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ピースフルスクールプログラムと「学習する組織」の学びを活かす

文部科学教育通信No.345 2014.08.11掲載

第4回の連載でご紹介した、子どもたちが自ら安心安全なコミュニティをつくるための教育プログラム「ピースフルスクールプログラム」を、学校や地域コミュニティに導入したいという声が集まっています。

2013年度より、品川女子学院では、「学習する組織」とピースフルスクールプログラムの授業を、教員と生徒対象に実施しています。

2014年7月より、相模原や相模大野を中心に活動されている「職子屋」というキャリア教育支援のボランティア団体とともに、ピースフルスクールプログラムと「学習する組織」の学びをどのように地域や学校に活かすことができるのかを模索する勉強会を開始いたしました。

今回は、ピースフルスクールプログラムと親和性が高く、導入に必要となってくる『学習する組織』の学びをご紹介いたします。

ピースフルスクールプログラムと『学習する組織』の親和性ピースフルスクールプログラムと『学習する組織』の親和性

ピースフルスクールプログラムは、学校や地域コミュニティにおいて、21世紀を幸せに生きるために必要なスキルとマインドを、子どもと大人が共に学び、日常生活でその学びを実践し体現するシチズンシップ教育です。

プログラムを通して、自尊心・自制心・共感力・内省力を高め、問題を話し合いで解決し、安心安全なコミュニティを自分たちの力で創りあげていくことが出来るようになります。

このプログラムの特徴の一つは、スキルとマインドを養い、実社会で応用していくところです。コミュニティの運営や対人関係を円滑にするためのプログラムはピースフルスクールプログラム以外にも数多く存在しますが、実際に学びを現実世界に適用し、学校やコミュニティの文化として根付かせるプログラムはあまり多くありません。

このプログラムを知識学習だけに留めることなく、多くの人が実践し、文化として根付かせることができるようになるために、「学習する組織」の教えと組み合わせていくことが大切だと考えています。

「学習する組織」は、ピーター・センゲにより統合された組織論で、起こりうる最良の未来を実現するために、個人とチームの能力と気づきの状態を高め続けることができる組織のことを指します。

洋の東西を問わず、教育の問題は政治や社会の重要なテーマとなっていて、「教育改革」「教育再生」など様々な取り組みが行われています。その中にあって、教育者たちの間で注目され、実践されているアプローチがこの「学習する組織」です。その概念と実践のための手引きは、MIT上級講師のピーター・センゲ氏が1990年に書いた『The Fifth Discipline』(邦訳『最強組織の法則』)に示され、その後『The Fifth Discipline Field Book』(邦訳:『フィールドブック「学習する組織」5つの能力』)などで実践の実際や事例などが詳しく紹介されています。

「規律」か「ゆとり」かを振り子のようにゆれる教育改革論議の中で、ビジネスの分野での研究や実践が教育界にも役に立つと考え、多くの教育界のリーダーや教育者たちがこの活動に取り組み始めました。子どもたちだけでなく、周囲の大人までも含めて、すべてを主体的な「学習者」として捉えるこの手法は、導入した企業や学校で目覚しい成果を遂げています。今では、「学習する学校」というコンセプトを掲げ、米欧中などで盛んに取り組まれ、国際学会などを通じてその進捗が共有され、また新しい実践者を増やす場が広がっています。

「学習する組織」では、チームや組織が起こりうる最良の未来を実現するために、能力や気付きを高め続ける組織には5つの規律が不可欠である、と定義しています。

「学習する組織」の5つの規律とは、以下の5点です。

 

  1. パーソナルマスタリー

    「パーソナルマスタリー」とは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間のギャップや緊張関係を、創造的な力に変えて、内発的な動機を築くプロセスである。

    パーソナルマスタリーを持つ人は、己を知り、自らの意思でそこに立ち、ビジョン実現のために行動することができる。

  2. 共有ビジョン

    「共有ビジョン」とは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。
    ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針をコンパスのように示す。

  3. メンタルモデル

    「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。
    自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、物事がうまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの欠陥を探求する。

  4. チーム学習

    「チーム学習」とは、チーム・組織内外の人たちとのダイアログを通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスのことである。中でも、「本音で腹を割って話す」ことに主眼を置き、集団で気付きの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する一連の手法をダイアログという。

  5. システム思考

    システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用され、「生きているシステム」という考え方の根幹をなす考えでもある。

     

    ピースフルスクールプログラムを学校や地域で実践していく際に、この5つの規律をベースにすることが大切であると考えています。

    なぜなら、学校や地域には様々な考えを持った人が存在していて、その異なる考えを持った人同士がつながり、お互いを尊重して安心安全なコミュニティを創っていく必要があるからです。

    まず、人はそれぞれ過去の経験や大切にしている価値観が異なるため、メンタルモデルと呼ばれるものの見方(偏見や色眼鏡)があることを知ります。自分の考えに固執せず、異なる考えを持った人を理解し、共に学習する姿勢こそが、ピースフルスクールプログラムを文化として根付かせる重要なポイントです。

    また、プログラムの導入時には、「あなたの学校に通う子どもたちにどのような人に育ってほしいと願うか」や「あなたの学校や地域コミュニティをどのようなコミュニティにしていきたいと願うか」といったパーソナルマスタリーに近い思いをお互いに開示し、「みんなで何を実現するのか」を検討します。これが共有ビジョンにもつながります。

    このプログラムは、基本的に大人が子どもに教えますが、子どもと一緒に大人も学習します。また、個人の学びに終始することなく、学校や地域の日常で起きる様々な事象に対してプログラムの学びを実践するので、チームで学習することになります。

    プログラムの実施が進むと、本来期待していた効果が得られているのかを確認する必要がでてきます。子どもたち・教員・保護者・環境などにどのような変化が起きているのか、システムで捉え、より効果を上げるためにできることを模索することも大切です。

    このように、ピースフルスクールプログラムは体系立ったプログラムですが、「学習する組織」の学びと掛け合わせることで、より効果を発揮できると考えています。

    「学習する組織」について、こちらのサイトで詳細をご紹介しています。

    http://www.a-kumahira.co.jp/fifth/index.html

 

 

 

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