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日本版ピースフルスクールプログラムの取り組み

文部科学教育通信 No.349 2014.10.13

第4回「未来を幸せに生きる力を身につけるピースフルスクールプログラム」という記事でもご紹介いたしましたが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

オランダのプログラムであるため、そのまま日本で導入することは本質的ではありません。日本の特質や課題にあわせてプログラムを開発することが必要だと考えています。

ピースフルスクールプログラムとは、子どもと先生が、安心して存在できるコミュニティ(共生社会)を自ら創る力とマインドを身につけるための教育プログラムです。子どもも大人も学ぶ必要があるため、日本では、幼児・小学生・中高生・学生・社会人まで、広く対象としています。

今回は、日本での取り組みについてご紹介いたします。

 子どもと先生が安心して存在できるコミュニティとは

ピースフルスクールが定義する「安心して存在できるコミュニティ」では、以下のような環境が実現しています。

 

・異質な人や意見が排除されない

・いじめの傍観者はいない

・けんかしても、仲直りし、友達でいることができる

・話し合いに、個人が意見を持ち参加している

・クラスのために働いていない人はいない(誰かに仕事が押し付けられていない)

・孤独だと感じている人はいない

・問題解決に、みんなで取り組んでいる

 

日本の学校やクラスを想像した時に、上記の全てをクリアしているところばかりではないように思います。子どもたちは、安心できる環境でこそ主体的に学習することができるので、学校に関わる人全員で、この「一人ひとりが安心して存在できるコミュニティ」を創ることが必要です。この環境が実現できれば、いじめや学級崩壊、主体性のない子どもといった、現在の日本の教育が抱える課題が解決できると考えています。

 一人ひとりが安心して存在できるコミュニティを創る人になるために

ピースフルスクールでは、子どもたちは6つのテーマについて学びます。

 

  1. 共生、協働
    「ルールと約束」「ほめ言葉とけなし言葉」「助けることと干渉すること」など、クラスづくりやチームビルディングに関するレッスンを行います。子どもたちは、安心安全なコミュニティを創るために必要となる基礎的なマインドとスキルを学びます。

  2. 感情、共感
    意思決定やいじめなどの問題を解決する際、感情が伴っていないと実行に移すことが難しいです。いきなり「他者の感情を理解する」ところから始めるのではなく、「自分の感情を認識し、言葉で表す」「感情をコントロールする(怒りと付き合う)」などのレッスンと、「感情スティック」「感情バロメーター」などの日常でのコミュニケーションを通して、ポジティブな感情もネガティブな感情も言葉にして相手に伝えることの大切さを学びます。そして、「相手の感情を理解し、受け止める」ことができるようになります。

  3. 共生社会の意思決定

    民主的な意思決定を行うために必要なマインドとスキルを学びます。「自分の意見を持つ、根拠をあわせて伝える」「誤解と偏見」「ものの見方(視点)」「耳を傾けて、質問する」「説得する」「合意する」などのレッスンがあります。子どもたちは、クラスや学校の意思決定に関わり、決まったことに対してコミットする責任があることを学びます。

  4. 対立/問題解決

    「対立とけんかの違い」「3色の帽子(問題解決の3つの方法)」「ウィン‐ウィン解決」「対立の原因」「仲裁」など、クラスや学校で起きる問題を”子ども同士の話し合い”によって解決するために必要なマインドとスキルを学びます。

  5. 多様性
    「共通点と相違点」「判断と偏見」といったレッスンを通して、自分たちの似ているところと、違うところを認識し、違うところがある方が、学ぶことがたくさんあること、作業などがうまくいくことが多いことを学びます。自分もまた、多様性の一環であることを知り、いじめにつながる「自分とは異なる異質な人や意見を排除したい」と思う気持ちを育てないことにもつながります。

  6. 民主的社会の基礎知識
    小学校6年生では、「民主主義」や「規則と法律」といった、より社会と関係のある事柄を学びます。子どもたちにとっての社会である学校での学びが、社会でも生かすことができる実感を持つことができます。

 

これらの6つのテーマは、オランダ版プログラムとは異なっています。オランダ版プログラムをそのまま日本に適合することはできないと判断し、プログラムの要素を分解し、日本の学校や社会にとって必要な要素を加え、再分類しました。このようにプログラムをローカライズさせることが定着の鍵となると考えています。

 共生社会を支える主体性

ピースフルスクールプログラムで身に着く力を細かく分析していると、大きな軸が見えてきました。

一人ひとりが安心して存在できる社会を実現するために、最も大切なことは、一人ひとりの主体性を育むことです。ピースフルスクールでは、主体性を核に、自己肯定感、リーダーシップ、内省力、クリティカル思考を高めます。

現在、日本でも主体性やリーダーシップ、自己肯定感を育てる教育が必要だとされていますが、どれも異なる文脈で語られており、具体的にどのように育めばいいのか、といった答えは出ていないように思います。

自己肯定感やリーダーシップ、内省力、クリティカル思考は、主体性がなければ身につけることができません。自分の気持ち、考えを大切にし、選択、決断、行動をし、その結果に責任を持つことを「主体性」と定義すると、自らの意思でコミュニティを守り、発展させる力を「リーダーシップ」、自分の考えと行動に責任を持つために、自分の頭で考える力を「クリティカル思考」、自己の行動と結果を振り返り、学習する力を「内省力」、主体性を持ち、行動し、参画し、貢献を自ら実感し、他者から、存在や貢献を歓迎され、感謝されることを「自己肯定感」と定義できます。

これらを別々に身につけるのではなく、一つのプログラムを通して身につけることが大切であると考えています。

ピースフルスクールでは、レッスンと日々の生活の中で、これらの力を身につけることができるのです。

 安心して共生できる社会を実現するために必要なマインド

人々が安心して共生できる社会を実現するために、以下の8つのマインドを持つことが大切です。これらは、日本の社会ではあまり重要視されておらず、大人にも不足しているマインドですが、21世紀を幸せに生きるために、必要なマインドです。ぜひ一人でも多くの方に、これらのマインドの必要性について考えていただきたいです。

 

  1. 対立は民主的な社会にとって必要であり大切なものである

  2. 周囲と違う意見を持つことは悪いことではない

  3. 話し合いでは、一人ひとりが、意見を持ち、人に伝える責任を持つ

  4. 自分の感情を他者に伝えることは大切である

  5. 違いは悪いことではない

  6. 自分も、多様性の一部であると認識する

  7. 問題に言及する勇気が大切だ

  8. 問題は解決できる

 

次回は、日本での導入事例である佐賀県武雄市武内小学校でのピースフルスクールの取り組みについてご紹介する予定です。

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