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小学生のファシリテーションに学ぶ「対話2.0」

文部科学教育通信Mo.348 2014.9.22掲載

ここ数年、日本全国で様々な「対話」を用いたワークショップが開催されるようになりました。今まで自分の気持ちや考えをオープンに伝える機会が少なかったところ、安心して自分の意見を話し、ありのままの自分でいることが許される場が普及してきたと言えます。

対話の目的が「自分の気持ちや考えを話す」や「自分の話を聞いてもらう」ことであれば、その目的は果たせていると思いますが、対話には、安心できる関係性を築く以上に、社会の様々な問題解決に直接寄与できる可能性があると考えています。

今の心地よい対話を「対話1.0」と名付けるならば、それを土台として、その先にある問題解決に寄与する対話は「対話2.0」と言えるでしょう。

現在、日本ファシリテーション協会の方々と共に、この「対話2.0」を実現するために必要な力を身につけるワークショップを開発しております。

今回は、この「対話2.0」の可能性と、どのようにしたら問題解決につながる対話を行うことができるのかについてお話いたします

未来を変える「対話2.0」

それでは、「対話2.0」とは、具体的にどのような対話のことを指すのでしょうか。

 

図は、「対話」を4つの階層に分類し、構造をまとめた図です。

今までの「自分の気持ちや考えを話せない」状態から、「話せる、聞いてもらえる」状態へと変化したことを「対話1.0」とします。

「対話2.0」の最初のステップは、「話せる、聞いてもらえる」状態から、「何かのトピックに対して自分の意見を持つ、その意見を根拠も併せて伝える、意見が対立する」段階に移行することです。対立を恐れていては、問題解決につながる対話はできません。

私は、「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」というプロジェクトに携わっていますが、このプロジェクトの活動を通して、原子力発電所事故に関する対話を数回行いました。その際、原子力発電に対して賛成・反対といった意見を話す人はいても、その意見の根拠を伝えることができない人や、意見が対立した後、話し合いがどこにも向かえないケースがありました。

上記のような問題を解決するためには、対立した際に「自分の考えを内省する、相手の意見に共感する、今まで知らなかったことを学習する」ことが大切です。「なぜ、私はこの意見にこだわっているのだろうか?」と内省することで、自分の意見を一旦手放し、客観的に捉えることができるようになります。そうすることで、相手に対して「なぜ、そう思うのか?」と冷静に質問し、その意見に対して共感することができます。自分の意見に固執して、相手の意見を頭ごなしに否定するのではなく、どうしてその意見を持つに至ったのかを質問し、共感することで、今まで自分では思いつかなかったことを学ぶ機会にもなります。

問題の解決策を決定するためには、物事を判断する「評価軸」を明確にする必要がありますが、この内省と共感による学習を通して、冷静に「問題に対してどのような解決策を取るのか、評価し、決断する」ことができるのです。

このステップを経て決断に至ると、異なる意見を持つ者同士で、問題解決に向けてのアクションを起こすことができます。

このように、「対話2.0」のステップを解説しましたが、問題を解決し、未来を変える「対話2.0」を実現するためには、私たちは対立を乗り越える「対話力」を身につける必要があります。そのメソッドが、オランダで学校教育に導入されている「ピースフルスクールプログラム」にあります。実際、このプログラム導入校の子どもたちは、対話を通じて、自分たちの対立の問題を、自分たちの手で解決しています。プログラムの一部をご紹介いたします。

 自分の意見を持つ、根拠も併せて伝える

子どもたちは、ピースフルスクールプログラムを通して、安心安全な環境を自ら創る力を身につけます。その第一歩として、「自分の意見を持つ、根拠も併せて伝える」ことの大切さを学んでいます。

意見には、「賛成」「反対」「わからない」の三種類があり、そのいずれかの意見を持つ必要があります。学校やクラスといったコミュニティに所属する以上は、「私には関係ない」と言って意見を持たないことは許されません。

また、誰かに自分の意見を伝える際は、なぜそう思うのかという「根拠」や「事例」を挙げて伝えます。「賛成」や「反対」と言いっぱなしになると、それ以上の対話にはつながりません。理由をきちんと伝えることで、どのようなアクションを起こせるのか考えることができるようになります。

「対話2.0」の最初のステップに進むために、大人である私たちも学ぶ必要があります。

 自分の感情を言葉にする

私たちは、普段どれだけ自分の感情を言葉にして相手に伝えているでしょうか。

このプログラムを導入している学校では、ポジティブな感情もネガティブな感情も、言葉にして相手に伝えることを大切にしています。また、誰かと対立した時に起きる「怒り」の感情をコントロールする練習も行っています。このような日々の取り組みを通して、自分の感情も相手の感情も大切にできる人に育つのです。

「対話2.0」を行う際、意見が対立することがあります。その際も、怒りや悲しみの感情に振り回されて話すことを止めてしまうのではなく、落ち着いて自分の気持ちを伝え、対話を続けることが大切です。

普段感情について全く触れない人が、対話の際に感情を伝え、コントロールすることは難しいので、アクティビティを通して感情を話す練習を行うことが効果的だと考えます。

「嬉しい」「楽しい」「わくわくする」といったポジティブな感情を表す言葉を書いたカードや「悲しい」「悔しい」「頭にきた」といったネガティブな感情が書かれたカードを作成し、一番相手に話したいトピックに近い感情が書かれたカードを選び、その出来事と感情について話します。ネガティブな感情の方が話しにくいこともあると思いますが、いざ話してみると、気持ちが落ち着き、すっきりするといったケースも多くあるので、日常の中で、少しずつ取り入れられると良いと思います。

 批判をアドバイスに変える

子どもたちは、批判やけなし言葉を言われると、どのような気持ちになるのかを理解しているので、ネガティブなことを伝えなければいけない時に、批判ではなくアドバイスという形に変えて伝えることを学びます。

例えば、遅刻してきた友達に対して冷やかすのではなく、どう伝えれば相手が遅刻しなくなるかを考えるといったケース問題を通して練習します。このような練習と、日々の中でのやり取りを通して、子どもたちは批判をアドバイスに変えて伝える力を身につけます。

この力は「対話2.0」にも必要です。内省と共感による学習を経た後、判断基準を決め、解決法を決断する際、建設的なアドバイスをすることで、解決に向けてのアクションを起こしやすくなります。自分とは反対の意見を持っている人に対して、批判したくなる気持ちをコントロールできるようになると、「対話2.0」に近づくことができるのです。

 

このように、大人である私たちも、未来を変える対話力を身につけることができると、様々な問題に対して、前向きに解決することができるようになります。ぜひ「対話2.0」のステップで対話をしていただきたいと思います。

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