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学習する組織 Learning for All の活躍

 

文部科学教育通信 No.346 2014.08.25掲載

第5回の連載でご紹介した、「学習する組織」の5つの規律を体現しているNPO法人Teach For Japanの学習支援事業Learning for All(以下、LFA)についてお伝えいたします。

私は、2010年のLFAの活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの活動に携わっている学生からも学んできました。

今回、これまでの活動を振り返りつつ、LFAの魅力をご紹介する機会にしたいと思います。

 Learning for Allについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子どもたちの可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

子どもたちの置かれている状況に共感し、情熱を持って指導する人材を、子どもたちの前に教師として送り込むことで、子どもたちの学習遅滞解消、自己肯定感の向上を図ります。また、そのために独自の研修プログラムやサポート体制によって、参加する教師自身の成長、変容を実現します。大きく分けて、長期プログラム(春季、秋季、冬季:2~3ヶ月)と短期プログラム(夏季休業期:5日間)の2つが行われています。

団体のミッションは、

  1. 困難を抱えた子どもたちの可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による”社会全体で教育を変える”システムを創る

です。

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北に広がっています。

関東は葛飾区や墨田区、関西は東淀川区、奈良市、池田市。東北は、仙台市雄勝町、石巻市、南三陸町にて継続的にて学習支援を行っています。

LFAは、2013年度までに、延べ2,131人の子どもたちに学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ785名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ389名となっています。

また、2014年度は既に春季のプログラムが終了し、現在は夏季プログラムの事前研修を行うと同時に、秋季プログラムの応募が開始しています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたけれど、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。また、LFAの学習支援では、学生教師が丁寧に子どもたちとコミュニケーションをとるので、そのやり取りを通して将来のことを前向きに考えるようになり、留学ができる学校に進学し、夢に一歩近づいた子どももいます。

 持続可能な学習支援を行うために

LFAは学生が主体となって運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子どもたちにより良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子どもたちの置かれている状況に共感し、誰も解決しようとしなかった課題を創造的に解決し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や、子どもたちの変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子どもたちを支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうか、困難な状況に陥っても逃げるのではなく課題を解決するために前に進めるのか、といったところも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。

プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。

このように、LFAは、子どもたちの成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 学習する組織としてのLearning for All

LFAの個人と組織の学習サイクルについてふれましたが、団体設立時からこのようなサイクルがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。

私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律(http://www.a-kumahira.co.jp/fifth/fifth.html)を活動全体で体現しています。

私がLFAの研修を担当する際、スタッフや学生教師に向けて「学習する組織」の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えているからです。

LFAに参加している学生は、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといったパーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この共有ビジョンに一人ひとりが共感し、自分事とすることを目的としています。

LFAに携わる学生は、メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれることがありますが、システム思考を用いて、全体から眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、効果的にアプローチします。

このように、子どもたちの学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

 これからのLearning for All

事業モデルの標準化によって、どの事業部・どの拠点においても、一定の質の高いプログラムを提供することができるようになった今、今後は事業の拡大に向けて動いていきます。今後は、年間1,000名以上の子どもに対する支援を実施し、学生教師も年間400名以上を採用予定です。拠点数も東京と関西でそれぞれ9拠点へ拡大することを目標としています。

LFAが学習支援の対象としている子どもたちは、現在の拠点以外にも日本全国に存在しているのが現状です。より多くの子どもに機会をつくることができるよう、LFAはこれからも活動を続けます。

LFAのウェブサイト:http://learningforall.or.jp/

 

 

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