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誰もが安心して存在できる、安全な環境のつくり方とは

文部科学教育通信No.354 2014.12.22掲載

今、子どもの世界でも大人の世界でも、異質な人同士がお互いに安心して存在できる環境をどのようにつくるのか、ということが話題になっています。その背景には、例えルールや規則が制定されていたとしても、自分とは異なる人が排除されたり、いじめられたりする環境では安全とは言えず、安全でない環境のもとでは子どもは成長できないし、大人の生産性も上がらない、といった考えがあります。

何かを発言しても心無い批判を受けたりせず、誰かと対立しても話し合いで解決できるのが当然となる「安心して存在できる、安全な環境」では、人は積極的に周囲と関わることができます。余計な心配をする必要がないので、どんどんチャレンジしようという気持ちになり、勉強や課外活動にも力を注げるのです。

新しい試みや自分の発言に対して、批判や制裁といった形でのレスポンスではなく、ポジティブなフィードバックやアドバイスをもらうため、失敗を受け入れやすくなり、再チャレンジしようという気持ちにもなりやすいです。このサイクルがまわることが、人間を成長させるのだと考えます。

このように、心の安定は、人間が成長できる環境のベースとなっています。

今回は、この「安心して存在できる、安全な環境」をどのようにつくっていくのか、ピースフルスクールプログラムの事例を交えながらご紹介します。

 

主体的に動くことが求められるけれど、その実態とは

一人ひとりが安心して存在できる社会を実現するために、最も大切なことは、一人ひとりの主体性を育むことです。

「主体性」や「主体的」といった言葉は、学校でも職場でもよく耳にします。そのため、とても大切なこと、学校や社会が求めていることだと認識している人が多いと思います。

しかし、「主体的に動きましょう」とか「主体的な人になりましょう」と言われてすぐに主体的に動ける人の割合は、コミュニティ内でどの程度でしょうか。「主体的な人」とは、どのような人をイメージしますか。「主体性」が学校や社会から求められている力であるとすると、どのようにすれば身につけることができるのでしょうか。語学や専門知識であれば勉強すると身につくかもしれませんが、「主体性」は勉強することで身につくのでしょうか。あるいは、「主体性」は先天的な能力であり、後天的な努力では身につけることができないのでしょうか。

そもそも、「主体性」とはどのようなものなのか、考えたいと思います。

私は、「主体性」とは、自分の気持ちや考えを大切にし、自ら選択し、決断し、行動し、その結果に責任を持つことであると考えています。

言葉にするととても簡単なのですが、いかがでしょうか。今の学校や職場で、自分の気持ちや考えを大切にできていますか。人生において、自ら選択して決断しているでしょうか。積極的に行動し、その結果に責任を持ち、改善し、再チャレンジしている人はどの程度いるでしょうか。

このように振り返ってみると、主体的に行動できている人はそう多くないように思われます。なぜ、主体的に行動しにくいのか。それは、個人の能力の問題ではありません。

冒頭に述べた通り、批判やいじめのある安心できない環境では、自分の気持ちや考えを大切にすることも、自ら選択して決断することも、積極的に行動して結果に責任を持つことも、とても難しいのです。

私たちは、「主体的に行動しなくてはいけない」という思いを抱えながら、頭のどこかで「主体的に行動すると、誰かに批判されたり、排除されるのではないか」と不安に思っているのです。このジレンマから抜け出さなくては、「主体性」を育む教育はできません。

また、「主体性」は単独の力ではありません。

「主体性」を高めるためには、自己肯定感・リーダーシップ・クリティカル思考・内省力などを高める必要があります。例えば「リーダーシップ教育を実施しなくては!」とか「内省力を高めることが必要だ」といった風に、これらの力は個別に語られることが多いのですが、実は全てが連動しています。そして、残念なことに、これらの力は、安全でない環境では育むことが難しいのです。

目立っている人に対して揶揄する人の多いコミュニティにおいて、リーダーシップを発揮できるでしょうか。自分の考えや意見を言えないような環境で、クリティカルに物事を考えることができるでしょうか。答えはノーだと思います。

私たちは、「主体性」やリーダーシップを育もうと考えるのであれば、まず、環境を安心安全なものにするところから始める必要があるのです。

 子どもと大人で、安心な環境をつくるプログラム ピースフルスクール

過去にも何度か紹介していますが、この観点からもピースフルスクールは有用であると考えます。

このプログラムの採用校では、子どもと大人(先生、保護者、地域の人)が一緒になって安心安全な環境をつくっているのです。

日本での採用校である佐賀県武雄市武内小学校では、先日、「ほめポイントを探して、周りの人に伝えよう」といった授業を行いました。

この学校では、自分を守るために、お友達の失敗といった良くないところを見つけた時に、第三者である他のお友達や先生にそれを伝える子どもがいることが課題でした。

失敗した時に批判や告げ口をされる可能性のある環境は、子どもたちにとって心から安心できる環境とは言えません。自己防衛の気持ちから発言しているため、子どもに悪気はないでしょう。しかし、第三者に自分の失敗を告げ口された時、そのお友達がどのような気持ちになるのか、また、言われた第三者はどんな気持ちになるのかを考えることで、「告げ口をするよりも、その子が成功するように応援した方が良い」ということが理解できるのです。

お友達のネガティブな部分を拾っていくことを、良いところ、つまりポジティブな部分を拾うように変えると、みんなにとって居心地の良い安心安全なクラスを、みんなでつくることができます。

武内小学校では、ピースフルスクールの授業終了後、「○○さんのいいところは______ところです」と書かれたハートのカードを作成してもらいました。子どもたちは、お友達の良いところを見つけ、ハートのカードに記入します。そして、そのお友達や先生、家族の方に言葉で伝えます。次に、そのカードを学級の掲示板に貼って、色んな人に見てもらうのです。
今、武内小学校では、ハートのカードにたくさんのほめ言葉が書かれているそうです。

このようなポジティブな声掛けが日常生活の中でできると、子どもたち自身で自分たちのコミュニティをより安心・安全なものにしていくことができます。

誰もが安心して存在できる、安全な環境では、子どもたちはより主体的に行動することができるので、ますます心も頭も成長できるのです。

「主体的な人」や「リーダーシップのある人」を育成したい場合、まずは環境づくりから見直すことをおすすめいたします。

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