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世界の若い教育改革者たちの集まり

文部科学教育通信 No.307 2013-1-14に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑲をご紹介します。

2012年11月12日から15日にかけてチリのサンチアゴで開かれたティーチ・フォー・オールの年次総会2012に参加してまいりました。ティーチ・フォー・オールは、世界26カ国の教育団体のグローバルなネットワークで、今年で5周年を迎えます。アメリカ、イギリス、チリ、インド、中国などの国々が加盟しており、有望な未来のリーダーを教師として派遣することで、教育格差を解消するための活動をしています。

総会では、ティーチ・フォー・オールの活動に関わる関係者が約200名、世界中から集まり、各国での教育改革の状況を共有し、それぞれの組織が抱える重要な問題を一緒になって考えました。チリの教育大臣ヘラルド・バイエル・ブルゴス氏の講演や、OECD事務総長 アンドレア・シュライヒャー氏のテレビ会議での参加など、グローバルな教育改革についても、世界の事情を共有する意見交換が行われました。

ティーチ・フォー・オールは、アメリカで1989年に、「いつか、すべての子どもたちが素晴らしい教育機会を持てるように・・・」というビジョンを実現するために、ウェンディ・コップが創立したティーチ・フォー・アメリカが起源です。その後、マッキンゼー社に勤務していたブレッド・ウィグドーツ氏が、イギリスの教育課題を解決するために、2002年にティーチ・ファーストをロンドンに立ち上げました。ティーチ・ファーストの成功事例が世界で話題となり、ブラッドの元には、世界中から、自分の国の教育課題を解決したいという問い合わせが来るようになりました。そこで、世界の教育改革に取り組む仲間を支援するために、2007年に、ティーチ・フォー・オールが設立されました。日本も、今年から、26番目のメンバーとしてこの活動に参加しています。

 

ティーチ・ファースト

 ここからは、ティーチ・フォー・オールの仲間の一つ、英国のティーチ・ファーストの例をご紹介しましょう。

低所得者層のイギリスの子どもたちは裕福な家庭の子どもたちに比べて教育上、平等な機会に恵まれていません。低所得者の住むコミュニティで育った子どもたちは、学業成績が低いまま、良い就業機会に恵まれず、犯罪に巻き込まれたり、麻薬の常習者となって健康を損なうなど、生活全般にわたって悪循環状態に陥りがちです。このような状態は本来あってはならず、ティーチ・ファーストは「すべての子どもたちの教育的成功は社会・経済的状況により制限されるべきではない」というビジョンを掲げています。

ティーチ・ファーストの参加者は、イギリスで最も貧困な家庭の生徒の割合が高い学校で2年間、教壇に立ちます。2年間が終わると、参加者の半数以上がその後も継続して低所得者層のコミュニティで教壇に立つことを選びます。残りの半数は政府、一般企業や自ら始めた社会起業などでティーチ・ファーストのビジョンを実現します。

ティーチ・ファーストは、毎年拡大を続け2003年には163人の参加者が、2012年には997名まで増加しています。2012年現在、ティーチ・ファースト大使として教師を経験した若者の数は累計2000人以上にのぼります。2012年に、ティーチ・ファーストは、タイムズ紙のTop 100 Graduate Employers(大学卒業生の就職先100社)の中で4位になり、2013年は英国で1位の大学生の就職先になります。

総会に参加し、どの国にも、教育課題があるということが分かりました。教育課題の特性は、国により異なります。学校が不足しているという国から、学校はあるけれども、教員の質が低く、教育効果を挙げられていないという国、経済格差による教育格差が明確な国などです。また、旧態依然とした教育を受け続けている子ども達の未来に生きる力に危機感を覚え、改革に乗り出した仲間達もいます。

 

世界の仲間からのメッセージ

以下は、教育改革に取り組む世界の仲間からのメッセージです。皆さんの共感するメッセージはありますか。

○   ほかの子どもたちと同じように低所得者層の生徒も学ぶスキルと意欲を持っている。実際、彼らは学びたいのだ。どんなに彼らが学びたがっているかを理解することは重要である。(ドイツ)

○   すべての生徒は育った背景や生活環境に関わりなく、信じられないほどの様々な驚くべきことを学ぶ力を秘めている。ただ、私たちがあまり期待しないと、生徒たちも自分が出来るとは思わないだけである。 (オーストラリア)

○   すべての子どもたちは学びたがっている。子ども達が秘めているこのような態度を引き出すことが先生としての我々の仕事である。 (オーストラリア) 

○   すべての子どもたちに合うやり方などない。一人ひとり個別に対応するだけだ。(レバノン)

○ 教育改革はどこかで始めなければならない。それは教室からである。(ペルー)

○   教えることと学ぶことには切っても切れない関係がある。先生は常に学ぶ気持ちがないといけない。(オーストラリア)

○   イギリスではすべての両親は、子どもたちが学校に行くことを喜んでいる。しかし学校に行くことで何かを失っていることを知ったら、両親は怒るだろう。そしてそれは当然のことである。(イギリス)

○ 教育の上で、今まで子どもにベストなことを望まない親に出会ったことはない。(アメリカ)

○   子どもを褒めてあげると親がどんなにか驚くのを何度も目にしてきた。親なら当然知っているだろうというような簡単なことを褒めてあげても、親は涙を流して喜ぶのである。(ペルー)

○   子どもの事を気にかけない親はいない。ただ、どうしたら子どもをサポートしてあげられるかがわからないだけである。 (オーストラリア) 

 

日本の教育課題は、他の国の課題とは異なります。

チリでは、「日本の教育は素晴らしいと聞いていますが、何が教育課題なのですか?」と多くの人から尋ねられました。確かに、子どもたちには、義務教育の機会が与えられており、大学進学率も、5割を超えています。統計的には、教育課題を説明することが他の国に比べて容易ではありません。

経済格差による教育格差は日本にも存在します。日本においても155万人(7人に1人)が就学援助の対象となっています。この他にも、既存の教育システムの制度疲労の問題があります。いじめや不登校、学ぶ意欲の低下、生きる意欲や未来に夢を持つ子どもの減少、21世紀を生きる力を習得できない教育システム、ダブルスクールを前提とした教育システムなど、学校システムの目的の見直しが必要です。

表面的な大学進学率は、リメディアル(大学入学時の補習教育)の必要な生徒の数を反映していません。大学がまるで高校のようになっているという現実は、新卒社会人が社会の求める人材としてのレベルに到達できていない事実としても表れています。

世界の教育課題に触れ、日本の教育課題の複雑性こそが課題なのだということを、改めて認識しました。そのため、教育関係者においても、課題認識において統一感がなく、対応策も、多様化しているのでしょう。

世界の仲間からのメッセージで、

「イギリスではすべての両親は、子どもたちが学校に行くことを喜んでいる。しかし学校に行くことで何かを失っていることを知ったら、両親は怒るだろう。そしてそれは当然のことである」という言葉に共感を覚えました。学校に行くことで失うものの代表例は、主体性、創造性、間違っているか否かを気にせず自由に発言する力などです。主体性や創造性を伸ばす学校教育を行う事は、これからの学校の在り方を考える上での大きなテーマになると思います。

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