世紀の価値観を踏襲しています。
    そして、少子高齢化社会では、20世紀の教育を受けた大人が、社会創りにおいても20世紀の価値観を踏襲します。年功序列の社会である上に、人口比率においてもマイノリティである子どもたちは、日本では社会への発言権もありません。
    子どもたちが、21世紀という時代を幸せに生きる力を身につけるためには、私たち大人が21世紀の社会を創る必要があるのです。

    一つ事例をご紹介しましょう。正解がなく、変化の激しい21世紀を幸せに生きる力の要が、リフレクション(内省力)であるといわれています。自分の考えを持ち、行動し、その行動と結果を振り返り、次の行動を行うことが、とても大切だからです。

    オランダでは、4歳の子どもがリフレクションを行っていました。

    過去3ヶ月を振り返り、最も誇りに思うワークは何か?
    なぜ、そのワークを誇りに思うのか?
    一番苦労したことは何か?
    次に同様のワークに取り組むときには、何を変えるのか?
    普通の先生と子どもが、自然にこのリフレクションを行っていました。
    これが、21世紀の社会と教育の姿です。

    日本でも、新しい学力観が導入され、成績だけではなく、そこに向かう生徒の関心や意欲を大切にするという考え方が導入されました。しかし、その運用は20世紀のスタイルのままです。生徒は先生の期待に応え、先生がそれを評価するという仕組みに発展しました。先生の評価は高校受験の内申書に反映しますから、もちろん数値化しなければなりません。授業中に何回手を挙げたのかなどが評価の対象となりました。学力だけでなく、興味関心態度まで成績のために頑張る大切さを子どもに教える結果となりました。20世紀の社会のままでは、21世紀の教育は実現しないのです。

    社会が変われば、教育が変わるという意味をご理解いただけましたでしょうか。教育に直接携わっていない人たちも、21世紀の社会創りに貢献することで、教育を変えることが可能です。だから私たち1人ひとりにできることがあると思います。

     

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