skip to Main Content

対立を自分たちで解決するために必要な力を身につけよう

文部科学教育通信No.356 2015.1.26掲載

現在、ピースフルスクールプログラムという教育プログラムを日本の幼稚園・保育園、小学校へ展開しています。

2014年度は佐賀県武雄市武内小学校での導入がスタートいたしました。学校の先生方と協力して、試行錯誤しながらプログラムを子どもたちに届けております。

2015年度は、いよいよプログラムの中核である「仲裁」を、学校内で行うことが決まりました。

今回は、「対立を自分たちで解決するために必要な力を身につけよう」と題し、ピースフルスクールプログラムの「仲裁」についてご紹介いたします。

 

ピースフルスクールプログラムとは

園や学校をひとつのコミュニティと捉え、先生と子どもたちが一緒に考え行動する、民主的な共同体を実現することを願って開発された教育プログラムです。

自尊心、自制心、共感力、リフレクション(内省)といった、21世紀を幸せに生きるために必要な力を、園や学校での生活を通して身につけることを目指しています。

ピースフルスクールプログラムは、オランダで開発されたシチズンシップ教育プログラムです。1990年頃、オランダではいじめや子どもの問題行動が増加しました。この問題に対して、大人による監視や規則で縛るといった対処療法ではなく、根源的なアプローチをとるために、子どもたちの心を育てようという願いから、プログラムの開発が進められました。

2012年よりオランダ語から日本語への翻訳を開始し、2013年度には日本の学校に受け入れられる形を目指して、日本版のプログラムを開発いたしました。プログラムが目指す世界観や大切にしている価値観はそのままですが、ユニットの構成およびレッスンの内容、細かなワークの中身まで、日本版になっております。2014年度より、日本の小学校でのパイロット導入がスタートしております。

2年間でプログラムを学べるように設計し、1年目はピースフルスクールの価値観を学ぶことを目標としています。対象は、「共生と協働」という安心安全なコミュニティをつくるために必要なコミュニケーションの基礎を習得するユニット、「感情、共感」というポジティブな感情もネガティブな感情も言葉にして相手に伝えることや、相手の感情を理解し、受け止める力を養うユニットです。2年目は、問題解決力を身につけることを目標としていて、対象は、「共生社会の意思決定」というクラスや学校の意思決定に関わり、決まったことに対してコミットする責任をもつ力を養うユニット、「対立/問題解決」というクラスや学校で起きる問題を”子ども同士の話し合い”によって解決する力を身につけるユニットです。

子どもたちは、最低月に1度のレッスンを受け、その学びを日常生活で活かしていきます。オランダでは週に1度レッスンが行えるのですが、日本では難しいので、その分、日常生活でしっかりと学びを実践することに重きを置いています。

佐賀県武雄市武内小学校では、2014年度に1年目の学習内容を終えるので、2015年度は2年目の内容である「問題解決力を身につける」ことにチャレンジいたします。その際、「仲裁」と呼ばれる、話し合いによる対立の解決をサポートする仕組みも導入します。ピースフルスクールの「仲裁」とは、どのようなものでしょうか。

 

ピースフルスクールの「仲裁」とは

仲裁とは、小学校の高学年の児童数名が「仲裁者」となり、学校全体で起きる当事者同士での解決が困難な対立やけんか、いじめを調停するシステムのことを指します。調停であるので、仲裁者が対立している当事者を裁いたり、どちらが悪いといったことを決めるのではなく、当事者同士の話し合いで問題を解決できるよう、ファシリテートすることが役割です。

仲裁者は、立候補および先生からの推薦で選ばれます。普段のレッスンとは別に、仲裁者用のレッスンを受け、仲裁のスキルを伸ばします。

数名の仲裁者だけでなく、全ての児童が仲裁についてある程度学んでいることがこのシステムのベースとなります。調停が得意な児童だけに任せるのではなく、学校にいる全ての児童及び先生が仲裁のステッププランを理解することを目指します。

そのため、誰かと対立やけんかをした際は、いきなり仲裁者に調停をお願いするのではなく、当事者同士で解決するように努力し、それでも解決に至らない場合、仲裁者に調停を頼むという文化が出来上がるのです。また、仲裁者が校内で起きる対立を監視するということもありません。あくまでも、自力で解決することが前提となります。

仲裁を実施するまでに、いくつか学んでおかなくてはならないことがあります。

 

第1段階 コミュニケーションの基礎を学ぶ

ピースフルスクールを導入する学校でも、いきなり初年度に仲裁をスタートすることはできません。まずは、コミュニケーションの基礎をしっかりと身につけるところから始めます。

例えば、子どもたちは、以下のことを学びます。

・自分の意見を持ち、伝える。

・相手の話をきちんと聞く。

・嫌な時は「やめてほしい」と伝える。

・自分の感情を認め、言葉で伝える。

・相手の感情を受け止める。

・「助けること」と「干渉すること(お節介を焼くこと)」の違いを知る。

これらは一部に過ぎませんが、このような基礎を身につけた後、次のステップに進みます。

 

第2段階 対立/問題解決の基礎を学ぶ

コミュニケーションの基礎を学んだ子どもたちは、いよいよ問題解決の基礎を学習します。

・「対立」と「けんか(いじめ)」は異なることを理解する。

・「3色の帽子(対立の対処の方法)」を理解する。

・ウィン‐ウィン解決を目指す。

・対立の原因を深掘りする。

・偏見や誤解が対立の原因となることを知る。

・合意することを学ぶ。

これらのことをレッスンと日常生活を通して学びます。

 

第3段階 2人でオープンに話し合う

問題解決の基礎を学んだ子どもたちは、誰かと対立したり、けんかした時に、2人でオープンに話し合い問題を解決するスキルを身につけます。

・誰かと対立した時に、解決に向けてオープンに話し合えるようになるため、「話し合いのステッププラン」を学ぶ。

・実際に誰かと対立した時に、「話し合いのステッププラン」に基づいて話し合い、自分の力で対立を解決する。

これらのレッスンを通して、いきなり先生や保護者に頼ることなく、まずは自分たちの力で対立を乗り越える力が身につくのです。また、オープンに話し合うことで問題を乗り越えられることを知るため、必要以上に対立を恐れる心配もなくなります。

 

第4段階 仲裁にチャレンジする

第3段階までは、仲裁を始めるために必要な学びですので、全員が同様に学習します。第4段階では、全員学ぶこととは別に、仲裁者だけが追加で学ぶこともあります。

<全員>
・「仲裁のステッププラン」を学ぶ。

・小学校に「仲裁」のシステムを導入することを理解する。

<仲裁者>

・「仲裁のステッププラン」をもとに、ロールプレイを実施し、仲裁のスキルを身につける。

・実際に、学内の対立を仲裁する。

仲裁のスキルとは、以下のようなスキルのことを指します。

・自分の意見を保留し、対立の当事者から話を聞くこと

・当事者から聞いたことを、自分の言葉で言い換える(反映する)こと

・当事者に感情を尋ね、受け止めること

・当事者が問題の解決策を出せるよう、促すこと

仲裁者となる児童は、これらの力を身につけた後、校内で起きる様々な対立やけんかの仲裁を担当します。

日本にはまだ馴染みのないシステムですが、子どもたちのコミュニケーション力や問題解決力を伸ばすことで、大人が必要以上に介入することなく、子ども自身で安心安全な環境をつくることができるようになるのです。

Back To Top