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学習理論

文部科学教育通信 No.290 2012-4-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る④をご紹介します。

毎年、約9000人の教員を養成するティーチ・フォー・アメリカでは、効果的な指導を行うために、さまざまな学習理論の活用を奨励しています。今回は、ティーチ・フォー・アメリカが教員養成において紹介している学習理論の一部を紹介しましょう。

 

ティーチ・フォー・アメリカの教師たちは、学力の低い子どもたちを指導し、学力と生きる意欲を向上させ、自律的な生涯学習者に育てることを使命としています。そのため、彼らは、さまざまな学習理論を駆使し、指導に当たります。

 

発達理論

発達途上にある子どもたちに、我々は時として大人と同様の反応を期待することがあります。子どもたちは、何を、いつ学ぶことが最適なのでしょうか。ある年齢において、子どもたちに、どのような能力を持つことを期待することが妥当なのでしょうか。発達理論は、この2つの問いに対する答えを提供してくれます。子どもたちが、発達段階に適した最適な学びの経験を積み上げていくために、子どもの成長に関わる大人は、発達理論を理解しておく事が重要です。

 

発達理論の核になる考え方は、すべての子どもたちが、同じ早さで発達するのではないけれど、成長の過程は予測可能であり、生徒のスキルや能力は、ほぼ同じような経路をたどり発達を遂げて行くというものです。教師や親は、関わる子どもたちが、認知力、身体の発達、社会性、情緒面においてどのような発達レベルにあるのかを認識する必要があります。例えば、中学生の多くは、新たに懐疑心を学武断化にあるため、権威に歯向かいがちであることを知っておけば、子どもたちの指導における困難さが、子どもたちの発達の証であることを理解することが出来ます。また、中学生になると、抽象的・体系的に、仮説を立てたり、推論できるようになり、認知スキルは質的に変化すると言われています。したがって、中学生になっても、暗記のみを中心とした勉強に終始すると、子どもたちは、発達の機会を失うということを、指導に当たる大人は、認識しておかなければなりません。また、中学生になると、自己のアイデンティティに対する意識が芽生え、仲間との付き合いも深まります。集団の中で、生徒に恥をかかせない工夫が、より重要になります。

  • 年齢により、生徒の思考は変化する

  一般的に生徒はだんだんと複雑な考えや抽象的な考えを理解できるようになり、思春期を経て問題解決が出来るようになります。

  • 生徒は積極的に知識の意味づけをする

 生徒は、新しい知識を学ぶとすぐに分類したり、既に知っている知識と結びつけたり、身近な世界に当てはめて考えます。

  • 生徒の認知発達は以前に得た知識を土台にする

新しい知識は、以前に得た知識を土台に積み上げられます。土台がないと、知識を積み上げることができません。生徒が、知識を積み上げる土台を築くためには、多様な経験や考え方に触れる機会を提供する必要があります。

  • チャレンジングな課題を与えて認知発達を促進させる

チャレンジングな課題は、認知発達を促進させます。すべての生徒が、同様のチャレンジに対処することはできませんが、教師は、常にチャレンジを提供する必要があります。

  • 社会的な関わりが認知理解を促す

生徒は、自分の考えや、ものの見方、信念、思考過程を、周囲の大人や友だちと共有することにより、多様なものの見方や考え方を身につけ、自分の理解の不足している点を見つけることができます。社会的な関わりが、認知理解を促すのはこのためです。

 

記憶理論

記憶理論を知っていることも、子どもたちの指導に当たる上で大変有効です。生徒に理解させることは、単に情報を与えるだけではなく、短期記憶から長期記憶に移行する手助けをすることです。ワーキングメモリとも呼ばれる短期記憶は、新しい情報をしばらくの間とどめておくためのもので、積極的に活用する間だけ記憶にとどめることが可能です。長期記憶は、情報を長期的に保管する「記憶の倉庫」です。子どもたちが、学んだことを、長期記憶にするために、指導者に出来ることは何でしょうか。様々なやり方で、繰り返し唱える、以前の知識とひも付ける、覚えることを整理する、覚えることを分析や評価するなどが、短期記憶を長期記憶に移行する代表的な手法です。南北戦争がなぜ起きたのかを学ぶ時、奴隷制度賛成派と反対派の議論を比較させたり(分析的アプローチ)、南軍と北軍の兵士になったつもりで、日記を書かせたり(創造的アプローチ)、南北戦争の教訓をユーゴスラビアのような実在の国に適用する方法を話し合う(実践的アプローチ)など、多様なアプローチが紹介されています。

 

学習スタイル

生徒は、自分に最も合ったやり方で情報を取り入れます。子どもによって情報を取り入れやすい学習スタイルがあり、全ての学習プログラムが全ての生徒に適しているわけではないということを、両親及び学校の先生は念頭に置く必要があります。視覚学習者は、視覚から情報を取り入れます。教科書や板書、図、写真、地図などが、学習に効果的です。読み書きした事や、目で見る事のできる説明により、効果的に学びます。聴覚学習者は、聞く事によって、最も良く理解する事が出来ます。聞いたことや、話したことをよく覚えていて、話し合いも大好きです。口頭での指示もよく理解することが出来ます。聴覚学習者の中には、音に敏感すぎて、静かでないと集中できない生徒もいるので注意が必要です。接触・運動感覚学習者は、手や身体を使ったり、道具を使ったり、実際に体を使って参加できる授業を喜びます。自分でやってみてやり方を覚えていきます。機械の仕組みなどの複雑なプロセスや手続きを理解することが得意です。全体に占める割合が少ないので、このタイプの学習者がいることは、忘れられがちです。教師が一つのスタイルに固執することなく、様々なスタイルを取り入れることで、どのタイプの学習者も、授業の中で理解や記憶を向上させる機会を持つ事が出来ます。

 

ブルーム理論

ブルーム理論は、認知理解を6つ(知識、理解、適用、分析、統合、評価)の階層に分類しています。この理論を活用することにより、学習目的を明確にする事が出来ます。

 

知識

 単なる知識の暗記を達成目標とする

理解

 教えられたことを、自分のものとして理解し、自分の言葉で説明することを達成目標とする

適用

 定義、公式、原則などを、実際の問題に適用することを達成目標とする

分析

 情報を構成要素に分解し、それぞれの要素がお互いにどのように関連しているかを理解する

統合

 学んだことを、創造的に活用することを達成目標にする

評価

 学んだことを、質の基準に照らして評価することを達成目標とする

 

①学習目的の評価基準

低い階層の認知理解(知識、理解、適用だけの学習)では、長期的な暗記に繋がらず、また、実社会で活用することができないため、学習者にとって有益な学習にならないことを指摘しています。また、認知理解の6レベルを、学習目的の難易度を測定する基準として用いることにより、効果的に指導案を作成することが出来ます。

 

②少しずつ階層を登る学習

低学年においては、低い階層での理解でも十分ですが、学年が上がっても、事実の学習のみに終始することは、発達上大きな問題となります。生徒が、知識を完璧にマスターするためには、何度も具体的な内容に触れ、多様な視点で検討し、創造的に活用する経験を繰り返す必要があります。生徒は、民主主義についての説明を聞いただけでは、民主主義が実際にどのようなものなのかを理解することも、その良い実践者となることもできないのです。

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